「S」と一致するもの

The National - ele-king

 ザ・ナショナルの4年ぶり7枚目のアルバム『Sleep Well Beast』を手にした瞬間、暗い……と思った。とにかく2017年によく聴いたアルバムは、何故かこのようにどれもこれもジャケットが暗い。発売直後のレコード屋の店頭ではこのザ・ナショナルの7枚目のアルバムの横に、同時期に発売された白々しいほど真っ青な空を写した明るいジャケットのLCD サウンドシステムの復活作『American Dream』が並べられ、対比的なフロムアメリカの音楽の表情の違いにひとり笑ってしまいそうになったが、どちらも実は絶望しているという点では同じことなのかもしれない。

 『Sleep Well Beast』というアルバムは、この世ではないどこか別の場所で鳴らしているような“Nobody Else Will Be There”の重いピアノの音色からゆっくりとはじまる。予想通り、闇のように暗い。しかし2曲目の「Day I Die」。「僕が死ぬ日、僕が死ぬ日、僕らはどこにいるんだろう?」と先の見えないいまの世のなかに問いかけるかのように繰り返される痛々しい言葉。それとは裏腹に、高まる鼓動のように早く鳴り続けるリズムの力強さと、重なり合う美しいギターのフレーズ、突き抜けるメロディの高揚感が混ざり合い、死を意識しているというのに恐ろしいまでに生命力に溢れたパフォーマンスを叩きつけられる。キャリアを積み重ねてきたバンドの底力を感じるような曲の凄さに、ここでまず身震いする。
 その後も、感情的なギターフレーズにやられる4曲目の“The System Only Dreams In Total Darkness”や、荒々しい6曲目の“Turtleneck”、機械と人力の両方のリズムを使って登りつめていく8曲目“I 'll Still Destroy You"から、先行配信されていた9曲目の“Guilty Party”に続き、それを繋ぐように挟まれたピアノの穏やかな曲で抑揚を効かせて、終わりへとどんどん向かっていく。メロディアスなコード進行と、寡黙なリズムと、静かに爆発する美学。作品を覆う全体のトーンは一貫していて、まあ素晴らしいこと。

 2015年に発表されたヴォーカルのマット・バーニンガーがメノメナのブレント・ノップフと組んだサイド・プロジェクトEL VYのユルくておかしなアルバム『Return To The Moon』を気に入ってよく聴いていたので、『Sleep Well Beast』のマットの歌声を久々に耳にして、曲調によってこんなに印象が変わるものかと驚いてしまった。ザ・ナショナルに戻った瞬間、本領発揮と言わんばかりに影を作りだす力は一体どこに隠していたのだろう。地を這うような低い歌声はさらに深みを増している。それぞれがギターやキーボード、サウンド・プロデュースなどを担当するデスナー兄弟は、バンドの活動から離れたところでクラシックや映画音楽に関わっていると聞いているし、年齢とともにじょじょに実験的な音楽に変貌を遂げてもおかしくはないのに、それなのにザ・ナショナルときたら、エレクトロニックな音をところどころに使いながらも淡々とエネルギーを燃やすように、奇をてらわずに、真っ当なロックをいまだ奏でるなんて、敵わない。弱音や皮肉や諦めを乗せた歌詞を優しく包み込むエモーショナルな音を前にすると、枯れて朽ち果てていく肉体にも感情はあり、ちゃんと生暖かい血が流れていることに気付く。これは何回か聴いて1ヶ月後には忘れ去られてしまうようなアルバムとは明らかに違うということ。そして聴き終えた後に、誰かに伝えたくなるような使命感をもたらすもの。暫くザ・ナショナルから離れていた人や、いままで出会う機会がなかった人のところにもちゃんと届けばいいと祈っている。

 『Sleep Well Beast』は暗い。けれどもう一度ジャケットを見てほしい。弱いながらも光はあり、そこには誰かがいる。真夜中に窓の外を眺めて、遠くの方に知らない家の窓の灯りを確認できたら、今日のところは黙って毛布にくるまり、穏やかに眠りにつこう。

 よくお眠り、獣よ、君もね。

私たちは慢性的な危機を目撃している。そのような危機は、今や過去のことだと思っていた緊縮財政と衝突のあった古い時代、あるいは人種と国民をめぐる政治に私たちを連れ戻したように見える。私たちは立ち往生しているのかもしれない。しかし、昔に引き戻されているわけではない。警察による職務質問、学校からの除籍、若者の失業といった重要な指標が示しているのは、1979年の総選挙におけるサッチャーの歴史的勝利に沸いていた37年前よりも、事態が悪くなっているということだ。(本書、日本版序文より)

 ポール・ギルロイは、こと今日のDJカルチャー/(とくにUKにおける)ブラック・ミュージックを思考するうえでは外せない思想家のひとりである。人種問題の文化研究などというと堅苦しいが、ギルロイがこの日本版の序文で書いている言葉を引用すれば「生きた社会運動を学術的に考察する」こと、本書におけるギルロイの場合、それはおのずと音楽について語ることになる。
 黒い英国における音楽と社会運動史の考察、『ユニオンジャックに黒はない』は、その後『ブラック・アトランティック』で有名になるギルロイのデビュー作で、初版は1987年だが、有名なのは2002年の増補版で、それにしても15年目にしての本邦初翻訳だ。が、これはいま読んでも充分にパワフルで、震える本であり、ここに書かれている過去の闘争が現在と交差する瞬間、その持続する瞬間においてこれからも多くの人が訪ねて来るであろう本だと言える。ザ・インプレッションズでカーティス・メイフィールドが歌う勇敢で前向きな“キープオ・ン・プッシング”を聴いているとき、聴き手のなかに、たんなる過去の名曲として消費する以上の何かが生まれるかもしれないように。
 あるいは、アレサ・フランクリンの“シンク”(1968)、ボビー・ウーマック“アメリカン・ドリーム”(1984)のような曲……一見たんなるラヴソングでありながらそれ以上の解釈も可能なこうしたソウルという名で呼ばれるポップスを、ギルロイは次のように説明している。「個人の歴史と公共の歴史のそれぞれの領域がもつ特性は、両者が分節されつつも節合していることを表現すべく引き合いに出され、ひとつにまとまることで真実と自由の双方を生みだしている」。つまり、「個人の歴史と公共の歴史との相互作用によって喜びをつくり」だしていると。
 『ユニオンジャックに黒はない』は、資本主義批判/社会運動の本であるが、面白いほど、音楽についての本である。ソウル、ファンク、ブルービート(スカ)とレゲエ、そしてヒップホップ……こうした音楽が趣味にとどまることを許さずに、黒い英国においてどのように社会と“関わり合っていた”のかを綴り、パンク・ロックを起爆剤に生まれた「ロック・アゲインスト・レイシズム」という運動についてもじつに詳しく描写している。思想書において、この本ほど音楽誌からの引用が多い本もそうないだろう。
 もっとも、本書が刊行された15年前と比較して、福祉を破壊し、格差を増長する新自由主義が(英国ではニュー・レフトを通じて)加速的に進行した現在についてギルロイは手厳しく、なかば敗北的に、避けがたく悲観的な態度を以下のように見せている。「政治的な発話と疑われるものを非公式に差し止めることが威を振るっている風潮のもとでは、怒りも道徳もどちらも表立っては示されない」。かくして「最近の数年間で支配的になっているのは、説教臭いラップや布教的なパンクではなく、つねにほとんど歌詞のないエレクトリックなダンス・ミュージックである」。そして、「内面への沈潜とエクスタシーという身体の快楽の徹底した追求とによって、そこから生じてきたサブカルチャーは、古き政治の趣をほとんどすべて失っている」と。で、「そうしたサブカルチャーはまた、部分的には企業の権力と結びつき、政治ないし経済的な資産としての価値を評価する政治あるいは政府と結びつきのある人間がいなくても、世界中に輸出されている」。これは悪しきにつけ、良しにつけでもあろう。ひとつたしかなのは、ギルロイが言う「感覚を麻痺させたいという諦め」、すなわち逃避したいという流れが音楽のなかでより強まっていることだ。(ぼく個人が日常聴いている音楽の多くも、この流れにある)
 またギルロイは、こうした事態のなか、15年前に本書が触れた(たとえばUKレゲエと社会運動がリンクするような)抵抗のネットワークは、「デモクラシー、フェミニズム、社会主義という各要素への日常における希望と同様に、ほぼ崩壊している」とぶっちゃけている。「そのような希望とこのネットワークは、かつて居心地悪くではあるが、生産的に提携していたのだが。それに代わって、今や無力さを引き起こす反知性主義が、倫理なき民営化と日和見主義の後押しする強欲さと利己心というよくある悪を牛耳っている」。
 日本もいよいよトランプや、そしてサッチャーのことを他人事のように語れない窮地に追い込まれている。他方では、数ヶ月前の世間的には注目度の低かった民進党の代表戦において、枝野幸男氏がヴァンパイア・ウィークエンドやグリズリー・ベアが全力で応援したバーニー・サンダースと多くのところで重なる政策を掲げていたことに音楽ファンの何人かは気づいたかもしれないし、新党結成時の氏の会見における「下からの政治」という言葉がブレイディみかこの「地ベた」というコンセプトと重なるんじゃないかと、おそらくだが……何人かは気づいたかもしれない。
 しかしながら、何度もくじけそうになる信念と希望を、黒い英国のサブカルチャーが支え合ったように我々にもできるとしたら、いったいどのように、いったいどうしたものかと……ギルロイが序文で吐露するような深い敗北感を覚えている人も、とくに年増になってくると、少なくはないだろう。本書が訴えるところでは、そして現実的なせんとしてこの本を咀嚼して言えるのは、まずは連帯意識(コミュニティ意識)というものを見失わないこと。まあ、現代の英国にスリーフォード・モッズがいるように、日本にもBullsxxtのようなバンドががんばっているし、水曜日のカンパネラだっている。終わった過去は無駄にはならず、それはまた何かのきっかけでいつはじまるのかわからない、そういうぎりぎりの希望についても、ギルロイは次のように力強く書いている。

