「Nothing」と一致するもの

「どこへ?」 - ele-king

 恵比寿リキッドルームのサブ・フロアとしても知られるTimeOut Café & DinerとKATAの2会場にて、目的なく音楽に没頭することをコンセプトとしたリスニング・イヴェント「どこへ?」が9月13日(土)に開催。
 
 岡田拓郎によるソロ・ギターセットからMOODMAN、Shhhhhの2名による非ダンス的アプローチなDJセットまで、ほかではなかなか体感できないサウンド・テクスチャーに触れる絶好の機会となりそうです。

Simon Frank - ele-king

 Mars89が主宰するレーベル〈Nocturnal Technology〉より、カタログ10枚目を飾る新譜のリリースです。

 カナダに出自を持ち上海を拠点に活動する音楽家・サイモン・フランクによるアルバム『VICTIM OF A NEW AGE』は、ブルボンズ・クオークやフラックスなどの影響下にある9曲入のEBMライクな作品で、レーベル曰く「アウトサイダーポップとダンス、オールドスクールと未来志向が交錯する、ポストパンク・エレクトロ」とのこと。かような矛盾を両立させることであらたな視点を浮かび上がらせるような作風は、まさしく日本の音楽家・Mars89の持つ美学と通ずるところもあり、上海と東京の2都市をつなぐ1枚であることがうかがえる。

 マスタリング・エンジニアにはTorei名義で音楽家としても活動するRei Taguchiが参加、闇夜に立ち現れるアンダーグラウンドの美学をひしひしと感じられつつ、「ニューエイジの犠牲者」という皮肉なタイトルにはかつてレイヴがわれわれに見せてくれた夢のつづきが投影されているような気も。デジタル/カセットともにBandcampにて発売中。

Artist: Simon Frank
Title: VICTIM OF A NEW AGE
Label: Nocturnal Technology
Format: Digital / Casette
Release Date: 2025.8.21
Buy / Stream: https://nocturnaltechnology.bandcamp.com/album/victim-of-a-new-age

Tracklist:

1. Premonition
2. Unmask
3. Cave
4. Attrition
5. Puppetmaster
6. Shopping Mall
7. Pass
8. Classic Cars
9. Victim of a New Age

Composed by Simon Frank
Mastered by Rei Taguchi (Saidera Mastering)

 Mars89主宰のレーベルNocturnal Technologyより、上海を拠点に活動するカナダ出身のプロデューサー、サイモン・フランクによるNew-Wave / EBMスタイルのアルバムVICTIM OF A NEW AGEが登場。ミニマル・シンセのソングブックからそのまま抜け出したような皮肉っぽいボーカルが、アシッドなベースライン、歪んだブレイクビーツ、渦巻くダブ・エコーと組み合わさり、全体を通してオールドスクールでアナログライクな雰囲気を保ちながらも、断固として未来志向なアルバムとなっている。

アーティスト・ステートメント:
2021年の夏に前作のアルバムをリリースしてから数か月後、私はElektron Digitaktのサンプラーを購入した。しばらくの間、かなり限られた機材で音楽を作ってきたので、サンプルや、より直接的でない構造でどう実験できるか試してみたかった。制作には時間がかかった。理由の一つは北京から上海への引っ越しであり、もう一つは2022年の中国での生活がコロナ禍の影響でやや不安定だったからだ。しかし最終的に、新しいサンプラーを使ってブレイクビーツを演奏・加工する方法を習得し、それが新たな可能性を切り開いた。そして、産業音楽やパンクが新しいテクノロジーによってより柔らかくファンキーなものへと変化した2枚のアルバムのことを考えるようになった。Bourbonese Qualkの My Government Is My Soul とFluxの Uncarved Block だ。Bourbonese Qualkのアルバムを初めて聴いたとき、あまりにもアンダーグラウンドな作品なのに、子どもの頃に初めて触れたエレクトロニック・ミュージック——Fatboy SlimやThe Chemical Brothers——を思い起こさせたことに驚いた。私はそれと同じように、奇妙でありながら耳に残り、そして少し素直さを恐れないようなエネルギーを持つ作品を作りたいと思った。
 私は普段、自宅で曲を書き、その後ライブで演奏して、うまくいく部分、そうでない部分、そして即興の中で現れる細かなディテールを確認している。今作の全曲も、ロックのライブハウスやダンスミュージックのクラブで演奏しながら練り上げた。
 キックドラムが4つ打ちのときでも、パーカッション、サンプル、シンセラインを使って、リズムに動きや、見かけ以上の複雑さを与えるように心がけた。よりブレイクビーツ主体やテンポの遅い曲を作る際には、90年代に子どもとして聴いた音楽の曖昧な記憶を思い出していた。それは、前述のメインストリームなアーティストだけでなく、当時父がよく聴いていたBill Laswellのプロジェクトや、最近になって知ったScornやTechno Animalといったアーティストも含まれる。また、スウェーデンの The Flesh-Eating Bugs の2022年のアルバム Melting Pot にも影響を受けた。この作品は、まるでブレイクビーツを用いて作られたノイジーなインディーロックのようだ。「Premonition」は、非常に霧の濃い午後に、自宅近くの明代の墓の周囲を散歩した後に書いたもので、そのゴシックな音はその影響かもしれない。「Pass」については、書き始めたときには意図していなかったが、プロト・ダブステップのような響きがあるところが気に入っている。
 上海は多くの点で北京よりも暮らしやすいが、容赦なく商業主義的でもある。いくつかの歌詞を書くときには、文化が単なる消費の対象にすぎない場所で文化を創るということがどういう意味を持つのかについて考えていた。アルバム制作の終盤にはウィリアム・ギブスンの作品を多く読んでおり、その先見的で(暗い)未来像だけでなく、過去のイメージや観念が私たちをどのように付きまとっているかという彼の描写にも刺激を受けた。振り返ってみると、このテーマは「Victim of a New Age」や「Classic Cars」にも現れていると思う。

