「S」と一致するもの

Playing Changes - ele-king

 ネイト・チネンによる『変わりゆくものを奏でる(Playing Changes)』のことを知ったのは、2018年にピッチフォークに掲載されたインタヴュー記事においてだった。「ジャズはかつてのような商業的魅力はないが、新世紀のジャズは創造性の爆発的な高まりを特徴としている」——つまり、1950年代のジャズのように音楽的娯楽の主流の座にはいないし、60年代のようにモードやフリーのような革命が起きているわけではない。しかし、こんにちのジャズは、かつてないほどあらゆる影響が注がれて、その創造性の高まりにおいて特徴を持っているとチネンは主張している。ジャズが文化エリートからの承認を得て久しいが、いまのジャズは、むしろジャズの正統的な歴史と格闘しているかのような、雑食性をいとわないジャズのなかにこそ面白さがあるという意見には共感する(スティル・ハウス・プランツにはジャズの影響があるし、注目の若きサックス奏者、ゾウ・アンバ擁するBeingsを聴いてもそれは感じる)。そして、それは本書が、カマシ・ワシトンにはじまり、ディアンジェロやフライローをジャズの側面から評価し、メアリー・ハルヴォーソンで終わっていることが象徴的に思える。

 長年、ニューヨーク・タイムズ紙でジャズを担当してきたチネンにとって、ジャズについて書くこととは、たんに読者にすすめる必聴盤を何百枚も選んで紹介することではなく、その背景と議論の道筋を見せながら紹介することだった。だからこの本は、「21世紀のジャズ」についての本であり、その主要アーティスト/主要作品を紹介する本ではあるが、話は1960年代にも飛ぶし、文脈を辿っている。わかりやすく言えば、カマシ・ワシトンについて語ることはアリス・コルトレーンについて触れなければならない。しかし同時に彼にはアリスにない現代的な雑食性がある。

 前世紀のジャズの言語でいまは語れないし、いま起きていることにまだ批評言語が追いついていないという思いがチネンの本の背景にはあるようだが、ぜひ本書を読みながら、現代のジャズを楽しんでもらいたい。巻末には、2000年から2024年までの必聴盤のリストもあります(日本版のために最新のものまで追記してくれた)。

 情報量がすごいので、読むのは時間がかかります。でも、その分、長時間楽しめるでしょう。ネイト・チネン著『変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ』(坂本麻里子訳)は11月27日発売

カマシ・ワシントンからウィントン・マルサリス、
ロバート・グラスパーにエスペランサ・スポルディング、
そしてブラッド・メルドーにメアリー・ハルヴォーソン……

アメリカにおいてジャズは21世紀になってどのように変わり、
そしてどのように変わらないのか……
刊行と同時にすべての米国主要メディアから絶賛された名著がいよいよ上陸!

元ニューヨーク・タイムズ紙のジャズ批評家
ジャズ・ジャーナリスト協会選定の優秀執筆賞の13回受賞、
アメリカ屈指のジャズ批評家である著者が、
その博識と気品ある文体をもって21世紀ジャズの魅力を解説する

※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作のリスト付き

(本書より)
ジャズは常に最先端を探究してきたし、複数の領域にわたり実験をおこなってきた。その点は、過去はもちろん現在も同様だ。しかし前衛の修錬と形式上の発明は今や著しい度合いで主流にまで巧みに浸透し、ジャズの美学的な中心をずらしてしまった。骨董品収集めいたホット・ジャズ熱──懐古趣味を堂々と認め、誇りとする者たちの領域──の復興ですら、多言語的なハイパーモダニズムを志向する現潮流、予想外の混合物と集合体を目指すトレンドをせき止めることはできない。

(登場するアーティスト)
カマシ・ワシントン、ウィントン・マルサリス、セシル・マクロリン・サルヴァント、ブラッド・メルドー、エスペランサ・スポルディング、ジョシュア・レッドマン、ジョン・ゾーン、ティム・バーン、ジャック・ディジョネット、ポール・モチアン、ウェイン・ショーター・クァルテット、ジェイソン・モラン、マーク・ターナー、オーネット・コールマン、ヴィジェイ・アイヤー、ロバート・グラスパー・エクスペリメント、フライング・ロータス、ジェフ・パーカー、エスペランサ・スポルディング、シャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイド、リオーネル・ルエケ…………そしてメアリー・ハルヴォーソン…………(ほか多数)

四六判/440頁

■目次

序文
1 政権交代
2 フロム・ディス・モーメント・オン
3 アップタウン、ダウンタウン
4 山を演奏する
5 新たな年長者たち
6 ループされるギャングスタリズム
7 ジャズを学ぶ
8 侵入し急襲せよ
9 変わってゆく同じもの
10 露出
11 十字路
12 スタイルの対決
後書き
※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作

[著者プロフィール]
ネイト・チネン(NATE CHINEN)
ネイト・チネンはジャズに関して20年以上執筆してきた。ジャズ・ジャーナリスト協会の選ぶ「Helen Dance–Robert Palmer Award for Excellence in Writing」賞を13回受賞した彼は、『ニューヨーク・タイムズ』で12年にわたり音楽に関する報道をおこない、『ジャズタイムズ』でも長期連載コラムを執筆した。2017年にWBGO〔※ニュージャージー州のジャズ専門公共ラジオ局〕の記事製作責任者となり、オンライン報道を指揮する一方で、NPRミュージック向けに幅広いジャズ番組の企画に貢献している。著名なジャズ興行主である、ジョージ・ウィーンの自伝『Myself Among Others: A Life in Music』(2003)を共著し、また音楽評論家アレックス・ロスの編集した「Best Music Writing 2011」にも文章が収録されている。妻とふたりの娘と共に、ニューヨーク州ビーコン在住。

