BOSS THE NK と OD という謎に包まれた(?)ふたりによる「三期」にして「最終」の SPANK HAPPY。ある意味、露悪的なまでにフェティシズム、マゾヒズム、サディズム、ペドフィリア、窃視……といった性倒錯をハウスのビートに乗せ歌っていた第二期 SPANK HAPPY (その極点が『Vendôme,la sick Kaiseki』だ)の「ファンダメンタリスト」は、2019年のいまも後を絶たないのではあるが、過去にすがる狂信者を尻目に FINAL SPANK HAPPY のふたりは Instagram やライヴで熱心かつモード系でコミカルな活動を繰り広げている。
そんな FINAL SPANK HAPPY の全貌を、おそらく提示するであろうファースト・アルバム『mint exrocist』がこのたび届けられた。見る者を困惑させるカバー・アートが部分的に物語っているように、「最終スパンクハッピー」が体現するのは「切ない」、「明るい」、「おもしろい」、そして「元気」である。アメリカのラップ・ミュージックなどについてはいわずもがな、それとはまったくの別軸で(二期スパンクスが予見した)病みに病みまくっている、落ちに落ちまくっている本邦大衆音楽の潮流。そこに悪魔祓いとして、清涼で爽快な香りを漂わせたミントの葉が投げ込まれたのだ。
メンヘラはもうダメですね。表現としては。一般化しすぎた。ヒップホップがバッドやナスティである義務、みたいなものです。いまメンヘラは表現としては「皆さん、喉が渇いたら水を飲むと良いですよ」と言っているのと同じです。一大マーケットですよ。
■まずは BOSS THE NK さんと OD さんが出会って FINAL SPANK HAPPY の結成に至るまでのお話をうかがいたいです。
BOSS THE NK(以下、BOSS):菊地成孔くんの有料ブログマガジン「ビュロ菊だより」に私の回想録(「BOSS THE NK回想録」)を連載していていまして、我々が出会ってからフジロックに出るまでのことを書かせて頂きましたが(加筆修正を加えた最新版はこちら→https://www.bureaukikuchishop.net/blog )、菊地くんが12年ぶりでSPANK HAPPYを再開したいんだけど、いろいろと忙しくて自分でできないから(笑)アバターを頼まれました。J-POP史上、というか世界音楽史上稀に見る(笑)アバターを使ってバンドをやるという。彼らしいコンセプチュアルな発想ですが、はたから見たら絶対に「キャラ設定でしょ」って思われるに決まってるんで、、、、というのは、ご覧の通りコイツ(OD を指差して)が、小田朋美さんとミラーリングぐらいに似てるんで、「本人がやってるでしょ? と思われ続けながらやれ(笑)」いうミッションをもらいました。
で、まずは相方を探してほしいと。 前人の相方の岩澤(瞳)さんはお人形みたいな人で、音楽にいっさい関与しないし、ただ立って言われるようにしていた人だった。だから、今回はなんでも自分でできる天才的な能力を持った──それは身体能力も含めて──相方を探して一応、世界中探し回ったんですがダメで。。。で、疲れ果てまして、私の地元が川崎なので隠し部屋に寝に帰ろうとしたんですが、近くにパン工場があるんですが……。
■川崎のパン工場。
BOSS:そこから歌が聞こえてくるんです。あんまりにも上手いから最初はCDだと思っていたんだけど、歌い直したり止まったりするからどうやら生らしいぞと。そしたら中に女の子がいて、その子は小麦粉が入っている袋を服にして着ているボサボサな感じなんだけど、ものすごい天才でバッハから MISIA まで歌えるわけです。
それが OD なんですけど、彼女は工場から出たことがない捨て子で、工場長から懇意にされてパンを食べながら育ったんだと。その子を工場の外に連れ出して、デビューさせるっていう話を菊地くんと僕とで取り付けて。この子なら間違いないと思ったんですけど……ところが非常に困ったことに、これこの通り、小田朋美さんにそっくりで。。。。
■まあ、そうですよね(笑)。
BOSS:本人にしか見えないんだよね、って菊地くんに言うと、おもしろがって「いいじゃん、それだったら誰もがみんな、俺と小田さんがやってるバンドだって思うし(笑)ダブルアバターだ(笑)」って言うんです。
■ODさんは?
OD:(パンを食べながら)その通りじゃないスか。インタヴュアーさんも、自分をミトモさん(*注:ODは小田朋美さんをそう呼ぶ)。だと思ってるデスか?
■僕は BOSS THE NK さんと OD さんだと思って来ているんですが……(笑)。
OD:当然じゃないスか~(笑)。
■OD さんは初対面のとき、BOSS さんについてどう思ったんですか?