 権利と人間の尊厳を求める闘いはいくつかのささやかな暫定的勝利を収めているが、そのあとには長期にわたる重苦しい敗北が続いている。そうした敗北が示しているのは、ある異なった種類の社会へと英国が変容していく様だ。最初は不安定で慢性的に危機に陥った市場社会へと英国は変容したが、その次には今日目の当たりにしているように、ヴァーチャルでネットワーク化された社会生活における、恐るべき新自由主義的な実験へと変容した。それは私有化、軍事化、金融化のトライアングルをなしている。だがいくつかの闘争が残したものは、豊かな創造的追求のなかにいまだ顕著である。それは、言葉のないエレクトロニック・ミュージックのなかに、共同体のアンダーグラウンド文学や詩作のなかに、そして新たに生まれつつある世代の抵抗芸術のなかに反響している。これらの反体制的な布陣は戦闘的な過去に彩られており、型破りで多文化的な亡霊たちを呼びだすことができる。そのような亡霊の存在はその潜勢力を失っているかもしれないが、私たちが今や当たり前のものと思いかねない危機に陥っている抑圧的な秩序に反対する、ポストコロニアルな抵抗という抵抗的な歴史を、時としてふたたび甦らせることが今なおできる。(本書、日本版序文より)

Kamasi Washington - ele-king

 カマシ・ワシントンが〈ブレインフィーダー〉から〈ヤング・タークス〉に移籍したというニュースが流れたのが、今年の4月頭。〈XLレコーディングス〉の系列となる〈ヤング・タークス〉は、ザ・エックス・エックスサンファFKAツイッグスSBTRKTなどのリリースがあり、どちらかと言えばエレクトロニックなクラブ・サウンドのレーベルというイメージだったので、果たしてカマシのような生演奏のジャズはどうなのかという危惧があった。しかし、そうした懸念は新曲“トゥルース”を聴いて霧散した。2010年代におけるジャズの名作の一枚として輝く『ジ・エピック』(2015年)の流れを汲む作品で、カマシの音楽性そのものは変わりがなかった(そもそも〈ブレインフィーダー〉も決してジャズのレーベルではないし、その中にあってカマシの作品は異彩を放っていたわけだが)。この“トゥルース”は13分を超す大作で、テナー・サックスと作曲のカマシ・ワシントン以下、盟友のテラス・マーティン(アルト・サックス)とサンダーキャット(エレキ・ベース)、そしてライアン・ポーター(トロンボーン)、キャメロン・グレイヴス(ピアノ)、ブランドン・コールマン(キーボード)、マイルズ・モスリー(ダブル・ベース)、ロナルド・ブルーナー・ジュニア(ドラムス)、トニー・オースティン(ドラムス)といったカマシのバンドのザ・ネクスト・ステップのメンバーほか、カマシの父親でもあるリッキー・ワシントンがフルートで参加していた(かつてリッキーはマイアミ・ファンクのロウ・ソウル・エキスプレスのリード・シンガーでもあり、近年はカマシのツアーにも参加している)。『ジ・エピック』でも特徴的だった男女混声コーラスやストリングス隊を配し、壮大な中にも優美な佇まいを感じさせるスピリチュアル・ジャズである。さらにチック・コリア、ソランジュなどのバックも務めるマット・ヘイズのギター、ニック・マンシーニによるラテン・タッチのヴィブラフォンを交えることにより、ウェスト・コーストらしいメロウで開放的な空気を入れており、ある種のバレアリックなムードも醸し出している。録音もカマシたちメンバーの地元ロサンゼルスで、〈ヤング・タークス〉に移籍したといっても彼らのスタイルは変わることなく、普段どおりの演奏をしていた。恐らくレーベル・サイドも変に口出しすることはなく、彼らのやりたいようにさせたのだろう。

 それから約半年、“トゥルース”を含むミニ・アルバム的なEP『ハーモニー・オブ・ディファレンス』がリリースされた。全部で6つのパートからなる組曲で、最後の締めが“トゥルース”となる。マンハッタンのホイットニー美術館で開催の展覧会「ホイットニー・ビエンナーレ 2017」のために書き下ろされ、A.G. ロハスが映像監督を務めた“トゥルース”のヴィデオと、カマシの妹であるアマニ・ワシントンのアート作品(アルバム・ジャケットにも使用されている)と共に公開された。録音メンバーは前述の“トゥルース”と同じで、コーラスやストリングスは最終章の“トゥルース”で登場する。作品は対位法の可能性を追求した作曲がなされ、作品ごとにいくつかのテーマが表われ、それらが最後に“トゥルース”の中で収束していくという構成だ。オープニングの“デザイア”はゆったりとしたテンポで、オルガンをはじめゴスペル・フィーリングを感じさせる演奏。テーマ・メロディはその後“インテグリティ”と最後の“トゥルース”にも用いられる。全体的にはアーシーな演奏だが、差し色としてコズミックな質感のキーボードが花を添え、そこから次曲“ヒューミリティ”へと繋がる。組曲中でもっとも激しい演奏で、躍動的なリズムのネオ・バップである。カマシお得意の熱いテナー・サックスの咆哮が披露される“ノレッジ”は、“デザイア”同様に大河の流れを思わせる雄大なメロディが印象的。このメロディはやはり“トゥルース”の最終場面でも登場する。“デザイア”と“ノレッジ”はカマシの作曲家としての才能が遺憾なく発揮されており、優しくて広がりを感じさせるそのメロディは、スピリチュアル・ジャズのレジェンドであるスタンリー・カウエルを彷彿させる。“パースペクティヴ”はジャズとニュー・ソウルが融合したような作品で、そこにラテン的な要素も持ち込んでいる。ダニー・ハサウェイの“ヴァルデス・イン・ザ・カントリー”あたりを想起させるムードだ。“インテグリティ”は“デザイア”のメロディをサンバのリズムでアレンジしており、組曲中でもっとも楽園的なムードに包まれた祝祭曲。ウェスト・コーストの開放的な風土がもたらす楽曲と言えるが、『ジ・エピック』の中にはこうしたタイプのナンバーはなかったので、カマシのまた新たな面を見せてくれる。

