「Nothing」と一致するもの

Django Django - ele-king

 ホット・チップがフェンダーを掻き鳴らすギター主体の......というかベンチャーズをカヴァーしたらこうなっていたのかもしれない。実際ホット・チップは10月のギグでジャンゴ・ジャンゴを前座に迎えることになっている。ジャンゴ・ジャンゴという反復の名前を見て反射的にギャング・ギャング・ダンス(Gang Gang Dance)を思い出したのだが、ギャング・ギャングとも相容れるかもしれない程度にサイケデリックでもあるし、最近の彼らと同じく反復のリズムが据えられている。しかしそのリズムも殊更には強調されておらず、大げさに踊ることは想定されていないだろう。

 シンセサイザーやリズムマシンを用いたポップスとなるとシンセサイザーが演奏の主体になっていくのがシンセポップのバンドの常だと筆者は勝手に思っていたのだが、ジャンゴ・ジャンゴはシンセをあくまで曲の味付けとして用いており演奏の主体はギターとドラムとベースといったフィジカルな音である。そしてなによりザ・ビーチ・ボーイズ(!)を思い起こさせるヴォーカル・ハーモニーを特筆すべきか。というか、このバンドが語られる際にホット・チップの名が挙げられる傾向があるのは、エレクトロニクスを用いた音楽にザ・ビーチ・ボーイズめいたヴォーカル・ハーモニーを搭載させているからだろう。リード曲"ディフォルト(Default)"でのタイトルを連呼するエディットされたヴォーカルも"Surfin' Safari"におけるマイク・ラヴのちょっと間抜けなコーラス・ワークとよく似ている(ああ、またホット・チップとザ・ビーチ・ボーイズに触れてしまった)。もしかしたらアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)のヴォーカル・ハーモニーを思い出す人もいるかもしれない。しかし、リード・ヴォーカルが導くメロディはジョン・レノンに歌わせてもしっくりくるものがあるかもしれない。

 ロンドン出身のジャンゴ・ジャンゴだが、「ジャンゴ」が映画『続・荒野の用心棒』の主人公の名前であるように──それは初期のアップセッターズのアルバム名にもなっている──音楽(とくにリード・ギター)はなぜかとても西部劇的めいている。西部劇というよりはアメリカーナ志向は、古くからブートレグで伝わっていたがようやく昨年にオフィシャルで陽の目を見たザ・ビーチ・ボーイズ『スマイル(SMiLE)』のコンセプトと接近しようとしたものであるかもしれない。そう考えるとアルバム全体が"英雄と悪漢(Heroes And Villians)"を引き延ばそうとしたものにも思えるし、ヴィンセントのリード・ヴォーカルもその頃のブライアンのすこしだけ鼻にかかった歌声と似ている気さえする。こんなこというと本人がたいそう喜びそうだ。

 "ファイアウォーター(Firewater)"のカントリー・ブルース/ロカビリーっぽさ。ホット・チップの強烈なダンス・フロア・ソング"シェイク・ア・フィスト(Shake A Fist)"をリスナーの脳みそをふにゃふにゃにできるよう知能指数をすこし低めに設定して柔らかくカヴァーしたような"ウェイヴフォームス(Waveforms)"のビート。レッド・ツェッペリンの『III』っぽくもある"ハンド・オブ・マン"に吹くフォークの風。"ラヴズ・ダート(Love's Dart)"の背後にあるマントラのにおい、"ウォー(Wor)"の露骨にあらわされた「エレキ」の弦の感触。ひねりのないタイトル"ライフズ・ア・ビーチ(Life's A Beach)"に突如挿入されるパイプ・オルガン。タイトルから諸の"スカイズ・オーヴァー・カイロ(Skies Over Cairo)"のアラビアン・ナイト。"ドラムフォームス(Drumforms)"にある日本のバンド、Food BrainのサイケデリアとYMOのシンセサイザーの調合。これらすべてがいやらしさを感じさせないようにしかし記号的に配置されている。さまざまな過去の音楽から要素を抽出してくる感覚は例えばベスト・コーストのあからさまなリヴァイヴァルとも違うし、ホット・チップによる80年代の音楽の消化&昇華とも違うだろう。折衷というよりは、例えばジャンゴ・ジャンゴがベッドルームで見た音楽のジャーニー(旅)の(白昼)夢を具現化しようとしたもののように思える。これらの記号は、じっさい、意図的にプリコラージュされたにしてはサイケデリックだし、無意識的にしてはアーティスティックでよくできすぎている。ライナーノートにはジャンゴ・ジャンゴのリスペクトする無数のミュージシャンが羅列されているが、そこまで計算し尽くされ謀略的なサウンドのようには響かない。無邪気で愉しいアルバムだ。メンバーたちも他に仕事をもっているゆえにスローペースの活動とのことだが、どんなシーンにも左右されず、気楽にアーティスティックな作品を作ってくれることだろう。これならザ・ビートルズやザ・ヴェンチャーズしか聴かないようなおじいさんもすこしは耳を傾けてくれるかもしれない。次作はいつだ。