BOSS:人さらいだと思ったんだよね(笑)。
OD:ハイ。なので「逃げろ~!」って。でも BOSS が走るのが早くて、ひっ捕まえられたじゃないスか。
BOSS:工場の上のほうまで追いかけるんだけど、OD があまりにも怖がって落っこちちゃってですね。。。でも下に製パン機があって、パン種があるところにボスンと落ちたから怪我しなかった。それで、父親代わりの工場長に相談して。
OD:パン工場のお兄ちゃんたちに囲まれてずっと暮らしていたデス。
BOSS:OD の口調は、そこに勤めている川崎のパン職人さんたちが川崎弁で「〇〇じゃないスか」って言っているのしか聞いたことがないからなんです。まあ、大きく「神奈川喋り」と言うか。
OD:そうなんスか? 全国共通弁だと思ってたじゃないスか~。
いま、ユースの幅も広がっちゃって、10代から50代くらいまでを一括りにできるじゃないですか。それを可能にしたのは、音楽だとロックとアイドルだと思うんだけど、そういう線でなく、10代から50代を「切なくていい」って感じさせられたらいいなと。いまは10代から50代まで青春ですから。
■BOSS THE NK は BOSS THE MC が元ネタだと思いますが、「BOSS」に意味はあるのでしょうか?
BOSS:いや、ないです。私は普段は請負屋をしているので、名前は明かせません。それで菊地くんが「じゃあ、BOSS THE NK にしよう」って。北海道の人が怒んないのかっていう(笑)。
OD:なんでデスか?
BOSS:BOSS THE MC っていう、THA BLUE HERB っていうチームで北海道をレペゼンしているヒップホップの人がいるの。
OD:へ~!
BOSS:「ナル・ボスティーノ」かどっちかで迷って(笑)。
OD:「ナル・ボスティーノ」はやばいデスね。。。。
BOSS:で、OD は捨て子だから、コイツ自身も本名はわからないんですが、小田さんに似ているから携帯に「パン OD」ってしておいて(笑)。工場長からの携帯の着信は毎回「パン OD」って出るんですよ(笑)。で、そのまま「OD と BOSS THE NK」ということでスパンク・ハッピーをとりあえず始めたんですね。そうしたらおあつらえ向きに、伊勢丹さんから菊地くんのところに(2018年)5月のグローバル・グリーン・キャンペーンのキャンペーン・ソングをやってくれないかって依頼がきたんです。で、菊地くんがスパンク・ハッピーの再開をプレゼンしたら、すぐに通ってしまいまして(笑)。
■FINAL SPANK HAPPY のファースト・シングル「夏の天才」(2018年)が生まれたんですね。
BOSS:その前にデモがあったんですよね。それがアルバムにも入っている“ヒコーキ”。それを聞かせたら、伊勢丹さんがめちゃくちゃよろこんでくれて。「OD、伊勢丹のタイアップ取れたよ」「やったじゃないスか!」っていうことで“夏の天才”ができたと。で、活動を始めて、あれよあれよという間にフジロックの出演も決まったっていう。まあ、SPANK HAPPY は歴史が長いので、12年ぶりに復帰したっていうこと自体がひとつのニュース・ヴァリューを持っちゃう。だから、フジロックからオファーが来たりしたんですけど、「持ち曲2曲しかないよ」っていう(笑)。それから1年半かけて、アルバムにたどり着いたっていう感じですね。
■なぜ今回が「最終」なんでしょうか?
BOSS:いや、年齢的に――あっ、年齢は菊地くんと僕は同い年でして。56(歳)です――もしこのバンドがもしうまくいって3、4年続いちゃったら還暦になっちゃうんですよ。還暦になって、口パクで歌って踊っているわけにもいかないでしょう(笑)。
OD:でも、杖つきながら歌って踊るって言っていたじゃないスか!
BOSS:まあ、90(歳)までやってもいいんですけど(笑)。 いずれにせよ OD 以外のパートナーを見つけて第4期をする気はないので。これがトドメなのだ、ここから先はありません、ということで。
■それほど OD さんは完璧なパートナー?
