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Charles Hayward

Charles Hayward

(Begin Anywhere)

Klanggaleri

Experimental

Charles Hayward

Charles Hayward

Objects Of Desire

Blank Editions

Experimental

細田成嗣   Jul 09,2019 UP

 70年代後半から80年代初頭にかけて活躍した伝説的なポストパンク・バンド、ディス・ヒートのメンバーとしても知られるチャールズ・ヘイワードによる二種類の作品がリリースされた。それぞれ『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』と題された、フォーマットも内容も大きく異なるこれらの作品について触れる前に、まずはヘイワードのこれまでの活動について書き記しておこう。

 チャールズ・ヘイワードは1951年生まれ、英国のインディペンデントな音楽シーンで主にドラマーとして活動してきた。その名前が広く知られるようになったのはやはり1976年にギターのチャールズ・バレン、ベースのギャレス・ウィリアムズとともに結成したディス・ヒートにおける活動がきっかけだろう。英国ロンドン・ブリクストンを拠点に活動し、1979年にはデビュー作『ディス・ヒート』をリリース。即興的なセッションを録音し、それを聴き返すことで楽曲のアイデアをかたちづくっていくとともに、テープ編集やポスト・プロダクションを幾重にも施すことによって同作品は完成したという。現在から振り返れば同じく英国ロンドン・ブリクストンで活動する若手バンドのブラック・ミディの先駆にも思えるが、ともあれ、ベースのウィリアムズの脱退にともないディス・ヒートは1982年に解散。その直後にヘイワードはディス・ヒートの音楽を発展的に継承するかたちでキャンバーウェル・ナウを結成。音響的な実験は深化するものの一枚のアルバムを残し5年後の1987年には解散してしまう。

 その後も複数のグループで活躍することになるのだが、キャンバーウェル・ナウが解散した1987年は初めてのソロ・アルバム『Survive the Gesture』をリリースするなど、ヘイワードにとって画期となった年だと言っていい。同作品のアヴァンポップな作風は傑作とも謳われたものの、その後も画家マーク・ロスコに捧げた『Skew Whiff』(1990)や『Abracadabra Information』(2004)、『One Big Atom』(2011)などつねに自らのソロ・ワークを更新し続けてきた。他方で記憶に新しいところでは2017年にソニック・ユースのサーストン・ムーアとともに全編即興演奏による作品『Improvisations』をリリースしており、ギター・ノイズと渡り合う力強いロック・ドラミングはディス・ヒート時代から変わらないヘイワードのオリジナルな響きを聴かせてくれている。それから2年を経てリリースされた『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』は、ドラマーではなくコンポーザー、あるいは綜合的な音楽家としてのヘイワードの才能が発揮された極めてユニークな作品になっている。

 シンガーソングライターとしてのピアノによる弾き語りが収録された『(Begin Anywhere)』は、メランコリックな歌声とつねに希望が先送りされてしまうかのような感触の楽曲が印象的な、英国ロック・ミュージックのオルタナティヴな血脈を総ざらいしたとも言えそうなアルバムである。それに対して『Objects Of Desire』は、ディス・ヒート結成前の1975年に録音された素材がもとになっており、演奏というよりもドローン/物音/ノイズ/トライバルな響きなどが編集された実験的な作品になっている。約1時間にわたって延々と続く音響的な実験はカセットテープの歪みさえサウンドとして定着させており、この音源がさらにカセットテープとしてリリースされているということも面白いのだが、いずれにしても3~4分前後の小品が収録されたソング集でもある『(Begin Anywhere)』とは好対照をなすアルバムである。

 『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』はほとんど繋がりがないようにも思えるほど異なる作品になっている。だがそれは1975年の演奏(『Objects Of Desire』)から44年を経て現在の演奏(『(Begin Anywhere)』)へと発展/洗練を遂げたということでもないように思う。むしろ1975年に録音された音響素材を聴き取り、それを音楽作品へとまとめあげたのは他でもなく現在のヘイワードであって、おそらくポップスと実験音楽の両極にそれぞれ振り切ったような2作品が同時期にリリースされているということこそ重要なのだ。どちらの作品が欠けても現在のチャールズ・ヘイワードの音楽を把捉することはできないとともに、これらの2枚のアルバムは、彼がいまもなお新たな音楽へと前進し続けているということをわたしたちに明らかにしてくれることだろう。

細田成嗣