「W K」と一致するもの

Galen & Paul - ele-king

 自分の10代の頃の憧れだったミュージシャンが、年老いて老害となるのを見るのはつらいものだ。しかしなかには、年齢を重ねながら、昔よりも好きになったミュージシャンもいる。ポール・シムノンは、そんなひとりだ。元ザ・クラッシュのベーシストは2011年6月、グリーンピース活動家のひとりとして、北極圏の石油掘削に反対するキャンペーンのため、はるばる船に乗って、ヨーロッパ最大の石油・ガス会社、ケアン・エナジー社が管理する北極海に面した石油掘削施設へと赴き、石油流出時の対応計画を提出するよう要求した。が、要求は拒否され、抗議者18人は不法占拠の罪で投獄された。こうした一連の政治活動において、また、刑務所のなかでも、シムノンは自分が元ザ・クラッシュのポールであることを言わなかった。シムノンは船内における料理係で、仲間からは「コックのポール」で通っていたそうだ。その彼があのポール・シムノンだとわかったのは、事件が全国ニュースになってからのことだった。
 「彼は本当によく働き、通常はコックの休日である日曜日でさえ料理をしていた」と、同行した航海士は『ガーディアン』の取材で答えている。じっさいの話シムノンは料理が得意で、その腕前は刑務所のなかでも発揮されたという。「(刑務所内の)食事があまりにひどかったので、看守にポールが料理をすることに同意してもらった」と、抗議者のひとりも証言している。彼は刑務所で、美味しいベジタリアン料理を作った。
 この記事を読んで、いままでスルーしていたハヴァナ3AMを聴かないわけにはいかなかった。ロカビリーにマリアッチ。永遠の音楽。自分のとってのザ・クラッシュというバンドは、高校時代に学校をサボって、静岡から東京まで東海道線で4時間かけて来日公演を見に行ったほどのスーパー・ヒーローだ。もっともその視線はジョー・ストラマーとミック・ジョーンズに集中していたのだけれど。しかし、それから30年の時を経て、ストラマーが歌のなかで訴えていた社会意識の高さを、バンド内でもっとも寡黙だったベーシストがそのさらにうえを行くように継承している事実を知った。デーモン・アルバーンがシムノンといっしょにザ・グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーンを組んだのは、彼の肩書きがたんなる「元ザ・クラッシュ」ではないからだろう。

 さて、ここからが本題である。「コックのポール」は、素晴らしいことに、ケヴィン・エアーズの娘の舌も満足させたのである。「人は自分が料理上手だと思いたがるから、どんどんいろいろなものを加えて、シンプルさや新鮮さを奪ってしまう。しかし、ポールのヴォンゴレは完璧だった」と彼女はある取材で答えている。

 それにしてもポール・シムノンとケヴィン・エアーズの娘、ギャレン・エアーズがいっしょにアルバムを作るとは、これはこれで面白い話だ。
 彼女の父ケヴィン・エアーズは、1960年代後半のUKアンダーグラウンドから生まれたソフト・マシーン(創生期にはデイヴィッド・アレン、ほかロバート・ワイアットがいたことで知られる)のオリジナル・メンバーのひとりで、ピンク・フロイド時代のシド・バレットやティラノザウルス・レックス時代のマーク・ボランのような、UKでは「ソフト・メンズ」と言われる、寛容な子育ての恩恵を受け、成熟した男らしさを拒否した最初の世代に属する人物でもあった。彼の歌声はバリントンだったが、いわば“ストロベリー・フィールズ/イエロー・サブマリン”の系譜というか、『おもちゃの歓び』や『月に撃つ』、『いとしのバナナ』といった初期のソロ・アルバムのタイトルからもその志向がうかがえよう。自由人エアーズは、60年代後半にはUKを離れ、当時のヒッピーたちが目指したスペインのマヨルカ島やイビサ島、モロッコにも住んでいたこともある。(ピンク・フロイドが音楽を手がけた映画『モア』を思い浮かべてしまう)
 フランスのコミューンで生まれ、スペインのマヨルカ島で育ったギャレン・エアーズが音楽活動をはじめたのは、大学のためロンドンに移住してからだった。レコード・デビューは2008年で、それはSiskinというバンドの一員としての作品だったが、2018年には最初のソロ・アルバム『Monument』をリリースしている(翌年にはライヴ公演のため来日もしている)。さらに補足すると、2013年の父の死は彼女の音楽への情熱をさらに高めたそうだ。 
 ギャレンとシムノンとは共通の友人が多く旧知の仲だったが、ことのはじまりはコロナ渦をマヨルカ島で過ごしたシムノンにあった。島の小さな漁村に滞在中、絵を描き、曲作りにも励んだ彼はロンドンに戻ると、自らのアイデアを具現化すべく、エアーズに声をかけた。話は早く、互いに曲を持ち寄って、シムノンが夕食を作っているあいだそれぞれの曲を流し、議論しながらアイデアを発展させていったという。

 『Can We Do Tomorrow Another Day?』は、ひとことで言えばレトロ・ポップなアルバムで、レゲエやラテンのフレイヴァーをスパイスに、ここにはデル・シャノン(ビル・ドラモンドがもっとも理想とする歌手)、60年代のフランス・ギャル(渋谷系も聴いた夢見るシャンソン人形)、リー・ヘイズルウッド(ジャーヴィス・コッカーやボビー・ギレスピーも尊敬)&ナンシー・シナトラ(渋谷系にも人気だった60年代ポップ歌手)を参照した痕跡があり、さらにここにはオーガスタス・パブロ(ダブ仙人)のメロディカ、ジェリー・ダマーズのようなオルガンやザ・スペシャルズの “ゴーストタウン”(暗い時代を預言した名曲)を彷彿させる暗いフィーリングもある。古風な質感が特徴で、プロデューサーは大ベテランのトニー・ヴィスコンティ、テクノロジーに頼らずやることがひとつのテーマだった。ちなみにドラマーは、初期のサンズ・オブ・ケメットでも叩いているセバスチャン・ロッチフォードである(良い人選だ)。
 ザ・クラッシュのファンにはよく知られている話だが、シムノンは歌がうまいわけではない。が、あの “ガンズ・オブ・ブリクストン” のぶっきらぼうな歌い方で先述したようなポップスをしかも女性といっしょに歌うのは、これはこれで趣がある。しかも彼はこんな歌詞の歌を歌っているのだ。

  家をたたんでこの街を出ていく
  バイバイと手を振って
  家賃がとんでもなく上がってしまった
  ここにはもう誰ひとり住んでいない
  みんないなくなってしまった
  Oh 小さな町よ
  心を失ってしまったんだね
“ロンリー・タウン”