BOSS:そうですね。OD とやることが目的であって、OD がいなかったらやらなかった。誰でも良いから、どうしても SPANK HAPPY をやるんだっていう発想ではなく、菊地くんも「天才が見つかったら」ということでしたので。OD ありきなんです。
あのう、あくまで、事情を知らないお客様から見れば、ですが、小田朋美さんっていうのは大変な才媛で、菊地くんがやっている DC/PRG と SPANK HAPPY のどちらにも、というか同時に 参加できる人材っていうのはいままでひとりもいませんでした。想像すらつかなかった。その点ひとつとっても大変なことです。藝大の作曲科を出ているからアカデミックな意味でも、作曲やアレンジの能力でも完璧っていう以上の特別な意味が小田さんにはある、ということになります。SPANK HAPPY のヴォーカルが DC/PRG のキーボードでもあるとか、トランペットであるとかさ。
OD:トランペットだったら卍ユンケルやばいデスね!(笑)
BOSS:小田さんのパブリック・イメージはクールでやや中性的で、でも歌うとけっこうエモくて鍵盤がものすごく上手くて作曲もできてっていう、完璧に近いような近寄りがたい女性ですよね。
でも、OD はとにかく。。。。猿みたいなんです(笑)。OD は上京後しばらく小田さんと同棲していたので、小田さんが寝ていたりツアーへ行っていたりする間に勝手に機材をいじっていたら打ち込みができるようになってたんです(笑)。天才ザルというか(笑)。「猿の惑星」みたいな(笑)。
OD:それほどでもないじゃないスか~(笑)
BOSS:謙遜するところじゃない(笑)。「勝手に機械をいじっているうちに覚えたじゃないスか」、「ボスボス~、デモを作ったじゃないスか」って感じで。ジェンダーの問題でいうと、男の子が機械をいじって女の子がポエムを書くっていう、旧態的な役割分担じゃないんです。なにせ我々の場合は、機械をいじっているのもインスタグラムを管理してるのも OD なわけで。
OD:逆に、振付やお洋服は BOSS がやってるじゃないスか。
BOSS:そう。振付とスタイリングは私がやっています。私はダンサーではありませんが、ダンスは子供の頃から好きで、振付にも興味があるから、「OD がこう動いたら可愛いんな」とか、まあ、いろいろ考えて。で、まあ、当たり前ですが、OD も踊ったことがなかったので最初は目を回していたんだけど、あっという間に適応しました。適用能力と学習能力がすごいんですよ。しかも作詞と作曲とアレンジはふたりで共作してるから、もう世代もジェンダーもぐしゃぐしゃにゾルゲル状になっちゃっていて、誰のどっちの曲っていうのももうないんですよ。
だいたい人間は、自分の正反面っていうのを隠し持っています。だから無教養で猿みたいな女の子で、口癖は川崎のパン工場の人々の言葉で、ものすごい元気でめちゃくちゃ踊ると。恥ずかしげもなんもないから、おしゃれで可愛いと思えばスイムウェアでステージへ上がるのも厭わないっていうのは、あくまで結果としてですが、小田さんの抑圧を集積したみたいなやつだった。天の采配としても完璧な構図ですね。
それで、FINAL SPANK HAPPY の方向性が定まったんです。いま、皆さん基本的に暗いから。まあその。。。。お届けしますよ(笑)。
いま、音楽の役割は、生きづらくて暗い自分を励ましてくれるとか、励ますのは素晴らしいことですが、「さあ励ましますよ、はい背中押します、あなたはそのままで良いんですよ」といったそのまんまな形が主流です。 あと、ドス黒いところを吐き出しているSSWの方とか。ディスではなくて、ひとつの成功フォームですから名前を出すけど、大森靖子さんとかですね。女性が暗部を吐き出すのは芸能の古典とも言えます。あとは、椎名林檎さんやコムアイさんみたいな「智将」というか。頭を使って計算して、マーケットはこんな感じでしょう、ふふふ、みたいな感じで、エロ具合からなにから完璧に計算してやる方々。
そういうんじゃなくて、ポッと出の奴らが、軽くファニーでキュートにやるのだと。FINAL SPANK HAPPY が菊地成孔と小田朋美だったら「スーパー偏差値バンド」ですよね。それは最悪です。なので、私と OD っていう暴れん坊同士で楽しく、かつスーパーハイスキルで最高品質である。ということをブランディングしているつもりです。まあ、ブランディングたって、自然にそうなっちゃっただけなんですが(笑)。
“エイリアンセックスフレンド”の振付くらいで「エロい」って言われるんだから、この国のピューリタニズムもロリコンもすごいところまできているよね。エロティックがパセティックという目的の素材になるべきです。エロさもあるが切ない。というのが大人の仕事で、AORの本懐である。
■いま、BOSS さんがお話しされたのは「メンヘラ」についてですよね。
BOSS:はい。メンヘラはもうダメですね。表現としては。一般化しすぎた。ヒップホップがバッドやナスティである義務、みたいなものです。まあ、もっと一般性の高いことするんだけど(笑)。
■FINAL SPANK HAPPY のテーマには「メンヘラの否定」もあるのでしょうか?
