「Nothing」と一致するもの

Battles - ele-king

 『グロス・ドロップ』に最初興奮できなかったのは、1曲目を聴いて、このメジャー2作目はハードコアの緊張感をデジタルな感性で再構築した『ミラード』の方法論の延長線上にあり、私は彼らも自己模倣と無縁でなかったのかと複雑な気持ちになったからだが、真剣に何度も聴くうちに『グロス・ドロップ』は『ミラード』の圏域に留まるというよりも、その領域の外へ向かう"ベクトル"を音で描けばこうなるのではないかと思った。反射した鏡像が無限に増殖する数列的なイメージから直線をもたないフラクタルな空間認識へ、ドラスティックなきりかえしがこの2作のあいだにあるということは、アートワークにある種象徴的にあらわれているが、それ以上にバンドにとってタイヨンダイ・ブラクストンの脱退は小さくない事件だった。私は残念ながら今回彼らに取材する機会はなかったので、ことの次第はメディアの伝えることで知るに過ぎないが、メンバーがひとり欠ければバンドの力関係は決定的に変わる。バトルズのように(ほとんど)主従関係をもたない、グループ全体の運動そのものを音楽に転化するスタイルではなおさらで、イアンもジョンもデイヴも途方にくれたにちがいない。しかし私は思うのだが、半分以上作業が進み、完成形が見えた作品を放棄し、いちから作り直すことこそ、モノを作る人間の生き甲斐である。制作過程という、いちばん濃密な空気に戻ることができるからだ。そのとき、発表するあてのない作品は彼らだけのものになり、彼らはこのメジャー1.5作目ともいえる音源をのりこえるべく、3人のバトルズとして作業を再開することになった。

 その結果できた『グロス・ドロップ』の第一印象は先に書いた。書き忘れたが1曲目の曲名は"Africastle"という。アフリカとキャッスル(城)を組み合わせた造語だが、アフリカを思わせるところはほとんどないストレートなリズム・ストラクチャーを時間軸に沿って提示する。ところが嵐のような曲調が嵐のように去った後の後半のノンビート部分で曲調はだしぬけにファニーになり、それが2曲目の"Ice Cream"へのブリッジになる。"Ice Cream"はタイヨンダイのヴォコーダー・ヴォイスが印象的だった『ミラード』のシングル曲"Atlas"に対応していて、彼の不在を埋めるようにこの曲では客演に招いた〈Kompakt〉のチリ人、マティアス・アグアーヨの歌声を加工し、"Atlas"路線を伸張しているが、"Africastle"よりこっちの方がアフリカといわないまでもファンキーである。アウトロなどデイヴィッド・モスがドゥーワップをやってるみたいだと書くと苦笑されそうだが、この2曲で例示するまでもなく、『グロス・ドロップ』では各曲のモチーフが他の曲で微妙に変化し反復される。"Futura"と"Inchworm"のリズムの表裏――それが音楽の南と北の関係を暗示するのはいうまでもない――、"Wall Street"のせわしない情景描写とかつて「知っているのは 君と機械のことだけ」("Engineers")と歌ったゲイリー・ニューマンに歌わせた"My Machine"の文明批評......『グロス・ドロップ』の前半はアルバム全体を鏡像のように反転させた『ミラード』(あるいはそのプロトタイプとしてのEPシリーズ)のガッチリした構築性とはちがう、有機的なつながりをもつ。というか、楽曲そのものがシンコペートさせることでプログレ風の組曲形式と似て非なる、ある種の即興音楽に通ずる対話がそこでは行われているだけど、スティールパンを思わせるギターの音色とハンドクラップが跳ねる7曲目の"Dominican Fade"でバトルズの問答はロックからワールドミュージックに意図的に逸れはじめる。もちろんそれはオーソライズされたワールドミュージックではなく、皮膚感覚を頼りにしており、必然的にエキゾチシズムと無縁ではない。ブロンド・レッド・ヘッドのカズ・マキノとボアダムスのEYEの参加をエキゾチシズムとみなすのは異論があるかもしれないが、外国との障壁がほとんどなくなったいまでも、いや、だからこそ、海外のシーンに影響を与えつづけるふたりの日本的な身体性ないしは訛のようなものは『グロス・ドロップ』の"揺らぎ"を象徴するものとして逆説的に浮上せざるを得ない。

 バトルズとボアダムスというオルタナティヴ・シーンの両極による幕引きの"Sundome"のトロピカ/リズムとでもいいたくなるメカニカルな祝祭性はトリオ編成になったバトルズが重から軽へ、暗から明へきりかわったことを意味するだけでなく、リズム・アプローチで行き詰まったダンスミュージックとしてのロックがポスト・ダブステップとかJUKEとか、ここしばらくのビートミュージックと拮抗するグルーヴをもちはじめたいち例であるといってもいいすぎではない。

Chart by JET SET 2011.04.18 - ele-king

Shop Chart


1

CALM

CALM MELLOWDIES FOR MEMORIES...ESSENTIAL SONGS OF CALM »COMMENT GET MUSIC
りすぐりの楽曲からエクスクルーシヴ・ナンバーまで全10曲を収めた珠玉のベスト・アルバム!Calmとして14年活動し、自身が一度キャリアを総括するべく、ベスト・アルバムをリリース ! コンパイルを担当するのは、中村智昭 (Musicaanossa)。

2

GATTO FRITTO

GATTO FRITTO S.T. »COMMENT GET MUSIC
毎度爆発的人気を誇るウルグアイ・レーベルInternational Feelより、昨年のカルト・ヒット作"Illuminations"で鮮烈なデビューを飾った"Hungry Ghost"の片割れ、Gatto Frittoによる1stアルバム。500枚限定&重量盤2枚組。

3

SBTRKT

SBTRKT LIVING LIKE I DO »COMMENT GET MUSIC
覆面トライバルUKベース天才Sbtrktが、The XXのFour Tetリミックスのヒットも記憶に新しいYoung Turksからぶっ放すボムがこちら!!