 音はレトロだが、歌詞はたったいま起きていることを正確に捉えている。ポール・シムノンは自分が昔、パンク・バンドにいたことからまったく逸れていない。我が友よ、ほかにも良い歌詞があるので、これは対訳付きの日本盤で聴いて欲しい。また、考えてみれば、男らしいバンドの代表格でもあったザ・クラッシュの元メンバーがこうして男女のデュオをやるというのも、いまの時代に対応していると言える。
 アルバム・タイトルの『私たちは明日をあらたな日として迎えることができるのか?』は、ダブルミーニングではないのだろうか。ひとつは将来への不安を意味し、音楽を聴いていると明日=未来など要らない(no future)と言っているようにも思えてくる。未来の都市、最先端のテクノロジー、いまこの社会が進行していった場合の明日、そこにどんな幸せな夢があるというのか。言っておくけれど、テクノ・ミュージックの始点をデトロイトにするなら、それは安価なテクノロジーで制作された音楽のことで、高価で最先端な環境で作られたそれを意味しない。
 好奇心旺盛な20代〜30代のリスナーに、この音楽をゴリ推しするつもりは毛頭ない。だが、憶えておいて欲しいことはある。ザ・クラッシュというパンク・バンドが、偏差値の高そうな連中相手に社会(ときには左翼的なヴィジョン)を語るのではなく、定職にも就かず朝からビールを飲んでいるような連中相手に語っていたこと、それもかなり一生懸命に。そしてバンド内でもっともハンサムだったベーシストは料理が上手で、とくに得意なのは本人いわく「パエリア、スパゲッティ・ヴォンゴレ、マヨルカ島の魚のスープ」……という話はいいとして、革命は必ずしもテレビ(写真)には映らないということを。

interview with Shinya Tsukamoto - ele-king

 生まれて初めてNHKの朝ドラを観ている。笠置シズ子にも興味はあったけれど、塚本晋也の新作で主人公を演じる趣里が朝ドラでも主役を張っていると知り、その振り幅にまずは興味が湧いた(ついでに『東京貧困女子』も最初だけ観た)。内覧会で一足先に『ほかげ』を観ていたので、朝ドラで歌劇団のルーキーを演じる趣里がとても幼く感じられ、『ほかげ』では生活に疲れて先の見えない人物像がしっかりと造形されていたのだなと改めて趣里の演技力に感心した。『ほかげ』は戦後の闇市を舞台にした作品で、居場所のなくなった人々が暗中模索を続ける群像劇。前半と後半で異なる主題を扱い、戦争によって滅茶苦茶になった日本の心象を様々な視点から洗い出す。誰もが無表情のままで、喜怒哀楽のどこにも触れないのは塚本作品の本質が剥き出しになっている気がする。


©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

 『鉄男』シリーズや『六月の蛇』といったカルト作品のイメージが強かった塚本晋也が8年前に『野火』でいきなり政治的な話題に首を突っ込んだ時はけっこう驚かされた。とはいえ、政治的なテーマばかり撮り続ける「専門家」よりもアレックス・コックスやアダム・マッケイのようにアホなことばかりやっていた人が自分たちの領域を政治に侵された途端、一気に作風が変わり、自分たちがやっていたことを守るために政治的になるという姿勢が僕はとても好きなので『野火』には喝采を叫んだし、同じ衝動に突き動かされている『ほかげ』にも同じように拍手を送りたい。そして、ブレインフィーダー別冊で取材した際に「塚本晋也に会いたい!」と吠えていたフライング・ロータスのCDをごっそり携えた野田努と共に塚本晋也が待つユーロ・スペースに向かうのであった。渋谷の街はそろそろハロウィンの気運が高まっていた頃である。

戦争が終わったら「終わったー」といってみんな伸び伸びするというイメージがあったんですけど、『野火』をつくってから、戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね。

(フライング・ロータスについて少し説明してから)40年前に1週間ほど熊野の山のなかで水木しげるさんとご一緒する機会があったんですね。

塚本:おう、おう。

『ゲゲゲの鬼太郎』を描いた人だということぐらいしか僕は知らなかったので、水木さんに片腕がないことも知らなくて。驚いてしまって。その1週間で、戦争の話をたくさん聞かせてくれたんですね。で、東京に戻って水木さんの戦記物を全部読んだんです。変わった話もいろいろあったんですけど、それまで考えてもみなかったのが復員兵の話で。戦争に行った兵士が日本に帰ってきて居場所がないなんてことがあるとは想像もしなかったんですね。で、日本の映画をいろいろ思い出して見たんですけど、復員兵の話なんてあったかなあと思って。スケキヨぐらいしか思い当たらなかったんです。(*スケキヨ=『犬神家の一族』の登場人物)

塚本:(笑)ツボにはまりますね。世代が似てる。

『ほかげ』には大雑把に言って3パターンの復員兵が出てきますけど、どうしてあの3パターンにしようと思ったんですか?

塚本:子どもの主観でそれぞれの復員兵には出喰わしてるから、ひとりひとりの背景はわからないんですね。その3つが合わさると何があったかということが浮き彫りになって、どうしてみんなこんなことになってるんだろうと、みんなに共通の歴史があったんだということがわかるようになっています。確かに、その3つを関係づけないで観ちゃうと「なんで?」となっちゃいますよね。でも、どうしても結びつけるとは思うんですよ。最初の復員兵が夜中にわめき散らして、どうしてあんなことになってるのか、最初はわからないと思うんだけど、彼に何があったかは最後でわかると思うんです。最初にあの3パターンを考えたわけではなくて、頭から脚本を書いていって、自分で納得がいくように進めていった結果なんです。シンプルな構造が最初にできたので、自然にああなったんですね。

座敷牢に閉じ込められていた復員兵はどの段階で?

塚本:わりと最初からいましたね。

短いですけど、強烈な印象が残りました。

塚本:そうですね。俳優さんが素晴らしく演じてくれて。セリフがないわけですから、演技にかかってるところがありますよね。とても存在感を感じさせてくれました。

彼らはみな『野火』の戦場から生きて戻ってきた人たちと考えていいんですよね?

塚本:そうですね、僕はそのつもりです。

戦争の後始末というか、戦争が起きた後のことをどうするんだという意識ですよね?

塚本:それはありました。戦争が終わったら「終わったー」といってみんな伸び伸びするというイメージがあったんですけど、『野火』をつくってから、戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね。

高齢の方にたくさん取材をされたと聞いたんですが。

塚本:それは『野火』の時ですね。皆さん、80歳を越えられてたんで。資料も少ないし、実際の声を聞いとかなきゃと思って。今回は資料がかなりあったので、そこまではしませんでした。

そうなんですね。

塚本:戦争孤児の資料はかなりあったんですよ。でも、復員兵の話はほぼないんです。本当の「加害性」について書いてあるのは。ベトナム戦争に比べるとほんのちょっとだけしかない。

ベトナム戦争だと『ディア・ハンター』だとか『シザーハンズ』だとか映画もわりとありますよね。ストレートなのはウイリアム・ワイラーの『我が生涯の最良の時』ですか。

塚本:ああ、それ、観てないです。

え、意外ですね。それこそ3人の帰還兵の話でPTSDに苦しめられる話です。タイトルも皮肉です。

塚本:それは観よう(と、タイトルをメモする)。

『我が生涯の最良の時』はリアリズムで、『ほかげ』もそれに近いし、『野火』もそうですけれど、塚本作品に期待する荒唐無稽さとは違いますよね。

塚本:前は戦争が迫ってるとか、そういった危機感を感じないでつくってたし、それどころか『マトリックス』が出た時に、ああ、先にやられちゃったと思ったぐらいで(笑)。

あー(笑)。

塚本:どちらかというとヴァーチャル・リアリティの世の中に生きている自分がいて、暴力もファンタジーとして描いてたんです。人間のなかには暴力性があるんだし、観たいんだから、観ればいいし、それがガス抜きになって、実際に(暴力を)やる人も減るだろうという方便をつけていたんですけど、『野火』の3年ぐらい前から戦争を身近に感じるようになっちゃって。ファンタジーとして描くには暴力があまりに近づいてきたと思って、むしろ近づきたくないという思いがあったんですね。こんなに嫌なものに近づきたくないよっていう表現なんです。