パブリック娘。 - ele-king

hi ele-king

「あっ、ども。はじめまして。」パブリック娘。です。
https://lyricalgarden.web.fc2.com/publickmusume/
橋元遊歩さん(原文ママ)から、THE OTOGIBANASHI'Sだけではライヴレヴューとしてなんだからと、ついでに大絶賛をいただいたラップ・グループです。
https://www.ele-king.net/review/live/002309/

1から3が清水大輔、4から6が斎藤辰也、7から10が文園太郎による選曲です。メンバー3人のうちまともにDJをしているのは文園のみですが、橋元さんへの感謝状の意も込めまして3人揃って選曲させていただきました。リストを眺めますと、目立つのはアーティスト本人によるアップロードですね。これもナウなヤングのひとつのリアルでございます。そうそう、Tokyo No Waveなるシーンが東京のライヴハウス(主に高円寺二万電圧でしょうか)で盛り上がりつつあるようですが、ぜひエレキングにも分析してもらえたら面白いに違いないと思っています。

私事になりますが、夏風邪をガツンとひいてしまい、目覚めたら39.8度なんてことが2週にわたり断続的に起きています。熱いです。ホット・チップです。みなさんのご健勝となによりご健康を心よりお祈り申し上げます。

best wishes.
tatsuya


1
moscow club - jellyfish - Bandcamp

2
ミツメ - fly me to the mars!!! - Mitsume

3
ユームラウト - マイライフ・イズ・エンド - Myspace

4
Dro Carey - Venus Knock - The Trilogy Tapes

5
Chrome Sparks - Still Sleeping (Feat. Steffaloo) - Zappruder/Bandcamp

6
kyu-shoku - New Song - Soundcloud

7
Rhymester s/w Wack Wack Rhythm Band & F.O.H - ウワサの真相 featuring F.O.H」- Ki/oon Music

8
Buddha Brand - 人間発電所(ORIGINAL '96 VERSION) - Cutting Edge

9
tengal6 - Put Ya Hands Up!? (You Know What Time Is It!? Mix) by BeatPoteto - Soundcloud

10
You The Rock - Back City Blues - Cutting Edge

Meditations Chart 2012.09.03 - ele-king

Shop Chart


1

Outer Space - II (Blast First Petite)
シンセに取り憑かれた面々によるシンセ狂のための1枚。EmeraldsのJohn ElliottによるOuter Spaceの2nd! アートワークも音の世界観も全てがコスミッシェで美しい。

2

Trouble Books & Mark McGuire - Trouble Books & Mark McGuire (p*dis / Inpartmaint Inc.)
来日の記憶も新しいMark McGuireと、Trouble Booksのフォーク/アンビエント人気作がCD化! 抜群の相性で心地良いアンビエンスをサラサラと流してくれます。コーラスも心地良い。

3

Moon B - Moon B (Self Released)
新人ベッドルーム・ファンク作家の自主カセット。SFV Acid系ユルユルな感覚と抜群のエレクトロファンクを備えた逸材!

4

Uku Kuut - Vision Of Estonia (Peoples Potential Unlimited)
ソビエト出身のファンク作家による80年代音源を収録したLP作品がPPUより。ジャズ/ファンクから滲み出る緩いアンビエンスが絶妙な、夜景/南国/リゾート/都会を思わす極上の宝石集!

5

John Cage Shock - John Cage Shock (Em Records)
出ました、Cage初来日公演の録音が解禁です! どれも破壊力抜群で、ノイズ好きに悶絶の内容になっています。このLPの他3種のCD版もあり。

6

Brenda Ray - D'Ya Hear Me! (Em Records)
新ルーツロックレゲエの名盤Walattaに続いてこのEmからは2作目。初期集となる本作は、レゲエ、ファンク、ロックと前作より幅広い層に広がるであろう逸品でしょう。

7

Eliane Radigue - Feedback Works (Alga Marghen)
仏ミニマリストEliane Radigue嬢の69年~70年制作フィードバック曲を集めた決定版。ARP系ドローンとは一味違う地響き持続音は絶品です。

8

d'Eon - LP (Hippos In Tanks)
カナダの新鋭プロデューサーd'Eon初のフルレングス。メロディもさることながら音使いが歪。ただのR&Bシンセには終わらない狂った酩酊度合いの1作!!

9

情報デスクVIRTUAL - 札幌コンテンポラリー (Beer On The Rug)
New Dreams Ltd.首謀者、米在住の女の子の最新フィジカル作。直訳日本語とセガサターンを駆使した、チル/スクリュー/ポップ/衛星放送/SNSなヴェイパーウェーヴ!

