ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  4. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  5. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  6. Columns ♯8:松岡正剛さん
  7. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  8. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  11. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  12. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat
  13. Sam Kidel - Silicon Ear  | サム・キデル
  14. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  15. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  16. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  17. Aphex Twin ──30周年を迎えた『Selected Ambient Works Volume II』の新装版が登場
  18. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  19. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  20. interview with Jon Hopkins 昔の人間は長い音楽を聴いていた。それを取り戻そうとしている。 | ジョン・ホプキンス、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > 2562- Fever

2562

2562

Fever

When In Doubt

Amazon iTunes

野田 努   Apr 14,2011 UP
E王

 1曲目"ウィナンプ・メロドラマ(Winamp Melodrama)"が圧巻。チョップド・ドラムの派手な展開、さりげないヴォコーダー。プラスティックマン並みのミニマリズム(最小限)の構成であり ながら、やたらドラマティック、あるいは、昨年ダンスフロアを沸かせたUKファンキーのヒット曲、ジョーの"クラップトラップ"のエレクトロ・ヴァージョンとでも言えばいいの か、これは間違いなくDJに好まれるトラックだ。というか、もう使っているDJも少なくないんじゃないかな。デイヴ・ユイスマンの「踊らせたるぜー」とい う気合いが鮮やかなカタチで具現化している。2008年、デビュー・アルバム『エアリアル』によってベルリン・ミニマルとクロイドンのダブステップの溝を 埋めたオランダ人は、翌年のセカンド・アルバム『アンバランス』でデトロイト・テクノに接近すると、2年ぶりとなるサード・アルバム『フィーヴァー』では マントロニクスやクラフトワークのエレクトロを訪ねている。オールドスクール・エレクトロが鳴り響く、ディスコのダンスフロアに目を向けている。それがア ルバム・タイトル『フィーヴァー』の意味するところであろう。
 要するに......これはジョイ・オービソンのような4/4 キックドラムのダブステップのさらにその先を目指している音楽だとも言える。アルバムに収録されたすべての曲でそれが成功しているかどうかはともかく、少なくもと彼は挑戦して、新しい一歩を踏み出そうとしている。

 『フィーヴァー』のベスト・トラックは間違いなく"ウィナンプ・メロドラマ"だが、2曲目の"チーター"にもがっつりと身体を揺さぶられる。ここではハンドクラップを効果的に......というかほとんどキックドラムとハンドクラップでビートを組み立てている。言ってしまえばUKファンキーのテクノ的な展開だが、この人のセンスの良さによって素晴らしいトラックになっている。
 "ジャックスタポーズ"のような、マントロニクスめいた(つまりオールドスクール・エレクトロな)ディスコ・トラックも魅力的だ。"アクアティック・ファミリー・アフェア"のように、アンダーグラウンド・レジスタンスのダークなファンクを彷彿させるトラックもあるし、"インターミッション"や"ウェストランド"、そしてタイトル・トラック"フィーヴァー"には、『アンバランス』から続く彼の、カール・クレイグにも似たシュールなフィーリングが展開されている。
 また、"ブラジル・デッドウォーカー"や"ディス・イズ・ハードコア"、また"ファイナル・フレンジー"といったトラックは彼の故郷がテクノとハウスにあることを激しく主張している。このアルバムにおける熱量の高さがストレートに出ているトラックでもある。
 『フィーヴァー』はパワフルなダンス・アルバムである。2562は、いま彼のキャリアにおいてピークに向かっているのではないだろうか。

野田 努