「IR」と一致するもの

BarChitChat - ele-king

 小田急線沿いの新百合ヶ丘といえば再開発された小綺麗な、無菌室のような駅で、そこに住んでいる勤め人くらいしか用のない街といえばそうなのだが、しかし、ワタクシ=野田は、わざわざここまで、宇宙日本世田谷から新百合へと、暗くなる頃に通っていた時期がある。なぜならこの街には、BarChitChatがあるからだ。
 若さは逞しい、そこがどんな場所だろうと、好きなことをやってしまう。誰にも止められやしない……いまから20年ほど前、この店には新種のボヘミアンたちが集まっていて、忌野清志郎が住んでいた70年代の国立はこんな感じだったのではないかと空想させるような空気が流れていたのである。
 というわけで、BarChitChatが年にいちどのパーティをやるので紹介しましょう。せっかくなので、その店主である渕上零にミニ・インタヴューしました。彼が、日本のロック/ポップス史の美しい流れのなかにいることがわかると思います。


21周年おめでとう! ところで、いまさら言うのもなんですが、そもそもレイ君は何者なの(笑)? 昔、ムロケンさんにご紹介いただき、ご機嫌な音楽がかかかっているんでよく飲みにいかせていただいて、そのまま仲良くなってしまいましたが、いったいこの若い店主が何者なのか、いまだによくわかってないので、この機会に教えてください。

渕上零:10〜20代にギタリスト、映画俳優、詩人、写真家、絵。色々やっていて、天才アーティストと名乗っていました。29歳でBarChitChatを始めました。話し出すと長いですが、これからブレイクする直前の人達に出会う事が多い人生でした。

レイ君自身の音楽遍歴は? お母さんがヒッピーだったんだっけ?

渕上零:ヒッピーというわけではないと思うのですが、まわりにそういう大人が多かったとは思います。日本三大フーテンの一人、通称キリストがBarChitChatの看板を組み木絵で作ってくれました。ぼく自身も18〜19歳の頃彼の助手をしていました。赤ん坊の頃からの付き合いでした。また、まわりに伝説のライヴハウス吉祥寺OZを作った人や店長など、裸のラリーズまわりりの大人たちがいましたね。母はサイケデリックライティングを僕が産まれる前にやっていたようです。父は1970年代前半、横浜根岸でロック喫茶をやっていたようです。
産まれた頃から家ではロックやレゲエが流れていました。母はボブ・マーリーのライヴにも行っていましたね。13歳のときにRCサクセションの発売禁止になったアルバム『COVERS』にヤラれて音楽に目覚めました。いまは、オサムちゃん&RC SESSION with梅津和時という清志郎バンドでギター弾いてます。

BarChitChatのコンセプトは? 

渕上零:庶民派Barでありながら、いろいろなことを発信していけるお店でありたいと。そして何より出会いの場。そして想像の場。実験の場でもあると思います。

ぼくが行っていた頃は、東京郊外の(じっさいは川崎?)若いヒッピー的な感性がある子たちが集まっていたような印象なんだけど、それはぼくの勘違い? あんま好きなことじゃないけど、オーガニック系とか? わりとザ・バンドとか、キャロル・キングやジェームス・テイラーのようなSSW、70年代の西海岸(クロスビー、スティルス&ナッシュ、ジョニ・ミッチェルほか)みたいなイメージだったんだけど、最近お店のなかはどんな感じなの?

渕上零:川崎市ですが、反対側はすぐ東京都、こっち側も少し行くと横浜市という川崎の端っこになります。そうですね、ヒッピー感性の人たちも来ますが、最近はHip Hop好きの若い子たちも来てくれます。ジャンルにとらわれず、自分がいいと思う音楽をセレクトしています。ぼく自身は1975年くらいまでの音楽を聴いてきましたが、最近はHip Hopも若い子たちに教わって少し聞くようになりました。

Anniversary Party!のテーマみたいなものは何でしょう?

渕上零:ここ10年くらいは年に一度、ぼくがかつて働いていた横浜の老舗THUMBS UPで開催させていただいているのですが、よそでなかなか一緒にならないような組み合わせですし、BarChitChatでライヴしてくれてるアーティストたちが集います。インディーからメジャーまで様々に。知らなきゃモグリなアーティストを毎年呼んでいます。

いま人気上昇中の井上園子さんについてコメントください。

渕上零:歌う前からBarChitChatに来てくれていたのですが、ある日再会したら、私歌いはじめました! と。そこから毎月のようにBarChitChatで歌ってもらうようになりました。音はカントリー、メロディはポップだけど、歌詞はするどくて尖っていたり、そして文学的。なかなか出てこない才能の持ち主のひとりだと思っています。アニバーサリーでは、毎回トップバッターに光る才能の新人を起用するのですが、20周年の昨年は彼女でした。今年はこの日限りの7人編成です。ぼくもギター弾きます。

最後に、いま現在のChitChatのフェイヴァリット・アルバム10枚を挙げてください。

(順不同)
・松倉如子『パンパラハラッパ 』
・Circles Around The Sun『Interludes For The Dead』
・MARC RIBOT&JAKOB ILJA『17 HIPPIES PLAY GUITAR』
・Fishmans『Long Season』
・ハバナエキゾチカ『踊ってばかりの国』
・La Lom『The Los Angeles League Of Musicians』
・Srirajah Rockers『ENDURO』
・ラブワンダーランド『永い昼』
・ 与世山澄子『Interlude』
・ ADRIAN YOUNGE & ALI SHAHEED MUHAMMAD『JAZZ IS DEAD 011』

ありがとう。じゃ、またビールを飲みに行くよ!

渕上零:久々乾杯しましょう!

 2004年春、アーティスト渕上零が新百合ヶ丘で始めた唯一無二のMusic Bar。 “小さなお店で、大きな奇跡を ” をモットーに。
この春21周年を迎えるBarChitChatで巣立ってきたアーティスト達が集結する。渕上零の古巣THUMBS UPにて、年に一度の祝祭が今年も開催される。

BarChitChat 21st Anniversary Party!

