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Maria Minerva

Maria Minerva

Cabaret Cixous

Not Not Fun Records

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野田 努   Oct 11,2011 UP

 音楽的にも、そして文化的にも、今日のシンセ・ポップがたんなる"リヴァイヴァル"ではないことを証明する1枚で、まだレヴューしていないけれど性文化への揺さぶりという点では、リル・Bの『アイ・アム・ゲイ(アイム・ハッピー)』とも共振するアルバムなんじゃないかと解釈する......。
 ロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉レーベルが揺さぶりをうながすようなレーベルだ。低俗を装いながら、実験的でアーティで、ぶっ飛んでいるようで思想をほのめかす。「正解」を振りかざすような暴君から1億光年離れたところで、作品性という観点から言っても自由気ままにやっている。エストニア系のマリア・ミネルヴァ(音楽評論家の娘らしい)の音楽も、そうしたDIY音楽の今日的な自由のなかで生まれたひとつだと言えよう。

 『キャバレ・シクスー』――これはパリに「女性学センター」を立ち上げた先駆的なフェミニスト、エレーヌ・シクスーにちなんだタイトルだが、マリア・ミネルヴァは性(ジェンダー)の問題、つまり「男らしさ」「女らしさ」というこの手の変革可能な人工物の問題にを主題にしている。そして、『キャバレ・シクスー』にはタイトルが言うように、彼女のキャバレ・ヴォルテール(ポスト・パンク時代におけるダダ中毒)へのシンパシーとポスト・ライオット・ガールとしての視座、そしてポップへの情熱(アバのカヴァー)が詰まっている。
 それは彼女が『FACT』マガジンのために提供したミックスの選曲にも表れている。L.A.ヴァイパイアーズとクリス&コージー、ホアン・アトキンス(コズミックなデトロイト・テクノ)、シェ・ダミエ(セクシャルなシカゴ・ハウス)のトラックが並べられるそのミックスは、彼女の野心的な折衷主義、それから性文化への挑発と前向きさがよく出ている。
 『キャバレ・シクスー』を喩えれば、"ナグ・ナグ・ナグ"とベスト・コーストの残響音の融合、そしてファンカデリックとリー・ペリー、そしてドリーム・ポップとシカゴのゲイ・ハウスがブレンドされているようなズブズブの音で、この官能と皮肉が混じった彼女の型破りな音楽からは社会派と言われている音楽が見落としがちな自由を感じる(収録曲の"Soo High"のソフト・ポルノを用いたPVも面白い)。「居ることができる家があるというのに何故、出るの?」と、彼女はインナーで簡潔な言葉を用いてリスナーに問うている。「何故、安全な場所からわざわざ出たがるのかと、私は尋ねる。部屋に居ることができるのに、何故、こんな下世話な音楽を一晩中聴くんだろう。私の大好きな歌を聴いて下さい」
 マリア・ミネルヴァは今年〈NNF〉のサブレーベル〈100%シルク〉からも12インチ(しかもユーロビート!)を発表している。また、〈NNF〉からカセットテープでもう1枚のアルバムも出している。そっちの『Tallinn At Dawn』は、彼女の実験色がより強く出ている。

野田 努