「CE」と一致するもの

interview with TOYOMU - ele-king

 まいったね、トヨムは罪深いまでに楽天的だ。荒んでいくこの世界で、シリアスな作品がうまくいかない自分に葛藤していたようでもあった。しかし、人生を「面白がる」ことはとうぜん必要なこと。いや、むしろ面白がる、楽しむことが土台にあるべきだろう。ストゥージズだって「no fun(面白くねえ)」といって面白がったわけだし、泣くのはそのあとだ。
 トヨムの名が知れたのは、2016年のカニエ・ウェストの一種のパロディ作品によってだった。『ザ・ライフ・オブ・パブロ』をおのれの妄想で作り上げたその作品『印象III:なんとなく、パブロ』がbandcampでリリースされると、欧米の複数の有力メディアから大きなリアクションが起きた。それまで知るひとぞ知る存在だったトヨムは、一夜にして有名人になった。
 それから彼は、日本のトラフィック・レーベルからミニ・アルバム「ZEKKEI」を出したが、それはパロディ作品ではなく、牧歌的なエレクトロニック・ミュージックだった。そんな経緯もあって、いったいトヨムのアルバムはどうなるのかと思っていたら、ユーモアとエレクトロ・ポップの作品になった。〈ミュート〉レーベルの創始者、ダニエル・ミラーの初期作品を彷彿させる茶目っ気、LAビートの巨匠デイダラスゆずりのエレガンス、それらに加えてレイハラカミを彷彿させる叙情性も残しながらの、チャーミングなアルバムだ。“MABOROSHI”という曲は、トーフビーツの新作に収録された“NEWTOWN”、あるいはパソコン音楽クラブの“OLDNEWTOWN”なんかと並んで、2018年の日本のエレクトロ・ポップにおいてベストな楽曲のひとつだと思う。
 取材は、10月上旬、広尾のカフェでおこなわれた。通りに面したオープンエアのテーブルには、心地良い秋風が入って来る。この時期の黄昏時は、あっという間に夜を迎えるわけだが、江戸川乱歩が幻視した都会の宵のなかに紛れる怪しいものたちの気配を感じながら、インタヴューは、ゆるふわギャングからサンダーキャットまで、節奏のない彼の好きな音楽の話からはじまって、気が付いたらお互いビールを数杯飲んでいた。

https://smarturl.it/toyomu

だんだんアートといってやっても自分自身がそこまで楽しくないなと思いはじめて。それだったらもうちょっと単純に明るくやろうと思いはじめました。だから自分としてはこのアルバムは明るいアルバムだなと思っています。

今回のデビュー・アルバム『TOYOMU』は、自分ではどんなアルバムだと思いますか?

TOYOMU(以下T):ジャケに表れているように、自分ではすごくカラフルな作品になったと思っています。1曲1曲の単位が集まって、アルバムとして。ぱっと見がそういう感じではあるんですけど、いままで自分自身が、ビートと呼ばれるものをやろうと思ってやっていた時期とか、ラッパーに提供しようと思ってやっていたとか、もしくは”MABOROSHI”みたいにシングルを作ろうという感じで、作り方に対する考え方自体がだいぶシンプルな方向に、シンプルって言ったらおかしいな……、自分の感情として分かりやすい方にだんだん近づいていった。アルバムとしてできあがってみるとあんまり複雑なことや、自分ができないことはもうできないなということを割り切ってやったということもちょっとある。

食品まつりさんのコメントとぼくのコメントは言葉は違うけど、だいたい同じような内容で、同じような印象を持ったのかなと思いました。ドリーミーで、ほっこりなアルバム。そう思われていることを自分ではどう思いますか?

T:人から見たときにドリーミーということは、きっとファンシーさが最後まで残り続けたんだろうなと思います。たぶん現実とひたすら向き合い続けたら、あのようなアルバムにはなっていなかったと思うんですよね。音楽という世界だけに関して言ったら、自分の世界のなかで考えて作ったので、その部分が要素として強いかな。それがたぶんドリーミーと言われる原因ではないかなと少し思います。

自分自身ではそう思わない?

T:ぼくはみんなにわかりやすいように、お祭りみたいな感じ、カーニヴァルちっくな感じだと思っているんですよ。いや、サーカスとかそういうものも近いかな。渋い曲や、かっこいい曲がいちばんベストだと思って作っていたときと、どれだけ人と違うことをやるかみたいな部分で魅せようと思ってやっていたときがあって。人から見たときにそういうわけのわからないものって結構不気味にうつるとぼくは思うんですね。まったくわけのわからないものとか、あとは真剣に物事をやっている人とか。そういうのに対してはお客さんからすると、まじめな演劇を見ている感じ。大衆とか民衆の人たちが楽しみにきているというよりかは、高尚なものを見ている感じで接するような。

アートを見ているような?

T:アートを見ているような、そっちの方を自分はかっこいいと思ってやりたいという感じでいままでは動いていたんですけど、だんだんアートといってやっても自分自身がそこまで楽しくないなと思いはじめて。それだったらもうちょっと単純に明るくやろうと思いはじめました。だから自分としてはこのアルバムは明るいアルバムだなと思っています。たぶんJ-POPとかになってくると思うんですけど、ただひたすら明るいということは、全く屈託がないというか。サーカスとかもそうですけど、ピエロとか大道芸の人とかも一応は明るくはふるまっているじゃないですか。でも、ずっとツアーじゃないですけど、各地を転々としてまわっているから疲れも出てくるし、ずっと笑顔ではいられないと思うんですね。でも、みんなに対して明るい顔をしようという気持ちで動けばある程度はみんながわーって拍手もしてくれるだろうし。いちばん近いのはサーカスのイメージという感じなんですよね。

サーカスには影というものもあるんだけど、影や暗闇をこのアルバムには感じないです(笑)。

T:きっとぼく自身がサーカスに対してそう思っていないからということが大きいと思います。あとは、このアルバムを作るにあたって、何回か曲自体を捨てたりとかしたんですよ。作っては捨てみたいなことが繰り返しあって。だから自分のなかでは、もう作るのが嫌だなと思うくらいにまでたまになったりして。

どういう自分のなかの葛藤があったの?

T:『ZEKKEI』を出した2年くらい前に遡るんですけど、それくらいからアルバムをいちおう作りだしてはいたんですよ。

2年かかったんだね。

T:じっくりやっていてもそのときはアートみたいなものが頭のなかにあったので、人と違うかっこいいものを作るんだみたいな感じがすごく大きかったんですよね。

そのときのかっこいいアートな音楽ってエレクトロニック・ミュージックで言うとたとえば何? OPNみたいな?

T:OPNとかアルカとかもそのときはよく聴いていた。あとは坂本教授の『async』。こういうのがかっこいいなみたいな感じで。いったら全部影があるじゃないですか。でも自分としてはそういうのもやるんですけど、そういうやり方でやっても、人に伝わるまでにならないんですよね。

あるいはそれをやると、自分自身が自分に対してオネストになれていない?

T:オネストになれていないということと、それに偽っているみたいな感じも若干はあった。かっこいいだろというものを思い込みでやったけど、結果的に作り出したものを周りの人に聴かせても、とくにそれに対して何かコメントがあるということがまったくなかったんですよ。ということは、自分ではかっこいいと思って作っているけど、相手に伝わっていないみたいなことが出てきた。そこの伝わらなさみたいなものがすごく自分ではもどかしいというか、イライラするというか。自分ではかっこいいと思っているのに。そういうことが作りはじめてから長いこと続いたんですよ。

じゃあ1枚分のアルバム以上の曲を作っては捨て、作っては捨て。

T:最近もボツ曲をもういちど聞いてみてた んですけど、ものすごい量があって。ちょっと工夫したら別の要素に使えるみたいなものがいっぱいまだあるんですけど。その状態自体が自分自体を陰鬱な気持ちにさせるというか。作れば作るほど、より悪くなっていくなみたいな。

ぼくはOPNやアルカみたいな人たちを評価しているんだけど、これだけ音楽がタダ聴きされて、飲み放題みたいな世界になっていったときに、逆に飲み放題だと酔えないということだってありうるわけだよね。

T:ハードルが下がったのに別に聴く人が増えていないということ?

そういう意味で言うと、トヨム君はもともと曲を無料ダウンロードで出していたわけじゃない? しかし、これはこれで作品として作りたいと思ったわけでしょ?

T:もちろん。ただ、自分の能力との差がどうしてもある。きっと誰だってそういうことはあると思うんです。自分はこうしたいけど、いくら気持ちを入れ替えようと思ってもできないとか。そのときは簡単な話、ちょっと切り替えて、自分はそれができないからできることをやろうみたいな感じでシフトすればすぐに道を切り替えられたと思うんです。いまになって思えば、自分とその周りの状況に甘えていたという感じがあるんですよ。自分にウソをついていたというか。

OPNやアルカみたいな人はすごくシリアスじゃない? そのシリアスさを捨てたなという感じはするんだよね。

T:シリアスになりたかったけど、それをやろうと思ってもまったくできなかったんですよね。そんなフリをするということ自体がいまになって思えば間違っていた。自分に合っていなかった。そういうところのレベルで全然コントロールしきれていなかったというのが自分のなかであるんですよ。

それでこういうジャケットにしたんだろうけど、何かきっかけがあったの?

T:結局いくらやってもできないということになったときに、音楽を辞めるかどうかくらいまで考えていたんですよ。別に音楽を作ることに辞めるとかないけど。あとはいろいろな人と会ったりして。自分はいまでも実家暮らしなんですけど、実家暮らしをしている人でもちゃんとやっている人はもちろんいますが、その生活レベルからして見直した方がいいんじゃないかと思って(笑)。京都でやっていたらどうしても周りがめちゃくちゃ競い合っているという状況では正直ないと思うんですよ。

ゆるい?

T:もちろん京都でもしっかりやっている人はいるけど、自分と同じトラックメイカーやビートを作っている人で競い合っているような状況は東京のようにはない。京都は超田舎ではないけど、超都会でもないから。

独特なところだからね。

T:居たら心地良いんですよね。自然もあるし、川もあるし。そこに居たら、自分では俺は他人とは違うんだと思っていても、どうしてもあらがえないだろうなというのは意識しないと。そこに気付いたのが一番大きかったですね。地方都市に住んでいてめちゃくちゃ頑張っている人もいっぱいいるし。

自分が地方都市でやっているんだという意識はこの作品にはすごくあるの?

T:その反面インターネットがあるから、意識さえ、やる気さえチェンジできたら関係ないんだろうなというのは思うんですけど、そう口では言ってもできない方が絶対に多い。なんでこういうアルバムになったかというときも、実感として自分の人生がそう思ってきたということがけっこうある。

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全部楽しかったらいいじゃんとは思わないですけど、全員がシリアスにならなくてもいいんじゃないかなと思いますね。という発言が出るくらいぼくは楽天的。だから、トーフくんがああいうものを作れるのは本当にすごいと思う。ぼくは自分ではまったく。

この作品を作っていくときに、自分のなかで励みになった作品はある?

