「P」と一致するもの

Cosey Fanni Tutti - ele-king

 ポルノ産業とは男性によって男性の快楽のために作られた装置で——日本でそれは、ポルノ産業との無関係を装ったさまざまなジャンルにおいて広範囲に機能している——、そこでは女性は非現実的なものとして客体化される。コージー・ファニ・トゥッティがポルノ雑誌のモデルやヌードダンサーをやったことは、1970年代のフェミニズムからするとポルノ産業への従属と解され、1976年の悪名高き〈Prostitution(売春)〉展とともに、権威的なアート界からも女性解放からも、そして国会からも個人攻撃の対象となった。
 社会の規範に迎合しないこと、不寛容に対するあらんかぎりの存在証明、立ち入り禁止の領域を横断すること——それが彼女の生き方であって、彼女のアートであるという考えが、彼女の自伝『アート セックス ミュージック』で明かされている。コージーの挑発的でセクシャナルなヌード写真がギャラリーに飾られている21世紀では、ウィメンズ・ポリティクスとアートの関係も再調整されたようで、当初言われていたような、それが低俗なポルノと高級なアートとの階層を粉砕するものだというよくある解釈が、いまでは中産階級的に思えてくる。あくせく働く必要のなかった中産階級の子息たちによる“過激な集団”COUMトランスミッションズのなかで、唯一の労働者階級出身だったコージーが働きながらアート活動を続けた話も自伝にくわしい。先日、『ワイアー』の表紙を飾った彼女だが、そのカヴァースートリーを読んで思わず声が出てしまったのは、これだけ国際的な名声を得たいまでも、コージーは生活のために働くことから逃れられていないという現実だ。こうした日々の生活と彼女のアートが無関係になることはあり得ない。自伝にあるように、彼女にとっては「人生がアート」なのだ。

 『2t2』は、コージー・ファニ・トゥティにとって2019年の『TUTTI』に続くオリジナル・ソロ・アルバムに数えられるが、その前に1枚、デリア・ダービシャーのドキュメンタリー番組『The Myths And Legendary Tapes』のためのサウンドトラックを2022年に発表している。コージーにとって、これが重要だった。
 ダービシャーは1960年代、BBCラジオの電子音響プロジェクトで働き、電子音楽家の先駆者のひとりとしていまでは日本でもよく知られている。コージーはドキュメンタリー番組の音楽を依頼されたことで、ダービシャーについて調べた。マンチェスター大学に残された彼女の資料を読みあさり、そして手記や記録を読んでいくうちに彼女の人生への共感がどんどん膨らんでいったのである。
 第二次大戦開戦の2年前、労働者階級の娘として生まれたダービシャーだが、数学の成績が抜群に優秀だったがゆえに、当時の労働者階級の少女としては極めて稀なことにケンブリッジ大学の奨学金を獲得した。数学を学ぶにはもっとも権威ある場所だが、彼女が専攻を数学から音楽に変えたのは、学内における根深い女性蔑視によって入学した女性の多くが余儀なく中退するなか、ダービシャーには音楽だけが逃げ場であり、楽園に思えたからだった。就職のため、BBCに異常な枚数の手紙を送りつけていたのも、そこは当時、英国内で唯一音楽を流す機関だったからで、BBCに行く以外のことが彼女には考えられなかった。
 ダービシャーを音響工学に向かわせたのは、数学的で、未来を予感させるヤニス・クセナキスによる電子詩だった。願いかなってBBCの音響プロジェクトに就職できたダービシャーだが、最初に彼女がもっとも苦労したのは、誰もが上品な英語を話すBBCという職場のなかで、労働者階級のコヴェントリー訛りを矯正することだった。彼女の最初の「音響プロジェクト」は自分自身の声の強制的な変調だったのかもしれない、コージーはそう書いている。
 そのいっぽうでコージーは、ダービシャーについて調べている時期に、たまたま古本屋でマーガリー・ケンプの本を見つけて、なんとなく気になって買った。ケンプは幻視体験をもつ14世紀の女性神秘家で、裕福な家の出ではあったが、その型破りな言動ゆえに迫害され、国外への巡礼を繰り返し、異端の罪で七度も告発されながら自分を貫いた人物である。コージーの人生において宗教はまったく縁のないものだったが、教会から「とんでもない狂女」と非難されたケンプは、1976年に「文明の破壊者」と国会議員から名指しで非難された自分と似ている、コージーはケンプの人生についても研究した——そして、ダービシャー、ケンプ、そしてコージー自身、生きた時代の違う3人の女の人生の共通点を見出しながら描いたのが、2022年に刊行された2冊目の書籍『Re-Sisters』だった(先述したコージーのコメントは同書からの引用)。本作『2t2』は、その延長にある。

 アルバムの前半は躍動感のある曲が並んでいる。1曲目の “Curæ(キュレイ)”──ラテン語で「注意」や「配慮」の意──を聴いていると、コージーが「レイヴ・カルチャーに参加できなかったことを後悔している」と発言したことを思い出す。アルバムの中盤以降では、彼女のコルネット、そして今作における重要な楽器であるハーモニカをフィーチャーしたアンビエント風の曲が続いている。とくに “Threnody” と“Sonance”の2曲では、興味深いことにコージーの穏やかな境地を感じることもできるが、そう簡単に晴れ晴れとした気持ちにはなれないとでも言いたげに、アルバムには闇があり、低音がある。自伝『アートセックス ミュージック』の映画化が決まり制作がはじまろうとしたとき、ジェネシス・P・オリッジの遺産管理団体がTGの曲の使用の許可をしなかった(使用にはメンバー全員の許諾が必要)。インダストリアル・ミュージックの起源とスロッビング・グリッスルの結成を描く映画に対するその対応が、自伝のなかでオリッジからの虐待を書いたコージーへの報復であろうことは察しが付く。最初は「ふざけんな」だったコージーの反応は、しかし最後には、並外れた忍耐と交渉の果てに得た合意における勝利の「ありがとう」、そして「ふざけんな」を添えた感情へと変わっていた。その先に生まれたのが、『Re-Sisters』であり本作『2t2』である。

 コージー・ファニ・トゥッティという名前は、モーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」 (「女はこうするものだ」の意)をもじったものだというが、つくづくこの芸名は素晴らしいアイロニーだ。
 『Re-Sisters』には、最後に素晴らしい一文がある—— ‘WILL’ではなく ‘WON’T’。つまり「やらないこと」「拒絶すること」、彼女たちが男性優遇の社会のなかで自分の居場所を見出すためにやったことが「従属への拒絶」だったことは大きな意味があるように思う。「私たちがいまやっていること自体は、たぶん重要ではない。けれど、いつか誰かが関心を持って、この土台のうえに何か素晴らしいものを築いてくれるかもしれない」というアート活動にともなう宿望、男性アーティストからはなかなか出てこない言葉ではないだろうか。本作『2t2』を聴いた誰かが、いつかさらに素晴らしいものを作るだろう、そんな思いを抱かせるような音楽は決して多くないのだ。

〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 - ele-king

BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025

 ele-kingで絶賛執筆中のデジさん(緊那羅:デジ・ラ)、音楽活動も精力的にやっています。7月20日に東京のアンダーグラウンドの牙城、幡ヶ谷 FORESTLIMITにて、〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉を主催します。とても面白そう。参院選の日、夜は幡ヶ谷に集合です!

〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉
Artists :
Heejin Jang
Taro Aiko from M.A.S.F.
Kinnara : Desi La
DJs : Moemiki
Deadfish Eyes 2025/07/20
幡ヶ谷 FORESTLIMIT
adv ¥2300 w/1D /// door ¥2500 w/1D
Open 18:00

2025/07/10迄——予約はaimaidebakuzen@yahoo.co.jp
2025/07/10以降——当日券(door)になります。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf7KdhsC8wMDdjymQtYj9MKyDc2ahmMig0ibbD8gwOy0jqVEw/viewform

 みなさん、こんにちは。お知らせがあります。7年ぶりにBEAUTIFUL MACHINEが帰ってき ます——その名も「BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE」。2013年に初開催し、6年間 続けてきましたが、様々な限界にぶつかり、沈黙していました。
 ノイズ・ミュージックとレイヴ・カルチャーの融合、そして「マシン」そのものへのオマー ジュという二重の意図から生まれたBEAUTIFUL MACHINEは、クラブ・シーンで活躍する DJたちと先鋭的な電子音楽アーティストたちをつなぎ、日本の2つの強力なアンダーグラ ウンド文化を11回以上にわたりクロスオーヴァーさせてきました。

 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉では、韓国から電子音楽アーティストHeejin Jangをヘッドライナーとして迎えます。彼女の来日は2018年以来初となります。さらに、 ノイズペダルメーカーTaro Aiko (M.A.S.F.)、ジューク・シーンやGqom愛好家のMoemiki、そ してイベント〈Ximaira〉よりロマンティックなインダストリアルセレクションを届ける Deadfish Eyesが出演。そして最後に、緊那羅 : Desi Laが、新作「Demons to some, Angels to others」からの最新セットを披露します。

 After a 7 year absence, BEAUTIFUL MACHINE is back — this time as BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE. First launched in 2013, the event ran for 6 years straight before going dark. Inspired by the idea of fusing noise music and rave culture with the parallel dual intention of paying tribute to the "machine" itself, Beautiful Machine brought together DJs active in the club scene and seminal electronic artists, cross mixing two of the strongest underground cultures in Japan over 11 times.
BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025 is bringing together headliner electronic artist Heejin Jang from Korea in her first visit to Japan since 2018 with noise pedal creator Taro Aiko of M.A.S.F., heavy hitting djs juke and Gqom enthusiast Moemiki and Deadfish Eyes of event Ximaira serving up a romantic industrial selection, and lastly Kinnara : Desi La, playing a brand new set from his upcoming release ”Demons to some, Angels to others”.

■Heejin Jang
 ヒジン・チャン(Heejin Jang)は、韓国・ソウルを拠点に活動する アーティストです。彼女のライブサウンドパフォーマンスでは、即 興のコンピュータ音楽を披露し、日常的で些細な音の要素から着想 を得て、それらを再構成し、瞑想的な体験やデジタルによって引き 起こされるパニックのような現象的な空間を創り出します。ヒジンは、ザ・ラボ(The Lab)、ヤーバ・ブエナ芸術センター (Yerba Buena Center for the Arts)、ムムック・ウィーン(mumok Vienna)、ハーベスト・ワークス(Harvestworks)、ライズームDC (Rhizome DC)、ハイ・ゼロ実験音楽フェスティヴァル(High Zero Experimental Music Festival)、センター・フォー・ニュー・ミュー ジック(Center for New Music)、ダブラブ(DubLab)などでライヴパフォーマンスや作品展示を行ってきました。彼女の音楽は、 『The Quietus』、『NPR』、『The Wire』などでも取り上げられて います。
Heejin Jang is an artist based in Seoul, South Korea. In her live sound performance, Heejin presents a set of improvised computer music. She arranges and synthesizes sonic spaces that draw from the everyday and the trivial, re-forming them into phenomenal situations of meditation or digitally induced panic.
Heejin played live and exhibited her pieces at The Lab, Yerba Buena center for the arts, mumok Vienna, Harvestworks, Rhizome DC, High Zero Experimental Music Festival, Center for New Music, DubLab, and many more. Her music has been reviewed on The Quietus, NPR, The Wire and more.
Music:Bandcamp: https://heejinjang.bandcamp.com/
Website: https://heejinjang.com/

■ Taro Aiko from M.A.S.F.
 ノイズ・シーンから圧倒的な支持を得る音響ブランドM.A.S.F.の開発者にしてエレクトロニクス奏者。自身が設計制作した発振器やエ フェクターを用いた独自のハードスタイルを追求・展開してきた。 近年はモジュラーシンセサイザーを用いた演奏を取り入れ、より過 剰な音響演出を試みる。節度や常識を一切考慮しないそのオリジナ ルな創作は、音を生成する瞬間に演奏者と聴き手の境界を溶解させ る、自己生成する生物としてのノイズである。
A developer of the highly acclaimed sound brand M.A.S.F., which has earned overwhelming support from the noise scene, and an electronics performer. He has pursued and developed a unique hardstyle using self-designed and built oscillators and effects units. In recent years, he has incorporated modular synthesizer performances, pushing toward even more excessive sonic presentations. His original creations, unconcerned with restraint or convention, generate noise as a self-generating organism that dissolves the boundaries between performer and listener in the very moment of sound creation.

■ Deadfish Eyes
 ポスト・パンクやニューウェイヴ等の音楽から強く影響を受け、インダストリアルミュージックやノイズを織り交ぜた、耽美主義的な表 現を得意とするDJ。 マイノリティのためのクィアパーティー「Ximaira」を主催し、レジデントも担当。
A DJ heavily influenced by post-punk, new wave, and known for their decadent expression that blends industrial music and noise. They are the organizer and resident of "Ximaira," a queer party for minorities.

■Moemiki
 トリップ・ホップからクラブ・ミュージックの世界に入り、フットワークの洗礼を浴びて2018年よりパーティオーガナイズと DJ活動を開始。エクスペリメンタル/ゴルジェ/フットワークを行き来す る呪術的なアプローチが持ち味。好きなBPMは160。
Entering the world of club music through trip-hop and baptized by juke/footwork, she began organizing parties and DJing in 2018. Her signature style is a shamanic approach that traverses experimental, gqom, and juke. Preferred BPM: 160.

