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RIP

文:増村和彦

 誰よりもオリジナリティを湛えたドラミングで僕たちを踊らせて、何よりも僕たちを解放に導いてくれたトニー・アレンがいなくなってしまった。

 「一部のドラマーは、ソフトに演奏するという意味を知らない、彼らの辞書にないんだ」彼は2016年にそう言った。「私のドラムは派手に盛り上げることだってできる。が、しかしもっと繊細に叩くことだってできる。その音は、まるで川がながれるように聞こえるだろう」

 あらためてソフトに演奏するということに思いを馳せる。
 
 “アフロビート”の向こう側に見える“アフロなビート“の醍醐味のひとつは、ひとりひとりが叩き出すリズムはシンプルながら、それらが絡み合ったとき形成される大きなうねり。ダイナミック且つロジカルで、究極の共同分担作業。もうひとつは、うねり続けることによって得られる高揚感。いつの間にか思考が薄れ、渦のなかにただいるかのような感覚。繰り返しに気持ちよさを感じる経験は演奏しなくても誰しもきっとあると思う。そして、そのビートは多くの場合ダンスと密接な関係を持つ。
 トニーは、ドラムという楽器でこれをひとりでやってしまった。右手、左手、右足、左足にそれぞれドラマーを湛え、それらは絡み合ってタイトにうねる。そして、そのビートは踊らすこと以外のためにはないと語る。トニーが抜けたあとのアフリカ70に、複数のドラマーが必要だったという伝説も頷ける。
 “アフロビート”には大いに“アフロなビート“の影響があると思いたい。その上で“アフロビート”たらしめたのは、もう散々伝えられている通りジャズの影響だった。トニーは、バップ・ドラミングとりわけアート・ブレイキーのドラミングを聴いて、ひとりではなく、まるで複数人で叩いているように聞こえたそうだ。あなたのドラムを初めて聴いた時、全く同じことを思ったよ!
 たしかに、フレーズがバップまんまなところがあるというのはわからないでもないが、そんなことではなくて、キック・スネアもフレージングの一部にしていくバップのアイデアと、“アフロなビート“感覚の融合が、“アフロビート”を生み出す原動力になったのではないか。トニーのドラムは、いつも同じ匂いがしながらも、よく聴くとフレーズの多様さに溢れている。トニーが叩いていると一聴しただけでわかるのに、全く同じフレーズというものがない。覚えたフレーズを使うのではなくて、自在に四肢でフレージングさせていく。しかも、踊らせることを忘れることなく、複雑なことをやっているようで、その実はシンプルだ。これは本当にすごいことだ。あなたのドラムを初めて聴いた時、頭にスネアがバシッとくるだけで面食らったよ!
 もっともジャズに近いけど絶妙に所謂スイングはしないニクいハット、変幻自在で流れるようなスネアワーク、タイトなベードラ、嵐のようなフィルとそのあとのスネア頭一発、どれもしびれ上がるけど、どうやらそれらを操っている部分があることに段々気づいてきた。おでことおへそが、みぞおちの辺りで繋がっている感じ、第三のチャクラとかスポットとかいろいろな呼び方があるのだろうが、そういえば、ブレイキーも、ケニー・クラークも、バップドラムをさらに進化させたエルヴィン・ジョーンズもそこで叩いているような気がしませんか。常にリラックスしながら、たとえ音が小さくても太鼓がとても気持ちよく響き、フィルの瞬間風速は凄まじく、いつまでも止まらないかのようなビートで踊らせてくれる。

 ソフトに演奏するって、こんなことらなんじゃないかなって思いながら書いていたけど、きっとそれだけじゃないですよね。「川のように流れていく(flowing like a river)」ドラム、わかる気もするけど、まだわかっていないことのほうが多い。でも、これからも多くの気づきを与えてくれそうな感じがするのも楽しみで、ずっと聴き続けたくなります。
 60年代フェラ・クティと出会った頃すでに“アフロビート”ドラミングのスタイルを確立していたみたいだけど、フェラ・アンド・アフリカ70の映像を見ると結構ガシガシやっているのも見受けました。“アフロビート”は集団戦。強烈なクティの個性だけを聴く音楽ではなくて、数え切れないほどステージにいるもの全員が合わさって“アフロビート”だ。そしてそれをひとつにまとめあげたのが、トニー・アレンの発信と説得力の塊のようなドラミング。フェラ・クティとトニー・アレンが“アフロビート”を創り出した。
 トニーズベストに挙げる人も多いだろう、トニー・アレン・ウィズ・アフリカ70は、勢いとリラックスが同居して、まさに油の乗った様がかっこいい。"Jealousy"の鍵盤は何度聴いても気持ちよいです。その直後のトニー・アレン・アンド・ザ・アフロ・メッセンジャーズは、めちゃくちゃ渋い。『No Discrimination』というタイトルからしてもっとも勇気を与えてくれる作品のひとつだ。
 円熟味は増し続け、ジャンルを越えた様々なコラボレーションは、僕たちを解放へ向かわせてくれる。オネスト・ジョンズが熱心に再評価し続けたこともあり、南ロンドン勢の生きた影響を感じられる作品たちも興味深い。「でもさ、実はみんな同じものじゃない? ハウスにジャズ云々、いろいろとジャンルはあるものの、要は同じ。誰もがあらゆるものを分け隔てなく聴いている、と。ほんと、ソウルフルな音楽か、リズミックな音楽かどうかってことがすべてなんだしさ」カマール・ウィリアムスのこの言葉は、そのままトニーの軌跡にも当てはまるだろう。
 最近のジャズに還ってきたかのような作品群では信じられないほど四肢の動きが小さいまま、踊らせるのも見受けました。文字通り「to play soft」の極意が最高まで達したかのようなドラミング。

 「ベストであること。それは他の誰かと同じことすることではない。ベストであることとはつまり、他の誰かがそこから学べる、それまでなかった何かを創造し、残すことである」

 たしかに、あなたはいままでもこれからもあまりに大切なものを生み出して、変遷を辿れば辿るほどに、ボクたちに多くの気づきを与えてくれている。
 
 “I wanted to be one of the best — that was my wish,“
 たしかに、あなたは間違いなく最高中の最高だ!

文:小川充

文:増村和彦、小川充

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