10

Celer - Lightness And Irresponsibility (Constellation Tatsu)
東京在住のアンビエント作家Celerによる2012年春の録音もの。ジャケットの桜の花そのものな、穏やかでしっとりとしたドローンを収録。

electraglide - ele-king

 フライング・ロータスと電気グルーヴとDJケンタロウと高木正勝がいっしょに出る......というこの実験的でマニアックでオープン・マインディッドで、そしてど派手なラインナップ。ソナー・サウンド・トーキョーとしても活躍するビートインクが3年ぶりのエレクトラグライド、通称エレグラを開催する。
 ビートインクといえば、いまでは〈ワープ〉や〈ニンジャ・チューン〉をはじめ〈ハイパーダブ〉などの日本でのライセンスで知られているが、実はもともと、20年前は、まだエレクトロニック・ミュージックが日本に根付く前から、〈ON-U〉や808ステイト、リー・ペリーなどのコンサートを手がけている。PAシステムに対する意識もかなり高い。ハイプ・ウィリアムスのライヴで度肝を抜いた去る6月の「ハイパーダブ・エピソード1」のときのように、豪華なラインナップばかりではなく、意地でもサウンドシステムに力を注いでくるであろう。演出にも相当気を遣ってくるだろう。
 11月23日(金曜日)、場所は幕張メッセ。スタートは夜の9時から。すでに出演者は、二回に分けられて発表されている。第一弾発表として、フライング・ロータス、スクエアプッシャー、フォー・テット、アモン・トビン、アンドリュー・ウェザオール、コード9。ビッグネームがずらりと並んだ感じだが、フライング・ロータスに関しては新作『Until the Quiet Comes』が素晴らしかったこともあって、この一本だけでも駆けつけて来る人は少なくないでしょう。
 8月末には第二弾発表として、電気グル―ヴ、DJクラッシュ、DJケンタロウ、高木正勝といった大物の名前が挙げられたばかり。9月末には最終ラインナップが明かされることになっている。
詳しくはココ→(https://www.electraglide.info/

 ちなみにele-king編集部では、当たり前の話だが、本当に、まだ何も知らない(スタッフに訊いてみたけれど、当然、口は堅い!)。なので最終ラインナップの予想をしてみる。あくまでも希望が込められた予想です。イーノ、ハドソン・モホーク、デイデラス、エイフェックス・ツイン、ローレル・ヘイロー、コーネリアス、ゴス・トラッド......あるいは裏をかいてボノボ、オウテカ、グリズリー・ベア、ダークスター、オウガ・ユー・アスホール......あるいはハイプ・ウィリアムスがまた来たりして......当たったら拍手を! はずれたら罵倒を!


11/23(金曜日/祝前日)
@幕張メッセ
OPEN / START 21:00
TICKET前売¥8,800 / 当日¥9,800
※18歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。
顔写真付き身分証明書をご持参ください。

TICKET INFO:
前売8,800YEN:9月1日より販売開始!
チケットぴあ 0570-02-9999 [https://t.pia.jp/]
(Pコード:177-607) 初日特電:0570-02-9565
ローソンチケット 0570-084-003 [https://l-tike.com/] (Lコード:72626) 初日特電:0570-084-624
e+ [https://eplus.jp]
BEATINK web [beatink.com]
(以下ABC順)
BEAMS RECORDS 03-3746-0789
DISC SHOP ZERO 03-5432-6129
DISK UNION(渋谷Club Music Shop 03-3476-2627、新宿Club Music Shop 03-5919-2422、下北沢Club Music Shop 03-5738-2971、お茶の水駅前店 03-3295-1461、池袋店 03-5956-4550、吉祥寺店 0422-20-8062、町田店 042-720-7240、横浜西口店 045-317-5022、津田沼店 047-471-1003、千葉店 043-224-6372、柏店 04-7164-1787、北浦和店 048-832-0076、立川店 042-548-5875、高田馬場店 03-6205-5454、diskUNION CLUB MUSIC ONLINE [https://diskunion.net/clubt/])
HMV(ルミネ池袋店03-3983-5501、アトレ目黒店03-5475-1040、ルミネエスト新宿店03-5269-2571、ららぽーと豊洲店03-3533-8710)
GANBAN 03-3477-5710
JET SET TOKYO 03-5452-2262
SPIRAL RECORDS 03-3498-1224
TECHNIQUE 03-5458-4143
TOWER RECORDS(渋谷店 03-3496-3661、新宿店03-5360-7811、秋葉原店03-3251-7731、横浜モアーズ店045-321-6211、池袋店03-3983-2010、吉祥寺店0422-21-4571、町田店042-710-2161、柏店04-7166-6141)
TSUTAYA(SHIBUYA TSUTAYA 03-5459-2000、代官山 蔦屋書店 03-3770-2727、
TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 03-5775-1515、三軒茶屋店 03-5431-7788)

INFO:
BEATINK 03-5768-1277 [beatink.com]
SMASH 03-3444-6751 [smash-jpn.com] [smash-mobile.com]
HOT STUFF 03-5720-9999 [www.red-hot.ne.jp]
https://www.electraglide.info/

DJ END ( B-Lines Delight / Dutty Dub Rockz ) - ele-king

何度もすいません! B-Lines Delight 2nd Anniversary Special!!!!!
No.1ダブステップ・パーティ、Back To ChillよりGOTH-TRADとENAを迎えて開催します!