T:単純にぼくは〈ブレインフィーダー〉が好きだから、その流れでサンダーキャットも聴いていたんですけど、あの人の突き抜け方とかがいちばん。実際去年メトロでも観たんですけど。

へー、どんなところが?

T:あれだけベースがうまかったら、俺さまベースうまいだろみたいな感じになると思うのに、めちゃくちゃアホなジャケにしたりとか、人に対して優しいんですよね。食品さんとかもみていて思うんですけど、この人良い人だなって思う作品のほうが。2年くらい前まで小難しいことが好きだったけど、そういうアルバムを作るうえでプチ挫折みたいなものがあったから。実際そういうものをシンプルに聴いたら心が豊かになるし、ポップだし。門戸が広いというか風通しが良いというか。尚且つそういうこともやっていたからということもあるんですけど、最近アリアナ・グランデがカヴァーしたりとか、サンダーキャットのプロデュースの曲とか、ファレルのアルバムに入っているみたいなああいういわゆるメインストリームにもちゃんと出て行けるような感じにまで昇華できるんだなと思った。

音楽性は全然違うけど、サンダーキャットはでかかったんだ。

T:前から好きだったから、その流れで聴いていました。あの人も友人の死みたいなものがあって、『Drunk』より一個前は結構シリアスな感じがあったんですけど、今回はアルバムを通じて全部突き抜けているなという感じがしましたね。ジャケからしてもそうですけど。まあ、それだけじゃないですけど、ポップな作品の方が聴いていたかもしれないですよね。むしろ。

ぼくはもっとポップになるかなと思っていたんだけど。ラップしたりとか。わりとおさえているなと思った。なんでそこまではいかなかったの?

T:2年の制作期間に発した、良い部分が全て集約されているのが今回のアルバムです。なのでそこに対しての体力温存は全くありませんよ。全精力をそそいで作ったものだからこそ、「次は自分の声を入れてみたい」というような願望も見えてきましたが、そういった経験がないとまず思いつかなかっただろうと思います。

じゃあ自分の方向性は決まったと。

T:アルバムの形が全部見えるまでは、自分はいったいどうしたらいいんだろうというのが自分のなかではぼんやりとしかないのに、こういう方向にいくんだみたいなものを勝手に決めつけて思っていて。ぼんやりとしたもの、そういう方向性な感じでみたいに思っていたけど、そういうことはやめようと思った。その形で、1回自分のモヤモヤしていたものを終わらせたいなという意味で。

ここまでいくのが大変だったということはよくわかったよ。

T:そうやって抽出したものがいまの僕の地盤を固めたことは間違いないので、自信を持ってどんどん次へ向かおうと思います。というかむしろ、これからさらに面白い風景が見れそうなのでワクワクしてますね。

今回のアルバムの方向性というか、もうこれでいいやと思えたのはどの曲を作ってから?

T:やっぱり”MABOROSHI”ですね。自分のなかで歴史的に残る作品を作ってやるみたいな気持ちが無く、純粋に心からやりたいと思って一番形に成し遂げられた曲なので。しかもそれがサンプリングとかもまあ。なので、この曲が自分のなかのひとつもモヤモヤを晴らしてくれた。

なんで”MABOROSHI”という曲名にしたの?

T:ぼくはもともと、幻とかサイケデリックなものが好きというわけではないんですけど、ああいうものがいちばんぼくのなかではかっこいいみたいなことが基盤としてあるんですよ。

ふっとよぎる幻覚みたいな感じ?

T:幻覚というと言い方がおかしいんですけど、ファンシーなものが自分は一番好きなんですよ。

ファンシーなものってたとえば?

T:いちばんわかりやすく言えばディズニーの世界ですね。ファンタジア、魔法。ハリーポッターとかでもそうですけど。小学生のときも読んでいたし。

最高なファンタジーって何?

T:いまぱっと映像だけで言うならば『ザ・フォール』という映画。『落下の王国』というのがあるんですけど。もうちょっとわかりやすくいうと……。やっぱりさっき言ったディズニーの『ファンタジア』なのかな。小さい頃に観ているから。

大人になってからは?

T:この世にあるかどうかわからないみたいなものが好きで。

たとえば?

T:ラピュタとか?

へー、ジブリが好きなんだ。あ、でもたしかにジブリっぽいかも(笑)!

T:ずっと観ていたわけではないですけど、生活の延長線上にちょっと近所の山を登ったらみたいな。

ジブリだったら何が好きなの?

T:『となりのトトロ』か『千と千尋の神隠し』で迷いますね。どっちか。ぼくの趣味がものすごく子供っぽいんですよね。本当に絵本とかにある感じの世界感が好きで。『おしいれのぼうけん』とか知っていますか? 自分の押し入れの先がトンネルになっていて。

でも、うん、ジブリっぽいよ。

T:人としてという意味ですか?

いや、もちろん音楽が。“もぐら慕情”とか。“MABOROSHI”も『千と千尋の神隠し』のレイヴ・ヴァージョンと喩えられなくもない。

T:ジブリっぽいですか(笑)。

トトロのフィギュアとか持っていたりする? 昔けっこう有名な UKのディープ・ハウスのDJの家に泊めてもらったとき、ベッドにトトロのぬいぐるみがあって(笑)。

T:フィギュアは持っていないです。そういう感じではない(笑)。ただあの世界感が何回観てもひたれるからいいなと思うんですよね。夏になる度に。

それは世代的に?

T:世代的なものが大きいと思うんですけど、日曜ロードショーとか。あと、いま思ったんですけど、もうひとつはもしかしたらゲームかも。ポケモンとか。ポケモンとあと任天堂系のマリオ。ポケモンは現実でもないけど。あれは世代的なものかもしれない。いずれにしてもゲームを作るとなったら、そのときはファンタジーというのが人気作の大前提ですよという感じでみんな作っていた感じがする。

しかし、トヨム君はトーフビーツとは逆だよねー。トーフビーツは2作連続であれだけメランコリックなアルバムを作っているじゃない? 同じ世代で関西で暮らしていてもこうも違うのかって感じが(笑)。

T:でもそれでいいんじゃないかなとぼくは思うんですけどね。たしかにぼくもリスナーとしてだったら全部楽しかったらいいじゃんとは思わないですけど、全員がシリアスにならなくてもいいんじゃないかなと思いますね。という発言が出るくらいぼくは楽天的。だから、ああいうものを作れるのは本当にすごいと思う。ぼくは自分ではまったく。

そうだよね。自分に嘘をつくことになっちゃう。

T:それをやったらすごくベタベタしそう。ネトネトしたものになりそう。あんなにさらっとできない。

彼はアーティスト気質なんだろうね。実はすごく。エンターテイナーでいようと思いながらも、どうしてもアーティスト的なんだよな。

T:まじめですよね。それは昔から絶対誰も勝てないだろうという感じがするので(笑)。常に競い合っているからバチバチやってやるぜとは思わないですけど、そこまでそんなに思っていないやつが同じ土俵でやってもそんなに意味がないんじゃないかな。

彼は単純にいまの音楽シーンで自分と同世代、それ以下の人がもっと出てきて欲しいんだよ。ひとつはね。話していて思うのは、俺しかいねーじゃんというくらいな感じ。もっと出てきてくれよ、ポップ・フィールドに。いつまでも年上ばかりじゃなくて。

T:切り込み隊長にさせるなよみたいな(笑)。

そう。

T:それは今回のアルバムがとくにそうですね。ひとりで走っていますからね。

ひとりで走っているよ。それは同世代としてどう思う? あれは同世代の音楽をやっているやつに対するメッセージじゃない?

T:そういう話に関してもそうなんですけど、以前は単純にトーフ君がものすごく売れていて、自分は必至にかっこよくて渋いものを作っているんだけどなと思いながらも、うずくまっていた感じの時期とかがあった。そういうのが単純にうらやましいなと思って。同じ年に生まれたのにみたいなことがあった。いまはたしかに同じ時期に生きてきたけど、単純に圧倒的にトーフ君の方がやっている年数が長いし。

先輩だと。

T:普通に先輩という感じ。ぼくは全然同世代だとは思ったことがない。

なるほど。これは紙面に乗せるからね(笑)。

T:そこは別に俺のことなんか見てねぇよという意味ではなくて、単純にリスペクトしかないという感じ。だから、じゃあ俺もいっちょ言ってやるかじゃなくて、自分ができる、いちばん本気でやれるやり方でどんどんアタックをしていこうみたいな考え方にいまはなってきたんですよ。

じゃあ、トヨム君は、地方に住みながらこつこつとやると?

T:ぼくは出ていくぞという気持ちがものすごくいまは強いですけどね。でもシリアスにやることが自分のやり方であるとは到底思えないというか。

だから自分なりのやり方で、もっていく。

T:なんか、ふぁーっとしたい。しゃがみこむというよりかは。全員が全員シリアスだったら気持ち悪いと思うんですよ。

まあとにかく、来年のRAP入りのアルバムを楽しみにしているよ。今日はどうもありがとうございました。

ライヴ情報
11月16日(金)H.R.A.R @京都METRO / https://bit.ly/2xKj9hh
12月22日(土)食品まつりとTOYOMUの爆裂大忘年祭 @KATA + TimeOut Cafe&Diner / https://bit.ly/2J4fTSi

公演概要
タイトル:食品まつりとTOYOMUの爆裂大忘年祭
出演者:食品まつりa.k.a foodman / TOYOMU and more! *追加出演者は追ってご案内します。
日程:2018年12月22日(土)
会場:KATA / Time Out Cafe&Diner (両会場共に恵比寿リキッドルーム2F)
時間:OPEN/START 18:00
料金:前売¥2,500 (ドリンク代別)/ 当日?3,000(ドリンク代別)
問合わせ:Traffic Inc./ Tel: 050-5510-3003 / https://bit.ly/2J4fTSi / web@trafficjpn.com
主催・企画制作:Hostess Entertainment / Traffic Inc.

<TICKET INFO>
10月22日(月)より販売開始!
購入リンク
https://daibonensai.stores.jp/

<出演者>

食品まつりa.k.a foodman

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンスミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの<Orange Milk>よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の<Mad Decent>からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に<Orange Milk>からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月にLP『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース。

*追加アーティストの発表は追ってご案内申し上げます。

Time Grove - ele-king

 ジャズがすごいのはUKだけではありません。いまイスラエルでも独自のシーンが大きな盛り上がりをみせています。
 アヴィシャイ・コーエンとともに〈Blue Note〉からもリリースのあるピアニスト、ニタイ・ハーシュコヴィッツ。そして、フリー・ザ・ロボッツなどLAシーンとも接点を有し、この夏〈Stones Throw〉からアルバムを発表したばかりのリジョイサー。
 これまでも両者はコラボを重ね、ともにテルアビブの名門レーベル〈Raw Tapes〉から作品を発表してきた仲でもありますが、そんな彼らを中心に結成された新たなグループ、タイム・グルーヴのデビュー・アルバムが10月24日に発売されます。CDが出るのはなんと日本のみ。卓越したプレイヤーとプロデューサーたちによって紡ぎだされる極上の音楽をご堪能あれ。

イスラエルのジャズ&クラブシーンを代表するミュージシャンが集結!!
ジャンルを超越した最高のグルーヴを聴かせる、Time Groveのデビュー作が完成!!

