「K Á R Y Y N」と一致するもの

世界文学の21世紀 - ele-king

「世界」の意味が変わりつつある時代の「世界文学」とは?

いま、文学の世界では何が起こっているのか。世界の中で文学はどんな位置にあるのか。

人気の翻訳者であり研究者であり教育者である著者が、ドラマや映画、音楽など異なるジャンルも絡めつつさまざまトピックから現代文学の潮流を紹介!

音楽、美術、ノンフィクション、建築、情報技術といった分野で活躍するゲストとの対談も掲載、現代文学の最先端との交点に迫ります。

目次

単純な脳への抵抗──まえがき

第1話 「ジュノとコンマリ」
第2話 韓流のアメリカ
第3話 韓国文学の恵み

対談「ヒップホップと反ロマン主義」(大和田俊之)

第4話 半沢と渋沢
第5話 前立腺の教え

対談「言葉と意味から離れて」(椹木野衣)

第6話 世界の狭間
第7話 温もりと尊敬
第8話 すべてのものに仏性あり

対談「ちゃんとしたことって窮屈ですよね」(寺尾紗穂)

第9話 みんな娘がほしいわ
第10話 家に蛇がいると幸せになる

対談「モダン、ポスト・モダン、そしてオルタナティヴ・モダン」(五十嵐太郎)

第11話 フランスお洒落帝国
第12話 アイス売りのおじさんとの再会

対談「身体という他者と共存する」(ドミニク・チェン)

第13話 聖霊とテクノロジー
第14話 空に書かれた名前

あとがき

都甲幸治(とこう・こうじ)
1969年福岡生まれ。翻訳家、早稲田大学文学学術院教授。著書に『引き裂かれた世界の文学案内──境界から響く声たち』(大修館書店)、『「街小説」読みくらべ』『今を生きる人のための世界文学案内』(立東舎)、『21世紀の世界文学30冊を読む』(新潮社)、訳書にジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(共訳、新潮社)、『わたしの島をさがして』(汐文社)、チャールズ・ブコウスキー『勝手に生きろ!』(河出文庫)、ジャクリーン・ウッドソン『みんなとちがうきみだけど』(汐文社)などがある。 読売新聞(2010-2011)、朝日新聞(2018-)書評委員。


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Chari Chari - ele-king

 冒頭から私ごとで恐縮だが、自粛期間でジャズをたくさん掘る機会に恵まれた。見つけたアルバムのひとつにアルバート・アイラー『Music Is the Healing Force of the Universe』という作品がある。1969年リリース、遡ること約50年前のフリー・ジャズ。内容もさることながら、アルバムのタイトルにとくに強く惹かれるものがあった。『音楽は万物の癒しの力』音楽と同時に言葉の持つチカラは本当に偉大だ。そしていまから紹介するChari Chari『We hear the last decades dreaming』も音楽、そして言葉の持っている「癒しの力」を携えた1枚になっている。

 20年以上のキャリアを誇るDJ/プロデューサー、井上薫がChari Chari名義で放った新作。この名義では実に18年ぶりとなるアルバムで、2016年に12インチレコードでリリースされた「Fading Away / Luna De Lobos」などを含む全12曲が収録。「作曲、ミックス、マスタリング、という行程をある時期から完全に独りの作業として行っていった」と自身のブログでも語るように(是非このブログもレヴューと併せて読んでいただきたい)細部まで非常に拘り抜かれたアルバムになっている。

 イントロやアウトロなどを除けばほぼ全てが6分〜10分を超える非常に濃い内容の楽曲が揃っており、電車窓の情景を思い起こさせるような1曲目“Tokyo 4.51”が現実からアルバムが秘める異世界への橋渡しになっている。アルバムを何度か聴いていくと大きく分けて3つの構成に分かれているように感じており(是非機会があればご本人に確認したいところ)、それぞれのトラック・タイトルに“Dream = 夢”“Agua = 水”“Haze = 霧”と一寸先の見えないような幻想的な世界観が広がる1〜4曲。幻想を飛び出し、山奥や草原といった大自然の力を感じるような5〜8曲。そしてエレクトロニックでダンス・ミュージックのグルーヴも併せ持った9〜12曲。どれも井上薫自身のバックグラウンドでもある民族音楽やアンビエント、ミニマルなサウンドがこのアルバムの随所にも散りばめられており、それらが絶妙なレイヤーで増えたり減ったりを繰り返す。

