ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. The Clash ——ザ・クラッシュ、結成50周年記念ベストがリリース
  2. Carlos Souffront, PLO Man and 1-Drink ──ファッション・ブランド〈C.E〉が日本で1年ぶりのパーティ
  3. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  4. 『ユーザーズ・ヴォイス』〜VINYLVERSE愛用者と本音で語るレコード・トーク〜 第五回 映画から広がった、サウンドトラックとレコードの世界ユーザー・ネーム:nkk / 中川慧輔さん
  5. Robert Del Naja ──マッシヴ・アタックの3D、二度目の逮捕
  6. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  7. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  8. Malaria! ——80年代初頭の西ベルリンから、ポスト・パンク/アヴァンギャルド・シーンを象徴する最重要バンド、マラリア!再発
  9. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  10. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  11. Horse Lords - Demand to Be Taken to Heaven Alive!  | ホース・ローズ
  12. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2026
  13. 食品まつり a.k.a foodman - HIKARIGASASHIKOMU
  14. Arca - XXXXX
  15. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  16. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  17. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  18. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  19. Stones Taro ──京都のハウス・プロデューサーによる新作
  20. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50

Home >  Reviews >  Album Reviews > People Like Us- Copia

People Like Us

Sound Collage

People Like Us

Copia

Cutting Hedge

野田努 Nov 21,2024 UP
E王

 このアルバムはじつに反時代的だ。明るいし、狂っている。それは人の人生に似ているのかもしれない。細部では大なり小なり錯乱しているが、全体としてはなんとかなっているように見えてしまう。しかしそれはやはり狂っているのだろう。「目を閉じれば生きるのは楽。だって目に見えるのは間違いばかり」とジョン・レノンが歌ったように。ピープル・ライク・アスことヴィッキー・ベネットの新作はおそろしく明るいサイケデリアで、“ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー”と『ファンタズマ』を純度の高いリゼルギーにシェイクしてもこの万華鏡から聴こえる奇妙な楽天性にはまだまだ何かが足りていない。

 ヴィッキー・ベネットは、いまやコラージュ音楽の大家だ。彼女の音楽だけ聴いていると、ベネットが少女時代にソフト・セルに感化され、ジェネシス・P・オリッジと知り合い、そしてナース・ウィズ・ウーンドの影響を受けたこと、コイルの手伝いをしていたことなどはなかなか想像しにくいかもしれないが、TGのルーツにサイケデリック文化があったことを思い出して欲しい。さらに彼女のコラージュ音楽の師匠には、政治的混乱をもてあそぶネガティヴランドもいて、ベネットは現にアメリカまでネガティヴランドのマーク・ホスラーを訪ねている。また彼女は、彼女と同じくサンプルデリックの使徒、マトモスとも仲良しで、共作もしているし彼らの作品に参加している(今作にもマトモスは参加)。
 ベネットは、ピープル・ライク・アス名義として90年代初頭から作品を発表しているベテラン、アーティストとして映像作品やインスタレーションの展示などで幅広く活動している。彼女の母国英国では、ここ10年は展覧会をやっては評判になっていて、ヴィジュアル・アーティストとしての確固たる評価がある人だ。音楽アルバムで言えば、近年ではマトモスおよびジョナサン・ライデッカー(ネガティヴランドのメンバーで、ディター・メビウスやサースト・ムーアとのコラボレイター)との共作『Wide Open Spaces』(2003)、そして『The Mirror』(2018)によって広くアピールし、昨年は自ら手がけたラジオ番組(ネガティヴランドがやったことのひとつ、ラジオ番組そのものをコラージュの世界にする)を『ペットサウンズ』をパロディにしたジャケットの『ウェットサウンズ』として無料リリースしている。

 そもそもコーラジュとは何か。既存の素材を再配置/再編集してあらたな文脈を作ること、意味から解放されること。伝統的な概念への挑戦。哲学的に言えばそれは枠組みの相対化や問い直しで、音楽的に言えばそれは「原作」が思ってもいなかったことを表現できること、予期せぬ結果が得られること。ドイツのロック・グループ、カンは自分たちの土台にあるのはコーラジュだと何度も主張している。70年代初頭のマイルス・デイヴィスはテオ・マチェロの協力にもとジャズの堅苦しい曲の構造を解体し、コラージュ技術によってあらたな作品を作った。ブラック・ミュージックにコラージュ技術を持ち込んだヒップホップはポップの王座に居続けている。ヴェイパーウェイヴも流行ったし、デジタル技術によるコラージュ加工が当たり前になった現代においては、むしろ時代がカンやベネットに追いついたと言うべきなのだが、ぼくが「反時代的」だと言うのは、ジェントリフィケートされた現代のデジタル加工が失っている、コーラジュ芸術が本来持っているはずのある種の幻覚作用が彼女の表現には生きているからだ。繰り返すが、いまどきここまで眩いサイケデリックなコラージュ・ポップ作はない。

  これは、ポップ・ミュージックによるシュルレアリスムだ。パーシー・フェイスの“夏の日の恋” が聞こえる1曲目、そして “星に願いを” やスキータ・デイヴィスの歌声、『オズの魔法使い』、バカラックにモータウンといった、50年代/60年代の古きポップスがあたり構わず、無邪気にコラージュされている。作品が意図した「時代を超えたつながりの表現」としてのポップ・ミュージック、「ポップ・カルチャーへのラヴレター」としてのコラージュ作品、アルバム全体がポップの万華鏡であり白昼夢だ。コーネリアスの“霧中夢”は、途中で夢から覚めるようリスナーをうながすが、このアルバは、その逆だ。最後のほうでジョン・レノンが言うように「リアルなものなど何もない」。
 このまぶしい輝きは、悪いジョークなのだろうか。ぼくにはこのアルバムが、晩年のマーク・フィッシャーの言葉を借りるなら「自由になりえたかもしれない世界の亡霊」に思える。つまり、我々が目を逸らされてしまっているものにもういちど振り向かせようとしているもの。すなわち苦しい思いを強いるリアルを否定する能動的夢想は、現代の音楽の潮流からいえば反時代的である、が、それゆえに素晴らしい。

野田努