4

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN EDITS VOL.3 »COMMENT GET MUSIC
遂に名門G.A.M.M.にもフックアップされたトルコ出身のプロデューサーOnur Enginですが、やっぱり今回も良いです!

5

FLYING LOTUS

FLYING LOTUS COSMOGRAMMA ALT TAKES »COMMENT GET MUSIC
Cosmogrammaのアウトテイク集がヴァイナル化されました!!

6

FRANKLIN THOMPSON

FRANKLIN THOMPSON ANNIVERSARY »COMMENT GET MUSIC
Dam-Funk~PPUファン直撃、Stones Throwが発掘した80'sエレクトロ・シンガー!!『Planetjumper EP』が好評だったFranklin Thompson、今回はスウィートな80'sディスコ・ナンバーです!!

7

CARIBOU

CARIBOU SWIM (REMIXES) »COMMENT GET MUSIC
Motor City Drum Ensemble、Gold Pandaによるリミックス!!

8

STEVE REICH / KIRA NERIS

STEVE REICH / KIRA NERIS VAKULA REMIXES »COMMENT GET MUSIC
ミニマル・ミュージック代表者による'09年に初演された作品"2x5"(ギター2本、ベース1本、ドラムス1台、ピアノ1台の合計5つの楽器が2セットに由来)のウクライナ出身の気鋭Vakulaによるハウス・リミックス。完全初回限定の180gクリア・ヴァイナル仕様!!

9

SKYLEVEL

SKYLEVEL SKYLVEVEL 02 »COMMENT GET MUSIC
いまだ謎多きSkylevelに加えて今回はRush Hourからの傑作リリースでお馴染みのNebraskaが参戦。めちゃ最高なカットアップ・ジャズファンク・ディスコを提供してます!!

10

MURCOF

MURCOF LA SANGRE ILUMINADA »COMMENT GET MUSIC
メキシコの音響作家による美麗アンビエント傑作アルバム!!UK名門Leafからのリリースでお馴染み、映画音楽も手掛けるメキシカン・エレクトロニカ/ミニマル・ハウス・シーンの天才が絶好調Infineから初登場リリースです!!

Chart by JAPONICA 2011.04.18 - ele-king

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1

THE PHENOMENAL HANDCLAP BAND

THE PHENOMENAL HANDCLAP BAND TEARS /15-20 (REMIXES) TUMMY TOUCH / US / 2011/4/12 »COMMENT GET MUSIC
NYの名だたる気鋭ミュージシャンが集結したスペシャル・バンドTHE PHENOMENAL HANDCLAP BANDのリミックスCDアルバムからのヴァイナル・カットEP。注目は"生"の躍動感溢れるハンドクラップ・グルーヴにギター/シタール等がエキゾチックな演出を施しつつトライバル・ダビーなサイケ・ダンス・リミックスへと仕上がったLEE DOUGLAS & LOVEFINGERSによるプロジェクトSTALLIONSによるA面"TEARS"リミックス!フロアの温度グッと上げること請け合いの高揚感溢れる好リミックスです。

2

DOG EAT DOG

DOG EAT DOG DOG EAT DOG CLAREMONT 56 / UK / 2011/4/5 »COMMENT GET MUSIC
80年代初頭、ポストパンク~ノーウェーヴ・シーン真っ只中のニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで活動していたDOG EAT DOG(90年代の同名のミクスチャーバンドとは無関係)なるバンドのライブレコーディング集。1981~1983の3年間の活動で、一枚の作品も残さなかったにもかかわらず、ESG、LIQUIDLIQUIDらとも共演し、当時のシーンの一端を担っていたDOG EAT DOGの初音源となる作品。さらに、ジャケットはキースへリングによるオリジナル・アートワーク!

3

NABOWA

NABOWA SUN E.P. MOGIE / JPN / 2011/3/31 »COMMENT GET MUSIC
初となるシングル作「SUN」が遂にリリース!西日本最大級のミュージックフェスティバル「SUNSET LIVE 2010」のオフィシャルソングとして使用され、ライブでも人気急上昇中の痛快疾走ナンバー「SUN」!昨年時計ブランドCITIZEN"ATTESA" のPV に抜擢され、リリースが待ち望まれていた「tick tick away」を収録した話題作!※このCDの売り上げの一部を日本赤十字社を通し、東北地方太平洋沖地震の被災地の方々へ寄付いたします。

4

PEABODY & SHERMAN

PEABODY & SHERMAN ALL YOUR BASS ARE BELONG TO US SUPER BRO / US / 2011/4/10 »COMMENT GET MUSIC
<BASTARD JAZZ>、<ZZK>の人気レーベル両雄もリミックス参加のA面もさることながら、、実は本盤オリジナルのB面がすこぶる良いんです。土着的な声ネタ/ホーン・サンプルを散りばめつつ心地よいグルーヴでループするエスニック・ブレイクスのB-1、カリブ~クンビア臭を漂わせるミッド・グルーヴ・ ブレイクスB-2、そしてエキゾチック・ダブなダウンビーツ・トラックB-3のDJ感覚にピタリとハマるバランス良いナイスすぎるブレイクビー ツ・トラック×3!