■Kinnara : Desi La(緊那羅:デジ・ラ)
 緊那羅:デジ・ラは、電子音楽家、3Dモーションアーティ スト、グラフィック・デザイナー、クリエイティヴコーダーとしてジャンルを 横断しながら活動する多才なクリエイティヴ・アーティストです。新たなテク ノロジーと建築的世界のリズムを芸術を通して表現することにフォーカスし た未来派のアーティストでもあります。緊那羅:デジ・ラは、ライヴ・パフォーマンス作品であるオーディオ・ヴィジュアルパフォーマンス《CHROMA》やアンビエントAV作品《SPHERE OBJEKTS》、漆黒の中で行われる没入型電子音響体験《DARK SET》、多層的なテーマを持つ音楽リリース、そしてWeb3上に構築された抽象的なミクス トメディアによる空間的ゲーム/ギャラリーなど、幅広いメディアと表現形 式を行き来しながら活動しています。
 彼のヴィジョンの核心にあるのは、「未来主義」であり、社会の進化を積極的 に受け入れること。それは、過去のすべてを再解釈・再構成・再構築し、現 在そして未来の世代のために進化させるという考えに基づいています。保存 ではなく、再構成こそが重要なのです。
緊那羅:デジ・ラのヴィジュアル作品は、渋谷や銀座のアンダーグラウンドな 空間で展示されたほか、シンガポール、マレーシア、インドネシアなど海外でも発表されています。彼の代表的イベント《BEAUTIFUL MACHINE》は 2013年に始まり、6年間で11回開催された後、いったん幕を閉じましたが、 現在《BM》は再び蘇りつつあります。
Kinnara : Desi La is a versatile Creative prolific as an electronic musician, 3D motion artist, graphic designer, and creative coder working across genres. A futurist focused on expressing the rhythms of the new technological and architectural world through his art. Kinnara : Desi La bridges his art between live performance works like his audiovisual performance CHROMA and ambient audiovisual SPHERE OBJEKTS, pitch black DARK SET explorations in intense electronic listening, multi-thematic music releases and his abstract mixed media spatial game / gallery in web3. Kinnara : Desi La`s total vision embraces futurism, the embrace of advancement in society as a cornerstone of his world view. All things of the past should be reinterpreted, remixed, reconstructed, and rebuilt for the advancement of our current and future generations. Reconfiguration versus preservation.
Kinnara : Desi La`s visuals have been shown in the depths of Shibuya and Ginza and internationally in Singapore, Malaysia, and Indonesia.
Kinnara : Desi La`s flagship event BEAUTIFUL MACHINE began in 2013 and continued for 6 years over 11 times before going dark. Now BM is resurrected.
https://kinnara-desila--afrovisionary-creations.bandcamp.com/

Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - ele-king

 マックス・ローチの『We Insist!:Freedom Now Suite』(61年)は最高だ。コールマン・ホーキンスの雄々しいテナー・サックス。ブッカー・リトルの力強いトランペット。アビー・リンカーンの説得力溢れるヴォーカル。そして、ローチの紡ぐ強靭なグルーヴ。それだけで、なんの説明も要らないほどである。だが、同作がアフリカン・アメリカンの自由と権利を求めた闘いの所産だと知ると、少し聞こえ方が変わるかもしれない。公民権運動のスローガンとして制作され、奴隷解放宣言100周年を記念して発表された同作は、強烈なメッセージのこもったプロテスト・アルバムなのである。同時代の作品に較べても、切実さが違うのだ。
 そして、このアルバムに敬意を払って作られたのが、グラミー賞を4度受賞したドラマー/プロデューサーのテリ・リン・キャリントンと、グラミー賞ノミネート経験のあるヴォーカリストのクイリスティ・ダシールによる『We Insist 2025!』だ。オリジナルが偉大すぎるが故に重圧も相当だったのではないかと推測するが、仕上がりは文句なし。ジャズ、ブルース、ソウル、ゴスペル、ファンクなどを折衷した闇鍋的なグルーヴが脈打っている。なんだ、こちらも最高じゃないか。

 キャリントンとダシールはいずれも女性ミュージシャン。圧倒的な男社会だったジャズ・シーンの風向きが変わりつつあるのを反映してか、ゲスト陣も、ベーシストのミシェル・ンデゲオチェロ、ハープ奏者のブランディー・ヤンガー、フルート奏者のニコール・ミッチェルなど女性が多い。61年の『We Instst!』でローチらがアフリカン・アメリカンの誇りを歌い上げたように、本作ではジャズ界隈でマイノリティである女性ミュージシャンならではの矜持が表出している。

 フェラ・クティのお株を奪うようなアフロ・ビートの“Driva‘man”、キャリントンのリムショットが響き渡るスロー・ファンク“Freedom Day,Pt.1”、凄みの効いた朗読に圧倒される“Triptych: Resolve/Resist/Reimagine”、アビー・リンカーンへのリスペクトが浮き彫りになる“Dear Abbey”など、ふつふつと湧きあがってくる熱情が、風通しの良いネオ・ソウル的なサウンドで中和され、聴きやすくなっているのも特徴だ。本作が生みだされた背景や文脈を知らずとも楽しめるところも肝要だろう。

 影の主役は10曲中7曲に参加しているトランペッターのミレーナ・カサド。スペイン人の母とドミニカ共和国出身の父の間に生まれ、バークリー音楽大学で学んだ彼女は、つい先日、デビュー作『リフレクション・オブ・アナザー・セルフ』をリリースしたばかり。彼女はロイ・ハーグローヴの衣鉢を継ぐような――つまり、RHファクター的とも言える――ネオ・ソウル以降のサウンドを披露した。そのプレイにもぜひとも注目してほしい。それにしても、ブルーノートからデビューしたブランドン・ウッディーにせよ、黒田卓也にせよ、2018年に49歳で急逝したハーグローヴに敬意を示すトランペッターは数多い。この系譜も剋目に値するだろう。

Hazel English - ele-king

 ヘイゼル・イングリッシュの音楽は記憶の中で鳴っているみたいな音がする。あるいはそれは2010年代に差しかかった時代のUSインディの音の面影なのかもしれない。オーストラリア出身で現在LAを拠点に活動する彼女の音楽は初期のビーチ・フォッシルズにオールウェイズの輝きのフレバーを振りかけたみたいなもののように感じられるのだ。柔らかい光の投影のようなそれは最新作のプロデューサーDay Waveの音楽にも重なって感じる部分でもある。2枚のEPを合わせるようにして作られた最初のフルレングスの編集盤『Just Give In/Never Going Home』以来、再び彼と共に制作したという『Real Life』を聞いているとほんの少しだけ世界が色づいたような感覚に陥る。メロディアスなギターのフレーズに優しく憂いを帯びたヴォーカル、記憶のフィルターみたいなシンセの音、それは世界を変えるみたいな大げさなものではなくて、家に帰った後にお気に入りのTVが始まるみたいな子供の頃の帰り道のワクワク感や待ち合わせをしている友達のもとに向かっている時に感じる心地よい胸の高鳴りに近いのかもしれない。
 そんなことを考えながら2025年のヘイゼル・イングリッシュの来日ツアー、最終日のライヴに向かう。夏のような暑さが続く6月後半の日、最新アルバムの曲をたくさん聞けたらいいななんて思いながらの道にやはり胸が高鳴っていく。こんな穏やかな興奮を味わえるのもきっと彼女の音楽の魅力だろう。

 新代田のFeverの壁にヘイゼルの名前を見つける。入場を待つ会場も心なしかワクワク感に包まれているような気配がある。オープニングアクトは浮。始まった瞬間に会場の空気が変わる。静かに、心に波紋を描いていくギターの弾き語りはひんやりとした神社の石段の冷たさを感じながら聞く童歌のようだと思った。クーラーの風が冷たく沁みて思わず目を閉じたくなる。

