「MAN ON MAN」と一致するもの

Mansur Brown - ele-king

 4年前のW杯時に、ぼくはそのサウンドトラックをクルアンビンとした。で、今回はマンスール・ブラウンのアルバム(2枚のEPの合体盤)としよう。フラメンコと中東と催眠的なミニマル・ビートにダブが絡んでいる1曲目“No Way”の前半を聴いているだけで奇妙な気分になってくるわけだが、それがアンビエントへと展開するとなると意味がわからなくなってくる。
 今回のカタール開催は、海外では前々から多くの批判があった。たとえば英ガーディアンは10年前から移民労働者問題(スタジアムを建設した移民労働者の月収は4万円にも満たない)を継続して報じてきている。というか、スタジアム建設などのためにカタールにやって来たアジア系移民労働者の6500人以上の死亡が事実だとしたら、たしかに現代の奴隷制と言われても仕方がない。ほかにもマイノリティーへの差別(同性愛は犯罪とされる)も当たり前だが問題視されているし(英国ではカタール大使館への抗議活動にまで発展)、なんでも女性の海外旅行や留学には男性の許可が必要だとか。こうした事情が世界でもっとも人気のあるスポーツ大会というオブラートに包まれたときに隠蔽されてしまうことは、欧米の識者からはさんざん指摘されてきている……どころの騒ぎではない。ガーディアンによれば、英国では10人中6人がカタールのワールドカップ開催に反対しているというし、ブンデスリーガの試合ではファンが反対の横断幕を掲げ、日本よりフットボールの歴史があり人気もずっとずっと高いフランスやスペインでは、公共の場での試合中継を行わないことを宣言している自治体もあるそうだ。日本ではあまり報道されていないようだが、今回ほどフィールド外が騒がしく、ボイコット運動が熱を帯びている大会はなかった。じっさいぼくの何人かの友人は、今回はあまりにも茶番なので努力して無視するようにしていると言っている。また、予選の段階からデンマーク代表をはじめドイツ代表やノルウェー代表は、試合時のウェアなどで人権擁護の態度を表明しているし、オランダ代表監督の偉大なるルイス・ファンハールは、FIFAが説明したカタール開催の理論的根拠を「でたらめ」と一蹴した。そんなわけで、清水エスパルの降格ショックから立ち直れていなかった自分も努力して無視するようにしていたはずだった。
 
 マンスール・ブラウンは、フットボールに喩えるなら、並外れたテクニックを駆使するブラジル代表のようなギタリストである。現代UKジャズのシーンから登場したブラウンだが、彼はジャズというスタイルにこだわってはいない。この点においては、つねに慣習に囚われない斬新な戦術を実行するオランダ代表を彷彿させたりもする。
 先述したように、これは秋にリリースされた6曲入りEP「NAQI Vol.1」と最近出た「NAQI Vol.2」の合体盤で、前者にはビートがあり後者はビートレスと、それぞれ趣が異なっている(だからこの合体盤では前半と後半に分かれる)。まず「Vol.1」、つまり前半からいくと、先述した冒頭の“No Way”のほか、ゆったりとした、しかしブリアル風のダンス・ビートを擁する“Fever”や“Rise”といった曲にも注目したい。とくに、包み込むような温かいエレクトロニクスにはじまる“Rise”のベースとギターの対話によるグルーヴは白眉の出来だ。
 表題曲“Naqi”にはじまる「Vol.2」、つまり後半は、いわば本作のアンビエント面で、ギターの多重録音による楽曲が並んでいるのだが、これがまたぼくにはツボだったりする。クライマックスは最後の曲“Meikai”で、10分ほどのこの大作にはいろんな場面が用意されている。リスナーは、いつの間にか異世界に連れていかれるだろう。そこはエメラルド色に輝く桃源郷だが、いまの自分はまったりと陶酔に浸っているわけにはいかない。なにせ仕事が忙しいし、というかまだW杯は予選の最中で、この先どんな試合があるのか誰にもわからないのだ。
 だいたい初戦には波乱が起きるものだ。これは年のせいかもしれないが、各国のパススピードが上がっている(ように見える)。攻撃のための守備がより意識され、日本の2点目がそうだったが、手数をかけずショートまで持っていくのが、まあ、初戦だからとくにそうかもしれないが、目立っている。日本がドイツを撃破したことは心の底から喜んだし、権田修一のセーヴも高速カウンターも見事だったけれど、負けたドイツはウォームアップ時に、FIFAとカタールへの抗議の意を込めてだろう、レインボーのステッチの入ったウェアを着ていたのだ(ドイツ代表も、イングランドのハリー・ケインも、当初レインボーの腕章をして試合に出る予定だったが、それはFIFAによって阻止されている。ゆえにドイツ代表は、日本戦の前の写真撮影時にFIFAから口を封じられたことを示唆するため、手で口を覆うポーズを取り、試合の勝ち負けとは別のところで賞賛されている)。
 この先日本が世界でさらにリスペクトされるには、もうひと段階の努力も必要になるだろう。それは、今日の時代が激変しているさなかのヨーロッパを経験している現代表の世代を主軸に、いずれは変えていきそうな気がしないでもない。なにせ、多くの人が絶対に負けると思っていたドイツ戦に勝てたのだから、希望を持ってがんばれば、あり得ないと思っていたことも実現できるという、ちょっとだけそんな気持ちになれました。ちなみにアルバム・タイトルの“Naqi”とはアラビア語で「純粋」を意味するそうだ。純粋さを欠いているW杯への皮肉を込めてこんなタイトルにしたわけではない、はずである。
 
 最後に、UKジャズのギタリストといえば、ほかにオスカー・ジェロームもいるが、彼のソロ・アルバム『Spoon』も素晴らしかった(小川充がレヴューしてくれるはず)ことを追記しておく。また、今回のW杯は気温的なことからアフリカ勢が優勢なのではとぼくは思っていたのだが……、アフロビート全開のKokorokoの待望のアルバム(これもいいんだよなぁ)も、いまの自分はかなりハマっております。で、最後の最後に来年の話だけど、純粋に清水と藤枝の試合、名将大木武監督率いる熊本との試合を楽しむことにするよ。

Cholie Jo - ele-king

 石垣島出身、現在は沖縄本島を拠点に活動するラッパーの CHOUJI が、福岡の卓越したビートメイカー Olive Oil と組んでアルバムをリリースする。タイトルは『active camouflage』で、12月14日に〈OILWORKS〉よりリリース。ジャケからして最高だが、ラップもビートもかなり聴き応えのある1枚に仕上がっている模様。要チェックです。

プロデューサー/トラックメイカーのOlive Oilと、沖縄・石垣から多くのアーティストとも作品を残すCHOUJIが、Cholie Jo(チョリージョ)名義のアルバムをリリース!!

様々な化学反応を起こす2人による2022年を締め括る注目作品! 地球を舞台に活動するプロデューサー/トラックメイカーのOlive Oilと、沖縄・石垣から多くのアーティストとも作品を残すCHOUJIが、Cholie Jo(チョリージョ)名義でのアルバム『activecamouflage』をOILWORKS Rec.よりリリース!

本作では、CHOUJIならではの心揺さぶるワードと、耳に残るフロウに、Olive Oilの極上のビートが相まった素晴らしい仕上がり!アルバムを通して、2人の痕跡を感じさせる南の島へと導かれていき、温かく、縦にも横にも揺らされていく全16曲を収録。アートワークはPopy Oil、マスタリングは塩田浩氏が担当した、クオリティも間違いなしの1枚!

【アーティスト】Cholie Jo (CHOUJI & Olive Oil)
【タイトル】active camouflage
【品番】OILRECCD032
【販売価格】2,500yen (2,750yen tax in)
【フォーマット】CD
【レーベル】OILWORKS Rec.
【バーコード】4988044857186
【発売日】2022.12.14 (wed)

【トラックリスト】
01. south window
02. olololoLow
03. umaku
04. odorasete
05. kamasereba
06. katumadewa
07. hosomaki
08. musuko
09. sarani big
10. norowareteru
11. oli oli oil
12. mata detetta
13. kaeriwa madakana
14. amegafureba
15. choushi yosasou
16. peakwamotto atodeii

All Tracks Produced by Olive Oil
All Lyrics by CHOUJI
Album Mastered by Hiroshi Shiota
Designed by Popy Oil

■プロフィール

CHOUJI
沖縄県石垣島出身 現在沖縄本島を拠点に活動中
rapper,beatmaker,producer,mix&masteringEngineer,
C-TV(YouTube) studiOKItchin DGHstudio

Olive Oil
南の楽園設計を夢見る男。風は常に吹いている。人並外れた製作量と完全無欠のアイデアで世界を翻弄しつづける無比の個性。クリエイター集団OILWORKS プロデューサー/リミキサー/DJ。ワールドワイドでありながらアンダーグラウンドシーンと密接に結びつく感覚は唯一無二。国内外のレーベルから作品を発表し国内、海外ツアーを行うなど、全国、全世界へとOILWORKSの世界観を発信。これまで、FUTURA、Hennessy、Adidas Documentary、UNIQLO、Nike、STUSSY、X-LARGE、COLEMAN、Tokyo Jazz、Hp Slate7等のコラボレーションワークで国内外メディアから注目を集め、近年ではVOGUE JAPAN 20周年、REDBULL JAPAN等への楽曲提供を行う。さらに、ジョイント作品も高く評価され2021年にはKing Of Diggin ことMUROとプロジェクトM%O、韓国のピアニストCHANNY Dとの作品、2022年にはSNEEEZEとのアルバムも話題を集める。現在も多数のプロジェクトを進行中でPopy Oilと共に新たな世界を模索する。

Koshiro Hino (goat & KAKUHAN) - ele-king

 バンドgoatを率いる一方、YPY名義でも電子音楽作品を発表している日野浩志郎。昨年は鼓童とのコラボ・プロジェクトがあったが、来る12月26日、大阪の枚方関西医大小ホールにて、goatとしては5年ぶりとなる国内公演が開催される。結成10周年を迎える2023年に向け、新作も準備中とのこと。
 そしてもうひとつニュース。日野がチェリストの中川裕貴と組むユニット「KAKUHAN」の初のアルバムが数日前にリリースされている。これが素晴らしい内容なのであらためてレヴューで紹介する予定ですが、そのKAKUHAN初の単独公演が今月の19日と20日、こちらは京都芸術センター講堂にて開催。
 年の瀬も押し迫るなか、日野浩志郎の動きから目が離せない。

日野浩志郎率いるバンド「goat」、約5年ぶりの国内公演開催が決定

電子音楽ソロプロジェクト「YPY」をはじめ、舞台作品「GEIST」や、太鼓芸能集団 鼓童とコラボレートした音楽映画「戦慄せしめよ/Shiver」(2021年公開、豊田利晃監督)などで知られる音楽家・作曲家の日野浩志郎を中心に活動を行うバンド「goat」が、今年の12月26日に大阪の枚方にて約5年ぶりとなる国内公演を行うことが決定した。

オリジナルメンバーの日野、田上敦巳、安藤暁彦に加え、MANISDRON、The Noupのドラマー岡田高史と、元鼓童の篠笛・パーカッション奏者である立石雷の5人編成で活動中の「goat」は、来年2023年の結成10周年に向け、約8年ぶりとなる新作アルバムを制作中だ。

今回の公演は、アルバム収録予定の新作楽曲を交えたおよそ60分ほどの演奏となる予定。

会場となるのは、昨年開館したばかりの枚方市総合文化芸術センター内にある関西医大小ホール。客席は約300席、内装壁面にレンガを採用し、豊かな響きと遮音性にも優れたホールとなっている。

宣伝美術は画家の五木田智央、音響は新作のレコーディングエンジニアでもある西川文章が担当。

公演に合わせて会場限定物販の販売や、北加賀屋 club daphniaでのアフターパーティーも予定している。

[公演概要]

goat 枚方関西医大小ホール公演

日時 12月26日(月)18:30開場 / 19:00開演
会場 枚方市総合文化芸術センター 関西医大小ホール(大阪府枚方市新町2-1-60)
チケット 前売り 4,000円 / 当日 4,500円 / U25 3,000円(https://goat-hirakata.peatix.com/)

出演 goat(日野浩志郎、田上敦巳、岡田高史、立石雷、安藤暁彦)
音響 西川文章
照明 渡辺敬之
宣伝美術 五木田智央(アートワーク)、真壁昂士(デザイン)
主催 株式会社鳥友会
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業

[プロフィール]


goat

2013年に日野浩志郎を中心に結成したグループ。元はギター、サックス、ベース、ドラムの4人編成であるが、現在は楽曲によって楽器を持ち替えていく5人編成で活動している。極力楽器の持つ音階を無視し、発音させる際に生じるノイズ、ミュート音などから楽曲を制作。執拗な反復から生まれるトランスと疲労、12音階を外したハーモニクス音からなるメロディのようなものは都会(クラブ)的であると同時に民族的。
https://emrecords.bandcamp.com/album/new-games-rhythm-sound
https://goatjp.bandcamp.com/

《 goat after party 》
日時 12月26日(月)23:00開場
会場 club daphnia(大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-5-1)
チケット 当日 2,500円+1drink *goat枚方公演参加者は1,500円+1drink

出演者:
YAMA
MITAYO



YukiNakagawa2022

KAKUHAN「musica s/tirring」

開催日時:
2022年11月19日(土)・20日(日)
開場 14:30
開演 15:00(17時終了予定)