逆の印象ですけどね、『野火』は。

塚本:どっちにしろ暴力描写は出てきちゃうんですけど(笑)。以前とは使い方が違います。

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©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

いまは変態性がなくなっちゃったんです(笑)。変態の時は、人間の肌は鉄みたいな硬いものに接している時にフェティシズムが香り立ってエロが際立っていたんですけど。

なるほど。黒沢清さんの『トウキョウソナタ』は、当時観た時、最後に天才的なピアニストが出てきて問題が全部解決しちゃうという安易な終わり方に思えちゃったんですけど、安倍政権になってから見直したら、ぜんぜん印象が変わって、日本人がそんな奇跡みたいなものにしかすがるものがなくなっているという皮肉に観えたんですよ。息子がアメリカ軍に入隊するというエピソードも安倍政権が安保法制を強行採決した後だと、もはや予言みたいだったなと。実際にいま、自衛隊は米軍の傘下にいるようなものですからね。黒沢さんは早かったのかなって。

塚本:黒澤監督はそこまでお考えになってつくったんですね。

……と、思いましたけど。塚本監督が『野火』を撮らなくちゃと感じたのも同じ流れだったということですよね?

塚本:時期は合いますよね。急に近づいた気がして。安倍政権がもう一回、戻ってきちゃった時ですね。前の内閣の時も嗅覚的にはあったんですが、心配な感じは。きっと一回、引っ込んでいる間に設計図をしっかりつくったんでしょうね。早く憲法を変えてとか。どういう段取りでやるか決めて、復活してから着実にやってたんでしょう。『野火』をつくった時も、世の中的にはまだそれほどの危機感はなかったんですよ。だから、つくってはみたものの響かない可能性もあるかなとか、すぐ(上映も)終わっちゃうかもなとは思ってたんですよ。でも、公開してる時に、その時は戦後70年の年だったんですけど、その年にちょうどキナ臭さを感じる人が大勢出てきたので、その人たちの琴線に引っかかったと思うんです。『野火』を上映してる時に、いろんな法案が強行採決されていって。

僕は日本は本気で戦争をやる気はないと思いますけど、それこそ中国軍200万人に対して自衛隊は18万しかいないし、いますぐに10倍にしようという気配もないし。ただ、戦争が近づいてくるというムードだけで塚本作品のようなエロ・グロ・ナンセンスは最初に取り締まられると思うんですよね(笑)。

塚本:そうですよね、気配はありますよね(笑)。そうなったらめちゃくちゃやられるんじゃないですかね。

『野火』で作風を変えたにしても、塚本作品には武器に対するオブセッションがずっとありますよね?

塚本:そうですね、(武器に対する興味が)もっとあれば、もっと複雑で映画も面白くなると思うんですけど、これが案外、嫌いだったんです(笑)。こんなにヤなものなのに、武器が大好きで、頬ずりしたいというのだったら、映画がもっと複雑になると思うんですけど、案外嫌いなんで、どっかあっさりしちゃうんですよ。

なるほど。

塚本:でも、僕の映画で武器をペロペロしたりすると喜ぶ人がいるんで、実感としてちょっと薄い癖に、そのテーマに惹きつけられているという感じがあって。『鉄男』は当時、僕は変態だったので……

いまは違うんですか?(笑)

塚本:いまは変態性がなくなっちゃったんです(笑)。変態の時は、人間の肌は鉄みたいな硬いものに接している時にフェティシズムが香り立ってエロが際立っていたんですけど。

実感を込めて『鉄男』はつくっていたわけですね(笑)。でも、『斬、』の刀も同じじゃないですか?

塚本:あの頃になると、そうですね、あれも『鉄男』なんですけどね、SFじゃないだけで。

そうですよね。

塚本:刀という鉄と一体化するまでの話ですからね。武器はもうヤだと思っているのに、自分でも変態性を思い出すために奮い立たせたんですよ。

そういう感じだったんですか。なるほど。そのヤだと思っているものを今回の『ほかげ』では子どもに持たせましたよね? いまの話の流れでいくとロクなことをしてませんよね(笑)。

塚本:そうですね、いま、あまりに大事なことなので、どこからいえばいいかな。たとえば宮崎駿さんとかも戦争大っ嫌いだと言ってるのに零戦の映画つくったり、けっこう皆さん、戦争は嫌いなのに武器が好きな人は多いから、難しいところなんですけど。えーと、『2001年宇宙の旅』の最初で、猿が木の棒で別な猿を叩き殺して欲しいものを勝ち取った時に人類の夜明けが始まって、その木を空に投げると宇宙船になってピューっと落っこってくるというシーンが全部を物語っているというか、あれは木でしたけれど、人って、こう、鉄と出くわした時に、恋愛がそこから始まっているので、いくらそこから鉄とか武器が憎いものになっても別れようとはならないんですね。憎くても切り離せない。人間と武器はどうしても切り離せないというのが自分のテーマにはなっています。

世界中のあらゆる国家が捨てませんよね。どうしても武器は持ってる。

塚本:そう、みんな鉄が大好きだから、交通事故が多くても自動車を止めようとはならないし、機械と恋愛しているというのがまずはあります。『鉄男』もそうだし、『斬、』の刀をピュッと空に投げると『野火』の世界になって戦車やらなにやら爆発的な量の鉄になるんです。自分の映画では自分というものと鉄の歴史を描いていたんですけど、自分と都市やテクノロジーの関係が、『野火』をつくった頃から、年齢のせいもあると思うんですけど、ついに自分よりも次の世代のことが心配になって、心配で心配でたまらなくなって、あえて子どもに一番恐ろしい武器をもたせちゃったんだなって、いま、言われて気づいたので、それを子どもがどう扱うのかなという話を無意識につくっていたんだなと思いました。

『トウキョウソナタ』で息子がアメリカ軍に入る話と少し重なるのかもしれませんね。『斬、』の時には核武装の話も出ていたので、一般の人にも刀を持つ気持ちになれますかというメッセージに受け取れたんですよ。

塚本:はい、そういう話ですね。

武装する覚悟はありますかと。選挙権を持つような人には『斬、』の問いも有効だと思うんですけど、でも、もっと小さな子どもが武器を持ってしまうと、そのレベルではないですよね。いままでの武器と見せ方も違うし、『ほかげ』の子どもも隠して持っていたし。

塚本:そうですね。無意識ですね。最後に趣里さんが自分の映画にしては珍しくストレートなことを子どもに言うんですけど、すごいじわっと来るのは、やっぱりそういうことがあったからなんですね。また趣里さんがすごいはっきり言うんですよ。あれは感動しましたよ。

確かに。

塚本:趣里さん、ありがとうって。よくぞそこまではっきり言ってくれたって。

塚本監督が書いたセリフなんですよね。

塚本:そうなんですけどね。

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©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

前は映画をつくるのは楽しくてやってたんですけど、戦争映画はやらなきゃいけないという感じなんです。あと1本でやめますけど。そのあとは変態に戻りたい。変態が生きられる世の中にしないといけませんよ(笑)。

現場ではアドリブなんかもあったんですか?

