Home > Interviews > interview with Boom Boom Satellites - 明日は何も知らない
その頃はすでに、特定のジャンルというよりは、インダストリアルなテイストがあったり、ブレイクビーツだったり、ヒップホップの影響もあったりとか。そのへんはバンドをやっているってだけだったので、特定のジャンルの何かをやっているつもりはなかったです。
BOOM BOOM SATELLITES SHINE LIKE A BILLION SUNS ソニー |
■作る前から「今回はこれでいこう」というのはあったの?
中野:これも脳腫瘍の話と切り離せないところがあるんですけど、開頭手術をして、約1ヶ月入院していたのでツアーもキャセルになってしまって、これからどうやって生きていこうかなってぐらいに思っていたんです。もちろん、まわりでサポートしてくれている人たちは、無事に手術が終って復帰して、アルバムの制作とかライヴ活動をやっていこうよとなっているけれども、僕は退院して出てくるのを待っている間は、それはやってみないとわからないなと思っていて。もちろんポジティヴに考えているけれども、やっぱり手術後の状態というのは過去の経験として知っているので。まずはリハビリから始めるんですよ。そのリハビリのための曲というか、入院中に僕がメロディから何から書いてしまって、退院してすぐ僕の家のスタジオに来てもらってすぐに歌ってもらったんですけど、それが“SHINE”なんです。それがソウルというか……
■ジャンルというよりはね。
中野:そうですね。メンタリティの上でのものというか。そういったものを僕は深く感じ取りましたね。川島くんは意識もまだはっきりしていなくて、まだぼーっとしている状態で歌っていて。で、何に感動したのか理由も明確に言えないくらいにその声を聴いてハッとさせられたんです。こういう歌を残していくのはいいなと思ったけど、それは大変な作業になるだろうなと。
■なるほどね。意識とか集中力はやはり大変なんですか?
川島:そうですね。入院生活自体が社会から切り離されたところで行なわれているので、どこかに出てくると馴染めない感覚をもっていたりとかはするんですよね。でも、スタジオに行ったのは退院して3日目ぐらいだったので、そういった意味では自分の様子を窺うというか、自分は大丈夫なのかなということもありますし。様子を窺っているような、馴染めない感覚というか、ぼーっとしている感覚があったんですよね。
■反射神経的な部分とか?
中野:川島くんは本人だから、あんまりわからない部分もあるんじゃない?
川島:まぁ、そうだね。
中野:僕は長年、川島くんという人をずーっと見続けているんで、脳腫瘍に限らずに考え方とか、単純に身体能力の衰えとか、いろいろな変化を見てきているし。それで退院直後にレコーディングをはじめたときの川島くんの様子っていうのは、いろんなことがすごく不自由だけど、それでも音楽をやるんだなと思って、すごいことだなと。そのときに完全にヴォーカリストとプロデューサーという関係になっちゃって、トラックメイカーとかそういう感覚はなかったですね。その佇まいだとかを見て、これはどうやって人に伝えていこうかな、というところで考えるようになって。なので、アルバムの制作を始めたときは痛々しいところは痛々しかったです。
■川島くん本人はどんな気持ちを持って、このアルバムに臨んだんですか?
川島:とにかくやりたいことはこれなんだ、っていうことは入院中に思っていたので、退院したらこれまで以上のいい音楽を作って成長していきたいなと。何がいい音楽なのかはっきりとしていませんでしたけどね。振り返ると、人生をアーティストとして生きてきたところがあって、それをこれからも続けていこうと退院してきたので、すごく大変な時期もありましたけど、そのことについてあまり迷いはありませんでしたね。
■今作は病気のことをファンに公表したあとの作品ですし、とくに伝えたいことってたぶんあったと思うんですけど、それは何なんですかね?
川島:完成させること自体と、佇まいですよね。言葉ではっきりとした「これ」と言える集約されたものではないと思いますけど、病気のことを知った上で、その命の強さというか……
中野:たぶん、そこは意識していないんじゃない?
川島:うん、していないけどね。
中野:まず毎日の生活の中に、自分たちが音楽を続けられるかどうかっていうのがテーマのひとつにありました。人に音楽を聴いてもらう上で何を与えていきたいのかっていうのは、自分の病気と切り離したところで考えているところがあるんじゃない?
川島:うん、そうだね。ただ、諦めないということは格闘家のような姿勢だと思うんですけど、音楽は音楽として美しかったり、高揚感を与えたりとかっていう様々な感情レベルで繋がっていきたいという志は、今でも持っていますけどね。
中野:自分がデビューするときとか、20代で音楽を作っているときとかって、40代になった自分のバンドが続いているイメージって全くなかったです。
■夢中だったと?
中野:そういう将来的設計みたいなことは音楽を作る人ってないんじゃないの?