 カマシやザ・ネクスト・ステップのメンバーはロサンゼルスのジャズ集団であるウェスト・コースト・ゲット・ダウン(WCGD)に所属するが、そのWCGDのひとりであるトロンボーン奏者のライアン・ポーターも、『ハーモニー・オブ・ディファレンス』と時を同じくしてミニ・アルバム『スパングル・ラング・レーン』を発表した。リリース元は〈ワールド・ギャラクシー〉で、ジョセフ・ライムバーグの『アストラル・プログレッション』(2016年)、マイルズ・モスリーの『アップライジング』(2017年)、ロナルド・ブルーナー・ジュニアの『トライアンフ』(2017年)など、WCGD周辺アーティストの作品をリリースしている。録音メンバーもカマシ、ロナルド・ブルーナー・ジュニア、ブランドン・コールマン、マイルズ・モスリー、トニー・オースティン、キャメロン・グレイヴスなど、『ハーモニー・オブ・ディファレンス』と同じメンツが参加する。その他では『ジ・エピック』でリード・シンガーを務めたパトリース・クイン、ラッパーのジャスティン・スカイらが参加する。そのジャスティン・スカイをフィーチャーし、ブランドン・コールマンがヴォコーダーでコーラスをとる“イッツィ・ビッツィ・スパイダー”は、1970年代から1980年代にかけてのジョージ・デュークやスタンリー・クラークなどを彷彿させるフュージョンと、AORやファンクが結びついたような作品。パトリース・クインが歌う“アンツ・ゴー・マーチング・ワン・バイ・ワン”は、サンバ・ジャズのリズムによるダンサブルなナンバー。この曲は『マザーグース』に登場する“アリの兵隊”がモチーフになっているのだが、ほかにも“ロウ・ロウ・ロウ・ユア・ボート”や“トゥウィンクル・トゥウィンクル・リトル・スター”など子供向けの歌をジャズ・アレンジしており、“ABCの歌”のユニークなラップ・ヴァージョンもある。こうしたモチーフは幼い娘との遊びの中から思いついたもので、彼女のために作ったアルバムでもある。そして、『ハーモニー・オブ・ディファレンス』と同じような演奏メンバーにも関わらず、まったく異なるブラック・コンテンポラリー調の作品になっている点が面白い。ライアンのトロンボーン・ソロ演奏を大きくフィーチャーするのではなく、ホーン・セクションの土台としてバンドを支え、むしろシンガーたちを表に立たせたトータル・サウンド的なアルバムである。WCGDの面々がジャズに留まらない幅広い音楽性を持ち、多彩な音楽に対応できる優れた演奏能力を持つことを示した内容と言えよう。

 WCGDを含むロサンゼルス・ジャズ・シーンからは、ナターシャ・アグラマという女性シンガーの『ザ・ハート・オブ・インフィニット・チェンジ』も〈ワールド・ギャラクシー〉からリリースされた。ナターシャはチリ出身のシンガー兼俳優のアントニオ・ピエルトを祖父に持ち、ジャズ・ベースのレジェンドであるスタンリー・クラークの義娘でもあり、スタンリーの日本公演でもキャメロン・グレイヴスら若手と共にバンド・メンバーとして来日している。〈ブレインフィーダー〉からアルバム『エンドレス・プラネット』(2011年)も出したピアニストのオースティン・ペラルタの、亡くなる直前のバンドで歌っていたのもナターシャである。『ザ・ハート・オブ・インフィニット・チェンジ』は彼女のソロ・デビュー作で、参加メンバーはサンダーキャット、ロナルド・ブルーナー・ジュニア、トニー・オースティンらWCGD周辺に、義父のスタンリー・クラークと、故ジョージ・デューク(2013年没)、故オースティン・ペラルタ(2012年没)など。デュークとペラルタ参加のレコーディングは、生前の彼らと行ったものだろう。基本的にはスタンダード中心のしっとりとしたヴォーカル・アルバムで、デューク・エリントンの“センチメンタル・ムード”、ビリー・ホリデイの持ち歌だった“ラヴァーマン”など有名曲をやっている。そうした中で異色なのがビラルの『エアタイツ・リヴェンジ』(2010年)収録曲で、ロバート・グラスパー・エクスペリエンスの『ダブル・ブックド』(2009年)でもやった“オール・マター”のカヴァー。“センチメンタル・ムード”や“ラヴァーマン”のようなバラード曲では、クールでムーディーな歌声を披露しているが、ここではジョージ・デュークのエレピとスタンリー・クラークのベースがリードするグルーヴィーな演奏に乗って、一転してソウルフルなヴォーカルを聴かせる。オースティン・ペラルタ、サンダーキャット、ロナルド・ブルーナー・ジュニアが揃うのは、ジョー・ヘンダーソン作でフローラ・プリムも歌った“ブラック・ナルキッソス”、チャールズ・ミンガス作でジョニ・ミッチェルも歌った“グッドバイ・ポークパイ・ハット”のカヴァー。“グッドバイ・ポークパイ・ハット”はペラルタの死の数日前のライヴ演奏も残されているが、ここには別の日のセッションが収められている。ナターシャのスモーキーな歌は、現在のジャズ・シンガーではグレッチェン・パーラトあたりと同質なものを感じさせる。“ブラック・ナルキッソス”の演奏や歌は、1977年のフローラ・プリム・ヴァージョンを下敷きに、現在の新世代のジャズならではのスペイシーでフューチャリスティックな質感を注入している。ナターシャの幻想的なスキャットも印象的で、フローラ・プリムと同じくラテン・アメリカの血を引く彼女の特性が出た歌唱と言えよう。

"Balearic Park" & "Shackleton with..." - ele-king

 これはディープそうです。10月13日と14日、渋谷WWWとWWW Xにて興味深いふたつのイベントが開催されます。片方は「陽」、もう片方は「陰」をテーマにしているそうで、後者にはなんと、新作をリリースしたばかりのシャクルトンも参加します。詳細は下記よりチェック。

混沌とする現代社会におけるダンスへの陶酔とその深層から扉を開くニューエイジの目覚めからアンビエントへと導かれる“憩い” 「Balearic Park」と“瞑想” 「Shackleton with...」。陽と陰にわかれたふたつのイベントを通じ、ダンスとアンビエント・ミュージックの新境地が渋谷WWWにて開かれる。

WWW & WWW X Anniversaries
10/13 fri Balearic Park - Autumn 2017 -

OPEN / START 19:00 at WWW / WWWβ
ADV ¥3,500+1D / DOOR ¥4,000+1D / U25 ¥3,000+1D
Ticket available at RA / e+ / LAWSON [L:76596]

都会の雑踏へと注ぎ込む風流の木漏れ日、現代の憩いを求め“Balearic Park”が渋谷WWWにて開園。第1回はLAのSuzanne Kraft、メルボルンのAndrás (Andras Fox)、そしてアントワープのLieven Martens Moana (Dolphin Into The Future)とTyphonian Highlife (Monopoly Child Star Searchers)、Rainbow Disco ClubのレジデントDJ KikiorixとSisiなどを迎え、ディスコ/ハウスとアンビエントが交わる、今春のGigi Masin東京公演に続くこの秋の新風景。

詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/008374.php


WWW & WWW X Anniversaries
10/14 sat Shackleton with...

OPEN / START 18:30 at WWW X
ADV ¥4,300+1D / DOOR ¥5,000+1D / U25 ¥3,500+1D
Ticket available at RA / e+ / e+ (U25) / LAWSON [L:73506]

瞑想へと沈むテクノの核心! 電子界の鬼才Shackletonがジャーナリストでもある才媛Anikaとの最新作を携え、キャリア初となる4人編成のバンド・セットとgoatが新編成で送る、ダブルのジャパン・プレミア・ライヴに加え、国内からは脈々と受け継がれる日本サイケデリックの象徴的トリオDJs 悪魔の沼 による3部構成(沼トロ‐沼ん中‐沼日和)のB3Bセット、テクノ・オーセンティックの核心部The LabyrinthのHiyoshi、新世界標準のベルリンAtonalに出演を果たすDJ YAZI (Black Smoker)、シーンのトップ・ランカーDJ Nobu率いるFuture TerrorのKURUSUが千葉より、そしてruralでの活躍も記憶に新しい若手のasyl cahier (LSI Dream)を“アンビエント”として迎え、ベテラン、中堅、若手を交え、オーセンティックかつプリミティブでありながら、その型やビートにはハマらない新たなる現代的テクノへの深淵とその先へと向かう。

詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/007934.php

行松陽介 - ele-king

ZONE UNKNOWN List Oct.

Ryoji Ikeda - ele-king

 世界を股にかけて活躍する電子音楽家/ヴィジュアル・アーティスト、池田亮司。その新たな試みとして、10月25日(水)、京都CLUB METROにてDJイベント《Ryoji Ikeda DJ Night : ROCK HARD & LOUD》が開催される。
 昨年のKYOTO EXPERIMENT/京都国際舞台芸術祭では、“池田亮司 レトロスペクティヴ”とも言われた総集編ライヴと巨大インスタレイションで観客の度肝を抜いた彼が、今年10月24日の同イベントでは、スイスの打楽器アンサンブル「Eklekto」とともに完全アコースティックな音楽プロジェクト「music for percussion」をロームシアター・サウスホールにて上演する。そして、その翌日、10月25日夜に開催される今回のDJイベントでは、オールドスクールなロックやギター・サウンドなどを爆音でプレイする予定とのこと。池田亮司がロック……これは見逃せない!

