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To Rococo Rot

To Rococo Rot

Speculation

Domino/Hostess

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野田 努   May 03,2010 UP

 60年代末のドイツのベルリンのコミューンから生まれたのがアモン・デュールなら、ハンブルグとブレーメンのあいだにある街、ヴュメの廃校のアート系コミューンを拠点としたのがファウストである。"なぜニンジンを食べないの?"というオモロい曲名と大胆なサウンドコラージュ、透明なヴィニールのレントゲン写真をアートワークとした彼らのデビュー・アルバム(71年)、言葉遊びやナンセンスを追求したミニマル・ポップの傑作『ソー・ファー』(72年)、そしてかのリチャード・ブランソンが契約を交わし、"カット&ペイスト"アルバムとしては世界で最初のヒットとなった『ザ・ファウスト・テープス』(73年)......"まともでない"クラウトロックの宇宙においてひときわ諧謔と知性を感じるのがファウストである。ファウストは、ポップの史学ではたびたび「スタジオを楽器として使用した最初のバンド」と記されるが、そのファウストのスタジオを使って録音されたのがトゥ・ロココ・ロットの新しいアルバム『スペキュレーション』というわけだ。

 1996年に〈キティ・ヨー〉から最初のアルバムを発表した、ステファン・シュナイダー、ロナルド&ロベルトのリポック兄弟の3人によるこのバンドは、あの時代のポスト・ロックなる動きのベルリンからのアンサーとして注目された。潔癖性的なポスト・ロックとエレクトロニカを軸にしながら、彼らはアルバムを出すたびによりユニークなサウンドを手に入れつつあるように思う......というか、最初の2枚は毒に薬もならないポスト・ロックをそのまま体現しているバンドのひとつに過ぎなかったが、3枚目の『アマチュア・ヴュー』(99年)におけるメロウなサウンドでいっきに評価を高め、〈ドミノ〉に移籍してからの『ホテル・モルゲン』(04年)でもエレクトロニカの甘い享楽に耽っているという、悪くはないが積極的に話題にしづらいバンドだった。

 が、オリジナルとしては6枚目となる今作で、3人のドイツ人はさらに前に進もうとしているのだろう、冒頭に書いたようにファウストのスタジオを借りて新境地に挑んでいる。言うなれば、クラフトワーク、プラッド、ブライアン・イーノの領域から、ファウストやクラスターのほうへと向きを変えているのだ。緻密に計画された実験から、どこへ行くのかわからない実験へとハンドルを切っている。より生々しい演奏に挑戦しているのである。

 『スペキュレーション』はトゥ・ロココ・ロットのクラウトロック・アルバムである。ロマンティックでメロウな感覚はなくなり、乾いた遊びの感覚がある。1曲目の"アウェイ"と2曲目の"シーリー"は、失礼だがトゥ・ロココ・ロットとは思えないほどの躍動感があるり(とくにベース)、それは明らかにハルモニアを連想させる。もちろんハルモニアの複製ではない。これまで彼らが15年かけて磨いてきたエレクトロニック・サウンドとの有機的な結びつきにおいて、新たに更新されるクラウトロックである......と言ったら褒めすぎだろうか。

 クラスターの電子の遊びを継承する"ホーシズ"も素晴らしい。広大な一軒家で暮らすメタルも絶賛の、4/4ビートが入った"フォワードネス"はトゥ・ロココ・ロットの真骨頂であるメロウなトラックで、今回の関して言えばアルバム全体のなかではむしろ異質である。この曲は先行シングルのB面に収録されている。

 ベストトラックは"ウォーキング・アゲインスト・タイム"だろう。感傷主義からは100億光年離れた場所で鳴っている前衛的なパーティ・ミュージックだ。シングルではA面に収録され、シャックルトンがリミックスしている、ファウストのハンス・ヨアヒム・イルムラーが参加した"フライデー"は、クラスターとコンラッド・シュニッツラーの現代解釈である。しかも......シンセサイザーのリフはヘア・スタイリスティックスみたいなのだ。

 まあ、だからこれまでのファンを裏切る作品であるとも言えるだろう。素晴らしいのは、ファウストのスタジオを使ったことがまったく無駄になっていないことだ。よく言う言葉で恐縮だが、楽しい実験である。

野田 努