 サウンドと並行してアートワークやタイトルにも強烈なメッセージが印字されており、ジャケットに記された「Music for Requiem Ritual」= 「安息の儀式のための音楽」がこのアルバムの最大のコンセプトになっている。奇しくも2020年、コロナ禍という人類の価値観や経済活動を覆す節目でリリースされたこのアルバムは18年という時を超えて本当に奇跡のような絶妙のタイミングでリリースされたとしか言いようがない。引き続き先行きの見えない世の中に不安を抱えながらも、このアルバムが持つ「癒しの力」にどっぷりと浸かりながら、過去そして未来の10年、20年(decades)に想いを馳せるのがリスナーとしてのアルバムのアンサーになるのかもしれない。

 往年の井上薫 / Chari Chariファンはもちろん、今回初めてChari Chariの存在を知った人にとっても、この挑戦的でコンセプチュアルなアルバムを是非一度聴いて欲しいと思うし、このレビューが少しでもそれを後押しできれば幸いだ。

Arca - ele-king

 暗い部屋、居心地の悪い場所、恥辱の物語、そんなものこだわる必要がアレハンドロ・ゲルシにはあった。
 「そんなわけで、僕のこれまでの人生というのはずっとこう、思うに……“中間に存在する”っていう瞬間の集積なんじゃないかな。で、“中間点”っていうのは、普通はみんなが避ける場所なんだよ。というのも、ものすごく居心地の悪い状態だから」
 2017年のele-kingのインタヴューにおいてゲルシはそう語っている。
 自分にはアクセントがないとゲルシは言う。ヴェネズエラで生まれながら、ヴェネズエラの訛りなしの英語で話す。ふたつの言語をアクセントなしで喋っている。それは彼がアメリカにもヴェネズエラにも所属意識を持てないこととも関係し、また、ゲルシのジェンダー感覚にも及んでいる。“中間に存在する”ということ。それはアルカの『Xen』や『Mutant』における、ときには苦しみの籠もった過酷な電子音が描いたところであろう。
 ゲルシは言う。「まず、“自分はドロドロの沼地の中に立っている”、そういう図を想像してみてほしい。で……そこは何やら暗い場所で、しかも沼は毒を含んだ有害なもので。その水に、きみは膝まで浸かっている。いや、もっとひどくて、胸までその水に浸かった状態、としよう。ところが、そんな君の頭上には、白い光のようなものが差している、と。だから、その有毒な水というのは、きっと……深淵や罪、そして悲しみすら表現しているんだよ」
 
 アルカにおける抽象的で、他の誰とも違う電子音響や前作『Arca』におけるオペラまがいの歌も、ゲルシの痛みのヴィジョンであり、おおよそゲルシの自己表現である。自分を晒すことがそのまま表現に繫がるというのは誰にでもできることではないが、ゲルシにはそれができる。できてしまえる。あらためて“Nonbinary”のMVを見よう。半透明の身体の彼女は妊娠する。ロボットの外科医たちのメスが入るそのアナーキーなペルソナは、これまでのアルカ作品に見られた支離滅裂さに表れているが、しかし妊娠を果たした彼女が妖しく再生するように、4枚目のアルバムとなる本作『KiCk i』は、ひらたく言えばポップになっている。リズミカルで、ダンスホールで、しかもレゲトン(乱暴に喩えるなら、現代音楽やスカしたIDMの対極にある下世話でラテンなダンス)である。アルバムとして音楽的に、しかもアルカのテイストとしても整合性がある。
 3曲目の“Mequetrefe”がとくに素晴らしい。それは突然変異したレゲトンで、ソフィーをフィーチャーした“LaChíqui”は異次元でうごめくIDMだ。Shygirlのファスト・ラップが入る“Watch”もそうとうにイカれたUKガレージで、破壊的なリズムがマシンガンのように音を立てている。ポップ……いや、過去の3作と比べればずっと間口が広いとはいえ、ゲルシの世界は変わらずそこにある。官能的だがなんとも言えない緊張感があり、あまりにも奇妙。しかもそれをゲルシはわかっていてやっている。ビョークも参加し1曲歌っているが、彼女のパワフルな声をもってしても……アルカの世界はアルカの世界として成立している。
 
