「MAN ON MAN」と一致するもの

ドキュメンタリーに伝記映画、ライヴ映画など、近年ますます秀作が公開されている音楽映画を一挙紹介!

3月公開の『モンタレー・ポップ』とフェス映画の系譜

インタヴュー
ピーター・バラカン──音楽映画祭を語る
大石規湖(映画監督)

『ムーンエイジ・デイドリーム』『ストップ・メイキング・センス』などのロックの映画を中心に、『サマー・オブ・ソウル』や『白い暴動』、『自由と壁とヒップホップ』といった社会派音楽ドキュメンタリーまで、近年盛り上がりを見せる音楽映画の秀作・傑作を大紹介!

目次

巻頭特集 『モンタレー・ポップ』
Review ポップ・カルチャー史のエポックとなった伝説のフェス──『モンタレー・ポップ』 柴崎祐二
Column フェス映画の系譜 柴崎祐二

Interview
ピーター・バラカン さまざまな場所、さまざまな音楽──音楽映画祭をめぐって
大石規湖 「そこで鳴っている音にいかに敏感に反応できるか」

Review
マニアも驚かせた大作ドキュメンタリー──ザ・ビートルズGet Back』とビートルズ・ドキュメンタリー映画 森本在臣
断片の集成から浮かび上がる姿──『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・ デイドリーム』とデヴィッド・ボウイ映画 森直人
説明の難しい音楽家──『ZAPPA』 てらさわホーク
微笑ましくも豊かな音楽とコント──『フランク・ザッパの200モーテルズ』 てらさわホーク
伝記映画の系譜──『エルヴィス』ほか 長谷川町蔵
トム・ヒドルトンが演じるカントリーのレジェンド──『アイ・ソー・ザ・ライト』 三田格
ザ・バンドを語る視線──『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』 柴崎祐二
今こそ見直したい反時代性──『クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル トラヴェリン・バンド』 柴崎祐二
ヴェルヴェッツを取り巻くNYアート・シーン──『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』『ソングス・フォー・ドレラ』 上條葉月
1984年と2020年のデヴィッド・バーン──『ストップ・メイキング・センス』『アメリカン・ユートピア』 佐々木敦
メイル兄弟とエドガー・ライトの箱庭世界──『スパークス・ブラザーズ』 森直人
パンクが生んだ自由な女たち──『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』 上條葉月
セックス・ドラッグ・ロックンロールに明け暮れた栄枯盛衰──『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』 杉田元一
アウトロー・スカムファック(あるいは)血みどろの聖者に関する記録『全身ハードコア GGアリン』+『ジ・アリンズ 愛すべき最高の家族』 ヒロシニコフ
改めて注目を集めるカルト・クラシック──『バビロン』野中モモ
甦る美しき革命の記録──『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』 シブヤメグミ
帝王の孤独──『ジェームス・ブラウン ~最高の魂(ソウル)を持つ男~』三田格
総合芸術としてのヒップホップ──『STYLE WARS』 吉田大
壁の向こうの声に耳を傾ける──『自由と壁とヒップホップ』 吉田大
ショーターの黒魔術に迫る──『ウェイン・ショーター:無重力の世界』 長谷川町蔵
ジョン・ゾーンのイメージを刷新する──『ZORN』 細田成嗣
ルーツ・ミュージックのゴタ混ぜ──『アメリカン・エピック』 後藤護
シンセ好きの夢の空間──『ショック・ドゥ・フューチャー』森本在臣
フィジカル文化のゆくえ──『アザー・ミュージック』 児玉美月
愛のゆくえ──『マエストロ:その音楽と愛と』杉田元一
徹底した音へのこだわりによるライヴ映画──『Ryuichi Sakamoto: CODA』『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK : async』 杉田元一
失われた音楽が甦る瞬間──『ブリング・ミンヨー・バック!』 森本在臣
スペース・イズ・ザ・プレイス —— 渋サ(ワ)知らズと土星人サン・ラーが出逢う「場」──『NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇』 後藤護
生きよ堕ちよ──『THE FOOLS 愚か者たちの歌』森直人
コロナ禍におけるバンドと生活──『ドキュメント サニーデイ・サービス』 安田理央
天才の神話を解いて語り継ぐ──『阿部薫がいた-documentary of kaoru abe-』 細田成嗣
坂道系映画2選──『悲しみの忘れ方 documentary of 乃木坂46』』『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』 三田格
勢いにひたすら身を任せる──『バカ共相手のボランティアさ』 森本在臣

Column
政治はどこにあるのか 須川宗純
ポリスとこそ泥とスピリチュアリティ──レゲエ映画へのイントロダクション 荏開津広
映画監督による音楽ドキュメンタリー 柴崎祐二
歌とダンスの(逆回し)インド映画史 須川宗純

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お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『ele-king cine series 音楽映画ガイド』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

表紙
誤 大石紀湖
正 大石規湖

Micro Ambient Music Festival - ele-king

 企画は伊達伯欣。「マイクロ・アンビエント・ミュージック・フェスティヴァル」と題された催しが2/23~25の3日間にわたっておこなわれる。なかなか豪華な面子が集っている点も目を引くが、リスニング・スタイルにも趣向が凝らされているようで、通常のフェスとは異なる特別な体験を味わうことができそうだ。詳しくは下記よりご確認ください。

Micro Ambient Music Festival
2023年4月の坂本龍一の訃報から間もない、7月13日から期間限定でウェブ上に公開・販売された『Micro Ambient Music』。

自身がアーティストでもある伊達伯欣(ダテトモヨシ)によって集められた、晩年の坂本と関わりや影響のあった国内外の41アーティストによる39作品が、4時間にわたり収録された追悼コンピレーション・アルバムです。

現在進行形の音響/アンビエントミュージックシーンを概観できるこのアルバムは2023年、ドイツ国内の権威ある音楽批評家賞”German Music Critics Award” Electronic & Experimental部門を受賞しました。

今回、東京都新宿区のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて、企画展「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」に関連し、この「Micro Ambient Music」をライヴ・イヴェントとして体験するコンサートを3日間にわたって開催します。

◆開催概要◆

イベントタイトル:
Micro Ambient Music Festival

開催期間:2024年2月23日(金・祝),24日(土),25日(日)

各日とも3セッション(合計9演奏)開催
各セッションの公演時間はタイムテーブルにてご確認ください.

時間:開場11:00閉場20:00予定
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]内3会場
入場料:1セッション(3演奏)4,500円(※学生3,000円),
1日通し券(3セッション9演奏券)10,000円[各日20枚限定]
定員:各セッション100名

*第二会場のベッドは先着予約40名様になります。
 それ以降の方は座布団などになる予定です。
*学生料金の方は当日会場での受付時、学生証をご提示いただきます。

チケット購入方法や販売開始日時など、最新情報はICCのウェブサイトなどでお知らせします.

<第一会場 生音スペース>

秋山徹次・大城真・石川高・田中悠美子・Shuta Hasunuma・Minoru Sato・すずえり・池田陽子・Chihei Hatakeyama

<第二会場 ベッドスペース>

中村としまる・Christophe Charles・Christoper Willits・SUGAI KEN・Yui Onodera・Ken ikeda・Sawako・Tomotsugu Nakamura・小久保隆
PA:大城真

<第三会場 音響スペース>

Filament(Sachiko M、大友良英)、網守将平、角銅真実
ASUNA・Chappo・The Factors
ILLUHA・HAM・Opitope
PA:ZAK

主催:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、つゆくさ医院
企画:伊達伯欣
協賛:西川株式会社

◆イベント詳細◆

 日本初となる3日間の屋内型アンビエント・ミュージックのフェスティヴァルとして、総勢27組のアーティストが、下記の通りそれぞれ音響の異なるセッティングが用意された「3つのスペース」で演奏を行います。今回出演するアーティストの方々は、世界的な評価も高い日本を代表する錚々たる音楽家の方々です。

 来場者は3つのスペースをセッションごとに移動する形で、各会場の特性を活かしたアーティストによる演奏、音環境の変化を堪能していただけるイベントになっております。

第一会場(約50㎡)

生音や単一スピーカーによるアコースティックな響きを体感するスペース。笙や三味線、ギター、創作楽器などの独奏(ソロ)による40分

第二会場(約144㎡)

暗闇の中、ベッドに横たわりながら16chのスピーカーから立ち上がる音楽体験をする、アンビエントミュージックの本懐とも言えるスペース。

第三会場(約315㎡)

現代最高峰とも目されるドイツ「musik electronic geithain」のスピーカーによる音響と2009年より坂本龍一のPAを務めたZAKによる音づくり。テクノロジーによって増幅された「音」をバンドパフォーマンスで体感するスペース

タイムテーブル

bar italia - ele-king

 当初は正体不明の謎めいたバンドとして登場してきたロンドンのバー・イタリア。ディーン・ブラントが自身のレーベルから送り出したという点でも注目しないわけにはいかない彼らだが、その後〈Matador〉からのリリースで徐々に顔を見せていくようになる。昨年は『Tracey Denim』『The Twits』と2枚もアルバムを発表、高評価を受けたことは記憶に新しい。さまざまなロックへのオマージュやパスティーシュによって織りなされるその魅力的なサウンドから、「いまいちばんイケてるバンド」なんて声もあったり。初来日公演は5月29日@渋谷WWWX。そなえましょう。

bar italia

伝説を目撃せよ!!!
ロンドンの最注目新人バンド、
バー・イタリアの初来日公演が
遂に決定!

噂のbar italiaがとうとう日本にやって来る!
奇才ディーン・ブラントのレーベル〈World Music〉から2枚のアルバムリリースを経て、ロンドンで最もエキサイティングなバンドとして大注目を浴びる中、昨年2023年3月に〈Matador Records〉と電撃契約を発表、その後は怒涛のように1年に2枚のアルバム『Tracey Denim』を5月に、『The Twits』を11月にリリース、英CRACK誌の表紙を飾り、異例とも言えるヴォリュームで大特集され、年末には多くの主要年間アルバムチャートに選出されるなど大きな注目を集めた。ここ日本でも、インディーズ音楽の発信源として世界中から支持を集め、多くの海外アーティスト達も訪れるBIG LOVE RECORDSの年間アルバムチャートの第1位を獲得した。

メンバーは、アート界隈でも活躍してきたイタリア人女性ニーナ・クリスタンテと、ヴィーガン(Vegyn)のレーベル〈PLZ Make It Ruins〉から作品をリリースしていたダブル・ヴァーゴとしての活動でも知られるサウス・ロンドン拠点のジェズミ・タリック・フェフミとサム・フェントンの3人、そしてベースとドラマーを加えた5ピースバンドでライブを行って来た。2022年以降、彼らは自身のヘッドライン公演に加え、ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァル、コーチェラをはじめ多くのフェスからも引っ張りダコで、世界中のインディ・リスナーから大きな注目を集めている。そんな彼らの一夜限りの初来日公演! これは見逃し厳禁だ!