Ryoji Ikeda DJ Night : ROCK HARD & LOUD
@京都METRO

2017年10月25日(水)
Open / Start 20:00

DJ:
Ryoji Ikeda
Takuya Minami

[料金]
前売 ¥1,500 ドリンク代別途
当日 ¥2,000 ドリンク代別途

[一般PG前売り]
チケットぴあ(Pコード: 346-737)
ローソンチケット (Lコード: 51457)
e+ (https://bit.ly/2ymhBYE)
にて9/30より発売開始!
[前売メール予約]
あてに、前日まで日程、お名前、枚数を明記してメールして下さい。前売料金で入場頂けます。

イベント紹介WEB:
https://www.metro.ne.jp/single-post/171025

会場:
京都 METRO
WEB:https://www.metro.ne.jp
075-752-4765

共催:
KYOTO EXPERIMENT|京都国際舞台芸術祭
https://kyoto-ex.jp/



© Raphaëlle Mueller

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KYOTO EXPERIMENT 公式プログラム
池田亮司×Eklekto『music for percussion』

2017年 10月24日(火)
@ロームシアター京都 サウスホール
https://kyoto-ex.jp/2017/program/ryoji-ikeda_eklekto/
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[アーティスト・プロフィール]

◎池田亮司 Ryoji Ikeda
1966年岐阜生まれ、パリ、京都を拠点に活動。 日本を代表する電子音楽作曲家/アーティストとして、音そのものの持つ本質的な特性とその視覚化を、数学的精度と徹底した美学で追及している。視覚メディアとサウンドメディアの領域を横断して活動する数少ないアーティストとして、その活動は世界中から注目されている。音楽活動に加え、「datamatics」シリーズ(2006-)、「test pattern」プロジェクト(2008-)、「spectra」シリーズ(2001-)、カールステン・ニコライとのコラボレーション・プロジェクト「cyclo.」(2000-)、「superposition」(2012-)、「supersymmetry」(2014-)、「micro | macro」(2015-)など、音/イメージ/物質/物理的現象/数学的概念を素材に、見る者/聞く者の存在を包みこむ様なライブとインスタレーションを展開する。これまで、世界中の美術館や劇場、芸術祭などで作品を発表している。2016年には、スイスのパーカッション集団「Eklekto」と共に電子音源や映像を用いないアコースティック楽器の曲を作曲した新たな音楽プロジェクト「music for percussion」を手がけ、2017年にCDをリリース予定。2001年アルス・エレクトロニカのデジタル音楽部門にてゴールデン・ニカ賞を受賞。2014年にはアルス・エレクトロニカがCERN(欧州原子核研究機構)と共同創設したCollide @ CERN Award受賞。
www.ryojiikeda.com

◎ 南琢也 (softpad)
グラフィックデザイナー/アーティスト。成安造形大学准教授。90年代、CLUB LUV+、Diamonds Are Forever、など多くのイベントでDJを務める。2000年以降はSoftpadのメンバーとしてインスタレーション、パフォーマンス、サウンド、デザイン分野などジャンルを超えながらそれぞれのメディアの境界線と接点を探る表現活動を行う。 高谷史郎パフォーマンス作品「La Chambre Claire」「CHROMA」「ST/LL」で、クリエイション・メンバーとしてグラフィックデザイン・サウンドを担当。近年はグラフィックデザイナーとして、美術館の広報印刷物や図録、CDジャケットなどのデザインワークに携わる。

Belief Defect - ele-king

 クラフトワークが世界の音楽史に刻み付けたものは、電子音によるマシニックな反復が快楽を生み、それが新しいポップ・ミュージックとして機能してしまったことへの衝撃であろう。そう、彼らはパンドラの箱を開けてしまったのだ。
 いや、そもそも「反復」はダンス・ミュージックの基本でもあるといえる。クラフトワークの前にはスライがいた。だからこそクラフトワークの影響は、エレクトロやヒップホップ、テクノにも広く伝搬した。
 反復という快楽。人間からロボットへ。その「20世紀後期なアイロニー」が(こと「戦後」西ドイツという地であればなおのこと)音楽の快楽の源にもなりえるというのは、ジャーマン・ロック特有の性質(反復性)を差し置いてもクラフトワークたち本人たちですらも予想していなかったことではないか。日本のイエロー・マジック・オーケストラもクラフトワークなくして誕生しえなかったのはいうまでもない。
 では、そこで生まれた新しい音楽受容感覚はどういったものだったのか。それは神経的な音響・音楽といったものだ。音階に情動が生まれるという「感覚的なもの」ではなく、電子音に対して「神経的」なアディクションが起こること。それが音への顕微鏡的な感覚をも生成した。エレクトリック・ギターの轟音がサイケデリックな知覚の扉を開いたように、電子音は音と神経的な感覚への接続を生んだのだ。その意味でジミ・ヘンドリックスとクラウトワークを知覚/神経的な20世紀後半にかけてのポップ・ミュージックの二大神と呼んでも差し支えないないだろう。そしてジャパニーズ・ゴッド神メルツバウはその極限的存在でもある。スライ、ジミヘン、クラフトワーク、イエロー・マジック・オーケストラ。メルツバウ。
 ニューロン・ネットワーク的な音響は、20世紀末期から21世紀初頭にかけての非アカデミックなコンピューター音楽である電子音響/エレクトロニカを生むに至る。特に東ドイツ出身のアーティスト、アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)や、ピーター・レーバーク(ピタ)が主宰するレーベル〈メゴ〉ら、グリッチ以降の電子音響へと受け継がれた。
 その意味で、現在最先端の電子音楽/電子音響は概ね70年代以降の実験と実践の成果を踏まえているといえるし、どうであれクラフトワークの影響は枝分かれしつつも確かに受け継がれている。それゆえ現在では、その大きさゆえに反発する音楽家も多いはずだ。だがわれわれの聴覚は1970年代のクラフトワークによって、感性的な音楽聴取から神経的な音響聴取の直接性へと一度、転換させられたのは事実である。

 そして現在のインダストリアル/テクノは、2010年代初頭的なダークな物語性を脱して、今、一度、電子音の衝撃性・直接性を聴覚に摂取させるような方向性にまた舵を切りつつある。このビリーフ・デフェクト(Belief Defect)の最初のアルバム『デカダン・イェット・ディプレイヴド(Decadent Yet Depraved)』はその過渡期的なアルバムに思えた。ポスト・ヒューマン的なダークな物語性と直接的な音響衝撃性を折衷化させたようなインダストリアル/テクノなのである。
 本作はアルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)の〈ノートン〉と分裂したバイトーン(オラフ・ベンダー)主宰の〈ラスター・メディア〉(旧〈ラスター・ノートン〉)の二番めのレコードである。ちなみに一番めはアイランド・ピープルのレコードだ。どこかタルコフスキーの『惑星ソラリス』のような雰囲気を持ったアルバムであった。対して本作はインダストリアル/テクノだ。レーベルの再出発にあたり、現代的なアンビエントとインダストリアルを打ち出したのは、世の潮流を踏まえた選択だろう。じじつ、サラ・シトキン(Sarah Sitken)のアートでパッケージングされた本作には、むしろ2010年代初頭的なインダストリーでダークなムードが満ちている。世界の、というより世界から浸食されてしまう個人の不安というべきものだ。脱色された音響世界を響かせるというよりは、「世界」への呪詛(?)、個人のインナースペースへと遡行するイメージである。何しろユニット名が「信念の崩壊」を意味するのだから。