 前掲のインタヴューでゲルシはこうも言っている。
 「たとえば僕が自ら“恥だ”と感じるような物事、それらを僕は……祝福しようとトライする、というか。自分を悲しくさせてきたいろんな物事、それらのなかに、僕は……美を見出そうとする」
 これはわかりやすい作品解説に思える。彼の世界では、いや、誰の世界であっても、ダークサイドはある。が、そのなかにさえも“美を見出そうとする”ことはリスクもある。そうでもしなければ壊れてしまいそうな心があったとしても。
 「だから単純に公平でニュートラルというのではないし、ただたんに“自分が楽に存在できる空間を作ろうとする”ではないんだよ。そうではなく、自分が自分のままで輝けるスペースみたいなものであり、かつ……自分は愛情を受けるに値するんだ、そんな風に感じられる空間、ということなんだ」
 そういう意味で『KiCk i』は、その空間に初めて他者を招き入れることに成功している作品なのかもしれない。なにせここにはダンスがある。それにこの展開は驚きではない。アルカの音楽は異様で、ジェンダーを上書きしたとしても、彼女は自分を見失ってはいないのだから。


※ご存じの方も多いかと思いますが、ミックステープ作『&&&&&』がリマスタリングされて9月18日に〈PAN〉からリリースされます。

STONE ISLAND - ele-king

 〈STONE ISLAND〉といえば、サッカー・ファンにはもうカルト的人気のファッション・ブランドです。日本でもプレミア・リーグが好きだったりすると、このブランドに憧れてしまうものなんですよ、理由は省きますが。まあ、〈フレッド・ペリー〉のようにライフスタイルにまでおよぶブランドのひとつですね。
 で、その〈STONE ISLAND〉が地元イタリアで評判のオルタナティヴやエレクトロニック・ミュージックに特化したフェス〈C2C〉と手を組んで、「STONE ISLAND SOUND」なる音楽プロジェクトをはじめた。プレイリスト作成やレコードのリリースなど、いろいろやっていくようです。ショップでもいろいろ音楽関係が売られるそうんで、楽しみです。
 なお、プレイリストはBandcampやBuy Music Club、Spotify、Tidalといった様々なプラットフォーム上で展開されるとのこと。たとえばこんな感じです。いいじゃないですか、ele-kingとも親和性が高いリストですよ。


https://buymusic.club/list/stoneisland-stone-island-sound-curated-by-c2c-festival-selection-1

the perfect me - ele-king

 90年代の日本のオルタナティヴを代表する〈トラットリア〉レーベルの系譜にあり、現在は七尾旅人や羊文学のリリースで知られる〈felicity〉がまたしても面白い新人をデビューさせた。福岡のインディ・シーンから西村匠のソロ・ユニット、the perfect me。名前はDEERHOOFの曲名から取られたというが、ひとことで言えば、トクマルシューゴやコーネリアスないしは石橋英子をも彷彿させるアヴァン・ポップの旗手です。
 アルバムには、白根賢一(GREAT 3,manmancers)、高桑圭(Curly Giraffe)といった実力者も参加。こんな時代でも瑞々しい音楽は生まれている。そのアルバム『Thus spoke gentle machine』は今週水曜日に発売されています。チェックしましょう。
 ※なお、〈felicity〉はこの後、みぃなとルーチなる謎の新人のデビュー作も控えているそうで、これも楽しみな作品になりそうです。


the perfect me
Thus spoke gentle machine

felicity
https://tpm-music.com/


Eartheater - ele-king

 アースイーターが〈PAN〉から4枚目となるアルバムをリリースする。前作『IRISIRI』とは打って変わって電子音響をほとんど使わず、ギター中心の作品となっている。アルバムのタイトルは『Phoenix: Flames Are Dew Upon My Skin』。スペインのサラゴサに滞在して制作されている。リリースは10月12日。以下、先行で公開されたMVです。彼女らしいというか、なんとも異形なアコースティック・サウンドですねぇ。

A Certain Ratio - ele-king

 これがじつに格好いい曲なんですよ。ACR(ア・サートゥン・レシオ)の12年ぶりのアルバム『ACR ロコ』に収録された“Yo Yo Gi”。ラテン・パーカッションからはじまりハウスへと展開するダンス・トラックで、長年マンチェスターでニュー・オーダーとともにバンド形態によってダンス・カルチャーにコミットしてきたベテランだけのことはある。今年のはじめに来日した際にフィールド・レコーディングした山手線のアナウス入りの曲で、MVにも東京で撮影された風景が流れている。