5

TERRAS

TERRAS TERRAS JAPONICA / JPN / 2011/3/23 »COMMENT GET MUSIC
90年代初頭ハードコア/ミクスチャー・バンドとして絶大な人気を誇ったRise>From the Deadのベーシストに10代で抜擢、その後、京都を代表するバンドSOFTにサックスで加入、イギリスへ渡りソロとして活動、Love Streams agnes b.プロダクションの映画『Elvis Pelvis』のサントラを手がけるなど多岐に渡り活動しているマルチ・リード奏者'Yang Bo'ことShoheiKawamotoが20年近く積み重ねてきた多彩な活動を経てたどり着いたニュープロジェクト。所謂ジャズ・バンドとは程遠い個性 派バンドで活躍するミュージシャンが奏でる「印象派ジャズ・ポエトリー」。

6

BLACK COW

BLACK COW CENTURY 22 (DJ N.I.J. EDIT) / SMILING KUNGFUSHI BLACK COW / JPN / 2011/4/12 »COMMENT GET MUSIC
「DJ」のための現場重視型エディット・レーベル<BLACK COW>第5弾!A面には某人気ヒップホップ・グループのDJが"自分が現場でDJプレイしたい"という一心でロング・エディットを施したという、疾走するドラム・グルーヴにエフェクトがかったコーラス・ワークがグッと交わりテンション掻き立てるキラー・ファンク・チューン"CENTURY 22"を、そしてB面にはフュージョン・エッセンスも香るメロウネスなソウルフル・ダウンテンポ"SMILING KUNGFUSHI"を収録。

7

TODD TERJE

TODD TERJE RAGYSH RUNNING BACK / GER / 2011/4/10 »COMMENT GET MUSIC
北欧のリエディット・マスターが待望となる久々のオリジナル・プロダクション!SE溝の"INTRO"に始まり、ミニマルに攻め立てる肉厚インスト・ブギー・ファンクな"RAGYSH"、これぞ北欧ディスコ!なメランコリックなメロが舞うシンセ・ブギー"SNOOZE 4 LOVE"、そして小気味良いパーカッシヴ・グルーヴにSEの嵐を通過しグルグルとピッチ変化するマジカル・トラック"BONYSH"のマスト過ぎる内容!

8

TWICE

TWICE BLACK AROMA EP VOL.1 BLEND IT! / FRA / 2011/4/10 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!スロウジャム~ニュー・ソウル、ディスコと、ハイセンスなマッシュアップ/エディットを手掛ける謎のクリエイターTWICEによる4ト ラックスEP!

9

ナカムライタル

ナカムライタル LOST TAPES OUTPUT / JPN / 2011/3/27 »COMMENT GET MUSIC
京都が誇る最重要パーティー「OUTPUT」首謀者ナカムライタルが待望の初ミックス作品をリリース!マスタリングに盟友KND、アートワークは SHOJI GOTO、と「OUTPUT」所縁の面々と共に創り上げた渾身の一枚。

10

L'ORCHESTRE KANAGA DE MOPTI

L'ORCHESTRE KANAGA DE MOPTI KANAGA DE MOPTI KINDRED SPIRITS / NL / 2011/4/10 »COMMENT GET MUSIC
マリの国営レーベル<MALI KUNKAN>に残されたL'ORCHESTRE KANAGA DE MOPTIなるグループによる77年産のレア音源リイシュー。エキゾチック度高めな流麗アフリカン・ヴォーカル・ナンバー~激烈パーカッシヴ・グルーヴに ダビーな掛け声も入り混じる祝祭アフロ・ファンク、アフリカンAOR的ブルージーなギター語り弾き(!?)ナンバーまで、中近東/カリブの音楽性 もどことなく感じられる豊潤な音楽土壌が培われていたと思われるマリ産特上アフリカン・ミュージック傑作盤!

Grimes - ele-king

 ダブステップの展開の途上で、いつしかビートのないものが生まれてくるようになった、という話を聞いて感心したことがある。ひとつのジャンルがジャンルとして成熟し先鋭化していくなかで、その根本の要素がそっくり無になる......これは非常におもしろい現象であり、真理だ。ビートを突き詰めたらビートがなくなってしまった、と。それは本当に無になってしまったというよりは、過度に徹底された結果の姿であって、いわば「ひとつの究極」。むかし「エロ単語しりとり」というものが仲間内で流行ったが、エロ概念がいつしか先鋭化し、「松」や「峰」などといった、一見どこがエロいのかわからない単語へと変化していったものだ。それはともかく、いまチルウェイヴもまたひとつの極点へと向かっているように見える。