 このユニットに関しては詳しいことは分かっていない。というよりレーベル側はあえてインフォメーションしていない。アンダーグラウンドな音楽シーンに精通した二人組であること。2017年のベルリン・アトナル(Berlin Atonal)で公演がなされたことは分かっている。これだけだ。一説ではその正体はDrumcellとLuis Floresとも言われているが、真実は分からない。
 今の時代、匿名性をまとうことは難しい。いずれ出自が公表されるだろうが、〈ラスター・メディア〉がまったく情報を公表せずビリーフ・デフェクトのアルバムをリリースしたことは、ある意味、スーパーグループ的だったアイランド・ピープルと対になっている。レーベルは情報の遮断と音の存在感を両立させたいのだろうか。いずれにせよ(反)時代的な試みだ。
 さらにレーベルはこのアルバムを「この黙示録的な時代のサウンドトラックであり、人類の状態とその未来の未来への妥協のない反映」と語っている。じっさいトラックはどれも高品質である。深く強く研ぎ澄まされたキックに、歪んだボコーダー・ヴォイスと不穏な電子音が鳴り響く1曲め“Unnatural Instinct”、女性の息遣いのような音から始まるA面2曲め“The Conduit”、ヴォイスによるリーディングに激しいビートが重なるB面2曲め“No Future”など、「声」を加工したトラックが多く、これらも人間以降の「黙示録」的な世界観を演出しているかのように聴こえる。
 どのトラックも80年代的なディストピア感覚を10年代的な感性で上手く蘇生している。サウンドは〈ラスター・ノートン〉的な細やかさとオラフ・ベンダー的なダイナミズムが融合しており、〈ミュート〉からリリースされたカールステン・ニコライとオラフ・ベンダーのユニットであるダイアモンド・ヴァージョンを思わせもする。つまり質が高いのだ。
 私がアルバム全体を聴いた印象は「ダーク・クラフトワーク」と形容したいものである。いわば電子音楽の歴史を、2010年代の不穏の空気感によって一気に「リマスター」していく。そんなアルバムに思えた。

Diggin' In The Carts - ele-king

 これ、めちゃくちゃおもしろそうじゃないですか! なんと〈Hyperdub〉が、日本のゲーム・ミュージックに特化したコンピをリリースします。エレクトロニック・ミュージックの文脈に属する音楽家がゲーム・ミュージックを手掛けた例で言うと、しばらく前ならアモン・トビン、比較的最近ならデヴィッド・カナガハドソン・モホークなどが思い浮かびますが、そもそもそういう土壌が用意されるに至った経緯って、たしかにあまり整理されていない印象がありますよね。両者のあいだには切っても切れない縁があるというのに……どうやら〈Hyperdub〉はその歴史を紐解こうとしているようです。しかもイベントまで開催されるとのこと! 詳細は下記をご確認ください。

世界に影響を与えた日本のゲーム・ミュージックの歴史を紐解く
革新的コンピレーション・アルバム『Diggin' In The Carts』のリリースが決定!
11月のライヴ・イベントには、アルバムの共同監修を務めたKode9の来日も発表!
アートワークを手がけた森本晃司とのスペシャル・コラボを披露!

音楽ファンが、音楽ファンのために作った、ゲーム音楽のアルバム。それは1984年に生まれた世界初のゲーム音楽レコード『ビデオ・ゲーム・ミュージック』以来の試みだ。当時細野晴臣が担った役割を、ここでは〈Hyperdub〉が担っている。セレクターの醸し出す味わいまで含めて、ぜひともご堪能いただきたい。 - hally (VORC)

1980年代から90年代にかけデジタル合成によって誕生した、耳にこびりついて離れない8ビットおよび16ビットのゲーム音楽は、小さな幼虫のように蠢きながら日本で繁殖。クラシック音楽や、ロック、レゲエ、初期シンセ・ポップのメロディをデジタル・データに変換しつつ、いくつもの群れとなって瞬く間に世界中に這い広がり、全世界のゲーム・プレイヤーたちの“記憶装置”に寄生した。それは回路基板の中で増殖し、やがて活気溢れるチップチューン・クローンの亜種を生み出して、ヒップホップからテクノ、ハウス、グライム、ダブステップ、フットワークからその先に至るまで、エレクトロニック・ミュージックの様々なジャンルにおける多種多様な突然変異体に影響を及ぼしている。 - Kode9

80年代後期から90年代中期にかけて、日本のゲーム・ミュージックが生んだ貴重かつ革命的な楽曲ばかりを集めたコンピレーション・アルバム『Diggin' In The Carts』が、イギリスのエレクトロニック・ミュージック・レーベル〈Hyperdub〉からリリースが決定! 34曲もの楽曲を収録した本作は、レッドブル・ミュージック・アカデミーによるドキュメンタリー映像シリーズ『ディギン・イン・ザ・カーツ』が発端となり、エレクトロニック・ミュージックの発展を語る上で欠かすことのできない日本のゲーム・ミュージックが、いかに世界に影響を与えたかを紐解き、その歴史を探る内容となっている。同ドキュメンタリー映像シリーズで監督を務めたニック・デュワイヤーと〈Hyperdub〉主宰のKode9(コード9)が研究を重ね、監修を務めて完成させた楽曲集は、いまなお進化し続ける日本のゲーム・ミュージック初期にあたるチップチューン黎明期を掘り下げた貴重なアーカイヴ作品となっている。今回の発表に合わせ、1993年に発売されたスーパーファミコン用ゲーム『The麻雀・闘牌伝』のために、ゲーム音楽家、細井聡司によって作曲された楽曲“Mister Diviner”が公開された。

Soshi Hosoi - Mister Diviner (The Mahjong Touhaiden)
https://bit.ly/2yHU6u3

また本作では、『MEMORIES -彼女の想いで-MAGNETIC ROSE』や『アニマトリックス―ビヨンド』といったアニメーション作品で知られ、STUDIO4℃の創設メンバーとしても知られるアニメーション作家、森本晃司がアートワークを手がけている。

今作に収録された音楽は、ファミコン、スーパーファミコン、PCエンジンといった世界的に知られる日本のゲーム機や、MSX、MSXturboR、PC-8801といった8ビット・パソコン、16ビット・パソコンのために作曲されたものである。本作は、それらの楽曲を“ゲームのための音楽”としてだけではなく、電子音を駆使して日本から生まれた重要な音楽作品として捉え、ショウケースしている。

世界的なアート作品は、時として与えられた制限の中で生まれるもの。中でもエレクトロニック・ミュージックが最も革新的で影響力を持った要因は、当時のアーティストが、その時代のテクノロジーの持つ制限の中で、その可能性を最大限に引き出そうとしたことにある。80年代~90年代初期に生まれた8ビットや16ビットのゲーム・ミュージックは、作曲家たちが、データ量やチャンネル数が極めて制限された中で、様々なサウンドや音色、メロディを組み合わせることによって生み出された。新たなゲーム機が開発されるたびに新しいサウンドチップが作られ、それがまた新たな個性を生んだ。日本のゲーム会社は、様々な方法を駆使して、サウンド面で刺激的な工夫を凝らした。独自のサウンドチップを開発し、そのゲーム機の持つ可能性を最大限にまで引き出したり、ゲーム音楽家が独自のサウンドパレットを生み出すためのコンピューター・ソフトも開発された。

本作には、スティーヴ・ライヒの影響を感じさせる細井聡司の“Mister Diviner”の他にも、メガドライブのシューティング・ゲーム『サンダーフォースIV』のために山西利治が作曲した“Shooting Stars”、コナミのサウンドチーム、コナミ矩形波倶楽部が『魍魎戦記MADARA』や『エスパードリーム2』といったゲーム作品のために手がけた数々の楽曲を収録。『Diggin' In The Carts』はゲーム・ファンと音楽ファンの両方が、間違いなく満足するであろう、ゲーム音楽の素晴らしさと深みをかつてないほど詰め込んだゲーム音楽の枠を超えた金字塔的音楽作品だ。また国内流通仕様盤CDには、ゲーム音楽史研究家としても知られるhally (VORC)によるライナーノーツと、オリジナル・ステッカーが封入される。

また本作の完成に合わせ、『Diggin' In The Carts』のライヴ・イベントが、東京、ロンドン、ロサンゼルスで開催される。アルバムのリリース日となる11月17日(金)に、恵比寿リキッドルームにて開催されるレッドブル・ミュージック・フェスティバル主催の東京公演では、本作の監修も務めたKode9と、アートワークを手がけた森本晃司によるスペシャルなオーディオ・ヴィジュアル・ライヴが披露されることも決定した。

label: Hyperdub / Beat Records
artist: V.A.
title: DIGGIN IN THE CARTS
release date: 2017/11/17 FRI ON SALE
国内流通仕様CD BRHD038 定価 ¥2,200(+税)
hally (VORC)による解説 / オリジナル・ステッカー封入

【ご予約はこちら】
amazon: https://amzn.asia/hwxms4X
iTunes: https://apple.co/2ybCIk9


【ライヴ・イベント情報】

RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017 presents
DIGGIN' IN THE CARTS
電子遊戯音楽祭