会場:
京都芸術センター講堂/フリースペース

出演者・スタッフ・クレジット:
出演 KAKUHAN(日野浩志郎、中川裕貴)
音響 西川文章
音響プログラミング 古館健
照明 渡辺敬之
美術 OLEO
舞台監督 十河陽平
宣伝美術 白石晋一郎(写真)、清田優(デザイン)

主催 株式会社鳥友会、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会

チケット料金:
前売り 3,000円
当日 3,500円
U25 2,000円

予約:
peatix
https://musica-stirring.peatix.com

京都芸術センターウェブサイト
https://www.kac.or.jp/events/32818/

京都芸術センター 窓口 [10:00-20:00]
〒604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
*窓口販売のみ。電話・FAXによる予約は不可。

アクセス:
京都芸術センター
604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
Tel: 075-213-1000 Fax: 075-213-1004
E-mail: info@kac.or.jp URL: https://www.kac.or.jp/

地下鉄烏丸線「四条駅」、阪急京都線「烏丸駅」
22番・24番出口より徒歩5分。
駐車場はございません。公共交通機関をご利用ください。

日野浩志郎と中川裕貴によるユニット「KAKUHAN」初の単独公演「musica s/tirring」を開催します。
大阪と京都を拠点とし、国内外で活動する日野と中川はそれぞれ、ライブ演奏だけでなく、舞台や映画の音楽制作などの多様な活動を続けるなかで、既存の音楽の範疇を逸脱しながら、音楽がもつポテンシャルに対して深い思考/試行を巡らせてきました。そうした両者は、オーケストラ公演など、これまで様々な作品を共に制作して作ってきましたが、デュオという最小単位での制作は、本公演が初めての機会となります。
公演タイトルの「musica s/tirring」は、日野と中川の制作コンセプトから名づけられました。「撹拌」を意味する「stirring」。それにスラッシュが付されることで、「s/t」という「セルフタイトル」を意味する表記が形づくられています。そうした語を「musica(音楽)」と結び付けること。すなわち、日野と中川は、音楽を攪拌することと、音楽そのものであることを、時に重ね合わせ、時に両者の間を往還することで、制作を行ってきたのです。
本公演では、そのようにして両者が制作した楽曲を「負(OU)」と「角(KAK)」というふたつに分けて構成し、京都芸術センターの講堂とフリースペースにて演奏を行います。


KAKUHAN - Metal zone

KAKUHAN is
Koshiro Hino - electronics
Yuki Nakagawa - cello

A1. MT-DMZ
A2. MT-STM
A3. MT-ZN1
A4. MT-BZSR

B1. MT-SS1
B2. MT-AUTC
B3. MT-RWV
B4. MT-ZUC

NKD06
Mastered by Rashad Becker
Mixed by Bunsho Nishikawa
Lacquer Cut by Loop-O
Artwork by Shinichiro Shiraishi
Art coordination by Yusuke Nakano
Designed by Takashi Makabe
Published by Edition Golfen & Reiten / Freibank

Koshiro HinoとYuki NakagawaによるKAKUHANの1stアルバム「Metal Zone」は「電子音楽/弦楽」、「現代音楽/クラブミュージック」、「トラディショナル/コンテンポラリー」、「フィジカル/メタフィジカル」、「作曲/即興」など、様々な異なる要素がそのユニット名の通り「攪拌」されている。それは、チェロと電子音、ヒトとマシーン、アコースティックとエレクトロニクスによる別の「レフトフィールド」のかたちとも言えるのではないだろうか。
これまでEM records、Workshop、WhereToNow?、Nous、Acido、BLACK SMOKER RECORDSなどから作品をリリースしているKoshiro Hino。彼の主な作曲作品として、電子音楽とエレクトロニクスのハイブリッドオーケストラ「Virginal Variations」(2016)、Eli KeszlerやJoe Taliaなどをゲストに迎えて行ったシアターピース「GEIST」(2018-)、FUJI|||||||||||TAと共に作曲を行った「INTERDIFFUSION A tribute to Yoshi Wada」(2021-)がある。そしてそれら全ての作品にYuki Nakagawaはチェロプレイヤーとして参加してきた。
Yuki Nakagawaは京都を中心に活動するチェリスト、作曲家、演出家。彼は独学でチェロを学び、独自で生み出した様々な特殊奏法やチェロを使用したライブエレクトロニクス演奏に長年取り組んでいる。また近年では自作のチェロ弓を使用した演奏も行うなど、「チェロ」という楽器のもつポテンシャルを最大限に引き出すパフォーマンスを10年以上にわたり行ってきている。ただこれまで正式なリリース音源はほとんどなく、このKAKUHANの音源は彼の貴重な演奏記録ともなる。
このデュオ「KAKUHAN」の音楽制作が半ば偶発的にスタートした。「GEIST」の制作の為にスタジオに入った二人だったが、息抜き的に即興演奏をエレクトロニクスとチェロで録音したことが活動の始まりとなった。二人は単なるライブや音源作品だけでなく、舞台芸術やダンス、映画などの音楽制作など、それぞれにジャンルをまたぎ幅広く活動してきたが、特にコンセプトや目的等を設けず音楽制作を開始することから多くの発見や様々な音が生み出された。その後も2021年に複数回にわたりレコーディングセッションを行い、デュオでのライブ活動も開始。2022年にユニット名を「KAKUHAN」とし、この作品がデビューアルバムとなる。
今回のアルバムはアートワークとして、イギリスの映画監督、舞台デザイナー、作家、園芸家であるデレク・ジャーマンの庭を写真家Shinichiro Shiraishiが撮影したものが使用されている。このアートワークの中にみえる人工物/自然物、具象/抽象、動的/静的のイメージは、KAKUHANの音楽のかたちをビジュアルとして現すものだ。KAKUHANの音楽には、デレクジャーマンの庭がそうであったように、自然/人工の間にひそむ何か、また様々な音楽の「状態」が在る。
「Metal Zone」の奥から聴こえるストリングの音や声(チェロは人間の声に一番近い楽器である)、響くビートや電子音は、現代音楽/クラブミュージックがこれまで遂げてきた変貌の道の上にある。電子音とアコースティック楽器の融合、楽器の音を電子化する、電子化された音から聴覚を通じて何かを想像することは、これまでの実験音楽や現代音楽でも行われてきたものだが、KAKUHANのこのアルバムから聴こえるものは、それをさらに別のものへと転化させている。
音楽の中で無自覚に生み出され、放置された様々な「ゾーン」をKAKUHANは今、さらに攪拌する。

interview with Dry Cleaning - ele-king

 『Stumpwork』というのはおかしな言葉だ。口にしてみてもおかしいし、その意味を紐解くのに分解してみると、さらに厄介になる。「Stump(=切り株)」とは、壊れたものや不完全なもの、つまり枯れた木の跡や、切断された枝があった場所を指す。そして、そこに労働力(= work)を加えるのは奇妙な感じがする。

 「Stumpwork」とは、糸や、さまざまな素材を重ねて、型押し模様を作り、立体的な奥行きを出す刺繍の一種で、もしかしたら、そこにドライ・クリーニングの濃密で複雑なテクスチャーの音楽とのつながりを見い出すことができるかもしれない。しかし、まず第一に、この言葉が感覚的に奇妙でおかしな言葉であることを忘れないでいよう。

 フローレンス・ショウは、いま、英語という言語を扱う作詞家のなかでもっとも興味深い人物の一人であり、面白くて示唆に富む表現に関しての傑出した直感の持ち主である。アルバム・タイトルでもそうだが、彼女は言葉の持つ本質的な響きというテクスチャーに一種の喜びを感じているようだ。“Kwenchy Kups”という曲では、歌詞の「otters(発音:オターズ)」という単語で、「t」を強調し、後に続く母音を引きずっているのが、音楽らしいとも言えるし、ひそかにコミカルとも言える。また、「dog sledge(*1)」、「shrunking(*2)」、「let's eat pancake(*3)」といった言葉や表現には、「あれ?」と思うくらいのズレがあるが、言語的な常識からすると、訳がわからないほど逸脱しているわけではなく、ちょっとした間違いや、型にとらわれない表現の違和感を常に楽しんでいることがうかがえる。このような遊び心あふれるテクスチャーは、「Leaping gazelles and a canister of butane (跳びはねるガゼルの群れと、ブタンガスのカセットボンベ)」のような、幻想的なものと俗なものを並列させる彼女の感性にも常に息づいている。ドライ・クリーニングの歌詞は、物語をつなぎとめる組織体が剥ぎ取られ、細部と色彩だけが残された話のように展開する。何十もの声のコラージュが、エモーショナルで印象主義的な絵画へと発展していくのだ。

*1: 正しくはdog sled(=犬ぞり)。「Sledge」はイギリス英語で「そり」なので、dogと合体してしまっているが、dog sledが正確には正しい。
*2: 正しくはshrinking(=収縮)。過去形はshrank、過去分詞はshrunk、現在進行形はshrinkingでshrunkingという言葉は存在しない。動詞の活用ミス。
*3: 正しくはLet’s eat a pancakeもしくはLet’s eat (some) pancakes。文法ミス。冠詞が入っていないだけだが、カタコト風な英語に聞こえる。

 音楽性において『Stumpwork』は、彼らの2021年のデビュー作『New Long Leg』(これも素晴らしい)よりも広範で豊かなパレットを露わにしている。ドライ・クリーニングのサウンドは、しばしばポスト・パンクという伸縮性のある言葉で特徴付けられ、トム・ダウズの表情豊かなギターワークからは、ワイヤーの尖った音や、フェルトやザ・ドゥルッティ・コラムの類音反復音を彷彿とさせるような要素を聴くことができるが、彼は今回それをさらに押し進めて、不気味で酔っ払ったようなディストーションやアンビエントの濁りへと歪ませている。ベーシストのルイス・メイナード、ドラマーのニック・バクストンは、パンクやインディの枠組みを超えたアイデアやダイナミクスを取り入れた、精妙かつ想像力豊かなリズムセクションを形成している。オープニング・トラックの“Anna Calls From The Arctic”では、まるでシティ・ポップのような心地よいシンセが出迎えてくれるし、アルバム全体を通して、予想外かつ斜め上のアレンジが我々を優しくリードしてくれる。このアルバムは、聴く人の注意を強烈に引きつけるようなものではなく、煌めくカラーパレットに溶け込んでいく方が近いと言えるだろう。

 だがこの作品は抽象的なものではない。現実は、タペストリーに縫い込まれたイメージの断片に常に存在するし、自然な会話の表現の癖を捉えるショウの耳にも、そして彼女の蛇行するナレーションとごく自然に会話を交わすようなバンドの音楽性とアレンジにも存在している。ある意味、このアルバムはより楽観的な感じがあって、人と人がつながる幸せな瞬間や、日常生活のささやかな喜びに焦点を当てているのだが、やはり、フローレンスの歌い方は相も変わらず、不満げで、擦れた感じがある。イギリスの混乱した政治状況は、曲のタイトル“Conservative Hell”に顕著に表れているのだが、私は、とりわけ混乱した状況の最中にトムとルイスと落ち合うことになった。イギリス女王は数週間前に埋葬されたばかりで、リズ・トラス首相の非現実的な残酷さが、ボリス・ジョンソンのぼろぼろな残酷さに取って代わったばかりで、リシ・スナックの空っぽで生気のない残酷さにはまだ至っていないという状況だった。

 3年ぶりにイギリスを訪れた私は、いきなりこんな質問で切り出した。

最近のイギリスでの暮らしはどのような感じですか?

トム:ニュースを見ていると、まるで悪夢だよ。しかも、すべてはいままでと同じような感じで進んでいる。新しい首相が誕生したことで、ひとつ言えることは、いまがまさにどん底だってことで、保守党政権の終焉を意味してるということ。12年間も緊縮財政を続けたのに、何の成長もなかったから、上層部の議員でさえ、もはや野党になる必要があるなんて言っているんだ。まあ、良い点としては、次の選挙で保守党が落選することだろう。デメリットは、保守党落選まで、俺たちは、彼らが掲げる馬鹿げた政策に付き合わなければならないってことだね。

ルイス:うちの妹みたいに政治に全く興味のない人でも、「ショックー! マジでクソ高い!」って言ってるんだ。 請求書や食料の買い出しなど、いまは本当にキツイ状況になってる。

トム:まさにその通りだね。もし次の選挙で負けたいなら、国民の住宅ローンをメチャクチャにしてやればいい!


by Ben Rayner(左から取材に答えてくれたギターのトム、中央にベースのルイス、そしてヴォーカルのフローレンスにドラムのニック)

ニュースを見ていると、まるで悪夢だよ。しかも、すべてはいままでと同じような感じで進んでいる。新しい首相が誕生したことで、ひとつ言えることは、いまがまさにどん底だってことで、保守党政権の終焉を意味してるということ。12年間も緊縮財政を続けたのに、何の成長もなかったから、上層部の議員でさえ、もはや野党になる必要があるなんて言っているんだ。

私の家族も同じようなことを言っていますよ。さて、この話題をどうやって新しいアルバムにつなげようかな......(一同笑)。先ほど、普段通りの生活をしながらも、現在の状況が断片的に滲み出てきているとおっしゃっていましたね。もしイギリスの政治情勢がアルバムに影響を与えているとしたら、それは日常生活のなかに感じられる、そういったささやかな断片なのだと思います。例えば、ある曲でフローレンスは「Everything’s expensive…(何から何まで物価は高いし...)」と言っていますよね。

トム: 「Nothing works(何をやっても駄目)」そうなんだよ。俺たちがフローの歌詞についてコメントするのはなかなか難しいんだけど、彼女は、ひとつのテーマについて曲を書くということは絶対にしない人なんだ。彼女の曲を聴いていると、脳の働き方がイメージできる。俺は以前、自転車に乗っていて車に轢かれたことがあるんだが、気絶する直前、不思議なことがいろいろと頭に浮かんできたんだ。でも、さっき俺が言った「いままでと同じような感じで進んでいる」というのは、「いままでと同じような感じで進んでいるけど、すごく抑圧的な空気が影に潜んでいる」という意味なんだ。それでも仕事に行かないといけないし、請求書も払わないといけないし、日常のことはすべてやらないといけない。ただ、政治情勢がね……俺たちは12年間この状況にいたわけで、少しでも好奇心や観察力がある人なら、その影響を受けていると思うよ。

ルイス:俺たちはいつもひとつの場所に集まって、一緒に作曲をする。フローは、自分の書いた歌詞を紙に束ねて持って来るから、それを組み合わせたり、繋げたり、丸で囲んだり、位置を変えたりしている。そうやって、様々なアイデアが集まるコラージュのようなものを作っているんだ。

(ドライ・クリーニングの音楽を)聴いていると、何かの断片が自分を通り越していくような感じがするんです。

トム:でも、ランダムってわけじゃない。彼女は、歌詞を一行書くと、次は、逆の内容を書くという性分みたいなものがあると思う。響き的にも、テクスチャー的にも、コンセプト的にも、まったく違うものを書くんだよ。例えば、絵を描くときに、すべての要素がうまく調和するようにバランスをとっているような感じかもしれない。

ルイス:俺たちが自分たちのパートを演奏することで彼女の歌詞に反応するという、会話みたいなことをたくさんやっているんだ。

(アルバムには)日常生活の断片のような一面もあるので、自分たちでアルバムを聴いていて「あ、この会話覚えてる……」と思ったりすることはあるんですか?