塚本:あんまりないですね。遊んでるシーンぐらいかな。遠足ごっこで。

上官の家に向かっている時に男の子が鼻を啜り上げるシーンがすごくよかったんですけど、不思議な感動があって。

塚本:観てますね(笑)。あれは演出ではないです。自然な成り行きで、そのまま使わせてもらいました。

あの子は動きだけで表現しますよね。感情がすり切れちゃってるというか。

塚本:親が死んでるところから始まってますからね。

とはいえ、あの子が報酬を受け取らないのはさすがに大人っぽすぎると思ったんですけど。

塚本:あの年代になると、もう自意識はあるので、人を撃った行為でお金を受け取ることはできないと思いますよ。

そうですか。

塚本:あるいは直感的にイヤだと思ったか。

塚本監督の視点はあの子に一番近いんですか? 銃だけ持っていて、どうやって生きていくのかなとか考えちゃうんですけど。

塚本:あの子に近いのかもしれないですね。戦争孤児のエピソードにもすごい共感があったんですよ。

戦後、実際に見かけたわけではないですよね。

塚本:そうですね。資料から浮かび上がって来るものです。自分が戦争孤児だったことは、皆さん、隠してるんですよ。戦争孤児だというといじめられたみたいで。


©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

ああ。国というのは、戦争はするけど、まったくケツを拭いてないというか、後ろにいろんなものを残したまんまなんですね。

塚本:本当にそうなんですよ。戦争後遺症になった人はいなかったということにしたみたいなんです、日本は。大和魂で片づけられちゃったみたいで。戦争で気分が悪くなるような奴は日本にはいないと。いないって言われると家族は隠さないといけないし、国は実際には後遺症の研究はしてたみたいで、資料もたくさん残ってるんですけど、戦争が終わった途端に研究もやめちゃったんですね。

研究をしてたこと自体は最低限の良心があったように感じますけど。

塚本:いや、良心というよりヤベエっていう感じじゃないですか。みんな、こんなんなっちゃってるよーとか。でも、そういう人がいると認めたら賠償もしなくちゃいけなくなるから、なかったことにしたんでしょうね。

そうか。

塚本:そういう人たちは、その後、高度成長期の時は仕事をしていて忘れられたんだけど、定年になってから、夜、悪夢が蘇ってきて死ぬまで続いたそうです。

『野火』と『ほかげ』を足すと、やっぱり『ゆきゆきて神軍』を思い出しますよね。

塚本:戦争は調べれば調べるほど人間のどうしようもなさが露呈してくるんですよ。あともう一発は作らないといけないと思うんですけど、調べているとうんざりしますよ。

やらなきゃいけないって(笑)。

塚本:前は映画をつくるのは楽しくてやってたんですけど、戦争映画はやらなきゃいけないという感じなんです。あと1本でやめますけど。そのあとは変態に戻りたい。

(笑)。

塚本:変態が生きられる世の中にしないといけませんよ(笑)。

どうして高校生の時に『野火』を読もうと思ったんですか?

塚本:偶然なんですよ。日本の文学に目覚めてあれこれ読んだんです。薄いわりに濃密そうだなと思って。『野火』とか『黒い雨』とか『砂の女』とかシンプルなタイトルで、濃密そうだと惹かれるんです(笑)。

『万延元年のフットボール』とかダメなんですね。

塚本:それは未読でした。外国の本も読めなかった。登場人物の名前が長いのもダメだったんです(笑)。

『ほかげ』はそれ以前に誰にも名前がついてないですよね。「女」とか「復員兵」とかもはや記号ですよね。

塚本:僕ね、3人以上出るとダメなんです。4人、5人になると、もう分かんなくなるんです(笑)。

『ほかげ』は前半と後半で視点が変わるし、人数が多いというほどではないですけど、塚本作品にしては複雑ですよね。

塚本:複雑ではないけど、パタッと様変わりするのは珍しいですね。

最近は都市よりも自然を撮りたいということでしたし、後半はほとんど自然の風景でしたね。

塚本:前半のシチュエーションで行くのもストイックでいいんですけど、自分のなかでは黒澤明監督の『天国と地獄』のパロディの気分があるんですよ。

ああ。でも、塚本監督は自然を撮っていても、『斬、』なんか密室みたいでした。

塚本:そうですね。

開放感がまったくない。武器と同じで塚本監督には抜け出られないものがあるというか。

塚本:ああ。密室も嫌いなんだけど好きというか。『HAZE』とか撮ってますから。(*『HAZE』=狭い空間に男が閉じ込められた短編)

閉所恐怖症でしたよね、そういえば。僕もそうなんですけど。

塚本:僕は金縛りにしょっちゅう会うんですけど、あれが閉所の極限です。

いまでも?

塚本:いまでもしょっちゅうですね。子どもの時からずっと恐怖です。


『ほかげ』にちらっと出てくる傷痍軍人は僕も当時、見たことがある。大島渚『日本春歌考』の冒頭にもちょっと出てくる。しかし、戦後すぐの闇市はさすがに見たことがない。塚本監督も実際に体験したわけではないものの、その痕跡に惹かれて、最初は短編のつもりで撮り始めたのが『ほかげ』だったそうである。それが思いの外、長い作品になってしまったと。「(闇市は)憧れだったんですね。ヤクザとか愚連隊とかテキ屋とかパンパンとかオカマとか、そういう人たちが活躍していて、もうカオスで」と塚本監督は話していた。『ほかげ』が闇市だけの作品にならなかったのは、やはり『野火』のインパクトがまだ監督のなかで衰えていなかったからだろう。そして、もう一本、戦争映画を撮るつもりだとは本文中にあった通り。これも覚悟して待つこととしたい。『ほかげ』の試写を観た夜、帰りに渋谷の道玄坂を下りながらメイド服の女の子がズラっと並んでいるのを目にして、闇市のエネルギーはまだ続いているのかもしれないと僕は思った。

『ほかげ』

11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

監督・脚本・撮影・編集・製作:塚本晋也
出演:趣⾥、森⼭未來、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛、⼤森⽴嗣
助監督:林啓史/照明:中⻄克之/⾳楽:⽯川忠
⾳響演出:北⽥雅也/ロケーションコーディネート:強瀬誠
美術:中嶋義明/美術デザイン:MASAKO/⾐装:佐々⽊翔/ヘアメイク:⼤橋茉冬
製作:海獣シアター/配給:新⽇本映画社
2023年/⽇本/95 分/ビスタ/5.1ch/カラー
配給:新日本映画社
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
https://hokage-movie.com/#about