B-Lines Delight×BACK TO CHILL
2012.09.29(sat) @SOUND A BASE NEST
Special Guest:GOTH-TRAD [DEEP MEDi MUSIK/Back To Chill] / ENA [IAI/Cylon/7even/HE:Digital/Horizons]
info : https://b-linesdelight.blogspot.jp/ https://club-nest.com/

そして前々週の9月16日はBack To Chill 6th BirthdayにSivariderと共に参戦します!
Back To Chill 6th Birthday!!!!
~ALL B2B SPECILAL!!!!~
2012.09.16(sun)@clubasia https://dubstep.exblog.jp/

JET SET Chart 2012.09.03 - ele-king

Shop Chart


1

Crue-l Grand Orchestra Vs Seahawks - Bon Voyage Trip (Crue-l)
Crue-l Grand Orchestra & Seahawksによるコラボ作。Crue-l Grand Orchestraの楽曲パーツをSeahawksが再構築した、話題の1枚です。

2

Orb Featuring Lee Scratch Perry - The Orbserver In The Star House (Cooking Vinyl)
アンビエント・ハウスの祖The Orbと重鎮Lee Perryによる、大御所同士のまさかのコラボ作。両者の代表作をリメイク/再録音した楽曲も収録です!!

3

Blu & Exile - Give Me My Flowers While I Can Still Smell Them (Fat Beats)
やはりこのタッグは間違いありません! Exileのソウルフルなトラック上をBluが巧みに言葉を敷き詰めていく様は圧巻です! 客演にはBlack SpadeやFashawn, Homeboy Sandman, i, Cedらが参加した全17曲。

4

Dam Funk - I Don't Wanna Be A Star! (Stones Throw)
Us版Wax Poetics第50刊のエクスクルーシブとして聴くことのできた"A Prince Mix"収録曲より、俄かに注目の集まっていたPrinceカヴァー"17 Day"までも収録!

5

Evisbeats - ひとつになるとき (Amida)
奈良県出身、大阪府在住。元韻踏合組合のラッパーでありトラックメイカー。2008年のファースト・アルバム『Amida』に続き、自身のレーベルされた2ndアルバムをLp化。

6

Crystal Ark - We Came To (Dfa)
ファットで妖しいアシッド・トラックにラテン調の女性ヴォーカル・エディットとチープなシンセ・リフが初期衝動的に絡みつく絶妙インディ・アーリー・ハウス!

7

Funkshone - Purification Pt.3 & Pt.4 Kenny Dope Remix / (Kay Dee)
1分半にも及ぶイントロはB-boyでなくとも2枚使いしたくなる最高のブレイク。最強の組み合わせによるKay Deeからの新作7"は、両面とも文句なしのキラー・チューンです!!

8

Walls - Walls Vs. Gerd Janson & Prins Thomas (Fm X)
Wallsの作品をGerd JansonとPrins Thomasのコンビがリミックスした注目作品!加えて、Wallsによるセルフ・エディットを収録。

9

John Cage - John Cage Shock (Em)
2012年はケージ生誕100年、そして初来日から50年という事で、EmとOmega Pointが共同で凄い物をリリースしました!!

10

Dj Shadow - Total Breakdown: Hidden Transmissions From The Mpc Era (Recon)
サンプリング・ミュージックの歴史を塗り変えた名作1stアルバム『Entroducing』以前の92'~96'年に制作されたという全23トラックを収録したヘッズ悶絶の2lp盤!

Maria Minerva - ele-king

 これまでマリア・ミネルヴァと勝手に読んでいたけれど、勉強不足ですいません、英語読みならミナーヴァ、ラテン語読みするなら正確にはミネルウァだそうで……ローマ神話に登場する音楽(魔術)の女神の名前の引用のこと。ミネルヴァとは俗ラテン語読みだったことをあとで知った。
 彼女が生まれ育ったエストニアの首都タリンは、今日、スカイプを生んだIT産業の成長国として、旧ソ連のなかでは貧しかった過去から一転した繁栄を遂げていることでも知られている。本名Maria Juur(マリア・ユールでいいのだろうか)は、自らのコンセプトに「負け犬」を掲げているが、母国の成長とともに育った女性なので、日本で多くに流通しているところの「負け」とは感覚が違っている。劣等感に支配された負け犬の惨めさが、彼女にはない。
 しかし、彼女が現在24歳だとしたら、24年前のタリンはそれなりにきつかったろうし、歴史を調べればそこがロシアとナチスに占拠されてきた土地であることもわかる。負け続けてきた歴史があり、そして彼女がそんな母国の文化にアイデンティファイしている話は、紙ele-kingの『vol.6』でもしている。やられ続けていた人間がいつの間にやる側に反転することはままあるが、彼女の変わらずの“前向きな”負け犬根性が注がれたアルバムは、8月も残すところ1週間というタイミングでレコード店に並んでいた。昨年の『キャバレ・シクスー』に続くセカンド・アルバム、タイトルは『ウィル・ハッピネス・ファインド・ミー?(幸福は私を見つけるか?)』。
 世間では、幸福とは自分で探すものだと教えられるが、いや違う、それは向こうからやってくるのだ、そんな言葉だ。しかもそれは、“私は発見されたくない(I Don't Wanna Be Discovered)”というアルバム3曲目のサブタイトルでもある。つまり、私は幸福なんてものにわかられたくない、と彼女は言っている。