アーティストバイオグラフィー
サイモン・フランクはカナダに生まれ、ニューデリーと北京で育ち、現在は上海に在住している。彼は高校生の頃に音楽活動を始め、2008年のオリンピック前後に中国の首都で芽生えたアナーキーなノイズおよび実験的ロックのシーンに参加した。インド古典音楽や自由即興から着想を得た濁ったドローンやループによる実験を経て、彼の音楽は徐々にポストパンク・エレクトロニクスへの独自のアプローチへと進化し、アウトサイダー・ポップと没入型のダンスミュージックが同等の割合で融合するスタイルとなった。ミニマル・シンセのソングブックから抜け出したような皮肉げなボーカルが、腐食性のアシッドハウスのベースライン、重く響くドラムマシン、歪んだブレイクビーツ、渦巻くダブ・エコーの塊、そしてダンスホール特有の低音圧と結びついている。
サイモンは、兄でありGong Gong Gongのメンバーでもあるジョシュ・フランクとのデュオ Hot & Cold、アレックス・チャン・ホンタイとオースティン・ミルンとの Love Theme、そして Love Research Institute といったバンドで活動してきた。自身のイベント・シリーズ XMQ Presents を通じて、John T. Gast、Phuong-Dan、Tolouse Low Trax、First Hate、Yearning Kru といったDJやアーティストを招聘している。

instagram: https://www.instagram.com/sf_xmq/

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Nocturnal Technology
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Valentina Magaletti & YPY - ele-king

 これは見逃せない共作だ。ロンドンのドラマーにして作曲家、これまでニコラス・ジャーなどとのコラボ経験もあるヴァレンティーナ・マガレッティ(トマガやホーリー・タンとしても活動)、昨年はニディアとの鮮烈な共作を送り出している彼女が、goatKAKUHANなど野心的な活動をつづけている大阪の日野浩志郎(YPY名義)とタッグを組んだ。ドラムス&パーカッションと電子音がせめぎあう、息を呑むような音響空間を堪能すべし。

artist: Valentina Magaletti & YPY
title: Kansai Bruises
label: AD 93
release: 22 August 2025

tracklist:
1. One Hour Visa
2. Kansai Bruises
3. Float
4. Lantern Lit Run
5. Her Own Reflection
6. Silhouette
7. Interlude for Fog Days
8. Pesto

https://ad93.ochre.store/release/518490-valentina-magaletti-ypy-kansai-bruises

Terry Riley - ele-king

 強力なアイテムの登場だ。テリー・ライリーが〈コロムビア〉に残した4作品、それらをまとめたボックスセットがリリースされる。60年代に録音された問答無用の『In C』と『A Rainbow in Curved Air』はもちろんのこと、70年のジョン・ケイルとの共作『Church of Anthrax』、そして80年の『Shri Camel』まで網羅した豪華なセット。ブックレットも充実しており、セッション時の写真やオリジナルのライナーノーツ、新たなエッセイに加え、日本仕様盤ではそれらの翻訳と、別途日本語解説もつきます。発売は明日、8月27日。

テリー・ライリーがColumbiaレーベルに録音した名作4題をボックス化

テリー・ライリー
「コロンビア・レコーディングス」

(インC/ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー/チャーチ・オブ・アンスラクス/シュリー・キャメル)
TERRY RILEY / THE COLUMBIA RECORDINGS
(In C / A Rainbow in Curved Air / Church of Anthrax / Shri Camel)

■レーベル:SONY CLASSICAL
■品番・価格:SICC-2363-6(2枚組) 定価\6,050(税抜価格¥5,500)
■発売日:2025年8月27日
■形態:4CD/輸入盤国内仕様・初回生産限定盤
■(P) 2025 Sony Classical, a label of Sony Music Entertainment

ミニマル・ミュージックと電子音楽に多大な影響を与え続ける先駆的な作曲家テリー・ライリーの代表作である『インC』をはじめとしたコロンビア・レコード時代のアルバム4作品を収録したボックスセットです。本作は単なる録音の集大成を超え、アヴァンギャルドがメジャーレーベルのスタジオに根を下ろし、ライリーのような先駆的なアーティストが未踏のサウンドの領域を探求する余地を与えられた時代の貴重な記録と言えましょう。彼の魅惑的なエレクトリック・キーボードとサックスの即興演奏から、テープやデジタル・ディレイの先駆的な使用まで、ここにあるすべてのトラックに脈打つ実験精神は、その後の音楽の発展に大きく寄与し、現代音楽の範疇を超えてロックやポップス、現代のテクノにまで伝播しました。
添付されたブックレットの資料的価値も大きく、セッション時の写真やオリジナル・ライナーノーツ、新たに書き下ろされたエッセイを含む貴重な内容となっています(輸入盤日本仕様/欧文ライナー日本語翻訳付き(翻訳:高橋智子)/解説:畠中実)。

【CD1】
テリー・ライリー『インC』
TERRY RILEY / IN C

1 インC In C 41:59

<演奏>
テリー・ライリー:作曲、アンサンブル・リーダー、サクソフォーン
ニューヨーク州立大学バッファロー校、創造・演奏芸術センターのメンバー
録音:1968年4月29日、5月1日、2日 コロンビア30丁目スタジオ(ニューヨーク)

【CD2】
テリー・ライリー『ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー』
TERRY RILEY / A RAINBOW IN CURVED AIR

1 ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー A Rainbow in Curved Air 18:40
2 ポピー・ノーグッド・アンド・ザ・ファントム・バンド Poppy Nogood and the Phantom Band 21:40
3 ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー ラジオ放送用スポット広告(ボーナストラック) Radio Spot: A Rainbow in Curved Air (bonus track). 0:58

<演奏>
テリー・ライリー:エレクトリック・オルガン、エレクトリック・ハープシコード、ロックシコード、ドゥムベック、タンバリン
録音:1969年5月23日、6月3日(1、3)、3月24日、27日、28日(2) コロンビア52丁目スタジオ(ニューヨーク)

【CD3】
ジョン・ケイル&テリー・ライリー『チャーチ・オブ・アンスラクス』
JOHN CALE & TERRY RILEY / CHURCH OF ANTHRAX

1 チャーチ・オブ・アンスラクス Church of Anthrax 9:00
2 ヴェルサイユ宮殿の鏡の回廊 The Hall of Mirrors In the Palace of Versailles 7:55
3 ザ・ソウル・オブ・パトリック・リー The Soul of Patrick Lee 2:47
4 3月15日 Ides of March 11:03
5 庇護された者 The Protégé 2:47

<演奏>
ジョン・ケイル:ベース、ハープシコード、ピアノ、ギター、ヴィオラ、オルガン
テリー・ライリー:ピアノ、オルガン、ソプラノ・サクソフォーン
録音:1970年1月23日、コロンビア30丁目スタジオ(ニューヨーク)