2025.420.Sun.
at 横浜THUMBS UP
【出演者】
✳︎ASOUND
✳︎光風&GREEN MASSIVE
✳︎井上園子楽団
(井上園子/gnkosai/大澤逸人/長尾豪大/西内徹/Chaka/渕上零)

✳︎ F.I.B JOURNAL DUO+2
(山崎円城/沼直也/Guest :Little Woody/ハタヤテツヤ)

✳︎junnos
✳︎禅座DUBNESS
(小林洋太/越野竜太(らぞく)/大角兼作(らぞく) &dub mix)

✳︎ COSMIC JUNGLE
(MONKY/TOMOHIKO HEAVYLOOPER/小林洋太)
DJ:HOMERUN SOUND

VJ:Oshoz

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open15:30 Live16:20

※限定200名
前売4200円/当日5000円

■チケット
⚫︎TEL予約 045-314-8705
⚫︎ネット予約
https://www.stovesyokohama.com/thumbsup/

THUMBS UP
神奈川県横浜市西区南幸2-1-22
相鉄Movil3F

Black Country, New Road - ele-king

 まもなく最新アルバム、新体制となって初めてのスタジオ盤『Forever Howlong』を送り出すブラック・カントリー・ニュー・ロード。嬉しいことに、2023年4月以来となる二度目の単独来日ツアーが12月に決定した。今回は12/8(月)大阪 BIGCAT、12/9(火)名古屋 JAMMIN’、12/10(水)東京 EX THEATERの3公演。新たな音楽性を確立した彼らの現在をその目で確かめにいこう。

Black Country, New Road

ブラック・カントリー・ニュー・ロード、来日ツアー決定!
最新アルバム『Forever Howlong』 は、いよいよ明日発売!

儚さと力強さが共存する唯一無二のアンサンブルで、高い評価と人気を誇るブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)が、待望の3rdアルバム 『Forever Howlong』 を4月4日 (金) に〈Ninja Tune〉よりリリースする。

2010年代後半、南ロンドンのインディー・ロック・シーンの音楽的聖地となっているThe Windmillでブラック・ミディやスクイッドらと共にステージ経験を重ね、The Quietus誌から「世界最高のバンド」と称賛されるまでに成長したBC,NR。2021年のデビューアルバム『For the first time』が全英チャート4位&マーキュリー・プライズにノミネート、翌年の2ndアルバム『Ants From Up There』 は全英3位を記録。そして強固な結束を築き、更なる進化を遂げ成し遂げ、今も語り継がれる全曲新曲で臨んだフジロック/ホワイトステージでの感動のライブを経て、翌2023年には新曲のみで構成されたライブアルバム『Live at Bush Hall』 を発表し、バンドの実力を証明してきた。そして遂に届けられたスタジオ録音の3rdアルバム『Forever Howlong』 で、またしても彼らは新たな音楽的地平へと到達した。タイラー・ハイド、ジョージア・エラリー、メイ・カーショーのという女性メンバー3人でほとんどの曲のリード・ヴォーカルとソングライティングを分担し、彼らの豊かな才能と、6人それぞれが卓越したミュージシャンだからこそ生み出せる極上のハーモニーと一体感が楽曲の魅力を最大限に引き出している。

果敢にチャレンジし歩み続ける我らがBC,NRが、遂にここ日本に帰って来る。彼らにとって2度目の単独ジャパンツアー、チケットの確保はお早めに!

Black Country, New Road
JAPAN TOUR 2025

12/08(MON) 大阪 BIGCAT
12/09(TUE) 名古屋 JAMMIN’
12/10(WED) 東京 EX THEATER

OPEN 18:00 / START 19:00
前売:8,800円(税込 / 別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可

INFO:[ WWW.BEATINK.COM] / E-mail: info@beatink.com

【チケット詳細】
前売:8,800円 (税込 / 別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可

先行発売:
★BEATINK主催者先行:4/5(sat)10:00 → [ https://beatink.zaiko.io/e/BCNR2025] (※限定枚数・先着、Eチケットのみ)
★イープラス・プレイガイド最速先行受付:4/9(wed)10:00~4/13(sun)23:59 → [ https://eplus.jp/BCNR2025/](抽選)

[東京]
LAWSONプレリクエスト:4/14(mon)10:00~4/22(tue)23:59
イープラス・プレオーダー:4/14(mon)10:00~4/20(sun)23:59

[名古屋]
イープラス ジェイルハウスHP先行:4/14(mon)12:00~4/16(wed)23:59
イープラス・プレオーダー:4/14(mon)12:00~4/21(mon)23:59
チケットぴあプレリザーブ:4/14(mon)11:00~4/21(mon)11:00
LAWSONプレリクエスト:4/14(mon)12:00~4/21(mon)23:59

[大阪]
イープラス・プレオーダー:4/14(mon)10:00~4/17(thu)23:59
LAWSONプレリクエスト:4/14(mon)10:00~4/21(mon)23:59
ぴあプレリザーブ:4/14(mon)10:00~4/22(tue)23:59
イープラス・2次プレオーダー:4/19(sat)10:00~4/22(tue)23:59

一般発売:4月26日(土)10:00~

[東京]
イープラスLAWSON TICKETBEATINK
INFO: BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com

[名古屋]
イープラス [ https://eplus.jp/BCNR2025/]、チケットぴあLAWSON TICKETBEATINK
INFO: JAILHOUSE 052-936-6041 www.jailhouse.jp

[大阪]
イープラスチケットぴあLAWSON TICKETBEATINK
INFO: SMASH WEST 06-6535-5569 https://smash-jpn.com/

イベント詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14883


発売日4/4(金)に世界各国でリスニングパーティーが開催!


アルバムリリースを記念し、世界各国でリスニングパーティーが開催されることが発表され、日本では発売日の4月4日 (金) にBig Love Records (東京) とAlffo Records (大阪) にて開催決定!来場者には特別なBC,NRグッズを詰め込んだグッディーバッグを先着順でプレゼント! 各バッグには、オリジナルのクレヨンや折りたたみ式の塗り絵シート、その他のアイテムが含まれる。

アルバムを聴きながら塗り絵を楽しんでもらい、以下のフォームから写真をアップロードすると、バンドが気に入った作品を選んでBC,NRの公式アカウントから発表される。
https://blackcountrynewroad.os.fan/listening-party-images

Big Love Records
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-31-3 3F-A
日時:4/4(金)18:30~