 グライムスことクレール・ブーシェは、まだ20歳そこそこの女性アーティストだが、ウィッチ・ハウスがハウ・トゥ・ドレス・ウェルのつづきをやろうとするような、玄妙にしてエッジイな音楽を作っている。本作はデビュー・フルとなる作品で、発表自体は昨年のものだが、ジャケットを改めたEU盤がこの3月に〈ロー・レコーディングス〉よりリリース、さざ波のように彼女の名が広がりつつある。本人は自らの音を「ゴス・ポップ」と呼んでいるらしいが、たしかにエズベン・アンド・ザ・ウィッチやゾーラ・ジーザスなど、ゴシックなニュアンスのシンセ・ポップが基調となったアルバムだ。

 しかしたとえば"ワーギルド"や"ラーシック"などのもつれるようなリズムとゴーストリーな音像には、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(以下、HTDW)がそうであるように、なんらかの趣味性の中に回収されてしまうことを拒絶した結果が焼き付けられているように思う。ゴシックという世界観や趣味性に安住する音だとはとても思われない。HTDWには「愛」をめぐる沈思と黙考の姿勢があった。グライムスは正直なところよくわからない。曲のタイトルからしてめちゃくちゃで何を言っているのか判然とせず、聴き手を攪乱するいたずらなフェアリーといった趣もあれば、曲の真意や自分自身の心など誰にも見せないという拒絶のサインであるようにも感じられる。しかし他者からの干渉を避け、純粋に自らの思索に没入したい、両者の奥深くにはそうしたモチベーションがあるのではないか。奥へ、底へ、もっと深くへ。ベッドルームに立てこもり、まどろむようにリヴァービーなローファイ・シンセ・ポップを張り巡らせたチルウェイヴは、さらにドアの反対方向へと歩みを進めているようだ。ローファイとはいえドリーミーな心地よさから決して逸脱しないというのがチルウェイヴの流儀に見えたが、HTDWやグライムスはコンプのかけ過ぎで音が壊れてしまっている。意味的にも音的にも、彼らはバリアを増強しすぎてバリアを破る存在になりつつあるのかもしれない。冒頭の"アウター"のリヴァービーなキック音は、まさに雑音だらけのこの世の外(ほか)へと退出せんとする宣言のようにも聴こえてくる。チルではなく、キルするようにあたりをはらう迫力がある。ドアを閉ざし、彼らは別のドアを開けることになるのかもしれない。

 彼女にはまた、ジュリアナ・バーウィックのような実験性もある。バーウィックほど過激ではないにしろ、"サグラド"や"ワールド・プリンセス"で試みられているのは、自らの声の可能性を押し広げることだ。教会音楽的な和声や音の伸張が、無表情なビートに伴われてスタイリッシュに展開されている。いっぽうにギャング・ギャング・ダンス、あるいはハイ・プレイシズとも比較できるトライバリズムがあり、両者がエキセントリックな対比をみせているのもおもしろい。ミステリアスだが、凛々しく意欲的な作品だと思う。こうした方法に触発され、2010年代は女性の一人ユニットが撩乱となる10年になってほしいと思っている。

Egyptrixx - ele-king

 中東動乱も相変わらずヒート・アップしているようだけれど、エジプトで最初に騒動が持ち上がったときにヴィンセント・ラジオで(多少悪乗りも自覚しつつ)"エヴリバディ・ブリーディング(全員流血)"をかけたデヴィッド・サッカのフル・アルバムが完成(MP3でのリリースをカウントするとこれでセカンド・アルバム)。トロント在住でエジプトのトリックを名乗るUKファンキーのホープといえる逸材。アイコニカのリミックスを含む「ジ・オンリー・ウェイ・アップEP」やアアア!リアル・モンスターズからの「バトル・フォー・ノース・アメリカ」といった先行リリースからの採録は1曲もなく、シンセサイザーのタコ踊りが楽しい"エヴリバディ・ブリーディング"はいまだとダブステップとシカゴ・アシッドを横断させたドロップ・ザ・ライムのミックスCD『ファブリックライヴ53』にリスティングされている。

 聖書に目があるというタイトルはちとコワい。あちこちのホテルの部屋に置いてある聖書が監視カメラに思えてくる。聖書とエジプトといえばフロイトの......ま、いっか。シンセサイザーが自在に躍る陽気なダブステップといったシングルの路線をさらに増幅させた前半から中盤までの展開はどれも期待通りの出来で、あっさりとガラージに落とし込まれたタイトル曲や寸止めの幸福感が繰り返される"ナポリ"などイメージの豊かさにまずは圧倒される。昨年末にリリースされた〈ナイト・スラッグス〉のレーベル・コンピレイションにも収録されていた"リベレイション・フロント"(Kをつければザ・KLF)はシカゴ・アシッドをまったく違う角度から構築し直したような曲で、どこかリッチー・ホウティンを彷彿とさせつつ淡々とした狂気に埋没させてくれる。これはいい。『ナイト・スラッグス・オールスターズ』でもベスト・トラックだと思っていたけど......やはりいい。マヤ・ポステップスキーらのトラストをヴォーカルにフィーチャーした2曲もなかなか効果的。