 そうしてしばらく置いて20時45分、バンドと共にヘイゼル・イングリッシュが登場する。シンセ・プレイヤーの姿はなく2本のギターとベースにドラムのベーシックな編成、だけどもドラム・セットがマーシャルのギター・アンプの横、ステージの端に置かれるというちょっと変わった配置。出囃子はなし。スゥっと入ってスッと始まる。そして70年代風のワンピースを着た小柄な彼女がギターを構えた瞬間、想像の世界の夏が訪れる。それはきらきらしていて柔らかな、ほんの少しだけ重力がなくなった世界の日々の思い出なのだ。オープニングトラックの “Make It Better” にしても続けて演奏された “More Like You” にしても憂いを帯びていて、いわゆるインディーポップの曲としてはしっとりしている。しかしその塩梅がなんとも心地良い。まるで雨上がりの水滴混じりの街のように、憂いを含んだ歌声がギターの輝きを反射してノスタルジックに曲を染める。

 進行ミスすら愛おしく思える会場全体を包む暖かな空気もまた格別だ。バンドは曲を間違えてやり直す。でもそれすら嬉しく感じる。ゆるいのではなく暖かい、それは彼女の音楽が格式ばったところではない、何気ない日常と接続される場所から来ているからなのかもしれない。友達との会話で噛んだり言い間違えたりしたときにちょっと笑ってネタにしてそのまま話を続けるのと同じように、笑顔で一言声をかけてなにごともなくそのまま音楽が続いていく。そうやって演奏された “Other Lives” はオリジナルよりもずっと柔らかく優しいアレンジで、まるで硬さのあった初対面の出会いから気心の知れた仲になったみたいに思えて、日常からほんの少しだけ抜け出した幸福をそこに感じた。

 ライヴ中盤、ギターを置き60年代のポップ・ミュージックに影響を受けたようなアルバム『Wake UP!』(赤い帽子と服が印象的なやつだ)から “Five and Dime”、“Shaking” と2曲続けて披露される。スタンドからマイクを外し、控えめに彼女は踊る。マイクを片手にゆらゆらと体を揺らす姿はこれ以上ないくらい曲にフィットしている。まるでレトロなテレビに映るポップ・スターみたいな様相で、だけども派手に主張することはなく曲に寄り添い音の隙間に入り込むように揺れていく。
このセクションの流れの中で披露された “There She Goes” もまた素晴らしかった。瑞々しくスッと突き抜けるようなラーズの原曲と比べて、厚みを出さずほとんどギター単独でゆったりと余白を作るみたいに演奏されるヘイゼル・イングリッシュ・ヴァージョンはやはり憂いを含み、そこに広がる空間に思い出を浮かばせているような雰囲気があった。こうやって聞くとこの曲は60年代的なフィーリングを多分に含んでいる曲なんだなと思わせられる。

 そしてヘイゼル・イングリッシュには郷愁がある。「今日この辺りを散歩したんだけど凄く良かった。東京はいつも違った印象を与えてきて、訪れる度に探検してるみたいな気分になる」なんて言葉の後に演奏された “All Dressed Up” に強いノスタルジーを感じる。頭の中のアルバムをめくるようにして思い出が映し出されるタイプのノスタルジー。街には知らない誰かの記憶が刻まれている。ヘイゼル・イングリッシュの音楽の中にある憂いは失われた、あるいは遠く離れてしまった場所との距離なのだ。そうした感情がインディ・ポップ/ドリーム・ポップの淡い光の中に接続されて小さな幻想を生み出す。それこそがきっとこの心地よさの正体だ。

 そんな風にしてこの理想の夏は終わりに近づいていく。待たせることなくすぐさま出てきてのアンコール。会場から「5モア」「10モア」の軽口が飛んで(あぁここからも会場を包む暖かい空気を感じる)ちょっとはにかんで「まだ私に飽きていないんだ」なんて言ってから演奏された最後の2曲はまた格別だった。不安に対処することについての曲だという “I'm Fine”。オリジナルとは違ったアレンジ。シンセの同期に頼らずにシンプルにギターを効かせ歌を聞かせる。そうやってギターと声の曇り空に切なさが滲み出す。構造的には “There She Goes” のカヴァーと同じような作りだけれど、 やはりヘイゼル・イングリッシュの声は奥行きがあって特別だ。
 そして最後はダンスで終わる。再びギターを置き、バンド・メンバーを紹介した後「次で本当に最後の曲。日本のショーの本当に最後」と言って “Wake UP!” が演奏される。派手に飛び跳ねるような渦の中、笑顔を浮かべて別れてく。インタヴューで彼女は自分の曲を時間の小さなスナップショットみたいに捉えていると言っていたけれどこの日のライヴはまさにそれだった。暖かく優しくほのかに幸せ、ヘイゼル・イングリッシュの音楽は感情を撫で上げて頭の中に心地の良い日々の記憶を残していく。

Adrian Sherwood - ele-king

 先日少しお伝えしたエイドリアン・シャーウッド13年ぶりのソロ・アルバム『The Collapse Of Everything』がいよいよ8月22日にリリースされる。同作にはマーク・スチュワートやキース・ルブランへの追悼の意が込められているそうで、ルブランの演奏も使用されているようだ。さらには、ブライアン・イーノが書いた曲も含まれているとのことで、大いに期待できそうです。
 またこれにあわせて、今年もDUB SESSIONSの開催がアナウンスされた。11月19日(水)@六本木EX Theater、11月20日(木)@名古屋Club Quattro、11月21日(金)@大阪Gorilla Hallの3都市を巡回する。今回はシャーウッドが(新作にも参加している)タックヘッドのダグ・ウィンビッシュ──元々はシュガーヒルのハウス・バンド、つまりオールドスクール・ヒップホップの代表曲、グランドマスター・フラッシュ&フューリアス・ファイヴの “メッセージ” でベースを弾いていた人ですね。凄まじいテクニシャンなので必見です。ちなみにキース・ルブランはその時代のドラムです──をフィーチャーし、ライヴを披露するのみならず、マッド・プロフェッサー&デニス・ボーヴェルという、巨匠2組もステージに立つ予定。いやはや、なんとも強力な組み合わせだ。今年も見逃せない一夜になること間違いなし、早くも秋が楽しみです。

Adrian Sherwood

13年ぶりとなるソロアルバム『The Collapse Of Everything』を発表!!!

〈On-U Sound〉を率いるUKダブの総帥エイドリアン・シャーウッドが、13年ぶりとなるソロアルバム『The Collapse Of Everything』を発表! タイトルトラックが公開された。繊細かつ重層的なサウンドデザインと、ダブを基盤にジャンルの境界を越えて展開される冒険的な音響世界。マーク・スチュワートやキース・ルブランへの追悼の意も込められた本作は、シャーウッドの音楽人生と感情が凝縮された意欲作。ダグ・ウィンビッシュを中心に卓越したミュージシャン陣が集結。キース・ルブランの演奏やブライアン・イーノによる作曲を織り交ぜ、挑戦的かつドープなサウンドスケープを描き出す。
さらに国内盤CDには、アルバムに先駆けて発表されたEP作品『The Grand Designer』から、亡きリー・スクラッチ・ペリー参加曲「Let’s Come Together」含め3曲が追加収録される。


Adrian Sherwood - The Collapse Of Everything
YouTube https://youtu.be/KxDqK1QI6Yg
配信リンク https://on-u-sound.ffm.to/thecollapseofeverything

UKダブ界の名プロデューサー/ミキサーとして知られるエイドリアンだが、今回はミキシング・デスクの背後から前に出て、自身の冒険心に満ちたサウンドをこれまで以上に新たな領域へと押し広げている。そして、他アーティストのプロデュースと自身の作品との違いについて、次のように語っている。

「今まで何百枚も他人の作品を作ってきて、どれも誇りに思っている。でもソロ作品では、自分がすべての判断を下せるし、他の誰かを満足させる必要がない。今回のアルバムをライブでどう表現していくかも楽しみだし、多くの人が気に入ってくれると嬉しい。これは本当に良い作品だと思うんだ。」


新作完成を祝してUKダブの巨匠3人が、遂に一堂に会す!
20年目のDUB SESSIONSはマジカルな音の祭壇と化す!