【bar italia 来日公演】
bar italia
SUPPORT ACT: TBC

2024.05.29 (WED)
渋谷 WWWX
OPEN:18:00 / START:19:00
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13898

【TICKETS】
前売¥7,200(税込/オールスタンディング)
※別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

先行販売
●BEATINK主催者先行:2/8 (thu) 10:00~
[https://beatink.zaiko.io/e/baritalia]
※先着/Eチケットのみ
●イープラス・プレイガイド最速先行受付:2/10 (sat) 10:00~2/14 (wed) 23:59
[https://eplus.jp/baritalia/]

一般発売:2/23 (fri) 10:00~
●イープラス [https://eplus.jp/baritalia/]
●ローソンチケット
●BEATINK [https://beatink.zaiko.io/e/baritalia]

企画・制作 BEATINK: http://www.beatink.com/
INFO BEATINK: http://www.beatink.com/ E-mail: info@beatink.com

label: Matador / Beat Records
artist: bar italia
title: The Twits
release date: Now On Sale

Beatink.com:
https://beatink.com/products/detail.php?product_id=13700

tracklist
01. my little tony
02. Real house wibes (desperate house vibes)
03. twist
04. worlds greatest emoter
05. calm down with me
06. Shoo
07. que suprise
08. Hi fiver
09. Brush w Faith
10. glory hunter
11. sounds like you had to be there
12. Jelsy
13. bibs

label: Matador / Beat Records
artist: bar italia
title: Tracey Denim
release date: Now On Sale

CD:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13377
LP:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13378

tracklist
01. guard
02. Nurse!
03. punkt
04. my kiss era
05. F.O.B
06. Missus Morality
07. yes i have eaten so many lemons yes i am so bitte
08. changer
09. Horsey Girl Rider
10. NOCD
11. best in show
12. Clark
13. harpee
14. Friends
15. maddington

1月のジャズ - ele-king

 2024年1回目のコラムだが、1月は年初でリリースが少なく、紹介すべきものがこれといってない。そこで、2023年を振り返ってリイシューや未発表作品からピックアップしたい。特にアフリカや南米のアーティストで目につく作品が多かった。



Vusi Mahlasela & Norman Zulu, & Jive Connection
Face To Face

Strut

 『フェイス・トゥ・フェイス』は1994年に録音された未発表作品で、スウェーデンの音楽プロデューサーのトルステン・ラーションのアーカイヴから発見された。アフリカ南部のバントゥー系民族であるソト族のフォーク・シンガーのヴーシ・マハラセラ、南アフリカのシンガー・ソングライターのノーマン・ズールーと、スウェーデンのジャズ~ソウル集団のジャイヴ・コネクションが共演した記録である。ちなみにジャイヴ・コネクションにはリトル・ドラゴンのドラマーのエリック・ボディンや、スウェーデン民謡グループのデン・フールなどで演奏するベーシストのステファン・バーグマンらが在籍した。

 スウェーデンは昔からジャズが盛んで、ドン・チェリーらアメリカから移住したジャズ・ミュージシャンも少なくない。南アフリカでは元ブルーノーツのジョニー・ディアニが移住している。ジョニー・ディアニなどのジャズ・ミュージシャンはアパルトヘイトから逃れるために他国へ移住したのだが、そうした反アパルトヘイト運動を支援した国のひとつがスウェーデンで、政府はアフリカ民族会議への資金援助をおこなっている。そのANC議長だったネルソン・マンデラが反逆罪で投獄された後、出所して初めて訪れた国がスウェーデンである。1994年のマンデラ大統領就任式で歌を披露したのがヴーシ・マハラセラで、ノーマン・ズールーを含めて彼らと交流を深めていたジャイヴ・コネクションが一緒に録音したのが『フェイス・トゥ・フェイス』である。

 ヴーシの歌は自由を求めての闘争に彩られており、南アフリカの伝統的な寓話に基づく『プロディガル・サン(放蕩息子)』や、児童虐待に対する嘆きを歌った『フェイスレス・ピープル』などを力強く歌う。音楽的にはジャズやアフリカ民謡だけでなく、レゲエやダブ、ファンク、ポスト・パンクなどの要素を交えたものとなっており、実に興味深い。“フェイスレス・ピープル” はカーティス・メイフィールド風のニュー・ソウル的な歌や演奏にダビーなエフェクトを交え、まるでガラージ・クラシックと言ってもおかしくないようなものだ。ニューウェイヴとアフロ・ディスコが融合した “プッシュ” はピッグバッグを彷彿とさせ、強烈なダブ・サウンドの “フェイス・トゥ・フェイス” や “ルーツ” はデニス・ボーヴェルがミックスしているかのよう。アフロ・ジャズの “ウマザラ” にしても、楽器の録音やミックスなどダブやレゲエを意識したものとなっている。



Orchestre Poly-Rythmo De Cotonou Dahomey
Le Sato 2

Acid Jazz

 オルケストル・ポリリトモ・デ・コトヌー・ダホメイ(別名T・P・オルケストル・ポリリトモ)は西アフリカにあるベナン共和国のコトヌー出身の楽団で、1968年にシンガー兼ギタリストのメロメ・クレマンによって創設され、1980年代の終わりまで活動した。アフリカ民謡、アフロビート、ハイライフ、アフロ・キューバン・ジャズ、サイケデリック・ファンクなどが融合した音楽を演奏し、地元のヴードゥー教にも繋がりを持つ存在だった。欧米諸国などでは長らく知られざるバンドであったが、2000年代に彼らの音源がUKの〈サウンドウェイ〉から紹介されて広まり、ガーディアン紙は「西アフリカで最高のダンス・バンドのひとつ」と評価している。そうした再評価を受けて2009年にバンドは再結成され、2枚の新録アルバムの発表とワールド・ツアーもおこなうが、創始者のメロメは2012年に亡くなった。

 アルバム・リリースは数十枚に及び、原盤はどれもが入手困難なものだが、〈アナログ・アフリカ〉ほか欧米のレーベルもリイシューを手掛けている。1974年作の『レ・サト』は2021年にUKの〈アシッド・ジャズ〉からリイシューされ、その第2弾として同年に録音された『オルケストル・ポリリトモ・デ・ラ・アトランティーク・コトヌー・ダホメイ』が『レ・サト・2』としてリリースされた。原盤は『レ・サト』と全く同じレコード・スリーヴで販売されており、裏面に第1弾と異なるカタログ番号が記載されるという体裁だったため、長らく謎のレコードとされてきたもので、彼らの作中でももっともレアな1枚である。原初的な歌と催眠的なファンク・グルーヴに包まれた10分を超す “ジェネラル・ゴウォン” はじめ、伝統的なヴードゥーの儀式とパーカッションによるポリリズムが結びついた独特の世界を作り出している。



The Yoruba Singers
Ojinga’s Own

Soundway

 ヨルバ・シンガーズは1971年に結成された南米のガイアナ共和国のバンドで、アルバムは1974年の『オジナズ・オウン』、1981年の『ファイティング・フォー・サヴァイヴァル』のほか、リーダーのエズ・ロックライフとヨルバ・シンガーズ名義による2009年作『アー・ウィ・ライク・デム・ソング・ディス』などがある。隣国のトリニダード・トバゴのカリプソやスティールパン演奏の影響を受け、ほかにジャマイカから流れてくるロックステディやルーツ・レゲエ、ガイアナ住民の祖先であるアフリカの伝統的な民謡などを育み、プロテスト・ミュージックへと昇華したのがヨルバ・シンガーズの音楽である。ヨルバというアフリカのナイジェリア南西部に住む部族をグループ名に冠している点で、彼らのルーツ的なところが見えてくる。欧米では全く知られた存在ではなかった彼らだが、2018年に『ファイティング・フォー・サヴァイヴァル』がUSの〈カルチャーズ・オブ・ソウル〉からリイシューされ、陽の目を見ることになる。そして2023年には『オジナズ・オウン』がUKの〈サウンドウェイ〉からリイシューされた。

 彼らの初期のレパートリーは、農園での労働の合間に歌ったり、または宗教儀式の場で歌われるといったもので、『オジナズ・オウン』はそうした彼らの姿をとらえた素朴な作品集である。演奏は原初的な打楽器やギター、フルートなどによるシンプルなもので、10名ほどのコーラス隊が合唱するというスタイル。“オジナズ・オウン” や “アンコンプレヘンシデンシブル・レディオマティック・ウーマン” など、ガイアナの自然や大地、生活や宗教と密着したプリミティヴな作品集である。



Terri Lyn Carrington
TLC And Friends

Candid / BSMF

 現在のUSジャズ界のトップ女性ドラマーであるテリ・リン・キャリントン。1965年生まれの彼女は、ウェイン・ショーターの1988年作『ジョイ・ライダー』への参加で名を上げ、1989年のリーダー・アルバム『リアル・ライフ・ストーリー』でグラミー賞にノミネートされるなど、着実にキャリアを重ねていった。女性アーティストのみで結成されたモザイク・プロジェクトを興すなど、ジャズ界における女性演奏家の地位向上を謳うリーダー的な存在でもある。父親のソニー・キャリントンがサックス奏者だったこともあり、7歳のときからドラムをはじめた彼女は、11歳でバークリー音楽院に奨学金を受けて入学した天才児で、在学中にさまざまなプロ・ミュージシャンとのセッションをはじめ、16歳のときの1981年に自主制作でアルバムを作ってしまった。それが『TLC・アンド・フレンズ』である。一般的に『リアル・ライフ・ストーリー』がファースト・アルバムとされる彼女だが、実は『TLC・アンド・フレンズ』が正真正銘の幻のデビュー・アルバムなのである。

 この度リイシューされた『TLC・アンド・フレンズ』は、ケニー・バロン(ピアノ)、バスター・ウィリアムズ(ベース)、ジョージ・コールマン(サックス)という、1960年代より活躍してきた名手たちとの共演となっている。そして、父親のソニー・キャリントンもゲスト参加して1曲サックスを吹いている。バップを中心としたオーソドックスな演奏だが、アレンジも自身でおこなうなどすでに神童ぶりを発揮するものだ。楽曲はコール・ポーターの “恋とはどんなものかしら”、マイルス・デイヴィスの “セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン”、ソニー・ロリンズの “セント・トーマス” と “ソニー・ムーン・フォー・トゥー” など大半がカヴァー曲で、ビリー・ジョエルの “素顔のままで” もやっている。そうしたなか、唯一の自作曲の “ラ・ボニータ” がラテン・タッチのモーダル・ジャズとなっており、とても16歳とは思えない奥深く豊かな表現力を見せる。

