「E E」と一致するもの

interview with Hotel Mexico - ele-king

 昨年の紙エレキングにおける(筆者は参加していない)ヤング・チームの座談会において、「ヨウガク耳」と題された項目を興味深く読んだ。奇しくも、老害チームの座談会でも紙面には字数の都合でならなかったが、洋楽を聴く若者が減ってきているという話題が出ていたからだ。「若者の洋楽離れ」をおじさんリスナーが危惧するなか、海外の音楽を聴いている20代のリアリティが余すことなく詰められたインディ・ポップが一定の成果をあげているのだとすれば、それはシーンで起こっていることこそが状況を軽やかに刷新していることを示唆しているのではないかと思う。


Hotel Mexico
Her Decorated Post Love

BounDEE by SSNW

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 だから、ホテル・メキシコがはじめ鳴らしていた無邪気にインディ然としたシンセ・ポップを、僕は戦略的なものではないかと感じていた。ゼロ年代終盤からのディスコ・リヴァイヴァル~チルウェイヴ、あるいはローファイという流れに見事に同調して現れたバンドは、ポップの現在地点がネットを介してシェアされるいまを意識的に射抜いているのだろう、と。だが、実際に会ってみた彼らは、あくまで自分たちの現在を音に反映することでこの音を鳴らしているのだという。この、フェミニンで、スウィートで、夢想的な音を。
 ホテル・メキシコのセカンド・フルとなる『Her Decorated Post Love』は、チルウェイヴ以降拡散していくインディ・ポップのひとつの見事な回答例を出している。ギター・サウンドをより前に出し、80年代ギター・ポップやいまっぽいAOR感をまぶしながら、甘ったるい恍惚はより純度を増しているように聞こえる。メンバー間でのキーワードは「ロマンティック」だったそうだが、訊けばそれもイノセントな感覚だったそうである。自覚と無自覚の狭間でファンタジーを浮かび上がらせるホテル・メキシコは、ポップ・ミュージックのいまを愛することのリアリティを、ごくナチュラルに体現し、謳歌している。

当時の〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉なんかをすごくよく聴いてて、なんかああいうのができればと思って。(石神)

では自己紹介ということで、お名前と生まれ年と、あと去年のベスト・アルバムを教えてください。

菊池:菊池史です。84年生まれです。去年のベスト・アルバムは、たぶんブラックブラックのLPがすごく好きだったので、それかなと思います。

石神:石神龍遊です。84年6月生まれです。ベスト・アルバムは......なにがあったっけ?(笑) あ、トップスのLPがすごく良かったですね。

伊藤:伊東海です。生まれ年は83年。ベスト・アルバムは......えっと、ないですね(笑)。

(笑)メンバー同士でそういう話はあまりされないですか?

伊藤:いまこれを聴いてるとかって話はするんですけど。とくに僕は遅れて聴くことが多いので、いつ出たって話はあまりしないですね。

なるほど。去年のベスト・アルバムを訊いたのは、ホテル・メキシコってリアルタイムのリスナー感覚が音に反映されるバンドなのかなって思うので。ちなみに僕が84年生まれなので、リスナーとして通ってきたところも近いと思うんですね。基本的なことから訊こうと思うんですが、結成が2009年ですか?

石神:2009年ですね。

そのときからメンバーの音楽的なテイストって共通していたんですか?

石神:いや、もうまったくバラバラですね。もともと同じサークルで、バンド活動みたいなことをしているような子たちもいて。メインになってバンドを起こしたのは菊池とかで、「こういう音楽をやりたいな」ってなったときにメンバーを自然に集めていった感じですね。比較的仲のいい子たちで集まって。

当初音楽的な方向性っていうのはあったんですか?

石神:方向性を決めてやってたわけじゃなくて、当時の〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉なんかをすごくよく聴いてて、なんかああいうのができればと思って。いっしょのものをやりたいわけじゃなかったんですけど。

2008年、2009年ってディスコ・リヴァイヴァルがあったりとか、シンセ・ポップが賑わったりって頃でしたね。その同時代の音をやりたいっていう?

石神:そうなんですよ。そこにかなり引っ張られて。

なるほど。その後デビューされたとき、すごく「チルウェイヴ」って単語で説明されましたよね。「日本からのチルウェイヴへの返答」というような。そこに抵抗はなかったですか?

伊藤:抵抗っていうか、「違うよね」っていう話はしていましたね。そこら辺の音は聴いてましたし、反映はされてるとは思うんですけど。自分たちがそれっていうのは、なんか違うよねって言っていました。

その違いがあるとしたら、ポイントはどこにあると思いましたか?

石神:チルウェイヴの定義っていうのがよくわかんなかったですよね(笑)。

菊池:でもたぶん、”イッツ・トゥインクル”を聴いてくれたひとが、チルウェイヴっていうのに当てはめてくれたんだと思うんですけど。ファースト・アルバム全体で言ったら、チルウェイヴ感っていうのはないのかなって。

実際、ウォッシュト・アウトなんかはどうでしたか? メンバーでは人気はありました?

石神:めちゃめちゃ聴いてましたね。

じゃあパンダ・ベアは?

菊池:パンダ・ベアはそんなに聴いてなかったかもしれない。

じゃあ、メンバーの間で当時いちばん盛り上がっていたのは〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉あたりのディスコ?

石神:そのあたりの、暗い感じで踊れるものを聴いてましたね。

なるほど。バックグラウンドはみなさんではバラバラなんですか?

伊藤:そこがほんとにバラバラですね。

菊池:僕は日本の音楽から入って、YMOなんかから買い始めた感じだったんで。洋楽を聴きはじめたのは高校の後半とか、大学入って周りがみんな聴いてたから、影響されて聴き始めたんです。

高校あたりのインディ・ロックですか?

菊池:ほんとストロークスとか。

ですよね。

石神:僕は中学校のときはメタルばっかり聴いてて(笑)。地元のCD屋さんではメタリカとかニルヴァーナとかしか置いてなくて、その後に「これじゃいかんな」とポスト・パンクとかニューウェーヴとかを聴き出して、で、ネオアコとか浅く広く通ってきた感じです。

伊藤:僕はそれこそ、高校だったらJロック育ちですよね。その後ガレージ・リヴァイヴァルを通って、スーパー・ファーリー・アニマルズに会ってからは、自分はポップなものが好きなんだなと気づいて。それからはジャンルを問わずに自分がポップだと思うものを聴いていました。

そのバックグラウンドがバラバラななかで、ホテル・メキシコっていうバンドにはこの音がハマったなって感覚はありましたか?

石神:なんだろうな。当初曲作りそのものはみんなでやるって感じではなくて。個人が作ってきたのを聴いて「いいね」みたいな。音的なものでハマったっていうのは、それこそローファイ的な音色だったりとか。

ヒントになったアーティストっています?

石神:さっき出たウォッシュト・アウトとか。音的なもので言うと。

するとウォッシュト・アウトのEPですよね? 『ライフ・オブ・レジャー』。ウォッシュト・アウトのデビュー・アルバムと、ホテル・メキシコのデビュー・アルバムがほぼ同時に出てるのは面白いですね。じゃあ、ここ数年でメンバー間で共通項としてあったものってどのあたりになりますか?

石神:それはアーティストですか?

アーティストでもシーンでも、あるいはフィーリングみたいなものでもいいんですが。

石神:フィーリングは、ロマンティック。たとえば、僕が今回アルバム作るときに聴いていたのはプリファブ・スプラウトで。新譜だったらキング・クルーとか、ああいうギター・サウンドというか、ロマンティックなイメージがあるものを意識して作りましたね。それはたぶんみんなも共有してたし、作る前に話し合ったりもしましたね。

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いまのシーンがどんなだっていうのは見てますけど、でも今回に関しては「いま」っていう意識ではそんなに作ってない。むしろ「何がいまなのかわからん」って話をしてたぐらいで(笑)。(伊東)

今回はギターが前より出てるなと思ったんですけど、そこに何かポイントはあったんですか?

菊池:単純に曲の作り方が変わったっていうか、前はシンセで作ってたのが多くて、今回ギターを中心に作るのが多くなって、そういうのが集まってきた感じですね。

ちょっと80年代のギター・サウンド的なニュアンスが目立つかなと思ったんですが。

石神:それはあると思いますね。

80s感で言えば、いまだったら、たとえばワイルド・ナッシングスとかどうですか?

石神:好きですね。

いまこの音になるのは「わかるぜ」って感じですか?

石神:ああー。共感できるところもあるけど、彼らは狙ってやってるから。自分たちが取り立てて80sをやるバンドっていう風に思ったりはしないですね。

ホテル・メキシコって同時代の音楽とすごくナチュラルにシンクロしていますよね。それは狙ってやっているんじゃなくて、自分たちのモードとしてやっているとそうなったって感じですか?

伊藤:いまのシーンがどんなだっていうのは見てますけど、でも今回に関しては「いま」っていう意識ではそんなに作ってない。

石神:ほとんど意識してない。

伊藤:むしろ「何がいまなのかわからん」って話をしてたぐらいで(笑)。

石神:たとえば80年代にやってたひとたちって、いまやっているひとたちに比べてハンデがあると思っていて。いまやっているひとたちっていうのは昔の音楽を参照してやれるけど、当時のひとたちは過去を知らずに作っていて。僕らもその感覚に通じているところがあるのかなと。そういう意味では素直に、あまり狙わずに作りましたね。

じゃあ、さっきおっしゃったプリファブ・スプラウト以外に何か参照点があったわけでもない?

石神:うーん。今回はこれを参考にして作ろう、みたいなものはあんまりなかったかなって感じですね。

なるほど。ちなみに前作では?

石神:うーん、前回もなかったかも。最初の入り口は「こういうものがやりたい」っていうのがあったんですけど、最終的に出来上がるときにはまったく違うことを考えながらやっているっていう。

じゃあ、ほんとにシーン的なものは気にしてないんですね。今回、AOR感もあって、それもいまっぽいなと思いましたけどね。

石神:最初、AOR感が欲しいって話をちょっとしたりはしましたけどね。それがたぶんちょっと入ってるんでしょうね。

日本の同世代で、共感するバンドやシーンはありますか?

石神:東京の〈コズ・ミー・ペイン〉というレーベルですね。

ああ、なるほど。それはどういったポイントで?

石神:まあ単純に好きなものがいっしょだったりとか、あと〈コズ・ミー・ペイン〉は海外に対する意識みたいなものが強いですね。そういうところも話していて楽しいし。

日本のインディ・シーンも盛り上がってる印象もあるんですけど、そのシーンの一部にいるっていう意識はありますか?

一同:ないです。

石神:僕はまったくないですね。

伊藤:(日本のインディは)まだ括れるほどはっきりしたものじゃないんじゃないかな、と思いますけどね。

なるほど。同時代のものとリンクしているって感じもあまりない?