【CD4】
テリー・ライリー『シュリー・キャメル』
TERRY RILEY / SHRI CAMEL

1 三位一体の聖歌 Anthem of the Trinity 9:25
2 天界の峡谷 Celestial Valley 11:32
3 はるかな太古の湖をこえて Across the Lake of the Ancient World 7:26
4 氷の砂漠 Desert of Ice 15:13

<演奏>
テリー・ライリー:エレクトリック・オルガン、コンピューターによって制御されたデジタル・ディレイ
録音:1980年 CBSスタジオ(サンフランシスコ)

Mechatok - ele-king

 月に10日ほどクラブで過ごす生活サイクルも、気づけば4年以上続いている。DJで、取材で、遊びで、理由はいろいろあるけれど、とにかく今日も明日もクラブに行く。映画館でエンドロールまで席を立たないのと同じように、フロアには大抵最後までいる。もちろんそんな暮らしを続けていると、ヘトヘトに疲れ果てる。最近はいよいよ体力も落ち込んできたのか、帰宅後に家の天井とSNSのタイムラインを交互に眺めるだけの時間を過ごして後悔することも増えたけど、あれにはあれでダウナーな陶酔感があって、後ろめたいけれど心地いいし、虚しい反面なにかが満たされた気にもなる。

 ドイツのプロデューサー・Mechatokによる1stアルバム『Wide Awake』には、本人が意図したかはさておき、そうした「空虚な心地よさ」という相反する感覚が詰まっている。作品のモチーフには「(現代インターネットを支配する)アルゴリズム」や「デジタル過剰刺激」といった要素も織り込まれているそうで、いかにも2020年代らしいジャンルレスな作風でありながら、奥底にはどことなくアイロニカルな眼差しを感じる。

 Drain Gangやヨン・リーン、チャーリーXCX、オーケールーといったスターたちとコラボレーションを重ねてきたMechatokは、1998年生まれのプロデューサー。6歳からクラシック・ギターに触れ、14歳ごろにはすでにエレクトロニック・ミュージックの制作をはじめていた彼は、年齢に反してヴェテランとして成熟しきっている。音楽制作をはじめて間もないころ、黎明期のSoundCloudに氾濫していたオブスキュアな音楽群に強い刺激を受けてエクスペリメンタル・ポップとクラウド・ラップの道を歩みはじめ、程なくしてBladee率いるDrain Gangの面々やヨン・リーンといったクラウド・ラップ勢と合流し、気づけば20代のうちに(2020年代における)世界最高峰のプロデューサーのひとりと目されるようになった。
(UKでいまもっとも勢いのあるアンダーグラウンド・ラッパー、Fakeminkと近年は寡作気味なEcco2Kをフィーチャーしたシングル “MAKKA” も今年大きな話題を集めた)

 そんな彼が、いまこのタイミングでキャリア初となるアルバム『Wide Awake』をリリースしたのはなぜか。UKのメディア〈CLASH〉に掲載されたインタヴューでは、そもそもずっとアルバムを作りたかったこと、ビートメイクやプロデュース、DJセット、パーティ主催、インスタレーションといった多岐にわたる活動のほとんどはリサーチ期間のようなものであり、長い時間をかけてインプットを続けた末のリリースであると打ち明けている(Mechatokは同インタヴューで「これが本格的な音楽キャリアのはじまり」とすら語っている)。
 また、本作には海外ツアー生活と部屋で独りでSNSをスクロールする時間を繰り返すMechatok自身の両極端な暮らしぶりが投影されており、躁状態と憂鬱を行き来するような作品でもある、といったことも明かされている。

 つまり『Wide Awake』は工業製品のようなエレクトロ・ポップではなく、むしろ現代を席巻するクラブ・ライクなポップスの奥底にある虚しさを浮き彫りにする作品であるように思える。本作は『brat』のエピゴーネンではなく、『choke enough』のような作品と共鳴するもの、と捉えるほうが納得感も増す。

 アルバムの最後を飾る “Sunkiss” のように、本作には至るところにアンビエント・トランス的な旋律が配置されている。それはリヴァイヴァルしたエレクトロクラッシュと同様、ここ数年である程度出し尽くされた方法論でもあり、いまあえて取り入れる必然性を感じない……というのが最初に視聴したときの率直な感想だった。けれど、本作を「クラブ・ミュージックではない」という前提で聴き返してみると、そうしたサウンドを取り入れたのは高揚感を煽るためではなく、醒めた現実を見つめ直すためなのではないか、という新しい視点を持つことができる。

 一聴すると流行りの華美な音に聴こえる収録曲は、じつはいずれもパーソナルな虚しさを投影するにふさわしい。音が止まって明かりがつけられたクラブの景色がそうであるように、暗さよりも明るさが強く絶望や虚無を代弁するというのは、そう珍しいことでもないだろう。

 この「クラブ・ライクではあるもののクラブ・ミュージックではない」という本作の特徴は、ポスト・ハイパーポップの時代を迎えたいま、改めて注目すべきスタンスであるようにも思える。そもそも思い返せば、パンデミックを揺りかごにして成長を遂げたハイパーポップ的なものは、Air PodsやBluetoothスピーカーなどを介して内耳や家の中でのみ聴かれるベッドルーム・サウンドであった。それが隔離の時代を終え、反動のようにクラブを覆い尽くしていったのがここ2年ほどのこと。我々はたった2年でこの新しい音楽群の正体──クラブを幻視し、空想する音楽であるという性質──を忘れかけていたのかもしれない。
(「ベッドルームで育まれたものが外界の価値観を大きく揺るがす」という流れはかつてのインディ・ポップやヴェイパーウェイヴが辿った足跡でもあり、僕はそこにロマンを感じるし、心から応援したいとも思っている、けれど。)

 『Wide Awake』はフロアの熱狂のなか、恍惚とした状態で聴くよりは、独りで酔いの醒めたあとに聴くほうがフィットする作品である。しばらく帰り道はこれを聴こうと思う。『Untrue』のアートワークのような表情で、疲れきった状態で、楽しいはずなのに虚しい、という矛盾を噛みしめながら。