Alffo Records
〒550-0013 大阪府大阪市西区新町1-2-6 3F
日時:4/4(金)20:30~

本アルバムはタワーヴァイナル渋谷/梅田のマンスリープッシュアイテムに選出に決定!!アルバムリリースから店頭にてコラボポスターが掲出される。

BC,NR待望のニューアルバム『Forever Howlong』は、CD、LP、カセット、デジタル/ストリーミング配信で4月4日 (金)に世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラック「Forever Howlong - Live at The Cornish Bank, Falmouth」が追加収録される。LPは、リサイクル・ブラック・ヴァイナルの通常盤2LPに加え、反転カラーのアートワークを採用したエコ・ジャズ・トランスパレント・ブルーのインディー限定2LPおよび初回生産限定日本語帯付インディー限定2LP、油絵キャンバス風加工を施した箔押しゲートフォールドスリーブ仕様のトランスルーセント・エコ・ジャズ・レッドのコレクターズ・エディション2LPが発売され、コレクターズ・エディション・カセットも発売される。コレクターズ・エディション2LPとコレクターズ・エディション・カセットではオリジナル・バージョンとは異なるトラックリストが採用されている。さらに、国内では原宿BIG LOVE RECORDS限定となるブルー・スパークル2LPも発売される。国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPには、歌詞対訳と解説書が封入され、それぞれ異なるデザインのTシャツ付きセットが発売される。購入者特典として、今作で採用された新しいロゴ・ラバーキーホルダーを先着でプレゼント!


CDセットのTシャツ


LPセットのTシャツ


先着特典:ラバーキーホルダー


BEAT RECORDS / NINJA TUNE
artist: Black Country, New Road
title: Forever Howlong
release: 2025.4.4
TRACKLISTING
01. Besties
02. The Big Spin
03. Socks
04. Salem Sisters
05. Two Horses
06. Mary
07. Happy Birthday
08. For the Cold Country
09. Nancy Tries to Take the Night
10. Forever Howlong
11. Goodbye (Don’t Tell Me) 
12. Forever Howlong - Live at The Cornish Bank, Falmouth *Bonus Track
商品ページ
各種予約リンク: https://bcnr.lnk.to/forever-howlong


CD+Tシャツセット


LP+Tシャツセット


CD


コレクターズ・エディション2LP
(Beatink.com限定)


通常盤2LP


限定盤2LP


カセット

Lust For Youth & Croatian Amor - ele-king

 2025年の2月6日〈Posh Isolation〉の終了が発表された。16年間の歳月に渡る活動の終わり、コペンハーゲンでクリスチャン・スタズガードとローク・ラーベクによって設立されたレーベルが送り出す電子音楽はどこか未来的で儚さを感じるような美学があった。いつの間にかリリースがなくなり自然消滅的になくなってしまうレーベルも少なくないなかでこうやって区切りがつくというのはある意味で幸せなのかもしれない(少なくともこんな風に考える時間と機会が与えられるのだから)。このニュースを見て寂しく思うのと同時に移ろいゆく時の、もののあわれを感じた。それは〈Posh Isolation〉がリリースしていた音楽にもあった美しさなのだと思う。2010年代を振り返ろうとしたならば、僕の頭にはきっと間違いなく〈Posh Isolation〉のことが浮かぶだろう。10年代の半ば、アイス・エイジのエリアス・ベンダー・ロネンフェルトのプロジェクト・マーチングチャーチにCTM、コミュニオンズ、メイヘイムでスタジオを共有していたコペンハーゲンのギター・バンドのシーンから入って、そこからレーベル・オーナーであるローク・ラーベクのクロアチアン・アモールラスト・フォー・ユースのハネス・ノーヴィドとフレデリック・ヴァレンティンのユニットKYO、ソロとしてのフレデリック・ヴァレンティンらの電子音楽の方に流れるというようなルートで自分は〈Posh Isolation〉に触れ、新たな領域が接続されるように音楽的嗜好が広がっていった。硬く繊細な電子音楽とギターバンドからこぼれ落ちた感性を拾い上げたような音楽がそこにはあったのだ。
 コペンハーゲンのシーンとサウス・ロンドンのインディ・シーンの類似性を指摘されることもあるが、いまこうやって考えてみるとやはり似たところがあったのかもしれない。〈Posh Isolation〉の美学と姿勢はロンドンの〈Slow Dance Records〉に通じるところがある。電子音楽とギター・ミュージックの両方が境目なくそこにあり、電子音楽作家であるレーベルの創始者のひとりがポップ・ミュージックを奏でるギター・バンドに参加しているというのも同じだからなおさらだ。

 クロアチアン・アモールことローク・ラーベクはかってラスト・フォー・ユースのメンバーだった。2014年『International』と2016年『Compassion』この2枚のアルバムのリリース時ローク・ラーベクは確かにそこにいたのだ。甘さと切なさが混じったようなシンセ・ポップ、あるいはセンチメンタルなダンス、そのどちらのアルバムも色あせない青春の記憶が封じ込められたような音楽だった。そうしてロークが自身の活動に専念するために袂を分かった。その後それぞれの活動を続けるなかで2023年のシドニーのオペラハウスでの公演をきっかけにラスト・フォー・ユースのハネス・ノーヴィド、マルテ・フィッシャーのふたりと再び音楽を作るようになったのだという。しかしなぜ再びラスト・フォー・ユースのメンバーに加わるのではなくクロアチアン・アモールとして共作名義の音楽を作ろうとしたのだろう? アルバムを聞く前にそんなそんな疑問が浮かんだが、しかしアルバムを聞いた後ではそうするのが当然だと感じられた。なぜならアルバムのコンセプトがまさにクロアチアン・アモールとラスト・フォー・ユースを結びつける感覚そのものだったからだ。