Philip K. Dick - ele-king

 三田格がまだ20歳そこそこの若者だったころ編集した本に、『あぶくの城―フィリップ・K.ディックの研究読本』がある。「あぶくの城」というのはパレ・シャンブルクというノイエ・ドイッチェ・ヴェレのバンド名の日本語訳だが、たしかにディック風な響きがある。当時まだディックなんて作家は、ほとんど知られていなかった時代に(まあ、パレ・シャンブルクもだが)、それは日本で初めて編まれた研究読本だった。ぼくの記憶では、たしか三田格の文章の題名は「サイコロを振るのは俺だ」とかなんとかキザな題名で、この男は何者なんだろうと思った。
 今回の主役は、『あぶくの城』ではない。気鋭のドゥルーズ研究者がディックに挑んだ『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』(ダヴィッド・ラプジャード著 堀千晶訳 月曜社)。その刊行記念としてトークショーがある。翻訳を担当したドゥルーズ研究者として名高い堀千晶、そして三田格。司会は早助よう子。
 ひょんな理由から、今年はン十年ぶりに『高い城の男』を再読して、60年代に書かれた小説でありながら、日本人のオタク気質の描き方のうまさに舌を巻いたばかりだった。フライング・ロータスもディックは愛読しているし、グレッグ・テイトは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を逃亡奴隷の物語として解釈している。もういちどディックと出会うときが来た。

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日時 12月3日 15時~
会場 shy 室伏鴻アーカイブカフェ(東京都新宿区早稲田鶴巻町557 小笠原ビル1F)
https://www.facebook.com/cafeshy
会費 1500円(飲食代込) 定員20名 *トーク後にワインと軽いおつまみを出します。

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yeule - ele-king

 ある一定の世代──具体的には平成初期から中頃あたりに生まれ育った、ぎりぎり “Z” の枠組みから漏れた層──の音楽的な原体験は、どちらかといえばオンライン上よりも「オフライン上の雑踏」にあったように思える。

 それは、たとえばレンタルビデオ屋の片隅であったり、大型古本チェーンのワゴン棚や中古CDショップ、あるいはファストフード店の有線放送などの、日本のごく一般的な日常を彩る風景の一部に溶け込んでいた音楽体験である。もしくは、平日夕方にティーンエイジャーが自らの激情を未熟なりに、自由気ままにぶつける貸スタジオやライヴ・ハウスの風景だとか、電車に独り佇む少し大人びた少年のイヤホンから鳴る音漏れだとか。

 封切りから約5年が経過した「mid90s」ではなく、いわば「late90s」あるいは「early00s」あたりの時期、そんな「かつてあった日々」へのノスタルジアを強く想起させられるような作品が、どういうわけか2023年の秋口に、シンガポール(現在はロサンゼルス拠点とのこと)の “グリッチ・プリンセス”、yeule(ユール)の新譜としてリリースされた。

 『softscars』、直訳すると柔らかな傷跡。ノンバイナリーである yeule には、自身のみが抱えるさまざまな苦しみが数えきれないほどあっただろう。制作中に親しい友人がオーバードーズで亡くなった、などの痛ましいエピソードも明かされており、アルバムを紡いでいく過程で自身の人生観や深層心理に至るまでの深い自己対話が繰り広げられたことは容易に想像できる。

 そんな、いまは癒えきった過去の体験が、どうしてか心のささくれを再び刺激するような作品が、yeule のサード・アルバムである。シューゲイズ・サウンドを通過した90年代後期~ゼロ年代的なオルタナティヴ・ロックが、近年高度に発達したDAW上におけるポスト・プロダクション技術と結びついた上で、名門レーベル〈Ninja Tune〉からリリースされる。

 それはつまり、四半世紀にわたり爆発的な発展を遂げ、好事家の趣味からインフラへと駆け上がったインターネットを窓口に、シンガポールと日本はついに文化的に地続きとなった、ということの証左でもある。「なんとも不思議な時代を生きているんだな」というごく個人的な感傷が、シーンやジャンル、音像や作品構成といったレヴューされるべき諸要素よりも先に脳裏をよぎった。そこまでが一聴したときの所感であった。

 さて、作品を大まかに見通していくと、本作は概ねふたつのパートに区分されているような感覚を受けた。全12曲のうち、M1. “x w x”~M6. “dazies” までの楽曲群には在りし日のインディ・ロックへのオマージュが随所に感じられるものの、その音像は2020年代以降のハイブリッドな空気感に包まれている。そして岩井俊二監督『花とアリス』(2004)のサウンドトラックのカヴァー、M7. “fish in the pool” から作品を取り巻くムードは流動的に変容していき、M8. “software update” やM9. “inferno” からはシューゲイズ・サウンドに加えシンセ・ポップにグリッチのスパイスを効かせたかのようなエレクトロニカへと徐々に移行していく。

 このような聴かせ方を踏まえても、楽曲ごとのクオリティ・コントロールにとどまらぬ高度なトータル・プロデュース力を感じさせる秀作である、と言えるだろう。なかば共同作業者として yeule の作品に携わるシンガポールのプロデューサー、キン・レオンや20年代以降のポップ・スター筆頭、ムラ・マサといった存在が背後を賑わせる構図は、それこそポップスという営みにしばしば現れる強固なパートナーシップを感じさせる。
(世代的にはごくわずかにズレた90年代末の作品が強く筆者のノスタルジーを喚起するのは、インターネットを通じた追体験によるものである。25歳の yeule も同じはずだろう)

 いや、やはりどうしても、自分の90年代後期~ゼロ年代への憧憬は、とてもじゃないけど “柔らかな傷” では片付けられなさそうで……。作品を俯瞰しきることが難しくなるほど、幼心に感じたあの空気感がオーヴァー・ラップする。といっても、あくまでも『softscars』で描かれているのは現代と未来のことでもあり、きたる2024年(=「mid20s」へ!)のムードを垣間見るようなハイブリッド感が、やはり本作の魅力であろう。DAW上に冷凍保存されたようなギター・サウンドと、復活の兆しを見せるエレクトロニカとの融和を前に、(できれば使用を拒否したい)「ハイパー」という語句でカテゴライズされてきた現代ポップスの次なる流れも、このアルバムを出発点としていずれ整理できそうな予感がある。

 ちなみに、本作の視聴環境はけっしてクラブのサウンド・システムやスタジオ並みのスピーカーである必要はなく、下手したら Air Pods Pro や高価なDAC、ハイレゾ音源なんかも必要としないかもしれない。手元のスマートフォンやラップトップのスピーカーから、適当にそのまま流すラフな向き合い方こそジャスト・フィットする。開け放った窓から吹きすさぶ木枯らしで頭を冷やしつつ、温かい飲み物を片手に浸るような、ベタで恥ずかしいような浸り方が似合う、不思議なサウンドスケープが拡がる作品だろう。そんな日常的な接し方こそアウトサイダーとして現実をサヴァイヴしようとする yeule の本懐だろうと信じて、あえてローファイな環境で本作に触れてみてはいかがだろうか?
(もちろん、本作をクラブのサウンド・システムで鳴らしても抜群の視聴体験足り得ることは、筆者自身ふだんのDJのなかでよくよく理解しているつもり!)