BOSS:いやいやいや。否定はしません。菊地くんがやっていた第二期 SPANK HAPPY はメンヘラ表現の先駆けになってしまったと思います。渋谷系っていう快楽的でおしゃれで、軽さのある人たちがいっぱいいた世界のなかに、二期スパンクスはフェティッシュだとか、そういうものを持ち込んだわけです。あと、二期ではとにかく「青春」っていう黄金を扱わないって決めていたので、そうなると幼児退行的で多形倒錯的になっていく。岩澤さんと菊地くんとで年齢差があったことによって、フェティッシュやインセストタブーも視野に入っていました。とにかく俗語としてはメンヘラ。だけど音楽は濃密で美しいんだ、という感じの世界観だったんですね(OD 寝始める)。
二期は早すぎたので、後になって、フォロワーが、、、、SNSじゃないですよ(笑)、アーバンギャルドさんとか。あと、マーケットの需要もですね。菊地くんのあれは一種の病気だと思いますが、何やっても10年から15年早いって言われがちなんです。「いまだったら二期スパンクスは売れるよ」っていう人もいるんですけど、いまメンヘラは表現としては「皆さん、喉が渇いたら水を飲むと良いですよ」と言っているのと同じです。エコみたいですね(笑)。一大マーケットですよ。
ですので、別に、アンチメンヘラ=健康思考という意味では全くありません。我々だって人間である限りしっかり病んでいます。単に違う商品を売りたい。コイツ(註:OD はもうとっくに寝ている)を獲得することで FINAL SPANK HAPPY のトーンとマナーが決まってきたんです。「エイリアンセックスフレンド」という曲名とか、ファースト・ヴァースで「甘いペニス」とか言うので、それを指して即物的に「エロい」と言われがちですが、でも、あの曲は切ない曲であって、エロい曲ではないです(笑)。
■たしかに“エイリアンセックスレンド”からは「逢瀬」というイメージが浮かびました。
BOSS:セフレとはいえ「フレンド」なわけだから、お互いにちょっとは好きでしょうっていう、まあ、切ないところで(笑)。あとは、宇宙人のセフレっていう第一義と、不倫のダブルミーニングですね。年の差不倫の、しかも反復です。「あなたより子供な大人はいっぱいいたよ」と。そういうことほのめかしつつも全体的に切ないな、切なくてちょうどいいわっていう。あとは、タイトルの「エイリアンセックスフレンド」も、歌詞の最後の「ダンディ・ウォーホール」も、実在のバンド名で、ライミングしてる(笑)。
いま、ユースの幅も広がっちゃって、10代から50代くらいまでを一括りにできるじゃないですか。それを可能にしたのは、音楽だとロックとアイドルだと思うんだけど、そういう線でなく、10代から50代を「切なくていい」って感じさせられたらいいなと。スティーリー・ダンみたいに「すごいだろ、俺たち」っていう上からには、どうせなれませんが、ただ、ハイクオリティな曲を丁寧に作っています。聴き心地軽いけど、切ないっていう。まあ、曲によってはストレートに悪ふざけてますけど(笑)。
■1曲目の“NICE CUT”なんて、かなりふざけていますよね。ユースの幅が広がったことと「切なさ」、そして二期で避けていた「青春」はどういう関係性になるんでしょう?
BOSS:簡単に言うと解禁ですよね(笑)。それこそいまは10代から50代まで青春ですから。二期スパンクスは周りが全員青春だった。なので、青春はもういいわっていう格好でしたが、FINAL SPANK HAPPY はメンヘラ退場で、青春再登場っていう(笑)。切なさ、というのは、単に青春は切ないいじゃないですか。特に、いい大人の青春は(笑)。
■では、FINAL SPANK HAPPY は性的な倒錯や病理といったものは扱わないんですか?
BOSS:扱わないですね。FINAL SPANK HAPPY では、あくまで装飾物としてエロいものは入っていますし、何せ実際にアダルトですからね(笑)、基本的には大人は明るく切なくいたいよねっていう。「切ない」と「おもしろい」と「かわいい」と「お洒落」しかない(笑)。 あと「元気」か(笑)。OD ライヴ中お客さんにパンをぶん投げたりする元気さですが(笑)。
■カバー・アートやアーティスト写真でも意味ありげに使われているパンはなにかの象徴なんですか?