[訳者プロフィール]
坂本麻里子
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。ロンドン在住。訳書にコージー・ファニ・トゥッティ『アート セックス ミュージック──コージー・ファニ・トゥッティ自伝』、ジョン・サヴェージ『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも──ジョイ・ディヴィジョン ジ・オーラル・ヒストリー』、マシュー・コリン『レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』、ジェン・ペリー『ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』、ハンナ・ロス『自転車と女たちの世紀』、マーク・フィッシャー『K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ』『K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治』、ほか多数。

Wool & The Pants - ele-king

 今年の秋、待望のセカンド・アルバム『Not Fun In The Summertime』を自主リリースしたウール&ザ・パンツ、年明けの2月には待望のワンマンライヴが新代田FEVERにて開催されることになった。素晴らしい! この機会を待っていたファンも多いはず。しかも、サポートDJはサモハンキンポー!とコンピューマさん。(なお、アルバムのレヴューはただいま編集部コバヤシが執筆中。来週には掲載予定です)


Wool&The Pants
Not Fun In The Summertime

Self-release

「Wool In The Pool」
新代田FEVER
https://www.fever-popo.com/

日程:2025年02月02日(日)
時間:OPEN/START 18:30
前売:¥3,500(税込/D別)

LIVE
Wool & The Pants
DJ
COMPUMA / サモハンキンポー

チケット
[ぴあ先行受付] 11/22(金) 18:00〜11/27(水) 23:59
[一般発売] 11/30(土)10:00〜
ぴあ
e+
ローソン

主催/企画/制作:Bias & Relax adv.
お問い合わせ:新代田FEVER 03-6304-7899

11月のジャズ - ele-king

 エチオピアン・ジャズのパイオニアであるムラトゥ・アスタトゥケは、2009年に〈ストラット〉のコラボ・セッション・シリーズ『Inspiration Information』でザ・ヒーリオセントリックスと組んで以来、LAの〈モチーラ〉が企画した『Timeless』でミゲル・アットウッド・ファーガソン、ブランドン・コールマンフィル・ラネリン、エイゾー・ローレンス、ベニー・モウピンらと共演し、その後もロンドンのアレキサンダー・ホーキンス、バイロン・ウォーレン、トム・スキナーらによるステップ・アヘッド・バンド、メルボルンのジャズ・ファンク&ヒップホップ・バンドのブラック・ジーサス・エクスペリエンスなど、さまざまなアーティストとのコラボをおこなってきた。

Mulatu Astatke And Hoodna Orchestra
Tension

Batov

 新作の『Tension』は、イスラエルのテル・アヴィヴを拠点とするフードナ・オーケストラと共演する。フードナ・オーケストラの正式名称はフードナ・アフロビート・オーケストラで、総勢12名からなるバンドだ。ディープ・ファンクからソウル・ジャズ、サイケ・ロックなどの影響を受け、これまで2枚のアルバムをリリースしているが、2017年にエチオピアのシンガーであるテスファイエ・ネガトゥと共演してから、エチオ・ジャズに感化されるようになった。アフリカの中でもエチオピアはイスラエルや中東とも文化圏的に接しており、もともとの音楽性に類似点が見られるところでもある。そして、ムラトゥ・アスタトゥケとのセッションを熱望するようになり、そうして『Tension』のレコーディングに漕ぎつけたのである。

 レコーディングは2023年初頭にムラトゥをテル・アヴィヴに招いておこなわれた。収録された6曲はすべてこのレコーディング用に書き下ろされたもので、ディープ・ファンク系レーベルの〈ダプトーン〉創設者であるニール・シュガーマンがプロデュースを担当。荘厳な出だしに始まる“Tension”は映画音楽風のスリリングな作品で、ムラトゥの神秘的なヴィブラフォンとグルーヴィーに疾走するフードナ・オーケストラの演奏がマッチする。“Yashan”はエチオ・ジャズ特有のエキゾティックなメロディが印象的で、煽情的なテナー・サックスのソロに対し、ムラトゥの演奏は幻想性を帯びていて、そうした演奏のコントラストも味わえる。そして、ディープでサイケデリックなグルーヴを放つ“Dung Gate”、クリフォード・ブラウン作曲のジャズ・スタンダード“Delilah”のラテン・ジャズ的なアレンジなど、非常に充実したセッションとなっている。


Flock
Flock II

Strut

 フロックはタマラ・オズボーン(サックス、クラリネット、フルート)、サラティー・コールワール(ドラムス、タブラ)、ダン・リーヴァーズ(エレピ、キーボード、シンセ)、ベックス・バーチ(ヴィブラフォン、シェーカー、ベル、ゴング他)、アル・マックスウィーン(ピアノ、シンセ)と、ロンドンのジャズ、フリー・インプロヴィゼーション、エクスペリメンタル・シーンで活躍するミュージシャンによるセッション・バンド。アフロビートとフリー・ジャズを結びつけたカラクターのタマラ・オズボーン、サッカー96ザ・コメット・イズ・カミングで実験的なエレクトロニック・ジャズを創造するダン・リーヴァーズ、ジャズ、インド音楽からテクノ、グライムなど異種の音楽を融合するサラティー・コールワールと、それぞれ個性溢れるミュージシャンが集まった民主的なプロジェクトである。2022年にファースト・アルバムをリリースし、この度セカンド・アルバムをリリースした。