 全体のイントロダクションやサイドCのオープニングとなる"ルークス・テーマ"をひとつの予感として、サイドDは全体に暗く、重い雰囲気に包まれた別世界へと突き進んでいく。ここで僕は完全にやられてしまった。ここに至るまでの流れをばっさりと否定してしまうかと思うほど内向的で、ダブステップに対する誤解があるとしかいえない展開なのに、暗さのなかに散りばめられた光の乱舞やネガティヴであることも楽しんでいるかのような乱暴さがそれを補って余りあり、さらにフリーキーな展開を恐れない"ベアリー"が止めを刺してくる。"ベアリー"は本当に強力である。アンダーグラウンド・レジスタンスがガラージ・ハウスの定義を書き換えたかのように聴こえる。"パニッシャー"をラリー・ハードがリメイクしたという喩えはどうだろうか...って、なんだか野田努のような文章になってしまった。そして、すべての集大成といえるエンディングへと雪崩れ込む。前半の持ち味と後半のダイナミックスが最後に来て完全に溶け合ってしまう。あー、カッコいい。これ以上、原稿なんか書いている場合じゃない......。
 とてもエレガントなベース・ミュージックの誕生である。ブラボー! コマツ!

2562 - ele-king

 1曲目"ウィナンプ・メロドラマ(Winamp Melodrama)"が圧巻。チョップド・ドラムの派手な展開、さりげないヴォコーダー。プラスティックマン並みのミニマリズム(最小限)の構成であり ながら、やたらドラマティック、あるいは、昨年ダンスフロアを沸かせたUKファンキーのヒット曲、ジョーの"クラップトラップ"のエレクトロ・ヴァージョンとでも言えばいいの か、これは間違いなくDJに好まれるトラックだ。というか、もう使っているDJも少なくないんじゃないかな。デイヴ・ユイスマンの「踊らせたるぜー」とい う気合いが鮮やかなカタチで具現化している。2008年、デビュー・アルバム『エアリアル』によってベルリン・ミニマルとクロイドンのダブステップの溝を 埋めたオランダ人は、翌年のセカンド・アルバム『アンバランス』でデトロイト・テクノに接近すると、2年ぶりとなるサード・アルバム『フィーヴァー』では マントロニクスやクラフトワークのエレクトロを訪ねている。オールドスクール・エレクトロが鳴り響く、ディスコのダンスフロアに目を向けている。それがア ルバム・タイトル『フィーヴァー』の意味するところであろう。
 要するに......これはジョイ・オービソンのような4/4 キックドラムのダブステップのさらにその先を目指している音楽だとも言える。アルバムに収録されたすべての曲でそれが成功しているかどうかはともかく、少なくもと彼は挑戦して、新しい一歩を踏み出そうとしている。

 『フィーヴァー』のベスト・トラックは間違いなく"ウィナンプ・メロドラマ"だが、2曲目の"チーター"にもがっつりと身体を揺さぶられる。ここではハンドクラップを効果的に......というかほとんどキックドラムとハンドクラップでビートを組み立てている。言ってしまえばUKファンキーのテクノ的な展開だが、この人のセンスの良さによって素晴らしいトラックになっている。
 "ジャックスタポーズ"のような、マントロニクスめいた(つまりオールドスクール・エレクトロな)ディスコ・トラックも魅力的だ。"アクアティック・ファミリー・アフェア"のように、アンダーグラウンド・レジスタンスのダークなファンクを彷彿させるトラックもあるし、"インターミッション"や"ウェストランド"、そしてタイトル・トラック"フィーヴァー"には、『アンバランス』から続く彼の、カール・クレイグにも似たシュールなフィーリングが展開されている。
 また、"ブラジル・デッドウォーカー"や"ディス・イズ・ハードコア"、また"ファイナル・フレンジー"といったトラックは彼の故郷がテクノとハウスにあることを激しく主張している。このアルバムにおける熱量の高さがストレートに出ているトラックでもある。
 『フィーヴァー』はパワフルなダンス・アルバムである。2562は、いま彼のキャリアにおいてピークに向かっているのではないだろうか。

[tUnE-yArDs] - ele-king

 2011年、すでに何人かの素晴らしい女性ミュージシャンが登場している。本サイトでも何枚か紹介している。しかし、チューン・ヤーズを名乗る、カリフォルニアのメリル・ガーバスはあまりにも圧倒的。5月にセカンド・アルバム『WHOKLII(フーキル)』がリリースされるが、彼女の音楽を聴いているとニーナ・シモンとアリ・アップとM.I.A.が幸せに踊っているような錯覚に陥る。パワフルで、エネルギッシュで、とにかく元気だ。
 まずはこれを見て、チューン・ヤーズの爆弾のようなアルバムを待とう!