Makaya McCraven - ele-king

 現代ジャズにおけるキーパースンのひとり、ドラマーのマカヤ・マクレイヴン。彼の名を広めることになった2015年のアルバム──シカゴのポスト・ロック系の音楽家たちをフィーチャーした『In The Moment』について、ジャズ批評家のネイト・チネンは「アンビエントなヒップホップ曲と思えたものが、思いがけずポスト・バップな横道に逸れていく」と記し、「J・ディラの時代にまず錠が解除されたドアを大きく開け放った」と評価している(『変わりゆくものを奏でる』より)。ようは因習にとらわれない好例ということで、ビートメイカーでもあるマクレイヴンの特質をうまくとらえた表現だけれど、そんな彼の冒険心はギル・スコット・ヘロンの再構築〈Blue Note〉の再解釈、伝統的な作曲方法に立ち返った『In These Times』などの意欲作を経てなお、衰えることを知らないようだ。
 ということで、マカヤ・マクレイヴンの新作EPが出る。しかも4枚も。一気に。それらをまとめた作品『Off the Record』も出るそうだ。発売は10月10日、〈XL〉より。今回も見逃せない。

Makaya McCraven
これはジャズの次なる進化

マカヤ・マクレイヴンが新作EP4作品のリリースを発表!
先行で4曲を本日リリースし、4作品全てをコンパイルした作品
『Off the Record』が、CDとLPで10月10日に発売決定!

 今の時代、人はスマートフォンやヴァーチャルな世界で容易につながれるようになった。だがその一方で、何が本物で、何が偽物なのか、その境界線はどんどん曖昧になってきている。本当に大切なのは、実際に“そこに居た”ということ。その現場に身を置き、音を体で受け止めたという体験に、勝るものはない。
-マカヤ・マクレイヴン

 現代ジャズを代表するドラマー、コンポーザー、プロデューサーのマカヤ・マクレイヴン。〈International Anthem〉からの諸作、ギル・スコット・ヘロンやブルーノート作品の再構築盤などで一躍名を挙げ、また2024年に開催された来日公演の熱狂が記憶に新しい彼が、純粋な即興演奏の瞬間、ライヴでのパフォーマンス中に録音された音源が収録され、空間や観客の存在までもが音に反映されている、互いに独立しながらも有機的につながり合う4枚の新作EP『Techno Logic』『The People’s Mixtape』『Hidden Out!』『PopUp Shop』を先行シングル4曲(各EPからそれぞれ1曲ずつ)とともに発表した。さらに、この4枚のEPをまとめた作品『Off the Record』も、〈XL Recordings〉〈International Anthem〉〈Nonesuch〉より2枚組LPとCDで10月10日に発売される。また、10月31日にデジタル/ストリーミング配信が開始される。

 本作は、GRAMMY が「マクレイヴン史上もっとも野心的な作品」と評した2022年の傑作『In These Times』以来の作品であり、マカヤが2015年のデビュー作『In the Moment』で確立し、その後の『Highly Rare』(2017年)、『Where We Come From』(2018年)、『Universal Beings』(2018年)で深めてきた “オーガニック・ビート・ミュージック”の真髄があらためて表現されている。マカヤは彼のライブ音源をシカゴの自宅スタジオで、編集・オーバーダブ・ポストプロダクションを重ねることで、彼独自のサウンド世界へと再構築している。そんな4つのEPまとめた『Off the Record』は、単なる音源集ではなく、創造性と共同性に満ちた、“その場にいた”からこそ生まれた音楽の瞬間を祝福するドキュメント作品でもある。

以下各EPに関して:

『Techno Logic (feat. Theon Cross & Ben LaMar Gay)』
配信リンク >>> https://makayamccraven.ffm.to/techno-logic

ベン・ラマー・ゲイとセオン・クロスが参加。2017年のロンドン、2024年のベルリン、そして2025年のニューヨークでのライヴ録音から構成されており、この3人の間に築かれてきた約8年間にわたる音楽的な信頼関係が刻まれている。彼らの最初の出会いは、Worldwide FMのかつてのロンドン北部スタジオでのセッションだった。

『The People's Mixtape』
配信リンク >>> https://makayamccraven.ffm.to/the-peoples-mixtape

2025年1月にブルックリンのPublic Recordsで行われたライヴ録音を土台としている。この公演は、マカヤが自身の代表作『In the Moment』の10周年を記念して開催したものであり、同作のセッションを通じて確立した即興言語に、意図的に立ち返る試みでもあった。この特別な夜にマカヤと共演したのは、ベーシストのユニウス・ポールとトランペット奏者のマーキス・ヒル。いずれも『In the Moment』において重要な役割を果たした演奏者たちだ。さらに、『Universal Beings』(2017年)のセッション以来の常連コラボレーターであるヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス、そしてマカヤにとって初共演となるアンビエント・ジャズ・プロジェクト、SMLの共同リーダーであり、〈International Anthem〉所属のシンセ奏者、ジェレミア・チウも加わった。

『Hidden Out!』
配信リンク >>> https://makayamccraven.ffm.to/hidden-out

2017年6月にマカヤがシカゴのThe Hideoutで行ったレジデンシー企画での録音を基に構成されている。この期間、彼は毎週入れ替わりのメンバーとともに即興演奏を行っており、参加者にはユニウス・ポールに加え、トータスのメンバーであり、〈International Anthem〉のレーベルメイトでもあるギタリスト/作曲家のジェフ・パーカー、さらに同じくSMLの共同リーダーでありグラミー賞受賞歴を持つアルトサックス奏者/プロデューサーのジョシュ・ジョンソンが名を連ねている。

『PopUp Shop』
配信リンク >>> https://makayamccraven.ffm.to/popup-shop

2015年にマカヤがロサンゼルスのDel Monte Speakeasyで初めてパフォーマンスを行った際の録音を基に制作された。このとき彼は、シカゴのDJ/キュレーターであるキング・ヒッポと、サンフランシスコ発の前衛的な音楽プラットフォーム、Grown Kids Radioが企画したイベント「RAWS:LA」に出演し、ギタリストのジェフ・パーカー、ヴィブラフォン奏者のジャステファン、ベーシストのベンジャミン・J・シェパードと即興セッションを行っている。  

マカヤ・マクレイヴンの最新EP4作品をコンパイルした『Off the Record』は、CD、LPで10月10日(金)に世界同時リリース。10月31日にデジタル/ストリーミング配信が開始される。国内盤2CDには歌詞対訳・解説書が封入され、ボーナストラックとして「Tic Tac」が収録される。輸入盤は2CDと2LPが発売され、LPは、日本語帯付き2LP(日本語帯付き/歌詞対訳・解説書付き)も発売される。

artist: Makaya McCraven
title: Off the Record
release date: 2025.10.10
label: XL Recordings / Beat Records
Pre-Order: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15296