BOSS:だってパン工場で育ったんだもの(笑)
OD:(突如眼を覚まして)うおー!! そうじゃないスか!
BOSS:最初は、本当にパンしか食わないのかと思ってた(笑)。
■漫画のキャラクターじゃないですか(笑)。
OD:ラーメン大好き小池さんじゃないスか(笑)。
BOSS:「なんでパン?」っていうのは皆さん言いますが、しょうがないじゃんねえ(笑)。
OD:「ス『パン』クハッピー」からきているって言われたりしたデスね(笑)。
■OD さん的には FINAL SPANK HAPPY の切な明るいモードについてはどう感じていますか?
OD:まんまボスと自分を出してるだけじゃないスか(笑)。
■二期との関連でいうと、アルバムでは“アンニュイエレクトリーク”をカバーしているのに驚かされました。
BOSS:ライヴでは二期の曲を、前期からのご贔屓筋へのサーヴィスとして3、4曲やっているんですよ。“アンニュイエレクトリーク”は、タナカくん(Shiro “IXL” Tanaka)のピートのクオリティがかなり高かったので収録しました。あとはめちゃくちゃ細かい話ですけど、“アンニュイエレクトリーク”のメロディって、とうとう最後まで岩澤さんがちゃんと歌えなかったんです。当時は Melodyne なんてないから、ピッチを直せなかったんですよ。だから、ちがうメロディのまま録っちゃっていた。菊地くんはああいう人なんで、気にしてないけど、作曲家としてちゃんと作曲した状態のものを正しく歌ってくれる人がいたら嬉しかろうし、OD に完璧に歌ってもらってやっと完成したっていう気持ちがありますね。
OD:“アンニュイエレクトリーク”は15年も前に書かれた歌詞らしいデスけど、いま聞いてもハッとする、響くところがあるデスね。
BOSS:「クラブの閉店」とか「計画停電」とかね。
■2010年代には震災と原発事故があって、風営法問題があって…… 。
BOSS:そのうえで、退屈なんだっていう。退屈な人間が、何をするか。
OD:“雨降りテクノ”も雨に注意注意じゃないスか!
BOSS:そうそう。雨が降ってきて濡れると機械は漏電するから(笑)。
会社のデスクに自分の好きなフィギュアを並べているとか、待ち受け画面を好きなアニメにして仕事をしているとか、昭和の日本じゃ考えられなかった。日本人だけじゃなく世界中の人間たちが退行していっている。大人と子どもの振る舞いのすみ分けがなくなってきちゃっている。いまが昭和だったら、私なんてもうシルバー世代ですよ(笑)。
■あまり二期と比べすぎるのもよくないとは思うのですが、二期が扱っていたものとして「資本主義」があると思うんです。そこは FINAL SPANK HAPPY としてはどうですか?
BOSS:とにかく二期はあらゆることに対して予見的だったと。当時は資本主義がどうのこうのなんて、多くの人びとには「なに言ってんだ、こいつら」みたいな感じだったと思うんですけど。
菊地くんの作品には、全体的にそれが張り巡らされちゃっていて、正直よくないところ、というか、さっきも言った通り、症状だと思いますね。ちょうどジャストなときに出せるっていうのが、本当に才能がある人なので。早すぎる人や遅すぎる人は……カラオケで早く出ちゃう人とか、なかなか歌い出さない人みたいなタイミングが悪い人だから(笑)。早すぎるっていうのは音楽家として致命傷だと。
ただそれは、菊地くんひとりの力じゃどんなに遅らせても、ちょうどぴったりにならない。私にもその病理はあります。けれども OD は、とてもいい意味で古典的な人で。
OD:自分は遅いタイプだから。。。昔のものがすごく好きなんデス!!
BOSS:それにしても“エイリアンセックスフレンド”の振付くらいで「エロい」って言われるんだから、この国のピューリタニズムもロリコンもすごいところまできているよね。パソコンではいくらでもエグいものが見られるのに。ポップ・シティ・ミュージックと完全に分離してしまっている。なんか、一種の放送コードですよね。もし「未来の大人のポップス」があったとしたら、エロティックがパセティック(涙目になるような状態)という目的の素材になるべきです。エロさもあるが切ない。というのが大人の仕事で、AOR(「アダルト・オリエンテッド・ロック=大人志向のロック」)の本懐である。と思ってやっています。菊地くんはバブル世代だから陽気なほうだけど、それでもパニック障害とかやっているしさ(笑)。一方、小田さんはめちゃくちゃ明るい人ではないので、我々とはできることがぜんぜん違うと思いますよ。
OD:ミトモさんに聞いたんデスが、子どものころはすごく明るかったらしいデスよ。
BOSS:それを「暗い」って言うんじゃない?(笑)。 「子どものころは明るかった」っていうひとは暗いひとでしょ(笑)。
OD:なんか、ご家庭でも一番ひょうきんだったらしいじゃないスか~。
BOSS:無邪気だったけど、楽園を追放されて無邪気じゃなくなったんでしょう(笑)。普通の発達だよそれは。小田さんの視点に立ったら、OD は幼児退行という側面もあるでしょうね。
OD:二期も退行を歌っていたじゃないスか。それは「少女」とか「幼児」ぐらいだと思うんデスけど、ミトモさんにとって自分は。。。3歳児くらいの感じじゃないスか(笑)。
BOSS:まあ、天才ザルだからな(笑)。人間以前に(笑)。
■その「退行」についてはどうお考えですか?