 1978年に始動したACRは、ジョイ・ディヴィジョン/ニュー・オーダーとともにマンチェスターの〈ファクトリー〉を代表するバンドとしてデビュー。レーベルの1枚目のシングルがACRだった。また、ニュー・オーダーはエレクトロを介してダンスフロアへと接近したのに対して、ACRはファンクとラテンのリズムをもって向かった。80年代なかばに脱退した初期メンバーは、のちにクアンド・クアンゴへと、そしてUKで最初期のハウス・プロジェクトのT-COYへと発展する。いっぽうのACRはメジャー契約後の80年代後半にいきなりシングル「The Big E」とフランキー・ナックルズのリミックス擁する「Backs To The Wall」をリリースするという、まさにUKダンス・カルチャーととに生きてきている。2000年代初頭におきたポストパンク・リヴァイヴァルにおいて、もっとも再評価されたのがACRで、12年ぶりのアルバムになる新作『ACR ロコ』は彼らの40年の集大成的な内容になっている。9/25発売まで待とう。

Julianna Barwick - ele-king

 昔から……、といってもたかだか数十年の話だが、ある言い伝えに、ポップ・ミュージックの20周期説がある。ポップのモードは20年で一週するので20年ぐらい前が新しく、10年ぐらい前がいちばん古く感じるというわけだ。この説を鵜呑みするわけではないけれど、ここ最近のシーンの動きで面白くなりそうだなと思っているひとつはインプロヴィゼーションで、これは『The Wire』の寄稿者ジェイムズ・ハットフィールドからグラスゴーのStill House Plantsを教えてもらって、やや確信に近づいている。70年代のカンタベリー・シーンの系譜におけるもっとも先鋭的だったアート・ベアーズをUKにおける即興の先駆AMMと交差させながら、ポストパンクのフラスコのなかで蒸留させたかのようなサウンドは、20年前のフリー・フォークを思い出させる。(そしてSHPのほかにも興味深いアクトがいくつかいる)

 そうなると、およそ10年前に登場したジュリアナ・バーウィックは現時点においては古い音楽になるわけだが、どうだろう。うん、たしかに懐かしいかもしれないし、自分の時間感覚もだいぶ狂っているので、もうよくわからないというのが正直なところだ。
 『The Magic Place』はよく聴いたし、ノー・ニューヨーク一派のひとり、イクエ・モリとの共作も忘れがたいアルバムだ。この当時は、おお、こんなユニークで美しい、しかも喜びに満ちたエレクトロニック・ミュージックを作る人がブルックリンから出て来たとずいぶん感動したと記憶している。
 そしてバーウィックが喜びであるなら、まるで同じカードの表裏のようにポートランドには憂鬱なグルーパーがいた。このふたりは、まず自分の声にリヴァーブをかけ、それを抽象的なレヴェルで使うという点で似ている。ロングトーンを多用したメロディもじつは似ている。が、そよ風に揺れる新緑のバーウィックと廃墟でひとり佇むグルーパーとでは、その音楽の色味や性格は正反対のように見えがちである。ノートパソコンのバーウィックとギターのグルーパー。ぼくがその後熱心に聴き続けたのは、言うまでもなく後者のほうだった。
 
 これは半分笑い話というか、日本人の適当さにも依拠する話だが、初来日が品川の教会だったバーウィックと上野方面の禅寺だったグルーパーというのも、まあ、象徴的ではある。グルーパーの禅寺というのは、これはしかしたまたまというか、いや、あまり深く考えずに、ホントにたまたまそうなっただけなのだろうが、バーウィックの教会というのはバーウィックだからそうなったのだろう。
 わからなくはない。彼女の音楽には神聖さがある。それは宗教的ということではない。ある種の清らかさということである。だいたい本人は、先日掲載したインタヴューにあるように、けっこう気さくな方だったりするし。