 1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機に搭載されたゴールデン・レコード、地球外知的生命体や未来の人類が見つけて解読することを期待し作られたそのレコードにインスピレーションを得て制作したという本作『All Worlds』はまさにかつてそこにあった世界の記録の音楽といった様相をていしている。ここにあるのは、ひとつひとつが独立した10の世界の断片のその記録だ。クロアチアン・アモールの美しく硬いオーロラのようなサウンドスケープにラスト・フォー・ユースのセンチメンタリズムが載る。電子の海にポップネスと物語性が加えられ、メランコリックな青春に記憶のヴェールがかけられる。両者の良さがそのまま出て、かつテーマに沿って補完されたようなこのアルバムは理想的なコラボレーション・アルバムだろう。記憶の断片をつなぎ合わせたような不鮮明なアンビエントのサウンド・コラージュ “Light In The Center”、アルコールが抜けかけた夜明け前の陰鬱で感傷的なダンス “Kokiri”、これまでのラスト・フォー・ユースの色がより濃く出ている影のあるリゾート・ディスコの祝祭 “Dummy”、アルバムの楽曲のジャンルはバラバラで統一感には少しかけるが、しかしそれがかえってゴールデン・レコードのコンセプトを際立たせている。「私たちの死後も、本記録だけは生き延び、皆さんの元に届くことで、皆さんの想像のなかに再び私たちがよみがえることができれば幸いです」ボイジャー計画のジミー・カーターの言葉のように『All Worlds』はヘッドフォンのなかに遠く離れた世界の記憶を浮かばせる。記憶のチップを差し込み、誰かが生きた日々を再生するSF映画のような未来の出来事、ラスト・フォー・ユースとクロアチアン・アモールの3人が作り出したこの音楽はそこにある世界がここには存在しないという薄ぼんやりとした喪失感を伝えてくる。だけどもそれは決して不快な感覚ではない。柔らかい光に包まれた終焉の音楽は同時に新たな始まりを感じさせる希望の音楽でもあるのだ。寂しさはあるが、その先にある未来の世界を夢見ている。ある意味でこれは時を隔てた10年代のコペンハーゲン・シーン、あるいは〈Posh Isolation〉の時間を締めくくるようなアルバムなのかもしれない。

レコード収集、そして音楽文化を愛するすべての人に――
奥深きアナログ盤の世界にもう一歩踏み込むための案内

ストリーミング全盛の今日、他方でレコードが大いに脚光を浴びてもいる。
アナログ盤はなぜかくも音楽愛好家たちを惹きつけてやまないのか?
その買い方から聴き方、歴史、そして未来への展望まで、いまあらためてレコードならではの魅力を徹底解剖する!

・MURO、エヂ・モッタら究極のレコード・コレクターたちが語るその収集哲学
・レコード好きのライフスタイル
・海外レコード買い付け紀行
・未知なる場所での新たな1枚との出会い
・購入時のことが鮮明に記憶に残るレコード5選(JAZZMANジェラルド、マシュー・ハルソール、メイヤー・ホーソーン、坂本慎太郎、MOODMAN、角張渉、イハラカンタロウ、スヴェン・ワンダー、水原佑果、岡田拓郎、Licaxxx、塩田正幸、T-Groove、ほか)
・VINYL GOES AROUND PRESSING:プレス工場潜入レポート
・アナログ愛好家が営む異業種名店
・レコードにまつわる映画紹介
・コレクター道を極めるための心得
・ヴァイナルで音楽を楽しむためのオーディオ環境
など、さまざまな角度からレコードの魅力に迫る完全保存版ガイド。

菊判/160頁

目次

はじめに

MURO、いまあらためてレコード愛を語る――プレス工場見学からレコード遍歴、そしてコレクティングの現在(by 野田努)
エヂ・モッタ、インタヴュー――レコードは手にとって味わえる芸術作品(by Jun Fukunaga)

●#1 レコードを探し求めて
レコード買付は悲喜こもごも――とあるバイヤーのアメリカ紀行
あるレコード店主の一日 永友慎(Upstairs Records & Bar)
レコードを探しに訪れたインドネシアで起こった出来事 馬場正道(KIKI RECORD)
VINYLVERSEのアプリ/フィジタル・ヴァイナルの楽しみ方――ヴァイナル中毒者たちのコミュニティを創造する
鈴木啓志のレコード蒐集術――ネットもなく、レコード店も少なかった時代、音楽好きはいかにして情報を入手し、盤と出会っていたのか

●#2 購入時のことが記憶に残るレコード5選
ジャズマン・ジェラルド/MOODMAN/坂本慎太郎/マシュー・ハルソール/メイヤー・ホーソーン/角張渉/イハラカンタロウ/スヴェン・ワンダー/岡田拓郎/水原佑果/T-GROOVE/塩田正幸/Licaxxx/田之上剛

●#3 レコードの作り方
レコード・プレス工場見学記――VINYL GOES AROUND PRESSING(by 小林拓音)
78RPMレコードを作ってみました。~VINYL GOES AROUNDチームによる78回転への道 其の一~ 水谷聡男×山崎真央×イハラカンタロウ

●#4 レコードのもっと深い話
SP盤を集める魅力は戦前ブルースにあり 高地明
オリジナル盤入門――その魔力とディグのススメ 山中明
ライトハウス・レコーズ店主が語るオーディオが引き出すレコード体験の真髄(by Jun Fukunaga)
SL-1200がDJの定番機材になるまで――Technics×VINYL GOES AROUND特別座談会
針先に広がるスクリーン――レコードと映画の出会い 鶴谷聡平(サントラ・ブラザース)
美容室TANGRAMオーナー坂本龍彦が語る希少レコードと出会いの物語(by Jun Fukunaga)
BIG LOVE RECORDSオーナー、仲真史が追求するレコード店のあるべき姿(by Jun Fukunaga)
私的90~ゼロ年代レコ袋ガイド TOMITA
なんでこんなに不便なものに時間と金をかけ続けるのだろう 野村訓市

after talk レコードは飾りじゃない 水谷聡男×山崎真央×小林拓音
プロフィール

cover photo by SUGINO TERUKAZU (TONPETTY Inc.)

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
Rakuten ブックス
◇7net(セブンネットショッピング) *
ヨドバシ・ドット・コム
◇Yahoo!ショッピング *
HMV
TOWER RECORDS
disk union
◇紀伊國屋書店 *
◇MARUZEN JUNKUDO *
◇e-hon *
◇Honya Club *

P-VINE OFFICIAL SHOP
◇SPECIAL DELIVERY *

全国実店舗の在庫状況
◇紀伊國屋書店 *
◇三省堂書店 *
◇丸善/ジュンク堂書店/戸田書店、ほか *
◇有隣堂 *
◇くまざわ書店 *
◇TSUTAYA *
大垣書店
◇未来屋書店/アシーネ *

* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Shinichiro Watanabe - ele-king

 カマシ・ワシントンボノボフローティング・ポインツの起用でも話題の渡辺信一郎監督最新アニメ『LAZARUS ラザロ』。放送開始がいよいよ迫ってきている。4月6日よりテレ東系にて、毎週日曜夜11時45分から放送開始(各配信プラットフォームでも配信予定)。随時、公式サイトはチェックしておきましょう。

 なお、現在制作中の『別冊ele-king』は「『LAZARUS ラザロ』と渡辺信一郎の世界」と題し、同作を大特集。渡辺監督自身の超ロング・インタヴューをはじめ、監督のマニアっぷりが発揮された細野晴臣との特別対談も掲載予定です。カマシ・ワシントンやボノボに加え、サンダーキャットフライング・ロータスのインタヴューもあり。そちらは5月下旬発売、乞うご期待!