日本企画限定CD(輸入盤CDは、ございません。)

ジャズ・ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツと、バターリング・トリオのリジョイサーを中心に結成されたプロジェクト、タイム・グルーヴの全貌が遂にこのアルバムで明らかになる。イスラエルから登場した、いま最も注目すべき才能溢れるミュージシャンとプロデューサーたちが作り上げた音楽。真に自由度の高い、開かれた音楽とはまさにこのこと。(原雅明 rings プロデューサー)

Time Grove :
Amir Bresler – Drums,
Sefi Zisling – Trumpet,
Eyal Talmudi – Saxophone, Clarinet,
Rejoicer – Keyboards,
Nitai Hershkovits – Piano, Keyboard,
Yonatan Albalak – Guitar, Bass

アーティスト:TIME GROVE (タイム・グルーヴ)
タイトル:More Than One Thing (モア・ザン・ワン・シング)
発売日:2018/10/24
FORMAT:CD
BARCODE:4988044042285
規格No.:RINC44
LABEL:rings
税抜販売価格:2,130円
税込販売価格:2,300円

Tracklist :
01. TG THEME
02. SECOND ATTENTION
03. JUNGLE BOURJOIS
04. INDOPIA
05. PIANO BUBBLES
06. SIR BLUNT
07. TALEK
08. NEZAH
09. A_L_P
10. ROY THE KING
11. LATRUN

Amazon / Tower / HMV / disk union

ブレインフィーダー10周年!
ヒップホップ、ジャズ、テクノを横断する稀代のレーベルの全貌

ケンドリック・ラマーとのコラボも記憶に新しい
フライング・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン
の3大インタヴュー掲載!

つねに革新的な音楽を作り続けるフライング・ロータスの舵取りのもと、
オープンマインドな姿勢でヒップホップ、ジャズ、テクノを横断し、
多くの個性的な作品を送り出してきたLAのレーベルの足跡を徹底的に紐解く!!

ドリアン・コンセプト×ジェイムスズー、ジョージア・アン・マルドロウ
のインタヴューも掲載、充実のディスクガイドにコラム、貴重な写真も多数収録。

映画『KUSO』&『ブレードランナー』特別座談会:
渡辺信一郎(『マクロスプラス』『カウボーイビバップ』『サムライチャンプルー』)×
佐藤大(『カウボーイビバップ』『攻殻機動隊』『交響詩篇エウレカセブン』)×
山岡晃(『サイレントヒル』『BEAT MANIA』『LET IT DIE』)

特別インタヴュー:
TREKKIE TRAX(Masayoshi Iimori & Seimei)――新世代から見たLAの魅力

【執筆陣】
天野龍太郎、大前至、小川充、小熊俊哉、河村祐介、木津毅、小林拓音、
小渕晃、野田努、原雅明、バルーチャ・ハシム廣太郎、三田格、吉田雅史


contents

Flying Lotus

preface ジャズにクソを投げろ!――フライング・ロータスに捧げる (吉田雅史)
interview フライング・ロータス (三田格/染谷和美/小原泰広)
column 音楽の細分化に抗って――フライング・ロータス小史 (原雅明)
Flying Lotus Selected Discography (小林拓音、三田格、吉田雅史)
column ドーナツの輪をめぐる旅――フライング・ロータスとJ・ディラ (吉田雅史/大前至)
column 崩壊したLAの心象風景――フライング・ロータスの映画『KUSO』が描きだすもの (三田格)
interview 渡辺信一郎×佐藤大×山岡晃 健康なクソをめぐる特別座談会 (小林拓音)

Brainfeeder 10th Anniversary

column ブレインフィーダーはどこから来て、どこへと向かうのか――レーベル前史とこれまでの歩み (三田格)
my favorite 私の好きなブレインフィーダー (大前至、小熊俊哉、河村祐介、天野龍太郎、吉田雅史、小川充、木津毅、小林拓音、三田格、野田努)
interview ジョージ・クリントン (野田努/染谷和美/小原泰広)
interview サンダーキャット (小川充/萩原麻里/小原泰広)
column ブレインフィーダーに影響を与えた音楽――ジャズ/フュージョンを中心に (小川充)
interview ドリアン・コンセプト×ジェイムスズー (小林拓音/川原真理子/小原泰広)
interview ジョージア・アン・マルドロウ (吉田雅史/バルーチャ・ハシム廣太郎)
Brainfeeder Selected Discography (小川充、小林拓音、野田努、三田格)

LA Beat

interview TREKKIE TRAX (Masayoshi Iimori & Seimei) (小林拓音/小原泰広)
correlation chart LAビート・シーン人物相関図 (吉田雅史)
column 世界を変えたムーヴメント――ロウ・エンド・セオリー盛衰記 (バルーチャ・ハシム廣太郎)
column LAビート・シーンの立役者――ストーンズ・スロウの物語 (大前至)
Stones Throw Selected Discography (大前至)
column ギャングスタ・ラップからLAが学んだもの――西海岸サウンドの系譜 (小渕晃)
LA Beat Selected Discography (大前至、小林拓音、野田努、三田格、吉田雅史)

DMBQ - ele-king

 今年2月に通算12枚目、じつに13年ぶりとなるアルバム『KEEENLY』を発表し話題をさらったDMBQ。その最新作のアナログ盤がなんと、〈DRAG CITY〉およびその傘下の〈GOD?〉からリリースされることが決定しました。発売は11月16日で、LP2枚組の仕様、ボーナストラックも追加収録されます。来年には〈GOD?〉を主宰するタイ・セガール(彼も今年新作『Freedom's Goblin』を発表)とのUSツアーも決まっているとのこと。
 また、今回のリリースを記念し、2本のライヴが開催されます。11月17日(土)@新代田FEVER、12月24日(月祝)@京都 METRO。ふたたび世界へ向け飛び立たたんとしている彼らの最新ライヴに、ぜひ足をお運びください。

DMBQ、今年2月発表のアルバム『KEEENLY』が米〈DRAG CITY〉 / 〈GOD?〉よりアナログ2枚組LPでリリース。全米及びヨーロッパで発売決定。ボーナストラックも2曲追加。Ty Segall とのツアーも。

2018年2月、13年ぶりとなるニュー・アルバム『KEEENLY』を発表し、その圧倒的轟音とノイズを武器に、ロック・ミュージックの全く新しい切り口を提示することで音楽シーンを震撼させた DMBQ。そのアルバム『KEEENLY』が、アメリカの名門レーベル〈DRAG CITY〉、及びその中に Ty Segall が設立したアナログ・レコード専門レーベル〈GOD?〉より、2枚組LPレコードとなって全世界に向けてリリースされることになった。

きっかけはこの春行われた Ty Segall の日本ツアーでの DMBQ との競演。DMBQ の凄まじい音の存在感とオリジナリティ、そして脅威的なライヴ・パフォーマンスを観て、まずは2週間後から行われるヨーロッパ・ツアーへの帯同を初日のライヴで即オファー。さすがに予定も合わず、さらにはここまで急な調整もつくはずもなく……でこれは断念したものの、ツアー中に『KEEENLY』を聴いた Ty は、本作のアメリカ他海外でのリリースと、アメリカ本国での Ty Segall との合同のツアーはできないか? とツアー中に続けてオファー。当の DMBQ としても、元々本作のリリースを足掛かりに、アメリカ及び諸外国での活動復帰を計画していた事もあり、話はあっという間に決まっていったという。リリースにあたり、〈DRAG CITY〉単体でのリリースも打診されたが、Ty が「絶対に自分が関わっている〈GOD?〉から出したい!」と熱く誘ったこともあり、〈GOD?〉制作・〈DRAG CITY〉販売という豪華さで、2枚組LPとしてめでたくリリースされる運びとなった。また、すでに来年には米国での Ty Segall とのスプリット・ツアーが予定されており、DMBQ の活動は再び海外へと羽ばたいてゆくこととなりそうだ。
 今回のリリースには、アルバム4面目を飾る2曲の新録ボーナス・トラックが追加されている。スプリング・リヴァーブを破壊的に振動させる強靭なベース音にアブストラクトなドラムが絡むへヴィ・ナンバー“When I Was A Fool”と、歪んだオルガンの裂け目から、極上の甘いエコーが香りたつ美麗なインスト・ナンバー“The Cave And The Light”。2曲ともに通常の DMBQ の楽曲とは少し趣を異にしつつも、DMBQ らしいノイズと音響の意匠が際立った、ボーナストラックならではの自由度の高いサウンドが聴ける。

リリースに際し、Ty Segall からコメントが寄せられている。
以下:

“There is no band like DMBQ. They are unique destroyers of sound, and lovers of sonic beauty, existing in the places between. Masters of harsh tone and psychotic rhythm. “Keeenly” is an alien planet type record, evoking images of landscapes and weather patterns found in other galaxies. Purple wind and green fire.”
「DMBQ のようなバンドは他にはない。彼らはハーシュ・トーンと狂気のリズムの名匠として、比類なき音の破壊者、または、音響美の恋人、その両側面の中間に存在する。『KEEENLY』は、紫の風や緑の炎のような、違う銀河系の景色や気候を思い起こさせる地球外型のレコードだ。」

 このリリースを記念して、11月17日(土)新代田 FEVERにて、12月24日(月祝)に京都 METROにて発売記念ライヴを行う。京都 METRO ではアメリカより一時帰国する嶺川貴子が、非常に珍しい本人名義でのライヴで参加。かつてと変わらない歌声と独自の空気感が会場を支配する、嶺川の深遠なライヴも見逃せない。
 来年より再び海外へと活動の場を広げてゆく DMBQ の、現時点での総決算となるライヴ。音響面でもいつも以上の万全の準備をして、堂々のライヴ・パフォーマンスと高圧力なサウンドを披露したいとのこと。DMBQ の今をしっかりと確認しておいてほしい。

DMBQ Album "KEEENLY" Vinyl 2xLP Release Anniversary Show

■11月17日(土)新代田 FEVER
出演:DMBQ, COMPUMA, K.E.I (VOVIVAV, OOO YY)
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥2,800 当日¥3,300
LAWSON Ticket: L:75943, e+で取り扱い中。
問い合わせ:FEVER 03-6304-7899

■12月24日(月祝)京都 METRO
出演:DMBQ, 嶺川貴子
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥3,000 当日¥3,500
*期間・枚数限定早割り¥2,500発売予定。詳しくは METRO HP にて。
問い合わせ:METRO 075-752-4765


DMBQ『KEEENLY』
2018年11月16日発売(米国)
発売元:DRAG CITY / GOD?
Catalog/Serial #:GOD#015
日本国内取り扱い:DISK UNION