第2回目:テイラー・スウィフト考  - ele-king

 彼女はすぐにショウを完売させて、チケットの販売窓口のプラットホームを圧倒する。彼女はファン文化を変えたと高く評価されている。そして、2023年――戦争、経済不安や地政学的不安に見舞われた12カ月間――『タイム』誌は彼女をパーソン・オブ・ザ・イヤーに選出した
 個人的な好みはさておき、私はいまだに混乱している。テイラー・スウィフトの何がそれほど革新的なのか? 誤解はしないでほしいのだが、彼女の人気が唖然とするほどとんでもないことはわかっている。その需要は非常に高く、Erasツアーでのチケット収入は一晩で1300万米ドルを超えたと推定されている。増殖しつつあるテイラー・スウィフトの研究者コホートを含む多くの専門家が、このスターの経済的な威力が彼女の文化遺産を証明するものだと指摘している。「彼女のErasツアーがもたらした経済効果は……前例のないものだ。彼女は文化的アイコンであるだけでなく、グローバル・エコノミー(世界経済)である」と、バージニア工科大学の学生担当副学部長、アリアナ・ワイアットは書いている
 が、しかし私がここで提言したいのは、テイラー・スウィフトの人気は彼女の持ち前のスター性を示しているものではなく、彼女が現代のメディア文化そのものであるのに加え、さらには彼女がメディアと適合してきた結果として人気を得ているのではないかということだ。つまり、ミュージシャンとして、そして現象としてのテイラー・スウィフトは、メディアとしてのポップへの畏敬の念が音楽としてのポップを凌駕していることを示していると。

I そう、私たちはメディアへの関心を、以前の主体への関心に変える必要がある。 これは、メディアが自分たちを旧来の世界の代替物にしてしまっていることへの論理的な答えなのだ!*1

 私たちは大好きなミュージシャンについて語られる無数のインタヴュー、ヴィデオやメッセージの掲示板に、タップするだけでアクセスできる時代(era)に生きている。私たちの誰もがそうであるように、メディアによって飽和状態になったイメージは、音楽ファンにとっては音楽そのものと同程度に(あるいはそれ以上に)重要になっている。そしてスウィフトは、ブロンドの髪で青い目をしたカントリー歌手からポップスに転向して成功した神童が、カニエ・ウェストのようないじめっ子体質の男や裏切り者の元カレのオンパレードに苛まれるという〝アメリカの恋人(American Sweetheart)〟の典型を呼び起こすことでパワフルなイメージを作り上げた。*2  彼女が楽器を演奏し、自分で曲を書く(あるいは共作する)ことも、真新しさという点において長年にわたって彼女の役に立っている。
 〝音楽〟という概念が〝ブランド〟の概念と結びついてしまったことで、ファンの消費パターンはより経済的にホリスティック(全体論的)なものとなった――とくにスウィフティーズにとっては、TSが創り出すすべてに対する彼らの熱狂が実際に〝ミクロ経済学ブーム〟を生み出している。最近の『ニューヨーク・タイムズ』の記事では、タフィー・ブロデッサー・アクナーが、テイラー・スウィフトの悪名高いファン集団の一員であるということには、どのようなことが伴われるのかを明らかにしている。

  最高レベルのスウィフティーであるということは、すべてのエネルギーを費やし、すべてを吸収するエヴイデンスと言う名の帝国へのアクセスが可能になることを意味する。それは、あらゆる質問への答えを持ち、謎が解決し、興奮して賢くなった気分になり、自分自身より大きなものに関わっていることを、スマホから顔を上げることなく感じることが可能になるということだ。

 つまり、基本的にファンであるということは、もはや音楽が好きということだけではない。スウィフティーズにとってそれは崇拝に近い。記事の著者は、彼女のライヴ・パフォーマンスについて下記のように述べている。

  厳粛なムードが漂っていた――スピリチュアル、と言ってもいい。私は夜明けに神殿の丘で祈りを捧げたことがある。聖書の祖先の墓で、震える嘆願者たちの中に立ったことも。身震いするほどの静寂の中、バチカンの奥深くの、さらに先の至聖所まで歩いたこともある。これは、(会場にいた)女の子たちの存在を除けば、まさにそのようなものだった。*3

 だからといってスウィフトの社会的な(かつ文字通りの)資本は、世界的な影響力の証拠なのだろうか。あるいは、過剰なメディアがポップ・スターをあらゆるレベルで崇拝できる神へと変えてしまったのか? おそらく両方の要素が少量ずつ含まれているのだろう。彼女の魅力のひとつは、『タイム』が「パーソン・オブ・ザ・イヤー」特集において「驚異的」とまで評したそのストーリー・テリングの才能にある。私もそれには同意する――そのストーリーが彼女のメディア上のペルソナである限りは。スウィフトが元友人や恋人(ケイティ・ペリー、ジョー・ジョナス、カルヴィン・ハリス、ジョン・メイヤー……)を暴露した音楽カタログの膨大さは有名だ。彼女は恋人に振られた話ばかりを歌っているわけではないが、その他の曲も大部分が自己を反映したもので、とくにメディアからの不当な描写について言及されることが多い。

 “Shake it Off”がすぐに思い浮かぶ。

  私は夜遅くまで出歩いている
  私の脳みそは空っぽ
  みんながそう言うの……
  私がデートばかりしている
  なのに誰とも長くは続かない
  みんながそう言うの……

 そして、“Mean”も。

  あなたは、寝返って
  ものすごい嘘と屈辱的な態度で
  私の欠点をあげつらった
  まるで私が気付いていないみたいに
  あなたをブロックするために下を向いて歩く
  もう二度とあなたを楽しませるつもりはないし
  私はもう一度、大丈夫な自分に戻りたいだけ

 彼女はまず主要なターゲットとなる聴衆を10代の苦悩を歌った曲で引き込んでから、尽きることのない自伝的な、ドラマティックな話題を提供して聴衆を虜にしてきた。そのようにして彼女は負け犬であると同時に女王としての地位を確立した。これは“Anti-Hero”の歌で見事に描写されている。

  私よ、ハーイ! 問題児の私だよ
  お茶の時間にみんなが同意するように
  私は太陽を直視できるのに、鏡を見ることはできない
  いつもアンチ・ヒーローを応援するのは、すごく疲れるだろうね

 説得力のある負け犬の物語でオーディエンスの情(パトス)に訴えかけると、皆が彼女を自分ごととして共感し始める! なんと賢いビジネス戦略なのだろう。これにより、スウィフトは両方のいいとこ取りができるようになった。彼女は〝誤解されている〟ものの、間違いなく今日生きている最大のポップ・スターであり、スタジアムでのショウの合間にフットボール・スターの彼氏のもとへプライベート・ジェット機で飛んでいく普通の女の子(エヴリーガール)だ。*4 ゴシップをめぐってのインタヴューにおける "信頼問題 "を抱えたスター、今回は誰のことを歌っているのかについてのジューシーな手がかりは、彼女のアルバムのために彼女が復活させたとされるヴァイナル上でも購入できる。*5
 いまではクリエイターが自伝からインスピレーションを得るのは普通のことだ(回顧録の筆者として自分も例外ではない)。これは、個人的なことが普遍的であるという逆説的な真実を表している。だが、テイラー・スウィフトの生活の特殊性は、我々庶民には決して親近感が持てるようなものではない。彼女が金持ちの出であることはよく知られており、家族は彼女の思春期に、音楽業界へ入るのに有利になるようナッシュヴィルに移住した。前出の『ニューヨーク・タイムズ』の記事によれば、その頃、彼女の友人たちが彼女抜きでショッピングモールに出かけていたという、〝少し死んでしまった〟出来事をきっかけに、急激に芽生えた彼女のアイデンティティーが結晶化し始めたという。銀のスプーンを持って生まれ、あきらかに有利なスタートを切った20年にもおよぶキャリアにおいて、その事件やいくつかの安っぽい失恋がリヴェンジの材料となっているのだろう。
 はっきり言うが、良い音楽を作るためにトラウマを持つ必要はないし、テイラー・スウィフトが不当な経験をしていないと言うつもりはない。メディアで活躍する女性として、彼女が男性であれば気にもされないようなことをいちいち詮索されてきたのは想像に難くない。*6 とはいえ、たとえばカニエ・ウェストがMTVアワードのスピーチで邪魔をしたとか、スーパーモデルのカーリー・クロスが彼女とはもうBFF(Best Friend Forever =ズッ友)ではいたくないと言ったことなどについて、私は限定的にしか共感できない。そもそもこのような問題を抱えること自体がじつに大きな特権なのだ。そして、私がスウィフトのカタログに欠けていると思うものは、そういうところからきている。つまり、真の才能から生まれたセンスと想像力で技巧を研ぎ澄まし、人生における残酷さで鍛え上げた鋼鉄のように洗練されたサウンドというような唯一無二のものが欠けている。それはルイ・アームストロングの、「私たちが演奏するのは人生そのものだ」という言葉が意味しているものだ。

II 情報過多に直面する私たちには、代替となるパターン認識が存在しない。*7

 さて、そろそろ音楽の話をしよう。正直に告白すると最初にテイラー・スウィフトの音楽を聴いたときの感想は、もしもチャットGPTに「Gapのコマーシャル・ソング用のサウンドトラックを作って」との指示を与えたら、できあがってきそうな曲、というものだった。それ以降、かなり真剣に時間を費やしてリサーチのために彼女のカタログを聴き込んだが、驚くことに、(いや、そうでもないか)私の印象は変わらなかった。
 スウィフトが全曲自作のアルバム(『Speak Now』 のように)をリリースしていることは称賛に値するし、彼女の音楽が〝キャッチー〟であることは認める。だが、メロディがおおむねモノトーン=単調音で(少し複雑な曲では、スリー・ノート)構成され、耳にこびりついて離れなくなり、頭から抜けなくなる(私は「You Need To Calm Down」を一度だけ、半分まで聴いただけで頭から消すことができなくなった)。彼女の曲の多くが瞬時に覚えられるほどシンプルで、いつまでも深く脳裏に焼き付いてしまい、彼女が何十年もの間、音楽を形成していくだろうと評価されるのも不思議ではない。
 だとしても、アルゴリズム的なメロディのセンスというものが音楽家の才能として称賛されるべきものなのだろうか? 真面目な話、私が聴いた限りでは(彼女のカタログの大部分ではあるが、網羅したというほどではない*8 )、ほとんどが1音から3音によるフックから成るものばかりだった。たとえば“Enchanted”では、メジャー・トライアド(長3和音)を上がっていき、コーラスで5度まで上がるだけ。“Cruel Summer”はほとんどがモノトーンで、文字通り1音でできており、コーラスでわずかにメロディックな企みが加えられている。“Welcome to New York”も“Blank Space”、“Maroon”他と同様にほとんどがモノトーンだ。ここには明らかに方程式が存在する。
 もういちど尋ねる。彼女は史上最高のソングライターの一人なのだろうか?  
 もちろん、いくつかの興味深い瞬間が味わえる作品もある。たとえば『Red』 でポップに転向したあとやそれ以前のギター演奏など。『Reputation』 と『Lover』、『Midnights』 といったアルバムにはそれぞれ独特の雰囲気があり、スタジオでの巧なプロデュースにより達成されたムードを醸し出している。ただ、古臭いと言われるかもしれないが、プロダクションの技術と音楽の革新性は別物だと思っている。だがその一方で、ことによったら私が他のポピュラー・ミュージックの達人たちを聴きすぎているだけかもしれない(ジャクソン5、大貫妙子、それから、伝統主義者だと思われるリスクを覚悟の上でいえば、ビートルズなど)。さらに、信頼できる語り手となるために、ここにカントリー・ミュージックのウィリー・ネルソン、ドリー・パートンにマール・ハガードの名も挙げておこう。
 私が言えるのは彼女の歌にはヒプノティックな性質があって、私などは狼狽させられるということだ。彼女の世界にいとも簡単に吸い込まれてしまう。これにはスウィフティーズも同意してくれるだろう。