トム:ああ、たしかに俺たちの言ったこととか、自分がいた場で友だちが言ったこととかが、歌詞に入ってるよ。

ルイス:俺たちの演奏と同じように、彼女も即興で歌詞を書くことが多いし、あらかじめ考えたアイディアも持っている。バンドで演奏しているときは、その場の音がかなりうるさいから、ヴォーカルだけ別録りして、フローが言ったことを自分で聴き返せるようにしたんだ。今回のアルバムでは、ファーストよりも、レコーディングのプロセスで歌詞を変えていたことが多かったみたいだけど、それほど大きな違いはなかったと思う。

トム:それは、スタジオでの即興をたくさんやったからということもある。でも、だいたいの場合、フローは俺たちが曲を作り始めるタイミングと同じ時に作詞をはじめるんだ。曲を書きはじめる時はみんなで集まって、ルイスが言っていたように、フローがやっている何かが、俺たちのやっていること、つまりサウンドに影響することがよくあるんだよ。“Gary Ashby”を作曲しているときは、フローが、行方不明になった亀について歌っていると知った時点で、こちらの演奏方法が変わった。フローが言っていることをうまく強調する方法を探したり、フローの歌詞をもっと魅力的にできるように、もっとメランコリックにできるように工夫する。以前なら使わなかったマイナーコードなどを使うかもしれない。音楽を全部作った後に、彼女が別の場所で歌詞を書くということはめったにないよ。もっとオーガニックな形でやってるんだ。

ルイス:俺たちは、他のメンバーへの反応と同じような方法で、フローにも反応する。俺がドラムに反応するのと同じように、彼女のヴォーカルにも反応するし、その逆もしかり。(フローの声は)同じ空間にある、別の楽器なんだ。

初期のEPや、特に前作と比べて、(作曲の)アプローチはどのように変化したのでしょうか?

トム:作曲のやり方はいまでも変わらないよ。基本的にみんなでジャムして作曲するんだ。

ルイス:携帯電話でデモを録ることが多いね。みんなでジャムしていて、「これはいい感じだな」と思ったら、誰かが携帯電話を使って録音しはじめる。そして、翌週にその音源で作業することもあれば、半年間放置されていて、誰かが「そういえば、半年前のジャムはなかなか良かったよな」って思い出すこともある。ほとんどの曲はそんな始まり方だよ。今回はスタジオにいる時間が長く取れたから、意図的に、曲が完成されていない状態でスタジオに入ったんだ。

トム:そう、アプローチの違いは、基本的に時間がもっと使えたということ。前回は2週間しかなくて、なるべく早く仕上げないといけなかった。

ルイス:それに、ファースト・アルバムのときは、事前にツアーをやっていたから、レコーディングする前にライヴで演奏していた曲もあったんだ。今回は、ツアーができなかったから、アルバムをレコーディングし終わって、いまはアルバムの曲を練習しているところなんだ。

なるほど。曲を作曲している段階で、観客の存在がなかったということが、この作品のプロセスにどのような影響を与えたのか気になっていました。

トム: 実際に曲をライヴで演奏して試してみないとわからないから、何とも言えないね。その状況を受け入れるしかなかったよ。ライヴで曲を演奏することができなかったから、自分たちがいいと思うようなアルバムを作ることにしたのさ。

ルイス:(自分たちの曲を)聴くってことが大事だと思う。スタジオでは、また違った感じで音が録音されるから。スタジオで実験できるのはとてもいいことだし、俺たちの曲作りのプロセスには聴き返すという部分が多く含まれている、ジャムを聴き返すとかね。もし俺たちがレコーディングして、それを聴き直して編集するという作業をしていなかったら、ほとんどの曲は、演奏していて一番楽しいものがベースになるだろうけど、実際はほとんどそうならない。聴き返すということをちゃんとしているから。ライヴで演奏できなかったけれど、結局、同じようなことが起こったと思う。つまり、何が演奏して楽しいかよりも、何が良い音として聴こえるか、ということに重きが置かれることになるんだ。

トム:それと、1枚目のアルバムで学んだのは、あるひとつの方法でレコーディングしたからといって、必ずしもそれがライヴで再現される必要はないということ。だから、今回のアルバムをいまになって、またおさらいしているんだ。アルバムには絶対に入れるべき要素もあるけれど、また作り直していいものもある。『New Long Leg』のツアーでは、“Her Hippo”と“More Big Birds”に、新しいパートを加えたり、尺を長くしたりしていたから、この2曲は(アルバムヴァージョンより)少し違う曲になったんだ。

ルイス:偶然にそうなるときもあるよね。ツアーを通して、曲が自然に進化していくこともある。

[[SplitPage]]

俺たちはいつもひとつの場所に集まって、一緒に作曲をする。フローは、自分の書いた歌詞を紙に束ねて持って来るから、それを組み合わせたり、繋げたり、丸で囲んだり、位置を変えたりしている。そうやって、様々なアイデアが集まるコラージュのようなものを作っているんだ。

今回のアルバムを聴いていてしばしば感じたことなのですが、曲が自然な形で完結し、これで終わりかなと思ったらまた戻ってきて、それが時にはそれまでとは全く違う感じになっているということがありました。それも、スタジオで色々と作業する時間が増えたからなのでしょうか?

トム:それにはいくつかの要因があると思う。まず、“Every Day Carry”を作ったときは、初めてスタジオで三つのパートを作って、そのなかでも即興演奏を加えたりした。“Conservative Hell”のときは、曲の最後の部分は、曲の最初の部分を完成させてから、何かが足りないと感じていたところに、ジョン(・パリッシュ、プロデューサー)が、何か作り上げようという気にさせてくれたから、出来たものなんだ。

ルイス:ファースト・アルバムでは、ジョンは曲を短くするのがとても上手だったけど、“Every Day Carry”では曲を伸ばそうという意図があった。ジョンにとっても、そのプロセスが実は楽しかったみたいだ。セカンド・アルバムのときも、ジョンはまた曲を短くするんだろうと覚悟していたんだけど、彼はもっと曲を伸ばそうとしていた。長くするのを楽しんでいたみたいだった。「曲は長い方がいいんだ!」とか言って。ジョンが曲を長くしてくれたことに、俺たちは驚きだったよ。

プロデューサーのジョン・パリッシュのことですね?

ルイス:そう。

ジョン・パリッシュは、私の地元ブリストル近辺の出身なんです。彼は、私が大好きなアルバム、ブリリアント・コーナーズの『Joy Ride』をプロデュースしたんですよ……(一同笑)。彼が他にも、さらに有名なアルバムを手がけているのは知っていますけど、私はとにかくブリリアント・コーナーズが大好きなんですよね。

トム:それがジョンのいいところだよね。自慢話をするような人ではないし、あまり有名人の名前を出したりしないんだけど、一緒に夕食をとっているときに、何か言ったりする。ジョンがトレイシー・チャップマンのレコードを手がけたって言うから、俺は「何だって!?」と思ったよ。彼にはそういうエピソードがあるんだけど、それは自然に彼から引き出さないといけないんだ。

ジョンとの制作は2回目ということで、親しみもあり、リラックスした雰囲気で仕事ができたのでしょうか?

トム:そうだね、それにはいくつかの理由があると思う。まず、自分たちの状態が安定していたということ。『New Long Leg』が好評だったことも自信につながったし、あの時点では、もっと大規模な公演にも出ていたから、とにかく気持ちが楽だったんだ。最初のアルバムでは、テイクを重ねながら、「これは絶対に素晴らしいものにしないといけないから、俺は全力を尽くさねば!」なんて思っていたんだけど、実際には、そんなこと思わなくていいんだと後で気づいた。アルバムを制作するということはとても複雑なことで、本当に数多くの段階があるから、ミキシングとマスタリングが終わる頃には、自分がそもそも何をしようとしていたのかさえ、すっかり忘れているんだ。だから、今回のアルバムでは、ある意味、ありのままを受け入れた。良いテイクを撮ろうとはするけれど、ジョンが満足すれば、次の作業に移るということをしていた。

ルイス:それにファースト・アルバムでは、ジョンと会った直後にレコーディングしたんだ。彼に会って、ほんの数時間で“Unsmart Lady”を録音して、次の曲に移って、また次の曲に移ってという感じ。バンドとして演奏する時間があまりなかったんだ。

トム:そうそう、それに前回は、彼が「それは嫌だから、変えて」とか言うもんだから、耐性のない俺たちにはショックだったよな(笑)。

ルイス:そうそう、で、トムは「え、今からですか?」ってなってたよね。前回は、日曜日に休みが1日だけあって、土曜日にジョンに「それは嫌だから、明日の休みの日の間に変えてくれ。では、月曜日に!」って言われたんだ。

トム:でも、前回のセッションが終わるころには、俺たちはすっかり溶け込んでいた。ジョンの仕事の仕方が気に入ったし、彼のコメントを個人的に受け止めなくていいってことが分かった。それに俺たちの自信もついたし、バンドとして少したくましくなったから、彼のコメントにもうまく対処できるようになった。だから、2枚目のアルバムでは、もしジョンが何かを違う風にやってみろと言ったら、俺たちは素直に違うやり方を模索した。

ルイス:それに、今回は音源に何か変更を加えるためにスタジオ入りしたという感じもある。最初のアルバムでは、多くの曲を既にライヴで演奏していたから、みんな自分のパートやアイデアに固執してしまっていて、それを変えるのは難しかった。でも今回は、もっとオープンな気持ちで臨んだんだ。

今回のアルバムは、ファースト・アルバムに比べて音の質感がかなり広がった感じがあります。それは自然にそうなったのでしょうか、それとも何か意識的に音を広げる要素があったのでしょうか?

トム:俺たちの音楽の好みが広いから、そうなることは自然だと思うんだよね。もし、もっと時間があれば、俺はアンビエント系のプロジェクトをやりたいと思うし、ルイスと一緒にメタル・バンドをやりたいとか、いつも思うんだよ。ニックはきっと何らかのダンス・ミュージックをやるだろうな。

ルイス:ドライ・クリーニングは、そうしたすべてのアイデアをさまざまな方向にうまく展開させた、素敵なコラボレーションなんだ。

トム:ルイスが1枚目のアルバムから今回のアルバムへの移行を説明したように、1枚目のアルバムでは、様々な方向に進むための余白がほとんど残っていなかった。2枚目のアルバムでは、そこから少し先に進めたという感じ。そして、もし次のアルバムを作る機会があれば、できれば3枚目のアルバムでは、さらにそれを発展させたいと考えているんだ。いろいろな道を模索していきたいと思っている。だから、もう少しアンビエントな方向に行きそうなときでも、「いや、こういう音楽は作りたくない」とはならずに、その流れに乗ることができるんだ。俺たちは、すでにそういう音楽が好きだからね。

ルイス:それに、スタジオで何ができるかということもいろいろと学んでいる。最初のEPはデモみたいなもので、2、3時間でレコーディングした。スタジオで演奏する時間があまりないから、リハーサルルームでいい感じに聴こえたものを、自分のパートとして書き留めていくような感じだった。2枚目のアルバムでは、スタジオ用に曲を書いていたという意識が強かった。曲を書いていて、トムが「この上に12弦ギターを乗せるべきだ!」などと言い出したりね。キーボードのパートがあったとしたら、ニックが静かに演奏しながら「アルバムではもっと大音量にするけど、こうやって弾くとすごくいい音になるんだよ」と言ったりね。そういう実験がもっとできるようになったんだ。

そのアンビエントな感じがもっとも顕著に表れているのが“Liberty Log”ではないかと思いますが、スポークン・ワードが大部分を占める曲のために作曲することというのは、従来のポップ・ソングのヴァース、コーラス、バースという構成に比べて、別のやり方で音楽を構成していくことになるのではないかと思うのですが。

ルイス:メンバーの誰かが「じゃあ、そろそろコーラスを演奏してみるか?」と言うんだけど、他のメンバーが「どれがコーラスなの?」って聞き返すことが何度もあったよ。

トム:そうそう、「どれがコーラス?」って。

ルイス:それで、どこがでコーラスなのか、みんなで決めるんだよ。

トム:それは実は良い傾向だと思うんだ。俺たちは皆、それぞれ別の考え方をしているけど、そんななかでも音楽は成立しているんだってこと。これは俺も同感なんだが、ルイスは過去のインタヴューで、俺たちのアイデンティティの強さのひとつは、すべての中心にフローがいることだと言っていて、彼女の声が俺たちをしっかりと固定して支えてくれることだと言っていた。たしかにミュージシャンとして、いろいろなものを取り入れる余地が与えられているように感じられるね。“Hot Penny Day”を書きはじめたとき、俺が最初にメイン・リフを書いたんだが、それは、『山羊の頭のスープ』時代のローリング・ストーンズみたいなサウンドに聴こえたんだけど...。

ルイス:誰かが、それをぶち壊したんだよ!