伊藤:ないですね。いまは〈コズ・ミー・ペイン〉と仲良くやっていけてるし、お互い好きだし、それでいいやと思ってますけど。最初はいっしょにやるバンドがいなくて困ってたぐらいだし、リンクしている感覚はないですね。

ふむ。じゃあ、アルバムの話に戻ろうと思うんですけど。コード進行とか、音色がフェティッシュな感じがするんですよね。やっぱりすごく、甘いじゃないですか。1曲目の“スーサイド・オブ・ポップス”の最初のコードが聴こえてきたときに「これだ」って思うわけですけど、あれを1曲目にしたのはどうしてなんですか?


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石神:理由はね......ないです(笑)。

あ、そうなんですか?(笑)

石神:僕らアルバムの流れを意識してアルバムを作ってなくって。とくに曲順とか流れは考えていなくて。「これ一発目じゃないな」っていう消去法でいって、あれが残ったっていう感じが強いですね。

あの曲の最初のビートがLCDサウンドシステムの“ルージング・マイ・エッジ”のイントロと似てるじゃないですか。で、そこにあのチルウェイヴ以降を思わせる甘いコードが入ってくるっていうのが、リスナー遍歴を表しているのかな、って勝手に思ったんですけど(笑)。

石神:(笑)そういう風に聴くんだ。そういう想像するのが楽しいんだと思いますけどね(笑)。

そういうのも、自然に出ているんですね。

石神:そうですね。狙ってはなかったですね。

メンバーのバックグラウンドがバラバラななかでも、出るフィーリングっていうのは甘いポップスになるわけじゃないですか。バンドとしてそういう音をやるんだっていうメンバー間でこだわりっていうものがあるんですか?

一同:うーん......。

少なくとも、マッチョな感じはない音じゃないですか。シンセ・ポップ・リヴァイヴァルが出てきたときに、マッチョな音に対する違和感を表現しているって言われたりもしたんですけど。その感じにリンクするというか。根っこにはメタルもあるひとたちなのに(笑)、ホテル・メキシコっていうバンドでやるときに非マッチョな音になるのはどうしてでしょう?

石神:うーん、どうなんだろう。考えたことないな。

じゃあ、ホテル・メキシコっていうバンドは、ストーリーや場景っていう具体的なものよりも、曖昧なフィーリングを鳴らしているんでしょうか?

伊藤:フィーリングなんじゃないですかね。

石神:でもたとえば、こっちがストーリーを作ったとしても、聴いたひとがどういう解釈をしてくれても全然よくって。想像力を刺激できるような音だったり展開だったりっていうのには気を遣っているつもりですね。

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それぞれのロマンティックを持って来いみたいな感じになって。僕の意見では、先ほど言ったみたいに逃避的なものがすごくロマンティックだったりもするし。攻めてるだけが音楽じゃないって思うし。そこに埋もれたものの受け皿みたいなものがあってもいいなって思うし。(石神)

たとえば、多くのJポップにあるような、共感をベースにした歌詞や物語からは遠いところにあるんでしょうか?

石神:でも個人的には、遠くはないとは思うんですよ。そういうものがないと面白くないと思うし。Jポップとの違いで言うと、あれはオリジナリティがないっていうか。

では、歌詞やフィーリングは自分たちに起こっていることですか? それともフィクションが多いですか?

石神:完全にフィクションですね。

それはどうしてなんでしょうか?

伊藤:「普段起こっていることを歌うのはやめとこう」って思わないくらい、そういう実際起こっていることを歌にしようっていう意識はないですね。最初からそれは考えにないです。曲のフィーリングは普段の考えからぱっと出てくるのかもしれないですけど、具体的なことを歌おうっていう考えはないですね。

では、ホテル・メキシコの音楽がドリーミーだって言われることに抵抗はありますか?

石神:まったくないですね。ドリーミーな音楽だと思ってくれたらいいですね。

「逃避的だ」って言われるのは?

石神:それはそれで、逃避したいひとが聴いてくれれば(笑)。

(一同笑)

みなさん自身はどうですか? 逃避的な音楽をやっているっていう意識はありますか?

菊池:そういう部分もあるんじゃないですか?

石神:客観的に見たらそうかもしれないですけど、主観的にはそういう感覚は全然ないんですけど。世間から見たらそうなのかなーって(笑)。

では、少しいやらしい訊き方ですけど、震災以降、音楽に限らずシリアスな表現が増えましたよね。具体的な状況を織り込んで、それに対するステートメントを表明するものが。そんななかで、ホテル・メキシコがやっている音楽はただ逃避的なだけじゃないかっていう批判があったとしたら、それに対する反論はありますか?

伊藤:反論というか(笑)、それに対する反論をする必要があるのかって感じですね。

菊池:そういうひともいますよ、と。

伊藤:そもそも、そのひとがどうして逃避的なものをそこまで否定するのかがまずわからないです。

たとえば、チルウェイヴなんかもすごく議論の対象になって。現実に対する抵抗としての逃避ではなくて、何となくの逃避ではないかっていう意見もあったぐらいで。それだったら、どちらに近いんでしょう?

石神:それは何となくの逃避でしょうね。とくに意識してやってるわけでもないし。それを意識しだすとフィーリングじゃなくなるので。

伊藤:何かをあえて意識してやるっていうのはないですね。

アルバムを作っているときのゴールっていうのは何かあったんですか?

石神:うーん......期日。日程。スケジュール(笑)。

(一同笑)

石神:限られた時間のなかで、どこまでやれるかってことですね。自分たちの目標は立てたわけではなくて、むしろ間に合うかなっていう感じで。

その期日が限られているなかで、いちばん重視したポイントっていうのは?

伊藤:作品全体としてのバランスですね。

菊池:今回はアルバム全体として聴けるものを作りたいっていうのがあったんで。全体的なまとまりを目指しましたね。

石神:トータルして言うと、抽象的だけどやっぱりロマンティックさですね。細かいんだけど、コーラスひとつのエフェクトにしても、1時間かけたりとか、ずーっとやってたりとかして。そのどれが正解っていうのはないんですけど、ギターの音なんかにしても、自分が納得するまでやるっていうのはありましたね。

ロマンティックさにこだわったのはどうしてなんですか?

石神:うーん、気分ですね(笑)。

(笑)でも、そこにメンバーが同調しないとまとまらないじゃないですか。バンドでロマンティックな気分になっていたのは何か理由は思い当たりますか?

伊藤:うーん、でも最初にその話をしたときに異論も出ませんでしたね。僕らも「あ、じゃあそれで行こう」と。すんなりと。

菊池:たしかに、誰も何も言わなかったね(笑)。

じゃあそのロマンティックっていうもののイメージのモデルはあったんですか?

石神:そこについては話し合わなかったですね。

気分として共有しているものだと?

石神:それぞれのロマンティックを持って来いみたいな感じになって。僕の意見では、先ほど言ったみたいに逃避的なものがすごくロマンティックだったりもするし。攻めてるだけが音楽じゃないって思うし。そこに埋もれたものの受け皿みたいなものがあってもいいなって思うし。それぞれが持っているものなんですよね、ロマンティックに対してのイメージっていうのは。そういう意味では、英語のロマンティックに当てはまらないものなのかもしれないですね。

なるほど。ただ、それぞれのロマンティック持ち寄るって言ったときに、メンバー間でそれがバラけることはなかったですか?

石神:うーん、でも意識的なものではなく、かなり漠然としたものなので。そこで乱れるっていうことはなかったですね。

じゃあ、アルバムを作っていくなかで、「この方向性で間違ってないな」って感じた瞬間はあったんですか?

石神:最初に出来た曲が6曲目の“ア・パーム・ハウス・イン・ザ・スカイ”っていうインストなんですけど。それは8月ぐらいから作りはじめていて。むしろ、この曲からロマンティックっていうテーマをインスパイアされた感じも少しあって。そのときにみんな、何となく感じるものがあったっていうか。

それで方向性が出来たんですか?

石神:1曲1曲のモチヴェーションが違うんですけど、共有という意味では、きっかけとしてはこの曲だったかなと。

菊池:軸になった感じはしますね。

その軸が、言葉がない曲だっていうのが面白いですね。

石神:そうなんですよ。

歌詞に、曲ごとのテーマは設けるんですか?

石神:いやそれも、かなり感覚と、デモを作る段階で英語っぽく歌ってるやつを英語に直して、リズム感を重視して。

英語である理由は何なんですか?

石神:それもよく訊かれるんですけど、とくにないですね。

日本語になると意味の部分が大きくなってしまって、フィーリングの部分が削がれるからっていうところもありますか?

石神:それもありますかね。

伊藤:うーん、でも僕が英語詞を作るんですけど。曲のイメージを作ったひとにもらうんですよ。で、さっき龍遊が言ったみたいに、語感であったりイントネーションだったり言葉のリズムだったり、っていうのを考えて仮歌を入れてるんで、それをいちばん大事にして言葉を入れていくんですけど。そのイメージをもらうときに、日本語詞でもらうこともあるので、べつに日本語詞になったからってフィーリングが削がれることはない。

石神:英語のほうがカッコいいからってだけですね。

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作ってるときに水辺の映像を作ったりもしていたので、そういうイメージが強いですね。そういう部分を聴いてほしい。(菊池)


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なるほど。1曲目が“スーサイド・オブ・ポップス”っていう、けっこう意味深なタイトルなんですけど。これはどこから出てきたんですか?

伊藤:これはたぶん、「スーサイド」って言葉を入れたかっただけじゃないかな。

石神:僕らの曲って作り終わったあとにタイトルを決めることが多いんですけど、この曲はすごく暗いなと思って、自分で(笑)。で、僕アイドルがすごく嫌いなんですけど、そういう、表面的にもポップが死んでるみたいなイメージもあったし。アルバム全体のイメージとして、女の子が持つ世界観みたいなものを出したくて。すごくミーハーなものに対しての、アンチまで行かないけど、ちょっと......。そういうのを最後まで結論出さずに、「ま、これでいっか」みたいな(笑)。

(一同笑)

石神:すいません(笑)。

いやいや(笑)。アルバム・タイトルに「ハー(Her)」ってついてるのはその女の子感を出したかったっていうのがあるんですか? 前作(『ヒズ・ジュエルド・レター・ボックス』)との対比っていうのももちろんあると思うんですけど。

伊藤:フェイスブックのホテル・メキシコのページを最初作ったときに、ジャンルに「世界中の女の子を幸せにするような音楽」って書いていたんですよ。ジャンルって縛れないから、そういうふうに書いたんです。女の子が楽しんでいるような感じ、何かしら女の子に行き着くようなイメージっていうのはもともと持っていますね。

その女の子に向けてっていうところにこだわる理由は?