III どのようなメディアにおいても、感覚を拡張して世界を満たすことによって、その領域に催眠術を施すような条件が作り出される。このことが、そのメディアが全体に及ぼす影響に、いかなる文化が過去を遡ってさえ、気付いていないことを証明している。*9 

 考えてもみてほしい。テイラー・スウィフトが人びとに喜びをもたらすのであれば、それは素晴らしいことだ。しかも、彼女の人気は、他のアーティストから何かを奪い取るものではなく、むしろ、彼女のSpotifyとの闘いは立派なもので、自分の地位を善のために使う完璧なやり方だった。私がここで強調したいのは、クリエイティヴの仕事というのは、本来、サイドビジネスであくせく働くことなく、その仕事を全うできるようになるということ。シングルマザーのもと、バーモント州の崩れ落ちそうな農家で、暖房費も稼げず、凍ったシャンプーを3分間のシャワーで解凍するような環境で育ち、ニューヨークでクリエイティヴなキャリアをスタートさせるのに狂ったように働く身としては、有名であることがいかに難しいかを、億万長者(おそらく)に一本調子のアンセムで愚痴られても、興味が持てないのだ。
 私はさらに、テイラー・スウィフトのブランドがある種の知的なチェックメイト[相手を打つ手がない状況に追い込む]のようになっていることを指摘しておきたい。もしテイラー・スウィフトの音楽を批判しようものなら、彼女自身を攻撃しているように捉えられる。もし、テイラー・スウィフト自身を攻撃するなら、その人はスウィフティーズが容赦なく攻撃するいじめっ子たち(meanies)の一人にされてしまうのだ。*10 どうやら、中立的な批評家になることは許されず、彼女の味方か敵かの、二択しかないようだ。この二分化が世界的なものかどうかはさておき、テイラー・スウィフトのブランドは「我々 対 彼ら」という音楽環境を作りだした。だが、率直に言って、いまの世のなかに必要なのが白か黒かの思考を増やすことだとは思えない。
 それにもっとも重要なのは、私がスウィフティーズではない人たちを認めるためにこれを書いていること。そう(イエス)、彼女のスーパー・スターダムは少なくともメディア漬けの現代を部分的には反映している。いや(ノ−)、しかしあなたがスウィフティーダムから外れたからといって、精神的なエクスタシーを逃しているわけではない。そして、そう(イエス)、――善の神さま、イエス――他の種類の音楽を好きでいることになんの問題はないのだ。挑戦的な音楽、真に革命的な音楽、現状を打破し、人びとを繋ぐことのできるサウンド。いち個人としての自分自身を発見させてくれる音楽——マーシャル・マクルーハン(本記事の、セクションごとの見出しの背景にいるメディア理論家)が命名した「電子情報環境における画一的な集団」の一人でも、 あるいは私なら「スワイフィー(Swifie)」と呼ぶかもしれないものの一員としてでもなく。

◆注

  • 1 マーシャル・マクルーハン :『カウンターブラスト』(ロンドン:Rapp&Whiting, 1969), 133
  • 2 スウィフトの自己プロデュースによるドキュメンタリーのタイトルでさえ、『ミス・アメリカーナ』と命名されている。
  • 3 私はこれには憤りを感じる。
  • 4 スウィフトは、自身が使用しない時は、プライベート・ジェットを頻繁に貸し出しているにも関わらず、データ報告書が歪められていると主張し、効果の怪しげな“カーボン・クレジット”を購入して自身の旅行数を相殺しているが、ここ数年で、もっとも二酸化炭素を排出するセレブだとされている。
  • 5 彼女のインスタグラムのコメントのタイム誌の記事へのリンクより引用。
  • 6 男性ミュージシャンが、露骨な女遊びでとがめられること、もしくは、あからさまには賞賛されないことがどれほどあるだろう?
  • 7 マーシャル・マクルーハン,前掲, 132
  • 8 彼女の多作家ぶりは尊敬する。
  • 9 マクルーハン, 前掲, 23
  • 10 公平を期すために。スウィフトはたまに、スウィフティーたちの悪行を注意する。元カレのジョン・メイヤーを攻撃しないように、などと。
  • 11 マクルーハン, 前掲, 142



Contextualizing Taylor Swift: A Gentle Reminder to Think For Yourself
By Jillian Marshall, PhD

She sells out shows so quickly it overwhelms ticket platforms; she’s credited with changing fan culture. And, in 2023 — twelve months marked by war, economic precarity, and geopolitical unrest — Time magazine named her Person of the Year.

Personal tastes aside, I’m still confused: what’s so revolutionary about Taylor Swift?

Don’t get me wrong— Swift’s popularity is awesome, in the literal, mind-boggling sense of the term. This woman is so in-demand that her estimated ticket revenue on the Eras tour surpassed thirteen million USD in sales per night. And many experts, including a growing cohort of Taylor Swift scholars, point to the star’s economic prowess as proof of her cultural legacy. “The economic impact that her Eras Tour… is unprecedented. She is not only a cultural icon, but also a global economy,” writes Ariana Wyatt, associate Dean of student engagement at
Virginia Tech University.

But I’m here to propose that Taylor Swift’s popularity isn’t indicative of her inherent star power; instead, Taylor Swift may be popular because of contemporary media culture itself, and the way she’s interfaced with it. In other words, Taylor Swift — as a musician and as a phenomenon — demonstrates how reverence for pop as medium has eclipsed pop as music.

I. Yes, we must substitute an interest in the media for the previous interest in subjects. This is the logical answer to the fact that the media have substituted themselves for the older world.1

We live in an era (pun intended) when countless interviews, videos, and message boards discussing the musicians we love are a tap away. Saturated by media as we are, image has become equally (if not more) important to music fans than music itself. And Swift has built a powerful one by invoking an American Sweetheart archetype2: young, blonde-haired and blue-eyed countryturned-pop music wunderkind bullied by meanies like Kanye West and a parade of backstabbing ex-boyfriends. That she played a musical instrument and wrote (or co-wrote) her own songs is also a novelty that’s served her well over the years.

With ideas of “music” now intertwined with the concept of a “brand,” fans’ consumption patterns have become more economically holistic— particularly for Swifties, as their fervor for all things TS actually creates “microeconomic booms.” In a recent piece for the New York Times,
Taffy Brodesser-Akner illuminates what membership in Taylor Swift’s notorious fan collective
entails:

Being a Swiftie at the highest level means access to an all-consuming, all-absorbing empire of evidence, where all the questions have answers, all the mysteries are solved, where you get to feel excited and smart and involved with something bigger than yourself without ever looking up from your phone.

So basically, being a fan isn’t just about liking music anymore; for Swifties, it’s closer to worship.
The author concurs when describing a live performance:

The mood was solemn — spiritual, even. I have prayed at dawn at the Temple Mount. I have stood among quivering supplicants at the graves of biblical forefathers. I have walked in trembling silence as I entered farther and farther into the inner sanctums of the Vatican. This was like that, except for girls.3

But is Swift’s social (and literal) capital evidence of universal appeal, or is it that media overload
has morphed pop stars into gods that we can worship on all levels?

Perhaps it’s a little bit of both. One aspect of her charm is her prodigious story-telling; in
their Person of the Year feature, Time magazine even called her penchant for it “extraordinary.”
I agree— so long as the story we’re talking about is her media persona. Swift’s musical catalog
exposing ex-friends and lovers (Katy Perry, Joe Jonas, Calvin Harris, John Mayor…) is famously
enormous. But while she doesn’t exclusively sing about jilted relationships, the bulk of her other
songs remain self-referential as well, particularly with regard to her unfair media portrayal.
“Shake it Off ” comes to mind:

I stay out too late
Got nothin’ in my brain
That’s what people say…
I go on too many dates
But I can’t make ‘em stay
That’s what people say…

Then there’s “Mean”:

You, with your switching sides
And your wildfire lies and your humiliation
You have pointed out my flaws again
As if I don’t already see them
I walk with my head down, trying to block you out
Cause I’ll never impress you
I just wanna feel OK again

So, after reeling in her target audience with songs about teenage angst, Swift has kept
them hooked with the never-ending drama of her autobiographical hot take. In doing so, she has
managed to establish herself as both an underdog and a queen. This is brilliantly portrayed on
“Anti-Hero,” where she sings:

It’s me, hi, I’m the problem, it’s me
At teatime, everybody agrees
I’ll stare directly at the sun, but never in the mirror
It must be exhausting always rooting for the anti-hero

What a clever business strategy: pull at your audience’s pathos with an underdog narrative so persuading that listeners begin to identify with identifying with you! This has enabled Swift has to enjoy the best of both worlds: she’s “misunderstood,” yet arguably biggest pop star alive today;
an everygirl who jets to her football star boyfriend between stadium shows4; a star with “trust
issues” about interviews who saves the best T — with juicy clues about who’s she singing about this time around — for her albums, which you can purchase on the vinyl she’s credited with reviving.5

Now, it’s normal for creatives to draw from autobiography for inspiration (as a memoirist, I’m no exception); it illustrates the paradoxical truth of the personal being universal. But the particularities of Taylor Swift’s life aren’t exactly relatable to us plebeians. It’s well-known that she comes from money, and that her family uprooted to Nashville during her adolescence to help her break into the music industry. It was around that time when, according to the aforementioned New York Times piece, Swift’s burgeoning identity began to crystallize after an incident when she “died a little”: her friends hung out at a mall without her.

