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Album Reviews

Loke Rahbek

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Loke Rahbek

City Of Women

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デンシノオト   Jul 19,2017 UP
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 コペンハーゲン出身、1989年生まれのローク・ラーベクは、レーベル〈ポッシュ・アイソレーション〉の主宰者であり、同レーベルからアルバムをリリースするエクスペリメンタル・ノイズ・ユニット、クロアチアン・アモール、ボディ・スカルプチャーズ、 ダミアン・ドゥブロヴニクのメンバーでもある。さらにはブルックリンのインディ・レーベル〈セイクリッド・ボーンズ〉からリリースしているエレクトロ・ポップ・ユニット、ラスト・フォー・ユースのメンバーとしても知られており、まさに現在のユース・サウンドを象徴する重要人物といえよう。
 そのローク・ラーベクがソロ・アルバムを、ウィーンのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルの老舗〈エディションズ・メゴ〉から発表した。自身の名義が刻印されたアルバムは、2015年にピュース・マリーとの共演作『ザ・フィーメール・フォーム』を〈ポッシュ・アイソレーション〉からリリースしているが、単独でのソロ・アルバムは『シティ・オブ・ウーマン』が(公式には)初である。彼に目を付けた点は、さすが長年にわたってエクスペリメンタル・ミュージック界の先端的キューレーションをおこなってきたこのレーベルならではの審美眼ともいるし、自身のソロ・アルバムを〈ポッシュ・アイソレーション〉からのリリースにしなかったあたりにローク・ラーベクのセンスの良さを感じたりもする(まあ、このへんは結局、すべて繋がっているともいえるから一概にはいえないだろうが)。

 それしても『シティ・オブ・ウーマン』は素晴らしい。現代的なモダン・ノイズ・アルバムでありながら、ノスタルジックな音楽の記憶の欠片が散りばめられているような音楽性で、イマジネーションが強く刺激される。ハードなノイズ、ノスタルジックなピアノなどの楽器音、消えかけた刹那の絶叫のような声の残滓、強く、しかし怠惰に打ち付けられる打撃音。その音のどれにも「血の匂い」がするのだ。不穏でもある。官能的でもある。構築と衝動が高密度に結晶しているとでもいうべきか。〈ポッシュ・アイソレーション〉のノイズ・アルバムがそうであるように、この作品にも繊細な知性と衝動性が同時に共存しているのだ。
 アルバムはA面に4曲、B面に5曲、計9曲が収録されている。時間にして33分ほどだが、ノイズ/ミュージックは聴き手の時間感覚を失調させるものだから、実時間と音響作品の密度は(それほど)関係はない。ちなみにマスタリングはお馴染みのラッシャッド・ベッカーが手掛けており、録音作品としての品質をさらに上げている。
 硬質なノイズによって始まる1曲め“ライク・ア・スティル・プール”のサウンド・レイヤーは、まるで波のように聴き手を本作の音響空間へと連れていく。音の波へと意識をダイブされた後は、2曲め“フェルメンテッド”で、深海を漂う意識/記憶のように静謐な音響空間の海に浸ることになるだろう。ここでは断片的なピアノの戦慄が鳴り、微かな環境音や楽器音が淡く交錯する。3曲め“シティ・オブ・ウーマン”は、ティム・ヘッカー以降の最先端アンビエント・ノイズ・ドローンが展開される。持続音をダイナミックに、繊細に変化させ、そこにノイズや変形したヴォイスのような細やかなサウンドを重ねていく。とてもドラマチックなアンビエント/ドローンだ。このトラックこそアルバム前半のクライマックスである。

 4曲め“ア・メス・オブ・ラブ”は、何かをカウントするような音と、それとまったく関係ない静謐な持続音がレイヤーされ、やがてエレクトリック・ギターのようなコードと聖歌隊のように澄んだアンビエンスが交錯する。トラックの音響全体にどこか「非同期的」な感覚があり、坂本龍一の新作『アシンク』と共通するようなムードがある(これは興味深い偶然だ)。
 そんな非同期的なムードのままアルバムA面は終わり、B面1曲め(5曲め)“パーム”になる。この曲は後半のオープニングを飾るに相応しい不穏なトラックだ。続く“イン・パイルズ・オブ・マガジンズ”では不規則な打撃音と硬いノイズ、衝動的に打たれるキックの音などがまたも非同期的にレイヤーされていく。楽曲は後半になるに従いノイジーになり、何か深い呼吸音のような音、過剰にエディットされた環境音のようなサウンドたちが不穏なムードを演出する。そして僅か50秒程度のインタールード的な“ア・ワード・ア・デイ”は、美しく静かなピアノ曲。短い曲だがアルバムを聴き終わると、この50秒間の音楽/音響の印象が強く残るのが不思議だ。その僅かな休息を挟んで、アルバムはラスト2曲“スウィムウェア”と“テイク・プレジャー・イン・ハビッツ”へと至る。硬く、過激で、硬質で、メタリック。まさにサウンド・オブ・ノイズ。そんなノイズの快楽に酔いしれているうちに、あっという間にアルバムは終わる。

 同時期に〈ポッシュ・アイソレーション〉からリリースされた ローク・ラーベクとクリスチャン・スタッドスゴーアのユニット、ダミアン・ドゥブロヴニクの新作『グレート・メニイ・アローズ』(こちらも傑作)を聴いても分かるのだが、 ローク・ラーベク、〈ポッシュ・アイソレーション〉らコペンハーゲンのニュー・エクスペリメンタル・ノイズ・サウンドには、どこかアンビエント化したブラックメタルかのごときアトモスフィアを強く感じる。それは『シティ・オブ・ウーマン』でも同様だ。

 崩壊しつつある「世界」への不満・不穏と、ロマンティックな「美」への憧れと衝動の交錯。欧米中心の世界が壊れていく21世紀初頭のユース・ノイズには、確かに、反抗的で、しかし美を強く希求するエモーショナル/ロマンティックな意志が強く刻印されている。だが、私などは、そこに、不思議と、まったく音楽性が正反対であるにも関わらず、どこか80年代のネオ・アコースティックな音楽と同様の匂いを感じとってしまうのだが、どうだろうか? そこにこそ彼ら特有の血の匂いの本質が隠されているように思えてならない……。

デンシノオト