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Mansur Brown

AmbientExperimentalGlobalJazz

Mansur Brown

NAQI Mixtape

Amai Records/ビート

Amazon

野田努 Nov 25,2022 UP

 4年前のW杯時に、ぼくはそのサウンドトラックをクルアンビンとした。で、今回はマンスール・ブラウンのアルバム(2枚のEPの合体盤)としよう。フラメンコと中東と催眠的なミニマル・ビートにダブが絡んでいる1曲目“No Way”の前半を聴いているだけで奇妙な気分になってくるわけだが、それがアンビエントへと展開するとなると意味がわからなくなってくる。
 今回のカタール開催は、海外では前々から多くの批判があった。たとえば英ガーディアンは10年前から移民労働者問題(スタジアムを建設した移民労働者の月収は4万円にも満たない)を継続して報じてきている。というか、スタジアム建設などのためにカタールにやって来たアジア系移民労働者の6500人以上の死亡が事実だとしたら、たしかに現代の奴隷制と言われても仕方がない。ほかにもマイノリティーへの差別(同性愛は犯罪とされる)も当たり前だが問題視されているし(英国ではカタール大使館への抗議活動にまで発展)、なんでも女性の海外旅行や留学には男性の許可が必要だとか。こうした事情が世界でもっとも人気のあるスポーツ大会というオブラートに包まれたときに隠蔽されてしまうことは、欧米の識者からはさんざん指摘されてきている……どころの騒ぎではない。ガーディアンによれば、英国では10人中6人がカタールのワールドカップ開催に反対しているというし、ブンデスリーガの試合ではファンが反対の横断幕を掲げ、日本よりフットボールの歴史があり人気もずっとずっと高いフランスやスペインでは、公共の場での試合中継を行わないことを宣言している自治体もあるそうだ。日本ではあまり報道されていないようだが、今回ほどフィールド外が騒がしく、ボイコット運動が熱を帯びている大会はなかった。じっさいぼくの何人かの友人は、今回はあまりにも茶番なので努力して無視するようにしていると言っている。また、予選の段階からデンマーク代表をはじめドイツ代表やノルウェー代表は、試合時のウェアなどで人権擁護の態度を表明しているし、オランダ代表監督の偉大なるルイス・ファンハールは、FIFAが説明したカタール開催の理論的根拠を「でたらめ」と一蹴した。そんなわけで、清水エスパルの降格ショックから立ち直れていなかった自分も努力して無視するようにしていたはずだった。
 
 マンスール・ブラウンは、フットボールに喩えるなら、並外れたテクニックを駆使するブラジル代表のようなギタリストである。現代UKジャズのシーンから登場したブラウンだが、彼はジャズというスタイルにこだわってはいない。この点においては、つねに慣習に囚われない斬新な戦術を実行するオランダ代表を彷彿させたりもする。
 先述したように、これは秋にリリースされた6曲入りEP「NAQI Vol.1」と最近出た「NAQI Vol.2」の合体盤で、前者にはビートがあり後者はビートレスと、それぞれ趣が異なっている(だからこの合体盤では前半と後半に分かれる)。まず「Vol.1」、つまり前半からいくと、先述した冒頭の“No Way”のほか、ゆったりとした、しかしブリアル風のダンス・ビートを擁する“Fever”や“Rise”といった曲にも注目したい。とくに、包み込むような温かいエレクトロニクスにはじまる“Rise”のベースとギターの対話によるグルーヴは白眉の出来だ。
 表題曲“Naqi”にはじまる「Vol.2」、つまり後半は、いわば本作のアンビエント面で、ギターの多重録音による楽曲が並んでいるのだが、これがまたぼくにはツボだったりする。クライマックスは最後の曲“Meikai”で、10分ほどのこの大作にはいろんな場面が用意されている。リスナーは、いつの間にか異世界に連れていかれるだろう。そこはエメラルド色に輝く桃源郷だが、いまの自分はまったりと陶酔に浸っているわけにはいかない。なにせ仕事が忙しいし、というかまだW杯は予選の最中で、この先どんな試合があるのか誰にもわからないのだ。
 だいたい初戦には波乱が起きるものだ。これは年のせいかもしれないが、各国のパススピードが上がっている(ように見える)。攻撃のための守備がより意識され、日本の2点目がそうだったが、手数をかけずショートまで持っていくのが、まあ、初戦だからとくにそうかもしれないが、目立っている。日本がドイツを撃破したことは心の底から喜んだし、権田修一のセーヴも高速カウンターも見事だったけれど、負けたドイツはウォームアップ時に、FIFAとカタールへの抗議の意を込めてだろう、レインボーのステッチの入ったウェアを着ていたのだ(ドイツ代表も、イングランドのハリー・ケインも、当初レインボーの腕章をして試合に出る予定だったが、それはFIFAによって阻止されている。ゆえにドイツ代表は、日本戦の前の写真撮影時にFIFAから口を封じられたことを示唆するため、手で口を覆うポーズを取り、試合の勝ち負けとは別のところで賞賛されている)。
 この先日本が世界でさらにリスペクトされるには、もうひと段階の努力も必要になるだろう。それは、今日の時代が激変しているさなかのヨーロッパを経験している現代表の世代を主軸に、いずれは変えていきそうな気がしないでもない。なにせ、多くの人が絶対に負けると思っていたドイツ戦に勝てたのだから、希望を持ってがんばれば、あり得ないと思っていたことも実現できるという、ちょっとだけそんな気持ちになれました。ちなみにアルバム・タイトルの“Naqi”とはアラビア語で「純粋」を意味するそうだ。純粋さを欠いているW杯への皮肉を込めてこんなタイトルにしたわけではない、はずである。
 
 最後に、UKジャズのギタリストといえば、ほかにオスカー・ジェロームもいるが、彼のソロ・アルバム『Spoon』も素晴らしかった(小川充がレヴューしてくれるはず)ことを追記しておく。また、今回のW杯は気温的なことからアフリカ勢が優勢なのではとぼくは思っていたのだが……、アフロビート全開のKokorokoの待望のアルバム(これもいいんだよなぁ)も、いまの自分はかなりハマっております。で、最後の最後に来年の話だけど、純粋に清水と藤枝の試合、名将大木武監督率いる熊本との試合を楽しむことにするよ。

野田努

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