Born with a silver spoon, I suppose that and some crappy breakups would constitute two decades of revenge fodder in a career kicked off with an indisputable head start.
To be clear, a person needn’t be traumatized to produce good music; I also don’t mean to say that Taylor Swift hasn’t experienced injustice. God knows that as a woman in media, she’s been scrutinized for things men get away with without mention.6 But my empathy is limited for, say, Kanye West interrupting an MTV awards speech or supermodel Karlie Kloss not wanting to be BFFs anymore. To have such problems is a mighty privilege indeed. And that’s what I find missing from Swift’s catalog: a sense of imagination, born of true grit, that sharpens craft and cultivates sound — tempered like steel the face of life’s brutality — that’s utterly unique.

What Louis Armstrong meant when he said, “What we play is life.”

II. Faced with information overload, we have no alternative but patternrecognition.7

Now let’s talk music.
I’ll come clean: my initial impression of Taylor Swift’s music was that it sounds like what ChatGPT might spit out if tasked with producing “soundtrack for a Gap commercial.” I have since clocked some serious time listening to her catalog in the spirit of research, but (un)surprisingly, my impression hasn’t changed.

I admire that Swift has released albums written entirely by herself (ala Speak Now), and I’ll acquiesce: her music is “catchy.” But with melodies more or less comprised of monotone (or, on more complex tracks, three-note) earworms, of course they get stuck in your head (I couldn’t turn “You Need To Calm Down” off in my mind after only listening to half the song one time). Many of her songs are so simple that they’re instantly memorizable, and get lodged in your brain so deeply so quickly that it’s no wonder she’s credited with shaping decades of music.

But is algorithmic melodic sensibility what were lauding as musicianship these days?

Seriously: from what I’ve listened to (a substantial portion of her catalog, but by no means exhaustive ), I really did hear mostly one to three note hooks. “ 8 Enchanted,” for example, just steps up a major triad, going up to a fifth for the chorus. “Cruel Summer” is mostly monotone — literally, one note — with some slight melodic intrigue added into the chorus.“Welcome to New York” is also almost entirely monotone, as is “Blank Space,” “Maroon,” and surely others: there’s clearly a formula here.

I ask again: one of the greatest song-writers of all time?

There are some interesting production moments that we can hear, though, particularly after she went pop with Red— and before that, of course, we got to hear her play guitar. The albums Reputation, Lover, and Midnights each have a distinct feel to them: moods achieved by clever production in the studio. Call me old fashioned, though, but production techniques are not the same thing as musical innovation. On the other hand, who knows? Maybe I’ve just listened to too many other masters of popular music (The Jackson 5, Taeko Ohnuki, and, at the risk of sounding like a traditionalist, the Beatles) — and country, for that matter, like Willie Nelson, Dolly Parton, and Merle Haggard — to serve as a reliable narrator here.

What I do know is that there’s a hypnotic quality her songs that I, for one, find unnerving. It’s a little too easy to get to sucked into her universe. Surely Swifties would agree with me there.

III. Any medium, by dilating sense to fill the whole field, creates the necessary conditions of hypnosis in that area. This explains why at no time has any culture bee aware of the effect of its media on its overall association, not even retrospectively.9

Look: if Taylor Swift brings people joy, that’s great. Plus, it’s not like her popularity takes away from other artists; in fact, I think her fight with Spotify was a noble one, and a perfect use of wielding her status for good. But I am here to emphasize that the creative’s work is never the work itself— it’s getting to the point where you’re able to do that work without toiling away at side hustles. So, as someone who grew up thawing frozen shampoo in three-minute showers (lest the well water ran out) because my single mom couldn’t afford to heat our ramshackle Vermont farmhouse — and hustling like a maniac in New York as I get my creative career off the ground — I’m not particularly interested in listening to some (estimated) billionaire complain in monotone anthems about how hard it is to be famous.

I’m also here to point out that Taylor Swift’s brand amounts to a kind of intellectual checkmate: if you criticize her music, then you’re attacking her. And if you’re attacking Taylor Swift, you’re one of those meanies who whom the Swifties will pile on, mercilessly.10 It seems that you can’t be a neutral critic; you’re either for her or against her. Whether this bifurcation was intentional or not is beside the point that Taylor Swift’s brand has created a musical environment of Us versus Them— and, frankly, the last thing our world needs right now is more black and white thinking.

Most importantly, I’m here to validate people who aren’t Swifties. Yes, her superstardom is at least partially reflective of our media-soaked times; no, you’re not missing out on spiritual ecstasy by opting out of Swiftiedom; and yes— good God, YES — it’s OK to like other kinds of music. Music that’s challenging, that’s truly revolutionary: sounds that challenge the status quo and brings people together. Music that makes you discover who you are as an individual— not as a member of what Marshall McLuhan (the media theorist behind these cool section headers) called “the uniform sphere of the electronic information environment” 11… or what I might call a “Swifie.”

1 McLuhan, 133.

2 Her self-produced documentary is even called Miss Americana.

3 I resent this.

4 Despite claiming that she frequently loans out her private jet, thereby skewing data reports, and offsets her own trips by buying dubiously effective “carbon credits,” Swift is thought to be the most carbon-polluting celebrity for years.

5 As quoted from her Instagram comment linking to the Time article.

6 How often are male musicians called out — or not overtly celebrated, for that matter — for blatant womanizing?

7 Marshall McLuhan, Counterblast (London: Rapp & Whiting, 1969), 132.

8 I admire her prolificness.

9 McLuhan, 23

10 To be fair, Swift will occasionally call out bad Swiftie behavior, like asking them to stop harassing her ex, John Mayor.

Lyman Woodard Organization - ele-king

The Lyman Woodard Organization - ele-king

bod[包家巷] - ele-king

 DJ/オーガナイザーのSoya Ito (dj woahhaus)が主催するパーティーシリーズ〈Mana〉が、ベルリンを拠点とする電子音楽家・bod[包家巷] を迎え、渋谷WWWにて1月27日に開催される。

 中国にルーツを持ち、アメリカで育ったのちベルリンに移動したbod[包家巷]は、出自に基づくオリエンタルな美学をノイジーに昇華させたサウンドスケープが魅力のアーティスト。グライム~ダブステップ以降の脱構築的なベース・ミュージックを通過したアンビエントの発信者としても知られ、ヤング・リーンやドレイン・ギャングなど2010年代以降の新たなクラウド・ラップを牽引するストックホルムのレーベル〈YEAR0001〉などからのリリースと謎めいたスタイルがカルト的な支持を集めている。

 そんなbod[包家巷]の初来日ツアーの東京編をサポートするのは、ドイツ・ベルリンへの長期留学を経て東京へ帰還した新鋭・Soya Ito。昨年夏にはベルリンでも開催された新世代ユースの実験的パーティー〈Mana〉にて孤高の電子音楽家を迎える。

 bod[包家巷]に加えベルリンからレーベル〈Transatlantic〉を主催するDJ・official freestyler、日本に出自を持ち現在はドイツを拠点とするYUI、ルーマニアのA/Vアーティスト・carmen、リベリアの美術家・naptalimを招聘。ローカルアクトにはange、E.O.U、荒井優作、saifa 砕破、dj woahhaus、illequal、itachi、munéoと次世代のエッジーな電子音楽家がラインナップされている。メイン・ステージのWWWを耽美的かつ実験的なリスニングの場とし、サブ・フロアのWWWβをオルタナティヴな2020年代型レイヴ/クラブ志向の場として切り分けていることも特徴的だ。

 音楽だけでなくステージングにも注力し、ハイブリッドなクラブ体験を提供する姿勢はまさしくパンデミック以降の潮流だろう。主役のbod[包家巷]はもちろん、2024年のいま東京のアンダーグラウンドなクラブ・シーンで起きているムーヴメントを肌で感じる機会にもなる一夜をぜひ体験してほしい。

〈Mana〉
2024/01/27 SAT 23:30 at WWW & WWWβ
U23 / Early Bird(早割) ¥2,300 | ADV(前売り) ¥2,800
(Over 20 only・Photo ID required)
Ticket: https://t.livepocket.jp/e/arx8e

[WWW]
ange
bod[包家巷][DE]
E.O.U
naptalim[LR]
Yusaku Arai
saifa 砕破

Staging: yoh murata

[WWWβ]
dj woahhaus
illequal
itachi
munéo
official freestyler[DE]
Prius Missile
YUI អ”[RO]
Staging: condo

Lounge Exhibiton: naptalim [LR], 素手喧嘩 sudegenka
Flyer : Shine of Ugly Jewel

〈Mana〉

interview with Danny Brown - ele-king

 2023年にリリースされたJPEGMAFIAとの共作『Scaring The Hoes』でのぶっ飛んだ活躍も記憶に新しい我らのダニー・ブラウンが、最新作『Quaranta』をリリースした。

 2012年の出世作『XXX』の衝撃──特徴的な甲高い声、露悪的だがユーモアに溢れるリリック、ヒップホップ然としたブレイクビーツからエレクトリックでアヴァンギャルドなビートまで乗りこなす変幻自在のフロウの渾然一体を耳にして、得体の知れないヤバいブツが現れちまった! と直感したときのあの興奮——から約十年、唯一無二のラップのスタイルやヴィジュアル、そしてそのキャラクターによって、彼はヒップホップのオルタナティヴな可能性を拡張し続けてきた。しかも彼のスタイルがスゴいのは、アヴァンギャルドであると同時にポップさを持ち合わせていることだ。

 ラッパーにとって、キャラクターは非常に重要な要素なのは言うまでもない。いくらリリックが良くて、ライムやフロウのスキルがあっても、キャラクターが薄ければこの世界で生き延びていくことは難しいだろう。

 〈Warp Records〉が一員に迎え入れるほどのジャンルを越境するようなエッジの効いたビートを自身のカラーとしてしまう音楽的な選球眼を持ちながらも、それを乗りこなす彼のユーモアを伴うキャラクターによって、彼というラッパーと彼の音楽は、一層目立った存在感を放ってきた。

 しかしこの最新作を前に、当たり前だが彼もひとりの生身の人間であり、わたしたちと同じように様々な悩みを抱える存在であることを目の当たりにするだろう。セカンド・アルバム『XXX』は遅咲きの彼が30歳のときにリリースされたが、『Quaranta』は40歳を迎えた彼なりのブルースにも聞こえる。感情を失ったような声色で、ストレートな吐露を聞かせる脆い場面さえあるのだから。だがラッパーという存在は、それすらもキャラクターの一部として受け入れられる宿命なのかもしれない。

 そんな今作における表現を、彼はどのように捉えているのだろうか。彼自身の言葉を聞いてみよう。

人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。

誤解を恐れずに言えば、あなたのアルバムを聴いてこんな気持ちになることがあるとは思いませんでした。前半の6曲と後半の5曲でまるで別の顔を持ったアルバムだと感じました。前半はこれまでのあなたの作品群と同様、多種多様なトピックとサウンド、ユーモアや怒りを含め多種多様なフィーリングが封じ込められた楽曲群が並んでいます。一方で後半の流れは、等身大のあなたのリアルなストーリーが描かれていて、あなたの傷心、ドラッグやアルコールへの逃避とその虚しさの表現に、共感する人間も少なくないと思います。私も個人的に、今後長い間繰り返し聴き返す作品になりそうです。曲作りには数年間かけていると思いますが、どのようにしてこのようなアルバムの流れができ上がっていったのでしょうか?