 今年も、筆者の暮らすメキシコの「死者の日」が近づいてきた。「死者の日」とは毎年10月31日~11月2日の3日間祝われるお盆のこと。メキシコじゅうがカラフルな切り紙の旗、ガイコツの砂糖菓子や、鮮やかなオレンジのマリーゴールドの花で彩られる。数千年前から受け継がれる先住民の風習と、スペイン侵略後のカトリック信仰が混合された独特な祭礼で、故人と生きている者たちが交流する期間だ。お盆にしては、華やかであり、まるで死ぬのも、そんなに悪くはないと語っているようだし、身近に感じさせる。
 そもそも、メキシコの暮らしは、死と隣り合わせである。2018年上半期だけでも1万6000に及ぶ殺人事件数があり、ここ10年以内に起こった女性殺人は2万3800件と増加傾向で、毎日7人の女性が殺されていることになる。1か月前には、うちの近所のメキシコシティ中心部ガリバルディ音楽広場で、マリアッチ楽団の衣装を着た殺し屋たちが、麻薬倉庫前に現れ、ロバート・ロドリゲスの映画みたいな銃撃戦が起こった。ここまで暴力が近いと、命がいくらあっても足りない。怒りと恐怖を抱くと同時に、どうせ儚い人生、濃く生きてやると腹をくくらせる。
 2018年12月から、「左派」大統領の新政権がうまれ、変化が期待されるメキシコではあるが、筆者のような働く移民にとって、光はあるだろうか? 2002年に元メキシコシティ市長は、元ニューヨーク市長ジュリアーニをメキシコシティ中心部の再開発指導者として呼び寄せ、ジェントリフィケーションの波を起こしたが、その元メキシコ市長オブラドールこそが、私たちの新大統領なのだから。筆者が夫と営む、吹けば飛ぶよな小さなアジア食堂は、開発が進む、ダウンタウンの一角にあり、年々値上がりする家賃と、工事を名目に突然断たれる電気や水道の供給と、チンピラども(警察を含む)との駆け引きの合間で戦々恐々としている。 それでも、ここで踏ん張ろうと思うのは、市井の人々は温かく、いちいち空気を読む必要なんてないし、失敗も恥ずかしくない。自分のリズムで呼吸でき、何度でも生き返られる場所だからだ。

 そうは言っても、へこみそうな時に、食堂で店内音楽としてCDでよくかけるのがエル・ハル・クロイの音楽だ(当食堂のBGMはCDだ。メキシコではスポッティファイが音楽を聴くためのメインメディアになりつつあるが、あえて抵抗している)。
 スペイン語の定冠詞「EL」に、「黒い春」という日本語をミックスした名を持つこのバンドは、メキシコ系米国人=チカーノたちが多く暮らす、イースト・ロサンゼルス出身。哀感あるギターと可憐なヴォーカルのエディカ、ジャジーなベースのマイケル、変拍子を巧みに取り入れたドラムのドミニクから成るトリオだ。2007年にアルバム『サブン』でデビューし、今までに『カンタ・ガジョ』(2013年)、『192192192』(2016年)の、3枚のアルバムを発表。2016年には日本ツアーも行った。彼らの音には、60年代後半、ブラジルの軍事政権に抵抗して起こった音楽ムーヴメント、トロピカリアや、メキシコやキューバで古くから歌い継がれているボレロ、ラテン各国で鳴り響くクンビア、アフロペルー音楽、ジャズ、そしてパンクやロックの影響を受けているが、ミクスチャーではない。伝統と前衛が同居したエル・ハル・クロイとしか言いようがない世界で、その魂の底から立ち上るようなブルースに労われる。甘美でありながら、生ぬるい癒し音楽ではない。

 そんなエル・ハル・クロイが、なんと、日本でメキシコの死者の日を祝うイヴェントに参加し、ツアーも行うという。そこで、ヴォーカルのエディカにメールでインタビューした。

 エル・ハル・クロイの3人は、イースト・ロサンゼルスのパサデナにある音楽学校の同期生により生まれた、アーケストラ・クランデスティーナというアフロファンクや、フリージャズを演奏する楽団のメンバーとして出会った。エディカは当時、打楽器と歌を担当していた。

「楽団の解散後、地元図書館のメキシコ独立記念イヴェントでスペイン語曲を歌うバイトのためにエル・ハル・クロイの前身ともいえるトリオを結成した。それが成功し、本格的に活動を始めた。最初は、アコースティック編成で、スペイン語で歌うグループだったけれど、のちにポルトガル語曲も加えるようになった。私にとって、英語よりも自分の第一言語であるスペイン語で表現するのが自然だった。ポルトガル語は、父がたくさんのブラジル音楽を聴いたり、演奏したりするので、身近だった。ブラジル音楽のリズミカルな歌が大好きで、スペイン語で、それを再現したりもした。でも、本格的に勉強したくて、UCLAの語学コースや、ブラジルのバイーアでも勉強した」

 音楽家になろうと思ったのには、父親の影響が大きいと語る。

「父の一家は、音楽を生業としているので、私が幼い頃から、周囲に音楽があふれていた。父は、ギター、ベース、ピアノを演奏し、歌手でもあった。私は、5歳から父と歌い、思春期にはギターを演奏しはじめた。その時から自分の曲を演奏するのにやりがいを見つけた」

メキシコ人の両親が、メキシコシティからイースト・ロサンゼルスのボイルハイツに移住してから、エディカは生まれたのだが、「自分はメキシコ人だ」という。

「母は私を妊娠しながら国境を超えたので、メキシコ仕込みと言えるでしょ(笑)。両親はロサンゼルスで英語を学んだけど、家庭ではいつもスペイン語で会話したし、私をメキシコ人として育てた。10代までは、父の仕事の都合で、メキシコで過ごすことが多かった。幼少期には南部のオアハカやベラクルス、思春期にはメキシコシティや、グアナファトで数年暮らした。私の両親は、1960年代の公民権運動などのチカーノ・ムーヴメントの頃に、米国にはいなかったし、私はチカーノとして育っていない。エル・ハル・クロイは、 「イースト・ロサンゼルス出身の米国とメキシコにルーツを持つグループ」と言える。ただ、他の2人のメンバー(マイケルとドミニク)の両親は米国で生まれ、チカーノとして位置付けられる。でも、私たちの音楽は位置付けを必要としないし、カテゴライズは、表現を制限させる」

 メキシコとラテンアメリカの文化は、彼女のインスピレーションの源泉だが、ロサンゼルスも、音楽やアートを学び、大切な仲間たちと出会い、人生の転機となった、重要な場所であるのには変わりない。そんなロサンゼルスを舞台にした『ELLA(彼女)』という曲(2018年10月にEPとして発売)では、夜明けとともに自宅を出て、日中は遠くの高級住宅でハウスキーパーとして働き、夜更け前に帰宅して、ようやく、自分の子どもと過ごせる母親の日常を美しく歌い上げている。

「私が幼かった頃、母はビバリーヒルズの富裕層の家の清掃や、その家の子どもたちの面倒を見る仕事をしていた。週末に私をその家に連れて行くこともあったんだけど、そこで、彼らと私たちとの経済格差に気づいた。大人になって、イースト・ロサンゼルスからUCLAへへ向かう路線バスで、多くのラテン系の女性たちと乗り合わせた。彼女たちの多くは、ビバリー・ヒルズで降車した。そんな姿を見て、私の幼少期に母が同じような仕事をしていたのを思い出した。そこで、社会で不可視の存在とされている彼女たちに捧げる曲を作った」

 エル・ハル・クロイの曲の数々は、厳しい現実をまっすぐ受け止めながらも、あまりに詩的だ。それは、過酷な日々から一瞬でも解放させてくれるような、優しく強い音楽でもある。エディカは、ほどんどの曲の歌詞を担うが、どうやってこのスタイルに行き着いたのか。

「私はいつでも詩を書いていて、そこから曲が生まれることが多い。音楽以外には、ビジュアル・アートの勉強をしていたので、その一環でイースト・ロサンゼルスの美術学校で、浮世絵の北斎や広重、メキシコのグアダルーペ・ポサダのような古来からの方式で木版画を教えるクラスがあり、習得した。版画のモノトーンから表現する世界は、私の音楽にも影響を与えている。言葉のイメージを膨らませて絵を描くことも好き。私の夢の一つは、自らが描いた絵をアニメーションにして、エル・ハル・クロイの3作目のアルバム『192192192』に収録された日本語とポルトガル語の曲、「YAGATE」のプロモビデオを作ること。誰か日本のアニメーション作家とコラボレーションできたらと思っている。でも、曲を映像化することよりも、その曲じたいが、聴き手の想像力を掻き立て、それを視覚化できるのが大事だと思う」

 現在、4枚目にあたるエル・ハル・クロイの新作を制作中で、人間の眠っている能力や直感についてをテーマにし、リインカーネーションについての曲も含まれるという。

「音楽で表現したいのは、貧困層への不公平さ、差別、私のような移民の子どもたちに起こる、不特定の土地を移動しながら暮らす体験、人生と死、愛、そして亡くなった愛する人たちを思い出すこと」と語るエディカ。今回、日本で死者の日を祝うイベントに出演し、ツアーを行う(11月2日から代官山・晴れ豆を皮切りに全国6カ所を回る)ことについては、こう語っている。

「再び大好きな日本へ行けることが嬉しいし、興奮している。このことを謙虚に受け止めて、私たちの音楽や伝統文化を、日本のみんなと少しでも共有したい。音楽を作り、何年もグループを続けていくのには、とても努力を強いることだったので、報われる思い。この繋がりが続くといいな」

 エル・ハル・クロイの演奏は、日本へメキシコ、ロサンゼルス、ラテンアメリカの美しい空気を運ぶことだろう。その美しさは、わかりやすいものではないかもしれないが、暗闇の中の一筋の光のように、ひときわ強く輝いているのだ。(文:長屋美保)

■エル・ハル・クロイ「死者の日」ジャパン・ツアー

☆エル・ハル・クロイカリフォルニア州ロサンゼルスから登場した3人組音楽グループ。今やロサンゼルスの人口の半分を占める所謂ラティーノと呼ばれる中南米系住人の文化・社会的拠点であるイースト・ロサンゼルスの出身。現在まで3枚のアルバムを発表。ランチェーラと呼ばれる伝統のメキシコ音楽、クンビアというコロンビア発祥で中南米中に伝播したダンス音楽、またブラジル音楽、さらにアメリカの前衛音楽やジャズなどにも大きく影響を受け、今までのチカーノ・ロックやミクスチャー・ロックとは異なる独創性の高い音楽を奏でる。また、不法滞在、暴力、貧困などのコミュニティが抱える問題への高い意識、メキシコから国境を超えて伝わった伝統とアメリカ文化が融合・発展を遂げてきた豊穣なチカーノ文化・社会への誇り、ラティーノだけでなくアジア系など多様化するロサンゼルスの現在の空気感も巧みに混ぜ合わせ、その独創性高いサウンドのなかに、複雑なテーマ性も内包し独特の魅力を漂わせている。大熱演となった2016年のツアー以来、第2回目の来日。

