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Remember Rainbow Bridge

Posh Isolation

デンシノオト   Apr 27,2022 UP

 コペンハーゲンを拠点として活動し、10年代を代表するインディペンデント・レーベルでもある〈Posh Isolation〉の運営もおこなっているローク・ラーベク。その彼によるプロジェクトのひとつであるクロアチアン・アムールの新作がリリースされた。
 ラーベクはラスト・フォー・ユース、ダミアン・ドゥブロヴニク、ディ・スカルプチャーズ、ソロ名義など複数のプロジェクトを同時に動かしてきた才人だが、なかでもクロアチアン・アモール名義の作品は、彼にとって重要なプロジェクトだったのではないか。
 じじつクロアチアン・アムールは2013年に最初のアルバム『The World』をリリースしてからというもの、ほぼ途切れることなく、〈Posh Isolation〉からリリースしているのだ。
 実質ソロ・プロジェクトゆえの動きの身軽さもあるだろうが、ヴァーグ²™やスカンジナビアン・スターとのコラボレーションも継続的に実践するなど、さまざまな音も実験と挑戦を繰り返していることからも、ラーベクにとってクロアチアン・アモールはさまざまな音の実験の場なのかもしれない。ちなみに2014年にはラスト・フォー・ユースとの共作で『Pomegranate』をリリースしている。

 本作『Remember Rainbow Bridge』は、ソロ・アルバムとしては眩い「光」のサウンドを放つエクスペリメンタル環境音楽とでも形容したいほどの傑作『All In The Same Breath』のリリース以来、2年ぶりのアルバムである。とはいえ2021年も、ヴァーグ²™との『Body of Content』や、スカンジナビアン・スターとのEP「Spring Snow」をリリースしているので、昨年からずっと新作が継続しているような印象を持ってしまう。
 とはいえその音楽はつねに微細に、かつダイナミックに変化してきた。私見では初期のインディ・アンビエント的な音楽性から脱却したのは、2016年リリースの『Love Means Taking Action』だったと思う。音に深みが出て、音の重ね方や構成がよりソリッドになり、同時にアンビエントとしてのチルなムードもある。いわばインダストリアル/アンビエントなエレクトロニック・ミュージックとでもいうべき音響空間を実現したのである。
 そして2019年の『Isa』と2020年の『All In The Same Breath』は表裏一体のようなアルバムと私は考えている。いわば「光のオペラ・アンビエンス」とでもいうべき独特の煌めきを獲得したように思えたのだ。だがこれはこの二作だけに限らないともいえる。彼の全アルバムには一貫してエモーショナルな感情がうごめいているように感じられるからだ。
 新作『Remember Rainbow Bridge』は、これらの共作の成果を踏まえつつ、何より『All In The Same Breath』の「その後」を受け継ぐようなアルバムに思えた。『All In The Same Breath』は、光の拡張のようにオプティミスティックなエレクトロニック・ミュージックであったが、『Remember Rainbow Bridge』はそこから個人の内面の変化と成長に焦点を当てたようなアルバムとして仕上がっていた。
 ひとりの少年が青年になり、何かを喪失し、何かを獲得するように、このアルバムの音楽もまた変化する。飛翔。不安。夢。リアル。前進。アンビエントからビート・ミュージックまで駆使しながら、このアルバムのサウンドは聴き手をどんどん別の世界へとつれていってくれるだろう。
 1曲め “5:00 am Fountain” はゆったりとしたアンビエントなムードではじまり、声のサンプルや機械信号のようなシーケンスに次第にビートが入り、ゆるやかに上昇するように盛り上がっていく。まるで現世から飛翔するように。2曲め “Remember Rainbow Bridge” では軽やかなシンセサイザーのアルペジオを基調としつつ、ダイナミックなビートが優雅に絡み合っていく。楽曲の構成が絶妙なせいか音世界にどんどん入っていけるのだ。アルバムには全8曲が収録されているが、曲想はヴァリエーションに富みつつも、作品に世界に没入させていく手腕はどの曲でも変わらない。
 
 『Remember Rainbow Bridge』は「少年時代の感性と成長」というコンセプトで一貫しているのだが、それを表現するのが「物語性」ではなく、音による「没入感」である。そしてその没入感の根底には「感情」を揺さぶるようなドラマチックなコンポジションがある。
 本作『Remember Rainbow Bridge』にはアンビエントの要素もある。リズムが入った曲もある。声やヴォーカルも入っている。音の色彩は実に多彩だ。だが根底にあるのは「感情」の大きなうごきのようなものではないかと思う。そう、エモーショナルなエレクトロニック・ミュージックなのだ。
 最終曲 “So Long Morningstar” は静謐なアンビエント作品でありながら、声のサンプル、ギターのフレーズ、弦楽器的な旋律、電子音の持続が折り重なり、聴き手の心と感情に浸透するような音響を展開している。
 感情? もしかするといまの時代にはそぐわない言葉かもしれない。だがエレクトロニック・ミュージックはつねにエモーショナルが重要なポイントだった。クラフトワークもデトロイト・テクノも竹村延和もフェネスも OPN もアルカも感情の動きを自身の音にスキャンしていくような感覚があった。
 機械的であっても感情を捨て去ってはいないのだ、感情は私たちにとって大切なものだ。喜び、畏れ、怒り、恐怖、悲しみ、驚き。音楽は多様な感情を反射するアートである。クロアチアン・アモールの音楽もまたそのことを証明している。「感情の復権としてのエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージック」がここにもある。

デンシノオト