ダニー・ブラウン(以下DB):正直、俺のアルバムのほとんどはそういうふうに構築されてきたと思うけどね。いつだって「ハイ」があり、そして「カムダウン」が待ち構えている。それはきっと、ずっとテープを聴いてきたせいだろうな、テープにはA面/B面があるから。だからその側面、そういった構成を自分のアルバムにつねに含めようとしてきた、というか。そうだね、ずっとそれをやろうとしてきたように思う。あるいはスローにはじまってアップテンポで終わる、だとか。そうは言いつつ、『Atrocity Exhibition』(2016)はそのルールからちょっと外れたんだけど、このアルバム(『Quaranta』)は『XXX』(2011)を再訪しようとする内容だからね。『XXX』も、前半はある意味ハイなノリで、後半はもっとカムダウンっぽい、そういう構成だった。だからまあ、1枚のコインの表と裏のどっちも見せるということ。ドラッグ/アルコールの濫用などなどについて取り上げる際に、それを美化したり、面白おかしい楽しさを描くこともできるわけだけど、そこには別の面があることもちゃんと語る必要があると思う。絶対にアップなノリ一辺倒にしないように心がけてきたし、ストーリーにはいつだってふたつの側面があるものだから。

通訳:人間は誰しも複雑な生き物ですしね。このアルバムで、あなたはご自身の異なる面を表現していると思います。

DB:(うなずいている)

前作『uknowhatimsayin¿』(2019)においては「プロデューサーのQティップの作品で、自分はそれに出演している俳優のようだ」とのコメントもされていましたが、今作は再び自分自身でアルバムの全体像を描いたのでしょうか。もちろんこれは、Qティップのショウ/パーティであなたが踊っていた、という意味ではないんですが、今回はもっと「自作自演、自分で監督も担当」というフィーリング?

DB:うん、そうだね。っていうか、この作品は何よりも「小説」に近いんじゃないかと思う。それこそ回想録を書いている、みたいな? だから映画で役者を演じる、そういう視点から出てきた類いの作品ではないし、もっとこう、ジャーナル(日記/日誌)にすら近い。たまに自分の思いをあれこれ書き綴ってみたりもするわけで、そうやって外ではなく自分の内面に目を向けている、もっと内省的な面が多い作品だ。

通訳:それはやはり、COVID~ロックダウンの影響だったのでしょうか?

DB:そう、確実にある。間違いなくそう。だから、俺たちみんな、家でじっとおとなしくして、大して何もせずに過ごすチャンスを得たわけで、俺にもひたすら内省し、どうして何もかも間違った方向に向かってしまったのかを考える時間がもたらされた。ただまあ、ぶっちゃけあの時期はもっとパーティすることにもなったけどね(笑)! もっとパーティし、おかげでもっと二日酔いになり、そういうフィーリングを抱える羽目になった、と(笑)。

通訳:(爆笑)。振り返ると、私(通訳)自身もあの時期は何もやれなくて退屈で、しょうがないから飲む、ということが多かったです。あなたにとってもきつい時期だったようですね?

DB:ああ、そりゃもちろん。というのも『uknowhatimsayin¿』を出したばかりだったし、ツアーに出るはずだったからね。あの作品をちゃんとプロモートするチャンスに恵まれなかったし、ファンを前にあれらの歌をプレイすることもできなかった。あれには、やや憂鬱な気分にさせられた。

俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。もっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった。

アルバムとして、どのようなリリックやサウンドのカラーにしたいというヴィジョンはありましたか?

DB:まあ、40歳を迎えつつあったし、それでも自分にはモチヴェイションがちゃんとあった。だから、歳を取ったからといって、必ずしも衰える必要はない、と。ラップを「若者のゲーム」みたいに看做す人間は多いけれども、俺はとにかくライミングとラップに関しては、年齢を重ねても、自分がまだ絶頂期にいるように振る舞いたかった。だから、それが作品を作りはじめた当初の動機だったんだけど、作業を続けるうちにやがてもっとこう、俺自身のフィーリングを表現する内容になっていき、過去には取り上げてこなかった、もっとパーソナルな題材を語りはじめるようになっていったんだ。でもまあ、概して言えば、じつはそんなにハードに考え込んだりはしなかった。とにかく歌をレコーディングしていっただけだし、そのうち作品のコンセプトが自ずと形になっていった。俺たちみんな隔離処置でめげて疲れていたし、俺はとにかく音楽作りに忙殺されることで気を紛らわせていた。で、いつの間にかこのレコードがどこを目指しているのか、それを俺も見極めたっていうのかな、で、そこからは、その方向に従って考えていくようになったんだ。

いまの話にあったように、あなたは現在42歳、“Hanami” のリリックで「rap a young man game」「Should I still keep goin' or call it a day?」と歌っています。最近アンドレ3000がジャズ系の新譜『New Blue Sun』リリースに際して「ラップはリアルな生活を歌う音楽だから、歳をとって視力が悪くなったり大腸検査に行くことをラップしても誰も聴きたがらない」と言っていましたが、40代でラップをすることをどう考えていますか? アンドレのようにラップという表現/フォーマット以外で音楽を続ける自分は想像できますか?

DB:ノー! それはないな。ラップ・ミュージックというのは……俺は80年代生まれ、すなわちヒップホップ・ベイビーだしね! つまり俺にとって、生まれてこのかたラップ・ミュージックはずーっと存在してきた、ということ。それにもうひとつ、人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、そうやってみんなに「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。それに俺からすれば、いま現在もベストなラッパーの何人かは、俺より歳上なわけだし(笑)! たとえばジェイ‐Zみたいな人は、歳月とともにまだどんどん良くなっている。だから、うん、人生のこの時点でとにかく俺が感じるのは、できるだけ長く続けていきたいということだね。正直な話、死ぬまでやり続けたい、みたいなところだ。

サウンド面では、あなたのこれまでの楽曲と同じように、他の典型的なヒップホップの曲とは違った一風変わったユニークさのあるビートやサウンドが肝になっていると思います。

DB:(黙って聞いている)

どのような基準でビートを選んでいったのでしょう? 今回のアルバムでは、これまでと選ぶ基準に違いがありましたか?

DB:うん、だから今回はまさにそれをやりたくなかった、という。つまり、俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。それよりも、今回はもっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった──とりわけ、今回のアルバムで取り上げているような題材を歌う場合はね。というのも「風変わりなサウンド」って、奇妙さそれ自体を狙ってやってることが多いって気もたまにするんだ。ほとんどもう「お前に理解するのは無理」、「お前にこれはゲットできない」というか、ヒップホップの通(つう)じゃないとわからない、みたいな。で、俺はとにかくもっとラップのインストゥルメンテーションに近いサウンドにしたかった。ギターを多く使い、かつ、もっとシンセも重用して。だから、バンドが演奏していてもおかしくない、俺の耳にそう響くビートを選んでいったわけ。とは言っても──(苦笑)質問者氏はやっぱりまだ「風変わり」に聞こえるって言ってるんだから、どうなんだろうなぁ、(笑)俺にはまだちゃんとモノにできてないのかも……。

通訳:ははは! 私(通訳)はあなたの音楽はもちろん、トーク番組『Danny’s House』やポッドキャスト『The Danny Brown Show』も好きです。

DB:ああ、うん。

通訳:だから、あなたがこう……天然でエキセントリックな人なのは重々承知というか。

DB:(笑)ヒヒヒヒヒッ!

通訳:ですので、あなたが「奇妙さ」を狙ってやっているわけではないのはわかっているつもりです。

DB:うん。だから、自分としてはヘンじゃないものを作ろうとするんだけど、そのたび、毎回そういう結果になってしまうんじゃないかと(苦笑)。「これ、別に奇妙じゃないだろ」と俺が思っていても、周りは「いやー、やっぱ妙だよ」って反応で。たぶん、それが俺って人間だってことなんだろう(笑)。

通訳:(笑)「普通」をやるのに、あなたは逆に人一倍苦労するってことかもしれませんね。

DB:(笑)いやぁ、これが俺そのものなんだろうし、正体を偽ることはできないよ。

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ピッチの高いテンションのアガった声を使うときの自分は、キャラクターのようなものなんだ。ところが今回のアルバムでは、そのキャラクターを脱皮した。俺はもうあの男とは別の人間なんだ、と。

本作では特にカッサ・オーヴァーオールが複数曲に参加し、本アルバムには彼のカラーも多く反映されているかと思います。彼のどこに惹かれ、どのような流れで共作にいたったのでしょう。

DB:まあ、俺たちレーベルが同じだからね。

通訳:ですよね。

DB:だから、むしろ彼ら(レーベル側)のアイディアだった、ってのに近かった。でも、うん、歌の多くはまだほとんどデモに近い段階だったし、彼はそれらの楽曲に生命を吹き込んでくれた。彼がこのプロジェクトのMVP的存在なのは間違いない。

通訳:なるほど。あなたの側から率先して「コラボをやらないか?」とカッサに接触を図ったわけではない、と。所属レーベルが同じということで、少々業界的なお膳立てというか、そういう面もあった?

DB:いやいや、そんなことないって! ほんと、レーベル側がああやって調整してくれて、俺は最高にハッピーなんだよ! だからまあ、よくある話ってこと。そこはまあ、自分の周囲を素晴らしいチームに固めてもらっていることでもたらされる恩恵だよね。彼らは問題や課題を解決してくれたり、あるいは「この人ならこの曲にぴったりなんじゃないか? あの人はどう?」云々の案を出してくれるから。っていうのも、俺自身はもっと内向的な奴だし、ほんと、あれこれたくさんの人に自分から働きかけたりはしないから。そこだね、チームがいてくれる抜群なところは。

カッサとの共作で印象的なエピソードがあれば教えてください。

DB:んー、っていうか、彼の拠点はロンドンだったんだよ。で、俺はデトロイトでアルバムを録音したからね。インターネットの美点だよ、クハハハハハッ!

通訳:彼とあなたとは、すべてリモート作業だった、と?

DB:ああ。

通訳:そうなんですか! いや、音源を聴くと非常に見事に溶け合っているので、てっきりおふたりで一緒にスタジオに入ったのだろう、とばかり……。

DB:ノー、ノー! っていうか、じつはまだ対面したことすらない(笑)!

通訳:マジですか?

DB:フハハハハハッ! ぜひ会いたくて、ワクワクしてるけどね。すごく楽しみだ。

通訳:はあ、そうなんですね……。

DB:でもさ、俺の作業の仕方ってそういう感じなんだ。長いこと一緒にやってきた、過去のプロジェクトにも数多く参加してきたポール・ホワイト。彼とだって、初めて実際に会ったのはコラボをやりはじめてから、それこそ7年くらい経った後だったし。

通訳:えっ、そうだったんですか!