メンバー
エディカ・オルガニスタ(Gt. Vo)
マイケル・イバーラ(Ba)
ドミニク・ロドリゲス(Dr. Vo)

11月2日(金)代官山 晴れたら空に豆まいて
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,900 / 当日\4,400(+1ドリンク別途)
Live:Shoko & The Akilla、Los Tequila Cokes
DJs: Trasmondo DJs、星野智幸、Shin Miyata
Tacos: Taqueria Abefusai、Octa
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約:https://mameromantic.com/?p=60288


11月3日(土・祝)金沢 FUNCTION SPACE
Open:20:00/Start:21:30
予約\3,500 / 当日\4,000(1ドリンク付)
DJs: U-1、ハンサム泥棒(KYOSHO & YASTAK)、中村一子(Record Jungle)
Tacos: Ricos Tacos
Shop: Barrio Gold Records
後援:北國新聞社、北陸中日新聞、エフエム石川、HAB北陸朝日放送、テレビ金沢、
北陸放送
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60305


11月4日(日)大阪 do with cafe
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,500 / 当日\4,000(+1ドリンク別途)
Live: Conjunto J、カオリーニョ藤原
DJs: TZ(EL TOPO)、Shin Miyata
Tacos: Cantina Rima
Shop: PAD、Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60309


11月5日(月)高知 五台山・竹林寺
Open:17:30/Start:19:00
予約\3,000 / 当日\3,500
Tacos: Masacasa Tacos
Shop: Masacasa Music
Supported by Masacasa Music、 竹林寺、Bar a Boucherie 松原ミート、Mushroom
record
予約:Masacasa Music(9/27以降)担当:都筑 080-9832-6081 /
masacasamusic@gmail.com

11月6日(火)徳島 Amusement BAR Fly
Open:19:00/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: 越路姉妹
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60315


11月8日(水) 横浜 B.B. Street
Open:18:30/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: gnkosaiBAND .
Shop: Barrio Gold Records
https://www.bbstreet.com/


■■公演予約方法■■
11/5高知公演、11/8横浜公演以外の公演については下記で承ります。
電話:晴れたら空に豆まいて:03-5456-8880(14:30-23:00)
MUSIC CAMP, Inc. TEL: 042-498-7531 e-mail:ehk@m-camp.net
※件名を「エル・ハル・クロイ予約」として、本文に公演日、お名前、人数、ご連絡
先電話番号を明記ください。

総合サイト⇒ https://www.m-camp.net/ehk2018.html

招聘・制作:晴れ豆インターナショナル / BARRIO GOLD RECORDS / MUSIC CAMP,Inc.

また文中に出て来る関連動画は以下です。
☆DIA DE LOS MUERTOS
https://www.youtube.com/watch?v=2luTdONIFfQ

☆ELLA
https://www.youtube.com/watch?v=3UbkD_3pVFs

Puce Mary - ele-king

 ノイズ音楽は束縛であり、解放である。暴力であり、快楽でもある。赤子の叫びのように人間の恐怖の源泉に遡行するものであり、音=言語の消失でもある。否定であり、肯定でもある。音楽であり、音楽ではない。無意味であり、意味の炸裂でもある。音による感情の発露であり、暴発であり、奇妙な構築物であり、その破壊であり、現象の喪失でもある。
 そう、音響/ノイズの持続と暴発の中には「音楽」が解体され尽くしたカタチ、つまり世界の現象が融解してしまった後に蠢く「何か」が蠢いている。だからこそノイズ音楽は「最後の音楽」なのだ。70年代後半以降、「最後の音楽」として生まれたノイズ音楽は、世界中の都市の辺境/中心で生成と衝突を繰り返し、自らのジャンルを刷新し、そのノイズ音響を変化させてきた(ノイズ・ゴッド、メルツバウの歩みを思い出してみてほしい)。
 そして2010年代において、ノイズ音楽は、世界の不穏さの反映のようにエモーショナルな領域へと踏み込みつつある。現代の若きノイズ・アーティストたちは「世界」への不安と不信から生まれる自我の葛藤によってノイズを生む。そのノイズは同時に抑圧された生の発露でもある。近年、コペンハーゲンのモダン/オルタナティヴ・レーベル〈Posh Isolation〉などからリリースされる生々しくもスタイリッシュなノイズ音楽にも、そのような不穏と不安、衝動と冷静、物質と血などがせめぎ合う、新しい響きを持ったモダン・ノイズ作品を聴くことができる。彼らは世界にみなぎる欲望に対して、自らの血と生によって抵抗する。 特に主宰のローク・ラーベクの活動には注目だ。彼はクロアチアン・アモル、Hvide Sejl などの複数の名義で、テクノイズ・ユニット、ボディ・スカルプチャーズのメンバーとしてノイズという多様体を疾走するような活動を展開しているのだ。

 そして、〈Posh Isolation〉からのリリースで知られるノイズの触媒、もしくは官能的化身ピュース・マリーも同様の存在である。彼女は2010年に、ピュース・マリー - LR(ローク・ラーベクの別名義)のEP「Lucia」、2011年にピュース・マリー - LRのアルバム『The Closed Room』をリリースして以降、同レーベルから2013年に『Success』、2014年に『Persona』のソロ・アルバムを立て続けにリリースする。2015年には再びローク・ラーベク&ピュース・マリーで透明なノイズ音響作品『The Female Form』を発表し話題を呼んだ。翌2016年には、集大成的な作品『The Spiral』をリリースし、先端的音楽マニアの耳を驚愕させる。
 そして前作から2年ぶりのリリースとなった新作アルバム『The Drought』は、馴染みの〈Posh Isolation〉から離れ(ちなみにシングル・EP、コラボレーションなどは〈Fascinations〉、〈Nordisk Klub〉、〈Freak Animal Records〉、〈Mutter Wild〉など複数のレーベルからリリースしていた)、ベルリンに拠点を置く先端的音楽の名門〈PAN〉からリリースした作品である。美しい傷のような前作『The Spiral』の腐食する華のようなノイズ・コンポジションの質感はそのままに、西洋音楽的ともいえる和声のレイヤーはさらに洗練されており、「音楽/音響」の拮抗は前作以上の洗練と緊張を高めている。その不安定なノイズと彼女のヴォイスと音楽的和声が、複雑なコンポジションの中で融解し、甘美な痛みのように美しくも過激な音響空間へと聴き手を誘うのだ。
 まずM2の“A Feast Before The Drought”は、不安定なノイズが幾層にも重なり、そこに砕け散ったようなサウンドが重なることで、聴き手の自我を壊すかのようなノイズ・ミュージックを生み出している。この楽曲に満ちているのは不穏というより恐怖の感情に思える。自身の自我や肉体を壊すかのような恐怖の感覚と感情。
 M3“To Possess Is To Be In Control”は、パイプオルガンのような音に、彼女のヴォイス/リーディングがレイヤーされ、やがてノイズと打楽器が暴風の中で消失するように鳴り始める。続くM4“Fragments Of A Lily”でも性急なリズム/ノイズが継承され、高音域のノイズが聴覚を快楽的に刺激する。インダストリアルの先にあるトライバル・トラックといえよう。
 M5“Red Desert”では再び彼女のヴォイス/リーディングとパイプオルガンの和声が重なり、さまざまな環境音とノイズが、それらを掻き消すように鳴り響く。曲名はミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『赤い砂漠』(1964)からの引用だろうが、アントニオーニの映画にあるような不安定な自我は、本作にも確かに漲っているように思える。
 前半のクライマックスである“Red Desert”を経て、M6“Coagulate”からアルバムは第二部へと突入する。透明なサウンドのクリスタルなレイヤーである“Coagulate”は、宗教音楽の、もっとも美しい箇所をドローンにしたかのような美麗なトラックである。
 以降、M7“The Size Of Our Desires”、M8“The Transformation”、M9“Slouching Uphill”と、ノイズ、ヴォイス、リズムという前半のサウンド・エレメントを意図的に反復するように、さらに大きな音の渦を生成していく……。

https://soundcloud.com/pan_hq/sets/puce-mary-the-drought

 全9曲、どの曲もノイズの独特の質感、音響の密度など、前作『The Spiral』以上の達成をみせており、本作をもって彼女の最高傑作と称することも可能だ。しかし何より重要なことは、彼女は、まるで甘い蜜と金によって誘惑する世界の抑圧に抗うために、あえてノイズによる束縛と抑圧を引き受けている点にある。まるで抑圧を意図的に加速させることで、抑圧自体を無化させてしまうように。
 欲望と抑圧に塗れた世界へのアゲインストとアジャスト。エモーショナルな自我の発露。終末的・神話的世界観。本作は、そのような過酷な「世界」に対する抵抗であり、闘争の記録であり、生/性の抑圧への闘争/逃走なのだ。そう、「世界・自我・神話」を貫く、ノイズ/ミュージックの蠢きがここにある。

shotahirama - ele-king

 この2月、スプリット・シリーズを再始動させ話題を集めたグリッチ・ノイズの雄 shotahirama が新たな動きをみせています。なんと来る11月2日、来年リリース予定のアルバムからの先行シングルとなる「Cut」をリリース。同曲をぎゅぎゅっと3分に縮めたティーザーが公開されています。映像のディレクションを担当したのは、『Maybe Baby』でもMVを手がけていた若手映像作家 shiki sawamura。この不思議な映像を観ながら細部の怪しげな音たちに耳を傾けていると、どんどんフルサイズが待ち遠しくなってきます。アルバムも楽しみですね。

shotahirama / Cut

ポストパンクやダブなど、ノイズ・グリッチを類稀なコラージュセンスで様々な音楽へと昇華してきた電子音楽家 shotahirama が来年発売の新作アルバムより先行シングル「Cut」をリリース! 最新作ではピアノをサンプリングした奇妙で中毒性の高いフレーズを中心に、代名詞でもある過激なノイズとビートとがハイテンションに混ぜ合わさる新感覚のグリッチ・ミュージックが披露されている。

中原昌也、evala、空間現代など様々な著名アーティストがコメントを寄せ、日本のノイズ・グリッチ・ミュージック・シーンにてその存在を確固たるものにしたニューヨーク出身の電子音楽家 shotahirama。そんな彼が2019年に発売する新作アルバムより先行シングル「Cut」を発表。ピアノやラップがサンプリングされた奇妙奇天烈で中毒性の高い世界観の中を、過激なグリッチとビートが躍動するトラックは彼の次なるステージへのイントロダクションに過ぎない。

発売日:2018年11月2日
品番:SIGNAL014
アーティスト:shotahirama
タイトル:Cut
定価:450円
フォーマット:デジタル
レーベル:SIGNAL DADA