 ロンドンのスタジオで1日で録音したファーストに対し、セカンドは西ウェールズのドルイドストーンの田園地帯にある教会を改築したスタジオで、1週間に渡るセッションの中で制作された。自然環境に恵まれた中で、イマジネーションやインスピレーションがより豊かに育まれたセッションであったことが想像される。“Cappillary Waves”はアフロビート的なビートと重厚なバリトン・サックス、エレクトロニックなキーボード&シンセ群によるコズミック・ジャズ。“Turned Skyward”はディープな音響空間に神秘的なフルートが舞うアンビエント・ジャズで、“A Thousand Miles Lost”も同様に抽象性に富む静穏な世界が描かれる。“Meet Your Shadow”はフリーキーなサックス・インプロヴィゼーションがサイケデリックなシンセ群と即興演奏を繰り広げる。“Large Magellanic Cloud”はダブやニューウェイブなどを通過したトリッピーな世界で、エクスペリメンタル・シーンで活躍するメンバーならではの楽曲。全体的にはエレクトロニクスを交えたアンビエントな世界と、サックスやフルートなどのフリーフォームなインプロヴィゼーションが鍵となるアルバムだ。


Anna Butterss
Mighty Vertebrate

International Anthem Recording Company

 マカヤ・マクレイヴンダニエル・ヴィジャレアルなどのアルバムに参加し、ジェフ・パーカーのETAカルテットというグループのメンバーでもあるベーシストのアンナ・バターズ(https://www.ele-king.net/news/011494/)。シカゴ・シーンと繋がりが深い彼女ではあるが、活動の拠点はロサンゼルスで、ラリー・ゴールディングスのような大物ミュージシャンから、やはり彼女と同じくLA~シカゴを股にかけて活動するサックス奏者のジョシュ・ジョンソン(彼もジェフ・パーカーETAカルテットのメンバー)などとも共演している。これまでダニエル・ヴィジャレアル、ジェフ・パーカーとの共演作『Lados B』などをリリースしてきているが、ソロ名義のアルバムとしては2022年の『Activities』以来の2枚目のアルバムとなるのが『Mighty Vertebrate』である。

  『Mighty Vertebrate』のレコーディングはカリフォルニアのロング・ビーチのスタジオでおこなわれ、ジョシュ・ジョンソンとジェフ・パーカーも参加するなど、ジェフ・パーカーETAカルテットに近い形でのセッションとなっている(ちなみに、ETAカルテットとしては今年頭にライヴ録音による『The Way Out Of Easy』というアルバムをリリースしている)。“Bishop”はグルーヴ感に富むベース・ラインが印象的で、ジャズ・ファンク、ジャズ・ロックなどのミックスチャー的なナンバー。ポスト・ロック、ジャズ、実験音楽などを縦断して活動してきたジェフ・パーカーの近くにいる、アンナ・バターズらしい曲と言えるだろう。“Shorn”もジャズとオルタナ・ロックの中間的な作品だが、アンナ・バターズはベース以外にギター、フルート、シンセ、ドラム・マシーンなどを演奏していて、この曲でもシンセなどをオーヴァーダビングし、エフェクトも多用したサウンド・クリエイターぶりが発揮される。ジェフ・パーカーが参加した“Dance Steve”や、ミスティカルなムードに包まれた“Saturno”は、最近クローズ・アップされることの多いアンビエント・ジャズ的な作品。“Saturno”などはリジョイサーやバターリング・トリオなどイスラエルのアーティストの作品に近いものを感じさせる。


Svaneborg Kardyb
Superkilen

Gondwana

 マシュー・ハルソールの〈ゴンドワナ〉は、近年はマンチェスターやイギリスのみならず、ベルギーやポーランドなど他国のアーティストの作品もリリースしていて、スヴェインボゥグ・カーディーブはデンマークのアーティスト。鍵盤奏者のニコライ・スヴェインボゥグとドラマー&パーカッション奏者のジョナス・カーディーブ・ニコライセンによるユニットで、北欧のジャズとデンマークの伝統音楽を融合し、エレクトロニクスを用いたアプローチで現代的に表現する。地元の〈ブリック・フラック〉というレーベルから2019年に『Knob』でデビューするが、このアルバムはE.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)やトール・グスタフセン、ヤン・ヨハンソンなどのスカンディナビアン・ジャズの系譜を引き継ぎ、ニルス・フラーム的なポスト・クラシカルなエレクトロニック・ミュージックを融合していると評論家たちから高評価を博し、デンマークのジャズ音楽賞などを受賞した。