菊池:単純に、PVとか観ててかわいい女の子が出てるといいよね、っていうのはありますよね(笑)。

(笑)でも、重要なところじゃないですか。誰に聴かせるかっていうのは。

石神:女の子ってやっぱ、未知数だと思うんですよね。メンバー全員男だし、女の子の気持ちなんかわからないじゃないですか。でも、女の子目線で作ったらなんか面白いっていう(笑)。その未知数の部分を、僕らはたぶん間違えてると思うんですよ、全部。

イメージとしての女の子っていう?

石神:第三者から見たらそうなんだけど、でもやっぱやってるときは、もちろん女の子になったつもりで。

(一同笑)

石神:女の子の気持ちを最大限に汲み取ろうと(笑)。同じレンズから、こう。

でもそれ、すごく大事なところですね。フィーリングとしては、自分の男じゃない部分を出しているってことですよね。

石神:でも結果としては、男の目線になってしまうというか。

前作で“ガール”って曲があるじゃないですか。で、今回“ボーイ”っていう曲がある。少年少女っていうことに対しての、思い入れはあるんですか?

石神:思い入れはないですね。

菊池:思い入れは(笑)。

いやいや、たとえば思春期的なものであるとか。

石神:ああ。少年少女が持つような、キラキラしたものっていうか、衝動みたいなものの感じ。それはいいなって。

菊池:惹かれるものはあるね。

なるほど。じゃあ、アルバム全体が醸すフィーリングっていうのは? ロマンティックでもいろいろあるわけですが。

石神:そこについてもとくに話し合ってないんですけど、個人的には、ミーハーな女の子が見ている世界みたいなイメージで僕はこのアルバムを聴きますね。

伊藤:僕がこのアルバムに対して抱いているロマンティック感は、出来上がってから感じてるものなんですけど、退廃的なものっていうか。

石神:はははは(笑)。

伊藤:なんて言うんですか、ロマンティックなんですけど、純愛の絶頂期とかは過ぎてますよね、たぶん。

石神:たしかに。それはある。

伊藤:酸いも甘いも経てからの、ロマンティックのような気がしてます。

石神:はじめて知った(笑)。酸いも甘いも経た上でのピュアさ(笑)。

なるほど。それぞれの勝手な女性像が出た結果みたいな(笑)

(一同笑)

では、バンドとしては、不特定多数に向けて音楽を作っているという意識ですか? それとも、ある特定のリスナー層を想定している?

伊藤:でも逆に言えば、不特定多数のひとがどうして聴かないんだろうぐらいの気持ちでやってますけどね。好きでやってますし。でもやっぱり、こういう音楽を聴くひとたちの耳に届かないと意味がないなとは思ってますね。

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何がロマンティックかっていうことを意味づけするのは難しいと思うんですけどね。ただ、目に見える現実だけがすべてじゃないと思ってるんで。その化粧をしているときに、たとえば鏡が喋ったりするとロマンティックになるわけじゃないですか。そういうことがいつ起こるかわからないよっていうか。(石神)

自分たちのリスナーってある程度見えていますか?

石神:いや、正直まったく見えてないです。

たとえばライヴに来ている客層とか。

石神:ライヴの客層はかなり不特定のほうに入ると思いますね。たぶんやけど。

もらったリアクションで面白いものはありますか?

石神:たとえば、ミスチルが好きっていうギャルが、ホテル・メキシコが好きとか(笑)。

ほう!

菊池:そんなのいた?(笑)

石神:いるいる。よくいるよ。

菊池:あとライヴ終わったときに、50歳ぐらいのおっさんから「苦労してんな」って言われました(笑)。

(一同笑)

菊池:「そんな音出ーへんぞ、ふつう」みたいな(笑)。

じゃあ、自分たちみたいに洋楽を聴いている層に向けているっていう意識もない?

石神:まあもちろん、海外にも向けていきたいっていうのはありますけど――。

菊池:まず自分たちが作りたいものっていうものが先にありますね。

石神:とくに誰に聴いてほしいっていうのは考えてないですね。

では、リスナーにどういうときに聴いてほしいアルバムですか? もちろん自由っていうのが前提だとして。

石神:高速で車がパンクしたときに聴いてほしいですね。

それはなぜ?(笑)

石神:なんかこう、イメージとして広い景色を見ながら聴いてほしいかなと。狭いところで壁向いたまま聴くんじゃなくて。

菊池:それはなんかわかる。

石神:開放的な感じで聴いたら、すごく気持ちいいんじゃないかなと思って。でも何でもそうか。

伊藤:ははははは! けっこう共感してたのに(笑)。

菊池:僕もでもけっこう広い景色っていうのはあって。作ってるときに水辺の映像を作ったりもしていたので、そういうイメージが強いですね。そういう部分を聴いてほしい。

伊藤:僕は空いてる電車のなかで聴いてほしい。僕は電車に乗ってるときに音楽を聴くのが好きなので。空いてるほうがいいんじゃないかなと。

そのココロは?

伊藤:単純にイメージしたときに混んでる画が出てこなかったですね。けっこうガラガラぐらいの電車のほうが思い浮かびましたね。

石神:このアルバムを、みんなで聴いてるイメージってなくないですか?

伊藤:それはあるね。一人称だね。

石神:やんなあ。

パーソナルなイメージ?

石神:できれば、かわいい女の子が聴いている感じ。

かわいい女の子が恋をしているとき?

伊藤:いや、恋してるときは――(笑)。

石神:恋しているときは、聴いちゃダメ(笑)。恋が終わったあとですね。

それはなぜ終わった恋なんですか?

伊藤:いや、してるときじゃないと思うんですよね。終わったときか、してないときなんじゃないかなあ。

たとえばロックンロールは基本的には恋のはじまりの歌ですよね。それとは違うものだと?

石神:そうですね。どっちかと言うと、僕ははじまる前ですね。デートする前の家で化粧してるときとか(笑)。そういうときでいい。会ったら聴くなと(笑)。

でも家で化粧してるときだったらすごくワクワク感があるじゃないですか。

石神:まあそうですね。でも――。

伊藤:だから家で戦略を立ててるときじゃなくて?

石神:いやだからね、僕の想像している女の子はね、ギャルとかじゃないよね。娼婦かな。

じゃあ化粧は武装としての化粧なんですか?

石神:いや、武装っていうかね、本人もたぶんわかってない。

(一同笑)

することになってるから(笑)。

石神:することになってるから、やってるだけであって。そういう戦略なんかも考えない、女の子に聴いてほしいなと。

それは面白いですね(笑)。恋愛の最中でないフィーリングをロマンティックと呼ぶのは。複雑な回路が出来てるなと思って。

伊藤:ロマンティックって言っても、恋愛に対して盛り上がってるっていうのではなく。恋にがっつこうとか、盛り上がってるっていうものではないですね。だから僕のイメージだと酸いも甘いも経てしまっているひとのイメージなので、どちらにしても、最中じゃない感じはしますね。

なるほど。じゃあ恋愛の最中のひとが聴くと言うよりは――。

石神:いや、最中でも大丈夫(笑)。でも、このCDを買うひとはたぶん恋愛できない。

(一同笑)

菊池:失礼やな(笑)!

石神:たしかに何がロマンティックかっていうことを意味づけするのは難しいと思うんですけどね。ただ、目に見える現実だけがすべてじゃないと思ってるんで。その化粧をしているときに、たとえば鏡が喋ったりするとロマンティックになるわけじゃないですか。そういうことがいつ起こるかわからないよっていうか。そういう、どこにでもあるものだと思うので。心の美しさみたいなものは。

ファンタジーみたいなもの?

伊藤:それはあると思います。

石神:そういう方向に持っていければいいかなと(笑)。

(笑)なるほど、わかりました。では最後に、バンドとしての野望があれば聞かせてください。

伊藤:そうですね、7インチは去年の春に海外レーベルから出せたんですけど、LPはまだ出せてないので、次は海外からLPを出せるように頑張っていきたいです。

■ライヴ情報

*2013年3月8日(金)

「HOTEL MEXICO "shows in California"」
会場:Insight Los Angels store (LA)
LIVE:HOTEL MEXICO
and premiering new surfing documentary video KILL THE MATADOR
https://killthematador.com/
info : https://www.facebook.com/insightlosangelesstore

*2013年3月9日(土)

「HOTEL MEXICO "shows in California"」
会場:Detroit Bar (Costa Mesa)
LIVE:HOTEL MEXICO / BRONCHO / THE BLANK TAPES
adv : $7
ticket : https://ticketf.ly/Wktl4P

*2013年3月15日(金)

「SECOND ROYAL」
会場:京都METRO
開場:21:00
前売:1,800円 / 当日:2,000円(1ドリンク付)
LIVE:HOTEL MEXICO ※Special Long Set
Guest:OZ Crew (zico / O.T.A. / Yusuke Sadaoka / RIE / nobuyo)
DJ:HALFBY / Handsomeboy Technique / kikuchi(HOTEL MEXICO) / 小野真 / 小山内信介
お問い合わせ:METRO(075-752-4765)

*2013年3月23日(土)

「CUZ ME PAIN × HOTEL MEXICO」
会場:下北沢 THREE
開場:24:00
当日:2,000円(1ドリンク付)
LIVE:THE BEAUTY / HOTEL MEXICO / JESSE RUINS
DJ:YYOKKE(WHITE WEAR/JESSE RUINS) / NOBUYUKI SAKUMA(JESSE RUINS) / TSKKA(MASCULiN) / ODA(THE BEAUTY) / APU(NALIZA MOO) / COZZY(OHIO PRISONER) / ANARUSHIN and more
お問い合わせ:THREE(03-5486-8804 ※16時以降)

SónarSound Tokyo 2013、出演情報第3弾が発表 - ele-king

 エイドリアン・シャーウッドとピンチという大御所から、ロンドン・オリンピック開会式においてもあらためて大きな存在感を見せつけたカール・ハイド、そしてアクトレスやニコラスジャー、ダークスターといった俊英までをきっちり押さえるソナー・サウンド・トーキョー2013。第3弾となる今回の出演者発表ではLFOやジョン・タラボットに加え、日本勢においてもトーフビーツやサファイア・スロウズらが名前を連ね、じつにかゆいところに手の届いたラインナップを見せつけてくれている。今後も映像上映や展示、トークショーなど続報が段階的に発表されるとのことだ。目が離せない!

SónarSound Tokyo 2013 :: 4/6 & 4/7 ::
at ageHa | Studio Coast

ミュージック+アート+テクノロジーの祭典、
SónarSound Tokyo 2013 第3弾出演者発表!

LFO、Shiro Takatani、John Talabot、Toe... 一挙16組の追加アーティストを発表!
そしてRed Bull Music Academyがキュレーションする"SonarDôme"の出演者も明らかに!
そして大阪公演『A Taste of Sonar』開催決定!

