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DOTAMA×USK

DOTAMA×USK

リストラクション~自主解雇のススメ

術の穴

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水越真紀   Aug 10,2012 UP
E王

 『リストラクション』は、フラグメントが主宰する〈術の穴〉からリリースされたドタマの3枚目のアルバムだ。ちなみに先月2回目を迎えた〈術の穴〉のササクレフェスティヴァルの「ササクレ」はドタマの歌詞からとられている(たぶん)。7月14日、そのフェスで見たドタマのパフォーマンスに引き込まれ、私はそのステージが終わった途端、CD売り場に向かったのだった。くたびれたスーツ姿で現れたステージで、ドタマの声は、その身体は、黒ぶち伊達眼鏡の奥の瞳は、何かに猛烈な勢いで何かに怒っていた。攻撃的な言葉やノイズを発するわけではない、むしろリリックもたたずまいもユーモラスなのに、無表情な彼の頭上で空気がいまにも発火しそうな凝縮された感情、あえて顔にも出さず言葉にもしないメッセージがずんずんと突き刺さるようにフロアに向かってきた。思いの強さと言ったらいいんだろうか......。とにかく圧倒されたのだった。

 ところで、「若者の夢」が成立しない時代が続いている。いや、学校をでて会社に入って結婚して家を買って子どもを育てて年金をもらう、なんてものが「若者の夢」だった時代なんてそもそもなかった。かつてそれは夢じゃなくて社会に求められる規定の「コース」だった。若者たちはむしろなんとかしてそこから外れて生きようとしていた。それが、言ってみればロック・カルチャーを支えた中産階級の子どもたちの渇きであり、ユース・カルチャーの存在理由みたいなものだった。もちろんそれは「いい時代」だった。若者たちのドロップアウトの夢に甘美な輝きを与えてくれた"西側先進国"で生まれ、いまではたぶん"新興国"辺りをさまよっているのだろう。そんなふうにとっくの昔に通過してしまったこの日本社会に残ったものを、ささくれ立った心で、だけど笑いながら、渇きながら、苛立ちながら、ドタマは歌っている。

 私は正直言って、世代間対立を煽る言葉に接するとき、(高齢化問題を真剣に解決しようとしない政府は政府として)若い人たちが「正社員になって結婚して子供を持つという人生」を渇望する(せざるを得ない)ことに共感できない気持ちが強かった。自分がラッキーな時代に育って来たことは十分承知しながらも「不公平感」が協調されがちなそうした言葉に距離を感じることが多かった。このことは、たとえばフリーターのデモにも出かけたことさえありながら、何年も私のなかに引っかかっていた。

 この『リストラクション』で歌われる仕事の歌は、当然ながら割りを食った時代の若者の歌だ。と言ってもいわゆる「底辺労働の悲惨」を歌っているわけではない。一流商社の、それこそ憧れの正社員の歌だってある。なんというか、このアルバムにあるのは世界が縮んでゆく感覚だ。その縮んでゆく世界になす術もなく立ちすくんでいる。
 それをもっともストレートに歌うのが1曲目の"ドリーム・パラダイム"だ。「死にたいとつぶやく20代 月給10万の30代 バブルの遺産を薪にくべ 俺は実家で難民キャンプ 怯えて願う低所得者革命 詳しくはウェブで」----ドタマのリリックは、ほんの短いフレーズで世代も時間も空間も横断して、なおかつユーモアとアイロニーと空想と現実を捉える。「正社員になって〜」が誰かの「夢」じゃないことはわかってる、話は「夢」の前で閉ざされているだけなんだ。あーだけどだけど「夢」って口に出してもいいんじゃないかと口ごもる私は能天気なオバさんなのか、そうなのか? いやそれでもいいんだが......。
 あらゆるジャンルの曲を詰め込んだiPodで勢いつける"通勤ソングに栄光を"や「一流商社」で働くサラリーマンの秘密を歌う"サイキック島耕作"、辞表提出の瞬間をやけに詳細に綴った"リストラクション"などにある、ドラマチックなストーリー性のある描写がドライだが引きつった笑いを誘い、"ドリーム・パラダイム"やとくに"好きな歌が街にあふれて"に混じり込む切なく叙情的な心象風景のささやきがアルバム全体の視界を広げる。「ささやき」と言っても実際にささやいているわけではなくて、嘆息と言ってもいいような声の先にある空気の塊のようなものだし、空気の塊と言ってもその口調に重苦しさはみじんもなく、言葉が伝わりやすい高い声は迷いなく転がっていく。

 とは言え、なくなっていくものばかりで縮んでいくばかりで、あっちにもこっちにも夢も希望もなくて、という世界は信じられないかもしれないが、いまの若者に特有のものではない。それはいつでも社会的なことでもあり、内面的なものでもあるのだ。ドタマのこのコンセプトアルバムにはそのことを含んだ上で、「現在」の世界を見ているような理知がある。前作まではフラグメントっぽいヒップホップサウンドだったが、今作はプロデュースを手がけた"ゲームボーイでテクノを作る"という、USKのサウンドがドタマの声のこの理知と叙情性の両方をよく引き出している。明るくも暗くもなく、強気ではないが弱気でもない。だからといって少しも「中間」にいるわけではなく、彼はさまざまな両極に同時にいる。なにも「夢」って言ってくれるから「共感できる」わけではない。どうしようもなく両極が見えてしまう袋小路というものが、私はあると思うけれど、彼が歌っているのはそういうものとも言えるかもしれない。そしてライヴで強さは、その袋小路を相対化してなおシニシズムの沼に沈むことのない思いの強さだったのかもしれない。

水越真紀