日 時:2017年11月17日(金) 開場19:00/開演19:30~
場 所:LIQUIDROOM(恵比寿)
料 金:前売3,500円 *20歳未満は入場不可。顔写真付き身分証必須。
出 演:Kode 9 × Koji Morimoto AV, Chip Tanaka, Hally, Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno ('90's Techno Set), Osamu Sato, Yuzo Koshiro × Motohiro Kawashima and more

Ben Frost - ele-king

 スピーカーがぶっ飛んだのだという。本作のレコーディングをしている最中の出来事だったそうだ。そのエピソード自体がすでにこのアルバムのユニークさを物語っている。やはりまずはスティーヴ・アルビニのことから話し始めなければならないだろう。
 つい先日、アルビニ本人が、『In Utero』を録音する際に使用した3本のマイクをオークションに出品したことが報じられて話題になったばかりだが(YouTubeに動画も上がっている)、そのニルヴァーナのラスト・アルバムをはじめ、PJハーヴェイの『Rid Of Me』やモグワイの「My Father My King」など、彼がその独特の音の処理法――時間を空間化して喩えるならそれは、まるで音を「折って」いるかのような響きである――でオルタナティヴ・ロックの歴史に大きな痕跡を残したことは間違いない。
 ……のだけれど、どういうわけかここ数年、クラブ・ミュージックの文脈でも彼の名をよく耳にするようになった。「アルビニ・サウンド」の言い間違いをそのまま名義として採用したアルビノ・サウンドはまたべつの次元に属する例かもしれないが、パウウェルの一件は象徴的な出来事だったように思う。
 パウウェルは“Insomniac”というシングル曲でビッグ・ブラックの音源をサンプリングしているが、その許可を得るためにアルビニ本人にメールを送ったところ、「俺は君がやっていることに反対しているし、君の敵なんだ」という答えが返ってきたのだという。音源の使用自体は認めてくれたものの、アルビニは「この地球上の何よりも深くクラブ・カルチャーを憎んでいる」のだそうで、曰く「俺が好きなエレクトロニック・ミュージックは、ラディカルで他と違ったもの──ホワイト・ノイズ、クセナキス、スーサイド、クラフトワーク、それから初期のキャバレー・ヴォルテール、SPKやDAFみたいな連中だ」、云々。それと同じ思いを抱いていたパウウェルは、アルビニの返信をロンドンの看板に掲載し、自身の広告として利用する。そして、昨今のクラブ・ミュージックに対するアンチを宣言しているかのようなアルバム『Sport』をリリースしたのだった。

 そこで、ベン・フロストである。彼の音楽はパウウェルのそれとは異なるスタイルに属するものではあるが、エレクトロニックかつ実験的という点において両者は共通している(アルビニ=パウウェルが敬愛しているという上記のアーティストたちの名前は、そのままベン・フロストのプレイリストに登録されていてもまったく不自然ではない)。かれらのような野心的なエレクトロニック・サウンドのクリエイターたちが新たなサウンドを追求するにあたりアルビニの存在を必要とし始めたことは、ここ1年の重要な傾向のひとつと言っていいだろう。
 件のパウウェルの曲ではあくまでビッグ・ブラックがサンプリングされているだけだったのに対し、ベン・フロストのこの新作にはアルビニが全面的に関与している。プロダクションを手掛けているのはローレンス・イングリッシュ、ポール・コーリー、ダニエル・レジマー、ヴァルゲイル・シグルズソンの4名で、アルビニが担当しているのは例によって録音とミックスのみなのだけれど、その成果は如実にサウンドに表れ出ており、たとえば3曲め“Trauma Theory”冒頭の切り刻まれたノイズの断片や、7曲め“Ionia”の凍てつくような旋律からは、アルビニ特有の音の「折り方」を聴き取ることができる(ちなみに、アルバムのリリースに先駆けて“Ionia”のジェイリンによるリミックスが発表されており、これがまた最高にかっこいいトラックなのだけれど、それも原曲のアルビニのエンジニアリングがあってこそ成立しているように感じられる)。そういった目立ったトラック以外でも、 “Threshold Of Faith”や“Eurydice's Heel”、“All That You Love Will Be Eviscerated”など、ほとんどのトラックで異様な重量を伴った持続音が轟いており、それらすべてにアルビニの影を認めることができる。要するに、これまでベン・フロストが探究してきたふたつのベクトル、すなわちインダストリアルとドローンと、その双方にアルビニの魔法がかけられているのである。

 リリカルな要素の減退も前作『Aurora』との差違ではあるが、やはりこのアルバムの核心はその重厚な音響の呈示にこそあるだろう。アルビニによってもたらされたこの「重さ」こそ、前作『Aurora』で圧倒的な成功を収めたベン・フロストが新たに導き出した解なのである。
 ティム・ヘッカーが切り拓いたノイズ/ドローンの荒野を着々と進み行き、道中アンビエントの創始者たるブライアン・イーノと邂逅し惑星『Sólaris』を訪れるも、けっしてそこに停留することはせず、むしろスワンズの進路を視界に収めながらメタル/インダストリアルを摂取することで、『Aurora』というひとつのターミナルへと辿りついたベン・フロストは、いま、アルビニという魔法使いと出会ったことで、まだ誰も生還したことのないダンジョンへ足を踏み入れようとしている。パウウェルが「プロローグ」だとしたら、ベン・フロストのこの新作は「第1章」だ。このアルバムを契機に今後、同じ強度の音響を構築しようと試みる猛者たちが次々と後に続くことになるだろう。単に「ドローン+インダストリアル」でもなく、単に「エレクトロニック・ミュージック+スティーヴ・アルビニ」でもない、この『The Centre Cannot Hold』という「第三の道」に気づいた彼らもまた、きっと近い将来どこかのスタジオでスピーカーをぶっ飛ばすことになるに違いない。

interview with MASATO & Minnesotah - ele-king

 90年代のレア・グルーヴのムーヴメントやヒップホップのサンプリングを通じてソウル・ミュージックに出会い、魅了されていった。言うまでもなく、そういう音楽好きやヘッズは僕ぐらいの世代にもたくさんいる。それなりの値段のするオリジナル盤を血眼になってディグるようになったDJやコレクターの友人も少なくない。そして、それらのソウル、あるいはファンクやジャズ・ファンク、スピリチュアル・ジャズやソウル・ジャズの多くが70年代のものだった。最初から60年代のソウルに積極的に手を出す人間はあまりいなかった。それは、60年代のR&Bやソウルすなわち米国南部のサザン・ソウルの独特のいなたさや渋さの良さを理解するのには時間を要したからだった。ちなみに僕は、『パルプ・フィクション』(94年)のサントラに収録されたアル・グリーンの“Let's Stay Together”によって――この曲は71年発表なのだが――60年代のサザン・ソウルへの扉を開くことになる。


MASATO & Minnesotah
KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics”

ワーナーミュージック・ジャパン

R&BSoul

Amazon Tower HMV iTunes

 前置きが長くなった。KANDYTOWNのDJであるMASATOとMinnesotahが今年70周年をむかえるアメリカの老舗レーベル〈アトランティック〉の楽曲のみで構成したミックス『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics”』を発表した。〈アトランティック〉は駐米トルコ大使の息子で、ジャズやブルースの熱狂的なファンだった非・黒人であるアーメット・アーティガン(当時24歳)らが1947年に設立している。〈モータウン〉より12年も早い。そして〈アトランティック〉と言えば、50~70年代のR&Bやサザン・ソウルを象徴するレーベルでもある(ちなみに〈アトランティック〉は現在〈ワーナー〉傘下にあり、ブルーノ・マーズや、先日ビルボードのHOT 100で1位に輝いたデビュー曲“Bodak Yellow (Money Moves)”で目下ブレイク中の女性ラッパー、カーディ・Bも所属している。客演なしの女性ラッパーの曲のビルボートHOT 100の1位はローリン・ヒルの“Doo Wop (That Thing)”(98年)以来の快挙だという。つまり現役バリバリのレーベルだ)。

 MASATOとMinnesotahは“ソウル・ミュージック”をテーマとして50~70年代の楽曲を24曲選んだ。カニエ・ウェストが“Gold Digger”でサンプリング/引用したレイ・チャールズの“I Got a Woman”で幕を開け、スヌープ・ドッグが“One Chance (Make It Good)”でサンプリングしたプリンス・フィリップ・ミッチェル“Make It Good”などもスピンしている。ヒップホップ・クルーのDJらしくサンプリング・ネタも意識している。が、僕が思うこのミックスの最大の良さは、ブレイクビーツやレア・グルーヴ的観点のみに縛られず、彼らの愛する、ソウル・ミュージックの真髄を感じるブルース・フィーリングのある曲やサザン・ソウルを丁寧に聴かせようとしている点にある。このミックスを通じてソウル・ミュージックの世界への扉を開く若い人が増えることを願う。MASATOとMinnesotahに話を訊いた。

アメリカのなんでもない田舎の道を走る車に乗っているときにアル・グリーンとかメンフィス・ソウルを聴いてたんですよ。それまではああいうソウルのいなたさや渋さがわからなかったんですけど、そのときに何かが「ヤバい」と思ったんですよね。 (Minnesotah)

高校の同級生にOKAMOTO'Sがいたんです。自分もロックにハマっていたので、ドラムのレイジと日本の昔のブルース・ロックみたいなものも聴いていて。そういうところから遡るとサム・クックとか、いろんなアーティストに繋がるじゃないですか。 (MASATO)

もともとおふたりはアナログで〈アトランティック〉のレコードをディグったりしていたんですか?