一昨年、昨年と二年連続で入場制限までかかるほどの大人気を博した" SonarDôme "今年もRed Bull Music Academyがキュレーションを務めることが決定!

今回もRed Bull Music Academyの卒業後も確実に実力と可能性を拡げながら、精力的に世界中で活躍しているアーティストたちをラインアップ。

日本からは、アキコ・キヤマ、ダイスケ・タナベ、ヒロアキ・オオバ、sauce81、ヨシ・ホリカワが出演。さらに、現在ベルリンを拠点に活動し、サイケでムーディでベースへヴィーなビートミュージックで知られ、昨年<Ninja Tune>との契約が話題となったテクノ・プロデューサー、イルム・スフィア、ロンドンで活動するエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー/DJ、OM Unit、UKよりエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーxxxy、そしてアカデミーが縁で生まれたダイスケ・タナベとのユニット、キッドスケより、UKのキッドカネヴィルが来日。世界で4,000通を超える応募者の中から狭き門をくぐりアカデミーへと選ばれた才能が、SonarDômeで炸裂します。Red Bull Music Academyが誇る、最先端の音楽を堪能してください。また、追加ラインナップ等も近日発表しますので、ご期待ください。

*Red Bull Music Academyより特典として、SonarDômeに出演するキッドスケのエクスクルーシブ・トラック「Mighty」が以下URLよりフリーダウンロード!
【2月22日(金) 日本時間 19時より】
https://www.redbullmusicacademy.com/magazine/kidsuke-mighty-premiere


今後も驚くべきハイクオリティなラインナップを続々発表予定。
また映像上映や、メディア・アート作品の展示、トーク・セッションなどなど、今後の発表にも注目!

SónarSound Tokyo 2012 の初日はソールドアウトし、残念ながら会場に行けなかった方もおりますので、お早めにチケットをお買い求め下さい!

■日時
4/6 sat
Open/Start 21:00
LFO NEW
Sherwood & Pinch
Boys Noize DJ Set
Actress
John Talabot NEW
Submerse NEW
Sapphire Slows NEW
and much more...
4/7 sun
Open/Start 14:00
Karl Hyde
Nicolas Jaar
Darkstar
Shiro Takatani:CHROMA NEW
Toe NEW
Green Butter NEW
Tofubeats NEW
and much more...
Red Bull Music Academy presents SonarDôme NEW
Akiko Kiyama, Hiroaki OBA, ILLUM SPHERE, Kidsuke, Om Unit, sauce81, xxxy, Yosi Horikawa and more...

Produced by: Advanced Music / Beatink


■チケット詳細

[前売チケット]
1Day チケット: ¥7,750
2Day チケット: ¥14,500

[当日チケット]
1 Day チケット: ¥8,500

*2DAY チケットは、BEATINKオフィシャルショップとe+、チケットぴあのみでの販売。
*4月6日(土)の1DAYチケット及び2DAYチケットは、20歳以上の方のみ購入可

■前売チケット取扱い
BEATINK On-line Shop “beatkart” (shop.beatink.com)
チケットぴあ(P:189-692) t.pia.jp, ローソンチケット(L:74641) l-tike.com, e+ (eplus.jp),
イベントアテンド (atnd.org) *Eチケット

■注意事項
4月6日(土)は、20歳未満入場不可となり、入場時に年齢確認のためのIDチェックを行います。運転免許証・パスポート・顔写真付き住基カード・外国人登録証のいずれか(全てコピー不可)を ご持参ください。
You Must Be Over 20 Years Old With Photo ID To Enter for 6 Apr (sat) show!

■MoreInformation
BEATINK www.beatink.com 03-5768-1277
www.sonarsound.jp www.sonar.es


■大阪公演決定!!!
バルセロナ発、今や世界的に高い評価を集める最先端のフェスが遂に大阪に上陸!そして2日間のイベントとして開催が決定!日本初となる今回のA Taste of Sónarは、SónarSound Tokyo 2013の出演アーティストの中から特に強力なラインナップを選出し、二つの異なる会場で行われる。
1日目はニコラス・ジャー、シャーウッド&ピンチ、アクトレスはじめ、過去ソナーに出演経験のある日本人アーティスト達が出演。
2日目は、ソロ・アルバムをリリースすることで話題のアンダーワールドのカール・ハイドがバンドと共に出演する他、ダークスター、日本からはアルツが出演。

A Taste of Sónar in Osaka
Day1 4/5 Fri

Universe
open/start 18:00 ticket: tbc
Nicolas Jaar
Sherwood & Pinch
Actress
and more...
Day2 4/8 Mon
Umeda Club Quattro
open/start 18:00 ticket: ¥5,800 Adv.
Karl Hyde
Darkstar
ALTZ

A Taste of Sónar
ソナーのサテライト・イベントとして、これまでロンドンなどでも開催されてきたA Taste of Sónar(テイスト・オブ・ソナー)。本家ソナーのDNAを受け継ぐイベントは、今回の大阪開催が日本初となる。



Fragment - ele-king

 昨年は、キャリア10年にして初のインストゥルメンタル・アルバムをリリースしたフラグメントによる6作目。ブレイクビーツを軸にヒップホップとエレクトロニカを繋ぐ「架け橋」になろうとしているアルバムだろう......か。それは雑多な傾向のミュージシャンを一同に集めたササクレ・フェスティヴァルにも通じている。そして、ササクレ・フェスティヴァルが彼らの趣旨をもうひとつ誰にでも理解できるようなコンテキストに落としこめたとはいえないように、このアルバムもどのような価値観でジャンルを横断しようとしているのか、直観的に把握できるコンテキストは見えてこない。フラグメントというユニット名が示す通り、どこか「断片的」なのである。

 いいところはたくさんある。しかし、なかなか腑に落ちなかったので、この1ヵ月、何度か聴き返しているうちに、ふと逆から聴いてみることを思いついた。そして、「あッ」と思うほどアルバムの表情が変わってしまったのである(すでに持っているという人は一度、お試しあれ)。厳密にいうと、M12、M11、M10、M9、M8、M5、M7,M6、M4、M3、M2、M1の順かな(似たようなことは、過去にパフィのアルバムを聴いていた時にもあった。逆から聴いたら、言いたいことが急にはっきりしたような気がしたのである。フィッシュマンズ『空中キャンプ』でも最初と最後はそのままにして、ほかの曲順をいじくってみるとかなり発見があります。とくに"ベイビー・ブルー"を最後から2曲目に置くととんでもないですから!)。

 ひと言でいえば、フラグメントの考えた構成は内省的な面を隠すような曲順になっている。逆から聴くと、それが剥き出しになる。たまたま、僕も5月にリリースされるホワイ・シープ?『リアル・タイムス』の曲順を考えるはめになり、同じ問題にぶつかっていたので、ここはよくわかるところなんだけれど、少しでも東北大震災や福島原発に触れる部分がある場合、それとは相反する部分から誘っていって、そこに導こうとするよりも、現状はすでに内省や後悔に満たされているんだから、そこから入って違う世界へと導いた方が、自分たちがどう考えているかということが伝わるのではないかと思うのである。『感覚として。+ササクレ』には福島に住む狐火が福島の日常を淡々とラップしている曲があり、これが良くも悪くも重みがあり、それまでの流れを一変させてしまう。現在の曲順では、そうなると、それまでの曲がなかったことのようになってしまう。悪くすると、それまでの陽気さに反省さえ促しているとも受け取れない。

 最初にキャッチーな曲を置くという強迫観念があるのではないかと思う。これは、なにもフラグメントに限ったことではない。リスナーに対する期待値が低くなるのは仕方がないと思える音楽産業の低迷ぶりではあるし、サーヴィスがそれ以上の意味を持ってしまった現状では、ごく当たり前のことがリスクに思えてくるのだろう。しかし、最後のところでリスナーを信じなければ音楽をつくっている意味がどこかに行ってしまうんじゃないだろうか。その通り、僕は少しフラグメントを見失いかけた。それが言いすぎならば、新作で何を伝えたいのか、すぐにはわからなかった。そして、リリースから1ヶ月が経っていた。

 逆から聴いてみる。

 とても優しい雰囲気ではじまる。落ち着いて暖かい気持ちになれる。このまま1時間ぐらい続いてもいいと思っていたのに、急にドアの閉まる音。前の曲の余韻を受けて少しばかり身を引き締めるビート・ナンバーへ。気分が大きく変わることはない。物悲しさが増し、それを待っていたかのように新人の泉まくらをフィーチャーしたM10"このきもち"へ続く。ドアを開けて、しばらく歩いていたら、泉まくらに出会ったような感じ。その日、初めて会った人がこの人でよかったというか。そのことを反芻しているようなインスト曲に続いて、2人目が狐火。いつもなら、どこかでムダな抵抗をわめいているようにしか聴こえない狐火のフロウは、福島の日常を淡々と語ることで、それまではみ出していた部分が整理されたように聴こえ、不思議なほど静かなものに感じられる。冒頭で感じられた優しさがとても残酷なものを内包していたようにも思えてくる。2曲とばしてM5"Individuality?"へ。知らず知らずのうちにのしかかっていた重さから逃れるために、無理のない気分転換を試み、この曲ならそれが可能になる。余韻を打ち消してしまうわけではない。この微妙なニュアンスからM7"Rat Race"へ戻り、まったく意味のないSEをしばらく受け止め損ねていると、なにもかもをひっくり返すようなM6"調整"へ。躍動感に満ちたMacka-chinのラップはすべてを台無しにするほどは振り切れず、むしろデリカシーが狐火との連続性を保障してくれる(でも、少し、暴力的に感じられる人もいるかもしれない)。M4"Sharpens Pendulum"でスラップスティックに笑い転げ、M3"香車"で疾走モード、さらにM2"豚の頭"と、調子にのって飛ばすだけである。難しいのはM1"Rebel Rhythm"の置きどころ。フラグメントらしい曲なので、もったいないけど、外してしまうのも可かな。でも、それじゃ物足りないか......。

 久しぶりに原稿を書いたらレヴューにならなかった。「静かな生活から騒がしい場所へ出てきて、ツラい話でも人の話を聞いたことで、むしろその次に進むことができた」という構成案です。ということは、現在の曲順で聴くと、その逆の展開になるということです。大騒ぎしてたら、やがて、いたたまれなくなって、ひとりで......(すいません)。

 「ローマ教皇がやめるんだってさ」とわたしが言うと、
 「そら、よっぽどヤバイことが明るみに出るんだろうな。これから」と連合いは言った。
 先週、アイリッシュ系のご家庭では、わりとこういう会話が交わされたのではないだろうか。