 昨年のDAZEDに掲載された彼女のインタヴューの最後の発言に、こんな言葉がある──「できる限り、地球の現状と悪に対抗する方法を考える必要がある。そして人生を楽しむこと。人生はいまでもほんとうに素晴らしく、ほんとうにそうなんだから」
 まるで大島弓子の『バナナブレッドのプティング』の主人公が物語の最後につぶやく言葉のようじゃないか。そうかぁ、なるほどなぁ、わかってきたぞ。バーウィックとはつまり、たとえどんな苦難があろうとも最終的には「人生は素晴らしい」と言えるのであって、だから彼女の音楽からは喜びが聴こえるのだろう。それは逞しさと言えるものかもしれない。

 新作『ヒーリング・イズ・ア・ミラクル』は、彼女がブルックリンからLAに引っ越して作った作品で、通算4枚目のアルバムとなる。階層化されたループを基調とする彼女のコンポジションは、ベルリンのベーシック・チャンネルのミニマル・ダブと同様にひとつの発明だ。グルーパーもそうだが、最初から彼女は自分の“サウンド”、自分の“型”を持っていた。3人のゲスト(ハーブ奏者のメアリー・ラティモア、シガー・ロスのヨンシ―、LAビートメイカーのノサッジ・シング)が参加しているものの、基本的には『The Magic Place』の頃と大きな変化はない。音数は最小限で、声が電子的に加工され、そよ風のような音響が展開されている。ただ、その音響の階層にある隙間はより広く、空間的で、より心地良く、清々しくもある。しかもその音響は、ぼくが思うに『The Magic Place』の頃よりもグルーパーに近づいている。そう思えてならない。
 4年前にThe Quietusで、彼女のオールタイム・フェイヴァリット・アルバムを紹介する記事があった。そのなかで彼女は、アニマル・コレクティヴからの影響を語り、ビュークやホイットニー・ヒューストンやニュー・オーダーのファンであることを明かし、また、アーサー・ラッセルやスフィアン・スティーヴンについて話し、そしてグルーパーへの惜しみない讃辞を述べている。「私はこれまで彼女が出した作品すべてを持っている」、バーウィックは話をこうはじめると「素晴らしい、まったく素晴らしい」と手放しに誉めつつ、「彼女には部屋を静かに破壊する術がある。(略)彼女のパンクの美的表現が好きだし、それはとてもクール」だと言う。

 そのときようやくわかった。彼女がイクエ・モリと共演したのも、たまたまではなかったと。ぼくはジュリアナ・バーウィックを聴き直さなければならない。それは古くはなく、いや、それどころかこれから必要とされるであろう、パンクの美的表現の一種として。

Roedelius - ele-king

 1973年のことである。69年よりベルリンを拠点に、エレクトロニック・ミュージックにおいてフリー・ジャズにも似たアプローチで、名状しがたい嵐のような抽象的な音楽(ないしは非音楽、ないしはインダストリアル・ドローン)をやっていた元Kluster/Clusterのふたり──ハンス・ヨアヒム・レデリウスとディター・メビウスは活動の場を西ドイツの片田舎、ヴェーザー高地のフォルスト村へと移した。グリム童話にちなんだ土地とも遠くはない。クラスターの『Sowiesoso』のジャケットにあるような、ドイツの田舎らしいロマンティックで美しいところなのだろう。とにかくふたりはその村にあった家をスタジオに改築し、そこから数々の名作を録音することになる。ハルモニアのアルバムがそうだし、よく知られるようにアンビエントを志したイーノがまず訪ねたのも森のなかの彼らのスタジオだった。つまりクラスター&イーノが生まれ、そして最初のレデリウスのソロ・アルバム(ないしは『Selbstportrait』の2枚の音源)も録音されている。クラスターにとっての黄金期はフォルスト時代である。
 本作『Tape Archive Essence 1973-1978 』は、タイトルがいうように黄金期におけるレデリウスのいままで表に出さなかった個人的な記録であり、音のスケッチ集で、それらはRevox-A77のテープマシン、Farfisaオルガン、エコー装置とシンセサイザー、4トラックのレコーダーによって描かれている。
 また、じつをいえば本作は、2014年に同レーベルから3枚組のボックスで限定リリースされた未発表音源集のダイジェスト盤なのだが、CANのそれと同様、本作はコアファン向けの商品なんかではない。オリジナル作品と並べても何の遜色ないどころか、ヘタしたらこっちのほうがいいのではないかと思えるほどの内容になっている。