トム:それをルイスに聴かせて、一緒に演奏し始めたら、スリープみたいなストーナー・ロックみたいなものに変わり始めて、よりグルーヴィーになったんだ。

ルイス:そこにフローが加わると、一気にドライ・クリーニングのサウンドになるんだ。彼女の声や表現が、俺たちの音楽に幅を与えてくれていると思う。

トム:ミュージシャンとして、このメンバーと5年間一緒に仕事をしてきて、みんなそれぞれ、音のモチーフがあると思うんだ。ルイスだとわかる音があり、ニックだとわかる音があり、彼らにも俺だとわかる音がある。でもフローは間違いなくドライ・クリーニングという世界で、すべてを錨のように固定して、支えている存在なんだ。

by Ben Rayner

俺たちは皆、それぞれ別の考え方をしているけど、そんななかでも音楽は成立しているんだってこと。これは俺も同感なんだが、ルイスは過去のインタヴューで、俺たちのアイデンティティの強さのひとつは、すべての中心にフローがいることだと言っていて、彼女の声が俺たちをしっかりと固定して支えてくれることだと言っていた。

あなたがたが過去に活動していたバンド、サンパレイユとラ・シャークの作品を聴いていたのですが、例えばサンパレイユは一見パンク・バンドですが、わかりやすいパンク・バンドではないし、ラ・シャークは少しインディ・ポップ・バンドっぽいですが、これまたわかりやすいバンドではないように感じます。常に予期せぬ角度から攻めている気がするんです。

トム:俺たちが過去にいたバンドをチェックしてくれたのはすごく嬉しいよ! ドライ・クリーニングを理解するには、俺たちが過去にやってきたことがルーツになっていると思うからね。あなたが言う通り、俺たちは音楽の趣味が広い。俺が最初に経験した音楽はパンクやハードコアのバンドだったけど、スタイル的にかなり限界があると思っていたんだ。速い音楽のカタルシスも好きなんだけど、REMのメロディも好きなんだよ。ラ・シャーク(の演奏)は何度か見たことがあるけど、彼らは、明らかに歪んだ感じのポップ・バンドだったけど、後期の作品はインストゥルメンタルなファンカデリックのようなサウンドだったんだ。そんなわけだから、自分たちのいままでの影響をすべてひとつのバンドに集約するには時間が足りないんだよ。

ルイス:俺は運転中に、ふたつのバンドを組み合わせたらどうなるかっていう妄想をいろいろするんだけど、トムやニックやフローに会ったときに、そのアイデアを話すんだ。すると、彼らは「それ、やってみようよ!」と言ってくれる。で、やってみると、やっぱりドライ・クリーニングになるんだよね。ニュー・アルバムからフローのヴォーカルを抜いたら、いろんなジャンルに落とし込めそうな素材がたくさんあると思う。

フローレンスはすべての中心にいて、バンドのアイデンティティを束ねているとのことですが、同時に、彼女は少し離れているようなところもありますよね。新作では、ミックスの仕方だと思うのですが、以前よりもさらに、バンドがどこかひとつの場所で演奏しているように聴こえるのに、彼女のヴォーカルが入ってくると、まるで彼女が耳元で歌っているように聴こえるんです。まるで、自分がステージ上のバンドを観ているときに女性が耳元で囁いているような。

ルイス:それを聞いて、フローがバンドに入った経緯を思い出したよ。たしか、トムがバンド(の音楽)を演奏していたときに、フローがそれにかぶせるようにしゃべったのがはじまりだったね。

トム:俺たちは一緒にヴィジュアル・アートを学んでいて、当時は二人とも漫画の制作をしていて、その話をするために会ったんだ。彼女が「最近は他に何してるの?」と聞いてきたから、「ルイスとニックとジャムしはじめたよ」と答えた。そのときにちょうどデモがいくつかあったから、彼女に聴いてもらった。彼女はイヤホンを取り外して、「ふーん、面白いわね」と言って、喋りを再開したんだけど、まだイヤホンから音が出ていて、音楽が聴こえてきて、彼女の声がそれにかぶさっていた。ジョンが俺たちのバンドのことで一番興味があるのは、どうやってフローの声をミックスするかと言うことだと思うんだ。このアルバムでは、彼女の息づかいがかなり感じられるようになっている。フローはとても繊細なパフォーマーだから、彼女がするちょっとした仕草、例えば舌の動きとか、そういったごく小さな音も、ジョンは確実に取り込もうとする。このことについて、ジョンがインタヴューで語っているのを読んだことがあるけど、彼女がやっていることすべてを聴かなければならないと言っていた。それが第一で、それをベースにしてミックスを構築して、バンドの音を加えているんだ。

ルイス:レコーディングの時はいつも彼女も同席して、同時に彼女のトラックも撮る。スタジオには、隔離された部屋がいくつもあるから、俺のアンプは1つの部離すためにかなりの工夫がされているから、バンドの音の影響をあまり受けないようになっているんだ。トムが言ったように、ジョンはその点にかなり重点を置いている。

[[SplitPage]]

The texture of broken things

by Ian F. Martin

Stumpwork is a funny word. It feels funny in your mouth, and it only gets more awkward once you start breaking it down to untangle its meaning. A stump is a broken or incomplete thing — the remains of a dead tree or the place where an amputated limb used to attach — and it seems like a strange thing to dedicate one’s labour toward.

It refers to a form of embroidery where threads or other materials are layered to create an embossed, textured pattern, giving a feeling of three dimensional depth to the image, and perhaps in this we can reach out and contrive a connection with the increasingly rich and intricately textured music of Dry Cleaning. But we shouldn’t forget that it’s first and foremost a viscerally strange and funny word.

Florence Shaw is one of the most interesting lyricists in the English language right now, and she has a remarkable instinct for interesting and evocative phrasing. Just as with the title itself, she seems to take a sort of joy in the inherent sonic texture of a word — the way she hangs on the hard t and trailing vowels of the word “otters” in the song Kwenchy Kups is both musical and quietly comical. There’s a constant delight in the awkwardness of small errors and unconventional phrasings that reveals itself in words and expressions like “dog sledge”, “shrunking” and “let’s eat pancake” that deviate disconcertingly but never incomprehensibly from linguistic norms. This playful texture is also ever-present in her instinct for juxtaposing the magical and the mundane that results in lines like, “Leaping gazelles and a canister of butane”. Dry Cleaning’s lyrics play out like a story where the connecting tissue of narrative has been stripped out, leaving only the details and colour — a collage of dozens of voices that adds up to an impressionistic emotional tableau.

Musically, Stumpwork reveals a broader, richer palette than the band’s (also excellent) 2021 debut full-length New Long Leg. The band’s sound has often been characterised with the elastic term post-punk, and you can hear elements that recall the choppy angles of Wire or the chiming sounds of Felt and Durutti Column in Tom Dowse’s expressive guitar work, but he takes it further this time, twisting it into queasy, drunken distortions or ambient haze. Bassist Lewis Maynard and drummer Nick Buxton make for a subtle and imaginative rhythm section that brings in ideas and dynamics from beyond punk and indie tradition. Smooth washes of almost city pop synth welcome you into opening track Anna Calls From The Arctic, and unexpected and oblique arrangements pull you gently one way and another throughout the album. It’s not an album possessed of an urgent need to grab your attention so much as a shimmering palette of colours to melt into.

It’s not an as disaffected and worn as ever. Britain’s confused political situation filters through, most explicitly in the song title Conservative Hell, and I catch up with Tom and Lewis in the middle of a particularly chaotic moment. The Queen has just been buried a couple of weeks prior, and the delusional cruelty of prime minister Liz Truss has recently replaced the ramshackle cruelty of Boris Johnson, but not quite yet given way to the vacant, lifeless cruelty of Rishi Sunak.

It’s been three years since I last had a chance to visit the UK, so I open with a big question.

IAN: So what’s it like living in Britain these days?

TOM: If you look at the news, it’s a living nightmare. Beyond that, though, things just carry on kind of as they were before, really. One thing that I think has happened now with the new prime minister is that this is the nadir: this is the endgame of Conservative politics. We’ve had twelve years of austerity and no growth, and even high ranking MPs are sort of admitting that they need to be an opposition party now. So one good thing about that is that the Conservatives are going to get voted out in the next election. The downside is that until that happens, we have to live with the stupid policies they have.

LEWIS:Even someone like my sister, who totally ignores it, even she’s like, “It’s shocking; it’s really fucking expensive!” — the bills, the food shopping, it’s getting really tough now.

T:That’s a really good point. If you want to lose the next election, fuck with people’s mortgages!

I:I’m hearing similar things from my family too, yeah. So seeing if I can segue this into the new album… (everyone laughs) What you were saying earlier about life going on as normal but with little pieces of the situation coming through, it feels like if the political situation in the UK informs the album, it’s in these little fragments filtering through normal life, like at one point Florence just remarks, “Everything’s expensive…”

T:“Nothing works.” Yeah, it’s quite difficult for us to comment on Flo’s lyrics, but she’s definitely the kind of person who wouldn’t make a song about one subject. Her songs remind me of the way your brain works. I remember being hit by a car on my bike once, and on the edge of the void there’s all sorts of strange things that come to your mind. But I should clarify what I said earlier about how everyone’s just getting on with things: everyone’s just getting on with things but under a very oppressive shadow. You still have to go to work, you still have to pay your bills, you still have to do all the normal things, it’s just that the political climate — we’ve been under this for twelve years, and if you’re an even slightly curious or observant person, it’s going to affect you.

L:We write together in the room at the same time, and she’ll have a stack of papers which will have lyrics that she’s written and will sort of combine and join together, and there’s lots of circling that and dragging it to that, making almost a collage where lots of different ideas come together.

I:When I’m listening, it feels like fragments of something flowing past me.

T:It’s not random though. When she writes a line, she has the sort of temperament to write the opposite line next — something completely different tonally, texturally, conceptually. It’s almost like when you’re making a painting or something, you’re trying to balance all the elements so it works nicely.

L:There’s a lot of reacting to us in the room playing our parts and us reacting to her, like a conversation.

I:There’s such an aspect of fragments of daily life to it and I wonder if there’s ever a sense where you’ll be listening to it and think, “Oh, I remember that conversation…”

T:Oh, there’s definitely things that we’ve said or things that friends have said when I was there and they’re in the lyrics.

L:And like ourselves, she improvises a lot when writing her lyrics as well as having some pre-formed ideas. We’ve had to get better at finding ways to record because the room’s quite loud when we’re playing, so a lot of times we’ll separately record the vocals so she can hear back what she said. I think on this record the lyrics changed more when it came to recording than on the first record, but not a huge amount.

T:That was partly because we improvised quite a lot of stuff in the studio. But generally, Flo will start at the same time we start writing the song. We’re all there at the start of it, and like Lewis says, a lot of the time there’s something Flo is doing that informs how we’re doing our thing as well — tonally, if that makes sense. When we were writing Gary Ashby, when I found out she was singing a song about a tortoise that’s gone missing, it changes the way you play; you find ways of punctuating what she’s saying, making it more charming or melancholy, you might use a minor chord or something that you wouldn’t have done before. It’s rare that we’ll write a whole song and then she’ll go away and write all the lyrics — that never happens, and it’s a more organic thing.

L:We’ll react to her in the same way we react to each other. I’ll react to the drums in the same way I react to the drums and the guitar, and vice versa. It’s another instrument in the room.

I:How has the approach changed, since the early EPs and the last album in particular?

T:We still write in the same way. We write by basically just jamming together.

L:There’s a lot of phone demos. We’ll be having a jam, think “This sounds OK” and someone just clicks on their phone and starts recording, and then sometimes we’ll work on it the next week or sometimes it’ll get lost for six months and someone will be like, “Hey, that jam from six months ago was quite good.” That’s how almost everything starts. This time, because we had more time in the studio, we intentionally went in with ideas less finished.

T:Yeah, the change in approach was basically that we got more time. Before we had two weeks to get it down as quickly as possible.

L:Also, with the first record, we were doing some tours beforehand, so we were playing some of that record live before we recorded it. This time we didn’t get a chance to do that: we recorded it and now we’re in the process of learning it.

I:Right, and I was wondering how not having the constant physical presence of the audience while you were developing the songs affected the process on this one.

T: It’s hard to say really, because without actually road testing the song, you never know. We just embraced it really: we couldn’t play live, so we just write the album the way we wanted to.

L:It comes down to listening, because things get captured differently in the studio as well. It’s quite nice to be able to try something in the studio and a lot of our writing process comes down to listening — like listening back to jams. It’s a nice way of doing it, because if we weren’t recording and listening back and editing from there, a lot of our songs would be based on what was the most fun to play, but that rarely happens because it’s all about listening. And I think that happens as well with not being able to play it live: it’s less about what’s fun to play and more about what sounds good.