トラックリスト:
Cut - original by shotahirama(9:02)
Cut - remix by nobanashi (7:48)

iTunes

プロフィール:
ニューヨーク出身の音楽家、shotahirama(平間翔太)。中原昌也、evala といった音楽家がコメントを寄せる。畠中実(ICC主任学芸員)による記事「デジタルのダダイスト、パンク以後の電子音楽」をはじめ、VICEマガジンや音楽ライターの三田格などによって多くのメディアで紹介される。Oval、Kangding Ray、Mark Fell 等のジャパンツアーに出演。代表作にCDアルバム『post punk』や4枚組CDボックス『Surf』などがある。

Yves Tumor - ele-king

野田:取材を申し込んだんだけど、レーベルからインタヴューはやらないって言われてしまって。仕方がないから、日本盤のライナーを書いている木津君と話すことにしたよ。

木津:今回はまったく取材受けつけていないらしいですね。にもかかわらず、〈Warp〉からのデビュー作となった『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』はものすごく評価されています。ピッチフォークで現時点の今年最高得点がついているほか、タイニー・ミックス・テープスからガーディアンまで、多くのメディアが絶賛状態。期待が集まっていたとはいえ、ここまでになるとは思っていませんでした。
 念のためイヴ・トゥモアについてあらためて解説を入れておくと、テネシー州出身、マイアミやLAへと移り、現在はイタリア拠点のマルチ奏者ショーン・ボウイのプロジェクトのひとつ。2015年セルフ・リリースのミックステープで一部話題となり、2016年〈PAN〉からリリースされた『サーペント・ミュージック』が評価されます。ele-king vol.20の「ブラック・エレクトロニカ」の項で三田さんがチーノ・アモービ、ボンザイ、ロティック、クラインらとともに紹介していますね。IDM Definitiveの2016年大枠だったり。ショーン・ボウイはいろいろな名義で知られていて、なかでもティームズはそこそこ有名。2012年の『Dxys Xff』は橋元さんがレヴューしていることからもわかるように、チルウェイヴ寄りのサウンドでした。他にもいろいろな名義でいろいろなことをやっていますが、メインのイヴ・トゥモアとしてもミッキー・ブランコ主宰のコンピや〈PAN〉のアンビエントのコンピへの参加、坂本龍一のリミックスに参加など、多岐に渡る活動をしています。
 『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』は、海外のレヴューを見るとポップとアヴァンギャルドの境界が完全に融解しているという点で評価されています。アヴァン・ポップの最新形というか、いろいろなジャンルを取りこんでいながら、その発想の自由さに際限がない。実際、新作ではさらに折衷性や展開の意外性を上げながら、ポップに近づくということをやってのけている。

野田:イヴ・トゥモアは際立ってはいるけれど、突然変異というわけではなく、これぞ“当世風”というか、いまの潮流のとして捉えることができるよね。今年出たロティックもそうだし、ガイカもそうだし、クラインもそうだし、エレクトロニック・ミュージック時代における実験とグラム的展開というか。敢えて言えばイヴ・トゥモアはロックですよ。インダストリアル・エレクトロっていうか、今回のアルバムで最初にシングル曲として配信された“Noid”なんかイントロはソフト・セルに近いし、歌はデヴィッド・ボウイ。〈PAN〉から出た前作をあらためて聴いても、ロティックほど破壊的なことをやっているわけじゃなく、“The Feeling When You Walk Away”みたいな歌モノが彼らしさであって、これはオウテカではなく、ジェイムス・ブレイクの側に近い音楽だと思うんだよね。あと、ジャム・シティの影響をすごく感じるんだけど。2015年の『Dream Garden』。

木津:とくに今回のアルバム『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』はそうですよね。生ドラムがブレイクビーツを叩いていたりしてバンド感が強く、明確にポップ・ソングを志向したんだと思います。彼、ショーン・ボウイはスロッビング・グリッスルに衝撃を受けて音楽をはじめたらしいのですが、それ以前は世代的な意味でも地理的な意味でもアメリカのオルタナティヴ・ロックを聴いていたらしいんですね。それこそクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジだとか。〈PAN〉からの『サーペント・ミュージック』ではもう少しソウルとか、ブラック・ミュージックの要素が強かったでしょう。それが今回ロックに接近しているのは、もっと体験として遡る必要があったというか……いまジャム・シティと聞いてなるほどと思いましたが、ぼくはやっぱりアルカ以降をすごく感じます。アルカはヴォーカル・トラックでなくてもエモーショナルでしたが、『アルカ』で歌を志向したときにヴェネズエラのフォークに向かった。それと似たようなことが今回のアルバムでは起こっているのかなと。ただ、ロック・サウンド的なものが彼の本質に近いのかはまだわからない感じもあって。別名義のミックステープなんかも含めると、膨大なリリースがあって、音楽性としてはけっこうバラバラですよね。ぼくはイヴ・トゥモアは『サーペント・ミュージック』で知りましたが、ティームズと同一人物だとまったく思わなかった。

野田:8ビートが多いんだよね。あとロック的な雑食性であったり、自己表現というか、やっぱこう、『サーペント・ミュージック』のジャケットのように、自分をさらしているよね。そこはフェイスレスを志向するテクノやIDMとは決定的に違っているわけで。“Honesty”という曲なんかはスタイルで言えばR&Bだし、引き出しはたくさんあるひとだと思うんだよね。決してコア・ファン向けという音楽ではないし、コンセプトは『アルカ』を彷彿させるけど、サウンド的にはもっと聴きやすいじゃない?

木津:そうですね。その、引き出しの多さ=多ジャンルにアクセスできる雑食性のなかで、共通しているのはエモーショナルであることだと思うんです。激情的だと感じる瞬間すらある。で、それがある種の聴きやすさにも繋がっている。まさにジャム・シティ流のインダストリアルR&B“Economy of Freedom”にしても、ブレイクビーツ・ノイズの“Licking An Orchid”にしても、ノイジーなファンク風ヒップホップ“All The Love We Have Now”にしても、とてもエモーショナル。「わたしたちがいま持っている愛のすべて」ですからね(笑)。そういう意味ではティームズもチルウェイヴのチルを食い破る激しさがあったし、昨年出たアンビエント寄りのミックステープ『Experiencing the Deposit of Faith』もアンビエントを破壊しかねない展開があった。それが彼らしさで、それが素直に出た結果が今回の歌ものという感じがします。ところで野田さんが言っているグラムっていうのは、サウンドのことですか? あるいは装飾性のことなのでしょうか。

野田:まず見た目がグラムじゃない。ナルシスティックで、アンドロジニアスな出で立ちでしょ。ロティックもガイカもクラインもそうじゃん。アルカもね。で、そういうアーティストが増えてきたよね。

木津:いまで言うクィアですね。クィアというのも定義が難しいですが、ここではざっくりとジェンダー規範を逸することだとしておきましょうか。他にもソフィー、サーペントウィズフィートと挙げればキリがないくらいですが、じつはIDMってクィア性とこれまであまり結びついてこなかったと思うんです。それがいま増えているのは、ジェンダー・ポリティクスが先鋭化している時流にあって、クィアがエクスペリメンタリズムと関わるようになったというのがぼくの見解です。サーペントウィズフィートが言ってましたが、拡張性ですよね。イヴ・トゥモアはミッキー・ブランコらのクィア・ラップ・シーンから頭角を現したということもあって、ヴィジュアルの打ち出し方なんかにはっきりと表れていますよね。前作のアートワークもそうだし、新作からの“Licking An Orchid”のヴィデオなんかも完全にそう。野田さんはIDMのクィア化についてどう捉えていますか?

野田:ポジティヴに捉えているよ。80年代ならルー・リードが“ワイドルサイドを歩け”で歌ったように、都会に出なければ居場所がなかったろうけど、いまはベッドルームで自己表現できる、たったひとりでもね。ダンスフロア向けである必要もないし、IDM的な方向に行くのは理解できる。あと、ビョークの影響の大きさを感じるね。エモいところなんかとくに。当たり前の話だけど、クィアであるから良い音楽を作れるわけじゃないし、ぼくが現代のグラムっぽい流れでイメージしているのは、クラインやアースイーター、あるいは『ブラッド・ビッチ』を出したノルウェーのジェニー・ハヴァルのような人たちも含めてなんだよ。グラムってそもそも男の子の文化だけど、それがアントニー以降は、ジェンダーを越えて新たに拡張していると言えるのかもね。とはいえ、クィアかどうかというよりも、まずはより普遍的な感情表現としてのエレクトロニック・ミュージック。そしてイヴ・トゥモア。トゥモア=腫瘍。すごい名前だ(笑)。OPNのようにコンセプトで聴かせるタイプじゃないと思うし、IDM系のようにひたすら音を追求するタイプでもないし、チルウェイヴ~ヒプノゴナジック的流れにある現実逃避ポップでもないという、しかしじつはそういう要素もすべて兼ね備えてもいるでしょ。アルバムのなかの1曲に〈NON〉っぽい曲があるじゃない? ”Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)“という曲だけど、すごいタイトルだよね。「苦しみにおける希望(忘却を逃れてと無力を克服する)」ですよ。今作にもチルウェイヴ~ヒプノゴナジック的なテクスチャーは残っているんだけど、そうした逃避主義をちらつかせながら否定するという。『サーペント・ミュージック』もそうだけど、ドラマティックな展開がこのひとの持ち味で、そこもグラムっぽいんだけど、しかしこれはもう内面のドラマだよね? その内面のドラマの切実さがこのアルバムの魅力なんじゃないでしょうか?

木津:ええ、だから、ノイジーで実験的ですが、それ以上に生々しくてセクシーな音楽ですよね。それも現代的な意味で。『サーペント・ミュージック』=「蛇音楽」と自ら言い当てていますが、雑食的にウネウネと姿を変えるなかで、内面を解放しようという……。このアルバムからぼくは、あらかじめ決められた枠組に対する抵抗をすごく感じます。「こういう感情を表現するにはこのジャンル、このサウンド」といったステレオタイプに対する拒絶。それは奇を衒っているのではなくて、できるだけ感情を純粋な状態でさらけ出そうとしているからこそなんでしょうね。

野田:ぼくはあんまノイジーで実験的な印象はなかったな。シングル曲“Licking An Orchid”なんかメロディがキャッチーだし。個人的にはその“Licking An Orchid”とさっき言った“Noid”が良かった。木津君は?

木津:いや“Hope In Suffering”の後半なんて、90年代のノイズ・ロック みたいじゃないですか。でもポップ・サイドがこのアルバムの魅力であることはたしかで、叙情的な“Lifetime”がぼくはフェイヴァリットです。

野田:“Lifetime”もいいね。そういえば、木津君から薦められて『IT』と『ストレンジャー・シングス』を観たけど、ああいうマッチョになれない疎外された子どもたち、父親に抑圧された女の子、そして80年代的なにおいみたいなものはいま人気があるよね。『IT』ではキュアもかかるしさ。ああいった映画に表現されている時代のゴシックな風ともリンクしているようにも思うんだけど、どうだろう?