 〈ブリック・フラック〉から2枚のアルバムを出した後、〈ゴンドワナ〉から2022年に『Over Tage』をリリース。そして、〈ゴンドワナ〉から2枚目となる最新作が『Superkilen』である。“Superkilen”はゴーゴー・ペンギンポルティコ・カルテットなどを思わせる作品で、アンビエントなテクノとジャズが融合したような世界を見せる。ちなみに曲名はコペンハーゲンのノレブロ地区にある公園にちなんでいる。多様な民族が住むコペンハーゲンにおいて、移民と地元民の交流の場として親しまれている公園だそうで、そうした寛容と団結のムードを音楽として表現している。“Cycles”は抒情的なメロディがデンマークの民謡を想起させるもので、E.S.T.や〈ECM〉の作品に近いイメージ。今回はアンビエントなジャズを幾つか紹介したが、スヴェインボゥグ・カーディーブもそうしたアーティストのひとつと言えよう。

Kiki Kudo - ele-king

 ライターやアーティスト、ミュージシャンとして活躍してきた工藤キキ、2011年からはニューヨークに移住し、いつの間にかシェフとして、「食」文化の実践者として名をあげている。彼女による実践的な料理本『KIKIのニューヨーク・ベジタリアン入門』は、彼女の生活のなかで生まれ、多くの人たちの舌を喜ばせてきた具体的な作り方が全ページカラーで紹介されている、とても役に立つ本だ。アート表現をかねがら楽しみながら作り、その食のクオリティも重視しつつ、あまりお金のかからない現実なベジタリアン料理が48も掲載されている。とくに音楽好きには説明文のなかに微笑ましい話もあるので、お薦め。食材の値上げが半端ない今日この頃ですが、財布に優しいこの本のレシピを片手に、毎日を楽しみましょう。発売は11月30日です。



工藤キキ
KIKIのニューヨーク・ベジタリアン入門 おうちでたべよう ヘルシーレシピ48


K&Bパブリッシャーズ
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Fishmans - ele-king

 先日、mouse on the keysのライヴのために来日したロレイン・ジェイムスもフィッシュマンズのCDをタワレコで購入していました。人気ですね〜。来年、2025年2月19日には、未発表音源を集めたボックスが出ます。1987年のバンド結成初ライヴほか貴重なライヴ音源、未発表曲、デモ、ZAKによる最新ミックス音源など、フィッシュマンズの軌跡を音で辿るドキュメンタリー。3CD+Blu-ray+36PブックレットをLPサイズに収めたBOX仕様。

商品概要
フィッシュマンズ
HISTORY Of Fishmans
2025 年2月19日(水)発売
仕様:LP サイズ BOX 仕様 (Audio 3CD + Blu-ray + 36P ブックレット)
品番:UICZ-9246
価格(税込):13,200 (税抜:12,000)
発売元:ユニバーサル ミューシック合同会社

企画・監修_ 茂木欣一
Mix & Sound Restoration_ ZAK
アートワーク & デザイン_ 伊藤桂司
〈収録予定内容〉
Disc1 : CD [1987-1991] 結成初期/貴重なライヴや未発表曲、デモ音源などを収録
Disc2 : CD [1992-1995] メジャー・デビューから移籍前の貴重なライヴ音源、バンドデモを収録 Disc3 : CD [1997-1998] ポリドール移籍/未発表ライヴ音源を収録
Disc4 : Blu-ray(映像) ※内容未定

〈解説〉
奇跡のバンド、フィッシュマンズ。
 フィッシュマンズは1991年、バンド・ブームの最中「ヴァージン・ジャパン」(ポニーキャニン)の第一号アーティストとしてメジャーデビュー。レゲエやロックステディ、ダブに影響を受けたロックバンドとして多くの名曲を残した。なかでも“いかれた Baby”は昨今、ラヴァーズ・ロック界隈はもとより、アンセム・ソングとして有名無名に関わらず多くのアーティストにカヴァーされている。その後、「ポリドール・レコード」に移籍。東京/世田谷にあった〈ワイキキビーチハワイスタジオ〉と称したプライベート・スタジオで製作された、“世田谷3部作”と呼ばれる3枚のアルバムで独自のサウンドを確立。なかでも約35分/1曲収録という『LONG SEASON』は、サブスク解禁とともに世界中で評価されることになった。1998年12月28日の赤坂 BLITZでの公演が実質最後のライウとなり、後にその音源と映像は商品化され(『男たちの別れ』)、『LONG SEASON』とともに世界中で圧倒的評価を得る。
 1999年のボーカル佐藤伸治の逝去とともに活動を停止していたが、2005年の"RISING SUN ROCK FESTIVAL"で再始動。メイン・ヴォーカルをドラムの茂木欣一の他、ゲスト・ヴォーカルを迎えて断続的にライブ活動を行っている。『映画:フィッシュマンズ』映像関係者有志の発案で、クラウドファンディングにより制作。歴代メンバー、関係者へのインタビューを交え、当時の貴重な映像、2019年リハーサル~ライブ映像を収録したドキュメンタリー映画として制作。約3時間の⻑編かつコロナ禍での公開ながら口コミで評判を呼び、全国展開され動員1万5千人超、ミニシアターランキング1位を記録した。
 本作 『History OfFishmans』は、『映画:フィッシュマンズ』がバンドの軌跡を映像で追った作品であるならば、バンドの軌跡を“音”で追った作品となる。茂木欣一による企画・監修の元、デビュー前の貴重な音源からラジオ出演時の同録、未発表ライウや゙デモテープを、カセットテープやDAT、マルチテープなどから2年をかけてデジタル・アーカイヴ化、茂木自身のインタビューによる全曲解説も付属した渾身のBOXである。