 こうした不愉快さをにおわせるアルバム名に使いながら、ところがどっこい、『ウィル・ハッピネス・ファインド・ミー?』は、“マイクのごとき心(Heart Like A Microphone)”や“諦めるな(Never Give Up )”、“甘い相乗効果(Sweet Synergy)”や“永久機関(Perpetual Motion Machine)”、“星(The Star)”や“火(Fire)”などといった曲名のように、情熱的なニュアンスが並んでいる。“怒った少女のラヴ・ソング(Mad Girl's Love Song)”といったロマンティックな曲名の曲もあるが、これは60年代に自殺した女流詩人、シルヴィア・プラスの言葉からの引用だという(その曲は、昔の芸術界で不遇な死を遂げた女性への深い共鳴を感じさせる)。

 アルバムの内容は、前作とは比較にならないくらいに多様性を見せている。インド風のIDM=“ザ・サウンド”、メランコリックなヒップホップ=“ファイヤー”、レゲエ風=“スウィート・エナジー”、ジェフ・ミルズのミニマル・テクノをヒントにしたような曲=“パーペチュアル・モーション・マシン”、ダビーでスペイシーなポップ・ソング=“マッド・ガールズ・ラヴ・ソング”、アンビエント・ドローン的展開=“アローン・イン・アムステルダム”、エモーショナルなバラード=“ネヴァー・ギヴ・アップ”……そして、意外なことに、50年代に活躍した女性コーラス・グループ、ザ・コーデッツの“ミスター・サッドマン”(誰もが耳にしたような曲)をサンプリングしたメロウなR&B=“ザ・スター”。
 推し曲をひとつ選ぶなら、“アイ・ドント・ウォナ・ビー・ディスカヴァード”だろうか。ハンドクラップを取り入れたこのハウスは、マリアのお得意のスタイルの曲だが、いまどきの格好良さばかりではなく、今作の“情熱”を象徴するかのような力強さ、いままでの彼女にはなかったソウルがある。反響するループが瞑想的な“カミング・オブ・エイジ(成人)”などは、あたかもパティ・スミスのような語りを展開する。しかし、パティ・スミスにとってのヒーローはすべて男(ランボーからジミ・ヘンドリックス)だったが、マリアにとってのそれが女性(シクスーからプラス)であるという相違点は大きい。

 いろいろやれば良いってものではない。勇敢な挑戦が必ずしも成功するとは限らない。声はチャーミングだが、歌がうまいとは言えない。が、ともすれば移り気な新世代のラップトップ・ミュージックにも魂に訴える音楽があることをマリア・ミネルウァは証明した。しようとしている。“ハート・ライク・ア・マイクロフォン”で「私の心はマイクのようだ」と、機械で加工された声で歌う。的確なことを。「だから、まさに、それに話しかけろ(just talk into it!)」
 僕はこの曲にビョークの“オール・イズ・フル・オブ・ラヴ”を思い出したが、PCで音楽を創作するデボラ・ハリーを想像してみてくれてもいい。負け犬とは痛い人たちではなく、痛みを感じることのできる人たちのことである。

Variou Artists - ele-king

 ジョン・リーランドの、抜群に読み応えのある『ヒップ――アメリカのかっこよさの系譜学』(篠儀直子+松井領明訳)という大著に拠れば、パティ・スミスはかつてこう言ったという。「女というボディのなかでではなく、作品というボディのなかで、アーティストとしての自己主張をする必要があった」と。クールな言葉だ。

 さらに、1976年、彼女は作家のニック・トーシュに次のように語った。少々長いが、引用したい。「かたくなな女は凡庸な芸術しか生み出さない。凡庸な芸術なんかに用はない。......ポエトリー・リーディングでわたしが『プッシー(pussy)』という言葉を言うと、どこかのばか女が必ず立ち上がり、『プッシーという言葉について、あなたはどう定義しているんですか?』とかみついてくる。わかるもんですか、ただのスラングよ。プッシーと言いたくなったらそう言うだけ。ニガーと言いたくなったらそう言うし。誰かがわたしのことをすげえビッチと言ったとしたら、それもクールなこと。アメリカ人であるって、そういう言葉を使うことよ。なのに、あの堅物の運動家たちときたら、わたしたちのスラングを責め立てる。苛々するわ」。このカッコイイ発言に付け加える言葉、あるいは異論があるだろうか? 僕は、「その通りです!」と同意するしかない。