Tracklist:

CD1
01. YoYoYo Intro
02. Venice
03. Imafan
04. Los Gatos
05. Sweet Stuff
06. Battleships
07. Away
08. Dark Parks
09. Awaze
10. News Feed
11. Braddas
12. Tic Tac (Bonus Track for Japan)

CD2
01. Gnu Blue
02. Technology
03. Boom Bapped
04. Prime
05. Strikes Again
06. Choo Choo
07. The Beat Up
08. What a Life
09. Lake Shore Drive Five

・国内盤2CD
(解説書・歌詞対訳付き/ボーナストラック収録)
・輸入盤2CD
・輸入盤2LP
・日本語帯付き2LP
(日本語帯付き/歌詞対訳・解説書付き)

bar italia - ele-king

 当初は顔も明かさぬミステリアスなバンドだったバー・イタリア。ディーン・ブラントが一枚かんでいるのではないか、という点からも注目されたりした彼らだけれど、〈Matador〉へと移籍して以降は表立ってメディアにも登場するようになり、2023年の2枚──『Tracey Denim』と『The Twits』──はそれまで以上にバー・イタリアの存在を知らしめるアルバムとなった。
 そんな彼らの新たなオリジナル・アルバムが10月17日にリリースされる。題して『Some Like It Hot』。先行公開中の “Fundraiser” を聴きながら、楽しみに秋を待ちましょう。

artist: bar italia
title: Some Like It Hot
release date: 2025.10.17
label: Matador Records / Beat Records
Pre-Order: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15295

Tracklist:
01. Fundraiser
02. Marble Arch
03. bad reputation
04. Cowbella
05. I Make My Own Dust
06. Plastered
07. rooster
08. the lady vanishes
09. Lioness
10. omni shambles
11. Eyepatch
12. Some Like It Hot
13. FH (Bonus Track for Japan)

・国内盤CD
(解説書・歌詞対訳付き/ボーナストラック収録)
・輸入盤CD
・輸入盤LP(ブラック)
・限定盤LP(ターコイズ・ヴァイナル)
・日本語帯付きLP
(日本語帯付き/歌詞対訳・解説書付き/ターコイズ・ヴァイナル)
・国内盤CD+Tシャツセット
・日本語帯付きLP+Tシャツセット

 服部良一について記す前に、あるアルバムに触れたい。元ピチカート・ファイヴの小西康陽が選曲を手掛けた『ハットリJAZZ&JIVE』というコンピレーションである。“ハットリ”とは言うまでもなく、戦前戦後に活躍し、紫綬褒章や国民栄誉賞も授与された作曲家/編曲家/指揮者・服部良一(1907-1993)のこと。同コンピレーションにはクラシック畑から流行歌手に転身した淡谷のり子が唄う「おしゃれ娘」から笠置シヅ子の名唱で知られる「東京ブギウギ」まで、計24曲が収録されている。ライナーノーツで小西は、DJのクボタタケシが服部の作曲による「買物ブギー」をカリプソやアフロ・キューバンから繫いだところ、ダンスフロアが騒然となり、キメのフレーズでコール&レスポンスが起きたと記している。

 「買い物ブギー」は複雑極まりない歌詞が特徴で、希代の天才歌手と謳われた笠置も“ややこしくて覚えられない”と不平を述べたのだが、服部はそれを面白がって“ややこしややこし”という歌詞を取り入れたという。能弁な笠置のヴォーカルは、今でもDJで喝采が起こるほどなのだから、1950年(昭和25年)の発表当時も相当なインパクトだったに違いない。特にスキャット。戦後になると美空ひばりが台頭してくるが、戦前に笠置ほど奔放にスキャットで自己表現を成し得た歌い手はいなかったと断言できる。


『東京の屋根の下~僕の音楽人生 1948~1954』(ビクター)

 2024年2月21日には『世紀のうた・心のうた – 服部良一トリビュート-』というアルバムがリリースされている。真心ブラザーズ「ヘイヘイブギー」、スチャダラパー「おしゃれミドル(Contains samples of 「おしゃれ娘」)」、小西康陽 feat.甲田益也子「東京の屋根の下」、曽我部恵一と井の頭レンジャーズ「買物ブギー」、T字路s「別れのブルース」などを収録。お気づきの通り、ここにも小西康陽の名前がある。小西がここまで服部にこだわる理由はピチカート・ファイヴのラスト・アルバム『さ・え・ら・ジャポン』(01年)を聴くと分かるだろう。小西は同作のインタビューでこう話している。

 ぼくは自分のことを、日本のポピュラー音楽作ってる作曲家の末端の一人だと思ってるんですけど、そういうポピュラー音楽的な作曲家の人が日本に対してあえてアプローチするのって、それこそ服部良一さんの「山寺の和尚さん」とか「流線形ジャズ」(原文ママ、正しくは「流線型ジャズ」)とか、ああいうのから始まって、みんな必ずやるんですよ。わりと誰でもやることだし、僕も遂にそれをやる時が来たんだなと思ったんですけどね。(『ミュージック・マガジン』2001年2月号)

 小西が言及している「山寺の和尚さん」(1937年)は服部の作曲家としての本質が凝縮されたような曲である。この曲を予備知識なしに初めて聴いた人は、昔からあった日本の俗謡や手毬歌だと勘違いしても不思議ではないはず。それくらい、懐かしさを感じさせる和風のメロディが際立っている。だが、これは正真正銘、服部良一による作曲。服部の名を世に知らしめることになる原点/起点となった傑作だ。同曲は確かにジャズの和声感覚に影響を受けているのだが、日本人はもちろん、海外の人が聴いても極めて日本的だと感じるだろう。普通だったら結びつかないものが入り混じることで、世界中でここにしか存在しないオリジナルな音楽が生誕したのである。

 服部の音楽性の核となるものはなにか。思い切り端折って結論から言うと、それは繊細かつ大胆な手つきによる和洋折衷の極み、ということになるだろう。早くからアメリカのジャズに敏感に反応した服部は、フレッチャー・ヘンダーソン楽団やポール・ホワイトマン楽団といったビッグ・バンドのスウィンギーなサウンドを自家薬籠中のものとし、それを日本の民謡や小唄と掛け合わせることに成功した。小西康陽の発言の「みんな必ずやるんですよ」「わりと誰でもやることだし」の“みんな”“誰でも”とは、山田耕筰や武満徹や和田薫や大瀧詠一のことだろう。例えば、大瀧詠一がプロデュースした『LET'S ONDO AGAIN』を想いだしてみればわかると思うが、そうした作曲家の源流に服部がいたことを今一度確認しておきたいのである。