ライヴ情報 フィッシュマンズ史上最大規模のワンマンライヴ Fishmans "Uchu Nippon Tokyo"
2025年2月18日(火) 会場:東京ガーデンシアター
Open/18:00 Start/19:00

[チケット]
前売 :8,800(tax in)イープラス・ローソンチケット・チケットぴあにて発売中!
Ticket sales for OVERSEAS fans https://ib.eplus.jp/fishmans
[info]
SOGO TOKYO 03-3405-9999 https://sogotokyo.com/
東京ガーデンシアター

FISHMANS are
茂木欣一(Dr,Vo) / 柏原譲(Ba) / HAKASE-SUN(Keyb)/ 木暮晋也(Gt) / 関口“dARTs”道生(Gt)/ 原田郁子(Vo)


フィッシュマンズ 公式サイト http://www.fishmans.jp/
フィッシュマンズ X @FISHMANS_JAPAN
フィッシュマンズ insta @fishmans_official
フィッシュマンズ Fb @thefishmans
ユニバーサル 公式サイト https://www.universal-music.co.jp/fishmans/

Jabu - ele-king

 日本のリスナーにとってブリストル・サウンドが夢を約束してくれる音楽だとしたら、ジャブーの最新アルバムはお薦めだ。あるいは、こうも言える。音楽を夢想の入口として楽しんでいるリスナーにとって、ジャブーにはその扉が確実にある。コクトー・ツインズ、A.R.ケイン、エイフェックス・ツインの『Selected Ambinent Workd Vol.2』、マッシヴ・アタックの “Teardrop” 、ボーズ・オブ・カナダ……こうした音楽を好んでいる人にとっては必聴盤と言っていいだろう。
 アモス・チャイルズ、アレックス・レンダル、ジャスミン・バットの3人からなるジャブーが10年代ゴシックの牙城〈Blackest Ever Black〉から最初のアルバムを出したのは2017年だが、3人ともヤング・エコー集団のメンバー(あるいはKilling Sound、O$VMV$Mなど)でもあるので、2010年代初頭より活動している。初期は地元の〈No Corner〉〔※シーカーズも出したレーベル〕から数枚の7インチを出していたが、セカンド以降は自分たちのレーベル〈Do You Have Peace?(あなたに平和はある?)〉を立ち上げ、リリースしている。

 ブリストル・サウンドというレッテルは、90年代、当事者たちが迷惑していた呼称だったが(当たり前だが、ブリストルにはロックも実験音楽もあり、ポーティスヘッドとマッシヴ・アタックとではアプローチが異なる)、ひとつ言えるのは、70年代末のポスト・パンク時代のブリストルの重要な影響源にはJBやパーラメントがあって、80年代末からのクラブ時代にはヒップホップとニュージャック・スウィングがあったように、ジャマイカから輸入されたレゲエ/ダブを除けば、彼らの混合成分表にはかなりの分量でその時代のアメリカの黒人音楽からの影響があった。
 ヤング・エコー一派にも現行のUSブラックとの繋がりがあるにはあるが、グライムやドリルほど強くはない。2010年代以降の、ベース・ミュージックを通過したその一派は、ダークなサウンドシステム文化における混合主義を継承してはいたが、90年代的ブリストルの亡霊の、ある意味闇雲な引き伸ばし作業のようでもあった。アモス・チャイルズはその中心人物のひとりで、ジャブーにおいては拡張よりも音楽の没入感に重点を置いている。早い話が、こちらのほうが入りやすい。

 ダークかつダウナーなR&Bからドリーミーなそれへと展開したのが前作で、しかし新作『A Soft and Gatherable Star(柔らかく、集めることができる星)』ではR&Bの要素は後退し、コクトー・ツインズの領域に近づきシューゲイザーめいてもいる。メランコリックなメロディはリヴァーブの霧に包まれて、実験性はあるものの、ティルザの1枚目/2枚目のアルバムにも隣接する親密さをもっている。いにしえのブリストルのオルタナティヴ、初期フライング・ソーサー・アタックにも通じる幻想的な雰囲気はローファイな音響へと注がれているが、グルーパーにも似たムードある歌がアルバム全体のトーンを優しくする。世界はぼやけ、滲んでいる。これは、2024年の嬉しいドリーム・ポップ・アルバムだ。

People Like Us - ele-king

 このアルバムはじつに反時代的だ。明るいし、狂っている。それは人の人生に似ているのかもしれない。細部では大なり小なり錯乱しているが、全体としてはなんとかなっているように見えてしまう。しかしそれはやはり狂っているのだろう。「目を閉じれば生きるのは楽。だって目に見えるのは間違いばかり」とジョン・レノンが歌ったように。ピープル・ライク・アスことヴィッキー・ベネットの新作はおそろしく明るいサイケデリアで、“ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー”と『ファンタズマ』を純度の高いリゼルギーにシェイクしてもこの万華鏡から聴こえる奇妙な楽天性にはまだまだ何かが足りていない。