●期待高まるオープニング映像、曲はカマシ・ワシントン

●公式トレイラー、迫りくる世界の終わりを止めるには?



Chaos In The CBD - ele-king

 開催迫る〈Rainbow Disco Club〉への来日も発表されているエレクトロニック・デュオ、カオス・イン・ザ・CBDが2025年5月9日に待望のデビュー・アルバム『A DEEPER LIFE』を〈DUST WE TRUST〉よりリリース。Josh Milan(Blaze)、Lee Pearson Jr.、Stephanie Cooke、UKグライムのMC・Novelistなどを迎えた、未来のクラシックとも言える1枚に仕上がっているようだ。また先行シングルとして、新曲 “MARLBORO SOUNDS” が3月26日(水)に配信された。

 バレアリックなライフスタイルへのオマージュであるという本楽曲は、ニュージーランドのマールボロ・サウンズと、幼少期にそこで過ごした夏の日々にインスピレーションを受け制作されたとのこと。90年代イビサのチルアウト・ミュージックに特別な親和性を感じているというカオス・イン・ザ・CBDによる、軽やかさとダンスフロアのエネルギーが両立されたトラックだ。

 プレスリリースによればアルバム『A Deeper Life』も、本日配信の先行シングルと同様にバレアリックの精神性をキーにアンビエント、ソウルフル・ハウス、R&B、ジャズといった音楽的要素を融合した作品に仕上げられているとのこと。4月18日~20日の3日間、東伊豆で開催される〈Rainbow Disco Club〉でその一端に触れられるのだろうか。ぜひ目撃されたし。

label: DUST WE TRUST
artist: Chaos In The CBD
title: A DEEPER LIFE
format: Digital / LP / CD
release date: 2025.05.09

Tracklist:

1. Down By The Cove
2. Mountain Mover Ft. Alex Cosmo Blake
3. Maintaining My Peace Ft. Novelist & Stephanie Cooke
4. Tears Ft. Saucy Lady
5. Brain Gymnasium
6. I Wanna Tell Somebody Ft. Josh Milan
7. Ōtaki Ft. Finn Rees
8. Love Language Ft. Nathan Haines
9. A Deeper Life Ft. Isaac Aesili
10. More Time Ft. Lee Pearson Jr Collective
11. Tongariro Crossing Ft. Nathan Haines
12. Barefoot On The Tarmac
12. Marlboro Sounds
13. The Eternal Checkout Ft. Cenk Esen

https://chaosinthecbd.lnk.to/ADeeperLife

Jules Reidy - ele-king

 光が降り注ぐようなサウンドが展開する。それはいわばエレクトロニカ・サイケデリア。幽霊化する世界。漂う魂の粒子……。本作『Ghost / Spirit』を聴いたとき、まずは、そんな言葉を思い浮かべだ。同時にジュールス・レイディはついに大きな転換点となるアルバムを作ったのだ、とも。

 加えて、『Ghost / Spirit』が〈スリル・ジョッキー〉からリリースされたことにも驚いた。これまで〈エディションズ・メゴ〉、〈ブラック・トリュフ〉、〈シェルター・プレス〉などの実験音楽系レーベルから作品を発表してきたジュールス・レイディが、USインディ・レーベルの代表格のひとつ〈スリル・ジョッキー〉を選んだことは意外だった。しかし、本作『Ghost / Spirit』を聴き進めるうちに、それは必然だったと確信した。というのも、このアルバムは、昨年同レーベルからリリースされたクレア・ラウジーの『Sentiment』と並ぶべき作品だからだ。単に似ているということではなく、音楽の内にある意志や必然が共通しているのである。その変化を〈スリル・ジョッキー〉も理解し、この作品をリリースしたのではないか。

 『Ghost / Spirit』と『Sentiment』。二作とも変調したヴォーカルと洗練されたエレクトロニカ的なトラックという基本的なスタイルは似ている。だが本質的な共通点は「歌う」ということに対する「必然」と「変化」にあるように思える。『Ghost / Spirit』でも、ジュールス・レイディは「歌うこと」に向かう明確な意志を持っている。とはいえ、そもそも、ジュールス・レイディの作品には以前から「声」が多用されてきたことも事実だ。特殊チューニングのギター、電子音、そして声という組み合わせ自体は、『In Real Life』(〈Black Truffle〉/2019)や『Vanish』(〈Editions Mego〉/2020)、『Trances』(〈Shelter Press〉/2023)などの過去のアルバムと大きく変わらない。『Ghost / Spirit』におけるジュールス・レイディのサウンドはこれまでのアルバムの延長線上にある。そう大差はないというべきだろう。だが、本作では「歌うこと」がこれまで以上に必然性をもって響いているように思えたのだ。音楽自体が、実験的で創造的でありながら、同時に自然に「歌」へと向かっているのである。

 では「大きな違い」は何か。それは「ソングライティング」に対する意識の変化のように思える。単に「声」を使うのではなく、歌を作り、メロディを紡ぎ、歌詞を構築すること。そのすべてを意識的におこない、サウンドの中心に据えている。『Ghost / Spirit』は、その点で過去の作品とは一線を画しているのだ。 自身の音を精査し検証し突き詰めていった結果、「歌/サウンド」という形式にソングライティングという方法論が「必然」として、こう言ってよければ「運命」として、結果的に浮かび上がってきたというべきか。そう、ジュールス・レイディにとって、このアルバム『Ghost / Spirit』を作ることは運命づけられていたようにさえ思える。音、声、響きが交錯し、「ソングライティング」という形で結実した。

 クレア・ラウジーの『Sentiment』と共鳴するのは、まさにこの点にある。ラウジーもまた、音の実験を重ねた末に「歌うこと」という「必然」にたどり着いた。〈スリル・ジョッキー〉は、このふたりの異なる個性が「歌」に向かう「必然」を見逃さず、1年ごとにリリースしたとはいえないだろうか。そのキュレーションの的確さは、同レーベルが現在、再びピークを迎えている証拠といえる。ヘヴィ・ミュージックからエクスペリメンタル、エレクトロニカ・ポップまでを網羅するカタログは唯一無二であり、インディ・ミュージックの「現在」を更新し続けている。