■たぶんないよね(笑)。
中野:そのとき、そのときでけっこう精一杯で、そういう私小説的にアルバム単位で音楽を残したり、曲単位で残していったり、それをやり遂げていって、ちょっと先の未来に対してのイメージとかやりたいことのモチベーションが見えてきて……。
要は何も考えてなかったんですけど、自分たちの考え方とか、生き方とか、そういうものが変化していくことと、音楽的な変化をイコールで考えていて、エンターテイメントとして演じる音楽ではないと思っているところで、作品を作っているんです。だから最初の方で言われた「ブンブンサテライツというバンド名に後悔したことはないんですか?」っていう質問なんですが、たしかにもう似つかわしくはないかもしれないんですけど、たとえば、山田太郎は生まれてから、ものすごく悪い不良少年を経て、すごく立派な大人になるまでずっと山田太郎じゃないですか? まぁ、それでいいのかなって。
川島:ハハハハ。
■生と死は、非日常的なことではなく、ものすごく日常的なことでもあるからね。誰もが平等に、それを迎えるものだから。普遍的で、実は日常的なテーマでもあるんだよね。
中野:それはもう、生まれてきた全員に共通して平等に与えられた死という機会で、それまでの時間が長いか短いか話しなので。だから、普遍的なテーマだと思うし、その生に対する執着も当然テーマになりえるし。
■そういう生と死といった大きなテーマを思いながら、音楽性を何か変えようとはしなかった? たとえばアンビエント・タッチを取り入れるとか。
中野:自然とできたアルバムではあるので……
■やっぱりビートが入らなければという話?
中野:うーん、あまり考えないですね。
川島:むしろビートは入っていないと嫌だなと思っていた。
中野:そういう手法を入れると、僕の感覚だと、あまりにも演出めいている感じがしちゃいますね。やっぱり、いつも通りの川島道行がいることが大事で、その背景としてのトラックやアレンジとかっていうのは、バランスの感覚としか言えないところがしますけど……。
■自分たちのなかで、ブンブンサテライツはこうじゃなきゃいけないっていうのはあるんですか?
中野:うーん、言葉でできる部分ではないですけど、日常的に音を出すということはやっているから、そのなかでの取捨選択というのはあると思います。たとえば、10個の音がどんなバランスで組合わさるかっていうときに、そこに長年かけて出てきているアイデンティティみたいなものは、存在しているかもしれないです。
■そのアイデンティティというのは、言葉では言うのは難しいんですか?
中野:そうですね。アンビエントみたいなものと言っても、自分が好きなテイストのものと、そうでもないものっていうのが明確にあるんですけど、言葉で説明しきることっていうのは難しいんだよね。
■先日、砂原良徳に取材で会ったら、「バンドっていいよ」って言ってたんだけど、ふたり組という単位で続けていることに関しては、どうですか?
中野:これは全然音楽的な話ではないですけど、縁としか言えないところがあるのかなって。たとえば、オービタルとかだったら兄弟としてやっていたとしても、音楽を作るのが難しくなることもあるわけじゃん? 僕と川島くんは家族でもなんでもないんですけど、ここまで続けてきて摩擦っていうものはあるし、違う人間が同じ部屋で作業して何もかもが同意だけで進むことは、ほとんどないわけですね。それで諦めないとか嫌気がささないとか、それはひとが変われば諦めややめるタイミングも早くやってくるのかもしれない。たまたま、巡り会った人と人との縁っていうところもひとつにはあると思うし。2人で音楽を作るってことはハードなんですよ。3人と4人とやるのと比べてもね。
■1対1だからね。
中野:妥協というものが存在しないというか、議論するんだったらどっちかがどっちかをねじ伏せるか、もしくは深く納得するとか。
■やっぱり議論はいつも起こるの?
中野:はい、制作中に起きます。
■とくにこういうところで議論にあるってことはある?
川島:表現方法とかだよね?
中野:そうだね。あとは、リリックのことでも。
川島:内容のとこではないよね。
中野:音楽的のスムーズさとか、伝えることの情報量とか整理とか。やっぱり思いが強いときっていうのは、音楽的じゃない表現方法で情報量が多いから、それだとやっぱり伝わらないというのがあって。あとは歌唱方法ですかね。
■なるほど。どちらかと言えば、中野くんが注文をするというか。
川島:そうですね。ディレクションを受けますね。
中野:納得しながら進まないと、そういう声も出てこないので。
■川島くんから中野くんに「いや、このトラックはもうちょっとピッチを下げて欲しい」とかって言ったりしないの?
川島:そんなに激しくはないんじゃないかな? だいたい僕が出せる良いところの声を理解して、キー設定なりをしているので、僕がそれに対してもうちょっと低くないとってことはあまりないですね。
■でも、お互いにいまでも意見をぶつけ合ってやるってことは、すごく健康的な関係性だよね。
中野:完全にお互いの役割分担ができていて、メールとかサーバーのやり取りだけで済むような感じは一切ないですね。
■いまは、そうやってデータのやり取りができちゃう時代だから。
中野:顔を付き合わせて話して、実際に音を出してやるっていうふうにやっていかないとバンドでは全然進まないですね。
取材:野田努(2015年2月27日)