ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  3. 橋元優歩
  4. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  5. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  6. CAN ——お次はバンドの後期、1977年のライヴをパッケージ!
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  9. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  10. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  11. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  15. Jlin - Akoma | ジェイリン
  16. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  17. 『成功したオタク』 -
  18. interview with agraph その“グラフ”は、ミニマル・ミュージックをひらいていく  | アグラフ、牛尾憲輔、電気グルーヴ
  19. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  20. ソルトバーン -

Home >  Reviews >  Album Reviews > Fragment- 感覚として。+ササクレ

Fragment

Fragment

感覚として。+ササクレ

術の穴

Amazon iTunes

三田 格 Feb 22,2013 UP

 昨年は、キャリア10年にして初のインストゥルメンタル・アルバムをリリースしたフラグメントによる6作目。ブレイクビーツを軸にヒップホップとエレクトロニカを繋ぐ「架け橋」になろうとしているアルバムだろう......か。それは雑多な傾向のミュージシャンを一同に集めたササクレ・フェスティヴァルにも通じている。そして、ササクレ・フェスティヴァルが彼らの趣旨をもうひとつ誰にでも理解できるようなコンテキストに落としこめたとはいえないように、このアルバムもどのような価値観でジャンルを横断しようとしているのか、直観的に把握できるコンテキストは見えてこない。フラグメントというユニット名が示す通り、どこか「断片的」なのである。

 いいところはたくさんある。しかし、なかなか腑に落ちなかったので、この1ヵ月、何度か聴き返しているうちに、ふと逆から聴いてみることを思いついた。そして、「あッ」と思うほどアルバムの表情が変わってしまったのである(すでに持っているという人は一度、お試しあれ)。厳密にいうと、M12、M11、M10、M9、M8、M5、M7,M6、M4、M3、M2、M1の順かな(似たようなことは、過去にパフィのアルバムを聴いていた時にもあった。逆から聴いたら、言いたいことが急にはっきりしたような気がしたのである。フィッシュマンズ『空中キャンプ』でも最初と最後はそのままにして、ほかの曲順をいじくってみるとかなり発見があります。とくに"ベイビー・ブルー"を最後から2曲目に置くととんでもないですから!)。

 ひと言でいえば、フラグメントの考えた構成は内省的な面を隠すような曲順になっている。逆から聴くと、それが剥き出しになる。たまたま、僕も5月にリリースされるホワイ・シープ?『リアル・タイムス』の曲順を考えるはめになり、同じ問題にぶつかっていたので、ここはよくわかるところなんだけれど、少しでも東北大震災や福島原発に触れる部分がある場合、それとは相反する部分から誘っていって、そこに導こうとするよりも、現状はすでに内省や後悔に満たされているんだから、そこから入って違う世界へと導いた方が、自分たちがどう考えているかということが伝わるのではないかと思うのである。『感覚として。+ササクレ』には福島に住む狐火が福島の日常を淡々とラップしている曲があり、これが良くも悪くも重みがあり、それまでの流れを一変させてしまう。現在の曲順では、そうなると、それまでの曲がなかったことのようになってしまう。悪くすると、それまでの陽気さに反省さえ促しているとも受け取れない。

 最初にキャッチーな曲を置くという強迫観念があるのではないかと思う。これは、なにもフラグメントに限ったことではない。リスナーに対する期待値が低くなるのは仕方がないと思える音楽産業の低迷ぶりではあるし、サーヴィスがそれ以上の意味を持ってしまった現状では、ごく当たり前のことがリスクに思えてくるのだろう。しかし、最後のところでリスナーを信じなければ音楽をつくっている意味がどこかに行ってしまうんじゃないだろうか。その通り、僕は少しフラグメントを見失いかけた。それが言いすぎならば、新作で何を伝えたいのか、すぐにはわからなかった。そして、リリースから1ヶ月が経っていた。

 逆から聴いてみる。

 とても優しい雰囲気ではじまる。落ち着いて暖かい気持ちになれる。このまま1時間ぐらい続いてもいいと思っていたのに、急にドアの閉まる音。前の曲の余韻を受けて少しばかり身を引き締めるビート・ナンバーへ。気分が大きく変わることはない。物悲しさが増し、それを待っていたかのように新人の泉まくらをフィーチャーしたM10"このきもち"へ続く。ドアを開けて、しばらく歩いていたら、泉まくらに出会ったような感じ。その日、初めて会った人がこの人でよかったというか。そのことを反芻しているようなインスト曲に続いて、2人目が狐火。いつもなら、どこかでムダな抵抗をわめいているようにしか聴こえない狐火のフロウは、福島の日常を淡々と語ることで、それまではみ出していた部分が整理されたように聴こえ、不思議なほど静かなものに感じられる。冒頭で感じられた優しさがとても残酷なものを内包していたようにも思えてくる。2曲とばしてM5"Individuality?"へ。知らず知らずのうちにのしかかっていた重さから逃れるために、無理のない気分転換を試み、この曲ならそれが可能になる。余韻を打ち消してしまうわけではない。この微妙なニュアンスからM7"Rat Race"へ戻り、まったく意味のないSEをしばらく受け止め損ねていると、なにもかもをひっくり返すようなM6"調整"へ。躍動感に満ちたMacka-chinのラップはすべてを台無しにするほどは振り切れず、むしろデリカシーが狐火との連続性を保障してくれる(でも、少し、暴力的に感じられる人もいるかもしれない)。M4"Sharpens Pendulum"でスラップスティックに笑い転げ、M3"香車"で疾走モード、さらにM2"豚の頭"と、調子にのって飛ばすだけである。難しいのはM1"Rebel Rhythm"の置きどころ。フラグメントらしい曲なので、もったいないけど、外してしまうのも可かな。でも、それじゃ物足りないか......。

 久しぶりに原稿を書いたらレヴューにならなかった。「静かな生活から騒がしい場所へ出てきて、ツラい話でも人の話を聞いたことで、むしろその次に進むことができた」という構成案です。ということは、現在の曲順で聴くと、その逆の展開になるということです。大騒ぎしてたら、やがて、いたたまれなくなって、ひとりで......(すいません)。

三田 格