木津:ゴスかー、それは言われるまで気づかなかったですが、たしかにアートワークなんかはそうですね。おどろおどろしい感じや不安な感じをスタイリッシュに表現している。

野田:ゴスっぽさって、アンディ・ストットや〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉が脚光を浴びてから5年以上経っているんだけど、いっときのトレンドとして終わるかと思っていたら、これがなかなか終わらないし、続いているでしょ。流行じゃなく、態度表明みたいになっているよね。

木津:ちなみに『サスペリア』もリメイクされるし、21世紀のエクソシストと言われる『ヘレディタリー』も高評価だし、ホラー映画のニューウェーヴがいま起こっているんですよ。こじつければ、そういうムードともシンクロしているかも……。ただ、マッチョになれない子どもたちというのは本当にそうで、最初におっしゃってたオウテカではなくジェイムス・ブレイクというのもまさにそこですね。

野田:ジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャンが好きなひとにこそ聴いて欲しいと思ったんだよね。

木津:ブルーな男の子たちの音楽ですね。歌詞では生きることの不安や愛を切望することを繰り返していて、周りから鬱だと見なされることの葛藤も綴られている。これもいまっぽい。

野田:“Noid”の歌詞なんかは、自分の「PTSD、鬱病」のことを告白しているから、ポップな曲だけどテーマは決して軽くはないよね。ディプレッションというのは現代の音楽において重要なテーマだよ。マーク・フィッシャーだってそこに向き合ったひとだし。ジョイ・ディヴィジョンはいまやヴェルヴェッツ以上に再発見されているバンドになったわけだし……しかし歌詞を読むと、アントニーの『I Am A Bird Now』にも似た、正直な自分の気持ちを露わにすることの凄みのようなものを感じる。

木津:シンプルな言葉で本質的な内容に迫るところは似ていますね。 アルバムでもっともメランコリックな部類の“Recognizing The Enemy”では呪詛にも近い自己嫌悪が唱えられ、続く“All The Love We Have Now”では愛への感謝が告げられます。「わたしは救われた」と。このダイナミズムというか、極端な振れ幅も凄いですよね。どちらも自分の率直な感情なんだという。アメリカ的男らしさの美学では感情をコントロールすることが良しとされますが、これはいわば、古き男らしさとは間逆の音楽。

野田:ルーザーの音楽を積極的に評価しようっていう姿勢は、英米では根強くあるからね。それと、インターネットは現代のパノプティコンだっていう喩えがあるけど、日本ではメンヘラっていう言葉があるように、たとえば“Noid”の歌詞なんかは小馬鹿にしそうな、そういうウツ的なものを蔑む悪意というかシニシズムがあるじゃない? だからこそピッチフォークもこの曲を評価したと思うんだけどね。まあ、抑圧されているのは自分の感情だけじゃなく、消費活動も「フィルタリング」されていて、それこそ性的衝動さえもヘタしたら吸い取られてしまっているかもしれない。あと、愛というものよりも、ほんとうにお金のほうが勝っているかもしれない、とか。そうした時代の暗闇を考えても、このアルバムが評価されるのはわかるな。誰もが木津君のような楽天家になれるわけじゃないんだよ。

木津:ええ、それは気をつけているつもりです(笑)。ただ、ぼくが楽天家を気取っていられるのはどこかに鈍感さがあると思うんです。見たくないものを無意識に見ようとしない、とか……。イヴ・トゥモアの音楽は、それで言うとすべてを見ているというか、自分の内面の暗部から目を逸らさない。そしてドラマティックに表現する。それが奇形的なものになるというのが現代的だけれど、じつはとてもピュアな表現だと思います。その正直さに感動してしまうんですよね。

野田:取材を受けないのも、この音楽にエクスキューズをしたくないんからだろうね。蛇足になるけど、アルバムに参加しているクロアチアン・アモルはデンマークのアーティストで、東京の〈Big Love〉からも作品を出しているね。で、〈PAN〉からもうすぐアルバムを出すPuce Maryっていうデンマークの女性アーティストがいて、『The Drought』っていうそのアルバムも内的葛藤をエレクトロニック・ミュージックで表現しているんだよね。いまや音楽をいかに再利用するのかっていう時代だから、こうした、IDM的アプローチを応用した内省的なアヴァン・ポップはこれからも出てくるだろうね。

Thomas Fehlmann × The Field × Burnt Friedman - ele-king

 これはすごい。UNITを拠点に展開してきた《UBIK》が新たなイベントを始動します。名付けて《LIVE IN CONCERT》。記念すべき第1回は、驚くなかれ、トーマス・フェルマン、ザ・フィールド、バーント・フリードマンの共演です。エレクトロニック・ミュージックの巨星たちが一堂に会するこの夜、見逃す理由がありません。11月2日の金曜は代官山 UNIT で決まりですね。

ubik presents
LIVE IN CONCERT
featuring
THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT)
THE FIELD (KOMPAKT)
BURNT FRIEDMAN (NONPLACE / RISQUE)
produced by UNIT / root & branch

都内屈指のライヴ・ヴェニューである代官山UNITを拠点とするエレクトロニック・ミュージック・イベント《UBIK》が提起する新たなライヴ・イベントがスタート、その名もずばり《LIVE IN CONCERT》。記念すべき第一回目の出演者は、伝説のニューウェイヴ・バンド Palais Schaumburg からキャリアをスタート、盟友 Moritz von Oswald とデトロイト~ベルリンの架け橋としてベルリン・テクノ・シーンの礎を築き、The Orb の頭脳として数々のマスターピースを生み出したマエストロ Thomas Fehlmann が8年振りとなるソロ・ライヴで日本へ帰還。シューゲイズ・テクノと称されメロディアスでオーガニックなサウンドはロック・ファンからも熱烈に支持され、EUダンス・ミュージック・シーンの屋台骨を支える〈KOMPAKT〉を代表するアーティスト The Field は、Live A/V Set で参戦。Thomas Fehlmann は『Los Lagos』、The Field は『Infinite Moment』と共にニュー・アルバムを引っ提げての来日です。更に、Atom™ との Flanger、CAN の伝説的ドラマー Jaki Liebezeit との Secret Rhythms など様々なアーティストとのコラボレーションで常に斬新かつ独特なサウンドでエレクトリック・ミュージックをアップデイトする鬼才 Burtn Friedman が、昨年の来日でも大好評だった 7ch サラウンド・ライヴを披露します。以上3アーティストが出演する《LIVE IN CONCERT》は、数多のエレクトロニック・ミュージック・イベントに一石を投じる正に試金石となることでしょう、お楽しみ下さい!

11.2 fri 東京 代官山 UNIT
Open 18:30 Start 19:30
¥4,000 (Advance) 別途1ドリンク制
Information: 03-5459-8631 (UNIT) www.unit-tokyo.com
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA (131-608), LAWSON (74473), e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, clubberia, RA Japan and UNIT

【関連公演】
11.4 sun 大阪 心斎橋 CONPASS
Live: THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT), THE FIELD (KOMPAKT)
*BURNT FRIEDMAN (NONPLACE, RISQUE) の出演はございません。
DJ: Dr.masher (Mashpotato Records)
Open / Start 18:00
¥3,500 (Advance) 別途1ドリンク制
Information: 06-6243-1666 (CONPASS) www.conpass.jp
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA, LAWSON, e+ (eplus.jp)
メール予約: mailticket@conpass.jp に件名11/4予約にてフルネーム・枚数を送信

THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT)
スイス生まれ。1979年にドイツのハンブルグで Holger Hiller や Moritz von Oswald と共に伝説のニューウェイヴ・バンド Palais Schaumburg を結成。バンド解散後、ソロ活動を開始。盟友 Moritz von Oswald とのプロジェクト 2MB、3MB でデトロイト・テクノのオリジネーター Blake Baxter や Eddie Fowlkes や Juan Atkins と邂逅、デトロイト~ベルリンの架け橋としてベルリン・テクノ・シーンの礎を築いた。その後、The Orb の長年のコラボレーション・メンバーとして積極的にリリースに関わる。ソロ作品は伝説のテクノ・レーベル〈R&S〉などからリリースを重ね、2002年に〈KOMPAKT〉から『Visions Of Blah』、2004年に〈Plug Research〉から 『Lowflow』、2007年に〈KOMPAKT〉に帰還して『Honigpumpe』、ベルリンのドキュメンタリーTV番組『24h Berlin』のサウンド・トラックを担当、そこに書き下ろされた作品を中心に編纂された『Gute Luft』を2010年にリリースした。2018年4月にデトロイト・テクノの雄 Terrence Dixon とのコラボ・アルバム『We Take It From Here』を名門〈Tresor〉からアナログのみでリリース。そして、満を持して8年ぶりとなるソロ・アルバム『Los Lagos』を本年9月にリリースした。彼の真骨頂と言える重厚でダビーなテクノ作品“Löwenzahnzimmer”からヒプノティックなトリッキー・テクノ“Window”、マックス・ローダーバウアーをフィーチャーした90年代テクノを彷彿とさせるユニークな“Tempelhof”などデビューから30年以上を経ても彼のテクノ・ミュージックへの探求心が冴えまくる、全テクノ・ファン注目のニュー・アルバムとなっている。アーティスト活動のみならず、Thomas Fehlmann がドイツのクラブ・シーンに貢献した功績は非常に大きい。

THE FIELD (KOMPAKT)
〈KOMPAKT〉を代表するアーティスト、The Field。2007年にリリースされたファースト・アルバム『From Here We Go Sublime』が Pitchfork で9.0の高評価を獲得、同年のベスト・テクノ・アルバムとして世界中で高い評価を獲得した。そのサウンドは〈KOMPAKT〉らしいミニマルなビートにメロディアスでオーガニックなシンセ・サウンド、細かくフリップされたボイス・サンプルを多用しテクノ・シーンでも異彩を放つ彼独特のサウンドで世界中の音楽ファンを魅了している。2009年にセカンド・アルバム『Yesterday & Today』をリリース、バトルスのドラマー、ジョン・スタニアーが参加、前作以上に生楽器を取り入れオーガニックでメロディアスなサウンドを展開、より幅が広がった進化した内容となっている。2011年10月にサード・アルバム『Looping State Of Mind』を発表、翌2012年にはフジロックへ初参戦し深夜のレッドマーキーで壮大なライヴを披露しオーディエンスを熱狂させた。2013年、デビュー・アルバム以降7年間続いたバンド・スタイルでのライヴ活動に終止符を打ち、ベルリンの自宅スタジオでファースト・アルバム以来の初となるソロ・プロジェクトとなる4作目のアルバム『Cupid 's Head』を完成させ話題を集め、Pitchfork では BEST NEW MUSIC に選出された。その後も Battles, Junior Boys, Tame Impala 等のリミックスを手掛け、インディ・ロック・シーンでも注目を集める。2016年4月に5作目となる最新作『The Follower』をリリース。そして、本年9月通算6作目のフル・アルバム『Infinite Moment』をリリースしたばかりである。本作品はユーフォリックな多幸感に満ち溢れ、リスナーのイマジネーションを掻き立てるこれまでで最も幻想的な印象の作品に仕上がっている。