T:I think also we learned from the first record that just because you’ve recorded a song one way, that’s not necessarily how it has to be live again, so that’s why we’re sort of relearning the album now. There’s things on the album that definitely need to be on there, but there’s also things that we can just make up again.Touring New Long Leg, there’s Her Hippo and More Big Birds where they just changed and became slightly different songs — added a new part to them, made them longer.

L:Sometimes by accident as well. Sometimes they kind of naturally evolve through a tour.

I:One thing that happens a few times on the new album is that a song will work its way to a natural sounding conclusion, I’ll think it’s ended, but then it will come back and sometimes as something quite different from what it was before. Was that something that came out of having more time to play around in the studio?

T:I think there’s several factors there. First, when we did Every Day Carry, that was the first time we did that in the studio, literally making three parts and kind of improvising some of them. When we did Conservative Hell, that whole last section of that song really came from the first part of the song down and feeling like there was something missing, and John (Parish, producer) was very good at motivating us to just go and make something up.

L:On the first album, John was quite good at making songs snappy, but with Every Day Carry we sort of extended it — and I think he quite enjoyed that process. When it came to the second album, we were kind of prepared for him to make things shorter again, but he seemed to extend stuff more. i think he kind of enjoys it, like, “It’s good when it’s longer!” He surprised us quite a lot by extending songs.

I:That’s John Parish, your producer, right?

L:Yeah.

I:He’s from around my hometown in Bristol. He produced one of my favourite albums, Joy Ride by The Brilliant Corners… (everyone laughs) I know he’s done way more famous albums than that, but they’re one of my favourite bands!

T:That’s one of the great things about John: he’s not the kind of person to brag about things or he doesn’t namedrop much, but when you’re having dinner, he’ll say something — he told me he did a Tracy Chapman record, and I was like, “What!?” He’ll have these stories, but you have to get it out of him naturally.

I:Was it more relaxing working with him this second time, with the familiarity?

T:I think in several ways. Firstly, we were more comfortable, just in ourselves; we’d been doing it longer and had more confidence. The fact New Long Leg did well gave us confidence, we’d played bigger shows by that point, and we were just feeling comfortable. I remember doing takes on the first record and feeling, “This has to be amazing, I have to give this everything!” and then you realise you don’t. Making an album is so complicated, there’s so many layers to it that by the time it’s mixed and mastered, you’ve completely forgotten what it was you were trying to do. So definitely on this one we sort of accepted things the way they were; you try to get a good take, if John’s happy, you move on to the next thing.

L:With the first one as well, we recorded it so quickly with John. We met him and within a few hours, we’d tracked Unsmart Lady, then we moved on to the next one and moved on to the next one. We didn’t have time to play so much.

T:Yeah. And it was a bit of a shock to the system last time when he would say things like, “I don’t like that. Change it.” (laughs)

L:And you’d be like, “Uh… now?” We had one day off last time, on the Sunday, and on Saturday, he was like, “I don’t like that. Change that tomorrow on your day off. See you Monday!”

T:But by the time we got to the end of that session, we were really onboard with it. We liked the way he worked and you just don’t take it personally. Because you’re more confident, a bit more robust, you can deal with it a bit better — you expect it and you welcome it. So with the second record, if he says to go and do something differently, that’s what you’re looking for.

L:And we’d go into the studio looking for things to change. With the first record, we’d been playing a lot of those songs live, so maybe people were a bit more fixed on their parts and their ideas, so that’s harder to change. This one was a bit more open to change.

I:The sonic texture of this album feels a lot broader than the first one. Did that come naturally, or was there some sort of conscious element to expanding the sound?

T:I think it’s natural in the sense that our listening tastes are so broad. I often feel that if I had more time, I’d do some kind of ambient project, or me and Lewis could do a metal band together. For sure Nick would do some kind of dance music, wouldn’t he?

L:And Dry Cleaning’s a nice collaboration of all those ideas pulling nicely in different directions.

T:The way Lewis described the transition from the first record to this one, it’s like the first record left little markers down for different directions to go in and on the second record we take them all a little bit further. And then hopefully on the third one if we get the opportunity to do another one, we’ll take it even further. It’s all about exploring different avenues. So when things seem to go a little more ambient, we’re already into that kind of music and we’ll go with it as opposed to being sort of, “Oh, I don’t want to make that kind of music.”

L:We’re learning more about what we can do in the studio as well. The first EP was really like a demo, recorded in a couple of hours. You don’t get much time to play in the studio, so you sort of write your parts for what sounds good in the rehearsal room. Writing the second record, we were writing for the studio more. We’d be writing a song and Tom would go, “There should be a twelve string on top of this!” There’d be a keyboard part here, or Nick would be playing really quietly and saying “On the record it’s going to be really big but it just sounds good the way I’m hitting it like this.” You get to experiment more like that.

I:I suppose it’s on Liberty Log where that almost ambient feeling is most pronounced, and I was wondering if writing for what’s mostly spoken word lends itself to a different way of structuring music compared to the traditional pop song structure of verse-chorus-verse-chorus.

L:There were a lot of times where one of us would say, “Should we do the chorus now?” and then we’d be like, “Which one’s the chorus?”

T:Yeah, “What’s the chorus?”

L:And we’d all have to agree on what’s the chorus.

T:Which I think was a good sign, actually. It shows how we’re all thinking in different ways but music is getting done. I think I agree: Lewis has said before in other interviews that one of the strengths of our identity is you have Flo in the middle of everything, and her voice anchors you, and certainly as a musician it feels that you’re given a lot of room to chuck things in. When we first started writing Hot Penny Day, initially when I wrote the main riff it sounded like Goats Head Soup-era The Rolling Stones to me…

L:And then someone fucked it up!

T:And then when I showed it to Lewis and we started playing it together, it started turning into something more like Sleep or stoner rock — made it more groovy.

L:And then Flo gets involved and it instantly sounds like Dry Cleaning. I think her voice and her delivery gives us a lot of scope.

T:I mean, as musicians, having worked with these guys for five years, I think we all have our own sonic motifs — I can tell it’s Lewis, I can tell it’s Nick, they can tell it’s me — but Flo definitely anchors things in Dry Cleaning world.

I:I was angles.

T:I’m really glad you checked our previous bands! I think if you want to understand Dry Cleaning, it has roots in what we’ve done in the past. Like you say, because we’ve got broad music taste, my first experiences in music were in punk and hardcore bands but I did find them stylistically quite limiting. I like the catharsis of fast music, but I also like the melody of REM. I remember seeing La Shark a few times and it was clearly a sort of skewed pop band but their later stuff sounded like instrumental Funkadelic, so it’s almost like there isn’t enough time to put all your influences into one band.

L:I’ll be driving and have little fantasies about combining two bands, and then I’ll meet up with Tom or Nick or Flo and I’ll say that, and they’ll be like, “We should do that!” And once again, it’s still Dry Cleaning. If you took Flo’s vocals off the new album, there’s so many different genres you could put stuff into.

I:You say Florence is in the centre of it all, holding the identity of the band together, but at the same time, she’s also a little bit separate from it in some ways. On the new album, even more than before, the way it’s mixed you hear the band playing, who sound like they’re in a room somewhere, but then her vocals come in and it’s like she’s right up against your ear. Like you’re watching a band on the stage and there’s just this woman whispering in your ear!

L:That reminds me of Flo’s story about her joining the band started with you playing the band and her talking over the top of it.

T:We’d studied visual art together — we were both making comics at the time, and we met up to talk about that. She asked, “What else have you been up to?” and I said, “I’ve started jamming with Lewis and Nick.” I had some demos and she listened to it. Then she took her earphones out, said, “Oh, that’s interesting,” and started talking, and I could hear the music still with her voice over the sound out of the earphones in the background. I think John’s key interest in our band is how he mixes Flo. On this record to a much greater extent you can hear bits of her breath. Flo is a very nuanced performer: just the little things she does, like the click of her tongue or something — very small sonic things that he’s very keen to make sure are in there. I’ve seen him talking about this in an interview, about how you have to hear everything she’s doing: that’s the first thing, and then around that, he builds the mix and brings the band in.

L:She’s always in the room when we’re recording, and she’s tracking at the same time. We’re lucky enough to have isolated rooms, so my amps can be in one room, Tom’s amps can be in another room, Nick could be behind some glass, Flo’s in the room with us, and she keeps a lot of those vocals. There’s a lot of effort put into isolating her vocals so there’s not too much bleed from the band. I agree with what Tom said, John puts a lot of focus on that.

追悼:キース・レヴィン - ele-king

三田格

 P.i.L.の初来日にキース・レヴィンはいなかった。正規リリースされたライヴ盤『Paris Au Printemps(P.I.L.パリ・ライヴ)』やブートレグでは『Extra Issue, 26 December 1978』と『Profile』を重点的に聴いていた僕の耳に、あのシャープでクリアーなギターは響いてこなかった。来日直前にキース・レヴィンが脱退したことで、あからさまにジョン・ライドン・バンドでしかなくなったP.i.L.はこともあろうにレッド・ツェッペリンを思わせる演奏に変わり始め、ジョン・ライドンの歌い方が必要以上に演劇的に感じられたことをよく覚えている。いまから思えば元曲と演奏の雰囲気が合っていなかったからなのだろう。アンコールで“アナーキー・イン・ザ・UK”をやったのもサーヴィス精神とはまた別にジャー・ウォブルもキース・レヴィンもいなかったから反対するメンバーがいなかったとか、そういうことだったに違いない。あと半年早く来てくれればP.i.L.を体験することができたのに。あと半年早ければ『Paris Au Printemps』のようなオルタナティヴのピークに触れられたかもしれないのに。ちなみに初来日の模様を収録した『Live In Tokyo』に『Metal Box』の曲は“Death Disco”しか収録されていない。ジョン・ライドンからすればP.i.L.が生まれ変わらなければならないというプレッシャーを感じながらもがきにもがいてつくりあげたバンド・サウンドだったのだろう。そう、キース・レヴィンがいなくなるということは、ライドンにとってはかなりな難局だったのである。

 キース・レヴィンがP.i.L.を脱退したのは“This Is Not A Love Song”のミックスをやり直したかったレヴィンとその必要はないとしたライドンが修復できないほど悪い関係になったからとも、単にレヴィンのドラッグが原因だとも言われている。いずれにしろアルバムの半分が同じ曲で構成されたレヴィン・ヴァージョンの『Commercial Zone』が翌84年1月に、ライドン・ヴァージョンの『This Is What You Want... This Is What You Get』がそれから半年後にリリースされ、『Commercial Zone』がそれまでのP.i.L.と地続きの作品性を誇り、はるかに優れた内容であることは歴然としていた。『Commercial Zone』を『This Is What You Want... 』のデモ・テープ扱いしていた記事もいくつか見かけたけれど、一体何を聴いてきたんだと呆れるしかなく、『Commercial Zone』に収録されていた“Blue Water”が初来日のオープニングに流れていたことも思い出した。だから『Album』『Happy?』『9』と聴けば聴くほど情けなくなるジョン・ライドン・バンドに対してキース・レヴィンの活動に興味が湧くのは当然のことで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのプロデュースを経て脱退から3年を待った『2011 - Back Too Black』や続く『Violent Opposition』を相次いで手に取るも『This Is What You Want... 』よりも完成度が微妙だった時はさすがに愕然としてしまった。それどころかレイヴ・カルチャーが勃興してきた頃にはP.i.L.の誰もが存在感を失っていた。

 キース・レヴィンはシド・ヴィシャスやスリッツ及びバンシーズのリズム隊とフラワーズ・オブ・ロマンスとしてバンド活動を始め、クラッシュの創設メンバーとしてはジョー・ストラマーをザ・101ナーズから引き抜いてクラッシュのヴォーカルに付かせたにもかかわらず、自身はデビュー前に脱退。次に音楽シーンに現れた時はP.i.L.のメンバーとしてだった。P.i.L.はライドンの性格を反映して最初から大胆不敵なサウンドを構築し、ジャー・ウォブルの不気味な下降ベースとパンクにありがちな荒々しさとは違う意味で耳障りなキース・レヴィンの金属的なギターはすぐにも彼らの特徴となり、デビュー・アルバムから約1年後にリリースされた『Metal Box』でさらなるサウンド的な飛躍を遂げることに。アブラクサスのレビューでも触れたけれど、“Radio 4”はキース・レヴィンがひとりで多重録音したもので、"Poptones" でもレヴィンはドラムを叩き、“Bad Boy”という曲名はレヴィンのニックネームに由来する。ジャー・ウォブルが脱退したこともあってサード・アルバム『The Flowers Of Romance』はほぼすべての楽器をレヴィンが演奏し、彼がいなければP.i.L.は成り立たなかったはずなのに、ライドンは『Commercial Zone』のどこが気に食わなかったというのだろうか。デヴィッド・ボウイ『Let’s Dance』に寄せすぎたということなのか。