 〈ブラックスモーカー〉が初めて制作したコンピレーション・アルバム『LA NINA』は、女性アーティストの作品集である。パティ・スミスの発言に倣って言えば、ここに集結した女性たちは、作品というボディのなかでアーティストとしての自己主張を展開する豪傑な女たちだ。僕は彼女たちの音楽から、引用したパティ・スミス的なパワフルな態度を感じる。音は一様にハードコアで、彼女たちは、愛想笑いのような生ぬるい態度を一切見せない、自由奔放で、怒りたければ怒るし、嘆きたければ嘆く、笑いたければ笑う。やりたいことを貫き通す凄みと強さいうものが音からビシバシ伝わってくる気がする。

 音楽的にも、ダブやラップ、テクノやハウスといったダンス・ミュージック、ノイズや実験的な電子音楽と多彩だ。2007年のアリ・アップの来日ツアーに参加し、ドライ&ヘビーのサポート・メンバーでもあるジャー・アンナの物憂げなダブ"ILLUMINATOR"から幕を開け、その後に続くのは、〈セミニシュケイ〉のイレブンによる〈ON-U〉を彷彿させる硬質で、重厚な"Installation DUB"だ。妖しい雰囲気を演出するラテン・ジャズ風のヒップホップ"Ill sleeping blues"の黒光りのするトラックは、ヒップホップ・グループ、デレラのDJであるヨーコa.k.a.ジルによるものだ。この曲の殺気立ったラップで知られることになるであろうミチノからは、往年のダ・ブラットに通じるやんちゃな魅力を感じる。デレラからは、MCのミホ、ラッパー/シンガーのマクシーも参加している。ルミとシミ・ラボのマリア、クレプトマニアックによる"LA NINA"は、[music video] ♯1で紹介した通り、タイトル曲にふさわしい強力な一発だ。
 ラキラキ・ワズ・真保☆タイディスコの型破りな電子音楽"HIMMEL"から実験的な領域に突入するこのコンピには流れというものがある。サナエによる遊び心のある愉快なサウンド・コラージュ"48stomach to the smell of sense"のインタルードを挟んで、クレプトマニアックのスペーシーなソロ曲"GET UP W"が私たちをディープなところへ引きずりこんでいく。
 そして後半、さらに怒涛の展開が続くのだ! 原発と放射能汚染に翻弄されるこの国で鳴らされるクロスブレッド(リエ・ラムドールとマユコのユニット)の怒りのテクノ・ミュージック"stress test"から世界中を飛び回るDJ、シホ・ザ・パープルヘイズのトライバル・ハウス"gold dust flowers"へ、そして、ノイズ・ロック・バンド、タッジオのドラマー、あらきとくわまんによるユニット、コケティッシュ・マーダー・ガールズの獰猛なエレクトロニック・ミュージック"T.M.W.B.H"から関西アンダーグラウンド・シーンで異彩を放つドッドドの時空を歪めるノイズ"1999"へとなだれこんでいく。ハードにぶっ飛ばし続けて、最後の最後で、ヨーコa.k.a.ジルとマクシーのソウルフルな"he said"が柔らかい着地点を用意してくれる。

 参加アーティストによる個性的なアートワークも面白い。初回限定盤にはクレプトマニアックのアートブックレットがついてくる。
 クラブやライヴハウスの現場に多くの女性の表現者たちがいることを考えれば、『LA NINA』は時代の必然とも言える。このようなコンピが成立するということは、この背後でより多くの才能がひしめき合っているということでもある。また、本作の音にある種の一貫性があるということは、シーンらしきものが存在するということでもある。何よりもこれは、親しみやすくキュートだ。

 9月7日には西麻布の〈イレブン〉で『LA NINA』のリリース・パーティがある。スペシャル・ゲストDJはノブとヒカルで、ザ・レフティ(キラー・ボング+ジューベー)のライヴもあるが、コンピには参加していない女性DJやダンサーやVJも出演する。名前を見れば、デコレーションやフードにも気合いが入っているのがわかる。これは見逃したくない。〔『LA NINA』特設HP https://blacksmoker.net/la-nina/

Tha Blue Herb - ele-king

 人前に身をさらすミュージシャンの、それも自分は強い人間だということをことさらにアピールする(しているように見える)ヒップホップのMCの、キャリアの重ね方というのは気になるものである。同世代や上の世代の人間に噛みついてきたMCが、上の世代と呼ばれるようになったときにどうふるまうのか。そういうことに興味がある。若いままではいられない。いつまでも若いヤンキー的な価値観でモノを見つづけて、ラップをしつづけられても、果たしてそれはどうなんだ……? と思わなくもない。自分の好きなMCにはかっこいい年の取り方をしてほしいと思う。では、かっこいい年の取り方とはどういうものなのだろうか。