ADRIAN SHERWOOD presents
DUB SESSIONS 20th ANNIVERSARY
THE COLLAPSE OF EVERYTHING
feat. ADRIAN SHERWOOD live with DOUG WIMBISH, ALEX WHITE, MARK BANDOLA

very special guests:
MAD PROFESSOR Electronic Dub Show

DENNIS BOVELL UK dUb MaNiAc (DJ SET)

東京 2025.11.19 (wed) EX Theater
名古屋 2025.11.20 (thu) Nagoya Club Quattro
大阪 2025.11.21 (fri) Gorilla Hall

open 18:00 / start 19:00
前売:8,800円(税込 / 別途ドリンク代)※未就学児童入場不可
info:[ http://www.beatink.com/ ] / E-mail: info@beatink.com

そんなエイドリアンの新作完成を祝して、UKダブ・シーンの3大巨匠たちが集結! 激熱ダブ・パーティーの開催が決定した!

長年にわたってUKダブの最前線を走り続けるエイドリアン・シャーウッドが手がけるシリーズイベント『DUB SESSIONS』が、今年ついに20周年を迎える。これまでに古くはリー・ペリーやザ・スリッツらを招き、近年では一昨年の大反響を巻き起こしたアフリカン・ヘッド・チャージとGEZAN、昨年はホレス・アンディと〈ON-U Sound〉の原点バンド=クリエイション・レベルが共演するなど、毎回毎回、錚々たる伝説級の出演者たちがシーンもフロアも大激震の熱い内容でソールドアウトを連発してきた。

今年のラインナップも超豪華だ。エイドリアン・シャーウッドが13年振りとなるソロ名義の新作アルバム『The Collapse Of Everything』を引っさげて、タックヘッド、シュガーヒルの伝説的ベーシスト、ダグ・ウィンビッシュら3名から成るバンドを引き連れライブDUBパフォーマンスを披露する。

さらに、80年代UKデジタル・ダブの先駆者としてその名を轟かせ、独自のサイエンスとユーモアでダブの表現領域を拡張し続けてきたMad Professorが、超絶ミキシング・テクニックを武器にスペシャル・ライヴ・ダブショウを披露。

そして、マトゥンビでの活動をはじめ、ポップ・グループやザ・スリッツなどの先鋭音楽においてもラヴァーズ・ロックにおいても数々の大名盤を創り出してきた真のレジェンドDennis Bovellが極上のDJセットで空間を揺らす。

UKで奇妙な進化を遂げたダブという音楽を根底から支え続けてきた3人のマスターが奇跡的に集う、まさに“DUB SESSIONS”。マジカルな音響と重低音に身を投げ、全身で体感せよ!

エイドリアン・シャーウッド待望のニューアルバム『The Collapse Of Everything』は8月22日(金)世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラック3曲と解説書を封入。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(クリア・ヴァイナル)が発売。限定盤LPは数量限定の日本語帯付き仕様(解説書付)でも発売される。国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットも発売決定。

【チケット詳細】
前売:8,800円 (税込 / 別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
・東京:1F オールスタンディング / 2F 指定席
・名古屋・大阪:オールスタンディング

先行発売:
BEATINK主催者先行:7/2(wed)18:00~ (※限定枚数・先着、Eチケットのみ)
イープラス・プレイガイド最速先行受付:7/3(thu)12:00〜7/6(sun)23:59~(抽選)

[東京]
LAWSONプレリクエスト:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~
イープラス・プレオーダー:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~

[名古屋]
QUATTRO WEB先行:7/7(月)12:00〜7/8(火)23:59
イープラス・プレオーダー:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~
ぴあプレリザーブ:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~
LAWSONプレリクエスト:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~

[大阪]
イープラス・プレオーダー:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~
LAWSONプレリクエスト:7/7(mon)12:00〜7/8(tue)23:59~
ぴあプレリザーブ:7/7(mon)10:00〜7/8(tue)23:59~

一般発売:6月28日(土)10:00〜
[ イープラス ]
[ チケットぴあ ]
[ LAWSON TICKET ]
[ BEATINK ]

問合せ:
[東京] INFO: BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com
[名古屋] 名古屋クラブクアトロ 052-264-8211 http://www.club-quattro.com/
[大阪] SMASH WEST 06-6535-5569 https://smash-jpn.com/

公演詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15187

label: On-U Sound / Beat Records
artist: Adrian Sherwood
title: The Collapse Of Everything
release: 2025.8.22
商品ページ: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15197

01. The Collapse Of Everything
02. Dub Inspector
03. The Well Is Poisoned Dub
04. Body Roll
05. Battles Without Honour And Humanity
06. Spaghetti Best Western
07. The Great Rewilding
08. Spirits (Further Education)
09. Hiroshima Dub Match
10. The Grand Designer
配信: https://on-u-sound.ffm.to/thecollapseofeverything

CD+Tシャツセット

LP+Tシャツセット

CD

限定LP

LP

Theo Parrish - ele-king

 9月7日、福井市中央公園で開かれるONE PARK FESTIVALへの出演がアナウンスされていたセオ・パリッシュ。その前日にあたる9月6日、東京での公演が決定した。会場は渋谷のO-EASTで、オープンからラストまでのロング・セットを披露。しかもヴィジュアルは宇川直宏とREALROCKDESIGNが手がけるとのことで、これは行くしかないですね。

[8月15日追記]
 東京、福井につづいて大阪公演が決定しました! 9月9日(火)18:30~23:30@NOON、当地の方は駆けつけましょう。

9月9日(Thu)大阪 NOON
Theo Parrish open-close set

DJ: Theo Parrish
PA: Kabamix

Coffee: edenico
Food: Simba Curry

open 18:30 - close 23:30

Door 5,000yen+1drink
ADV 4,000+1drink

Ticket Info
Mail Reservation https://noon-cafe.com/events/theo-parrish-yoyaku/
RA https://ja.ra.co/events/2233023
e+ https://eplus.jp/sf/detail/4383230001

Info: NOON + CAFE http://noon-cafe.com
大阪市北区中崎西3-3-8 Tel 06-6373-4919
AHB Production http://ahbproduction.com

Derrick May - ele-king

 デリック・メイが7月に来日します。以下がそのスケジュール。7月19日はムーディーマンに行ってから中目黒か。うぉー、体力が持つかなぁ。

Derrick May Japanese Tour 2025

7/11(金) 東京新宿Bar Bridge

7/12(土) 大阪Bar Inc.