 ヴィッキー・ベネットは、いまやコラージュ音楽の大家だ。彼女の音楽だけ聴いていると、ベネットが少女時代にソフト・セルに感化され、ジェネシス・P・オリッジと知り合い、そしてナース・ウィズ・ウーンドの影響を受けたこと、コイルの手伝いをしていたことなどはなかなか想像しにくいかもしれないが、TGのルーツにサイケデリック文化があったことを思い出して欲しい。さらに彼女のコラージュ音楽の師匠には、政治的混乱をもてあそぶネガティヴランドもいて、ベネットは現にアメリカまでネガティヴランドのマーク・ホスラーを訪ねている。また彼女は、彼女と同じくサンプルデリックの使徒、マトモスとも仲良しで、共作もしているし彼らの作品に参加している(今作にもマトモスは参加)。
 ベネットは、ピープル・ライク・アス名義として90年代初頭から作品を発表しているベテラン、アーティストとして映像作品やインスタレーションの展示などで幅広く活動している。彼女の母国英国では、ここ10年は展覧会をやっては評判になっていて、ヴィジュアル・アーティストとしての確固たる評価がある人だ。音楽アルバムで言えば、近年ではマトモスおよびジョナサン・ライデッカー(ネガティヴランドのメンバーで、ディター・メビウスやサースト・ムーアとのコラボレイター)との共作『Wide Open Spaces』(2003)、そして『The Mirror』(2018)によって広くアピールし、昨年は自ら手がけたラジオ番組(ネガティヴランドがやったことのひとつ、ラジオ番組そのものをコラージュの世界にする)を『ペットサウンズ』をパロディにしたジャケットの『ウェットサウンズ』として無料リリースしている

 そもそもコーラジュとは何か。既存の素材を再配置/再編集してあらたな文脈を作ること、意味から解放されること。伝統的な概念への挑戦。哲学的に言えばそれは枠組みの相対化や問い直しで、音楽的に言えばそれは「原作」が思ってもいなかったことを表現できること、予期せぬ結果が得られること。ドイツのロック・グループ、カンは自分たちの土台にあるのはコーラジュだと何度も主張している。70年代初頭のマイルス・デイヴィスはテオ・マチェロの協力にもとジャズの堅苦しい曲の構造を解体し、コラージュ技術によってあらたな作品を作った。ブラック・ミュージックにコラージュ技術を持ち込んだヒップホップはポップの王座に居続けている。ヴェイパーウェイヴも流行ったし、デジタル技術によるコラージュ加工が当たり前になった現代においては、むしろ時代がカンやベネットに追いついたと言うべきなのだが、ぼくが「反時代的」だと言うのは、ジェントリフィケートされた現代のデジタル加工が失っている、コーラジュ芸術が本来持っているはずのある種の幻覚作用が彼女の表現には生きているからだ。繰り返すが、いまどきここまで眩いサイケデリックなコラージュ・ポップ作はない。

  これは、ポップ・ミュージックによるシュルレアリスムだ。パーシー・フェイスの“夏の日の恋” が聞こえる1曲目、そして “星に願いを” やスキータ・デイヴィスの歌声、『オズの魔法使い』、バカラックにモータウンといった、50年代/60年代の古きポップスがあたり構わず、無邪気にコラージュされている。作品が意図した「時代を超えたつながりの表現」としてのポップ・ミュージック、「ポップ・カルチャーへのラヴレター」としてのコラージュ作品、アルバム全体がポップの万華鏡であり白昼夢だ。コーネリアスの“霧中夢”は、途中で夢から覚めるようリスナーをうながすが、このアルバは、その逆だ。最後のほうでジョン・レノンが言うように「リアルなものなど何もない」。
 このまぶしい輝きは、悪いジョークなのだろうか。ぼくにはこのアルバムが、晩年のマーク・フィッシャーの言葉を借りるなら「自由になりえたかもしれない世界の亡霊」に思える。つまり、我々が目を逸らされてしまっているものにもういちど振り向かせようとしているもの。すなわち苦しい思いを強いるリアルを否定する能動的夢想は、現代の音楽の潮流からいえば反時代的である、が、それゆえに素晴らしい。

Indigenous Resistance - ele-king

 ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR :: Indigenous Resistance)、地球上の先住民文化の声、音、アイデアを取り入れた、政治意識の高いレコードの制作に専念する、地理的に分散した謎のミュージシャン集団。もうひとりのDUBの使徒。IRにとっての「DUB」は手法ではない。レコードのB面の哲学である。つまり、「反対側」の世界を見せること。つい先日はこのレジスタンス運動の同志である春日正信と邂逅した模様(近々、インタヴュー記事を公開予定)。
 そのウガンダのIRの新作は、Jazzy Sportの日本人DJ、マサヤ・ファンタジスタとの共作、国境を越えたソリダリティー、これが素晴らしく格好いい。ぜひ聴いて欲しいです。

 夢はダブになる。だが大量虐殺は現実だ
 IR::Indigenous Resistance (Masaya Fantasista Mix) によるサウンドトラックをはじめ、
・Indigenous Resistance のアルバム IR 71 Dreams Are Dub But Genocide Is A Reality
・ジョシュア・アリベット監督による IR (Masaya Fantasista Mix) のサウンドトラックが付いた同名の映画「Dreams Are Dub Genocide Is A Reality」
・IR の本 IR 66 Mongolia Dub Journey

 以上は、インディジェナス・レジスタンスのBandcampページ https://dubreality.bandcamp.com にて12月の最終週には入手可能。
 映像は東アフリカ、ウガンダのセネネにて、ジョシュア・アリベットが監督、撮影、編集した。
 脚本はWhen Vision Meets Dub Architectureが担当している。