R.E.M. - ele-king

 このあいだ『ピッチフォーク』で生中継のストリーミングがされた、LCDサウンドシステムのラスト・ライヴを観て僕は案の定ボロボロとパソコンの前で泣いていたのだけれど、それは実に見事な幕引きであった。ジェームズ・マーフィは自分のやってきたことにけじめをつけるものとしてそのライヴを「葬式」だと表現していたが、キャリアを網羅する3時間40分で彼は音楽仲間を総動員して自分たちが投げかけてきた音と言葉をすべて出し切るかのようだった。「最後の一曲だよ」と言って"ニューヨーク、アイ・ラヴ・ユー・バット・ユア・ブリンギング・ミー・ダウン"が演奏されると、ジェームズは自分が信じてきたものへの失意と迷いを歌い、そして、「もしそうなら、この歌があるよ」という言葉でそのバンドを終わらせたのだった。それを僕たちに伝えることこそが、自分の役目だったと言わんばかりだった。

 LCDのそのライヴを観終えて、そしてこのR.E.M.の通算15作目となる新作『コラプス・イントゥ・ナウ』を聴いて、R.E.M.は自分たちのバンドの終わらせ方は見えているのだろうか......と僕はふと思った。もちろん、長きに渡ってアメリカのロック・バンドのひとつの指標であり続けた彼らに終わってほしい、ということでは断じてない。80年代から90年代頭にかけてのもっとも勢いがあったときの彼らをリアルタイムで知らない僕ですら、後追いで聴いていくうちにアメリカの数多くのバンドのなかに彼らの影響があることを感じ取ることができたぐらいだから、その功績は計り知れないものがある。リベラルな立場でつねにその時代に起こっていることを見据えながら、しかしそのことを詩的な言葉とパンクが根幹にあるしなやかなサウンドで表現してきたアメリカの知性がR.E.M.である。しかも、それが退屈な誠実さにはならない独特のシニカルさやニヒルさを彼らは備えていたし、かと言ってときには"エヴリバディ・ハーツ"のような言ってしまえば大衆的なアンセムを歌うことからも逃げなかった。それは海を越えてレディオヘッドのようなバンドにも引き継がれたし、アメリカではザ・ナショナルのようなバンドにいまもきちんと息づいている。
 ただ、その責任感の強さからなのか、ここ10年ほどR.E.M.は自分たちの役割を負いすぎるようなところがあったようにも思う。2000年代は彼らにとってブッシュ政権下のアメリカのなかで、しかしそのことに強い違和感を覚えるアメリカ人として、どのような表現が可能かということに挑んでいた時期だった。だから〈VOTE FOR CHANGE〉ではその先頭に立ったし、それでも2004 年ブッシュが再選されるとニューヨークで「これは世界の終わりだけど、僕はだいじょうぶ」と歌い、リスナーを奮い立たせた。だが2005年の『アラウンド・ザ・サン』は如実にその落胆が反映された重々しいアルバムであったし、その反動となった2008年の『アクセラレイト』は怒りとシニカルさに覆われたパンク・アルバムとなった......それらは、かつての彼の作品群にあったような軽やかさを見つけにくいものであった。長いキャリアのなかで背負ってきたものを、彼らはいつしか下ろすことができなくなっていたのかもしれない。

 『コラプス・イントゥ・ナウ』は政権交代後のはじめてのアルバムで、その分風通しの良さを感じるアルバムである。"ディスカヴァラー"は視界が開けていくような鮮やかなオープニングだし、"オール・ザ・ベスト"や"マイン・スメル・ライク・ハニー"のようなロックンロール・チューンはいまもスマートな体型とファッション・センスを保ったマイケル・スタイプのカッコ良さをはっきりと示している。"ウーバーリン"は名曲"ルージング・マイ・レリジョン"を思い起こさせ、ピーチズとのデュエットもキマってるし、パティ・スミスやエディ・ヴェダーのような盟友の参加もファンなら納得だろう。
 だが、これもまたR.E.M.が自分たちがずっと求められてきたことに対して、きっちりと応えたアルバムであるように聞こえる。とてもバランスの取れた内容の充実作だが、かえって彼らがいまいる場所が見えにくい。自分たちで、世間がイメージするR.E.M.像に忠実に寄り添っているような感じなのである。責任を果たすこととそこから離れることで揺れている......15作目にして、「過渡期の」と形容したくなるアルバムである。

 これまでのキャリアでR.E.M.はその役割を十分果たしてきたが、しかし不思議なことにバンドは完結することなく、いまも自分たちのあり方を模索しながら存続する道を選び続けている。このアルバムに伴うツアーをやらないという選択も、ルーティンのような活動からはいったん距離を置きたいということなのかもしれない。だからこそ音源ではもっと冒険しても良かったと僕は思いもするが、そんな風にして地道に前進し続ける姿もこのバンドらしい。
 だからここからも、R.E.M.の大成はまだ感じ取れないし、その終わり方も見えてこない。ジェームズ・マーフィのような誠実さとも、また違うものを目指しているのだろう。かつて「世界でもっとも重要なロック・バンド」と呼ばれていた彼らは、もうさすがにその場所からは降りてしまったが、まだ自分たちがやるべきことを探し続けている。それはいまもR.E.M.が、オルタナティヴであることの理想を捨てていないということである。

OKI - ele-king

●OKI DUB AINU BAND Presents
『Himalayan Dub~Mixed by OKI vs 内田直之~』
CD発売記念ツアー・ファイナル
4月15日(金) 会場:渋谷 CLUB QUATTRO 開場:19:00 / 開演:20:00
ゲスト: LITTLE TEMPO
チケット:前売¥3,800 (ドリンク別)当日¥4,300 (ドリンク別)
お問い合わせ: 
SMASH: TEL:03-3444-6751 https://smash-jpn.com 