7/18(金) 浜松Planet Café

7/19(土) 東京中目黒Hven

7/20(日) 札幌Precious Hall

これまでいろんな活動をしてきた「VINYL GOES AROUND」ですが、昨年はレコードプレス工場を立ち上げ、そして年末にはレコード専用アプリもローンチしました。アプリはまだベータ版ではあるものの、すでにたくさんの方に使っていただいており、大変感謝しております。

さて、前回のコラムでも紹介しましたが、「どんなアプリなの?」という方のために、もう一度少し説明を。ざっくり言うと、“レコード版のInstagramとメルカリが合体したようなアプリ”です。
Instagramのように、自分のレコードジャケットの画像をきれいに並べて、コレクションを管理したり、ほかのユーザーと共有したり、交流したりできます。さらに、アプリ内でレコードの売買もできるようになる予定(こちらはまもなく公開予定!)です。
この、自分の持っているレコード・ジャケットをずらっと並べていく機能を、私たちは「ギャラリー」と呼んでいます。ただ並べているだけでも、けっこう楽しいツールです。自分のコレクションを眺めて優越感に浸りながら、酒が呑めるこの感じ。これにはレコード好きのロマンが反映されているなと自負しております。
そんな中で、この「ギャラリー」機能をとても活用してくれているユーザーさんを、こちらでピックアップしてインタビューさせていただくことにしました。
その第1弾として今回お話を伺ったのが、現在の投稿数トップ5に入っているであろう「Kamiroquai」さん。なんとその投稿数、1500枚超え!?私たち自身もコツコツ投稿していますが、1500枚という数字はなかなか到達できないボリューム。それをあっさりやってのけたKamiroquaiこと、神谷国俊さんに個別でコンタクトを取り、インタビューをお願いしたところ、なんと二つ返事で快諾してくれました。
岐阜にお住まいとのことで、今回はZoomでお話を聞かせていただきました。

VINYLVERSEチーム(以下、V):神谷さん、本日はお時間いただきありがとうございます。

神谷: こちらこそ、よろしくお願いします。

V:少しずつユーザー様が増えてきた中で、頻繁にお使いいただいているユーザー様の生のお声を聞いて、サービス改善に生かしたいなということと、私たちが考えた以上に様々なレコードコレクターの方が集まってくださっていて、そのコア・ユーザーの一人でもある神谷さんに、VINYLVERSEの使い方やレコードライフについて色々とお話を伺いたくて、お時間をいただきました。実はこのインタビュー企画、第1回目なんですよ。

神谷: そうなんですか。それは光栄です。

V:まず、VINYLVERSEを知ったきっかけを教えていただけますか?


神谷: えっと、Wooden GlassのPHYGITAL VINYLを購入した時に案内のフライヤーが入っていて、それでアクセスしてみたのが最初です。

V:ありがとうございます。その時にアプリの存在を知っていただいたんですね。

神谷: 登録してみたら面白そうだったので、ちょっとずつレコードをアップし始めた感じです。新譜を買ったり、中古のレコ屋で何か買ったらアップしてます。でもまだ全部はアップできてないので、まぁ、ちょっとずつアップしてますね。

V:そもそもレコードを集め始めたのはいつ頃からなんですか?

神谷: 高校の頃ですね。僕、1974年生まれなんですが、当時レコードって安くて。本屋の隅に段ボールで500円くらいで売っていて。お小遣いも限られてるし、いろんな音楽をたくさん聴きたかったので、自然とレコードに手が伸びたって感じです。

V:最初に買ったレコードって覚えてます?

神谷: たぶん、ディープ・パープルの『マシン・ヘッド』か『BURN』ですね。どちらも500円とかでした。

V:なるほど。結構長い年月レコードコレクションされてると思うんですけど、大体何年間ぐらいコレクションされているんですか?

神谷: 高校1年か2年の時に買ったので、かれこれ35年ぐらいですかね。

V:すごいですね。

神谷: いやいや、まあ、その頃はまだそんなにバンバン買ってなかったので。で、大学に入ったらフリーソウルのブームとかレアグルーヴの流れがあって、そういうものに影響を受けて、中古のレコード屋さんに行くような感じでした。まぁでもその頃もすでに高値がついてるレコードもたくさんありましたね。

V:岐阜にお住まいとのことですが、レコード屋さんってけっこうあったのですか?

神谷: 当時は5〜6軒くらいはあったかな。小さな個人店がほとんどでしたけど、今はもう1店舗くらいじゃないかな。名古屋まで足を運ぶことも多かったですね。バナナレコードの隣でバイトしてたんで、休憩時間によく覗いてました(笑)。店長さんはロック好きなんですけど、セレクトは幅広かったですね。僕は今はブラックミュージックやシティポップが好きなんで、今でもよく掘ります。

V:今はお店よりもオンラインで購入する方が多いという感じですか?

神谷: そうですね、オンラインが7割、リアル店舗3割って感じですかね。

V:なるほど。参考になります。ありがとうございます。ところで、アプリの使い方についてお伺いしたいのですが、今はどんなふうに使っていただいていますか?

神谷: 新譜や中古盤を買ったらアップしています。全コレクションはまだアップしきれていないですけど、時間を見つけて登録していますね。

V:今後、アプリにあったらうれしい機能はありますか?

神谷: 並び替え機能、特にアーティスト名順がほしいですね。あと、他のユーザーさんとの交流がもっとできたらいいなと思います。コメント機能とか。

V:ちょうど今後のアップデートで、レコード投稿へのコメント機能が入る予定なんです。1対1のダイレクトメッセージではないですが、他のユーザーとオープンなやり取りができるようになります。

神谷: それは面白そうですね。ちょっとした交流ができるだけでも、使い方が広がると思います。

V:ご家庭をお持ちとのことですが、レコード収集についてご家族から、レコードばかり買っていて怒られたりとかしないんですか?(笑)

神谷: めちゃくちゃ言われます(笑)。子どもは15歳と9歳なんですが、「またレコード届いてる」って言われますね。

V:それでも買い続けている原動力はどこにあるんですか?

神谷: 音楽が本当に好きなんですよね。あと、広告の仕事をしていたのでジャケットのデザインも好きで。CDのサイズじゃなくて、レコードの大きさで見るアートはやっぱり魅力です。サブスクも使いますけど、流し聴きになりがちで。レコードの「手間」がかかる感じがいいんですよ。

V:思い入れのある1枚ってありますか?

神谷: BUDDHA BRANDの『人間発電所』ですかね。日本語ラップの印象を変えた1枚でした。あとは、ナイキのCMで使われた、Dev Large、Zeebra、Twigyの『PLAYER'S DELIGHT』も。若野桂さんのジャケットで、それがきっかけで彼の作品も集めてました。

V:逆に「今欲しいけど持っていない」レコードは?

神谷: (ジャケットを手に取りながら)今ちょうど手元にあるんですけど、井上順の『プレイボーイ講座12章』っていうレコードで、語りと音楽が融合した企画盤ですごく昭和な雰囲気があって好きなんですよ。演奏もちゃんとしていて、ピチカート・ファイブの小西さんが関わっていて。
で、その元ネタがあって。円楽師匠の『プレイボーイ講座12章』っていうレコードなんですけど、これがめちゃくちゃ欲しいんです。昔から探していますが、これは本当にレアで見つからない。

V:これは珍しそうですね。知りませんでしたが前田憲男がやっているんですね。良さそうですね。

神谷: CDは出ているんですけどアナログの再発がないので。是非、Pヴァインさんでやってください(笑)

V:そうですね、ちょっと調べてみますね。ところでPHYGITAL VINYLについてはどう感じましたか?