 ただし、難しいのが何をもって“日本的”とするのか、そして、その“日本的”とはどうやれば掬いだせるのかである。明治維新の際に中国を源流とする文化の流れを一度断ち切った日本人にとって、琴や尺八を採り入れることがそのまま自身のルーツの表明になるわけではない。そうした現象をあるライターは〈ルーツを断絶されたような感覚〉と呼んでいる(『文藝』00年秋季号)。こうした現状にひとつの回答を示したのが、1997年に発表されたコーネリアスの『ファンタズマ』などだと思うが、これは別所で詳細に検討し、論じよう。

 日本思想史の泰斗である丸山眞男(1914-1996)が『現代政治の思想と行動』で興味深いことを述べている。丸山は〈日本の多少とも体系的な思想や教義は内容的に言うと古来からの外来思想である。けれども、それが日本に入って来ると一定の変容を受ける。それもかなり大幅な『修正』が行われる〉という。この〈思想〉や〈教義〉を“音楽”に置き換えてもある程度論が成り立つだろう。特に服部の場合、アメリカ産のジャズを輸入しながらも、日本の民謡や俗謡と接ぎ木する形で〈かなり大幅な『修正』〉を行った。筆者は両者の邂逅を肯定的に捉えたい。ひとつわかりやすい論を例示しよう。生態学者/民族学者の/情報学者/未来学者・梅棹忠雄(1920-2010)『文明の生態史観』の一節だ。

 日本人にも自尊心はあるけれど、その反面、ある種の文化的劣等感が常につきまとっている。それは、現に保有している文化水準の客観的な評価とは無関係に、なんとなく国民全体の心理を反映している、一種のかげのようなものだ。ほんとうの文化は、どこかほかのところでつくられるものであって、自分のところのは、なんとなくおとっているという意識である。
 おそらくこれは、はじめから自分自身を中心にしてひとつの文明を展開してきた民族と、その一大文明の辺境諸民族のひとつとしてスタートした民族とのちがいであろうとおもう。

 服部の音楽は、現在の視点から見ると、こうした劣等感の呪縛に侵されることなく、もっと奔放で自由闊達に音楽に向かい合っているように思える。つまり、戦前戦後には梅棹のいうような劣等感を克服した音楽が服部の手によって生まれていたのではないだろうか。

 一方、大学教授で文学者の内田樹は『日本辺境論』の中で、〈日本人は後発者の立場から効率よく先行の成功例を模倣するときには卓越した能力を発揮する(後略)〉と書いている。確かにその通りなのだが、服部の行き方は単なる摸倣の域を超えている。それこそ日本の俗謡や歌謡をジャズにアダプテーションするという離れ業をやってのけているのだから。一方、長年ジャズの現場に関わってきた音楽評論家・相倉久人(1931-2015)は、『相倉久人にきく昭和歌謡史』で、〈日本の民謡を素材にすれば日本のジャズになるのかというと、そんな単純な問題じゃないですよね〉という松村洋の問いにこう応答している。

 音楽ってとくにそうで、じつは体質的ににじみ出す色のほうが大切なんです。メロディの作り方やリズムみたいな、そういうものだけで出そうとしても無理なんです。(中略)例えば、原信夫がシャープス・アンド・フラッツを率いて、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出るときに、日本の民謡なんかも使ったんですけどね。彼がアレンジャーに注文したことがあるんです。(中略)絶対に日本調のアレンジはしてくれるなと。(中略)非常に国際的なものを作っているつもりだけども、向こうの人が聴くと「日本的だねえ」と言われることがよくある。武満徹さんですら、そういう体験があるわけですからね。(中略)(引用者補足、服部は)そういうものを追求するために、民謡を使ったりブルースを作ったりなんかしてやってる。服部さんがそういう試行錯誤をいっぱいやるもんだから、普通だったら結びつかないものが、ぐじゃぐじゃに入り混じってオリジナルな音楽ができた。そういう功績は大きいですね。

 更に本質に迫る発言として、松村は、1925年にアメリカで発表された人気曲の「ダイナ」が日本でも独自の解釈で歌われていることを例に挙げ、こんなことを述べている。

 外の文化は何らかの変形なしには入らない。変形されるかた入るんですね。どういうふうに変形されていくかは、地域や時代ごとに違う。だから、文化が伝わっていくと、行った先でいろんなバリエーションが生まれる。文化がそのまま西洋化される、西洋文化が100パーセントそのまま入るということはないでしょう。異なる文化のせめぎあいの中で、勘違いも含めて変形が起こり、地域独特の新しいものが生まれるというのが、基本的な図式です。「ダイナ」を聞いていると、そういうことが感覚的に、非常によくわかります。

 また服部は、戦前からブルースが気になっていたそうで、タイトルに「〇〇ブルース」とつく曲をいくつも書いている。例えば、淡谷のり子が歌った「別れのブルース」は、オーケストラ/ビッグ・バンド・スタイルの服部流ブルースを日本に根付かせることに成功した。 また、あまり有名な曲ではないが、二葉あき子「丘の細道」などは、エノケンこと榎本健一がそうだったように、服部独自のブルース解釈が応用されたポップスとなっている。

 では、『さ・え・ら・ジャポン』を聴いてみよう。オープナーの「一月一日」は元旦にちなんだ歌曲で1892年に発表された。〈東京の屋根の下/どこかで流れる/いかしたsweet soulmusic〉というフレーズで始まる「東京の合唱~午後のカフェで」は、小西が〈服部先生みたいな「東京の屋根の下」とか「胸の振り子」みたいな曲を作りたかった〉と先出の『ミュージック・マガジン』のインタビューで述べている。松崎しげるが歌う「nonstop to tokyo」もホーンが服部のアレンジを律義に踏襲しているように聞こえる。ダバダバダバというスキャットで曲が終わるところも、服部及び戦前のジャズ・コーラスとの連続性が窺えるだろう。『キモノ・マイ・ハウス』という名盤があるアメリカのバンド、スパークスをフィーチャーした曲のタイトルはずばり「キモノ」である。