BOSS:大きく捉えれば社会問題くらいなものですよね。会社のデスクに自分の好きなフィギュアを並べているとか、待ち受け画面を好きなアニメにして仕事をしているとか、昭和の日本じゃ考えられなかったことだから。
でも、日本人だけじゃなくって世界中の人間たちが退行していっている。大人と子どもの振る舞いのすみ分けがなくなってきちゃっているんです。「大人買い」って、そこからきているわけじゃないですか。大人になって、子どものころに欲しかったプラモデルを山ほど買うとか。まあだから、20世紀は、どうしても退行の世紀に見えちゃうんですよね。全人類的に退行しているのかどうか? っていうのは、『アフロ・ディズニー』っていう本で菊地くんが識者と話しています。
その一方で、若いアイドル・ファンたちのわきまえがよくなって、べたべた触って追い出されちゃう人がいなくなり、礼儀がちゃんとしてきている、大人っぽくなっている面もあるんですよね。退行の逆行現象として。だから、退行の問題は簡単には語れないです。特に、市民の私生活と、音楽表現との関係においては。いまが昭和だったら、私なんてもうシルバー世代なんですよ(笑)。
■退行は力にもなるんですね。
BOSS:そうですね。なおかつふたりとも運動が好きで、ダンスしているし、ボディケアもやっている。アンチエイジングですよね、ひとつの。
OD:SNSで「菊地さんの隣にいる、あの体育会系の女むかつく」って書かれていて、自分はパリピユンケル卍驚いたじゃないスか! 自分はバッキバキの文化系じゃないスか~、大体自分の隣にいるのは菊地さんじゃないし!!(笑)
BOSS:「○○じゃないスか」っていうのが体育会系の言葉づかいだからってだけじゃない? まあオマエはスポーティーだからな。
薬ばっかり飲んでいたり、ネットで病気の情報を集めたりしていたらもっと悪くなっちゃうので。恋人でもだれでもいいんだけど、誰にも「あたしのエクソシスト」がいて、ちょっとキスをしてくれるだけで悪魔を払ってくれるんだと。
■……ええっと、音楽の話がぜんぜんできていなくて恐縮なのですが、今回はリズムのアプローチが多彩ですよね。二期はハウスやディスコのビートを中心にやっていたので。
BOSS:そうですね。リズミック・アプローチについては、二期スパンクスは DC/PRG と並走していたから、菊地くんもシンメトリーを出したかったんでしょう。ものすごい大人数のプロ集団が複雑なリズムに取り組む DC/PRG と、素人でなにもできない女の子とふたりだけですごくシンプルなテック・ハウスみたいなのをやる SPANK HAPPY と。
我々はその当時の菊地くんの企みとは無関係です。OD のコード進行やメロディのつくりかたはすごく古典的でありながら、斬新で素晴らしいと思いますね。私にはできないことを簡単にやってのけます。リズムの対応力も非常に高いですし。
あとは、テクノロジーの力が上がったっていうのも大きいですよね。昔は5連符の打ち込みなんてできなかったから。Ableton Live とか、あらゆるテクノロジーがリズムの揺らぎとかを追求してきている。あと、Ableton Live に「MIDI化」っていうのがあって、どんな音声データでもMIDI情報にできちゃうんです。そんなん使ってないけど(笑)。
OD:それはヤバいじゃないスか。。。。。
BOSS:だから、(エルメート・)パスコアールみたいなことが簡単できちゃう。言葉が全部歌になるので、ミュージカルって概念がなくなるわけです。極論的に、どんな映画も、台詞を全部音程化して伴奏をつけちゃえばミュージカルにできちゃうんだと。
ポップ・ミュージックは新しい機材や技術をプレゼンテーションする音楽です。だから、FINAL SPANK HAPPY は原義に忠実にポップ・ミュージックだと思いますよ。二期はデカダンだったので、過去志向というか、傷とか幼児退行は過去への志向です。いまは軽やかで最新であると。なにも知らない人に「OD かわいいよねー」、「この曲切ないよねー」って楽しんで頂きたいですね。
■ふたりの引力と斥力で、ちょうどいいところにいると。
BOSS:僕はコンサバの力に感動したことってあんまりないんです。業務上、クラシックの弦のチームを、クラシック上がりの有名アレンジャーの方とかと一緒にやるんですけど、あんまり感動したことがないんです。
