Home > Interviews > interview with Salyu + Keigo Oyamada - 21世紀ポップ
その合唱隊が、レヴェルが高い合唱隊だったんですよ。複雑なドビュッシーとかの器楽曲を声で再現しているんだよね。それがね、もうむちゃくちゃすごいんですよ。とにかく今回やっているのは彼女の原点に近いんですよ。シンガーやってるのはそのずっと後だから。――小山田圭吾
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■僕も、たいへん失礼な話なんですけど、Salyuさんの音楽ってそれまで聴いたことがなかったんですね。
Salyu:いいんですよ(笑)。
■す、すいません(汗)。逆に言えば、僕みたいなリスナーは今回の作品で知ることができたんですけどね。それで以前の作品も聴いてみたんです。そしたらぜんぜん違うことをやっていて驚いたんです。今回の音楽は、いままでやってきたことをさらに発展させるとか、いままでやってきた音楽に新たな方向性を与えるとか、多様性を持たせるとか、そんなものじゃないでしょう。だからすごくドラスティックな挑戦に思ったというか、大変身とういか、「よくここまでやられたなぁ」と思ったし、「いままで何でやらなかったんだろう?」とも思ったんですよね。
Salyu:ことの発端がハーモニーということへの興味だったんで、それを21世紀のポップスとしてどう落とし込むかということがあって、それで小山田さんの力を借りたかった。それで、なぜいままでこれをやらなかったのかとういと、小さい頃から合唱をやっていたんですね。それでハーモニーということが小さい頃から身近にあったんです。ずっとやっていたし、愛しているし......、だから、挑戦ではあるんですけど、私にとっては原点回帰に近いんですよね。ガラっと新しいことをやったというよりも、もともと持っていたモノなんです。
■ああ、なるほどね。
Salyu:だから、Salyuとしてやっていることは、ポップスを歌う、ということを考えてやっているシンガーなんだけど、今回のsalyu×salyuというプロジェクトは、より幅広く引き出しをもっていて、小さい頃からやってきたこともそこに入っているという感じですね。幅広くやっているというか。
小山田:駆使している。
Salyu:そう、すごく駆使しているんです(笑)。
小山田:ライヴを見てもらえればよくわかると思いますよ。子供の頃にやっていた合唱隊の女の子、去年、結婚式で再会して、それでスカウトしてきて、いま4人組のコーラスグループ作って、このアルバムをぜんぶ再現するんだけど。
■ああ、こんど(4/15)DOMMUNEで放映しますよね。それ、楽しみです。しかし、合唱隊というのが新鮮でいいですね!
小山田:その話にすごくピンと来たんで。
Salyu:合唱隊というと人を集めなければならないんですが、たまたま10代のときにいっしょにやっていた同級生に会えて、それで彼女たちといっしょにやればいいんだって。
小山田:しかもその合唱隊が、レヴェルが高い合唱隊だったんですよ。複雑なドビュッシーとかの器楽曲を声で再現しているんだよね。それがね、もうむちゃくちゃすごいんですよ。
Salyu:ハハハハ。
小山田:とにかく今回やっているのは彼女の原点に近いんですよ。シンガーやってるのはそのずっと後だから。
■そうかー、その合唱隊という話を聴いてすべてがクリアになった気がしますよ、僕は。コーネリアスのポスト・パンク的な感性と合唱隊は合うだろうし、小山田くんがそういうのが好きなのもわかるし。あと、これは計らずとも、なんですけど、21世紀のポップで歌とエレクトロニクスというテーマはたしかにあって、ジェームス・ブレイクって知ってる?
小山田:ああ、チラリと。
■ダブステップ系の人で、輸入盤だけで日本でも3000枚以上売ってるんですけど、彼の音楽を特徴づけているのがまさに歌を電子的に操作するってところなんですよね。サンプリングしたネタを思い切り変調させるだけじゃなく、それで和音を作るんですよね。salyu×salyuの目指していることと決して遠くはないですよね。
Salyu:へー。
■コーネリアスの音楽の特徴にエレクトロニクスというのがあるじゃないですか。それはまた合唱以外の部分だと思うんですけど。
小山田:エレクトロニクスがいいとか、アコースティックがいいとか、あんまないですよね。
Salyu:なんでもアプローチしてみたいタイプなんですけど、今回とくにエレクトロニック・ミュージックをやりたいなということでもなかったね。
小山田:あくまで声が基本なんですよね。それがあれば、バックトラックはなにがあっても良いって感じだったんだよね。
■Salyuさんがコーネリアスでとくに好きなアルバムってなんですか?
Salyu:『ポイント』、それから『センシャス』。人生のなかですごい大きな出会い。
■どういう意味において大きかったんですか?
Salyu:えーとね、ちょっとロマンティックな言い方になるけど、私、1980年生まれなんですね。20歳になると世紀が変わると言われて育ってきたし、だから新しい世紀をすごく楽しみにしていたんですね。いろんなことが変わると子供の頃から思っているわけですよ。まあ、90年代後半からあまり変わらないんじゃないかなと思っていたんだけど、やっぱり期待があったんですね。でも、21世紀になってもあまり変わらないなというのがあって、「あまり変わらないな」と、「新しい世紀らしいこともあんまないな」と、そんななかで『ポイント』を聴いて、それが「変わった」と感じることができた最初の出来事だったんですよね。
■なるほど! 未来を感じることができたと。
Salyu:新世紀という実感をもらった作品。
■とくにどんなところにそれを感じたんですか?
Salyu:空間の広さ、空間のあり方の新しさというか。いろいろとあるんだけど、そういうことなんじゃないかな。
■なるほど。
Salyu:ポップだってこととかさ。
■ポップな曲はたくさんあるけど、コーネリアスのポップさは他と違うからね。
Salyu:そう。
■ふーん。そういうことで、今回はもう、プロデュースは丸投げ、「任せましたー」って感じだったの?
Salyu:そうですね。
小山田:そこまで気持ちよく投げてもらえたから、気持ちよくやらせてもらいましたよ。
■あと、コーネリアス的には、このところやってこなかった歌作りというか、ソングライティングというのもやっているよね。
小山田:そうですね。でも、それはもう、彼女に触発されてやった。自分ひとりではできないことだから。
■もともと歌メロ作るのが上手い人だから。コーネリアスではそれをあんま出さなくなっちゃったから。
Salyu:そうそう、だから、すっごい楽しみだったんですよね。どういうメロディをもらえるんだろうって。
取材:野田 努(2011年4月09日)