 何よりも強調すべきは、音楽そのものの鮮烈さだ。1曲目 “Every Day There's a Sunset” の冒頭、変調されたジュールス・レイディの歌声が響いた瞬間、耳が開かれた。堂々としたメロディ、硬質なギターの響き、背後に漂う電子音、ドローン──10年代以降のエクスペリメンタルとポップが融合した、ほぼ完璧なサウンドスケープが展開する。途中、声は溶け合い、サイケデリックな空間へと変貌する。その流れは圧巻だ。続く “Interlude I” では、どこかコーネリアスを思わせるギター・サウンドスケープが広がる。そして3曲目 “Satellite” では、独自のチューニングによるギターのアルペジオと歌声が交錯し、実験とポップの境界を軽々と超えていく。アルバムには14曲が収録されているが、その基本的な構造は最初の3曲に凝縮されている。声、ギター、電子音、ポップ、メロディ、歌詞──それらが織りなすサウンドスケープは、新世代のポップ・ミュージック、あるいはエレクトロニカ・フォークと呼ぶべきものだろう。どの楽曲も構築と即興のバランスが端正であり、じつに繊細に、じつに自由に、じつに高密度に音がコンポジションされている。

 個人的に気になった曲は、まず、5曲目 “Ghost” である。硬質な響きのギターのアルペジオのミニマルな反復に、フックの効いたメロディのヴォーカル・ラインが乗る。わずか2分程度の曲だがまるで太陽の光が降り注ぐような感覚を持った。音が崩れるかのように終わりを迎えるコーダ部分もじつに素晴らしい。加えて6曲目 “Breaks” でいきなりヴォーカルから始まるという曲の構成も見事だ。不吉な打撃音のむこうから天上から響くようなヴォーカル・ラインが鳴る8曲目 “Every Day There's a Sunrise” も良かった。やがて打撃音は消え去り、ヴォーカルとギターと電子が残り、9曲目 “Spirit” に繋がるという構成も実に卓抜だ。さらにはアルバム中でももっとも電子的加工のされていない(であろう)ギターの音が麗しいインスト曲12曲 “Letter” も鮮烈だった。そして14曲目にして最終曲 “You Are Everywhere” も忘れられない。ミニマル。アンビエント。ヴォーカル。“You Are Everywhere” でも、これらが折り重なり、まるで天上から降り注ぐ声と音のシャワーを浴びたような解放感を覚えた。アルバムの音楽のエレメントが控えめに集結し、ラストを華麗に彩る。まさにそんな曲だった。

 私は、本作『Ghost / Spirit』をすべて聴き終えたとき、この作品がどこか「祈り」に近いもの(感情?)を持っていることに気がついた。テクノロジーを駆使した音響作品でありながら、メロディの美しさが際立つ本作には、抽象的で神秘的な響きがあったのだ。どうやらアルバムのテーマは「神秘主義とエゴの消滅」らしい。それはアルバム・タイトル「Ghost / Spirit(幽霊と魂)」とも呼応している。そのせいか、聴き進めるほどに心が解放されていくような感覚を覚えたのである。

 いやそうではない。ジュールス・レイディは、もともとそのような崇高さと清冽さを追求してきたのではないか。そもそも過去のアルバムにも同様の「響き」が満ちていたはず。しかし本作では、その心の開放が、「ポップ=ソングライティング」という形をとることで、より濃密に表現されたのではないか、と。それこそ本作『Ghost / Spirit』の意義なのではないか。

 本作は、エンプティセットのジェイムズ・ギンズブルクがミックスを担当し、マスタリングはラシャド・ベッカーが手がけた。鉄壁の布陣といえよう。また、実験音楽のチェロ奏者ジュディス・ハマンのサンプルも使用されている。細部まで作り込まれた音像は、深く聴き込むほどに新たな発見をもたらしてくれる。音の実験から精神の解放へ。エゴの牢獄から心の解放すること。その希求。没入的なリスニング体験にふさわしい、素晴らしいアルバムである。

The Weather Station - ele-king

 「人間性」という簡潔だからこそ深遠なアルバム・タイトルは、ザ・ウェザー・ステーションことタマラ・リンデマンが音楽で探究する領域を端的に言い当てているだろう。管弦楽器が生き生きと躍動するタイトル・トラックで、彼女は「わたしは人間だったのだろうか? と考えている」と打ち明ける。「この人間らしさを背負ってきた/それを実現しようとしている」。人間とは何なのか――そのような大いなる問いを、あくまで個人的な場所から掲げる7作目である。

 飾りけのないインディ・フォークとして始まったザ・ウェザー・ステーションが大きな飛躍を遂げたのは5作め『Ignorance』でのことだった。ツイン・ドラムと管楽器を含むフルバンドによって音楽的にスケールアップしたそのアルバムでリンデマンがテーマにしていたのは、環境破壊と気候変動を中心とする現代社会の破壊的な現状だった。というと政治的なアルバムのようだが――いやもちろんそうとも言えるのだが――、それ以上にフォーカスが当たっていたのは彼女自身の胸の痛みだった。つまり、地球が傷ついていることに傷ついている人間の心の動きについてであり、それこそをダイナミックなアンサンブルを持ったフォーク・ロックにしたのだ。また、同時期に録音された双子作的な6枚め『How Is It That I Should Look At The Stars』はピアノ・バラッドを中心にして、より内省的にこの世界の美しさを見つけ直そうと聴き手にささやく作品だった。
 バンジョーやフィドル、管楽器を加えた多楽器のアンサンブルで制作した『Humanhood』は、まさにそれらの2枚の成果を合わせた一枚で、活気に満ちたジャズ・フォーク・ロックと静謐で慎ましいバラッドが整然と並べられている。そしてすべての楽曲でディテールに富んだアレンジが施されていて、聴けば聴くほど細部に引きこまれていく。とりわけ活躍するのがフルートやクラリネット、サックスといった管楽器で、それらは曲によって軽やかに跳ねまわったり、抽象的なムードを演出したり、優しくゆったりとピアノと歌に寄り添ったりする。人間の呼吸によって変幻する楽器たち……考えてみればザ・ウェザー・ステーションのアンサンブルが管楽器によってスケールアップしたのは興味深いことで、人間の息づかいが彼女の表現のニュアンスを完成させたと言える。
 息づかいといえば、もちろんリンデマンの声がこの繊細な歌世界を作りあげていることも間違いない。アルバムのなかでもとくにアップリティングな “Neon Signs” の軽やかさ、ジャズ調のアンニュイな “Mirror” でのアルト、あくまで控えめな演奏で浮遊感を生みだす “Body Moves” の茶目っ気……と、多彩な表情を見せていく。その声はしばしば音量がかなり落とされるのだが音程はしっかり取られており、メロディを失わないリンデマンのウィスパー・ヴォイスは、この奥ゆかしいフォーク音楽にけっして消えない光を与えているように感じられるのだ。クロージングの “Sewing”、まるで演奏の隙間に溶けていくような彼女の静かな歌声は、しかしそのデリケートさによって聴き手を陶然とさせる。