MASATO(以下、MA):けっこうディグってました。

Minnesotah(以下、Mi):〈アトランティック〉だけを意識していたわけではないけど、レコードを買っていくなかで〈アトランティック〉のものが集まっていったという。

CDに付いてる荏開津広さんの解説で、おふたりはDJを始めた頃、トライブやピート・ロック、ギャングスターやD.I.T.C.なんかの90年代の東海岸ヒップホップをかけていたと話されていますね。ソウル・ミュージックにはサンプリングのネタから入っていったんですか?

MA、Mi:そうですね。

MA:俺は90年代のヒッピホップを聴いていて、ピート・ロックとかジャジーなネタを使っているやつとか、それこそドナルド・バードやキャノンボール・アダレイとか、あのへんを聴いて「元ネタに勝てないな」と思ったところから入りましたね。

Minnesotahさんが10代でMASATOさんと出会った頃、すでにMASATOさんはクラブなどの現場でソウルをプレイしていたらしいですね。

Mi:そうですね。すごく早かったと思います。“ブレイク・ミックス”みたいな感じでやるんじゃなくて、最初からソウルのDJみたいな感じだったんですよね。元ネタとして繋いでいくというよりは、曲としてソウルをミックスしていくというスタイルを10代のときからやっていて、超渋いなと思っていましたね。

それは、90年代ヒップホップは好きだけど「元ネタに勝てないな」という気持ちもあって、そういうスタイルでソウルをプレイしていたんですか?

MA:そうですね。ヒップホップと元ネタを織り交ぜてかけるのが自分のなかでしっくりきたのかな。

今回のミックスでは、クイック・ミックスしたり、2枚使いしたり、そういうヒップホップ的なトリックをしないで、曲を聴かせる構成になっていますよね。

Mi:正直、クリアランスの関係でスクラッチとかはダメと言われたのはあります(笑)。でも僕らはもともとそこまでトリックを使うようなDJスタイルでもないので。

MA:逆に言うと、そういうミックスやコンピレーションは多いと思うんです。そうじゃなくて、1曲1曲をしっかり聴かせたかった。選曲もそこまでド渋な曲やレア・グルーヴだけではなくて、〈アトランティック〉のクラシックを選んでいます。だから、いまの若い人にも手にとってもらって聴いてもらえたらと思ってますね。

いま“若い人”という発言が出ましたが、おふたりはいまおいくつくらいなんですか?

MA:26です。

(一同笑)

若いですね(笑)。つまり“若い人”というのは10代ぐらいってことですよね?

MA:そうですね。あとは大学生とか。

ヒップホップのDJでソウルをディグったり、ミックスする先達といえば、やはりMUROさんやD.L(DEV LARGE)さんがいますよね。そういうDJたちから触発された部分はあったんですか?

Mi:多分にありますね。それこそMUROさんのミックスはめっちゃ聴いていたし。

MA:(MUROの)『Diggin'Ice』シリーズがあるじゃないですか。亡くなったYUSHIってやつがけっこうそのミックスCDを持っていて、それをみんなで回していましたね。

Mi:(『Diggin'Ice』シリーズの)テープもあったんで、それを借りたりもしていましたね。

MA:そういう感じで回して聴いていて、その影響はかなり強いですね。

そこで知った音楽も多いでしょうしね。

MA:そうですね。最初に『Diggin'Ice』の曲を集めようと思って買い始めました。

今回の〈アトランティック〉のミックスはすべてヴァイナルでやりました?

Mi:ぜんぶヴァイナルですね。

それは自分たちで持っているものだったんですか?

Mi:持っているものと、持っていないものは借りました。

今回ミックスするうえで改めて相当な量の〈アトランティック〉音源を聴いたのではないかと思います。〈アトランティック〉の良さはどういうところにあると思いましたか?

MA:昔の『レコード・コレクターズ』を読んで……

『レコード・コレクターズ』読むんですね、渋い(笑)。

MA:はい(笑)。知り合いのDJが、昔の『レコード・コレクターズ』の、〈アトランティック〉が50周年か60周年のときの特集号を探して持ってきてくれたんですよ。(内容は)カタログがあって、いろいろ説明があるという感じなんですが、〈アトランティック〉は〈モータウン〉とか当時の他のレーベルよりも早い段階でキング・クリムゾンなんかのロックや白人の文化にも手を出していて、そういうところで幅広いレーベルだと思いましたね。

そういうクロスオーヴァーなところはありますよね。クリームやレッド・ツェッペリンも出していますしね。今回のミックスにはジャズのミュージシャンやシンガーソングライター、アレンジャーの、いわゆるソウル・ジャズやスピリチュアル・ジャズ寄りの楽曲やブルース・フィーリングのある楽曲もありますよね。ユージン・マクダニエルズとかアンディ・ベイとかも入ってます。

Mi:そうですね。正しい言い方かわからないですけど、黒人音楽というか、ヒップホップに通じるもの、という解釈もありつつということですよね。

MA:自分のなかではここに入っているものはソウルとして解釈していますね。そのなかでもジャジー系とかファンキー系とかいろいろあるんですけど、大きくはソウルかなと。

選曲にはソウル・ミュージックというテーマがあったんですよね?

Mi:大前提はそういう感じだと思います。

なるほど。モンゴ・サンタマリアのサム&デイヴのカヴァー曲やアレサ・フランクリンの名曲も収録されていますね。で、アーチー・ベル&ザ・ドレルズは“Tighten Up”ではなく、“A Thousand Wonders”を選んでますね。

Mi:ピックするのはシングルとかじゃなくアルバム収録曲であること、かつ、わりと王道であること、というルールがあって。そこでさらに“Tighten Up”まで行っちゃうともう工夫がなさすぎるというか(笑)。つまんないよなってところですかね。

でも、アレサ・フランクリンは“Rock Steady”と“Day Dreaming”と、2曲入っていますね。

MA:それはもういい曲だからしょうがないですね(笑)。

Mi:どっちを入れるかって話になったときに、「どっちも入れるでしょ」ってことになりました(笑)。

先ほども話したように〈アトランティック〉ってクロスオーヴァーしてきたレーベルじゃないですか。だから極端なことを言えば、キング・クリムゾンやクリーム、あるいはミュージック・ソウルチャイルドみたいなより現代的なR&Bやミッシー・エリオットみたいなラッパー/シンガー/プロデューサーの曲も選べたわけですよね。それでも、50年代から70年代という時代に限定してソウル・ミュージックというテーマで選曲したということですよね。

Mi:でもそこは俺らも話し合う前からそうなっていたところはありましたね。

MA:勝手にこのへんだ、というのがあって(笑)。そこ以外はいっさい入れようということにならなかったですね。

Mi:〈ワーナー〉も俺らのスタイルみたいなものをわかってくれていて、その上でこの話を振ってくれたので、もうなんのディレクションもなくリストアップして出したって感じでしたね。あとはソウル・ミュージックとして王道というか、南部のフィーリングが出ている曲も多いですね。

僕もそこがこのミックスの面白さだと感じました。ウィルソン・ピケットの“In The Midnight Hour”が2曲目に入っていたり、アーサー・コンレイの曲があったり、70年代後半のだいぶ都会的に洗練されてからの楽曲ではありますけど、マージー・ジョセフが入っていたりしますよね。つまりサザン・ソウル色を感じます。

Mi:単純にソウルの真髄みたいなところはそこな気がしているんです。70年代というよりかはディープ・ソウルやサザン・ソウルのほうが黒人音楽のなかでも重要な気はしているんですよね。ミックスにそういうものが入ることってあんまりないじゃないですか。

あまりないと思いますよ。

Mi:70年代のネタ感のあるレア・グルーヴみたいなものが多いですよね。

そうですね。まずレイ・チャールズから始まるミックスはなかなかないですよね。

Mi: 70周年記念ということもあって、絶対にその流れは外せないなと思ったんです。

自分もヒップホップを通じてソウル・ミュージックに魅了されていったくちなんですけど、最初は60年代のソウルは理解できなかったんです。一言で言えば、渋過ぎたというか。それはなかったですか?