 「聞いた? 教皇のニュース」とわたしが言うと、
 「まるで『Father Ted』のネタみたいだよね。リタイアした教皇が、プールサイドに寝そべって、ビキニ姿の女の子たちを回りにはべらせてたりしそう、あの番組だったら」
と、あるダブリン出身の女性は言った。
 『Father Ted』というのは、英国C4が誇るカルト・コメディであり、アイルランドに住むカトリック聖職者たちの日常を辛らつにおちょくったシットコムだ。90年代に制作された番組だが、実に先鋭的で、あれを見ていると、あの国の聖職者たちはみなアイリッシュ・マフィアのようである。

 その内容があまりに過激なため、当初アイルランドでは放送されなかったが、「おもしろい」という噂が海外から入ってくるにつれ、衛星のパラボラアンテナで受信して見る人が増え、済し崩し的にアイルランドでも放映がはじまったという経緯があった。
 80年代には、「完璧な人間などいないからね。司教様を除けば」というようなことを一般市民が普通に言っていた国である。その国の人びとが、「ドリンク! ガールズ! ファック!」と年がら年中叫んでいるアル中の神父や、カリフォルニアにセクシーな愛人と子供を囲っている司教を見てげらげら笑う時代になったというのだから、わずか10年やそこらであの国で起きた価値観の転換には劇的なものがある。

 とは言え、アイルランド系のミュージシャンたちは、昔から教会の荒廃ぶりについて告発してきた。
 ロンドンのカトリック校で修道女たちに折檻された悲惨な経験を繰り返し語ってきたのがジョン・ライドン(『Father Ted』では、ジャック神父が若い頃にこうした学校で猛威をふるい、教え子のなかからシリアルキラーを出したという設定になっている)なら、カトリック系感化院で聖職者に虐待されたというシネイド・オコナーは、ステージで教皇ヨハネ・パウロ2世の写真を破ったことがある。「教皇ベネディクト16世の最大の功績は辞任すること。これから、最悪の教会の恥部が明らかになるから」と、シネイドは最近『ガーディアン』紙に語っている。
 とはいえ、教皇退任やカソリック教会のスキャンダルはアイルランド系限定の問題なのかというとそうではない。実は英国でも最近、英国国教会の信徒数をカトリック教会の信徒数が上回るといった逆転状況が起きている。これは英国人がカトリックに改宗しているというわけではなく、ポーランド人などの移民が増えたからだ。うちの息子も公立のカトリック校に通っているが、彼の級友なども、アイリッシュ、アフリカン、ポーリッシュなど、実にインターナショナルである。この国のカトリック人口を押し上げているのは、移民とその子供たちなのだと実感できる。

        *********

 過日、某アナキスト団体で活躍しているインテリ・ヒッピー系の英国人女性とスーパーマーケットで数年ぶりに会った。とても普通の学校には通ってなさそうなドレッドヘアの娘の手を引いている彼女は、制服の白シャツにネクタイを締めているうちの息子を見て、言った。
 「Kは、カトリックの小学校に行ってるんだよね?」
 「うん」
 「いいわねえ」
 へっ? 天下のアナキストが、カトリック校を羨ましがるわけ? と拍子抜けしていると、彼女は言う。
 「うちは結局、ホーム・エデュケーションよ。行かせたい学校には入れなくて。厳格に躾けてくれるカトリックの学校に行かせたかったんだけど」

 彼女の見解は、近年、この国の人びとのコンセンサスになっているとも言える。
 たとえ生徒に罵声を浴びせられようとも殴られようとも、ただ微笑んで耐えるしかない教員たちにとり、「何よりも子供の人権優先」のリベラルな学校現場は地獄のような職場になっているとも聞く。そんな学校教育が生み出したのが、2年前のロンドン暴動で暴れていた野獣のような子供たちだ。というようなマスコミの見方が浸透するにつれ、「一般の学校より厳格」と言われるカトリック校の人気が上昇しており、子供をカトリック校に通わせるために改宗する家庭もあるらしい(在英日本人ですら、そういうご家庭があるようだ)。
 しかし、聖職者による子供たちへの性的虐待が一大スキャンダルになったカトリックの学校が、いまなぜかペアレンツたちのあいだで大人気。というのも、考えてみればアナキーな話だ。
 と、アナキスト女性が抱えたショッピング・バスケットのなかに、毒々しい色のパッケージのチョコレートやポテトチップスが入っているのが見えた。あれ? と思う。彼女の子供が赤ん坊だった時分は、娘をスリングで胸元にさげて、アナキスト団体の無農薬菜園でせっせと働いていた人だったように記憶している。
 徹底抗戦。はもうやめたのだろうか。
 「この子を学校に通わせられたら、自分の時間ができて、もっと活動もできるんだろうけど、ホーム・エデュケーションだからそうも行かない」
疲れた顔つきで彼女はそう言い、「バーイ」と手を振って買い物を続けた。
 徹底抗戦。には暇もいるんだろう、と思った。
 が、レリジョンやポリティクスといった分野の権威が悉く『Father Ted』化して溶解している時代に、アナキストを自称する人びとは、いったい何と戦おうというのだろう。突き崩さなくともいろんなものがガラガラ崩れ落ちている、現実が一番アナキーな時代に、アナキストでいるというのもけっこう大変そうである。

 仕事帰りや学校帰りの人びとに混じり、バスケットに食品を詰め続けるアナキスト母子の姿はわりと普通の消費者に見えた。
 彼女はきっと、自分のバスケットに入っている食品のすべてが有害だと思っている。思っていながら、食らうために有害物を籠に入れ続ける。それは、アナキックではないが、アイロニックだ。抗戦ではないが、生きる。ということだ。
 「でも、ヒッピーの女の子って可愛い子が多いよね」
 と、にやにやしている息子の手を引いて、わたしもショッピングを続けた。
 夕方のスーパーマーケットは、まるで禊でも受けるような陰鬱な顔で下を向き、黙々とバスケットに物を入れ続ける人間で溢れている。

Jamie Lidell - ele-king

 今年は夏が来るまでに、わたしたちの耳は溶けてしまうだろう。トロ・イ・モワやオート・ヌ・ヴ、インクの新作に代表される「チル&ビー」路線だけでもなく、ダウンテンポ・ソウルの新たなる洗練であるRhye(ライ)には期待せずにはいられないし、グラミーでのフランク・オーシャンに象徴されるようなメインストリームのムード、あるいは下手したらジャスティン・ティンバレークの新しいシングルの恐るべき完成度だって、まったく無関係ではないのかもしれない......現在大いに繰り広げられるR&Bの新解釈に共通しているのは結局のところ、その甘さ、いや甘ったるさの復権である。ブリアルがR&Bを歪曲した皮肉ではなく、もっと衒いない愛情でそれらラヴ・ソングのソウルを呼び起こして、現在の音の地平で鳴らしてみせること。この潮流がいったい時代のどんな気分を反映しているのか、あるいはどこに向かっていくのか......を考えるのはもう少し後にするのを許していただきたい。いまはただ、春の気配を待ちながら、それらの過剰気味なスウィートネスに酔っていたい。

 そんななか、〈ワープ〉の奇人、ジェイミー・リデルだけは独自のR&Bで踊り、歌っている。IDMからキャリアを出発し、あるとき突然歌いだしたこのフェイク感溢れるソウル・シンガー/プロデューサーの音は、作品を重ねるごとにその姿のキッチュさの度合いを強めているように見える。『ジム』でオーセンティックな60sソウルをやっていたときは、ブラック・ミュージックをファッショナブルに着こなすためのちょっとした流儀のようなものだと感じていたが、ベックとのセッション・アルバムの色合いが強かった『コンパス』を経たこの新作を聴くと、どうやらもっと抜き差しならないパーソナルな動機が彼にはありそうである。
 『ジェイミー・リデル』では『ジム』や『コンパス』のような甘さはあまり目立っておらず、プリンスの黄金期のサウンドを貴重としながら、80sシンセ・サウンドのエレクトロニックR&Bを扱っている。オープニングの"アイム・セルフィッシュ"から"ビッグ・ラヴ"であれば、ゴージャスでスペイシーにいかがわしシンセ・ファンクを衣装としてステージに立っていると言えるのだが、続く"ホワット・ア・シェイム"になるとIDMの実験主義がそこに合流し、なにやら捻じ曲がったビート・トラックが出来上がっている。ただ、これがジェイミー・リデルが持つ多様な音楽的作法を駆使した、化学実験を目的としたものにはあまり感じられない。80年代生まれが繰り広げる捏造された80sリヴァイヴァルではなく、実際にその時代を知る者の愛着がここにはあり、その思い入れの強さこそが彼の独自性を生み出しているように見えるからだ。ここには現代の音を携えながらそれでも過去への憧れに立ち返ってしまうような複雑な回路があり、それは単純なモノマネよりも真摯なものであるだろう。ジャジーなソウルのパロディのような歌から、曲の中盤でハードにエレクトロ的な展開へと突入していく"ホワイ・ヤ・ホワイ"などは、自らのなかで分断される要素をジョージ・クリントンの作法に倣いつつどうにか統合するかのようだ。
 そうして聴くと、このアルバム・タイトルが『ジェイミー・リデル』となっているのは示唆的だ。本人いわく深い意味はないそうだが、シンガーとしてオーセンティックなソウルに素朴に挑戦した『ジム』は彼の愛称であり、その次作である他ミュージシャンとのコラボレーション・アルバムが『コンパス(羅針盤)』、そして本作が本名となっていることは、より自らの内側に入り込んでいるように見える。ある意味ではコラージュ的なシュールさが聴きにくさをもたらしているアルバムではあるが、この散らかった音こそを自分だと言ってのける腹の据わり方が清々しい。その意味では、"ブレイミング・サムシング"や"ソー・コールド"のようにファンキーなエレクトロニック・ソウルも非常に楽しく聴けるし踊れるが、僕のベストはやはり"ホヮット・ア・シェイム"。バック・バンドがコンピューターであってもグリッターに身を包み歌い踊るその奇妙な姿にこそ、IDM以降の現代の感覚では共感してしまう。当たり前の話、アコースティック・ギターを抱えて誠実に内面を吐露するフォーク・シンガーや、甘い歌を甘く歌い上げるソウル・シンガーだけが自分をさらけ出しているわけではない。この異形のラヴ・ソング集、キッチュなR&Bにもまた、フェイクではない愛が息づいているはずである。