 パレスチナを解放せよ。スーダンの虐殺を阻止せよ。

 姉妹たちよ、賢明なる教師ビラルは私にこう言った。
 私たちの周りで続く不正義を容認するなら、すべての祈りと断食は無駄になってしまう。
 だからこそ、この言葉を心に深くとどめておいてほしい。
 夢はダブ、そして美しい。だが、大量虐殺は現実だ。

 以下、IRからのノート——————

 Jazzy Sportのレーベル・ディレクターの一人でもある日本人DJ、マサヤ・ファンタジスタが、国際音楽フェスティバルで演奏するためにモンゴルに来ていた。彼は私の友人であるボルドーの旧友で、ダンゴルレコード(Dundgol Records)の夜間音楽スペース兼カフェの公式オープンで演奏する予定だった。そこで、日曜日の午後、ボルドーは私をマサヤに紹介し、次のような紹介をした。
 「この兄弟はここに住んでいます。ガイド付きツアーに参加したことも、ジープを借りたこともなく、ガイドを雇ったことも、グループで旅行したこともありません。モンゴルの人々と話をしたりコミュニケーションをとったりして、彼らのことを知ろうとしているだけです。そして、どうでしょう?彼は結局、見たいと思っていた場所をすべて見て、そこにたどり着いたのです。しかし、モンゴルの最高にクールで壮大な景色を見ることよりも、人々を理解しようとすることが彼にとって最も重要なことなのです」
 通常、ボルドーが私について人びとにこう言うと、彼らの顔には完全に当惑した表情が浮かぶのですが、マサヤはただ微笑んだだけでした。彼がすぐに理解したのが私には分かりました。
 マサヤは本当に静かで温かいダブを醸し出していて、私たちはすぐに音楽の話になり、似たようなつながりがあることにすぐに気付きました。彼は私たちの音楽仲間であるデトロイトのテクノの反逆者アンダーグラウンド・レジスタンス(UR)と非常につながりがありました。実際、彼が日本からデトロイトに行ったとき、実際に私たちの知り合いの家に泊まりました。彼がフェラ・クティのドラマー、トニー・アレンを日本に連れてきた責任者の一人だったことを明かしたとき、ダブのつながりはさらに深まりました。まあ、私がフェラ・クティ自身と個人的につながりがあったことを知って、彼は本当に驚き、大喜びしました。
 私たちは群衆から離れて、個人的に話をしました。モンゴルで私に起こった神秘的なダブについて、とてもオープンで流れるような会話ができました。
その夜、私は彼がミニマルなアフロハウスのセットをDJしているのを見ました。すぐに気づいたのは、彼がセットに彼独自のリズムと存在感を刻み込んでいる方法でした。私の意見では、彼は観客にアピールしているのではなく、印象的なミキシング、ブレイク、クリエイティブなセレクションで独自の音楽の旅をしていました。彼は観客を追いかける人ではなく、むしろその逆でした。私はその姿勢が大好きでした。その夜遅く、私は彼のDJバッグにDubdemがデザインした特別なモンゴルIR Tシャツを忍ばせて、「これは君への当然のサプライズであり贈り物だよ、兄弟!」と言いました。私たちはIRの仕事について話し、彼は言いました。

Shuta Hasunuma - ele-king

 来る11月30日(土)、渋谷WWWにて蓮沼執太のソロ・ライヴ「S C P」が開催される。
 「S C P」とは、「Sing=歌もの」「Club=クラブ・セット」「Piano=ピアノ・ソロ」の頭文字だそうで、今回の公演はそれら三つのパフォーマンスが一気に体験できる、特別なライヴとなる。
 「S」にあたる歌ものパートでは、これまで蓮沼執太フィルやアルバム『メロディーズ』などで制作されてきたヴォーカル楽曲がトリオ編成で演奏される。新曲もあるようです。
 「C」にあたるパートは、春のロレイン・ジェイムズの来日公演でも好評を得た立体音響によるクラブ・セット。最新ソロ作『unpeople』の全国ツアーでの経験も活かされるとのこと。
 そして「P」にあたるパートは、蓮沼の原点とも言えるピアノのソロ演奏。さらに、本人によるDJも披露されるという。
 盛りだくさんな内容から、「蓮沼執太のこれから」を想像してみるのも一興かもしれない。この機会をお見逃しなく。

蓮沼執太|Shuta Hasunuma「S C P」

日付:2024年11月30日(土)
時間:開場17:00 / 開演18:00
会場:渋谷WWW
料金:5,000円+税(スタンディング/ドリンク代別)
https://shutahasunuma.shop/products/s-c-p

「じっくりと歌ものを。 初期のエレクトロニカ的なクラブセットを。最後にピアノ・ソロを。これら音楽のジャンルは違えど、どれも僕の音楽。一気に一夜で奏でます。2024年締めのライブになるでしょう!」(蓮沼執太)

Drums:イトケン
Guitar & Bass:石塚周太
音響:葛西敏彦
音響システム:久保二朗(ACOUSTIC FIELD)
照明:佐藤円
宣伝美術:小野台(windandwindows)
主催:windandwindows