神谷: ワクワクしました。特典で送ってもらった10インチもとても嬉しかったし、毎回あれは大変かもしれないけど、特典は楽しみですね。

V:特典として、例えば「制作中の別テイクを所有者にだけ配信」とか、「ライブ会場での限定アイテム」とかはどうでしょう?

神谷: 面白いと思います。あと以前、NasとMF Doomのアナログで「2枚そろえると完成する」みたいなパッケージがあったんです。そういうコレクション性もアリだなと。

V:今、1500枚ぐらいギャラリーにレコードをアップしていただいてますが、何かこだわりのポイントってありますか?

神谷: もう全然なくて、目に映って「あ、これあげてないな」ってのをあげてる感じですね。後から見返して、自分で「こんなにレコード持ってるんだな」って再認識するのはとても楽しいです。

V:今レコードがすごく高いじゃないですか。それについてどう思いますか? 不満とか、色々あるとは思うんですけど。

神谷: まあ、そもそも世の中の物価が上がってるから仕方がないかなとは思うんですけど、最近は無駄な買い物をしないように、「10年後に果たしてこれをまだ聴いてるかな」って常に自分に問いかけて選ぶようにしています。最近はあんまりたくさん買えないので、今、売れているからっていうだけのものにあまり飛びつかずに、本当に自分が聴くのかどうかってところで吟味しています。でも、もうちょっと安いと嬉しいですね。たまに新品で8000円のLPとかありますよね。5000円ぐらいまでだとありがたいなと思うんですけど。

V:神谷さんにとって、ズバリ、レコードの魅力は何でしょう?

神谷: ジャケットですかね。やっぱり“物”として見えることですね。あとはやっぱり封を開ける時のワクワク感。中学校時代、CDを買ってきた時にビニールを開けるのがすごくワクワクしてたんですよ。今はあの頃みたいなワクワク感はなくなってしまいましたけど、それは年を取ったのもあるかもしれない。でも、当時は限られたお小遣いの中で1ヶ月に1枚買うのが限度だったので、その1枚を悩んで悩んで買って、開ける時の喜びって、サブスクでは味わえないと思うんです。そういう意味では、開ける時にワクワクするし、盤をプレイヤーに載せる時も“儀式”みたいなもんじゃないですか?レコードって。

V:ふるまいが一つの作法みたいな部分はありますよね。

神谷: それがやっぱり魅力かな。「めんどくさい」って思っちゃうと、もうダメなんでしょうけど、でも見ても楽しめる。音楽が“見ても楽しめる”って、サブスクにはないですよね。針を落とすと、盤の溝に沿って進んでいくのが見られる。それってすごいなって思います。本当に、盤に刻まれた溝を針がなぞるだけで音が出るって、すごい発明だなと思います。

V:見て、触って、楽しめるっていうのはやっぱり大事な気がしますよね。

神谷: うん。そうですね。そこから生まれてくる音って、感動が違う気がしますね。

V:最後に、今レコードブームが来ていて、若い人がレコードを初めて買うということが増えていますが、何か若いコレクターにメッセージがあったら、ぜひ。

神谷: やっぱり、結婚して子どもが生まれると、レコードを買うのをやめてしまう方って多いですよね。でも、1ヶ月に2〜3枚でもいいので、買い続けてもらって、お子さんと一緒に親子でレコードを楽しんでほしいです。子どもは意外とレコードを楽しむので。

V:いいお話です。本当にそうですね。

神谷: やっぱり実際に触って、音がリンクするって、子どもにとってはすごく面白いんでしょうね。自分が触った手で、音が止まったり再生したりするって、こういうメディアはなかなかない。サブスクも僕は使いますけど、両方うまく使っていけたらいいなと思いますね。

神谷さんとの対談は、レコードに対する深い愛情とそして生活に根付いた音楽との向き合い方が伝わってくる貴重なお話しでした。PHYGITAL VINYLの企画を含め、私たちVINYLVERSEチームがレコードカルチャーを次のステージに進めていく上で、まさに理想のユーザー像を体現されているお一人だと感じました。

次回のアップデートやリリースにも、ぜひご期待ください。

神谷さん、本当にありがとうございました!

VINYLVERSE アプリ

Kneecap - ele-king

 アメリカでトランプ大統領を本気で怒らせているのはブルース・スプリングスティーンだが、イギリスで英国首相キア・スターマーから直々に批判されているのは、現代のセックス・ピストルズか、チャブの逆襲か、祝祭と抵抗の新世代か……などなどいろんな言われ方をしているアイルランドのニーキャップだ。
 去る4月のコーチェラ・フェスティヴァルにて、とことん反イスラエル/親パレスチナを繰り返したことで物議を醸し、大きな注目を集めた若きラップ・グループ、5月には英国警察から調査され、メンバーのモ・カラの過去の発言(議員を殺せとか、ハマスやヒズボラを支持するような発言等々)によってテロ容疑として起訴されたばかりであるが、先週末のグラストンベリー・フェスティヴァルへの出演をめぐってもスターマー首相から「適切ではない」と苦言を呈されていた。
 そして、『ガーディアン』にいわく、この新たな「民衆の敵」にして「時代の寵児」がグラストンベリー・フェスティヴァルのステージに挙がると、200以上のパレスチナの旗がはためき「くたばれスターマー」、そして8月の法廷裁判を控えているモ・カラに対しての「モ・カラを解放せよ」のコールがわき起こったというではありませんか。現地でこれを観たひとがいたら、どうか編集部までご一報を。

 ちなみに今回のグラストンベリー・フェスティヴァルで最高に話題になっているのはこのニーキャップ、そしてこともあろうかナイジェル・ファラージ支持を前日の取材で公言したロッド・スチュワート様々なのである。まあ、グラストンベリーがたんなる儲け主義のロック・フェスに成りはてたという話は前々から聞いておりましたが、しかし今回のニーキャップの騒動を知って、腐ってもグラストン、UKポップ文化の底力というか、ガッツあるなと思いました。

 なにしろ、ポップ・カルチャーがここまで国家を本気にさせたという点では、セックス・ピストルズ、レイヴ・カルチャー以来のことではないだろうか。アイルランド語をまぜてラップし、反英国主義とアイルランド性を強調するニーキャップがナショナリズムの焼き直しではないことは、彼らの活動の全体を見渡せばわかる。階級闘争、反植民地主義、あらたなる連帯の呼びかけ……ニーキャップは政治と音楽が再び交差する地点をこの時代に創出し(モ・カラの説明によれば「党派性を意味しない、小文字の“p”の政治性──生活感覚としてのポリティクスの実践」ということになる)、いまや音楽におけるレジスタンスの新たな磁場となっているのかもしれない。マッシヴ・アタックの3Dもジョニー・マーもポール・ウェラーもニーキャップへの支持を表明しています。
 彼らのライヴは祝祭的だが、政治集会のようでもあるとのこと、昨年リリースされたアルバム『Fine Art』のプロデューサーがトドラ・Tであることからも、音楽的にも面白いことをやろうとしている姿勢がうかがえる。
 しかも、じつにナイスなタイミングで彼らの映画『KNEECAP/ニーキャップ』が8月1日より日本での上映開始ときた。これはこれで、そうとう面白そう(ありがちな英雄譚ではない、むしろその解体だとか)。この暑い夏、我々日本人もポップ・カルチャーの最前線を観ない手はない。