 牧歌的で、穏やか(ピース)で切なく(メランコリックで)、控え目な実験と遊び心がある──レデリウスの作品の特徴を要約すればそんなところだが、しかしそうした陳腐な説明を越えたところに彼の音楽はある。モダン・クラシカルの先駆者なんていう評価もあるようだが、ぼくが彼の音楽を聴き続けているのは理由がある。極めて個人的な理由だが、ぼくはレデリウスによってシラフでいることの素晴らしさ、気持ちよさを教えられたと言っていい。まあ、これも陳腐な表現か(笑)。
 いいや、先に進めよう。このアルバム、1曲目“Nachtens in Forst'”の神秘的な静寂からして相当なものだ。そして2曲目には、彼らしい遊び心あるピアノ曲“Springende Inspiration”が待っている。
 レデリウスの音楽は甘ったるくもなく、また夢幻的なところもない。それはリズムの入った“Lied Am Morgen”にも通じる。田園風で、曲はメロディアスなのだが、音楽はこの現実からどこにも連れていかない。エレクトロニックな反復であっても、クラフトワークのようにトランスさせることはない。口当たりばかりが良いニューエイジとも違う。それでいてこの音楽は、リスナーの気分を良くするのである。
 現在80代もなかばにいるレデリウスは、自らの音楽をいみじくも「荒れ狂う平和(A Raging Peace)」と形容している。戦争を経験し、壁が作られる直前に東から西へと身を移し、戦後ドイツの混乱のなかで貧困を経験し、さまざまな職(マッサージ師や看護師など)を長い間やりながら、運命というか何というか、よりによって天才コンラッド・シュニッツラーの導きによって音楽の世界に入っている。Klusterをはじめたとき、彼はすでに30代半ばである。
 そんな彼のタフな人生経験からすれば、穏やかさにはつねに痛みが隣接しているのだろう。楽天的ではあってもイージーではない感覚が、彼の牧歌的な音楽には通底している。
 “Rokkokko”はクラスターがもっともポップに接近した『Zuckerzeit』の頃の音源だろうか、ミニマルなピアノフレーズに無機質なリズムボックスがフィーチャーされているが、それでもこの曲が描くのはドイツのカントリーサイドであり、生い茂る緑や透き通った空気、こころ踊る田舎道だ。アルバム中盤の“Skizze 4 Von 'By This River'”と最後に収められている“Skizze 3 Von 'By This River'”は、『Sowiesoso』の写真で見られるような田園を流れる川へのオマージュだろう。そしてすべての音響には、当時の録音による独特のこもり具合の温かみがある。(アルバムのインナーにはフォルスト村の写真、そして当時の使用機材の写真も掲載されている)

 芸術の都ケルンのネルフェニッヒ城をスタジオにしたCAN、商業都市デュッセルドルフにおけるクラフトワークのクリングクラング・スタジオ、そして、ヴェーザー高地の田園のなかの一軒家を拠点としたクラスター。場と音楽性はやはり関係しているのだろう。エイフェックス・ツインの『セレクテッド・アンビエント・ワークス85-92』がコーンウォールの彼の実家の部屋で作られたように、クラスターひいてはレデリウスは、エレクトロニック・ミュージックとは必ずしも工業都市や都会の音である必要はないという道を開拓した。

 (追記)なお、1934年生まれのこの長寿のエレクトロニック・ミュージシャンは、同時にまったくの新作『Selbstportrait Wahre Liebe』も発表しているが、これもまたお茶目で、穏やかで、切なく、しかし悲しくはない。

R.I.P. Malik B - ele-king

 唯一無二のヒップホップ・バンド、The Roots の初期メンバーであるラッパーの Malik B こと、Malik Abdul Basit 氏が2020年7月29日に亡くなった(享年47歳)。死因は明らかになっていないが、ネット上にて Malik B の死の噂が広まってすぐに、彼の従兄弟でCBSニュースの元特派員である Don Champion 氏が Twitter で追悼のメッセージをポストしたことによって訃報が事実であることが判明。さらに The Roots の Questlove、Black Thought らも相次いで追悼の意を表す投稿を Instagram にて行ない、世界中の The Roots ファンへと悲報が伝わっていった。