 MCのボス・ザ・MC(イル・ボスティーノ)とトラックメイカーのO.N.O、ライヴDJのDJダイ。この3人からなる札幌のヒップホップ・グループ、ザ・ブルーハーブはヒリヒリとした質感を覚える、研ぎ澄まされた音と言葉を放ってきた。それはストイックでハングリーなヒップホップだった。自分たちのヒップホップこそが本物だ、自分たちが信じることができるヒップホップはひとつもない、だから自分たちが本物をやる。彼らの音と言葉にはそんな思いが込められている。そう思いながら聴いていた。そして彼らはじつに理想的な4作目のアルバムを作り上げた。それがこの『トータル』だ。ボス・ザ・MCは8曲目“アンフォーギヴン”で「今は15年前とは違い/俺等をいらつかせ奮い立たせたベテランはいない」「俺等も40代になり/去っていったMCへのシンパシー/これも長距離走者の孤独の後味かい?」とラップしている。今から15年前の1997年はザ・ブルーハーブが結成された年である。キャリアを重ね、自分たちが日本のヒップホップのフィールドのなかで上の世代になったことを認めているように見える。それでいてフレッシュでポジティヴな心は失われていない。彼らはこの作品において、かっこいい年の取り方を見せてくれている。

 ボス・ザ・MCは自分の身のまわりに起きた過去の出来事を落ちついてふり返っているようにも、冷めた目で見ているようにも思えるラップを3作目『ライフ・ストーリー』では聴かせていた。ここではそれに堂々とした雰囲気が加わり、横綱相撲とでも言えそうな貫禄のあるラップを聴かせている。それでいて走り出したばかりのランナーのようにフレッシュなところもある。冷めた目で見ているところはない。過去を振り返りながらも、未来をまっすぐに見つめている。前に進んでいこうとする意思が、明るくなっていくはずだという希望が、言葉には込められている。いまの音楽シーンや日本の状況を俯瞰してみているようなリリックからは、キャリアを重ねることによって生まれたのであろう余裕みたいなものを感じる。

 そのようにして発せられた言葉は鋭い。言葉をそう響かせているのは、彼らのこれまでの作品にはなかったビートにある。それがボス・ザ・MCを新しい気持ちにさせ、ラップをフレッシュなものにしているように思える。この新しいビートは新しいものを求めて前に進んだ末に見つけたものだった。あるいは自分たちが前に進むために、自分たちの心を新鮮なものにするために必要なものだった。そんな印象を受ける。ヒップホップによくある重いビートとも違う。トラックだけを聴いたら、ヒップホップだとは思わないかもしれない。ミニマル・テクノやディープ・ミニマルあたりから引っ張ってきたような、硬いコンクリートに突き刺さりそうな、硬質で鋭利なビートが刻み込まれている。それ以外には冷たい質感のエレクトロニクスが吹き抜ける吹雪のように鳴らされているだけで、余分な装飾はまったく施されていない。

 むき出しになったビートに言葉をぶつけるように、叩きつけるように、ボス・ザ・MCはラップする。うまさや巧みさよりも、力強さが前面に押し出された無骨なラップだ。小細工はなし。そこに横綱相撲を見ているような貫禄を感じる。力強いビートと力強い言葉がぶつかり合い、ビートが言葉を、言葉がビートを加速させる。「俺達はまだまだ高く飛べる」。2曲目“ウィ・キャン…”で放たれるこのリリックが、ビートと絡み合って勢いよく弾き出されている。堂々とした姿を見せつけながら、上へ上へと上がっていこうとする、前へ前へと進んでいこうとする音と言葉がある。

 3人はルーキーとベテランの波打ち際を走っている。自分たちが上の世代と呼ばれる年齢になったことを自覚しているかのごときリリックがありながらも、ラップには若々しさがある。ヒップホップの影響下にはないビートを取り入れたトラックからは、次のステージを追い求めている姿や、新しいものに挑んでいこうとしている姿を見て取れる。1曲目“イントゥー・ロー”のドラマチックなストリングスの響きで始まるところからして、おや、これはこれまでの作品とは違うぞと予感させる。彼らはここで自分たちにとって新しいことに挑み、自分たちの心を新鮮なものにして、その新しいことを自分たちのものにしている。新しいことに挑む余裕があり、それをクリアするスキルもある。そういったところに、いいキャリアの重ね方を、いい年の取り方をしていると思わせるものがある。これはザ・ブルーハーブの4作目として申し分のない素晴らしい作品である。