●OKI x 一十三十一 x U-zhaan
アイヌのトンコリ、インドのタブラ、という伝統楽器が生むグルーヴ+、女性ヴォーカル。
新たなるユニットの始動!?初Live緊急決定!!
5月21日(土) 会場:西麻布「新世界」 開場:17:00 / 開演:18:00
前売り予約3000円(ドリンク別)/当日券3500円(ドリンク別)※限定100人※
〔前売チケット予約・お問い合わせ先〕西麻布「新世界 」 
tel: 03-5772-6767 (15:00~19:00) https://shinsekai9.jp/

DUB Chart


1
Israel tafari (same song dub)

2
Bunny Lee - Rasta Dub '76

3
Jammy , Crucial Bunny - Fatman Dub Contest

4
Revorutionaries - Jonkanoo Dub

5
Scientist - Scientific Dub

6
Augustus Pablo - King Tubby Meets Rockers in Firehouse

7
Sly & Robby - Gamblers Choice

8
Augustus Pablo - Original Rockers

9
Lee Perry - Super Ape

10
Joe Gibbs - African Dub All-Mighty

Contribution - ele-king

 2011年3月11日、東北関東大震災によって僕たちを取り巻く状況は一変した。多くの人命が失われたのはもちろん、生き残った人たちにも、以前の生活を取り戻すこと、物資や燃料の確保、家族の捜索、放射能との不本意な共存...、あるいは、的確な情報を選びとることも大事だし、生き延びた後ろめたさや、何かしたいが何もできない自分にいかに折り合いをつけるか......といった課題が残されている。
 僕の住む街は岩手県の沿岸に位置しているのだが、線路や家屋や船舶は津波によって破壊されたものの、人的被害はゼロだったことは奇跡と言っていいだろう。月並みだが生きていることに感謝したし、相撲の八百長やカンニングで騒いでいた頃がいかに平和だったか思い知った。被災した人たちには本当にかける言葉がない。ただ、無事と健康を祈らせていただくばかりである。戦後最悪の災害となったわけだが、ここで得られた経験は永遠に重宝されていくだろう。そうでなければ死んだ人たちが浮かばれない。

 地震の日の朝、僕はドアーズの『ストレンジ・デイズ』を聴きながら仕事に行った。14時46分、地震と同時に職場の電気は止まり、自家発電に切り替わった。「漁港が浸水した」などといった情報が飛び交い、あたりは混乱した。僕は恐怖したというよりも、あまりの事態の性急さに呆然としてしまった。災害用の毛布の運び出しを手伝っているときも、心ここにあらずといった感覚だった。2001年の9.11のときのような、一瞬で海の向こうのすさまじい情報量を受け取ったスピード感はそこにはなかった。地震直後は、何もかもが遮断されてしまったからだ。
 帰り道、僕の住む町は不気味に様相を変えていた。すべての家からは灯りが消え、普段使っている道路は津波を警戒して封鎖されていた。活動的な雰囲気が消え失せ、僕の見た世界は静まり返って淡々としていた。カーステレオから流れるジム・モリソンの歌が妙に暗示的だった。

不思議な日々が俺たちを捕らえた
不思議な日々が俺たちを追い詰めた
俺たちのちょっとした歓びを壊そうとしている"ストレンジ・デイズ"

 他者、あるいは人間という存在に言及した歌詞だが、そのときの僕にはなんだか預言めいた響きに感じられた。作り話ではない。実話である。
 僕の主な被災体験は、停電生活である。震災当日の夜から、発電機や薪ストーブ、同じく薪で沸かす風呂といった設備が使える祖父の家に身を寄せた。海岸付近に住む人びとは家を津波で破壊され避難生活を強いられたが、それを考えるとこのような恵まれた環境に自分がいたことをまずは感謝せねばなるまい。食べ物もあった。しかし発電機に使う軽油は限られていたし、毎晩余震に起こされ、錯綜する情報を一方的につきつけられるのは、(僕の住む地域は電気の復旧がかなり遅れたこともあって)なかなか堪えた。だが家族といる時間が増えたし、祖父母や叔父と普段はしないような話をした。そのことが単純に良かったとは言わないが、久しぶりに人の営みというものを感じた気がした。
 音楽を聴けるのも通勤の車内だけになってしまった(ちなみに祖父の家と僕の家はかなり近く、CDだけ取りに行くという芸当ができた......なんたる幸運)。そのあたりに僕が聴いていたのは意外にもビギーだった。『ライフ・アフター・デス』。知っての通り、本作のリリースを目前に控えた1997年3月、ビギーは凶弾に倒れてしまう。彼は死をテーマにした曲が多いことで有名だが、ここでは「死後の人生」というよりも「いちど死んで生まれ変わった」と解釈したい。震災で生き残った僕たちも、ある意味ではいちど死んで、またもらった命だろう。感謝し、そしてこれから自分が出来ることを考えなければならない。
 震災後のこの国を包んだ沈痛な自粛ムード。政府や電力会社の事後の対応の不手際、あるいは物資の買い占めに走る人たちへの、ネット掲示板での正義感なのか憂さ晴らしなのか計りかねる苛立ちに満ちた非難。そんな鬱屈とした空気のなか、欲望をむき出しにしたビギーのラップは勇ましく、力強く響いた。僕はビギーに鼓舞されたし確実に元気をもらったといえる。