 「さくらさくら」も伝統的な日本の歌曲。元々は江戸時代に子供用の箏の手ほどき曲として作られたもので、作者は不明。いわゆる“詠み人知らず”だが、日本の代表的な歌として国際的な場面で歌われることも多く、「荒城の月」と並んで欧米人によく知られている。ヴィブラフォンとアコーディオンが印象的なアレンジで、ジョン・ルイス率いるMJQ風のモダン・ジャズやタンゴが影響源のひとつだろうか。「アメリカでは」はミュージカル映画『君も出世ができる』の挿入歌。マンボを導入して昭和期に流行した日本のリズム歌謡を意識したようなアレンジだ。「君が代」はバート・バカラック作曲でボサ・リオのカヴァーも有名な「サン・ホセへの道」を換骨奪胎したような小品である。日本をテーマにしたアルバムなのは間違いないが、「ポケモンいえるかな?」「グランバザール」のようなノヴェルティ・ソング色の濃い楽曲も収められており、学究的な印象はまるでない。むしろ、ユーモアと機知に富む歌詞が微苦笑を誘うのだ。

 なお、『さ・え・ら・ジャポン』には1953年にデビューし、江利チエミ、美空ひばりと共に“3人娘”と呼ばれた雪村いづみが参加している。そして、雪村は74年に発表された『スーパー・ジェネレイション』で、服部の楽曲をカヴァー。編曲は服部良一の息子である克久が中心となって行い、1曲目のインストゥルメンタル「序曲」のみ、作曲家/編曲家/プロデューサーの村井邦彦が担当している。同作のプロデューサーである村井は「翼をください」「エメラルドの伝説」「夜と朝のあいだに」などの作曲で知られ、ザ・テンプターズ、ザ・モップス、ザ・タイガース、ピーター、赤い鳥、辺見マリ、トワ・エ・モワらのヒット曲でも有名な才人だ。

 村井は、荒井由実をシンガー・ソングライターとしてデビューさせた張本人でもある。そして、その荒井のファースト・アルバム『ひこうき雲』(73年)は、キャラメル・ママ(鈴木茂、細野晴臣、林立夫からなるミュージシャン集団、1974年にティン・パン・アレイに改名)を迎えてレコーディングされた。なお、服部の曲をファンク調にアレンジした『スーパー・ジェネレイション』はシティ・ポップの文脈でも再評価されることにもなる。02年には、1953年から62年までの雪村の代表曲を網羅した『フジヤマ・ママ』という3枚組の豪華ボックス(必聴!)が発売されており、このブックレットにも小西は野宮真貴らと共にコメントを寄せている。

 ところで、服部の息子である服部克久もパリ国立音楽高等音楽院(コンセルヴァトワール)で学んだ作曲家/編曲家だが、多くの読者には克久の息子である服部隆之のほうが馴染み深いかもしれない。隆之は小沢健二、椎名林檎、山崎まさよしらの曲で編曲を担当しており、特に小沢健二に関しては『LIFE』(04年)や『So kakkoii 宇宙』(2019年)に全面的に関わっており、小沢が全幅の信頼を寄せているからである。

 この原稿を書くにあたって服部良一の自伝や評伝を渉猟したが、これらの事実に触れられている書は皆無に等しかった。だが、重要なのはこうして彼の遺伝子が現在にも受け継がれているという事実のほうだろう。彼の音楽はハイカラ……いや、今聴いてもモダンそのものである。


『服部良一生誕100周年記念企画 ハットリ・ジャズ&ジャイブ』(日本コロムビア)

 渋谷系まで余波の及んだ服部良一の音楽が、どの程度人口に膾炙していたのか、いくら国民的音楽家といっても今の若い世代にはピンとこないかもしれない。だが、例えば1980年にTBSが“歌謡曲と日本人”というテーマで、全国3000人を対象に行われたアンケートでは、服部が作曲した「青い山脈」(1949年)が堂々1位を獲得している。それも、支持率51%という驚くべき数字をたたきだしているのだ。 同曲が石坂洋次の小説を脚色した日本映画『青い山脈』のヒットと同期していたことを考慮しても、なかなかの数字ではないか。

 ちなみに余談めくが、先述の「山寺の和尚さん」が発表されたのは盧溝橋事件が起きた1937年。この年、日本の歌謡曲は俄かに盛り上がりをみせている。ざっとヒット曲を挙げると、淡谷のり子「別れのブルース」、林伊佐緒・新橋みどり「もしも月給が上がったら」、上原敏「妻恋道中」、上原敏・結城道子「裏町人生」、岸井明・平井英子「タバコ屋の娘」等々……。むろん、戦時下ということで「海ゆかば」のような官製軍歌も作られていたわけだが、『相倉久人にきく昭和歌謡史』によれば、そこまで国民的のメンタリティは切迫していなかったらしい。この辺りの事情は井上寿一『理想だらけの戦時下日本』に詳しく記述されているので参照して頂きたい。 今回はとにかく、ジャズと歌謡曲が地続きだった時代の空気と、その象徴である服部良一の存在の重要性を知ってもらえれば幸いである。

後編に続く

Bergman & Salinas - ele-king

 バーグマン&サリナス。この一見すると耳慣れないアーティスト名が、あのアレハンドラ&アーロンであることに思い至るまで、それほど長い時間はかからなかった。
 2000年代初頭、独自の審美眼と丁寧な仕事で知られた〈Lucky Kitchen〉というレーベルをスペインで運営していた張本人である。彼ら自身の音楽活動であるアレハンドラ&アーロンと並行して、世界のどこにもないような小さな音の宝石を届けてきたのだ。
 シュテファン・マシュー、ジョシュ・エイブラムス、リズ・ペイン、角田俊也、ASUNA、ジェフ・パーカー、ジェイソン・アジェミアンらによるWho cares how long you sinkなど、世界中の先鋭的な電子音楽家/音楽家やサウンド・アーティストの作品を、ハンドメイドの温もりを残したパッケージで送り出していた。かくいう私も当時、CDショップで見つけてはよく買っていたものである。中でもシュテファン・マシューの『Die Entdeckung Des Wetters』がお気に入りだった。
 〈Lucky Kitchen〉は単に作品を流通させるだけのレーベルではなかった。そこにはアレハンドラ・サリナスとアーロン・バーグマンというふたりのクリエイターが、自らの名義でも音楽を送り出しながら、世界各地のアーティストとの対話や交換を重ね、音のコミュニティを構築していく姿勢があった。その活動は、2000年代初頭のインディペンデント音楽シーンに確かな彩りを与えていた。