* 編集部注:先週WWWで設立15周年を記念するショウケース公演をおこなった〈KITCHEN. LABEL〉もシンガポールのレーベルであり、Haruka Nakamuraや冥丁など日本と当地をつなぐリリースをつづけてきた。

AMBIENT KYOTO 2023最新情報 - ele-king

 好評開催中の「AMBIENT KYOTO 2023」、最新情報のお届けです。会場ごとに撮りおろした参加アーティストの作品動画が本日より公開となります。坂本龍一+高谷史郎、コーネリアスバッファロー・ドーター山本精一の4組分、2023年末までの限定公開です。

 あわせて、イベント情報も発表されています。12月10日(日)、坂本高谷作品が公開されている京都新聞ビル地下1階にて、原摩利彦+中山晃子、古舘健+YPY(日野浩志郎)、E.O.U.+Saeko Ehara、小松千倫+jvnpeyによるパフォーマンスが披露されます。その後京都メトロにてアフターパーティも予定されているとのこと。ぜひ足を運んでみてください。

AMBIENT KYOTO 2023
-撮り下ろし作品 スペシャルムービーを2023年11月20日(月)より期間限定公開
-コラボレーションイベント ACTIONS in AMBIENT KYOTO 12月10日(日)開催決定
会期:2023年10月6日(金) - 12月24日(日)

2023年10月6日(金)より12月24日(日)まで、京都の2会場を舞台に開催されている、アンビエントをテーマにした音・映像・光のインスタレーション展「AMBIENT KYOTO 2023」より最新情報をお送りします。

参加アーティスト 坂本龍一 + 高谷史郎、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一 の作品動画を、会場ごとに撮り下ろし、11月20日(月)より2023年末まで、期間限定で公開いたします。

また、「AMBIENT KYOTO 2023」とのコラボレーションイベントとして、「ACTIONS in AMBIENT KYOTO」の開催が決定しました。12月10日(日)には、「坂本龍一 + 高谷史郎 | async - immersion 2023」作品が展開されて いる京都新聞ビル地下1階にて、ライブ・パフォーマンスが行われます。
その他、「Farmoon x Miu Sakamoto "wonder" X AMBIENT KYOTO 2023」が開催されるなど、会期終了まで様々 なコラボレーションイベントも実施する予定です。

会期も折り返し地点を迎えた「AMBIENT KYOTO 2023」をさまざまな角度からお楽しみください。

◉会場: 京都新聞ビル地下1階
坂本龍一 + 高谷史郎 | async - immersion 2023

動画リンク: https://youtu.be/6TzTRUlqb9A

坂本龍一が2017年に発表したスタジオ・アルバム『async』をベースに制作 された高谷史郎とのコラボレーション作品の最新版。京都新聞ビル地下の広 大な空間を使い展開するサイトスペシフィックなインスタレーション。

作品詳細・アーティストコメント
https://ambientkyoto.com/exhibition

◉会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
Cornelius、Buffalo Daughter、山本精一 3組のアーティスト作品

動画リンク: https://youtu.be/70Y0hRh3EjM

Cornelius : QUANTUM GHOSTS / TOO PURE / 霧中夢 -Dream in the Mist-
Buffalo Daughter : Everything Valley / ET(Densha)
山本精一 Silhouette

詳細は下記よりご覧ください。
作品詳細・アーティストコメント https://ambientkyoto.com/exhibition
作品&アーティスト概要資料 https://www.how-pr.co.jp/pressrelease/2023_AmbientKyoto_works.pdf

【コラボレーションイベント】
ACTIONS in AMBIENT KYOTO

京都新聞本社ビル地下1階の坂本龍一+高谷史郎による「async - immersion 2023」のために設置された横幅20mを超えるLEDスクリーン、そして、30台以上のスピーカーを活用した4組のコラボレーション・ライブ・パフォーマンスを開催します。広大な空間にエクスペリメンタルな音響が漂います。終演後にはmetroにてアフターパーティーを開催予定。詳細は、下記ウェブサイトをご覧ください。
https://interference-resonance.ekran.jp/

開催概要 日時:12月10日(日)
会場: 京都新聞ビル地下1階

ライブパフォーマンス
・原摩利彦と中山晃子が初のコラボレーション。
・古舘 健とYPYこと日野浩志郎によるオーディオビジュアルのデュオパフォーマンス。
・近年、クラブ/レイブシーンで大きく注目を集めるE.O.U.のパフォーマンスに、AIとジェネラティブアートを組み合わせたビジュアル作品を発表しているSaeko Eharaが映像で参加。
・現代美術と音楽の間で活動する小松千倫と新進ビジュアルアーティストであるjvnpeyによるコラボレーションパフォーマンス。

公式ホームページ. https://ambientkyoto.com
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Instagram. https://www.instagram.com/ambientkyoto
Facebook. https://www.facebook.com/ambientkyoto

水谷:まずこの写真を見てください。これ91年の『The Source』っていう雑誌なんですけど、この年のヒップホップのチャートなのですが。

山崎:1位はNWA。大々的に取り上げられていますね。

水谷:歴史的にはこの4位のパブリック・エナミーはどうかなと思いますが、PEやNWAはすでに大スターで別世界なので置いといて。2位がブランド・ヌビアン。3位がATCQの『Low End Theory』。5位がデ・ラ・ソウル。で、6位にメイン・ソースの『Breaking Atoms』なんですけど。

山崎:6位に『Breaking Atoms』って当時の日本の状況からしたらこれはものすごく評価が高いですね。7位のゲトー・ボーイズ、これも日本ではあまり聞かなかった気がします。

水谷:ゲトー・ボーイズは本国アメリカでは当時から評価が高いです。リリックがいいんですよ。日本人ではわからない部分ですが、それでこの評価がついていると思います。このアルバムに入ってる「Mind Plays Trick On Me」はクラシックですね。

山崎:僕はこの頃はレアグルーヴ一色でヒップホップを全然聴いてなかったので、当時の状況はあまりわからないですが、ナイス・アンド・スムースはオザケンがらみで人気があったとか、そんな事しか記憶ないです。『Low End Theory』とかはもちろん後から聴きましたけど。

水谷:今回は『Breaking Atoms』のサンプリングの芸術性について語らせていただきたいのですが、この写真の中で比べてみると、デ・ラ・ソウルはアルバム通してかなりの楽曲数をサンプリングで贅沢につかっているので、カラフルな仕上がりになっている。Mighty Ryedersの「Evil Vibrations」使いで有名な、「A Roller Skating Jam Named "Saturdays"」もここに収録されています。ATCQの『Low End Theory』はセンスの良いサンプリングとそもそものレコーディング状況がめちゃくちゃ良くて音質が良いという印象。1曲目のロン・カーターのベース演奏がとても評価されてましたね。ギャングスターはジャズ・サンプリングで、DJプレミアはまだネクスト・レベルに行っていない頃。サイプレス・ヒルのこれは名盤ですね。この後ロックな方向にいくのですが、このアルバムはネタの使い方がよくていいですよ。

山崎:当時この並びに『Breaking Atoms』が入ってくるってちょっと驚きですね。今ではその良さは広まっていますが。アメリカでは最初から高評価だったんですね。

水谷:そうですね。当時は『Breaking Atoms』は渋いというか、派手さはあまり感じなかったので僕もそうでもなかったのですが、でも今あらためて振り返ってみると、このアルバム、サンプリングですごいことをやっているんですね。