 電気が復旧し、自宅に戻った。灯りを点け、PCを起動させながら思った。今回の原発の事故に関しては、僕たちが普段利便性だけを享受し、見て見ぬふりをしてきた部分がいっきに噴出したということだろう。原発周辺の住民は住む場所を追われ、野菜や魚の汚染によって多くの一次産業に従事する人びとが職を失った。このことを何らかの契機にしなければならない。やはり自販機の削減や営業・勤務時間の短縮といった節電方面の方策がとられていくのだろうが......。
 僕個人の原発に関する意見はというと、即時全廃は不可能にしても、じょじょに他のエネルギーに切り替え、順次廃棄していくべきだと思う。比較的近くに女川原発や六ヶ所村の再処理施設があるだけに他人事とは思えない。まったくの門外漢なのだが、割と大きな余震がこれだけ頻発するのは、太平洋プレートと北米プレートのズレがいまも進行しているということだろうから、文字通り地に足の付いていない環境で、これからも原発に頼るのはあまりに危険だし、福島原発の事故を教訓にしなければならない。原発による豊富な電力という恩恵。一度知った便利さを手放すのは難しいが、「Aを優先させればBが犠牲になる」という摂理からは生きている限り逃れられない。
 同時に考えなければならないのは、原発や再処理施設で働く人たちのことである。昨年10月のたばこの値上げの報道の時も思ったのだが、弊害ばかりが取りざたされて、その産業に従事する人びとにはまったくスポットが当たらないのである。原子力関連施設従事者の一般企業等へ優先的な斡旋。被曝とはどういうものかの詳細な説明。そうした透明性の上での新たなエネルギーの模索。遺物の撤去、新たなインフラの整備により雇用も創出できるかもしれない。困難を極めるだろうが、その過程での節電や省エネなら僕は喜んで協力するだろう。やはり太陽光発電の研究・開発にそれなりの予算を割くのが現実的な気がするのだが...。
 と、こんなことを考える余裕があるほど、現在では僕は普段の生活を取り戻している。岩手の沿岸部に住んでいながら、である。そして、そのことに負い目を感じるのである。津波で破壊された家屋の撤去作業を手伝ったり、被災地に物資を送ったりすることを(もちろん何か役に立ちたくてしたことだが)心のなかで免罪符にしていた自分が情けない。本当に無力感しかない。そのくせ僕はここ数日でレコードやCDを買ったし、映画も見たし本も読んだ。そんな人間だ。醜悪なことを書いている自覚はあるが、これはこれでリアルなのだとご理解いただきたい。この原稿も、自分の気持ちの整理のために書いているという理由も何%かはあるかもしれない。

 気を取り直して、僕の好きな曲で、こんな時にぴったりな曲がある。アルバート・アイラーの"ミュージック・イズ・ヒーリング・フォース・オブ・ユニヴァース"だ。そのままずばり、「音楽は世界を癒す力」である。タイトルのわりに、人を奮起させるような曲調だ。ジャズをはじめとする黒人音楽は、ルーツであるアフリカへの回帰が底の部分のテーマとしてある。安直かもしれないが、僕には震災で故郷を失った人びとと重ねあわせることができる。西欧列強に植民地化された故郷への帰還、ひいては母体回帰を目指す音楽と、震災とその二次災害により住む場所を追われた人びとがいつか元いた場所に帰りたいという願望とを。津波や放射能で居場所を失った人びと。報道を見ると、「それでもこの場所で頑張る」と話している人が結構多いことに気づく。こういう言い方が許されるのであれば、その姿は美しい。
 そんなわけで、音楽は無力だとはよく言われるが、落ち込んだ気分が音楽でパッと晴れるのはよくあることで、前述のような比較を持ち出すまでもなくアイラーのこの曲には普遍性が宿っている。これも希望を感じた1曲だ。

 さて、1日も早い復興のために(この文句を何度聞いたかな)、僕たちには何ができるだろうか。いろいろ考えたのだが、比較的余裕をもって暮らしている僕らがすべきことは、「なるべく震災前のように普段どおりに振舞う」ことだろう。節電・節約は大切かもしれないが、我々が冷静に行動することで、被災地に届く情報も整理され、物資も本当に必要とせれているものが選別されることだろう。経済の循環によって、抑圧された感情や自粛ムードもじょじょに解きほぐされていくと信じたい。
 いまだに多くの企業がコマーシャルを自粛し、TVからは妙に厳かな雰囲気で被災地にエールが贈られている。それ自体は善意によってなされているのだろうが、被災者にとって有益かどうかは正直首を傾げるところである。応援するにしてももっと具体的な、例えば「住む場所を失った人はうちの会社・施設に来て下さい! 衣食住を用意して待ってます!」というような呼びかけがあってもよさそうなものだが。ともあれ、何もできない自分を責めるのはそろそろ終りにしてもいいはずである。
 最後に、ドアーズの同じく『ストレンジ・デイズ』のアルバムに収録されている曲のこんな歌詞を引用して筆を置こうと思う。音楽が、僅かながらでも失われたものを取り戻す手立てにならんことを......。

とても優しい音が聞こえてくる
地面に耳を傾けると
僕たちは世界の再生を願っている、願っている、いま
いまだって? そういまだ "音楽が終わったら"

桂川洋平桂川洋平/Yohei Katsuragawa
1985年、岩手県生まれ。大学時代を仙台で過ごし、卒業後は地元で働きながら好きな音楽や小説を探求している。

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