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小川充 Jan 23,2023 UP

 凄まじい勢いで作品リリースを続けるスー。作品は自身のレーベルである〈フォーエヴァー・リヴィング・オリジナルズ〉から Bandcamp 経由で発信しているのだが、2022年は7つもの作品をリリースしている。それ以前は一年に1、2作程度のリリースだったが、2022年になってから一気にリリース量が増え、特に10月と11月にかけては6作品もリリースしている。2022年に入って最初にリリースした『エアー(Air)』と、その続編的な『Aiir』はそれまでの作風から一変したもので、オーケストラをバックにしたクラシック調の作品だった。男女混成コーラスによる歌詞のない歌は声楽というのが相応しく、賛美歌を思わせる高尚な雰囲気に満ちた作品だ。一方、『トゥデイ&トウモロー』という作品は1960年代のサイケデリック・ロック調で、ヴォーカルも粗削りでファンキーなものだった。こうした正反対の作品をリリースする意図がどこにあるのかよくわからないが、つくづくスーは人を混乱させるグループであると思うし、そんな神出鬼没で予測不能なところが彼らの魅力だと感じる。

 10月以降の作品の中で、『アンタイトルド(ゴッド)』、『アース』、『11』には共通した要素がある。それはゴスペルである。『アンタイトルド(ゴッド)』はタイトルからしてそうで、曲目も “アイ・アム・フリー”、“ゴッド・イズ・ラヴ”、“スピリット・ハイ”、“ディア・ロード”、“ウィー・アー・ゴッズ”、“ゴッド・イズ・オン・ユア・サイド”、“フリー”、“マイ・ライト”、“ゴッド・イン・ディスガイズ” と、神や創造主、自由や精神、光などをテーマにしている。“ゴッド・イズ・ラヴ” はいわゆるゴスペル・ファンクというようなナンバーで、“スピリット・ハイ” はゴスペル色の濃いネオ・ソウル。“ラヴ・イズ・オール・アイ・ノウ” はガラージ・クラシックかムーディーマンの作品のようにも聴こえるナンバーで、やはりゴスペルの強い影響を感じる。面白いもので、これらで披露される歌声は正反対な『エアー』と『トゥデイ&トウモロー』の両方に通じるところもあり、一見して繋がりのないように聴こえるこれら作品が、実は繋がっていることを示している。
 『アース』にもこうした傾向は続き、曲目も “スピリット・コール”、“ザ・ローズ・ウィズ・ミー”、“ゴッド・イズ・イン・コントロール”、“パワー” といったゴスペルならではのものが並ぶ。“ザ・ローズ・ウィズ・ミー” における呪術的でアフロセントリックなモチーフは、ゴスペルというよりもはやヴードゥー教の祈祷のようでもある。アフロ・キューバン調の “ソウル・インサイド・マイ・ビューティフル・イマジネイション” もそうだが、『アース』はより原初的なルーツ・ミュージックに立ち返ったような作品でもあり、そうしたところからこのアルバム・タイトルになっているのだろう。
 『11』はサイケデリック・ファンクの “グローリー” を除き、直接的には神や宗教に繋がるようなタイトルのナンバーはない。それでも “トゥゲザー” や “ハイアー”、“ザ・サークル” などスピリチュアリズムを連想させるようなワードが並ぶ。ファンクやソウルを軸にアンビエントやフォークとヴァラエティーに富む作品が並ぶが、歌のテイストにはやはりゴスペルに繋がるムードが流れる。1960~70年代のグループで言えばロータリー・コネクション、24カラット・ブラック、ザ・ヴォイシズ・オブ・イースト・ハーレムといったところだろうか。

 こうしたゴスペルへの傾倒について、そもそもスーは様々な音楽性を持つグループであるが、なかでもソウルやファンクなど黒人音楽を主軸としているところがあり、多くの黒人音楽に影響を与えているゴスペルへ行きつくのは自然な流れであると言える。『ブラック・イズ』のようにブラック・ライヴズ・マター運動に呼応した作品もリリースしてきているが、遡れば1960年代の公民権運動とゴスペルにも同じような関係性があった。また、グループの中心人物であるインフローことディーン・ジョサイア・カヴァーは、黒人シンガー・ソングライターのマイケル・キワヌカの作品をプロデュースしてきており、彼のブラック・フォークとゴスペル・ファンクとアフロが混じったような世界は、スーにおいても散見されてきた要素であるので、こうしてゴスペル色が前面に出てくるのも合点がいくところだ。

 同様にインフローがプロデュースを手掛けるリトル・シムズも、新作『ノー・サンキュー』を2022年の年末にリリースした。これまでの〈エイジ・101・ミュージック〉でなく、〈フォーエヴァー・リヴィング・オリジナルズ〉からなので、インフローの影響がより強い作品となっている。ピアノをバックにアカペラ・コーラスが流れる “コントロール”、プリミティヴなアフロ・リズムに荘重なコーラスが絡む “X”、オーケストレーションと混成コーラスをフィーチャーした “ブロークン” など、これまたゴスペルに繋がるムードが随所に感じられる作品となっていて、これまでのリトル・シムズにあまりなかった面も見せる興味深いアルバムだ。

 ゴスペル関連でいくと2022年はもうひとつ象徴的な作品が生まれている。これまでジョージア・アン・マルドロウ、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズなどと仕事をしてきた女性シンガーのジメッタ・ローズによる『ハウ・グッド・イット・イズ』で、地元ロサンゼルスのゴスペル・コーラス・グループであるザ・ヴォイシズ・オブ・クリエイションとの共演作となる。楽曲もローランド・カークのゴスペル・ジャズ・クラシックである “スピリッツ・アップ・アボーヴ”、西海岸の伝説的なスピリチュアル・ジャズ・バンドであるサンズ・アンド・ドーターズ・オブ・ライトの “レット・ザ・サンシャイン・イン” などをカヴァーしていて、ゴスペルとクラブ~ダンス・ミュージック・カルチャーの接点から生まれたアルバムとなっている。このようにゴスペルがキーワードとなった作品が見られた2022年だが、2023年もこうした傾向は続くのではないかと予想する。

小川充