でも、小田さんが書いた弦──『mint exorcist』の弦アレンジは小田朋美さんがやっているんですけど──にはすごく感動したんですよね。コンサバで古典的な響きをちゃんと譜面で書ける人の弦って、こんなに感動するんだっていうことに打たれて。小田と OD が唯一繋がっている古典=クラシックスの力は振り絞れるだけ振り絞って、全部使おうっていう気持ちがありますね(笑)。
OD:BOSS のアイディアは、たまに言っていることがわからなくて作業が進まないこともあるデス。でもそれをふたつ、がっちゃんこで合わせてみると「あっ、すごくいいな」ってなるじゃないスか。お互いのいい面が、ひとつの曲としてうまくはまるデスね。BOSS のリズムやコードに対するアプローチって、最初「これは何スか?」みたいな斬新な発想なんデスが、自分は──もちろん新しいものも取り込むけど──基本的にコンサバで古典的なものが好き好きなところがあるじゃないスか。
■調性を信じる OD さんと、ジャズの無調や調性から外れることに惹かれる BOSS さんとの対照性や緊張関係があるわけですよね (https://realsound.jp/2018/06/post-208704.html)。
OD:緊張というより、むしろお互いすげーなと思っているじゃないスか。自分は調性と無調って対立しているものではないと思うデス。調性の先に無調があって、距離の問題だと考えているので。無調のなかにもすごく美しいハーモニーはあるし、実は古典的な響きもいっぱいあるじゃないスか。
BOSS:おおおお。その発言自体が超コンサバでしょ(笑)。まあこうやって自然にバランスしてるバディなのだと(笑)。
OD:“Devils Haircut”は調がないっていうか、調性じゃないものがいっぱい重なって入っているデス。とってもお気に入りじゃないスか~(笑)。
BOSS:ブルースやロックンロールは、もともと無調への通路だからね。我々の“Devils Haircut”には、現代ブルースの要素とクラシカルな多調性の要素が、まさに共作的に溶け合っています。
■どうしてベックの“Devils Haircut”をカバーしたんですか?
BOSS:ぜんぜん理由はないんですよね(笑)。OD はベック知らないし。「とにかく洋楽をカバーするじゃないスか!」ってなったので、時代もジャンルも関係なくふたりでランダムにどんどん音源を聞いていったんです。
OD:YouTubeでデス。
BOSS:我々のコンビネーションの別軸に「ポップスに対する教養のある/なし枠」っていうのもあるんです。OD は本当にいい意味でポップスの教養がないので、レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)はローリング・ストーンズの次くらいだと思っていましたからね(笑)。
■ロックの歴史的には20、30年空いていますね(笑)。
BOSS:「ベートーヴェンの次がヴェーベルン」みたいな(笑)。すげーびっくりしたんだけど、ポップ・カルチャーという本来無教養なものだったのに対する教養、つまりサブカルですが、OD はポップスに対してパンクというか、アナキストですね。それでふたりでどんどんポップスを聴いていって「あっ、これかっこいいよね」ってなったからやっただけで。「いまこれをやったらセンスいいよね」っていう感覚では全くないです。ガラガラポンですよ(笑)。
OD:クレイジーな曲でカッコいい~と思ったデス。最初はFKAツイッグスの、チェロとピアノだけの静かな曲をやりたいとか、そういう話もしてたデスが、いつのまにか、「やっぱりこの曲良いよね、この曲をピアノでやって見たら面白そう」ってなったじゃないスか。
■あのピアノはYMOの“体操”を思い出しました。
BOSS:あれはチャームですね。一番表面に置いてあるから、一聴して“体操”に聞こえるけれども、実際はコンロン・ナンカロウとか、同じ坂本(龍一)さんでももっと最近の作品の要素も入っている。“体操”ってもっとずっとポップだし、あれは形式が変形のブルースだからね。「これ“体操”だろう」っていうのは当然の反応ですけど、奥行きを作っています。
あれはふたりじゃないとできないアレンジです。縦横に音楽的な奥行きがありながら、すごくふざけているので(笑)。