 クリエイティヴィティのピークにいるミュージシャンは同時期に何をやってもいい仕事をしてしまうもので、キース・レヴィンの才能もP.i.L.在籍時に様々な花を咲かせている。ジャー・ウォブルと組んだスティール・レッグスVジ・エレクトリック・ドレッドはドン・レッツをフィーチャーしたレゲエ色の強いP.i.L.サウンドの楽観的変奏。『Metal Box』でドラムを叩いてもらったお返しなのかカウボーイ・インターナショナルにも1曲で参加し、エイドリアン・シャーウッド周辺だとヴィヴィアン・ゴールドマンやシンガーズ&プレイヤーズの諸作に客演、スリッツやリップ・リグ&パニックからメンバーが集まったニュー・エイジ・ステッパーズにも最初は正式メンバーとして参加していた。P.i.L.を脱退してゲーム・クリエイターに転身したというニュースが入ってからもダブ・シンディケート、バーミー・アーミー、ゲイリー・クレイルと〈On-U Sound〉との絆は強く、マーク・ステュワートのアルバムでも結構な量のギターを弾いている。2010年代になるとジャー・ウォブルとのコンビを復活させてジョイント・アルバム『Yin And Yang』(12)をリリースし、キャバレー・ヴォルテール風のオルタナティヴ・サウンドからインド風の瞑想的なギター・ソロまでなかなかの充実作となったサード・ソロ『Search 4 Absolute Zero』(13)と、クラウドファンディングで募った資金を元に『Commercial Zone』の完成形『CZ2014』(15)も自主制作。やはりそれだけ引っかかっていたのかと思うと、なんともいえない作品ではある。それで気が済んだということになってしまうのか、それから7年が経った2022年に肝臓ガンによる逝去の報が届き、第1報に続く「未亡人になってしまいました」という奥さんのツイートがとても悲しかった。

 キース・レヴィンは音楽に対して貪欲な人生を生き抜いたという例には当てはまらない。ビットコインはパンク・ロックだと主張し、晩年は暗号通貨にのめり込んでいたというし、果たしてもっと才能があったのか、それともこれで精一杯だったのかということもわからないままに生涯を閉じ、『Metal Box』や『Search 4 Absolute Zero』だけが目の前に残されている。P.i.L.や同時期のポスト・パンクが破壊だけでなく、その後に創造というプロセスを見せてくれたことは二十歳前後の僕にはとても重要なことだった。パンク・ムーヴメントは確かにインパクトがあった。でも、マネをするだけだったり、パンクにカブれてチンピラまがいのバンカラ野郎になっていくミュージシャンを僕はとても受けつけなかった。『Metal Box』のような変化をもたらし、ロック的な皮肉をパンクのファンにさえ向けることができると教えてくれただけでもキース・レヴィンには感謝しかない。R.I.P.
 


 

野田努

 三田格と同じく、キース・レヴィンとジャー・ウォブル抜きの(『Metal Box』のP.i.L.ではない)P.i.L.の初来日を複雑な心境で観に行ったひとりとして、若干の付け足しを。P.i.L.のもっともスリリングだった期間を、ファースト・アルバムから『The Flowers Of Romance』までの3枚+ライヴ・アルバム『パリ・ライヴ』とするなら、その時期の音楽性において重要な働きをしたのがウォブルとキース・レヴィンであることは疑いようがない。もともとプログレッシヴ・ロックが好きで、スティーヴ・ハウに憧れてイエスのローディーもしていたレヴィンは、ギタリストとしての技術も持っていた。しかしながら彼が素晴らしかったのは、その技術を、従来のギター・サウンドを否定するかのように使ったことだった。セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズの厚みのあるギターはハード・ロックの延長にあったが、レヴィンの耳障りな金属音のようなギターは、そうした伝統へのアンチだった。因習打破なその姿勢こそが、ポスト・パンクという創造性の扉を開いたのである。
 P.i.L.ファンの議論のひとつに『The Flowers Of Romance』を作ったのはレヴィンだったというのがあるように、ある時期から、彼の存在はジョン・ライドンの脇役以上のものだった。『The Flowers Of Romance』ではほとんどギターを弾かず、パーカッションやシンセサイザーを担当したレヴィンは、自分の楽器を演奏するためだけにその場にいるミュージシャンというよりも、あの作品の方向性を決めた音楽監督というに相応しかったのかもしれない。ゆえにジョン・ライドンと衝突し、彼は脱退した。その後は三田格が書いている通りである。
 リアルタイムで言えば、メディアはP.i.L.をジョン・ライドンのワンマンバンドのように紹介したが、初来日のP.i.L.はまさにライドンのバックバンドだった。ウォブル/レヴィン時代のP.i.L.がサウンド的には全否定したはずの“アナーキー・イン・ザ・UK”をそのバンドはやった。本当に、あと半年早く来てくれれば……である。そうしたら、ギターの革新者にしてポスト・パンク・サウンドの先導者、キース・レヴィンの演奏を直に聴くことができたのだろう。

Salamanda - ele-king

「あ、畜生、夢かよ。」

 アンビエント・デュオ、Salamandaのレギュラー・アルバム第三作目となる『ashbalkum』。この得体不明なタイトルはいわゆる「夢オチ」展開を指すネット・ミームを発音ごと英字化したものだ。いや、なんで? 確かにリード・シングルでオープナー “Overdose” のビートはだんだん深海のように変わっていく周りの響きと合って、まるで階段を降りていく脚の動きのように聞こえて、夢に入り込むイメージがきちんと浮かぶ。けど、ただ夢うつつに落ちる(もしくは起きる)のでなく、なぜ「畜生」な状態なのか? 正直いまでもこのアルバムを、いや、彼女らの音楽を前にするたび、ますますわからなくなるばかりだ。
 SalamandaのメンバーであるUman Therma (a.k.a. Sala)とYetsuby (a.k.a. Manda)のDJふたり組は、10年代末からソウルのアンダーグラウンドなクラブやイベントで活発にDJingをしている。そしてプロデューサーとしても個人・チーム両方にかけて持続的に良質な作業の結果を出すことで、ローカルのアングラ界隈だけでなく、世界のレフトフィールド・ファンからも注目を集めている。個人名義の活動はより電子的なダンス・ミュージックに近い様子だ。彼女らの運営する小規模のダンス・レーベル・プロジェクト〈Computer Music Club〉のコンピレーション・シリーズを見ると、Umanは打撃強めで波形の尖ったテクノ曲を中心に提出する。クラシックを専攻して電子音楽に移ったと言われるYetsubyも同じく〈CMC〉と唯一のソロ・アルバム『Heptaprism』(2019)などでサンプルとグリッチの複雑な絡み合いを得意に見せる。
 このようにダンスフロア・ミュージックを中心に奏でる彼女らがチームSalamandaとして見せる音楽は、ミニマル/アンビエント色がさらに濃くなる。この激変(?)に関してふたりは即興演奏(improvisation)への興味などで意気を統合し、生活のなかの騒音を活かしたミニマル音楽のマスターピースを作りたいという目標を共有すると明かす。ガチャガチャとする土俗的なリズムの運用がさらに強調されてなおチームの色として成り立つと私は感じている。が、ダンサブルな感覚を捨てるわけではない。本作の場合、“Rumble Bumble”でアフロなビートの逆再生と見られるレコードは、まるでヒップホップのようにも聞こえる。“Coconut Warrior”の規則的なリズム、“Hard Luck Story”の分厚いベースはまさにバンガーと言っても良いくらいだ。
 今作を前作群から区分づけられるところは、アルバム全曲にかけて「声」を利用することである。全曲にかけて、だ。エレクトロニック楽曲でヴォイス・サンプルを使うことはごく自然なことだが、作法そのものをコンセプト化するのは確かに興味深い。その特徴が最も突出するところは“Mad Cat Party”で猫—Ringo the Cat—の鳴き声を用いる様子だろう。このリンゴ・ザ・キャット公の声に魅入っていると、いつのまにか遠景からはファンファーレを知らせるシンセ音が通り過ぎていく。
 『Pitchfork』誌のフィリップ・シャーバーンが記したように、“Coconut Warrior”と“Catching Tails”の赤子じみた声のサンプルはボーズ・オブ・カナダを連想させるし(BoCもサンプルデリア的ヒップホップとみなせることを踏まえるとさらに興味深い)、同題材をシェアする“Melting Hazard”と“Living Hazard”がパーカッションを排除して、それぞれブライアン・イーノ的、エイフェックス・ツイン的なアンビエント質感のなか、オルガンや声で宗教的な残響を奏でる意味深なシーケンス、そしてフィールド・レコーディングからはじめて声をグリッチのようにばら撒く“Kiddo Caterpillar”と実際にグリッチを使って声みたいに演出する“Stem”の対比的反復など、これまた何かしらコンセプチュアルだ。
 これら全てを「夢みたい」と一言で片付けるのは簡単だ。私も早くそうさせたいし、実際そうするつもりだ。そして未来から聞こえてくる読者の声、「おい、こん畜生、まーた夢オチかよ!」 
 夢オチがミームな理由は、物語内で論理的に完結しないままこれまで積んできた物語の展開を無効化する虚しさによるもので、何より夢オチはもう陳腐になってしまい、そこから意義を見出しづらいからだ。
 アルバムというメディアから人びとはだんだん何らかの統一性・凝集性を求めるようになった──私もそのひとりだ──が、一次的に意味を発さない音を紡いでナラティヴを貫通させるのは決して簡単な作業ではないだろう。特に言語を載せなかったりそれが主ではないジャンルに関してはなおさらだ。『Tonplein』誌のチョ・ジファン(조지환)はSalamandaの『Our Lair』(2019)の評にて「反復中の変形を方法論として多彩な印象を時々刻々と新しく塗り加えていく」と描写し、「勤勉に動くアルバム」だと評した。本作においても、言える言葉はあまり変わらないだろう。そう、変わらないのだ。
 だからこそ私はここでコンセプトに注目する。本作は声をサンプリングする作法を軸に、はっきりと約束された意味が通用しない音の動きを一作品として凝集し、かつ前作たちと差別化を図る。「あまり変わらない」音を使って、だ。陳腐性を逆利用するそのアイデアに感嘆し、また本作を流してみる。畜生、わかった気でいたのに、夢かよ。

Special Interest - ele-king

 これほど歌詞を知りたくなるバンドはそうそういない。絶賛ばかりの英語圏のレヴューを読めば読むほど、いったいどんなことを歌っているのか気になってくる。そのダンサブルなパンク・サウンドだけでも十分ひとを惹きつけるスペシャル・インタレストの新作『Endure(耐える/存続する)』は、大変なことがつぎつぎと起こる2022年にこそふさわしい、きわめて時代的なアルバムになった。

 彼らの音楽はひと言でいえば、パンクの鋭利さをディスコやハウスの歓喜へと接続するものだ。両者を結びつけるスペシャル・インタレストのセルフ・プロデュース能力は、この3枚めのアルバムにおいてかつてない高みに達している。
 冒頭の “Cherry Blue Intention” とつづくシングル曲 “(Herman's) House” の昂揚はそうとうなもので、とりわけアリ・ログアウトのヴォーカリゼーションは素晴らしく、(おもにノイズを担当するギターにかわって)メロディアスにグルーヴを紡ぎだすベースは、それぞれの曲で決定的な役目を果たしている。
 パンクとエレクトロニックなダンス・ミュージックの結合それ自体は新しいものではない。ポスト・パンクの時代からあった発想だし、LCDサウンドシステムが注目を集めた、00年代前半に起こったリヴァイヴァルを思い出すひともいるかもしれない。『Loud and Quiet』が指摘しているように、スペシャル・インタレストの特別さは──パンクやハウスが既存の支配的な価値観に対抗的だったように──ストレートに、今日の世のなかに対してメッセージを発しているところにある。

 クィアネスは彼らの音楽の要素のひとつだ。けれども彼らはそれを表看板として掲げることはない。多様性の称揚が企業にとって都合のいいものであること、アイデンティティ・ポリティクスが資本主義を補完するものであるかもしれないことに、彼らは気づいている。『Endure』とは、このきつい時代をなんとか生き延びようということであって、言いたいことを我慢することでなないのだ。彼らは、冷静なまなざしで、現代社会が抱えるさまざまな問題に容赦なく切りこんでいく。
 うまく歌詞が聞きとれているわけではないので間違っているかもしれないが、ぼくがリサーチしたかぎりにおいては、たとえばパンク・チューンの “Foul” は低賃金労働者の惨状を歌っていたり、“Kurdish Radio” はアメリカと中東の非対称な関係を浮き彫りにしたりしているようだ。上述の “(Herman's) House” は冤罪で40年以上も収監されていたブラック・パンサー党員についてのものだし、BLM蜂起の直後に書かれたという “Concerning Peace” では、おなじく元ブラック・パンサーのストークリー・カーマイケルや思想家のフランツ・ファノンが参照されたり、殺される人間よりも割れた窓ガラスを気にする良識派が揶揄されたりしているらしい。

 ともすれば重くなってしまいがちなメッセージを搭載しつつ、しかしスペシャル・インタレストは誰の耳にも親しみやすいサウンドとして飛翔する。彼らの音楽は、ポップ・ミュージックとしての吸引力も持っている。朝の6時にクラブを出ても孤独を感じている女性に捧げた、ラッパーのミッキー・ブランコをフィーチャーした曲 “Midnight Legend” は、クラブ・カルチャーの痛々しいリアルな場面への愛の籠もったオマージュである。
 闇雲に怒り狂うのでもなく、ペシミスティックにふさぎこむのでもなく、喜びに満ちた時間を演出する──無実の罪で放りこまれたハーマン・ウォレスが獄中にあっても活動をつづけたように、スペシャル・インタレストもまた前向きに、現代社会の「外部」を探求しているのではないか。別の世界を想像することはまだ十分可能なのだと、そして──パンクやいくつかのダンス・ミュージックがそうであるように──ポップ・ミュージックのなかにもラディカルな可能性が潜んでいるのだと、そう彼らは素朴に、心から信じているのだろう。
 状況が困難であればあるほど、絶望するのはたやすい。スペシャル・インタレストがやっているのはその絶望を踏まえたうえで明日を生きる活力を醸造し、ぼくたちがついつい忘れがちになってしまう「前向きになること」を思い出させてくれる。

interview with Special Interest - ele-king

 パンクは何度も死んで何度も生き返っている、ということはパンクは死なないということか、スペシャル・インタレストはその最新版のひとつ。ニューオリンズのこのパンク集団は、なんらかの理由でギリギリのところを生きている疎外者たちのために、いま、パンクにレイヴを混ぜ合わせて未来に向かっている。