Death Grips - ele-king

 ザック・ヒルの壮絶なドラミングを最後に見たのは確か2009年、LAでのFYFこと〈ファック・イェアー!・フェスト〉だったと記憶している。
 その日の僕は某メタル・レーベルが出店するマーチ・テーブルの売り子を手伝うという大義名分を振りかざしてフェスに忍び込んでいた。テント内はカリフォルニアの炎天下の紫外線を遮るものの、ヒゲ、ロン毛、巨漢、もしくはそれ全部、のレーベルの運営者達が発する漢気で画的に非常に暑苦しく、マーチ・テーブルとそれに群がるこれまた暑苦しいメタル・ヘッズ越しに容赦なく日差しが降り注ぐ向こう側にはパツキン・チャンネーが巨乳、巨尻を惜しげも無く露出する絵に描いたような爽やかかつ涼しげなフェスの模様、この不思議に分割、逆転した世界にあって僕はロクに仕事もせずストーンしていた。
 ふいに横で同じく売り子をしていた熊のような男、といっても働いている奴は僕以外全員熊のようなのだけれどもそのなかでも通称「甘党熊」と呼ばれる男に声をかけられて狼狽した。

僕「あ、ごめん......もう仕事中には吸わないよ。」
甘熊「いや違うよ。ウェイヴス見にいかないのか?」
僕「ウェイヴス? あのキモめのバンド好きなの?」
甘熊「いや好きかどうかはわからんけどザック・ヒルだぜ?」
僕「あぁそうか。じゃあ行くよ。」

 僕らは仕事を放擲し足早にウェイヴスのステージに向かった。
 予想通り初めて観るウェイヴスはキモかった。ちなみにすでにこれを読んでいる彼らのファンはさぞかし憤慨しておられるであろうが僕の個人的な見解においてウェイヴスはサーフとガレージとエモのキモさをあえて全面的に押し出したダサ・カッコイイ美学を追求した希有なバンドだったと言うに尽きるのだ。まぁ好きか嫌いかと訊かれれば嫌いなんだけど......。
 ......キモかったけれども甘熊の言う通りザックはそれを力技で超一級のエンターテイメントに仕上げていた。
 終演後に去ってゆくオーディエンスや甘熊はみな口を揃えて「いやー、ザックすごかったねー」などと呻きながら感無量な表情を浮かべていた。
 ......ってウェイヴス自体はどうなんだよお前ら!

「デス・グリップス行かないんスか?」
と自分のヘボバンドのヘボドラマーに訊かれ、先の思い出が頭を過った。いっやーどうだろーなどと嘯いている僕に彼は、
「......でもザック・ヒルっすよ?」
お前もそれかい!

 ......でもザック・ヒルっすよ? ......ック・ヒルっすよ? ......っすよ? しかし頭のなかでヘボドラマーのセリフがテープ・エコーにのってリピートされるのを結局止められなかった僕は自身の忌まわしき過去と対峙する思いで彼らのライヴに足を運んだ。

 昨年末のエレキング座談会にて後半少し触れたが、僕はデス・グリップスを素直に受け入れられない何かが常にある。彼らをいま認めてしまうということは結局のところ、いまでこそエクスペリメンタルだなんだと抜かしてる僕が封印してきた「10代だった90年代後半はこんなものを聴いてました」的ハズカシ・ヒストリーを白日の元に晒している気がしてならないのだ。だっていくら文脈は違えどやっぱりラップ・メタルなんですもの......。

 しかし結果から言うと彼らのショウは僕が恐れていたラップ・メタル/ミクスチャー感を彷彿させるものはなかった。てか皆無だった。本国のツアーではキーボードで参加しているはずのモーリンが欠席なのも相まってか、(少なくともステージには見当たらなかった。しかしFXはリアルタイムで足し引きされていたし、ザックのドラムのトリガーがシーケンスに反映されているときとそうでないときがあったのでマニュピュレーターとして裏で参加していたのだろうか? スマッシュさん教えてください)そのステージは異常なまでにプリミティヴな仕上がりであった。太鼓とラップでのみ魅せる超一級のエンターテインメント。ザックは徹底された足し算の美意識とも言えるドラミングを休むことなく披露し、MCライドのハードコアなライヴ・アクトがフロアをカオスに導く(個人的にライドのリリックの随所から感じる自暴自棄なイメージを彼のパフォーマンスから垣間みれるかと期待していたのだが、そこまで無茶苦茶なモノではなかった)。

 完璧だ。いや完璧すぎるのだ。彼らの音源を聴いたときから感じていた懸念は確信へと変わった。技術力を習得するというミュージシャンとしての基本的な行為をそもそもかなり早い段階で諦めてしまった僕のヒガミからくるのであろうか、ツッコミ所のない音楽に対してイマイチ入り込めない自分。ポテンシャル、技術、ソングライティング、パフォーマンス、どれをとっても比類なき完成度を誇るデス・グリップスに僕は自分のダメ人間っぷりを反省させられている気がするのかもしれないし、人生のどんなシビアな局面もマジメに受け止めてこなかったが故に最近はなるべくユーモラスなものにヘラヘラしていたいのかもしれない......。そしてそういう意味では数年前に見たウェイヴスにおいて、あのダサさとザックのドラムは僕にとって良い塩梅のバランスだったのかもしれない。

 なんだかレヴューがネガティヴかつヒロイックだな。これがパキシルの効果とやらなのだろうか。みなさんもインフルには気をつけましょう。

 しかし日本盤を1枚も出していないバンドにこれほどまで集客があるのは驚くべきことである。おそらくデス・グリップスにおいて最も評価されるべき点は、バンド及びミュージシャンとメディアの関係性のここ数年の大きな変化を象徴し、それのもとに大きな成功を収めていることだ。盛況に終わったこの興行が意味するのは、マーケットの確固たる変化だといえよう。

 なぜ日本ではレコード・ストア・デイがもう少し一般化しないのだろうか? 2008年からはじまった、フィジカル・リリースとそのインディペンデントな流通を盛り上げるための祝祭は、途切れることなくしかも規模を拡大して今年も開催されるようだ。

 そもそもは限定盤の店頭流通によって近所の小さなレコード・ショップなど小規模(で良心的)なお店を活性化させようといったコンセプトがあったわけだが、アーティストも積極的にこの機会を活用したらいいのにと常々思う。「レコード・ストア・デイ限定」として、CD-RでもカセットでもMDでも、余裕があるならヴァイナルをプレスして、カジュアルにリリースするのは楽しいことである。

 海外では、ほとんど名前をきかないようなアーティストから大御所まで、リリース数は年々増えている。日本のショップだと早々に完売する商品すら珍しくない。だが日本のアーティストの作品はとても少ない。キャリアは関係ないのだ。音源をフィジカルでリリースしたことのない人も、レコード・ストア・デイ・デビューとして、この機会を活用してはいかがだろうか。

 坂本慎太郎が前回にひきつづき今回も「レコード・ストア・デイ限定」を打ち出しているのは、心強いことである。しかも彼の作品のうち、完全にリミキサーの手に委ねるかたちでのリミックスはこれまでリリースされたことがないということだから、コーネリアスと石原洋、ふたりが聴かせてくれる内容も非常に楽しみである。

坂本慎太郎remix 7inch vinyl『幽霊の気分で (コーネリアスMIX) & 悲しみのない世界 (石原洋MIX) 』発売決定!

1月11日にシングル『まともがわからない』、2月15日に同7インチ・ヴァイナルをリリースした、坂本慎太郎のリミックス7インチの発売が決定しました。
 
昨年、雑誌『Sound & Recording Magazine』の企画で付録CDとして発表され話題になった、『幽霊の気分で (cornerius mix)』が待望のアナログ化です。
アルバム『幻とのつきあい方』収録のオリジナル・ヴァージョンが、コーネリアスこと小山田圭吾の手により、完璧なコーネリアス・サウンドに。
そして今回新たに、ゆらゆら帝国のプロデューサーである石原洋が、最新シングル収録の(TX系『まほろ駅前番外地』OST曲)“悲しみのない世界”をリミックス。
音数を最小限に削ぎ落とした、石原にしかできない深淵でメロウなミックスに。
どちらも坂本と縁の深いアーティストによる、好対照で素晴らしいミックスが収録された、両A面7インチ・シングルに仕上がりました。

今回は両曲とも、バンド時代から数多の坂本作品にコーラスとして参加している、Fuko Nakamuraのヴォーカルが前面にフィーチャーされており、「坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura」名義でのリリースになります。

坂本本人が完全に他人に委ねたリミックス・ヴァージョンのリリースは初になります。 

また、今回「レコード・ストア・デイ2013」の限定7インチとして、店頭のみの販売になります(各店web/予約販売は行いません)。

https://www.recordstoreday.jp/index.html#a1

世界的にも再びアナログ盤が重要メディアになってきているいま、まさにこの春の最重要7インチ・ヴァイナル! 今回も特殊二つ折りジャケットで、全国のレコードショップ店頭にて4月20日(土)発売予定です! 

■発売日
2013年4月20日 (土) zelone recordsより
■タイトル・詳細
坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura
Shintaro Sakamoto feat. Fuko Nakamura 
A: 幽霊の気分で / In A Phantom Mood  (Cornelius Mix)
AA: 悲しみのない世界 / World Without Sadness (You Ishihara Mix)
All Songs Written by Shintaro Sakamoto

A: Remixed by Cornelius
Additional Instruments: Keigo Oyamada
Recording, Programming & Mixing: Toyoaki Mishima

AA: Remixed by You Ishihara
Additional Instruments:
Piano: Fuko Nakamura
Guitar: Soichiro Nakamura
Guitar & Bass: You Ishihara
Recording & Mixing: Soichiro Nakamura at Peace Music

Mastered by Soichiro Nakamura at Peace Music, Tokyo Japan  2013

■品番
zel-009 (7inch vinyl)

■価格
¥1,050 (税込) 

■関連サイト
official HP: www.zelonerecords.com
official twitter: https://twitter.com/zelonerecords
official face book: https://www.facebook.com/zelonerecords
distribution: Jet Set Record : https://www.jetsetrecords.net/

■Cornelius (コーネリアス / 小山田圭吾) 
1969年東京都生まれ。'89年、フリッパーズギターのメンバーとしてデビュー。
バンド解散後 '93年、Cornelius(コーネリアス)として活動開始。現在まで5枚のオリジナルアルバムをリリース。
自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやREMIX。プロデュースなど 幅広く活動中。
https://www.cornelius-sound.com/

■石原洋(イシハラヨウ)
ミュージシャン、サウンド・プロデューサー。
80年代半ばよりWhite Heaven, その後The Starsを主宰。2008年The Stars解散後はソロ名義で不定期に活動。
96年の「Are you ra?」以降、最終作「空洞です」までのゆらゆら帝国の全作品やOgre You Assholeの近年の作品などのブレインとしてサウンド・プロデュース、アレンジ、リミックスを手がける。
他に朝生愛、Borisなどプロデュース、リミックス作品多数。