 そして2025年。アレハンドラ・サリナスとアーロン・バーグマンは、活動の場をアメリカ・ミズーリ州コロンビアに移し、愛娘アグネスを加えたファミリー・プロジェクトを始動した。実に18年ぶりとなるオリジナル・ニュー・アルバム『Fullmoon Maple』がリリースされたのだ。
 この事実だけでも、当時の〈Lucky Kitchen〉を知るエレクトロニカ・ファンにとっては胸が高鳴る。リリースは〈Sweet Dreams Press〉。アートワークは愛娘アグネスによる描き下ろしで、その素朴な筆致が音楽の温度と呼応する。
 しかも今回のパッケージには、彼らと縁の深い音楽家ASUNAが長文のライナーを寄せている。ASUNAは、〈Lucky Kitchen〉からデビュー・アルバム『Organ Leaf』を発表した経歴を持ち、その中で培われた互いの交流や、レーベルの詳細にして親密なヒストリーを封入ブックレットのテキストにまとめている。そして、アレハンドラとアーロンも、自身の活動の背景や本作に込めた想いを詳細に綴っている。テキストと音楽の両面から作品世界に触れることができる、この上なく贅沢な仕様である。
 手に取れば、56ページに及ぶ日本語・英語併記のブックレット、瀟洒な栞、ジャケットの手作業の痕跡、全てがいまの時代におけるCDパッケージの理想形であることを感じさせる。ディスクを取り出してプレイヤーに置く。その瞬間、目の前に広がる音とテキストの世界に、聴き手は自然と引き込まれる。ブックレットを読みながら音を聴き、音を聴きながらテキストを味わう。この行為は、単なる音楽再生ではなく、音というアートに触れるための一種の儀式となり、聴き手の感覚を鋭敏にし、日常から離れた集中の時間を生む。

 アルバムに収められているのは、約35分に及ぶ長尺の音響作品「Fullmoon Maple」。CD版では全9トラックに分けられており、それぞれ独立した曲のようにも聴けるが、音の流れは途切れることなくシームレスに続いている。ヘッドホンで音世界に入り込んでリスニングしていると、シンプルかつモダンな音響空間にすぐに入り込める。声、日常の音、電子音、ノイズが時間と空間を超えて結びつく。その緻密にして大胆、牧歌的にして美しいサウンドスケープは、見事というほかない。ふたりは世界各地で自ら採集・発見したフィールド録音を随所に忍ばせ、一つの風景や断片をコラージュするように音を紡いでいる。
 加えて今回のアルバムでは、アーロン・バーグマンが歌い、ピアノを弾く曲(“To repay your kindness”)が収録されているのだ。彼の声はどこかロバート・ワイアットを思わせる(言い過ぎだろうか。でも本当にそう聴こえたのだ)。ピアノを練習中のアグネスによる演奏も挿入され、家族の呼吸や日常の響きが作品の一部として刻まれている。
 この「家族」という要素は、本作に独特の温度を与えている。愛娘とのやり取りや生活の音が、単なる環境音としてではなく、音楽として自律するようにコンポジションされている。それは、電子音響作品としての洗練と、家庭という最も身近な世界の温もりが矛盾なく共存する瞬間でもあった。実際、このアルバムはいくつもの時間と記憶がレイヤーになっているように思える。家族の声、環境音、電子音、微細なノイズが織り重なり、音と時間が多層的に組み上げられているのだ。
 〈Lucky Kitchen〉の黎明期を知るリスナーにとって、このアルバムは「過去」の記憶を呼び起こすと同時に、時間を超えて繋がる創造の連続性を示すものだろう。まだ彼らの音楽に触れたことのない人にとっても、環境録音と素朴な演奏、そして家族の会話や息づかいが溶け合う音風景は、従来の電子音楽の枠を超えた体験となるはずだ。記憶と記憶、時間と時間がレイヤーになり、同時に流れ変化していく。多層的な記憶/時間としての音響作品とでもいうべきだろう。

 この穏やかで、たおやかな音風景は、現在という不確かな時代においてなお、大きな力を持ち得る。その響きは、聴く者の心に静かに届き、世界の断片をそっと手渡すようだ。18年という歳月を経てもなお、アレハンドラ・サリナスとアーロン・バーグマンは、音を通して人と人、場所と場所を結びつける術を失っていない。本作はその証しであり、この不信と不穏の時代であるいまだからこそ耳を傾けるべき作品である。

Chicago House - ele-king

 シカゴ・ハウス、それはハウスの故郷の音楽であるばかりか、それ以上の展開をみせ全世界のダンス・ミュージックにインスピレーションを与えたすばらしき音楽。シカゴ・ハウスがなければデトロイト・テクノもなかった──とまでも言わないが(サイボトロンがいたから)、しかし、違ったものになっていただろう。URだって、あの909はシカゴ(アシッド・ハウス)から受け継いでいる。デリック・メイなんて、どう考えてもシカゴなしではありえなかった。
 で、Dr. NISHIMURAとしても知られる西村公輝、『HOUSE definitive 増補改訂版』で監修を務めた氏が、同書でも協力いただいたdiskunionの猪股恭哉とふたたびタッグを組み、新たなディスクガイド本『シカゴ大全』を完成させた。これはもう、世界で唯一のシカゴ本だ。ディスコ後、1980年代前半の胎動から、ゲットー・ハウスやフットワークまでを生み出してきた当地のダンス・ミュージックに焦点を絞ったこの1冊は、2020年代の今日までを網羅し、合計で500枚以上の作品がセレクトされているし、シカゴを愛するシャッフルマスターやエイプリルさんたちによる座談会もある。まあ、とにかくこのディスクを知らずしてダンスは語れないっす。ダンス・ミュージック好きならマストだよ。

シカゴ・ハウス大全
監修:西村公輝
編集:猪股恭哉
執筆:野田努/D.J.Fulltono/D.J. Kuroki Kouichi/D.J.APRIL aka ジュークらぶ夫/Mitsuki(Mole Music)/増田優作/ROCKDOWN/una
デザイン:tone twilight 江森丈晃

DU BOOKS
240ページ
9784866472447
2,600円+税

https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK398?srsltid=AfmBOooQXWx9mwPnDlA_7OpwXJqrkX3NIoWtvZVVJ8z4eEHPLVZ4p_IP

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