Self Jupiter & Kenny Segal - ele-king

 新しい音楽は過去の音楽の集積のなかから生まれてくる。ロサンゼルスのビート・シーンのクリエイターはこのことを証明してくれている。マッドリブがそのいい例だ。マッドリブはレコード店の倉庫の片隅に置きっぱなしにされていた古いレコードからサンプリングしたかのような、粒の粗いビートと擦り切れそうな音でもって耳に新鮮に響くトラックを作る。それでもそこには、ただひたすらに時代の先端を追い求めているところはない。古き良き音楽を懐かしみ、楽しんでいるとも思える、おおらかな雰囲気が漂っている。それはビート・シーンのクリエイターが生み出す音楽の特徴でもある。ティーブストキモンスタシュローモの音楽を思い出してみよう。彼らの音楽は新しいのと同時に、古い――という言葉を飛び越える、太古の――と言ってもいいぐらいの、おおらかな雰囲気がある。もちろんジャンルの壁も飛び越えている。新しい音の向こう側には、膨大な数の過去の音楽のかげがある。

 ビルド・アン・アークやアモンコンタクトなどの活動で知られる、プロデューサー/クリエイター/DJのカルロス・ニーニョはロサンゼルスの魅力をたずねられてこう答えている。「すべての良いところは繋がっている。マッドリブがデイデラスをサンプルして、MF・ドゥームがラップするトラックのビートにしたり、ディンテルがヒップホップのトラックを作っていたり。ロサンゼルスでは素晴らしいことがいろいろ起こりつつある」。ヒップホップからエレクトロニカ、クラシックまでを取り込んだデイデラスのトラックにある音を使って、マッドリブがトラックを作り、それがMFドゥームへと渡る。エレクトロニカのクリエイターであるディンテルはヒップホップのトラックを作る。過去の音楽は誰かの手によって掘り起こされ、新しい音楽となって姿を変えて現れる。その中で異なるジャンルの音楽同士、クリエイター同士が交錯する。ロサンゼルスではそんな光景を目にすることができる。

 この作品が生まれたことも、ロサンゼルスで起こったすばらしいことのひとつである。ロサンゼルスのアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにおけるレジェンドとも言えるクルー、フリースタイル・フェローシップのMCであるセルフ・ジュピターと、プロデューサー/クリエイターのケニー・シーガルによるユニットの作品。ゲストにはノーキャンドゥやサブタイトル、アブストラクト・ルードなどのMCに加えて、シンゴ02も招かれている。彼らはここでロサンゼルスの古のアンダーグラウンド・ヒップホップと最近のロサンゼルスのビート・シーンを繋いでいる。そしてフライング・ロータスが『ロサンゼルス』や『コスモグランマ』にヒップホップのMCをひとりもフィーチャーせずに、未来に向かっていくような新しいヒップホップを提示したというのであれば、ここでは多くのMCがすばらしいラップを聴かせながら新しいヒップホップを提示している。

 フリースタイル・フェローシップはソウルフルであったり、ジャジーであったりするトラックを展開していた。そのクルーのMCのひとりであるジュピターが、この作品ではそれとはまったくと言っていいほど異なるトラックに挑んでいる。このことはロサンゼルスの人気パーティ、<ロウ・エンド・セオリー>のオーガナイズや、<アルファ・パップ>というレーベルの運営を行っているダディ・ケヴがDJハイヴ(アメリカのドラムンベースDJ)とともにはじめた、<コンクリート・ジャングル>なるパーティにおいて、フリースタイル・フェローシップのマイカ9やピースがドラムンベースのトラックでフリースタイルをした……、という話を思い起こさせる。<コンクリート・ジャングル>はドラムンベースをメインにしたパーティだという。ジュピターはマイカ9やピースとは違うフィールドで自身のスキルを解放している。異なるジャンルに身を置く者同士が交わっている。こんなところにロサンゼルスの音楽シーンに流れているのであろう開放的な空気を感じる。

 ジュピターはアブストラクト・ヒップホップとも、ビート・ミュージックとも、ダウンテンポとも思えるトラックの上に、ドスの利いた声でもって素晴らしいラップを乗せていく。ノサッジ・シングやフリー・ザ・ロボッツ、テイクあたりのロサンゼルスのビートをユルくスローにして、古いジャズやソウルのレコードから拝借したピアノや弦楽器のフレーズなんかを織り込み、ウォンキーを思わせるエレクトロニクスを絡み付けたようなトラックが並んでいる。ダブステップやジューク/フットワークで刻まれている、複雑でせわしないシャープなビートに追い抜かれていく、のっそりとしたビートがゆっくりと進んでいく。古めかしい音と新しめのビートが交錯した、古さと新しさを行ったり来たりする、特異な印象を与えるヒップホップだ。ワルくてコミカルでユーモラスな感覚もある。ジュピターとシーガルはマッドリブと同じように、時代の前に進むことだけを考えているわけではない。たまには過去にも戻りながら、ヒップホップの新しい姿を見せつけている。ゆるやかに時代を行き来する、おおらかな雰囲気がある。この音楽とフリースタイル・フェローシップのメンバーの動きは、様々な音楽とシーン、人物が混ざり合うロサンゼルスの空気を映し出している。

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