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interview with Deerhunter

interview with Deerhunter

それは墓ですか?

――ディアハンター、インタヴュー

橋元優歩    通訳:大坪純子   Apr 25,2013 UP

 リリース・インフォには「精神病院で鳴らすための音楽を作りたい」といった発言も記されているが、病めるもの、いたみを知るものへのシンパシーも彼の音楽にとって大きなモチヴェーションだ。『霊廟』の主人公が墓のなかで見たものは、ある意味では現実でもある。彼の感じ方に病名をつけて納得するのは簡単だ。しかし、そうしたものに対する最大限のリスペクトや想像力を持っているのがディアハンターの音楽だと感じる。

「そう。すごくダークなとき、精神的に落ちてるときっていうのは、妄想することで救われたりする。墓のなかの想像も同じで、妄想することはそこから脱出する手段になることがある。」

50年代のロックンロールをよく聴いていたから、そこから受けるパワーやインスピレーションに導かれていた部分は音の表面にはよく出ていると思う。だけどドライな、つめたい場所の感覚はかなり出ていて、とてもアンヴィバレントな作品なんだ。(モーゼズ・アーチュレタ)


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 妄想ということがドリーミーという感覚に短絡するわけではないが、彼らの甘くただれたような音像、深すぎるリヴァーブやディレイによる音の彩色は、その大部分がギターのロケットによるものである。それは彼のロータス・プラザ名義でのソロ2作から明瞭に聴き取ることができるし、アトラス・サウンドから引き算されている部分でもある。すでにシーンはこうした残響とヒプナゴジックの時代を通り抜けつつあるが、そうした影響もあるのかどうか、今作ではロケットのドリーム感はやや後退している。『モノマニア』における自身の役割についてロケットはどのように考えているのだろうか。

「ディアハンターの場合は曲ごとに自分の役割がぜんぜん違っていて、たとえば"レザー・ジャケットII"とそれにつづく曲でもまったく違うんだ。"モノマニア"なんかでは、ぼくのパートだけでひとつのムードを作り出したりできていると思う。」

 そう、とくにギター・ソロに顕著だが、外の世界を遮断するバリアのように機能していた彼の優しい音の幕は、突如その境界を押し広げ突き破るように動きはじめた。今作の音の変化はロケットの変化でもある。ブラッドフォードはある意味ではつねに変わらない。アーチュレタも、そこは強く意識している。

「ぼくは性質的にきちっとストラクチャーを立てるタイプというか。部分部分をきちんと決めていくのが好きなんだ。けどブラッドフォードっていうのはぜんぜん真逆だから、いっしょに音楽を作っていく上で、そこの違いがバンドにまた新たな方向性を生んでくれるんじゃないかと思う。役割とは言えないかもしれないけど、その違いを大事にしたいなと感じるよ。いつもの自分なら取らないような行動を、このバンドは引き出してくれる。みんなのことを信用しているからだと思うけど、そういう部分でリスクや挑戦をしてみようと思える場所だね。」

 それぞれに違う世界と方法を持ちながら、その内ふたりについてはソロも充実しながら、しかしぴったりと寄り添うようにいる。ディアハンターとは彼らにとってまるで場所の名のようだ。

「家族みたいなものだからね。いっしょにいる理由を問うという感じじゃないんだ。ディアハンターをやってないことなんて想像できなくて、これを家みたいなものだとするなら、逆にアトラス・サウンドは旅行って言ってもいい。ロケットもそうじゃない?」

 そう問いかけるブラッドフォードに、

「他のバンドに参加してるときに思ったんだけど、ディアハンターでは、話さなくても意思の疎通ができるんだ。以心伝心というか、だいたいすべてわかりあってる。ほんとに家族みたいな存在だよ。」

 とロケットが答える。なぜ音楽をやっているのかという問いを向けても、おそらくは同じような答えが帰ってくるだろう。それは家に帰るくらいあたりまえのことだと。ディアハンターの音楽の偉大さは、新しさにこだわらない、ある意味ではつねに外界の思惑とは無関係な活動をつづけながら、どうしてか、どうしても時代性と結ばれていってしまうところだ。そのダイナミズムがこんなにスモールな関係性から生まれているということに、われわれは勇気を与えられる。自分たちだけの夢と妄想の世界は、それを徹底して見つめさえすれば、世界につながるのだ......ジャケットの赤いネオンは、彼らの「霊廟」の墓碑銘である。死んでしまったものではない。それは生きて見つめるための墓、偏執狂的な生の名前なのではないだろうか。

取材:橋元優歩(2013年4月25日)

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