 前二作はパンデミック期を強く反映していたが、それ以降の世界はますます混迷していて、当然ながらそうした状況に対するリンデマンの心痛は本作にもはっきり表れている。広告に溢れた世界の信用のならなさ、止まらない環境破壊、壊滅的な政治状況……それらに彼女はなおも傷ついている。そしてそれを聴くわたしたちも、自分たちがたしかに傷ついていたことを思い出すだろう。見なかったことにしていた小さな傷跡のひとつひとつを。何かと好戦的な人びとばかりが目につく状況にあって繊細な心の動きは無視されがちだが、ザ・ウェザー・ステーションの音楽は見落とされた感情をこそ掬いあげる。
 なんでもリンデマンが近年経験した慢性的な離人症障害(自分自身が切り離されているように感じる症状)で得た感覚が本作には投影されているとのことで、「離れてしまった」肉体を探すというモチーフを本作にたびたび発見できる。観念だけでは声を発することはできないから、彼女はここで肉体を切実に求めているのだろう。そうして身体に空気を通して発せられる歌たちは「人間であること」自体を再発見し、その美しさをどうにか取り戻そうとする。この混沌とした世界にあってザ・ウェザー・ステーションの音楽はときに「清廉すぎる」ように聞こえるかもしれないが、しかし、人間性の複雑さと不思議さを神秘的な輝きとして反射させている。

FESTIVAL FRUEZINHO 2025 - ele-king

 今年の6月14日(土)は立川に集合ですね。いまのところ発表されているのがトータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンですが、これだけで行く理由としては十分でしょう。頼む、晴れてくれ。

『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』、2ndラインナップは2組!

 1組目はトータス! シカゴを拠点とするインストゥルメンタル・クインテットは、ダブ、ロック、ジャズ、エレクトロニカ、ミニマリズムといったジャンルを軽やかに取り入れながら、25年以上にわたって誰にも真似できない音を鳴らしてきた。「心から楽しいバンドで、あらゆる音の可能性に開かれている 」(Stereogum)と評され、緻密に構築されていながらも即興的な要素がある、彼らのライヴをお楽しみに!

 2組目は、日本の音楽シーンで多彩な足跡を残すマルチインストゥルメンタリスト、石橋英子! 3月には、7年ぶりの新譜『Antigone』のリリースや「世界中で最も静かで、ほのかに輝くフェスティバルの1つ」と評される「Big Ears」に出演するなど国際的な評価も高まっています。ピアノやフルート、電子音を操り、どこか懐かしくもあり遠くへ連れていくような音楽を創り出す彼女が、どんな音を届けてくれるのかお楽しみに!

 そして、今回、FRUE初の試みとして、25歳以下の若者たちに、私たちが音楽の世界に深く足を踏み入れるきっかけになったジョン・メデスキとビリー・マーティンのライヴを生で体感してほしいと思い、U25割チケットも新たに設けました。手ぶら、日帰りで帰れます。ぜひいらしてください!

 『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』は、大自然の中での「フェス」ほど過酷ではなく、また指定席に座りじっと聴く「コンサート」ほど固くなく、集まる人も適度な数で快適かつ自由な空間と時間をすごせる音楽フェスティバルです。「魂のふるえる音楽体験を!」というコンセプトのもと、2017年より静岡県掛川市で開催している『FESTIVAL de FRUE』のスピンオフとなります。

FESTIVAL FRUEZINHO 2025

日付:6月14日(土)
時間:開場 11:00 / 開演 12:00 / 終演 20:50 ※予定
会場: 立川ステージガーデン
出演者:
Medeski & Martin
Mônica Salmaso & André Mehmari
Tortoise
Eiko Ishibashi | 石橋英子
and more...

チケット
中高生割:5,000円
U25割:11,000円(枚数限定)
早割1:15,000円(枚数限定)
早割2:16,000円(枚数限定)
前 売:18,000円
当 日:19,000円
※受付にて1ドリンク代(¥1,000)を別途お支払いいただきます。
※1ドリンクチケットは場内のドリンクブースにてご利用いただけます。
※1階はスタンディング。2、3階席は全自由席
※来場順での入場です
※小学生以下は無料

Flyer Image:Yuriko Shimamura

協力:
shalala company / infusiondesign inc. / KIMOBIG BRASIL / Eastwood Higashimori / BLOCK HOUSE / 水曜カレー / SHUSAN / WWW / 京都メトロ / 旧八女郡役所音楽の会 / Bird -old pizza house- / The Condition Green / hidemuzic / Yuumies / Taka Ama Hara

主催:FRUE
https://fruezinho.com/

Tortoise

トータスは、アメリカ・シカゴ出身のポストロックバンドで、1990年代前半に結成されました。インストゥルメンタル主体の音楽スタイルで知られ、ジャズ、電子音楽、ミニマリズム、ロックなど多様なジャンルを融合させた独自のサウンドを特徴としています。メンバーは**ダグ・マッコームズ(ベース)、ジョン・ハーンドン(ドラム、パーカッション、エレクトロニクス)、ジョン・マッケンタイア(ドラム、キーボード、プロデューサー)、ダン・ビットニー(パーカッション、エレクトロニクス)、ジェフ・パーカー(ギター)**から成り、ライヴでは楽器を自在に持ち替える柔軟性も魅力です。

 1994年のデビュー・アルバム『Tortoise』で注目を集め、1996年の『Millions Now Living Will Never Die』でポスト・ロックというジャンルを世界に広めた立役者となりました。特に1998年の『TNT』では、当時革新的だったハードディスク・レコーディングを導入し、緻密で実験的な音作りが話題に。以来、常に進化を続け、2016年の『The Catastrophist』までに7枚のスタジオ・アルバムをリリースしています。また、2023年には『Rhythms, Resolutions & Clusters』のリイシュー版もリリースされ、彼らの音楽的探求は現在も続いています。