■RECORD STORE DAY
RECORD STORE DAYはCHRIS BROWNが発案し、ERIC LEVIN、MICHAEL KURTZ、CARRIE COLLITON、AMY DORFMAN、DON VAN CLEAVEとBRIAN POEHNERによって創始された、全米の700を超え、海外に数百を数えるレコードショップとアーティストが一体となって近所のレコードショップに行 き、CDやアナログレコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する、年に一度の祭典です。限定盤のアナログレコードやCD、グッズなどが リリースされ、多くのアーティストが全米各地、各国でライブを行ったり ファンと交流する日です。
2008年4月19日にはMETALLICAがサンフランシスコのラスプーチン・ミュージックでオフィシャルにキックオフをし、以降は毎年 4月の第3土曜日にRECORD STORE DAYが開催される運びとなりました。
https://www.recordstoreday.jp/index.html#a1

■坂本慎太郎
1967年9月9日大阪生まれ。
1989年: ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。21年間で、3本のカセットテープ、 10枚のスタジオアルバム、1枚のスタジオミニアルバム、2枚のライヴアルバム、1枚のリミックスアルバム、2枚組のベストアルバムを発表。
2006年: アートワーク集「SHINTARO SAKAMOTO ARTWORKS 1994-2006」発表。
2010年: ゆらゆら帝国解散。解散後、2編のDVDBOXを発表。
2011年: salyu×salyu「s(o)un(d)beams」に3曲作詞で参加。自身のレーベル、zelone recordsにてソロ活動をスタート、1stソロアルバム「幻とのつきあい方」を発表。
2012年: 以前から交流のあるYO LA TENGOのジェームズ・マクニューのソロ・プロジェクト”DUMP”の”NYC Tonight"にREMIXで参加。
NYのOther MusicとFat Possum Recordsの新レーベル”Other Music Recording Co" から、「幻とのつきあい方」がUSリリース。
2013年: 1月11日Newシングル「まともがわからない」リリース。



Gum - ele-king

 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの新作を不思議な思いで聴いた。あまりにも変わらないままのマイブラだったが、ではかりそめの新しさを狙ってエレクトロニックにしてみました、アンビエントをやってみました、ビートに凝ってみました、といった変化を見せたとして誰が納得しただろうかと考えてみると、やはりこれしかない。"オンリー・トゥモロウ"は最適解だ。というか、「10年1作」(22年ぶりだが)のような時間を生きる彼らにとって、「変化」ということほど軽薄な概念はないのかもしれない。
 ロックという価値観において「変わらない」ことはとても両義的な意味を持つ。若く、既成の価値の枠組みを揺さぶるようなエネルギーをその本懐と考えるなら、変化や進歩のないものは基本的には謗りを受けるだろう。だが、ただほいほいとフォームを変えるのではファッションでしかないということになる。『mbv』には、昔の焼き直しという印象ではなく、そのフォームの古びなさ強靭さをあらためて確認させられたように感じた。変わらなさにおいてひとつの徹底と説得力を持っている。というか、ケヴィン・シールズの音がいまだ完成への途上を歩むものであり、またそれが跨ぎ越された跡もとくに見つからないという意味においては、まだその道の先駆であるとも言える。彼らのフォームは生きた形式ともいうべき、奇跡的な矛盾として存在している。

 だから、マイブラとはバンドであると同時にジャンルでもある。作り手の多くは自分の音楽にタグ付けされることを嫌うものだが、この界隈ばかりはどうだろうか。そのようなことに頓着せず、フォロワーであるとかないとかいう意識もはじめからとくにないような、迷いのない後続を生みつづけている。例を挙げればキリがないが、たとえば2008年、パンダ・ライオットのデビュー作はよく売れていた。リリースはその前年だったが、じっくりと途絶えることなく、3年くらいは売れつづけたと思う。そのころ勤めていたレコード屋では店頭で音をかけるたびに問い合わせを受け、そのまま買っていくというお客さんも多かった。在庫を切らすと「いまかけている開封品でいいから買っていく」なんて言われた。

 いまガムをかけたなら、同じようなことが起こるのではないかと思う。それは5年といわずその何倍ものあいだ更新のないシーンの存在と、更新の意味をナンセンスなものにしてしまうほど愛でられている音の存在を意味している。どうしてわれわれはこうした音がかかると一種の思考停止状態に陥ってしまうのだろうか――ドリーミーなファズ・ポップ、ディストーションのきいたメランコリック・ポップ、いろいろな言い方で間接的に語ることはできるが、要はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインだ。リヴァービーな音響を持ったバンド・サウンド、フィードバック・ノイズ、中性的なウィスパー・ヴォイス、あるいは男女ヴォーカルの気だるげな絡み、メランコリックでミディアム・スローな楽曲、こうした音に対してほとんど脊髄反射的に反応してしまうという経験があるならば、ガムもまた抗しがたい力でもってその耳と心に押し入ってくるだろう。
 もちろんライドの疾走感、スローダイヴの蒼みがかった叙情性も十分に発露されている。シューゲイザーと名のつく作品群の上に存在する、優れて美しい2次創作、そのように言うのがしっくりくるだろうか。新しい音楽観を提示する、シーンを牽引する新騎手、といった意識で作品を世に問うているのではなく、そのあり方は同人作家のように控えめなものだ。だが彼らに脚光が集まった背景には、デビューEPがヤックからの賞賛を受けたり、日本でもとくに支持の厚いシューゲイズ・ポップ・バンド、リンゴ・デススターのサポートを行ったりしているほか、この界隈ばかりでなく、当時折からのローファイ再燃の機運やジャングリー・ポップの盛り上がり、チルウェイヴ前後のドリーミーなサイケ・ポップへの注目のなかでジャンル外へと大きく波及していった重要バンド、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートからの賛辞まで得ているというような経緯があるようだ。彼らのような活動をするバンドはUSに多いが、ガムはUKから出てきたバンドであることも頼もしい。そして今作のプロデュースに関わるというロリー・アットウェルは、テスト・アイシクルズでの活躍のほか、いままさに活動の旬を迎えているパーマ・ヴァイオレッツや、ザ・ヴァクシーンズ、ヴェロニカ・フォールズなどUKの良質なインディ・バンドを手がけてきたプロデューサーでもある。おそらくはガムにとってもプラスとなるディレクションがなされているのではないだろうか。

 まだまだ情報の少ないバンドでありながら日本盤(日本企画編集盤)まで出てしまうというのは、こうしたアーティスト群、そしてそのファン層が日本でもいかに厚いかということを物語っている。彼らの何かと細やかなセンサーがコレだと推している点からしても注意したいバンドである。無論、あり方や精神性においてマイブラそのものとはまったく違う。だが、好みに合わせて好みの音を再組織するセンスや手腕において彼らが抜きん出ていることは疑いない。二十数年もの時間とおびただしいフォロワーたちの末端で、『セヴンティーン』というタイトルのパラレル・ワールドを描いているようにも思われる。二次創作(絵や映像とは単純に比較できないが)には二次創作の楽しみかたがあるのだ。

ホロノミックディスプレイが作動した - ele-king



 年明けから間もない2013年1月4日のことだ。日本時間の午後1時すぎに目が覚めて、僕はいつもどおりリヴィングへふらふらと歩き、ノートPCを立ち上げた。ヴェイパーウェイヴ周辺の連中がなにやら興奮してツイートをしているのを見て、貼ってあったURL(https://jp.tinychat.com/spf420)をクリックすると、ヴィデオ・チャットの画面へ飛んだ。ディスプレイに映されたのは日本企業のCM映像。高速で流れていく英文の会話。毒にも薬にもならない浮ついたスローな音楽。僕はおもわず誰もいないリヴィングで声をあげた。なんてこったい! そこは、ヴェイパーウェイヴの連中のフェスティヴァル会場だった。そのときはインフィニティー・フリークェンシーズ(Infinity Frequencies)がプレイをしているらしかった。

 〈#SPF420〉とタグで銘打たれたフェスティヴァルの形式はこうだ。ストレス(STRESS)と名乗る女性が司会として、次の出演者を生の音声会話で紹介する。あらかじめ『YouTube』にアップ済みの出演者紹介の映像を流す。それから出演者が演奏を開始する。プレイ中のVJは出演者みずからがチョイスしているときもあれば、ブラックサンセッツなるアカウントがVJをしていた。演奏が終わると、画面が真っ暗になり、観客はチャットに拍手の意(「CLAP」など)をみんないっせいに打ち込む。そして、ストレスがふたたび司会をはじめ、次の出演者紹介をする。最後までこれの繰り返し。

 集まったチャットの参加者(観客)はこのフェスティヴァルに興奮していたようだ。「ラグジュリー・エリート(Luxury Elite)がいるの? まじ?」などと言っている者もいた。現住国を発表する流れでは、アメリカはもちろん、ヨーロッパやアジアからの者も多かったが、日本と答えたのは僕のみ。しかしまあ、チャットの内容はだいたいがなんの意味も生産性もないやりとりだ。「Lana Del Gay」や「James Vaporro」などと、ミュージシャンの名前を(特に「Gay」で)もじった言葉遊びが多くを占めた。それが高速で行われる。ヴェイパーウェイヴとそこからの波を追いかけつづけている日本のブロガー・ポッセ『Hi-Hi-Whoopee』のアカウントも日本語でチャットに入ってきたが、「会話についていけない」とぼやいて消えてしまった。チャットでやりとりをするには一瞬にして文脈を読んでいかなければならなかった。僕も慣れるには時間を要した。このイヴェントは以前にも行われており、日ごろからチャットに手馴れているユーザーが多かったようだ。司会のストレスは、来場したユーザーのみんなに丁寧な挨拶をしていた。このフェスを開催できたことが心から嬉しかったのだろう。見ていて気分がよくなる雰囲気があった。

 出演者も興味深い。音楽評論家アダム・ハーパーによって「#Vaporwave」というタグが生まれる前から、それにあたる作品を発表していたプリズム・コープ(Prism Corp)ことヴェクトロイド(Vektroid / New Dreams Ltd.など名義多数)やインフィニティ―・フリークェンシーズのほかに、彼らに触発された、いわば第2波といえるアカウントのラグジュリー・エリートや福岡在住を自称するクールメモリーズ(coolmemoryz)(おそらく元「t r a n s m a t 思 い 出」名義)が混合している。そこに、〈アギーレ〉(Aguirre)からのリリースをひかえていたアンビエントやノイズのトランスミュート(Transmuteo)や、〈アムディスクス〉(Amdiscs)からのヴェラコム(VΞRACOM)などニューエイジな装いのメンツも合流している。そして、どうやらこのカオスに貢献していたのは、チャズ・アレンを名乗るビートメイカーであるメタリック・ゴースツ(Metallic Ghosts)のようだ。先のYouTubeのアカウント然り、フェスのアートワークも彼が担当していたと思われる。