DB:だから、インターネットの美点ってこと(笑)!

ラップをやってる連中は誰もがスーパーヒーローみたいなものだしね、つまり、等身大以上に大げさに誇張したヴァージョンの自分を演じているっていう。

(笑)了解です。ちょうど話が出たのでお訊きしますが、今作にも参加しているそのポール・ホワイトやクェル・クリス、あのふたりはあなたにとってどのような存在ですか? 共謀者? コラボレーター? 両者のビートがあなたにもたらしてくれるものはなんでしょうか?

DB:クェルはデトロイト出身だから、あいつとは俺のキャリアのごくごく初期の頃から知り合いなんだ。俺の祖母の家に遊びに来て、祖母が留守の間にふたりでつるんで一緒に音楽を作って遊んだりしていた。俺がクェルに出会った頃って、デトロイトの中心地に俺たちみたいな連中があまり多くいなくてね。つまり、そうだな、たぶん「オルタナティヴなブラック・ガイ」とか、そんな風に呼ばれる類いの連中は少なかった、と。だからほんと、出くわしたなかで(子どものように高い声の口調で)「おっ、こいつ、なんか自分に似てる!」みたく感じた人間は唯一、彼だけだった。俺たちはそういった十代の経験を共有してきたし、うん、つねに尊敬し憧れてきた対象だね。というのも、彼は決して同じ一カ所に留まっていない、というか。俺がクェルと知り合って以来、あいつはたぶん7カ所くらい引っ越ししてきたし、絶えず動いていて、絶対に同じ場所に長い間じっとしていない。で、ある意味そこが、彼の音楽をどこかしらインスパイアしてるんじゃないかと思う。彼の音楽はいつもレベルが上下して変化するし、スタイルもじつに様々でころころ変わるから。
 で、ポール・ホワイト。彼は、あるとき俺にビートを送ってきてくれたんだ。で、俺の元にはたくさんの人間からビートが送られてくるんだけど、こと彼のビートに関して言えば、ほとんどもう「これは俺のために作られたビートだ」に近い感じだった。だから、「ああ、遂にプロデューサーが見つかったぞ」みたいな? 彼のビートは俺のラップみたいに響くというか、彼のビートは俺にとにかく「ラップしちゃる!」って気にさせるものなんだ。だから彼とずっと一緒にやってきたし、それにこのアルバムはある意味『XXX』にとっての続編みたいな作品なわけだし、レコーディングに取り組みはじめたとき、『XXX』で一緒にやったのと同じプロデューサーと仕事したいと思ったんだ。スカイウォーカー、クェル、ポール・ホワイトらとね。

あなたのトレードマークのテンション高い声は “Tantor” “Dark Sword Angel” “Jenn’s Terrific Vacation” くらいで、それ以外の8曲は地声に近い声でラップをしています。過去の曲も含め、リリックの内容やトラックのサウンドに応じて声のトーンを使い分けているのでしょうか。あなたのなかの使い分けの基準を教えてください。

DB:んー、まあ、地声に近い、よりディープなトーンのあの声も自分はつねに使ってきたと思うけどね。たとえば、もっとシリアスめなトピックを歌うときだとか。ただ、このアルバムではいつも以上に自分自身をもっと人間らしくしたかった、というか。だから、ピッチの高いテンションのアガった声を使うときの自分は、キャラクターのようなものなんだ。ところが今回のアルバムでは、そのキャラクターを脱皮した。もっとも、今後はあのヴォイスを使わないとまでは言えないけれども、そうだな、俺はもうあの男とは別の人間なんだ、と。あの時点では、あの声はほとんどもう「キャラクター」みたいな感じだったし、要するに俺自身ですらなくなっていた。俺は、滑稽で面白おかしくなろうとしてあのヴォイスを使っていたんだよ。低めの地声で歌うよりもあの甲高い声で歌う方が、もっとパンチが効いたジョークになるだろうと思うし。だからあれはまあ、キャラクターのなかに入っているようなものなんだ。それにほら、ラップをやってる連中は誰もがスーパーヒーローみたいなものだしね、つまり、等身大以上に大げさに誇張したヴァージョンの自分を演じているっていう。

通訳:(笑)なるほど。

DB:そういうこと。低めの声で歌うときの俺は、ありのままの自分でいるってことだよ。

その高いトーンの声があなたのトレードマークとされていることをどう感じていますか? あなたの作り出した一種の「頓狂なキャラクター」に縛られていると感じることもあるのでしょうか?

DB:たまには、ね。というのも、作ってきたどのアルバムでも低い声を使ってきたのに、どうやら人びとが「ダニー・ブラウン」と認識するのはあの声だけらしいし。うん、ときどきそう感じることもある。それに、前2作では過去以上に低い声を使ったわけだし、それでも人びとはやっぱり……だけどまあ、あれが俺のサウンドだってことなんだろうし、他のみんなから俺を際立たせてもいるんだろうろうね。それに、俺が好きなラッパーの多くがいまもあの高い声を使っているし、別に俺が作り出したものでもなんでもないんだよ。ファーサイドにしろ、ヤング・ジー(Young Zee)にしろ、エミネムにしろ、俺は高音域を使うラッパーの多くを尊敬してきたから。

通訳:そうやってあなたが声を使い分けるのは、違う仮面を取っ替え引っ替えするような感覚なのでしょうか?

DB:いや、仮面だとは思わないな。むしろエモーションってことだよ。だから、ラップをやりながらジョークを飛ばしてるときの俺は、もっとハッピーで「ワヘーイ!」みたいなお気楽なノリの、自分のなかのおバカ野郎な面が出ているだけであって。対してもっと真面目なトピックの場合はそういう声では喋らないだろう、もっとシリアスなトーンを使う、と。それだけのこと。そうは言っても結局のところ、それだってやっぱり「俺」なんだけどね。楽しく遊んでるときとか、普段の会話のなかでもあの声は飛び出すし。

通訳:なるほど。仮面と言ったのは、「仮面の背後に隠れる」という意味ではないんです。仮面を被ることで、逆にその人間の本性が表に出ることもあるわけで、興味深いなと。

DB:ああ。そうだな、俺が仮面として利用しているのはむしろ、コメディだってことじゃないかな? 特に、ごくシリアスな題材を取り上げる場合は、あまりにデリケートなネタだから表現するためにはジョークにするしかない、という。お笑い芸人の多くは苦悩型の人間だし、ある意味、彼らは自分自身の痛みをあざ笑っている。だから俺としてはむしろ、お笑いで覆っている、というか。

通訳:はい。それにお笑いやユーモアは、ネガティヴさに対する最大の武器にもなりますしね。

DB:ああ、絶対そうだね。

30歳で作った『XXX』から『Quaranta』までの十年を振り返ってみて、ラッパーとしての活動のなかであなたが得たものと失ったものはなんでしょうか?

DB:そうだな……得たものといったら、たぶん禁酒して素面になったこともあって、いまの方がもっと、安らぎを得ているんじゃないかと。で、失ったものと言えば……ネガティヴな感情すべてを水に流したことで、それに伴うもろもろも失ったね。で、物事をもっと肯定的に眺めるようになりはじめている。十年経ってもいまだにこれをやれているだけでも、自分はなんて運が良くて恵まれているんだろう、そう気づいたわけ。キャリア初期の自分はとかくネガティヴな物事に集中し過ぎだったと思う。「やった、成功した!」と栄光に浸ることもなかったし──っていうのも、成功できるなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったからね。つねに苦悩し、破滅が来るぞと不安に苛まれていて、「いつなんどきこれが終わるかわかりゃしない」みたいな感じだった。だから、あの頃、ああいうポジションにいるだけでもどれだけ恵まれていたか、そこに自分が気づいていたら良かったなと思う。

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自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか。

個別の曲についても聞かせてください。“Tantor” はアルケミストのプロデュースですが、彼のなかでも特別ユニークなネタをサンプリングしたビートに思えます。以前の “White Lines” も非常にユニークなビートでしたが、彼があなたとのコラボ用にチョイスするのでしょうか? それともあなたが複数の選択肢のなかから選ぶのでしょうか?

DB:彼が、5本くらいビートを送ってくるんだ。で、そのなかから気に入ったものを俺が選ぶ。まあ、彼は「かの」プロデューサーっていうのかな、俺が聴きながら育ったお気に入りのプロデューサーのひとり、みたいな存在であって。だから彼と仕事できるチャンスが訪れるのはいつだって、それこそが「自分は成功した!」と感じる瞬間だね。「ああ、やったぜ! 俺も遂に、これだけ長い間尊敬してきた人と仕事できるようになったんだ」と。うん、でもあの歌はほんとまあ、俺が(声色をダミ声に変えてふざけ気味な口調で)「まだイケてるぜ!(still got it!)」ってところを示そうとしている(笑)、そういう曲のひとつ。ほら、『XXX』の頃の俺はああいう曲をしょっちゅう作っていたし、だから自分にはいまもまだああいうことをやれる、そこを証明したかったわけ。

“Tantor” はミュージック・ヴィデオも非常にユニークです。チープなロボットのキャラクターには、あなたのアイディアも反映されたものでしょうか?

DB:いいや。っていうか、俺のビデオのどれひとつ、自分でアイディアを出したことはないよ。そこまでクリエイティヴな人間じゃないし、ビデオに関しては一切、自分の手柄を誇ることはできない。

音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。

また、本作のジャケットのアートワークもあなたの表情が非常に印象的ですが、 これに込められた意図を教えてください。

DB:とにかくまあ……なかに収められた音楽がどんなふうに見えるかを示したかった、みたいな? ほんと、文字を絵で表現するマッチアップ(例:象=elephantの絵はE、など)みたいなものだよ。それにさっきも話したように、このアルバムでは以前よりも自分に人間味をもたせたし、だからよりピュアな己の姿を見せている、と。大体そんなところかな。ああ、しかも古典的な雰囲気もあるポートレートだよな。いまどきはAIが使えるし、それこそ……宇宙ロケットからスカイダイヴィングしているイメージだの、どんなものだってやれるわけだけど、だからこそクラシックなものに留めようとしたんだ。シンプルに。

“Ain’t My Concern” が本アルバムのフェイヴァリットとのことですが、鍵盤の和音がフック部分ではなんとも言えない浮遊感と、ヴァース部分では不協和音による緊張感のコントラストが効いています。これはクリス・キーズによるものですか? 