 80年代後半、同じフィラデルフィアのアート系の高校に通っていた Questlove と Black Thought によって The Roots の原型となるグループが結成され、その後、大学へと進学した Black Thought が親戚の紹介で出会い、共に活動することになったのが同じくフィラデルフィア出身の Malik B であった。高校の時点ですでに生楽器によるバンドスタイルでライヴを行なっていた彼らであるが、Black Thought がグループのメインMC、そしてサイドMCである Malik B はサポート・メンバーという立ち位置でフィラデルフィアやニューヨークでライヴ活動を重ね、バンド・メンバーを少しずつ増やしながら、ヒップホップ・バンドとしてのフォーマットを固めていく。ちなみに The Roots の 1st アルバム『Organix』は、彼らの初のヨーロッパ・ツアーに合わせて1993年に自主制作でリリースされたものであるが、(すでに共にライヴ活動はしていたにもかかわらず)実はこのアルバムのレコーディングの時点ではまだ Malik B はグループの正式メンバーではなく、このヨーロッパ・ツアーのタイミングで正式にメンバーになったという。1995年にリリースされた、彼らのメジャー・デビュー作でもある 2nd アルバム『Do You Want More?!!!??!』のジャケットには右から Questlove、Black Thought、そして Malik B の3人が並び、Malik B は名実ともに The Roots の看板を背負う立場になった。
 いまでは人気テレビ番組『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』のハウス・バンドを務めるなど、アメリカを代表するヒップホップ・グループのひとつとして高い知名度を誇る The Roots であるが、デビュー時の彼らはヒップホップ・シーンの中で実に異端な存在であった。90年代のヒップホップ・シーンはサンプリングによるプロダクション全盛期であり、生楽器でのバンド・スタイルでのヒップホップ・グループは、少なくともメジャー・アーティストでは彼ら以外は存在しておらず、大半のヒップホップ・ファンにとっては未知の存在であった。しかし、バンド・スタイル以前に、Black Thought と Malik B という二人のMCの素晴らしさは誰が聞いても明らかであり、The Roots にヒップホップ・グループとしての絶対的な価値があるということに皆が気付くようになるにはさほど時間はかからなかった。
 4枚目のアルバムとなった『Things Fall Apart』(1999年)のリリース後、Malik B はグループを脱退するが、Black Thought と Malik B の2MC体制であった時期の The Roots は、文字通りの黄金期であった。80年代から90年代にリリースされたヒップホップの名作アルバムを紹介している書籍『Check THe Technique』の中で、Questlove はこのふたりのMCについて、Black Throught を「明快で論理的」、Malik B を「抽象的」とコメントしている。いわゆるバトルライムを得意とする Black Thought は、ヒップホップ・シーンの中ではまさに正統的なスタイルであるが、それとは対照的なアブストラクトなスタイルの Malik B という存在があったからこそ、ふたりが絶妙なバランスで絡み合う3枚のアルバム『Do You Want More?!!!??!』、『Illadelph Halflife』、『Things Fall Apart』は、いまもヒップホップ・クラシックとして輝き続けている。
 Malik B は2006年リリースの『Game Theory』にてグループへ再合流し、2008年リリースの『Rising Down』にも参加しているが、共にクレジット上ではゲスト・アーティスト扱いとなっており、残念ながら正式にメンバーとして復活はしていない。一方でグループ脱退後には、ソロでのEPやニュージャージー出身のプロデューサー、Mr. Green とコラボレーション・アルバムなどもリリースするなど、ラッパーとしての活動は継続していただけに、47歳という年齢で亡くなったことは実に残念である。

 最後に、日本のヒップホップ・ファンにとっては、Malik B の名を聞いてDJ Krush “Meiso” を思い出す人も多いだろう。1996年にリリースされた同名のアルバムにも収録されたこの曲には、Black Throught と Malik B が揃ってゲスト参加しており、90年代当時の DJ Krush を代表する一曲でもある。自らのヨーロッパ・ツアー中に The Roots の存在を知ったという DJ Krush は、おそらく日本人の中でもいち早く彼らの魅力に気づいた人物だ。シンプルでありながら、独特の存在感を放つ DJ Krush のビートに乗って展開される、Black Throught と Malik B のマイクリレー。ラストの「With DJ Krush from Japan, so no more need to discuss」という Malik B のライムを心に刻みながら、哀悼の意を表したい。

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