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Interviews > intervew with Derrick May - ――13年振りのミックスCDを発表した
デリック・メイ、インタヴュー
浅沼:ふたつのミックスCDを日本から出すことになったのは、日本のレーベルにオファーされたからなのか、それともあなた自身が日本のオーディエンスに特別な気持ちがあるからなんですか?
俺は世界中どこへ行っても、自分の好きな音楽をかけている。それはよく知ってるだろう? でも、日本でプレイすると、他のどの場所よりも心地よくそれができる。どうしてなのかは上手く説明できない。もしかしたら、日本の未来的(フューチャーリズム)な部分がそう思わせるのかもしれないな。日本に行くと未来にいるみたいな、エキサイティングな気分になる。いつも日本に着くと、ホテルにいるのがもったいなくてすぐに街に出るんだ。ご飯を食べに行ったり、レコード屋に行ったり、朝はすぐにコーヒーを買いに行ったり。とにかく街を歩き回りたくなる。東京に限らず、日本のどの街に行っても同じだ。それくらい俺にとって居心地がいいんだよ。まあ、いつも言ってることだからよく知ってると思うけど!
僕はこのミックスCDを初めて聴いた夜、泣いたんですが、何故だかわかります?
ええ! マジで? そこまで大したもんじゃないだろ! なんで泣いたかなんてわからねえよ!
まず最初のミックスが素晴らしい! 細かいことを言うと、最初の3~4曲目までのミックスが本当に格好いい。デリック・メイらしい技というか、見事ですよ。
そういうことか。あれを聴いて何か思い出したってことなんだな。なるほど、それなら理解できる。(ここでいきなりiPhoneと取り出し、音声を流す)「カイキョー」。「カイキョー」。
浅沼:は? 改良? 改行? 何ですか???
これだよ(と画面を見せるとそこには「海峡」の文字)。
浅沼:「海峡」!? 日本語勉強アプリですか?
いいだろ、これ。毎日ひとつずつ言葉を教えてくれるんだ。だいぶ上達してきたぜ。今度日本でタクシーに乗ったらまず「カイキョークダサイ!」って言ってみる!!
......ぜひ次回試してみて下さい。で、次の質問ですが......ちょっと真面目な話をしますよね。この10年、音楽環境はずいぶんと変化しました。オンライン・エイジ、mp3、ダウンローダーズ......これらデジタルの大衆運動はある側面では歓迎すべきことでもありますが、ある側面ではどうかと思うことがあります。そのひとつの例を言えば、DJのミックスです。いまやたいてい、どんなミックスCDでもコンピュータで完璧にピッチを合わせてあります。そしてDJはピッチの合わせの練習をすることなく、データを操作してミックスする若いDJも少なくありません。
そうだな、そういう連中はピッチ合わせができるようになることはない。そういう奴らは「DJ」と呼ばれるべきではない。「オーディオ・テック(技術者)」と呼ばれるべきだ。DJの定義は、物理的なマニュアル操作ができる人間に限られるべきだ。こういう新しい種類の「DJ」は音楽は流しているがDJをしているわけではない。テクノロジーを使って音楽をかけているのだから、「オーディオ・テック」だ。この呼び方を俺は定着させたいと思ってる。DJとオーディオ・テックはまったく違うんだってことをみんな理解して欲しいね。オーディオ・テックが悪いってわけじゃない。ただまったく別モノだから、彼らをDJと呼ぶべきではない。DJに出演してもらうのか、オーディオ・テックに出演してもらうのか、頼む方はよく理解しといてもらいたい。
(それはそれで、たとえばリッチー・ホウティンのようなクリエイティヴなこともできるだろうけど)あなたのこれは人間味を排除していく文化状況に抗っているように聴こえるんですよ。
ほう、それは嬉しい感想だな。ただ俺は抗っているつもりもなくて、俺のやり方を貫いているだけだ。これをいつまで続けることができるかはわからない。それが現実だ。このミックスCDを俺は1テイクで録った。途中で止めることもなく、やり直すこともなく、ただそのときの直観でかけたいものをかけたいようにプレイした。それがいい仕上がりになるかどうか考えもせずプレイして、たまたまでき上がったものなんだ。でも、逆にそういうものをリリースしたいと思った。細かい修正を加えて綺麗に仕上げることなく、そのまま出したいと思ったんだ。だからMAYDAYミックス(『MIX-UP』)とは違う。MAYDAYミックスは、テクニックを披露する目的で作ったものだった。俺がラジオ番組をやっていた頃に培ったテクニック、デトロイトではみんなが使っていたテクニックだ。ケヴィンやホアンが編み出したテクニックもある。それを、「見てみろ、俺にはこんなことができるんだぜ!」と見せつける目的で作ったミックスだったんだ。「他のDJには絶対真似できないことをやって見せてやる!」ってね。そういう意味では、俺がMAYDAYミックスでやったテクニックの多くは、やっといまのテクノロジーを使って他の奴らにもやれるようになった。だから今回のミックスは、「ヒューマン・エラー」あるいは人間の「本能」へのトリビュートといったところだな。現在のテクノロジーの力を借りずに、人間の力で作ったものだ。全てが完璧に作られている現在、逆に貴重なものだろう。女性の豊胸手術や鼻の整形に始まり、音楽制作ソフトに至るまで、何にでも傷ひとつない完璧さを追い求めてる世界では、「自然」であることがユニークになってる。俺がやったのは自然なミックスであり、いまの世界ではユニークなものだ。
浅沼:コンピューターでは作れないものですね。
まだね。でも、そのうち「自然っぽく」人間味を作り出すプログラムが開発されるだろうよ。なんとも悲しいことだけどね。人間らしく聴こえるものを作るために人が金を払う時代がくる。そんなソフトウェアを人間が買うなんて、悲しすぎると思わないか? 最悪だな! この世の終わりだ! どのみち、俺がやっていることは今後そう長くは続かないと思う。去年〈Transmat〉からグレッグ・ゴーの「The Bridge」というシングルを出したが、思っていたほどは売れなかった。それなりにレコードもダウンロードも売れたが、もっと売れていいはずだ。素晴らしい音楽を作っている人間はたくさんいるが、それが上手く届くべきところに届いていないように思う。音楽産業、特にダンス・ミュージック産業においては仕組みがめちゃくちゃになっていて、現状を把握出来ている人間がいないんじゃないかな。俺自身も混乱しているし、誰が何をコントロールしているのかみんなわからない状態だ。ディストリビューターは毎日のように倒産しているし、レコード屋も次々と閉店してる。まあそれを嘆いていても仕方ないから、なんとか打開する方法をきっと見つけるけどな!
質問:野田 努/通訳:浅沼優子(2010年2月01日)