BURNT FRIEDMAN (NONPLACE / RISQUE)
ドイツを拠点に約40年に渡るキャリアを誇る Burnt Friedman。カッセルの美術大学で自由芸術を専門に学び、卒業後80年代後半には音楽の道へ傾倒。常に斬新かつ独特なサウンドでエレクトリック・ミュージックをアップデイトしてきた鬼才である。これまで自身名義の作品の他、Atom™ との Flanger、Steve Jansen、David Sylvian との Nine Horses、そして昨年残念ながら急逝した CAN の伝説的ドラマー、Jaki Liebezeit とのSecret Rhythms など様々なアーティストとのコラボレーションも行なってきている。特に2000年に始まり Jaki が亡くなるまで続いた Secret Rhythms でのコラボレーションは、西洋音楽の伝統的なフォーマットや音楽的イディオムから離れ、様々な国の古くからのダンス音楽や儀式音楽に学び新たなフォームを開拓してきた。その試みは今回 Festival de Frue で初来日となるイランの伝統打楽器トンバク/ダフの奏者、Mohammad Reza Mortazavi とのユニット、YEK などに継承され、現在に続く Burnt の音楽的探求の礎となっている。2016年には2000年より続く自身のレーベル〈Nonplace〉とは別に新レーベル〈Risque〉を立ち上げヒプノティックなダブ・トラックを収録したEP「Masque/Peluche」を発表。昨年は1993年から2011年までのレア音源をコンパイルし、その活動初期からの独自性をあらためて提示した『The Pastle』をフランスの〈Latency Recodings〉より、また David Solomun と Antony West の著作からインスピレーションを得たという6曲入りEP「Dead Saints Chronicles」がカナダの〈MARIONETTE〉からリリースと、その創作意欲は止まる事を知らない。


Yves Tumor - ele-king

 2018年も10月になった。あと3か月弱で今年も終わってしまうわけだが、あるディケイドにとって「8年め」というのは重要な年といえる。その年代の爛熟期であり、次のディケイドの胎動を感じる年だからだ。68年にリリースされたアルバム、78年にリリースされたアルバム、88年にリリースされたアルバム、98年にリリースされたアルバム、08年にリリースされたアルバムを思い出してほしい。例えばビートルズの『The Beatles』も、イエロー・マジック・オーケストラの『Yellow Magic Orchestra』も、プリンスの『Lovesexy』も、マッシヴ・アタックの『Mezzanine』も、レディオヘッドの『In Rainbows』も「8年目の作品」なのだ。これらのアルバムもその年代の爛熟の結実であり、総括であり、次の時代への鼓動でもあった。
 では2018年はどうか。今年も傑作・重要作は多い。なかでもイヴ・トゥモアの『Safe In The Hands Of Love』には、「時代の総括/次への胎動」をとても強く感じた。孤高の存在であり、しかし時代のモードに触れているという意味ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Age Of』と並べて語るべきアルバムかもしれない。ここに「次の音楽/時代」の胎動がある。

 結論を急ぐ前に、まずはイヴ・トゥモアについて基礎情報を確認しておこう。イヴ・トゥモアは、ティームズ『Dxys Xff』(2011)、Bekelé Berhanu『Untitled』(2015)など、いくつもの名義で作品をリリースしていたショーン・ボウイによるプロジェクトである。
 イヴ・トゥモア名義では、まずは2015年に『When Man Fails You』のカセット版を〈Apothecary Compositions〉から発表した(データ版はセルフ・リリース)。
 翌2016年になると、ベルリンのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からアルバム『Serpent Music』を送り出し先端的音楽マニアを驚かせた。これまで〈PAN〉ではあまり見られなかったエレガントなアートワークも強烈な印象を残したが、何よりグリッチR&Bインダストリアル音響とでもいうべき端正さと混沌が一体化したようなサウンドが圧倒的だった。天国で鳴っているような甘美なサンプルのループとポリリズミックなリズムとジャンクかつ不穏なコラージュを同時に展開し、先端的音楽の現在地点を示した。じっさい、『Serpent Music』はメディアでも高く評価され、多くの年間ベストにもノミネートもされた。
 その高評価は、2017年、老舗〈Warp〉への移籍に結実する。移籍を記念して(?)、フリー・ダウンロードで『Experiencing The Deposit Of Faith』が配信されたこともリスナーを驚かせた。夢のなかの幻想に堕ちていくようなムードが充満した素晴らしいアルバムで、普通に販売しても遜色のない作品であった。また、〈PAN〉からリリースされたアンビエント・コンピレーション『Mono No Aware』への参加も重要なトピックといえよう。

 2018年は、彼にとって実りの年だ。坂本龍一の『async - Remodels』へのリミックス提供、坂本龍一+デイヴィッド・トゥープなどとともにロンドンで開催された「MODE 2018」への参加などを経て、ついに〈Warp〉からの新作『Safe In The Hands Of Love』がリリースされたのだ。各サブスクリプションでのサプライズ・リリースという話題性も十分だったが、何より2018年という「10年代の爛熟期」に相応しいアルバムに仕上がっていた点が重要である。リリース後、即座に『ピッチフォーク』のレヴューに取り上げられ、高得点を獲得したほどだ。

 では『Safe In The Hands Of Love』は何が新しいのか。私は三つのポイントがあると考える。
 ①トリップホップ、アブストラクト・ヒップホップ、インディ・ロックなどの90年代的なるものの導入。
 ②コペンハーゲンの新世代モダン・ノイズ勢などのゲスト参加。
 ③10年代の「先端的な音楽」の変化への対応。
 まず、①について。先行リリースされた“Noid”や、インディ・ロック的な“Lifetime”などに象徴的だが、ストリングスのサンプリングに、ブレイクビーツ風のビート、90年代インディ・ロック的なヴォーカルの導入など、私は1998年にリリースされたアンクルのファースト・アルバム『Psyence Fiction』を不意に思い出した。『Psyence Fiction』は、DJシャドウなどのアブストラクト・ヒップホップで一世を風靡した〈Mo' Wax〉の首領ジェームス・ラヴェルによるファースト・アルバムである。DJシャドウが共同プロデュースを務め、リチャード・アシュクロフト、マイク・D、トム・ヨークなどオルタナ界のスターたちが参加するなどミッド・ナインティーズの総括とでもいうべき作品だ。

https://www.youtube.com/watch?v=76Op7MtBRSA

 アブストラクト・ヒップホップからインディ・ロックまでを交錯させ、一種のオルタナティヴ音楽の一大絵巻を制作したという意味で『Safe In The Hands Of Love』は、どこか『Psyence Fiction』に通じている。じじつ、トランペットが印象的なイントロダクション・トラック“Faith In Nothing Except In Salvation”からして90年代の〈Mo' Wax〉のようだし、“Honesty”のダークなムードのビート・トラックは、90年代のトリップホップを思い出させるものがあった。

 ここで②について解説に移ろう。本作のゲスト・アーティストについてだ。まず2曲め“Economy Of Freedom”ではコペンハーゲンのクロアチアン・アモルが参加している。彼は〈Posh Isolation〉の主宰ローク・ラーベクであり、Hvide Sejl、Semi Detached Spankers 名義、Body Sculptures、Damien Dubrovnik への参加など〈Posh Isolation〉からリリースされる多くの音源で知られるモダン・エクスペリメンタル・ノイズ・シーンの重要人物である(ローク・ラーベク名義で〈Editions Mego〉からアルバムをリリースしてもいる)。
 さらに、7曲め“Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)”には、ピュース・マリー(Frederikke Hoffmeier)が参加している点も重要だ。彼女もコペンハーゲンのモダン・ノイズ・アーティストで、アルバムを〈Posh Isolation〉からリリースしている。なかでも2016年の『The Spiral』は優美な傷のようなノイズ・アルバムで、聴き手をノイズ美のなかに引きずり込むような強烈なアルバムだ。そしてピュース・マリーは本年〈PAN〉から新作『The Drought』をリリースしている。
 また、“Lifetime”には、ヴェイパーウェイヴ初期からの重要人物ジェームス・フェラーロがグランドピアノ演奏(!)で参加している点も見逃せない。フェラーロはOPNと同じくらいに10年代の電子音楽を象徴するアーティストだが、近年の沸騰するOPNの人気の影で、真に歴史的人物として再注目を浴びる必要があり、その意味でも極めてクリティカルな人選といえる(まあ、単にファンだったのかもしれないが)。
 ほかにもトリップホップ的な“Licking An Orchid”には〈Dial〉からのリリースで知られるジェイムスKが参加。『Serpent Music』にも参加していたOxhyは、ピュース・マリーやジェイムスKとともに“Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)”に客演している。
 とはいえ、やはり〈Warp〉からのリリース作品に、あの〈Posh Isolation〉のふたりのアーティストが参加している点に2010年代後半という時代のムードを感じてしまった。いま、「ノイズ」というものがエレクトロニック・ミュージックのなかで大きな役割を果てしているのだ。

 続いて③についてだが、ここまで書けば分かるように、現在の「先端的音楽」は、世界的潮流でもある「90年代」の再導入と、〈Posh Isolation〉ら新世代のノイズ・アーティストによるノイズの導入というネクスト・フェーズを迎えている。「90年代」は、例えばオリヴァー・コーツの新作アルバムに見られるように、テクノ・リヴァイヴァル、IDMリヴァイヴァルへと結実しつつあるわけだが、本作の独創性は、参照する「90年代」がサンプリング、ブレイクビーツ、トリップホップ、90年代的インディ・ロックの大胆な援用である点だ。このアウトぎりぎりのインの感覚は鮮烈ですらある。たとえば、ラスト曲“Let The Lioness In You Flow Freely”などは「超有名曲」のサンプリングのループで終わることからも分かるように、「サンプリングの時代」であった「あの時代」のムードを濃厚に感じるのだ。
 むろん単なるレトロスペクティヴではない。そうではなく、90年代的な「あらゆるものが終わった」という「歴史の終わりの地平」を再生(サンプリング主義)し、そこに新世代の非歴史/時間的なノイズをレイヤーすることで、もう一度、「終わり=90年代」に介入し、「終わり」を蘇生することを試みているように思えてならない。「過去」をハッキングすること。歴史の「外部」から浸食してくるゾンビを蘇生すること。人間以降の世界を夢想すること。

 そう、『Safe In The Hands Of Love』は、ミニマル・ミュージックからノイズ、ヒップホップからインディ・ロックまで、ブレイクビーツからトリップホップなどなどさまざまな音楽を援用・導入しつつ繰り広げられる「死者=歴史の蘇生の儀式」である。自分には、このアルバムは「歴史の終わり」の荒野で繰り広げられるホラー映画のサウンドトラックのように聴こえた。その意味で本作にもアルカ以降、つまり10年代の先端的音楽の隠れ(?)テーゼ「ポストヒューマン的な21世紀の音像=無意識」が鳴り響いている。2018年というディケイドの爛熟期に鳴る音が、ここにある。

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