Alessandro Cortini - ele-king

 ナイン・インチ・ネイルズのメンバーにして、ソロ・アーティストとしてエクスペリメンタルな電子音楽をリリースし続けているアレッサンドロ・コルティーニ。彼は実験音楽レーベルの〈Important Records〉、ドミニク・フェルノウが主宰する〈Hospital Productions〉、そして老舗〈MUTE〉など錚々たるレーベルからアルバムを発表してきた才人だ。近年はセルフ・リリースでアルバムを精力的にリリースしている。
 そんなアレッサンドロ・コルティーニの〈MUTE〉からの新作『NATI INFINITI』が先ごろリリースされた。ひとことでいえばシンセサイザー・電子音楽の魅力が横溢したアルバムである。電子音にフェティシズムを感じる方であれば、その音を聴き続けるだけで快楽を得られるはず(と思います。少なくとも自分はそうでした!)。そう、アレッサンドロ・コルティーニの電子音に対するフェティシズムが全編に横溢しているアルバムなのである。

 本作『NATI INFINITI』は、イタリア語で「生まれながら無限」という意味らしい。この言葉こそ、まさに電子音楽が目指すべき拡張的音響の本質を表すような言葉のように思える。ではこの楽曲は、どのような経緯で生まれたのか。
 もともとは2022年にリスボンで開催されたエレクトロニック・ミュージック/テクノロジーの祭典「ソナー」にて発表された没入型オーディオ・インスタレーションのために制作された音源であった。同作品はリスボンの博物館で1階から4階にかけて展示されたという。その後、同音源は2023年にベルリンでおこなわれた「Atonal 23」でライヴ・セットでも披露されることになる。
 このアルバム・ヴァージョンは先に書いたように〈MUTE〉からリリースされた。しかもミックスをビョークやデペッシュ・モードなどを手がけたマルタ・サロニがおこなっている。そのうえアナログ盤のカットをポールのステファン・ベッケがおこなっているという。まさに鉄壁の布陣である。
 アレッサンドロ・コルティーニが〈MUTE〉から発表したアルバムは2019年の『Volume Massimo』、2021年の『Volume Massimo』に続いて3作目となる。どのアルバムも良かったが、個人的にはこの作品がいちばん好きだ。電子音の魅力・魅惑がプラトー状態で持続しているからだ。

 本作『NATI INFINITI』は5つのパートに分かれており、それぞれIからVとナンバリングされている。どれもシームレスにつながっており、実質、40分の長尺とすべきだろう(オーディオ・インスタレーション作品の音源が原型なのだから当然だが)。
 本作で展開される音響は、一種のドローンであり、一種のアンビエントであり、一種の実験的な電子音楽である。重要なことは、そこに明確な構成の意志があり、聴き手を音楽へと巻き込もうとする力に満ちている点にある。どこか交響曲のような壮大さもある。いずれにせよシンセサイザー音楽としても、ドローン/アンビエント系の作品・楽曲としても非常に優れた完成度を誇っている。

 先に書いたように、このアルバムの音響には、アレッサンドロ・コルティーニのシンセサイザーの音色に対するフェティシズムが横溢しているように感じられる。発せられる音それ自体が非常に心地よいのだ。
 なぜだろうか。本作で用いられたシンセサイザーは、ノースカロライナ州のアッシュヴィルを拠点とするユーロラック・モジュラー・シンセサイザーのメーカー「Make Noise」とアレッサンドロ・コルティーニが共同開発した「Strega」なのである。本作『NATI INFINITI』は、自身も開発に加わり、自身の求める音を実現できる機材を使って作曲・制作されたのだから、このアルバムの音が良いのは当然かもしれない。まさにアレッサンドロ・コルティーニにとって理想的な電子音なのだろう。
 じっさい、本作『NATI INFINITI』の無色透明な音は、まさに電子音にとって理想的な音だ。真っ白なアートワークのように無力透明な音ともいえる。硬質な電子音が生成し、連鎖し、変化する。繊細に、かつ流麗に折り重なっていくさまはまるで電子音によるアンビント交響曲のようだ。ここで電子音は、まるで空気のように、もしくは川の流れのように音が生成し変化していくのだ。

 本作『NATI INFINITI』全体を通して聴くと、その空間的で、かつ広がりのあるサウンドスケープの見事さにも気が付くだろう。ドローンやミニマル音楽、アンビエントなど、さまざまな音楽の手法を用いながら、聴き手を「音の流れ」の只中に引き込む力がある。聴いているうちに時を忘れさせるような感覚を与えてくれるサウンドなのだ。
 本作『NATI INFINITI』は、彼のディスコグラフィ上で重要かつ傑作として位置付けられるアルバムになるのではないか。サウンド・アーティストとして、キーボード・プレイヤーとして、作曲家として、これまでのアルバム以上に自身の音色へのフェティシズムを表現し切っている。
 電子音楽とは極論すれば「音それ自体」を徹底的に追求し、音そのものによって音響・音楽を作曲する音楽だ。アレッサンドロ・コルティーニは自ら開発したモジュラー・シンセサイザーによって、電子音楽の作曲をより深い状態で「経験」したのかもしれない。
 何はともあれシンプルながらも圧倒的な電子音の「深さ」を表現した『NATI INFINITI』。このアルバムは、アレッサンドロ・コルティーニの音楽家としての成長と革新を感じさせてくれる作品に仕上がっているといえよう。

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