Little Simz - ele-king

 いまこの作品を聴けて良かった。移民文化の豊かさ、裏切りと再出発、貧しい若者の刹那と逞しさ──ラッパー/ソングライターのリトル・シムズの通算6枚目のアルバム『Lotus』を聴くと、彼女の『Top Boy』での名演を思い出さずにはいられない。極論をいえば、『Lotus』と『Top Boy』は表裏一体の関係にある。ドラマのなかでシムズが演じたシングルマザーで介護士のシェリーはストリートからのしたたかな仕打ちにあい、人間関係に苦しみながらも、慈愛を失わず、毅然としていた。シムズは、怒りと悲しみ、困惑と決意のあいだで揺れ動くシェリーを見事に演じ切っていた。彼女が重要な音楽的パートナーだったプロデューサーのインフロー(ソールト)との決裂を乗り越えて本作を見事に完成させたように。

 『Top Boy』は、イギリス国内でも最も貧しいエリアとされる東ロンドンのハックニーで撮影された、犯罪ドラマとフッド/コミュニティのヒューマン・ドラマを融合したシリーズで、架空の公営団地=サマーハウスを主な舞台に、ブラック・ブリティッシュの人びとを中心に物語が展開する。劇中では、ギャングのドラッグ・ディールと抗争、貧困問題、移民たちの軋轢と共生あるいは強制送還、排外主義の高まり、都市の再開発/ジェントリフィケーション(町の高級化)とそれへの抵抗運動が描かれる。

 シェリーが、金儲けに邁進する恋人のドラッグ・ディーラーと意見が対立しながらも、彼女や彼が生活したり、育ったりしたサマーハウスの取り壊しと再開発反対の運動に身を投じる姿とプロットなんて涙なしには観られない。語り草となっている2024年のグラストンベリーのステージで、“101 FM” を歌うシムズの背後のスクリーンに映し出されていたのが、まさに巨大な団地だった。優れた人間描写と洞察力に富んだ脚本から成るドラマでめっぽう面白い。ただ、とにかく悲劇の連続で、あまりの暴力と裏切りの過酷さに途中で気持ちが滅入ってしまうのも事実だ。

 しかし、シムズは『Top Boy』の物語は誇張ではないと言う。1994年生まれのシムズは、ハックニーに近い北ロンドンで、家ではヨルバ語を話すナイジェリア人の母と、3人の兄姉に育てられている。母親の影響で、食事も音楽も映画もナイジェリアの文化が色濃い家庭だったという。2019年に、『ガーディアン』の取材に応じた彼女は、「このシリーズで描かれているすべての物語は、私自身が実際に目にしてきた出来事の一部。私が演じているキャラクターも、現実で知っている人物そのもの。だからこれは、本当に身近で、決して他人事とは思えない」と語り、「はっきり言っておくけど、『Top Boy』はいま起きていることを美化したり、称賛したりしているわけではない。現代の自分たちの世界をリアルに描いてるだけ」と強調している。

 これは一部からの、『Top Boy』がストリートの犯罪や暴力をカッコよく描き、ブラック・ブリティッシュのステレオタイプを助長しているという批判への反論でもあったのだが、シムズは実際にナイフの犯罪で友人を亡くし、その経験を受けてすぐさま “Wounds” (2019年。『GREY Area』収録)という曲を作り上げた。『Top Boy』でもくり返し描かれる銃犯罪とそれを美化するラッパーたちをも痛烈に批判するラップ・ミュージックで、『Top Boy』の劇中で流れていてもおかしくないような曲だ。

 こうして『Top Boy』が移民社会の負の側面や貧困の悲惨なリアリティをも容赦なく描き出して鋭い問題提起をおこなったとするならば、『Lotus』は音楽を通じてイギリスの移民文化の豊かさや貧しい若者の逞しさを伝える。エネルギッシュかつ情熱的に。たしかに本作では、決裂したインフローへの苛烈な批判やのっぴきならないシリアスな感情が噴出している。1曲目からして “Thief”、つまり泥棒だ。それはそれとして、僕が本作に魅力を感じるのは、多彩なリズム(アフロビートやポスト・パンク、ジャズ、そしてもちろんグライム/ヒップホップ)と諧謔精神があるからだ。

 プロデュースは、アフロ・ジャズ・バンド、ココロコを手がけたことでも知られるマイルス・クリントン・ジェイムズ。MVが公開されている “Young” はベースラインがぐいぐい引っ張る、貧しい若者のリアリティがコミカルに歌われるポスト・パンク風の楽曲だ。が、ポスト・パンクそれ自体を相対化するようなぬくもりのあるサウンドと丁寧な演奏は、たしかに歌詞で敬意を示すエイミー・ワインハウスのソウル・ミュージックの傑作『Back to Black』以降のものに思える。何より「金や高級品じゃねえんだよ。酒と草があって人の目なんて気にしないで踊って、愛があれば完璧な人生だよ」という気合いが清々しいではないか!

 ユキミとの “Enough” はまるでチック・チック・チックを思わせるディスコ・パンクで、ポスト・パンクといえば、“Flood” もそうだ。その曲にも参加したナイジェリア出身のシンガー、オボンジェイヤーとの “Lion” は、トニー・アレンをサンプリングした、シカゴのラッパー、コモンの2000年の名曲 “Heat” を連想させるアフロビート×ヒップホップ。この曲でシムズは、「ライオンのハートとナイジェリア人のプライド」「全盛期のローリン・ヒル並みだってわかるよ 私を見れば/ラスタファリアンも一緒 ドレッドがたなびくのを見ていて/ネフェルティティみたいに気高くこの車に乗り込む」と自信満々にラップする。彼女がローリン・ヒル、フェラ・クティ、ミッシー・エリオットらから多大な影響を受けてきたのは有名な話だ。

 さらに、双子の兄弟の久々の電話をラッパーのレッチ32との素早い掛け合いで演じる “Blood” は、まさに、家族やブラザー・アンド・シスターが重要なモチーフだった『Top Boy』のスピンオフのよう。こうした表現は現代のラップ・ミュージックが最も得意とするもののひとつだろう。歌詞をじっくり読みつつ耳を澄ませると本当に心に沁みる。そして、ウガンダからの移民の両親の下、ロンドンで育ったマイケル・キワヌーカのヴォーカルとギター、ユセフ・デイズのドラムンベース風のドラミング、ストリングスから成る表題曲の美しさは、4ヒーローの代表曲 “Star Chasers” に匹敵する。

 この島国もいま、外国人嫌悪と排外主義の急激な高まりをみせている。そんななか、リトル・シムズの言葉と音楽がより広く、深く伝わることを願うばかりだ。彼女の存在は、移民社会の希望そのものといっても過言ではないのだから。


7月1日追記:ちなみに、NEWSでも取り上げられている、いま話題騒然のアイルランドのラップ・グループ、Kneecap。8月1日から日本でも公開される彼らの映画『Kneecap/ニーキャップ』を試写で観たが、これもまた素晴らしかった! この映画についてはあらためて書くつもりだ。

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