OD:ライヴの振り付けも、あの曲はスローモーションで卓球をやってるじゃないスか(笑)。それでそれで、最終的にはドライブデート中のふたりが車の事故で死んじゃうじゃないスか~(笑)。
音楽は、「簡単か難しいか」なんてことのはるか以前に、「向いてる向いてない」とか「できるできない」という軸すらないんです。一番似ているのは恋愛です。誰でも恋はする。でも、傷や不全で臆病になるでしょう。
■ボニーとクライドじゃないですか(笑)。最後に、アルバム表題曲の“mint exorcist”についておうかがいしたいです。
BOSS:ヒステリーや恋愛依存症、誘惑依存症というのはいつの世にもありました。昔は悪魔祓い師やヒーラーがいて、現代では精神医療で投薬して治しましょうっていうふうに変わったわけですけど、それを一回、また戻したいんです。薬ばっかり飲んでいたり、ネットで病気の情報を集めたりしていたらもっと悪くなっちゃうので。恋人でもだれでもいいんだけど、誰にも「あたしのエクソシスト」がいて、ちょっとキスをしてくれるだけで悪魔を払ってくれるんだと──そういう話をパッと考えついたんですよね。最初はツアー・タイトルとして、適当に思いついたんですけど(笑)曲のテーマに発育させたと。
OD:自分がよくミントを食べていたからじゃないスか?(笑)
■パン以外も食べるんですね(笑)。
BOSS:そう(笑)。OD はミントばっかり食って、なぜか途中でやめて、その食べ残しをそこかしこに、財産みたいに積んでるんですね(笑)。んで私は映画の『エクソシスト』が大好きなので、それもあって「mint exorcist tour」って適当に言っちゃったんですよ。で、夏にふたりでうなぎを食いに行って、昼から日本酒を飲んで「気持ちいいじゃないスか~」って言っていた帰りの数分間で、曲の骨格ができあがって。で、あなたは「mint exorcist」だと。涼しく甘く、悪魔を祓ってくれるんだと。
OD:その日のうちにばーって録って、できあがったんデスよね。
BOSS:最速でできた曲ですね。着想から完成まで5分かかってない。
■OD さんが「音楽はみなさんが考えてるより、ず~っと簡単じゃないスか!」って言っているのが、いままでにない感じでいいなと思いました。
BOSS:まあ、時間をかけて作る曲もあるけど本当に一瞬でできる曲もある。だから、あの曲自体のことであり、人間が抱えている問題や、萎縮に関する解放ですよね。
OD:音楽が苦手だっていうひともいるじゃないスか。でも、向いていないとか苦手だとかって封じ込めちゃわないで、もっと音楽は簡単だって知って欲しいデスね。
BOSS:音楽は、「簡単か難しいか」なんてことのはるか以前に、「向いてる向いてない」とか「できるできない」という軸すらないんです。一番似ているのは恋愛です。誰でも恋はする。でも、傷や不全で臆病になるでしょう。
OD:臆病はダメダメじゃないスか~。
BOSS:無教養主義に対する肯定がキツすぎるんですよ。一方で、東大出の人が「人生に学歴なんて関係ない」って言ったらいやらしいじゃないですか。もしですよ。小田さんと菊地くんが「音楽なんて簡単ですよ」って言ったら、単純に腹たちますよね(笑)。それでおふたりが「いや、私は学校のなかでもドロップアウト組で……」とか話がグダッグダになっちゃう(笑)。
だけど OD が、調子よく口笛吹いてる曲の途中で「みなさんが思ってるより音楽は簡単じゃないスか~。ウナギを食ったらすぐに曲ができてすごいじゃないスか~。ウナギには栄養があるじゃないスか~」って言うことで、本当にキツくなっちゃっている、難しく考えすぎちゃっている人たちのキツさをちょっと緩めてほしい。我々からの、小さな傷口へのキスだと思って頂きたいです。と、それぐらいは FINAL SPANK HAPPY はジャストに立っていると──実際どのくらいかっていうのは、これからやってみないとわからないんだけど(笑)。
■わかるのは10年後かもしれませんね(笑)。
BOSS:そしたらジャストじゃないですね(笑)。「FINAL SPANK HAPPY はやっぱりマニアックだ」ってなるのか、「いやこれめちゃくちゃポップだよ」っていうふうになるのかは、聴いてくださった皆さんが決めることですから。







