Mi:ありましたね。最初は良さがわかりませんでした。

60年代のソウルの良さがわかるようになったのって何がきっかけでした?

Mi:アメリカのなんでもない田舎の道を走る車に乗っているときにアル・グリーンとかメンフィス・ソウルを聴いてたんですよ。それまではああいうソウルのいなたさや渋さがわからなかったんですけど、そのときに何かが「ヤバい」と思ったんですよね。そこから60年代のソウルとか、サザン・ソウル、ディープ・ソウルを好きになりましたね。

MA:僕は高校のクラスメイトにやたらとJポップとソウルが好きな意味わかんないやつがいて、そいつがTSUTAYAとかでソウルのCDを借りていて、いろいろ教わっていたんです。そいつは特にサザン・ソウルが好きで、「『ワッツタックス』という映画を観たほうがいい」って勧められたんです。あの映画でルーファス・トーマスが出てきたときに「こいつヤバいな。このパンチ、ハンパねえな」って(笑)。そういう〈スタックス〉の影響がありましたね。あと、高校の同級生にOKAMOTO'Sがいたんです。自分もロックにハマっていたので、ドラムのレイジと日本の昔のブルース・ロックみたいなものも聴いていて。そういうところから遡るとサム・クックとか、いろんなアーティストに繋がるじゃないですか。

Mi:MASATOはそこが早かったですね。サム・クックも最初から好きだったし、俺はそういうところがすげえと思っていて。この人は別に60年代とかも聴けるんだなって。単純にソウルが好きなんだなとはずっと思ってました。

MA:たぶん“原点”を探すのが好きなんですよね。結局ビートルズもスモーキー・ロビンソンのカヴァーとか、(マーヴェレッツの)“Please, Mr. Postman”とかやっているし。あとはブッカー・Tとかスライ&ザ・ファミリー・ストーンもけっこう好きですね。

そういう話を聞くと、MASATOさんは60年代のR&Bやソウルをロックンロールの解釈で聴くところから入ったんですね。

MA:そういうところはありましたね。

そう考えるとレイジ君の存在は大きいんですね。

MA:自分のなかではけっこうデカかったですね。

この前大阪でやったときはマジでシラケましたもん。チャラ箱みたいなところで「クリス・ブラウンねーのかよ!」って言われたんで、「あるわけねーだろ。帰れよ」って言って。 (MASATO)

MUROさんはディグがオタクじゃなくて、カッコいいことだって示したじゃないですか。それはスタイルとして超ヒップホップだと思うし。若い世代でそういうDJが少なくなったんだとは思いますね。 (Minnesotah)

ということは、IO君とも同世代なんですか?

MA:自分はIOと同級生ですね。

Mi:俺はひとつ年下です。

KANDYTOWNにDJとして入ったのはいつ頃なんですか?

MA:明確な時期はわからないんですけど、もともとIOとか亡くなったYUSHI、RyohuやB.S.C、Dony JointでBANKROLLというクルーを作ったんですね。それとYOUNG JUJUたちの世代のYaBastaというクルーとたまに曲を作ったりしていたんですが、俺はあんまりやる気がない感じだったんですよ(笑)。でもYUSHIが亡くなったときにみんなで集まって、(KANDYTOWNを)やろうって話になったんです。それでまとまっていったというか、そこからかなという感じはしますね。

Mi:俺も同じような感じですね。あんまり明確に「みんなでKANDYTOWNやろうぜ!」みたいなのはなかったと思います。昔から友だちとイベントをやっていたりしていて、みんな知っていたというのはありますね。最初は小箱でMASATO君がイベントをやったりしていて、そのときはピーク・タイムにソウルやディスコを流してもみんなドッカンなんですよ。

MA:踊り狂いますね。

Mi:それはけっこうすげえなと思っていたんですけどね。

MA:まあ内輪だったんで。

Mi:それこそYUSHI君が車でMUROさんのミックスを流したりしていたし、IO君とかも親父がソウルを聴いたりしていたから自分も聴いていたし、みんな音楽的な隔たりみたいなものはなかったと思いますね。

近年7インチだけでプレイしたりするスタイルも定着しつつありますよね。レコード・ブームと呼ばれるような現象もあります。そういう流れはどう感じていますか?

MA:再発とかでもけっこう7インチで出たりするじゃないですか。それはいい面もあると思うんですけど、LPはLPでいい曲も入っているから、自分としてはべつに7インチだけでプレイをするとかのこだわりはないですね。。

Mi:俺も7インチとかにこだわりはなくて。単純に7インチにしか入ってない曲が欲しくなったら買いますけど。俺はいつもアナログは持ち歩いているんですが、同時にUSBも持ち歩いているんですよ。でもこだわりたくなるのはすごくわかりますね。ヒップホップっぽいというか、そういうぼんやりとしたイメージはあります。「やっぱりこの曲は7インチでかけるといいよね」みたいな、そういう衝動に駆られるときはありますね。

おふたりは根っこはヒップホップだと思うんですけど、いま現場でDJをしていて特に感じることはありますか。

Mi:俺は単純にいまのメインストリームのヒップホップの新譜がおもしろいと思っているのがありますね。あと、いまヒップホップを聴いている人たちが元ネタのソウルやファンクをそこまで気にしていないというのも感じますね。

MA:たぶん音楽に対して深く聴くみたいな感覚がなくなってきているんじゃないですかね。手軽にiPhoneにiTunesからどんどん落としていろんなものを聴けるし、そのぶんいろんな幅が広がっているのはいいのかもしれないですけど。

やっぱりそういうなかでアナログでDJする人は少ないんじゃないんですか?

MA:少ないですね。この前大阪でやったときはマジでシラケましたもん。チャラ箱みたいなところで「クリス・ブラウンねーのかよ!」って言われたんで、「あるわけねーだろ。帰れよ」って言って。

ははははは。いい話じゃないですか。

MA:でも、辛いですよね。お客さんが楽しめないというのもよくないから、自分としてもちゃんと場所を選んだほうがいいなとは思いますね。でも自分のスタイルは変えたくないので小さいところでもしょうがないかなって思ってきていて。

Mi:クラブの現場だとふつうにヒップホップをかけているほうがお客さんも踊れますしね。たとえば60分のDJのなかで最初の20分はヒップホップをかけて、だんだんソウルやファンクに寄せようかなと思ってかけ始めたら(お客さんが)引いていくみたいなこともぜんぜんあります。それは俺の力不足かなとも思っていて、そこをうまくかけるのが永遠のテーマではありますね。旧譜をバンバンかけるカッコいいDJが少なくなったからだとも思うんですよ。それこそMUROさんはディグがオタクじゃなくて、カッコいいことだって示したじゃないですか。それはスタイルとして超ヒップホップだと思うし。若い世代でそういうDJが少なくなったんだとは思いますね。

なるほどー。ふたりは自分たちが聴いてきた、聴いているソウルをもっと広く伝えたいという気持ちがあるということですよね?

MA、Mi:そうですね。

もしかしたらふたりの世代でそういう考えの人たちはマイノリティなんですかね。

MA:マイノリティだと思いますよ。いまはKANDYTOWNとして(ミックスを)出させてもらって、リスナーの人にも知ってもらう機会が増えたからこそ、自分としてはやり続けたほうがいいのかなと思っていますね。それで「いいな」と思って、レコードのカッコ良さとか昔のソウル・ミュージックやR&Bのカッコ良さに気づく人が少しでも増えてくれればいいかなと思いますね。

それは結果的に自分たちの力にもなってきていますよね。1曲目にレイ・チャールズがかかって、そこからどれだけの人がどう聴くかですよね。

MA:「うわ、ミスったー」とか思うやつもけっこういると思いますけどね、「友だちに高く売ろう」みたいな(笑)。

(一同笑)

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