DB:うん。彼とクェルはいつも一緒に作るから。ふたりはプロダクション・パートナーの仲だ。あれはとにかくまあ、ある種の一般教書めいた歌だね。ヒップホップに対する思いだったり……「俺はいまだにヤバい奴だぜ(I’m still a badass)」って感じているし、要はそうやって自分の威力を誇示しようとしてるっていう。まだ、筋肉はバッチリついているぜ、とね。

はい、もちろん。“Y.B.P” ではブルーザー・ウルフをフィーチャリングして軽快にデトロイトでの日々を振り返っていますが、ブルーザーたちとの〈Bruiser Brigade Records〉の今後の予定や計画を教えてください。

DB:うん、ウルフの作品はもうじき出る。あのアルバムはでき上がっているから、近々出るよ。機会があればいつだって仲間と仕事したいし、それに『XXX』ではデトロイトについて語った歌をたくさん書いたわけで……まあ、自分の出自に関する歌はつねにやってきたんだよな。そうすれば人びとにもいまの俺の立ち位置がわかるだろうし、自分の生い立ちやヒストリーみたいなものを明かす、という。

“Jenn’s Terrific Vacation” におけるカッサ・オーヴァーオールのプロダクションは生ドラムを生かした、大変複雑で作り込まれたものになっています。あなたの囁き声を素材にした後半の作りも見事で、そのような複雑な楽曲のプロダクションとジェントリフィケーションをテーマにしたメッセージ性のあるリリックが両立しているところがスゴい曲だと思います。このリリックのアイディアをどのように思いついたのでしょう?

DB:じつを言うと、あれはもともとジョークとしてはじまった歌だったんだ。

通訳:(笑)そうなんですね。

DB:だから、俺はダウンタウンで暮らしていたし、とにかくああいう言葉が口をついて出て来たし、それであの「Jenn’s Terrific Vacation」というフレーズを思いついたってわけ。で、ある日スタジオであのビートを耳にして、さて、これをどう料理しよう? と悩んでいて。だからまあ、何もかもが一気にクリックして形になった、ガラス瓶で雷電を捕まえるシチュエーションっていうか、そういう曲のひとつだったね。あんまり深く考え過ぎずにやるっていうか、ビートに合わせて長いことえんえんとラップしているうちに、ある日突然「あっ、これだ!」と掴めて、そこから先は何もかもがスムーズに流れていく。自分はそういうふうに、「このビートで何をやればいいだろう?」と考えあぐねながらとりとめなく過ごすことが多いと思う。で、ある日突如としてインスピレーションがパッとひらめいて、となったら即座にそれに飛びつき、双手で掴む。だから、自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか、その日の自分はたまたまラッキーだっただけ、みたいな。クハッハッハッハッ!

“Down Wit It” では、ストレートな言葉で元恋人との関係のありのままを伝えるリリックが衝撃的です。盟友のポール・ホワイトのビートは、とてもエモーショナルで1980年代のメランコリーを感じさせます。リリックの構想は先にあって、このビートを選んだのでしょうか。それともこのビートを聴いてありのままを語ることになったのでしょうか。

DB:まず、ビートがあった。でまあ、何かを乗り越えるための最良の方法って、とにかくそれについて語ること、というときだってあると思う。だからほんと、あれはそういう歌だし、そうすることによって胸のつかえを下ろすことができる。それについて話せば、それに対する気分も楽になるっていう。俺はつねに、音楽をひとつのセラピーの形態として使ってきたからね。音楽のなかで何かについて語るとき、普段の会話で話すようなことに触れようとしている。あの曲も、そういうもののひとつだ。

また “Down Wit It” のリリックのなかで「lost my emotion」と歌っているように、あなたの感情を殺しているようなフラットな歌声が非常に印象的で、表面的にエモーショナルな歌い方よりも、あなたが抱えていた空虚さが一層感じられる気がしました。あなたはラップをする際の「エモーション」をどのように考えているか教えてください。ラップをする際の最大のエンジンと言えるでしょうか?

DB:うん、そうだと思う。やっぱり、そこを捉えたいわけでさ。俺の音楽を聴く人びとには、何よりも、「感じて」欲しいんだ。聴いていてつい一緒にラップしたくなるのであれ、なんであれ……音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。それに、今作で取り上げたトピックは誰もが経験するようなものばかりだし。そこもさっき話した、もっと人間らしい面に回帰するって点と関わっているし、要するに「俺も君たちと全然変わらないよ」と。「俺も、みんなと同じようにめちゃめちゃで駄目な奴なんだ」ってね(苦笑)! まあ、そんなところ。

“Hanami” はスヴェン・ワンダーの既存の曲が元になっていますね。彼の “Hamami” のビートにどのように辿り着いて、どんなやり取りがあってこの曲が生まれたのでしょうか?

DB:ポールと盛んに作業をしていて、まだ隔離期間中だった時期に彼がいろいろとビートを送ってきてくれて。あれは本当にDOPEなビートだと思ったし、今回はもっと実験的なスタイルに向かおうと思っていたしね。だからあのビートを耳にしたときは、「マジかよ!」みたいな? あれを聴いたときは、こう……アルバムの1曲目を鏡に映したイメージみたいだな、と思った。だからA面B面それぞれにDOPEなトラックがあるのは良いな、と。あの曲では、作った時点で俺の感じていたことをすべて出している。

「Hanami」とは日本語の「花見」でしょうか。桜の花を愛で祝う宴会のことなんですが。

DB:ああ、知ってる。

通訳:3~4月に、日本人は桜の木の下に集まり、飲んで楽しむんです。その意味合いは曲に影響していますか? それとも、たまたまあのタイトルだった、ということ?

DB:うん、そんなところ。クハハハッ! そこについては、そこまで深く考えていないんだ(苦笑)。

また “Hanami” のフックで「Can't get time back, time after time」と歌っていますが、もし一度だけ過去に戻れるとしたら、いつの時点に戻って、なにをやり直したいですか?

DB:ノー。一切、何も変えない。っていうのも、過去の出来事をやり直してしまったら、いまこうしてここにいる自分は存在しないから。人生は旅路だと思うし、そこで味わった経験を通じてつねに学んでいるわけで。だから、何ひとつ変えないだろうと思う。とにかく、俺の物語の一部を成している要素だしね。現在の自分を形作ってくれたのがあれなんだし、いまの俺は自分自身に満足しているから。過去をやり直して変えることには、乗り気になれない。

『ガーディアン』のインタヴューで、ファンたちの前でライヴをすることが一種のセラピーになっているとの発言がありました。日本にもあなたのライヴで一緒に歌いたいと思っている多くのファンがいます。音楽そのものがパワフルとはいえ、ラップ・ミュージックはやはりリリックがベースですよね。母国語も異なる国にもあなたの音楽のファンがたくさんいることをどのように感じていますか?

DB:めちゃ最高だと思ってる! っていうか、俺がよく聴く音楽にしたって──だから、そこがインターネットの美点だよな。英語以外の歌詞でも、Google翻訳にかけることができるんだし。でも、さっきも話したように、多くの場合俺は音楽を通じてエモーションを掻き立てようとしているし、エモーションは、そのエネルギーをたんに聴く以上に、実際に肌で感じるものへと翻訳/変換してくれるって気がする。というわけで、日本にもファンがいるのはDOPEだし、いつか日本に行って、ライヴをやれる日が来るのが待ち遠しいよ!

通訳:はい。来日を楽しみにしているファンはたくさんいますので。

DB:だよね、うんうん。なんとか日本に行けるよう、トライしているからさ。

最後に、日本のファンにぜひメッセージをもらえると嬉しいです。

DB:うん、もちろん。日本に行けたらいいなと心から思っているし、君たちみんなと楽しい時間を過ごし、日本のカルチャーを体験したくて仕方ない。まだ行ったことのない国のひとつだけど、もう長いこと、日本に行こうと努力はしてきたんだ。ただまあ、じつはいつもビビってたんだけどね、俺のクスリ歴のせいでやばいかも? って(苦笑)。ヒヒヒヒヒ~ッ! だけど、いまの俺はもっとクリーンだし、酒をやめて素面になったから、日本に行けるはず。日本を味わい、最高の体験をしたいな。

通訳:了解です。というわけで、もう時間ですのでこのへんで終わりにします。今朝はお時間をいただき、本当にありがとうございます。

DB:こちらこそ、ありがとう!

通訳:あなたはいま、ロンドン滞在中に取材を受けてらっしゃいますが、今日のロンドンはめっちゃ寒いです。どうぞ、暖かく過ごすようにしてくださいね。

DB:ああ、もちろん。ほんとそうだよな、ありがとう!

music for Gaza : パレスチナを考える - ele-king

 パレスチナ問題にまつわる痛ましいニュースが日々目に飛び込む2023年、今年は暗澹たる気持ちを抱えたまま年を越すことになりそうだ。それでも、ガザ地区への連帯を示し少しでも行動しようとするのであれば、バンドキャンプなどでリリースされているいくつかのドネーションを目的としたコンピレーション・アルバムに耳を傾けてみてはいかがだろうか。
 2023年12月6日に〈naru records〉よりリリースされたコンピレーション・アルバム『A Better Tomorrow For Palestine』は、日本人もしくは日本を拠点に活動するアーティストの協力のもと制作された。SUGAI KEN、Mars89、食品まつり a.k.a Foodman、Prettybwoyなど錚々たる面々が参加し、若手からは〈PAL. Sounds〉を主宰するE.O.U、〈みんなのきもち〉の中核的存在Ichiro Tanimotoも連帯を示している。また、オンライン上でDJミックスやポッドキャストなどを展開するプラットフォーム・radio.syg.maによる『IN SOLIDARITY WITH PALESTINE』には愛知のエクスペリメンタル・デュオNOISECONCRETEx3CHI5が参加。ここ日本でも、たしかにパレスチナの惨状に寄り添う試みが広がっているようだ。
 ほかにも、フランスのアーティストを中心に立ち上げられたコンピレーション・アルバム『Free Palestine VA01』、イタリアのアーティストを中心に結成された〈International Artists For Gaza〉によるシリーズ『IAFG - Vol. 1, 2』など、DIYでの営みのなか自然に育まれてきた世界中のバンドキャンプ・コミュニティでこのような支援の形を発見できる。ぜひ一度目を通してほしい。

naru records『A Better Tomorrow For Palestine』(日本)

2023年12月6日リリース
https://narurecords.bandcamp.com/album/a-better-tomorrow-for-palestine

SARAB | سراب『IN SOLIDARITY WITH PALESTINE』

2023年12月19日リリース
https://radiosygma.bandcamp.com/album/in-solidarity-with-palestine

V.A『Free Palestine VA01』(フランス)

2023年12月11日リリース
https://freepalestineva.bandcamp.com/album/free-palestine-va01

International Artists For Gaza『IAFG - Vol. 1』『Vol. 2』(イタリア)


2023年11月30日、12月20日リリース
https://iafg.bandcamp.com/album/iafg-vol-1
https://iafg.bandcamp.com/album/iafg-vol-2

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