 彼らの音楽は感情的な旋律と複雑なリズムが共存し、聴く者を予測不能な音の旅へと誘います。シカゴのインディーロックやパンクの影響を受けつつ、前衛的なアプローチで日本では「シカゴ音響派」の代表格としても知られるTortoiseは、ジャンルの枠を超えた表現で今なお多くの音楽ファンを魅了しています。

石橋英子/EIKO ISHIBASHI

石橋英子は日本を拠点に活動する音楽家。
これまでにDrag City、Black Truffle、Editions Megoなどからアルバムをリリースしている。2020年1月、シドニーの美術館Art Gallery of New South Walesでの展覧会「Japan Supernatural」の展示の為の音楽を制作、「Hyakki Yagyo」としてBlack Truffleからリリースした。2021年、濱口竜介監督映画『ドライブ・マイ・カー』の音楽を担当。2022年「For McCoy」をBlack Truffleからリリース。2022年よりNTSのレジデントに加わる。2023年、濱口竜介監督と再びタッグを組み『悪は存在しない』の音楽とライヴ・パフォーマンスの為のサイレント映画「GIFT」の音楽を制作、国内外でツアーを行っている。2025年3月、Drag Cityより7年ぶりの歌のアルバム『Antigone』をリリース予定。

MIKE - ele-king

 僕がマイクをはっきり意識し出したのはつい数年前のことだ。NYを拠点に活動するこのラッパーが、あのシスター・ナンシーを“Stop Worry!”というレゲエ調の曲で大々的にフィーチャーしたときだった。『Beware of the Monkey』(2022)というミックステープに入っているこの曲の、80年代のダンスホールのデジタルなビートのパンチ力をいまの感覚で強調したような洒落た音響、マイクのねっとりとしたフロウ、それと好対照をなすシスター・ナンシーの「WAKE UP!」という力強い煽りとMCの組み合わせが素晴らしかった。ビートは、マイクがDJブラックパワーという名義で作っている。

 シスター・ナンシーとはジャマイカの女性ディージェーの先駆者で、言わずと知れた代表曲“BAM BAM”が数多くのヒップホップの楽曲にもサンプリングされてきた偉大な人物だが、残念ながらご多分に漏れずというか、男性支配の強いヒップホップ/レゲエのシーンでその存在が正当に評価されてきたとは言い難い。マイクとの共作が、2023年にジャネール・モネイが“The French 75”(『The Age of Pleasure』収録)にシスター・ナンシーを招くきっかけになったかもしれない、というのは深読みだとしても、ともあれ僕は最初、そういうわけでマイクに興味を持った。

 それともうひとつ、プロデューサーのトニー・セルツァーとの2024年の共作『Pinball』に収録された“R&B”も大きかった。曲名からして遊んでいるし、事実、90年代のスロウジャムをスクリューしたり、早回ししたりしている。MVの字体やアートワークは00年前後のUKのクラブ・ジャズ系のデザインへのオマージュのよう。こうした、雑多で洒落たサウンドやセンス、いかつさよりもしなやかさを感じさせるラップが、僕の彼への関心を高めた。いまどき風変わりなラッパーがいるんだなと。

 とはいえ、マイクは2015年からbandcampで作品を発表しはじめ、2017年のアルバム『May God Bless Your Hustle』でその名を広く知られるようになったから、本格的なキャリアは10年ほどになる。同じくNY拠点のラッパー、ウィキと、先日エリカ・バドゥとの新作を準備中であるとの情報が流れ、われわれをまたもや驚かせてくれたビートメイカー、アルケミストとの『Faith Is a Rock』(2023年)という共作もある。2024年には来日も果たし、国内でも近年、より注目が集まっている。そのときのライヴの熱気を、『ele-king presents HIP HOP 2024-25』掲載の対談で、PoLoGod. と$hirutaroが報告してくれている。マイクの声量はすさまじく、KRS・ワンの“Return of the Boom Bap”を彷彿とさせるヴァイブスだったという。それは意外な証言で、嬉しい驚きだった。

 そんな1998年生まれのマイクが最初にラップしたのがマッドヴィラン(マッドリブ×MFドゥーム)の“ALL CAPS”のビートだったというのは、彼の音楽性を象徴するエピソードだ。13、4歳のころだ。その曲には、MFドゥームをすべて大文字のアルファベットで書くのを忘れるな、というようなリリックがあるのだが、マイクが、「MIKE」とすべて大文字で表記するのはその影響でもある。ちなみに“ALL CAPS”が収録された名盤『Madvillainy』のデモ・ヴァージョンが最近リリースされて話題を呼んでいる。

 マイクの最新アルバム『Showbiz!』から、その『Madvillainy』や、J・ディラ『DONUTS』、アール・スウェットシャート『Some Rap Songs』を連想するのは難しくない。じっさい“Burning House”という曲では『DONUTS』の“Workinonit”と同様のサイレン音が用いられている。『ピッチフォーク』のレヴュワーが指摘するように、1分半から3分以内の全24曲は、たしかに『DONUTS』のサイケデリアの系譜にあると言えるだろう。シャカタクのような流麗なフュージョンからソウルフルなダンス・クラシックまで、さまざまな楽曲のツボを押さえたサンプリングと、その絶え間ないループが本作の大きな魅力のひとつだ。

 そんなアルバムのなかで、僕は、20曲めのビートレスの“Showbiz! (Intro)”から最後の“Diamond Dancing (Broke)”までの展開を特に興味深く聴いている。ニューエイジ・リヴァイヴァルやアンビエントと共鳴していると説明すればよいだろうか。そのクライマックスは、ギャングスタ・ラップの始祖のひとりであるジャスト・アイスの一節をアイロニー込みで引用し、愛にあふれた父親の留守電を挿入する冒頭曲“Bear Trap”につながっていく。

 最後にひとつ。ビリー・ウッズ(政治的にラディカルなNYのラッパー)が、アメリカの左派メディア「Jacobin」から最近受けたインタヴューで、「もっと知られるべき政治意識の高いヒップホップ・アーティスト」の推薦を求められ、エルーシッドやノーネームとともに、「個人的ななかに政治的な側面を見出す、質が高く、興味深いアンダーグラウンド・ミュージック」としてマイクを称賛していた。僕はそれを知って膝を打った。マイクは2024年のシカゴにおけるライヴの最後にパレスチナの国旗を体に巻き付けてパフォーマンスしたという。

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