山崎:確かに聴いてみると複雑な作りをしているというか、同時代の主流だったネタ一発ではないですよね。

水谷:今回は細かなところまで分析しつつ、『Breaking Atoms』におけるメイン・ソースの偉業を伝えられればと思います。またVGAのYouTubeチャンネル、MOMOYAMA RADIOでは『MAIN SOURCE SAMPLING 90% ORIGINAL PEACH MOUNTAIN MIX』と題して、メイン・ソースのサンプリング素材のみで作ったMIXも公開中です。ぜひ聴きながらご一読ください。

□Snake Eyes

水谷:冒頭を飾るこの曲の始まりのネタはIke Turner and The Kings of Rhythm の「Getting Nasty」。

山崎:この始まり方は(良い意味で)渋いですね。

水谷:デ・ラ・ソウルはどちらかというと「Evil Vibrations」がわかりやすい例ですけれど、洗練されたサウンドを上手く使いますが、メイン・ソースは60年代後半のソウル/ファンク系をよく使いますね。泥臭い楽曲というか。当時は僕も高校生なので、どうしてもお洒落で派手なデ・ラ・ソウルを優先して聴いていましたね。

山崎:でもラージ・プロフェッサー(メイン・ソースの主要メンバー)もまだ十代後半か、二十歳そこそこ。このセンスは日本人からするとそうとう大人っぽい。

水谷:このイントロを経てJohnnie Taylorの「Watermelon Man」からJesse Andersonの「Mighty Mighty」へと展開する。どちらも60年代の楽曲です。

山崎:渋いサンプリング・センスですが1曲目にふさわしいテンション高めの楽曲に仕上げているところが素晴らしいですね。

□Just Hangin' Out

水谷:メインのネタになっているのはSister Nancyの「Bam Bam」なのですが、これもまたメイン・ソースの特徴ですね。レゲエ・ネタをよく使います。ラージ・プロフェッサー以外の2人のメンバー、K-CutとSir Scratchは兄弟なんですが、ジャマイカ系のカナダ出身なんです。

山崎:エディー・グラントを親族に持つらしいですよね。

水谷:メイン・ソースというとラージ・プロフェッサーばかりが目立っていますが、K-CutとSir Scratch(の兄弟)もいい仕事してたんだと思います。メイン・ソースの音には彼らのエッセンスも大きく反映されている。
そしてそこに重ねてくるもう一つのネタが、Vanessa Kendrickの「"90%" of Me Is You」です。

この曲はグウェン・マクレエのヴァージョンがヒットして有名ですが、このVanessa Kendrickの方がオリジナルなんです。このレコード、ノーザン・ソウル人気曲でもあるんで800USD以上で落札されたりもする激レア盤なのですが、91年でグウェン・マクレエじゃなくてこっちを使っているって相当すごいですよ。

山崎:グウェン・マクレエよりもこっちのバージョンの方が内容もいいですね。でも普通なら市場に数の多いグウェン・マクレエを使いそうですが。

水谷:この曲が入っているグウェン・マクレエのアルバムにはもう一つネタものとして有名な曲もあるので、グウェンの「"90%" of Me Is You」はネタとしては定番なのですが、他とは違うことをやってやろうというラージ・プロフェッサーの気概が感じられるチョイスです。

□Looking At The Front Door

水谷:これもまたメイン・ソースの重要な楽曲です。

山崎:これはドナルド・バードの人気曲「Think Twice」ネタですね。

水谷:ATCQ も『People's Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』(1990年)収録の「Footprints」で同じ曲の同フレーズをサンプリングしていますが、厳密に言うと使っている場所は全然違う箇所です。ATCQではフレーズそのままなのに対してこちらはThe Pazant Brothers and The Beaufort Expressの「Chick A Boom」を重ねて使っているあたり、メイン・ソースの方が一歩先に行っている感じがします。「Looking At The Front Door」のシングル・カットは1990年と、この二つはほぼ同時期のリリースなのでどっちが真似したとかはないかと思いますが。

山崎:「Footprints」はStevie Wonderの「Sir Duke」のイントロで始まって「Think Twice」に繋がっているので今聴くと大味に感じてしまいますね。

水谷:メイン・ソースはコーラスというか歌ネタの重ね方がうまいんですよ。普通なら別曲のメロディを重ねるって音と音がバッティングしてうまくいかないと思うんですけどね。相当な技量と努力を感じますね。

山崎:イントロもDetroit Emeralds の「You're Getting a Little Too Smart」を使っていてかっこいい。ビートのセレクトのセンスも抜群です。

水谷:イントロから曲に入る箇所でKen Lazarusの「So Good Together」の声を使用していてそこもハマっている。これもレゲエですね。で、このネタは次に繋がるんです。

□Large Professor

山崎:次の曲はその名も「Large Professor」です。

水谷:この曲のトラックのメインで使われているネタ、以前はわからなかったんですよ。でも好きな曲だったので、この軽快なカッティング・ギターの原曲はなんなんだろうってずっと思っていました。で、その後、判明したんですけど、これも先ほどのKen Lazarusの「So Good Together」なんです。

山崎:調べてみたらこの曲はカナダのモントリオール出身のシンガー・ソングライター、アンディ・キムのヒット曲のカバーなんですね。レゲエ・シーンでもほぼ知られていない、こんな超マイナーな楽曲を91年にチョイスしているなんて驚きです。

水谷:カナダといえばK-CutとSir Scratchもカナダ出身なので、そこでつながってきますね。

山崎:この流れからCharles Wright & The Watts 103rd St Rhythm Bandの曲を経て、The Mohawksの「The Champ」に繋がる流れもスムースですね。The Mohawksはジャマイカ系イギリス人バンドなので、ここでもレゲエ要素が入っている。しかもお決まりのブレイクではない、オルガン部分を使っています。

水谷:ジャマイカ系カナダ人ならではの知識とラージ・プロフェッサーのセンスがあわさったからこそこの曲はできたんだと思います。奇跡の楽曲ですね。

□Just A Friendly Game Of Baseball

水谷:これはLou Donaldsonの「Pot Belly」使いですね。この曲はUltimate Breaks & Beats25th(1991)にも入っています。

山崎:この曲はDivine StylerのIt's a Black Thing(1989)やATCQの「Can I Kick It?」(1990)のB面に入っているシングル曲、「If the Papes Come」(1990)でも使われている定番曲ですね。メイン・ソースもこれはほぼそのまま使用していますが、途中でJBや9th Creation に加えてElephant's Memoryというサイケロックバンドの楽曲「Mongoose」を差し込んでくるあたりのセンスは素晴らしいです。

□Scratch & Kut

山崎:この曲はちょっと珍しい感じですね。ドラムマシン的なビートにその名の通りスクラッチとカットインがメインのインスト曲です。K-CutとSir Scratch、二人のスクラッチもかっこいいですね。

水谷:この曲はタイトルも二人の名前ですし、兄弟がメインなのではないでしょうか。
ザ・サイエンスが幻のセカンドとして、兄弟だけになってしまったサードの『Fuck What You Think』はラージ・プロフェッサー脱退という事実が先行しての低評価ですが、意外と良いネタをサンプリングしているんですよ。そのチョイスは本『Breaking Atoms』でもうかがい知れますし、やはり3人揃っていいバランスなんですね。