 トランスミュートの瞑想的なノイズはすばらしく、熱狂的な歓迎を受けていた。しかし、この日もっともおおきな拍手喝采の言葉で迎えられた大本命は、やはり、ヴェイパーウェイヴで最も有名になってしまったプリズムコープ:ヴェクトロイドだ。ウェブカムの前に彼女/彼ははっきりとその姿を現した。ときどきFBIのマークをVJに出現させハプニングの音を混ぜる茶目っ気をみせながら、まさにホテルのラウンジやプラザのBGMに最適なミューザックのループを延々と披露した。それはつまり、市場において消費者である僕たちが知るかぎりこの世でもっとも退屈で決して家に持ち帰ることのない音楽=ミューザックだが、いまや世界各国の物好きが、それらをインターネットの画面の奥に集積したゴミのような情報のなかから拾い上げ、面白がっている。挙句の果てには、それをグチャグチャに歪め、ズタズタに切り刻み、垂れ流したそのクソに浸りながら深夜にPCの前でハッパをキメるわけだ。現にヴェクトロイドは、ボングを用いてウィードに火をつけて吸引する自らの姿を何回もウェブカムで生中継した。『facebook』では彼女の姉妹ということになっている司会のストレスも別枠で吸引の様子を一瞬だけ映す。情報デスクVIRTUALの曲名にあったとおり、彼女たちはミューザックをウィードブレイク(#WEEDBREAK)のBGMに活用している。自室でひとりPC画面の前でにやつきながらウィードを吸引するヴェクトロイドの姿は、まるで部屋の外のなにかから逃げようとしているようだった。

 この日、ヴェクトロイドは2回出演し、アンカーの際には衣装をレトロなスタイルに変えていた。彼女はなぜか全角英字でチャットに参加する。繰り返されるウィードブレイク。観客にもウィードや酒の摂取を呼びかける。僕は、ログインしたときに「Daniel Lopatin」なるアカウントが参加者のなかにいたことをチャットに書いた。彼らは知っているのだと思ったが「まじ?」「どうせ誰かの偽アカウントだろ」という反応がかえってきた。事実、僕はたしかに見た。ダニエルとヴェクトロイドのあいだには交流があった(註2)ようだし、彼が見ていても不自然な話ではないと思った。やがて観客たちは口々に「ありがとうダニエル」とつぶやきはじめる。ヴェイパーウェイヴがダニエルの「斜陽会社」=〈サンセットコープ〉からはじまったことを誰もが自明に感じていると言えるだろう。

 フェスティヴァルも終幕に近づき、ストレスがアフターパーティーの会場『Turntable.fm』のURLを告げる。同サイトは閲覧を米国ユーザーのみに限っているため、米国外の観客はここでお開きとなった。ストレスは米国外のユーザーへ丁寧に謝罪しつつ、来場者への感謝の意をなんども書き込んだ。やがてジオデジックとして知られる下城貴博がヴェクトロイドへのラヴコールを書き込んだ。ヴェクトロイドは握りこぶしに親指を立て、ニヤリとした笑みで応える。やがて、音楽は止んだ。時計を見ると午後4時をまわっていた。

 正直に言えば、このフェスティヴァルが終わった瞬間、僕はおおきな虚無感と倦怠感が心の奥底からこみ上げてきた。なにせ、結局のところただのチャットにすぎない。音楽なぞ、ほとんどミューザックの垂れ流しである(註3)。ただただ退屈を空回りするだけであった。部屋を1歩でも出れば、現実がしっかりと待っている。窓の外はいつのまにか夕方だった。日本ならまだ日中だが、米国時間では深夜に、こんなくだらないことを「世界中の孤独なティーンがベッドルームで行っている」(Tomad)(註4)のだ。しかも、ウィードと酒をあおりながら。
 後日、ダラー・ジェネラル=司会のストレスは、ヴェクトロイドの言葉を最後に引用しながら、こんな挨拶を『facebook』に残している。

 とにかく、本当にありがとうと、今夜のイヴェントに来てくれた美しい人々に言いたいです。きみらみんな本気で超最高だよ。タイニーチャットにに来てくれた一人ひとりの力添えなしにSPF420が成功することはなかったでしょう。(出演者への挨拶。斎藤により中略)
 我々は100を突破しました! 134人の参加者が集まったよ、みんな! (135のときにキャプチャーできればよかったけど、ああもう)

 またすぐにみなさんとインターネットで会えることを願っています、
 SPF420: SPF420: Welcome To The Workplace.™
(日本語訳:斎藤)
#SPF420FEST 2.0: WELCOME TO THE NEW ERA:
https://www.facebook.com/events/...


 おおきな喜びが伝わってくる文面だが、彼らにはディスプレイの外へ出てくるつもりがないようにも読める(註5)。はたして、彼らの指す「The Workplace.™」とは、ベッドルーマーにとって逃げ場となる仮想空間なのだろう。無職であることがうかがわれるようなツイートを何度もしているヴェクトロイドが自らへの最大の皮肉として言っているようにも思える。
 だが一方で、ヴェクトロイドはときおり現実空間のパーティーに出演しており、2月に入ってからもマジック・フェイズ(Magic Fades)とともにギャラリーでパフォーマンスをしている。さらに、〈トライアングル〉の主宰バラム・アキャブがヴェクトロイドとのスプリットで7インチをリリースする旨を発表したばかりだ。

 はたして、ヴェイパーウェイヴァーは現実において「仕事場™」を拡張することができるだろうか。
 日本ではプラモミリオンセラーズで知られる鈴木周二がventla名義でヴェイパーウェイヴに触発された作品を発表しつづけており、§✝§(サス)やジオデジックはライヴ(註6)でその地平を切り開こうとしている。それはまた、べつの機会に......。

今日、我々とともに新たな世界へ加わりましょう......よりよい明日のために。

Prism Corp. International
We Know Who You're Working For.™
(日本語訳:斎藤)
札幌コンテンポラリー | BEER ON THE RUG:
https://beerontherug.bandcamp.com/album/-

空はあなたに従います。。。
安全に走行
悔なし

Farewell,
New Dreams Ltd.

(原文ママ)
PrismCorp™ Virtual Enterprises | New Dreams Ltd.:
https://newdreamsltd.tumblr.com/post/38483741858

 2012年、ヴェクトロイドはウェイパーウェイヴのベッドルーマーを引き連れ、「よりよい明日」のための「新たな世界」を目指して飛行した。それが情報デスクVIRTUALであり、セイクリッド・タペストリーではついに空を(下に)従えることに成功したのだ。

 そして2013年、ホロノミックディスプレイが作動した


(註1)
特別編集号 2012 ソーシャルカルチャーネ申1oo The Bible』より。アルバート・レッドワインは『ザ・ニューヨーク・タイムズ』からもインタヴューを受けている

(註2)
昨年の11月末にはヴェクトロイドがOPN(=ダニエル・ロパーティン)に謝罪のメールを送ったとツイートし、同日にOPNも「ヴェイパーされた」とツイートしている

(註3)
なお、このフェスティヴァルの音源や映像の一部が『facebook』のイヴェントページからチェックできる

(註4)
紙『ele-king vol.8』の「キャッチ&リリース」より。ちなみに、トマドが主宰する〈マルチネ〉はシーパンクのイメージを模したダウンロード・ページや、限定Tシャツをリリースしたtofubeatsも情報デスクVIRTUALをお気に入りにあげている

(註5)
対照的に、アダム・ハーパーによってヴェイパーウェイヴの文脈でも語られてしまったファティマ・アル・カディリは、積極的にイヴェントへ出演している。その様子は工藤キキが本サイトでも伝えている

(註6)
サスは音楽的にはウィッチハウスやシンセウェイヴに近いがウェイパーウェイヴの意匠をまとったライヴを行っており、ジオデジックはヴェイパーウェイヴのイヴェントを開催したいとツイートしている

以上-----------------------------------------------

可聴域をこえて - ele-king

「湧声」とは何だろう?
サウンド・アーティストtmymturによる音響作品『呼応』が来月リリースされる。サウンド・アートとリラクゼーション・ミュージックとの間をきわどく縫い合わせる実験作の登場だ。「声」というものが持つ一種の神話性を、周波数という科学で微分しながら、さらに強固な神話として再度呼び込むかのような音響構築。タネも仕掛けも精緻に施されているが、タネや仕掛けだけでは分け入れない「湧声」という音の森に、身体と心を預けてみたい。

幾千の声が織り成す音の創造物「湧声」

人間の可聴域をこえる超音波を含むtmymtur独特の声を5000層以上重ね生み出される音の創造物『湧声』。
そのひとつである"05.09.2012/0"が、様々なサウンドアーティストたちの意思、またその奥にある無意識の領域と呼応し、新たな創造物へと変化を遂げる。

【「湧声」とは】

tmymtur独特の声を、超音波を録音可能なマイク、録音機器を使用し、5000層以上重ねることで有機的に溶け合い生まれた、声のみによる音の創造物。
tmymtur独特の声質は、超音波領域を含み、周波数20kHz以上の人間の耳では聴き取れない可聴域を超える高周波が発生しています。
自然の音にも超音波は多く含まれ、川のせせらぎや木の葉の間をそよぐ風の音など、人間が心地よいと感じる自然音のほとんどに含まれています。これらの成分は人間の脳をリラックスさせる効果をもつともいわれています。

【Profile
tmymtur
website : https://ensl.jp/tmymtur

声に含まれる超音波による知覚のない感覚と、多重声の生気溢れる音楽的共感覚を作用させる独自の手法で、心の深層に真理を導く音楽を探究する。
2012年超音波を録音可能なマイク、録音機器を使用し、人間の耳では聴く事の出来ない超音波を含む声を5000層以上重ね、声のみで発生させる音の創造物「湧声」を発表。
2013年には、可聴域を越える20kHz以上の高周波の発信を可能にした音響設備をアサヒ・アートスクエアに構築。「湧声」を発生させ、意識の領域にはない、すべてのものが繋がる共有する何かを感じさせる音響空間創出サウンドアート・ライブを試みる。

【作品情報】
アーティスト名: tmymtur
タイトル名: 呼応
リリース日:2013年3月18日
フォーマット: digital (96kHz/24bit)
時間: 64:41.622
レーベル名: ENSL AMDC
品番: en005
値段: 3,150 JPY (Tax in)
バーコード: 4582466630015

Track listing:
"05.09.2012/0" Taylor Deupree remix
"05.09.2012/0" Yui Onodera remix
"05.09.2012/0" i8u remix
"05.09.2012/0" Celer remix
"05.09.2012/0" Christopher Willits remix
"05.09.2012/0" Mark Harris remix
"05.09.2012/0" Sogar remix
"05.09.2012/0" Opitope remix
"05.09.2012/0" Stephan Mathieu remix



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