 文化的な文脈において彼らをマッピングするなら、以下のようになるだろう。1970年代後半の、アメリカ西海岸のパンク・ロックのそのもっとも初期形態のザ・スクリーマーズには2人のゲイが、彼らの影響下に生まれたデッド・ケネディーズには黒人が、そしてザ・ジャームスにはゲイと女がいたことが象徴的なように、そこは人種的にもジェンダー的にもマイノリティーの坩堝だった。ことにバンド内におけるこうしたミクスチャーは西海岸の初期パンクの特異な点で、未来的な特徴だった。クィア・パンクとブラック・パンクが共存するスペシャル・インタレストは、その良き継承者である。
 そう考えると、70年代の西海岸のパンクと併走するカタチで、NYにおいて人種的にもジェンダー的にもマイノリティーのユートピーとして成り立っていたアンダーグラウンド・クラブ・カルチャーがパンクと結託するのも時間の問題だったと言える。そもそもパンクのライヴの、そこにいる誰もが好き勝手に踊るというところもレイヴっぽかった。

 スペシャル・インタレストの3枚目のアルバム『Endure』は楽曲も多彩だが、曲のテーマもいろいろで、えん罪で刑務所に投獄された黒人革命家についての曲があるかと思えば「午前6時にクラブを出て行く女の子たちへのラヴ・ソング」もあって、また別の曲ではアメリカなんかくそ食らえと叫んでいる。猛烈な勢いをもって現代のパンク・バンドは逆境を生きている(Endureしている)人たちを励ましている。ジョン・サヴェージは、パンクとは、marginal(欄外/隅っこ/ギリギリ)を生きる勇敢な人たちのためにあると言った。素晴らしいことに、いまここに真性のパンクがある。注目して欲しい。


メンバー:アリ・ログアウト(Alli Logout)、マリア・エレーナ(Maria Elena)、ネイサン・カッシアーニ(Nathan Cassiani)、ルース・マシェッリ(Ruth Mascelli)

日本のみんなには、曲を聴いて、日本ではどんなことが起こっているのかを考えてみてほしい。自分たちの周りにいる人びとが何と戦っているのか、私たちはどのようにお互いを大切にすることができるかをね。

この度は、取材を受けてくれてありがとうございます。『The Passion Of』から聴いていますが、スペシャル・インタレストのバックボーン、コンセプトにとても興味があります

アリ:今日はアメリカでのショーの初日で、いまみんなでショーの前にカフェでコーヒーを飲んでるところなんだ。だから、みんなで一緒に質問に答えるね。

スペシャル・インタレストの原型は、マリアさんとアリさんがニューオリンズに移住し、最初は2人ではじめたそうですね。で、ルースさんとネイサンさんと出会った。何を目的として4人組のバンドとして始動したのかを教えてください。

アリ:そう。最初は私とマリアの2人で、ギターとドラムマシンとパワードリルからはじまった。テキサスではじまったんだけど、ニューオリンズのフェスに出るために2人で曲を作るようになったことがそもそもの出発点だね。で、テキサスからニューオリンズに引っ越したときに、マリアが2人のイタリア人の友だちを集めてくれたというわけ(笑)。ルースとネイサンは私たちよりもずっと前からニューオリンズに住んでいて、彼らとはニューオリンズに引っ越してきてから出会った。

ルース:ぼくは、以前マリアがいたバンドの大ファンで、彼女らのためにTシャツをデザインしたことがあって、マリアとはそれをきっかけに知り合った。

マリア:私はネイサンのバンドの大ファンだったから、彼らのショーをテキサスでブッキングしたりしていた。じつは私がルイスとネイサンに声をかけたのは、ザ・スクリーマーズ(**)みたいなバンドをやりたかったからなんだけど、でも結果的には、スクリーマーズみたいなバンドとはほど遠いバンドになってしまった(笑)。

なぜニューオーリンズに移住したのでしょう? 

アリ:さっき言ったマリアと一緒にフェスで演奏するためにニューオリンズに行ったんだけど、そこでたくさんのクールなクィアの人びとに出会ったんだよ。もうひとつの理由は、ニューオリンズのオーサ・アトーっていう人が作っていたジンの大ファンだったから。『Shotgun Seamstress』という黒人を取り上げたジンなんだけど、それを読んだとき、すごくエキサイティングな気持ちになって、この街だったら私らしくいられるなって思った。

バンド誕生の背後にはいろんな思いがあったと思いますが、そのなかのひとつに憤怒があったとしたら、それは何に対しての憤怒だったのでしょうか?

ルース:なにか特別な憤怒があったというより、もっといろいろな感情があった。

マリア:むしろ物事のあり方について意見を持たずに生活することのほうが、すごく難しいと思うんだよね。それはつまり、物事のあり方について語らないアートを作ることのほうが難しいということでもある。だから、アートを作っている限り、自分が思っていることが表現されるのは、ある意味避けられないことなんだよ。それが憤怒かもしれないし、ほかの何かかもしれない。

アリ:私自身は、計画的に音楽を作ることはあまりない。自分の周りではいろいろなことが起きていて、自分がそれに対していま何を思うかが自然に出てくる。サウンドや歌詞は、それが作られる時間や場所で変わってくるんだ。

マリア:面白いことに、私たちはインタヴューで、「なぜ歌詞が政治的なんですか?」って訊かれることはあっても、「どうして政治的じゃないんですか?」って訊かれることはないんだよね。歌は常に欲望によって書かれているものだっていう仮定は、どうして成立してるんだろう。そして、その欲望がセックスや愛についてのことだけに限られているっていうのも、考えてみたらおかしな話だよね。

そうですよね、音楽には、もっと多様なトピックはあるだろうと。ちなみにスペシャル・インタレスト結成前から、すでにみんな音楽活動をしていた?

ルース:ぼく以外は、みんなバンドをやっていたよね。

ネイサン:ぼくはニューオリンズで、Mystic InaneとPastyというふたうつのバンドで演奏していた。その活動を通じてアリとマリアとルースに出会った。

マリア:ネイサンのバンドって、めちゃくちゃかっこよかったんだよ。ネイサンが入ってたバンドは、お遊びじゃなくて本物のバンドだった(笑)。

アメリカにおいて、クィア・パンクやブラック・パンクのシーンというのは、いまどのようなカタチで発展しているのでしょうか? 

アリ:局所的に発展してると思う。

マリア:アメリカってすごく大きいから、他の国々に比べるとシーンが地区で分かれているんだよね。それって過去のアンダーグラウンドのアートの世界もそうだったと思う。

ルース:前よりも、そういったシーンにアクセスしやすくなってきているというのもあるんじゃないかな。インターネットもあるし。

アリ:マリアが言った通り、アメリカってすごく大きいから、シーンが州や街で分かれていると思う。でもここ10年で、アメリカのアンダーグラウンドのクィアの音楽シーンではすごく面白いことが起こっている。とくにニューヨークはそうだよ。ハウス・オブ・ラドーシャとか、ジュリアナ・ハクスタブルとか、いろんなクールなアーティストが出てきてるし。正直カリフォルニアはわからないけど。少なくとも、ここ10年では私が面白いと感じた音楽はカリフォルニアにはないように思う。でも、ニューオリンズにも本当に美しくて奇妙なアート・パンク・シーンが存在しているし、そのなかでスペシャル・インタレストが成長できたのもシーンの広がりがあったからこそなんだ。ここ数年のアメリカのアンダーグラウンド・シーンはかなりすごいよ。さまざまな地域でシフトして、どんどん広がっている。

[[SplitPage]]

面白いことに、私たちはインタヴューで、「なぜ歌詞が政治的なんですか?」って訊かれることはあっても、「どうして政治的じゃないんですか?」って訊かれることはないんだよね。

音楽面でとくに参照にしたバンドや作品はありますか?

ルース:ぼくたちは、本当にたくさんの種類の音楽に影響を受けているんだ。それをぶつけたり、混ぜ合わせてサウンドを作っているから、たくさんいすぎて誰から答えたらいいのかわからない。何か面白いものを作っているよういう点で影響を受けているのは誰か挙げるとすれば、ポーラ・テンプルかな。彼女のプロダクションは参考にしてる。あとは、アジーリア・バンクスのファースト・アルバム。“Yung Rapunxel”のドラムサウンドなんかはすごくカッコイイと思うから。それ以外だと、外でたまたま聴いて、ずっと頭に残っているようなサウンドからインスピレーションをもらったりもするよ。

アリさんは、 アサタ・シャクール(**)の自伝を読んで曲を書くようになったとある取材で話しています。過激なテロリストであった彼女の何があなたの情熱に火を付けたのでしょうか?

アリ:歌詞を書いていた最初の頃に読んでいたのがその本だった。私が(精神を病んで)病院に入院していた時期だったんだけど、本のなかには彼女が病院(
女性矯正施設)で警察から苦しめられていたストーリーが書いてある。自分が同じ空間にいたから、その部分にとくに心を動かされたんだよね。彼女の人生のストーリーは、すごく大きなインスピレーションになった。

デビュー・アルバム『Spiraling』の冒頭の“Young, Gifted, Black, In Leather”は、Quietusのインタヴューにおいて、アリさんのなかの「ブラックネスとクィアネスが交差する唯一の瞬間」だと説明されています。パンクやグラムに多大な影響を受けたスペシャル・インタレストの音楽面にテクノやハウスのようなダンス・ミュージックを取り入れた理由も、そこに「ブラックネスとクィアネスが交差する瞬間」があるからということも大きいのでしょうか? 

アリ:あえて意識したわけではなかったけど、自分たちがいままで聴いてきた音楽、演奏してきた音楽がそういった音楽だった。だから、自分たちの音楽がよりダンサブルになるのは時間の問題だったんだと思う。私たちのサウンドは、ドラムマシンや使う楽器を変化させることで、どんどんスケールを広げているし。それに、あらゆるジャンルの音楽はブラック・ミュージックから派生し、発展している。そういうものに影響されているわけだから、クィア・ミュージックのなかにもその要素があると思う。
 でも、自分たちがブラックネスとクィアネスが交差する瞬間のようなサウンドを作るということを目標に真っ直ぐ進んでいるとは思えない。私にとっては、自分たちの音楽はまだまだ変化している途中の段階にいるように感じるし、まだぶらついているように感じるんだよね。これからもずっと今回のようなサウンドを作り続けていくのかはわからないな。

いまの質問と重なるかもしれませんが、『Endure』は、1曲目の“Cherry Blue Intention”、それに続く“(Herman's) House”から、じつにパワフルなダンス・サウンドが続きます。そして、3曲目にはパンキッシュな“Foul”。この流れはバンドの真骨頂に思いましたが、あなた方からみて、パンクとダンス・ミュージックの共通点は何なんでしょうか? 

ルース:音楽の歴史のなかで、レイヴやテクノやハウス・ミュージックもアンダーグラウンド・ミュージックだった。そして、人びとはそういった音楽を使って自分たちのシーンを作り上げてきた。パンクもダンス・ミュージックも、みんなで楽しみを共有する音楽であるというところが共通点だと思う。サウンドを聴くことももちろん楽しいけれど、ショーの現場で、複数の人たちが一緒にその音楽を経験するということが、どちらのジャンルの音楽にとってもいちばんの醍醐味なんじゃないかな。みんなで音楽を楽しみながら、その場でエナジーが生まれることは、共通点のひとつだと思うね。

先行で発表された“Midnight Legend”も、とても良い曲で、音楽的にはスペシャル・インタレストの新境地だと思いました。攻撃性だけに頼るのではなく、ハウシーで、ポップな回路を見せたと思いますが、ミッキー・ブランコをフィーチャーしてのこうした新しい試みは、スペシャル・インタレストにとってどのような意味があってのことなのでしょうか?

アリ:その曲は、すごく自然に生まれた。私は、あの作品はハウシーでポップというよりは、よりシネマティックなサウンドに仕上がったと思う。“Midnight Legend”を聴いて新境地だと思うのはまだまだ早いよ(笑)。私たちは、次のシングルを聴いてみんなを驚かせるのが楽しみでしょうがないんだよね(笑)。次に来るのは“Herman’s House”なんだけど、あれを聴いたら、スペシャル・インタレストはいったいどこに進もうとしているんだ!?ってさらに混乱すると思う(笑)。でも、どの変化も計算したわけじゃなくて、すべて自然に起こったことなんだよ。今回のアルバムは、そうやって出来上がったたくさんの種類のサウンドが詰まってる。そのひとつとして、このポップっぽい曲をまず人びとに聴かせるのは、みんながびっくりして面白くなるだろうなって思ったんだよね(笑)。新しいように感じるけど、いろいろな要素が混ざって音楽ができてるっていう点では、じつはすごく私たちらしいんだ。

ルース:それは本当に自然の流れで、ぼくたち自身、10曲も似たような曲を連続で聴きたくはない(笑)。だから、ヴァラエティ豊富なサウンドが出来上がっていったんだと思う。

Endureって、じつは未来に向かって突き進んでいることを意味していると思うんだよね。何かに向かう前向きな姿勢。

私たち日本人にはリリックがわからないのが歯がゆいのですが、今作の歌詞に込められたメッセージで、とくにこれだけは日本のリスナーに知ってほしいという言葉(ないしはテーマやコンセプトなど)があれば教えてください。

アリ:すごくディープな質問だね。答えるのが難しい。スペシャル・インタレストはアメリカ人であることについて、すごくユニークでありながらもリアルな視点を持っているバンドだと思うんだよね。アメリカのなかでクィアである自分たち、そして黒人である自分の視点を持っている。私たちが互いに求めることができるのは、耳を傾け、自分の状況を理解することだと思うんだ。私たちは、みんな苦労をたくさん経験しているけれど、その苦労の仕方は人それぞれ違うし、持っている能力だってみんな違うから。だから、お互いのストーリーを聞いて、みんながそれを聞き合って、世のなかどこでもいいことばかりじゃないんだということを理解し合える。
 日本のみんなには、曲を聴いて、日本ではどんなことが起こっているのかを考えてみてほしい。自分たちの周りにいる人びとが何と戦っているのか、私たちはどのようにお互いを大切にすることができるかをね。『Endure』は、いろいろな悲しみを理解し、それを表現しているアルバムだよ。日本のみんなには、アルバムを聴くことで日本のストリートで起こっていることを知ろうとし、それを理解し、それに共感してもらえたら嬉しいな。

アルバムは後半、“My Displeasure”〜“Impuls Control” 〜“Concerning Peace”と、非常にハードに展開します。この構成にはどんな意図があるのでしょうか?