山崎:ここまででざっとではありますが、A面の楽曲を解析しました。B面の話は次回ということで。

水谷:B面には「Live At The Barbeque」もありますから。

山崎:これもネタ定番のBob James「Nautilus」を革新的な使い方しているので詳しく分析しつつ、ザ・サイエンスについても触れながらアナライズしていきましょう。


Main Source / Breaking Atoms
https://anywherestore.p-vine.jp/en/search?q=main+source


MAIN SOURCE / THE SCIENCE Limited Test Pressing
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5012/

J.A.K.A.M. - ele-king

 グローバル・ビーツの開拓者として確かな支持を得るJUZU a.k.a. MOOCHY こと J.A.K.A.M. が、11月27日に新たなアルバム『FRAGMENTS』をリリースする。

 本作はJ.A.K.A.M. が2020年にインド・ケララ州でのフィールド・レコーディングを通じて得た体験とサウンドに加え、 2023年にパキスタンのカラチ~ラホール~ペシャワールにおいても敢行された録音による伝統楽器にフィーチャーしたサウンドが特徴だ。スケート・カルチャーに端を発し、世界を股にかけてマイペースに活躍する彼の新境地が体感できるだろう。まさしく収録のトラックタイトル通り「NEW ASIA」な雰囲気漂う本作には、東洋と西洋の間に横たわる断絶が和らぐ未来を目指しつつ、まず「新しいアジア」としての連帯を呼びかけるメッセージも込められている。

 また、「2038年」という時代設定で作られた小説もアルバムと同時進行で制作されており、アジア圏とアラブ圏の文化が混ざり合い、混沌のなかに土の匂いを見出すような世界との触れ方が描写されている。16ページフルカラーブックレット入り。サウンドとあわせてチェックを。

KMRU - ele-king

 ジョセフ・カマル(KMRU)はナイロビ出身、現在ベルリンを拠点とするアンビエント・アーティストである。彼は2020年に〈エディションズ・メゴ〉より『Peel』をリリースしたことでアンビエント・マニアに広く知られることになった。むろん『Peel』以前から彼はアンビエント・トラックを制作しリリースしていたが、やはり老舗エクスペリメンタル・レーベルからのリリースは、彼の名を知らしめる良い機会になった。
 同時に『Peel』はコロナ禍初期段階で制作されたアンビエント・アルバムであった。『Peel』は不安な状況のなかエモーショナルな感情が横溢するようなアンビエントに仕上がっていた。時代の空気を反映したようなアルバムだったのだ。20年以降、ロックアウト下で制作されたアルバムは多くリリースされたが、どの作品もどこか閉塞感から脱したいというエモーショナルなムードに満ちていたと記憶する。『Peel』はその嚆矢ともなった作品ではないかと思う。

 『Peel』以降、カマルの活動はさらに活発化した。特にアルバム・リリースが一気に増えた。またコラボレーション・アルバムのリリースもいくつかなされた。ソロ作では、2021年にリリースされたUKのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Injazero Records〉からリリースされた『Logue』が重要であろう。カマルのセルフ・リリースをまとめたアルバムで非常に貴重なものである。また、ドイツはフランクフルトのレーベル〈Seil Records〉から2022年にカセット/デジタルでリリースされた『Epoch』では、環境音や持続音のサウンドのレイヤーがより繊細かつ緻密に変化した。
 その『Epoch』のサウンドの延長線上にありつつ、カマルの変化が見事に定着したアルバムが同じく2022年にリリースされたアホ・スサン(Aho Ssan)とのコラボレーション作『Limen』であった。スサンの硬質な音響と、カマルのサウンドの交錯が実に見事で、インダストリアル・アンビエントとでも形容したい作品に仕上がっていた。

 今年(2023)にリリースされた『Dissolution Grip』はベルリン芸術大学でジャスミン・グフォンド(Jasmine Guffond)の指導のもと制作された(ジャスミン・グフォンドは〈エディションズ・メゴ〉からアルバムをリリースしている)。リリースはカマル自身が主宰するレーベル〈OFNOT〉からで、その第一弾リリースである。
 サウンド的には『Epoch』と『Limen』の硬質なインダストリアル・アンビエントを発展させたようなサウンドスケープを展開していた。メインのモチーフはカマルが録音したフィールド・レコーディング素材のようで、それを加工することで全編に活用しているという。
 カマルは、まずその音の「波形」に注目した。そしてその波形の形状からスコアを描き、それをシンセサイザーの音に変換していくプロセスを経て、ドローンを生成していったという。要は環境音の波形をシンセサイザーのドローン音で再生してみせたというべきか。その結果、元の音素材である環境音はほぼ原型を止めず、全編を覆う硬質な音響が生成されたというわけだ。
 そのサウンドはメタリックでありながらエモーショナルでもあるという初期から変わらないカマルのアンビエントなのだが、緻密で空間的、硬質なサウンドスケープを構成してもいる。スサンとのコラボレーションの成果を取り入れつつも、自身の音を追求し、より深みのある音響空間を生み出すことに成功したといえよう。アルバムは長尺2曲(デジタル版はボーナストラック1曲追加)が収録されている。 
 アルバムは非常にドラマチックな仕上がりである。1曲目 “Till Hurricane Bisect” の冒頭、遠くからコンコンと何かを打つような音が聴こえてくる。まるで工事現場の音のような音だ。それが次第に音の波に覆われていき、メタリックなドローンに覆われていく。どうやら暴風の音の波形をシンセサイザーに置き換えていったようだが、そのせいか自然現象と人工性が交錯するような不思議な音に聴こえてくるなら不思議だ。音が知覚を侵食するような感覚がある。
 2曲目 “Dissolution Grip” は、音が波のように折り重なり、どこかシンフォニックな音響を生成していくアンビエントだ。1曲目が自然現象の音響化であるとすれば、2曲目は、ドローンによるロマンティックな交響曲とでもいうべきか。この対比は見事だ。
 だが両曲とも本質は変わらない。ドローン/環境音の境界線を越境するような、無化するような、もしく溶かすようなアンビエントなのである。デジタル版には “Along A Wall” という12分22秒のボーナストラックが収録されているが、“Till Hurricane Bisect” と “Dissolution Grip” をミックスしたような音楽性である。ある意味、アルバムの「ダイジェスト」ともいえる曲といえよう。アルバムの「本質」を凝縮したようなトラックだ。単なるボーナストラックにしておくにはもったいほどの出来である。

 『Epoch』と『Limen』以降、より緻密な音響へと変化しつつあるクムルだが、本作『Dissolution Grip』はその彼の「変化」を刻み込んでいる見事なアルバムである。本年、カマルはフィンランドはヘルシンキのレーベル〈Other Power〉から『Stupor』をリリースしている。この二作合わせて聴くことで、彼が目指している最先端のアンビエント/音響空間を聴取できるだろう。新しい「静謐」と「感情」と「知覚」の交錯がここに鳴り響いている。

Ethel Beatty - I Know You Care - ele-king

EX7014

George Coleman - Amsterdam After Dark - ele-king

TWM106

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