マリア:このアルバムはパンデミックのあいだに書かれたから、その期間の経験や状態がそのまま形になっているんだ。深呼吸をするような瞬間や、深い喜びを感じる瞬間、じっと耐える瞬間。そういった経験が、アルバムのなかで展開しているんだよ。

なぜ「Endure=不快さや困難を耐える/持ちこたえる」という言葉をタイトルにしたのでしょうか?

アリ:endureという言葉には、文字通りすべてが含まれていると思う。私たちは自分の感情を感じなければならないし、それを乗り越えていかなければならないし、そこから成長していかなければならない。endureって、じつは未来に向かって突き進んでいることを意味していると思うんだよね。何かに向かう前向きな姿勢。

ネイサン:じつはぼくたちは、ボツにしたけど“Endure”というタイトルの曲も作っていたし、endureって言葉は“Herman’s House”(***)にも出てくる。

ルース:バンドが成長を続けるって意味にも感じられるし、ぼくはendureって言葉が好きなんだよね。この言葉からは耐えるという意味だけじゃなくて、進化の可能性を感じる。

とくに尊敬しているハウスやテクノのDJ/プロデューサーを教えてください。

アリ:私たち、これからジェフ・ミルズと同じフェスに出る予定なんだけど、それが楽しみでしょうがないんだ。それが本当に起ころうとしているなんて信じられない。

ルース:ジェフ・ミルズは最高。ジェフはもちろんだし、デトロイト・テクノって本当に刺激的だよね。DIY精神が感じられるし、自分の目の前で起こっていることに向き合って、未来を見ている感じ。

アリ:ドレクシアもそのひとり。あと、私たち全員が大ファンなのはポーラ・テンプル。それから、グリーン・ヴェルヴェット。まだまだたくさんいるけど、いすぎていまは答えられないな。

質問は以上です。どうも、ありがとうございました!

アリ:ありがとう。日本には本当に行ってみたいから、来年行けますように。

(*)ザ・スクリーマーズ(The Screamers)は、パンク前夜の1975年にLAに登場したプレ・パンク・バンド。ギターなしの、シンセサイザーとドラムによるテクノ・パンクの先駆者で、バンドの2人の主要メンバーはゲイだった。

(**)アサタ・シャクール(Assata Shakur)は、60年代のブラック・パワー・ムーヴメントにおいて、米国政府との武力闘争を辞さない黒人解放軍(BLA)の元メンバーで、銀行強盗や市街の銃撃戦によってFBIの最重要指名手配テロリストのリストに載った最初の女性であり、トゥパック ・シャクールの義理の叔母でもある。

(***)“Herman’s House”は、ルイジアナ州立刑務所に41年間独房で監禁されたアンゴラ スリーとして知られる、黒人革命家の一人、ハーマン・ウォレスへの頌歌。

Born Under A Rhyming Planet - ele-king

 なんというか今夏はコレばかり。デムダイク・ステアのふたりが率いるレーベル〈DDS〉よりリリースされた、1990年代の知られざるテクノ・アーティストのすばらしい未発表音源集。ボーン・アンダー・ア・ライミング・プラネットはシカゴ出身のジェイミー・ホッジのプロジェクト。1990年代中頃、当時のトップ・レーベルであるリッチー・ホウティンの〈PLUS 8〉からリリースしていたとはいえ、この名義自体も3枚ほどのシングルをリリースしているだけで、決して、その名前だけでこのようなアンソロジーが組まれるタイプのアーティストでもなく……やはり本作は〈DDS〉の賛美眼による、すばらしい発掘仕事としても評価すべきではないでしょうか。

 なかなかおもしろいキャリアを持つ人で、〈DDS〉の公式資料とも言うべき Boomkat の作品紹介ページによれば、シカゴのジャズ・シーンにそのルーツを持つアーティスト。デヴィッド・グラブスとバンディ・K・ブラウンと懇意になり、ガスター・デル・ソルのファースト・レコーディング時にも居合わせたという人物(一時期〈ヘフティ〉傘下にレア・グルーヴ系の発掘レーベル〈Aestuarium〉をやっていたり)。

 その傍らで〈PLUS 8〉の1991年のコンピ『From Our Minds To Yours Vol.1』を友人に聴かされテクノに開眼、シカゴのレイヴ・シーンに通い詰め、自身でも楽曲制作を開始、そして母親の車で東海岸の大学見学へと赴いた際に、直接リッチーにデモを渡し、上記のリリースに至ったのだという(当時17歳)。ボーン・アンダー・ア・ライミング・プラネットの当時のリリースは、その後のハーバート作品のようにミニマル・ハウスの出現を予期させる楽曲があったり、本作にも通じるIDM作があったりと、本作の視座から聴き直すと驚く作品ではないでしょうか。その後はドイツへとおもむき、ムーヴ・Dことデヴィッド・モウファン周辺と意気投合。こうしてジャズやテクノを経た彼は、当時のキャリアを昇華したようなプロジェクト、コンジョイント(Conjoint)を、デヴィッドおよびヨナス・グロッスマン(デヴィッドとともにディープ・スペース・ネットワークとして活躍するジャーマン・テクノ・シーンのベテラン)、さらにはふたりのジャズ・ミュージシャンと結成します。いわゆるドイツのエレクトロニックなフューチャー・ジャズと呼ばれたシーンの先鞭をつけるように1997年にアルバムをリリース。そしておそらく本作のきっかけになったであろうコンジョイントのセカンド『Earprints』を2000年にリリースします。1990年代後半、ドイツのいわゆるフューチャー・ジャズ~ラウンジーなダウンテンポ、例えばトゥ・ロココ・ロットあたりのサウンドから、2000年代に入ったヤン・イェリネックのようなチルなグリッチ・ダウンテンポの中間にありつつ、どこかトータス『TNT』への回答とも言えそうなサウンドの『Earprints』。これが2018年に同じく〈DDS〉からリリースされていて、本作のリリースに繋がったのではないでしょうか。またデヴィッドとはよりディープ・ハウス、ダウンテンポに寄った、Studio Pankow 名義でも2005年に『Linienbusse』(今回恥ずかしながらはじめて聴いたのですがこちらも名盤)をリリースしています。

 そして本作は上記の〈PLUS 8〉からドイツ・コネクションへの移行時期の作品(いくつかの曲は〈PLUS 8〉からリリースされる話もあったらしい)とのことで、基本的にDAW以前のアナログ機材で制作された楽曲が中心とのこと。当時のマテリアルから編まれた作品ですが、ある意味で同名義での初のアルバムとも言えるでしょう。こうした流れで整理をすると、本作は、1990年代中頃のデトロイト・フォロワーらによるリスニング・テクノ──アンビエント・テクノを経て、やがてはIDMと呼ばれるもの──や、その後グリッチ系の作品へと展開する直前の、エレクトロニックなダウンテンポ作品(ブレイクビーツ系ともまた別の、シンプルな電子音が主体のもの)と言えるのではないでしょうか。
 〈DDS〉のふたりによってエデットを施された、円環的な “Intro” と “Outro” 以外はほぼ当時のマテリアルを使用しているということで、驚愕の完成度というか、シンプルな電子音の滋味がじんわりと広がり、何度でも聴ける作品になっています。イントロから、Studio Pankow と同じ座組で作られたダウンテンポ “Siemansdamm” を経て、ディープ・ハウス路線の “Handley”、IDMなダウンテンポ “Hyperreal” “Skyway”、またはエクスペリメンタルなビートもの “Intermission” “Traffic” あたりに躊躇ですが、そのダブ処理感も彼の作品の魅力ではないでしょうか。このあたりはトゥー・ローン・スウォーズメン初期のハウス、またデトロイト・エスカレーター・カンパニーなどの作品も想起させる感覚もありつつ、また前述の初期のシングルにも通じるミニマル・ハウスな “Avenue” と、“Menthol” や “Fete” あたりは、上記のラウンジーなダウンテンポ路線(この辺はちょいとハーバート/ドクター・ロキットを彷彿とさせますね)、さらには圧巻のドローン・サウンドを聴かせる “Interstate” ではまたそれぞれ別の表情をみせていて、その才覚の振れ幅に驚かされるばかりです。シンプルかつ抑制されたクリアなエレクトロニック・サウンド、ダブ処理、ときに見せるメランコリックなサウンドは、わりと作品全体に通底していて、やはりそこに彼のサウンドに対する美学が現れているのではないでしょうか。

 曲の長さから、恐らく楽曲として完成させるというよりもスケッチの段階で録りためていた楽曲もありそうですが、やはり本作はジェイミーの作品としての品質はもちろん、〈DDS〉の発掘師としての卓越した能力も感じさせる作品です。今春リリースの、フエアコ・Sの『Plonk』あたりとも共振しそうな、時代を超えたスタイルを持っている感覚もあり、そのあたりも含めて、出るべくしていまここにリリースされた作品と思わざるを得ない、そんなすばらしい作品ではないでしょうか。

Black Moon & Smif-N-Wessun - ele-king

 90年代アンダーグラウンド・ヒップホップのクラシック2作がピクチャー・ヴァイナルとなって蘇る。
 どちらもブート・キャンプ・クリック関連で、ひとつはブルックリンのブラック・ムーンによる93年のファースト・アルバム『Enta Da Stage』。もうひとつは、スミフン・ウェッスンによる95年のファースト『Dah Shinin’』。いずれも90年代のハードコア・ムーヴメントを代表するアルバムだ。
 さらに、それぞれのアルバム収録曲を組み合わせた7インチ3枚を同梱したボックスセットもリリース。詳しくは下記より。

’90s東海岸を代表するHIPHOP CLASSICSな2作品、ブラック・ムーン『Enta Da Stage』とスミフン・ウェッスンの『Dah Shinin’』が2枚組ピクチャーヴァイナル仕様でリリースとなり、各3枚の7EPも同時リリース! またその全てをコンパイルした各ボックス・セットの販売も決定!

 NY・ブルックリン出身のブラック・ムーンが1993年にリリースしたファースト・アルバムにして問答無用のクラシック『Enta Da Stage』。その『Enta Da Stage』にもフィーチャーされて注目を集めたユニット、スミフン・ウェッスンが1995年にリリースしたファースト・アルバムにして90年代の決定的名盤『Dah Shinin’』。アーリー’90sのNYハードコア・ムーヴメントから生まれたこの歴史的なアルバム2作がオフィシャルの2枚組ピクチャー・ヴァイナル仕様で世界初のアナログ化! また両タイトルから名曲を組み合わせた7インチもピクチャー・ヴァイナル仕様でそれぞれ3枚カット! この全てピクチャー・ヴァイナル仕様でリリースされたアナログをBOXにまとめて販売します。VGAの独占かつ超限定での販売になりますのでお早めにどうぞ。

[2枚組ピクチャー・ヴァイナル 商品情報]
品番:PLP-7785/6
アーティスト:BLACK MOON
タイトル:Enta Da Stage
¥6,000 (With Tax ¥6,600)
発売日:2022/10/26

品番:PLP-7787/8  
アーティスト:SMIF-N-WESSUN
タイトル:Dah Shinin'
¥6,000 (With Tax ¥6,600)
発売日:2022/11/23

*BLACK MOON / SMIF-N-WESSUN - 2LP / 7EP 予約ページ
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/black-moon-smif-n-wessun

[VGA BOX商品情報]

品番:VGA-5009
アーティスト:BLACK MOON
タイトル:ENTA DA STAGE - PICTURE DISC BOX

・Enta Da Stage 2LP
・Who Got Da Props? / How Many MC's... 7inch
・I Got Cha Opin (Remix) / Black Smif-N-Wessun 7inch
・Buck Em Down (Da Beatminerz Remix) / Enta Da Stage 7inch

価格:¥15,000(With Tax ¥16,500)

品番:VGA-5010
アーティスト:SMIF-N-WESSUN
タイトル:DAH SHININ’ - PICTURE DISC BOX

・Dah Shinin' 2LP・Bucktown / Let's Git It On 7inch
・Wrekonize (Remix) / Sound Bwoy Bureill 7inch
・Wontime / Wrektime 7inch

¥15,000(With Tax ¥16,500)

BLACK MOON / SMIF-N-WESSUN -VGA BOXセット予約ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5009-10/

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184