「W K」と一致するもの

SCARS - ele-king

 先日、入手困難だったファースト・アルバムがリイシューされ、話題沸騰中の日本を代表するヒップホップ・グループ SCARS。こたびの完全復活にあわせなんと、オフィシャルTシャツの発売が決定した。本日7月5日より販売受付がスタート。SからXXLまで、各サイズしっかり取り揃えられているのが嬉しい。完全限定生産とのことなので、締め切られてしまう前に急げ!

A-THUG を筆頭に SEEDA、STICKY、BES、bay4k らが名を連ねる日本語ラップ・シーン最重要グループ、SCARSのオフィシャルTシャツが完全限定で発売!

 A-THUG を筆頭に SEEDA、STICKY、BES、bay4k らが名を連ねる日本語ラップ・シーン最重要グループ、SCARS! 奇跡の復活を果たし、またファースト・アルバム『THE ALBUM』、セカンド・アルバム『NEXT EPISODE』のリイシューも実現して再びシーン内で大きな注目を集める中、オフィシャルのTシャツが完全限定で発売!
 その『THE ALBUM』のジャケットでも使用された赤をベースとする SCARS ロゴを用いたデザインで、ボディは GILDAN (6ozウルトラコットン)を使用し、ブラック・グレーの2色、S~XXL サイズが発売。本日7/5(金)正午から下記サイトのみの完全限定生産での発売となります。受注受付期間は7/22(月)正午までを予定しており(※変更になる可能性もあります)、発送は8月上旬頃を予定しております。また期間中にオーダーしていただいた方にはTシャツのデザインでも使われたSCARS ロゴのステッカーが特典としてついてきます。お買い逃しなく!

*SCARS ロゴTシャツ - 販売サイト
https://anywherestore.p-vine.jp/?pid=144029904

アイテム: SCARS ロゴTシャツ
カラー: ブラック / グレー
サイズ: S / M / L / XL / XXL
販売価格: 3,800円(税抜)
受注締切: 2019年7月22日(月)正午
発送予定: 2019年8月上旬

※ご購入のお客様には SCARS ロゴ・ステッカーが特典としてつきます。
※ボディは GILDAN (6ozウルトラコットン)になります。

参考サイズ (単位:cm):
Sサイズ:身幅 46.5 / 身丈 70.5 / 袖丈 17 / 肩幅 44
Mサイズ:身幅 51.5 / 身丈 72 / 袖丈 17.5 / 肩幅 47.5
Lサイズ:身幅 55.5 / 身丈 75.5 / 袖丈 19 / 肩幅 51
XLサイズ:身幅 60.5 / 身丈 79.5 / 袖丈 20 / 肩幅 58
XXLサイズ:身幅 65 / 身丈 81 / 袖丈 21.5 / 肩幅 65

Aura Safari - ele-king

 ブラッドリー・ゼロ主宰の〈リズム・セクション・インターナショナル〉やテンダーロニアス主宰の〈22a〉など、ジャズ・ミュージシャンと結びついたり、ジャズ色を感じさせるリリースをおこなうクラブ・ミュージック系レーベルの躍進が目立つ近年のサウス・ロンドン。DJ/プロデューサーとして作品制作をおこなうセブ・ワイルドブラッドが主宰する〈チャーチ〉もこうしたレーベルのひとつである。〈リズム・セクション・インターナショナル〉や〈22a〉同様にディープ・ハウスやビートダウン、テクノ、ブロークンビーツなどとジャズを繋ぐような作品が特徴で、セブ以外にイシュマエル(ブリストルのピート・カニンガムのユニットで、イシュマエル・アンサンブルというバンドも組んでいる)、ベン・ホーク、ローレンス・ガイ、モール・グラブ、ハッパ、FYI・クリスなど、なかなか通好みで渋いところをリリースしている。最近ではヒドゥン・スフィアーズがオスカー・ジェローム(ココロコ)とコラボした12インチを出しているが、ロンドンやUKのアーティストだけでなくニュージーランドのカオス・イン・CBD、カナダのジェシー・ファターマン、フランスのフォラムールなどいろいろな国のアーティストもリリースするインターナショナル・レーベルである。今回〈チャーチ〉からデビュー・アルバムをリリースしたオーラ・サファリもイタリアのアーティストである。

 オーラ・サファリに関しては詳しいバイオがないのだが、アレッサンドロ・デレッダ、アンドレア・モレッティ、ロレンゾ・ラヴォラトリ、ダニエレ・メローニ、ニコラス・ラマッテオという5人のDJ/プロデューサーからなるユニットで、ペルージャを拠点に夏はイタリアの国際的なジャズ・フェスとして知られるウンブリア・ジャズ・フェスに出演し、冬はレッド・ゾーン・クラブというところで活動しているそうだ。5人のメンバーの年代や音楽的バックグラウンドは様々で、ジャズ・ファンク、フュージョン、ディスコ/ブギー、ワールド・ミュージック、イタロ・ハウス、バレアリック、コズミックなどがルーツとなる。この中でニコラス・ラマッテオはハウス系プロデューサーとして結構知られた存在で、ニコラス名義で〈チャーチ〉からも作品を出しているので、オーラ・サファリについてもその流れでリリースが決まったのだろう。
 1990年頃に一世を風靡したイタロ・ハウスの代表的アーティストとして、ソフト・ハウス・カンパニーやキー・トロニクス・アンサンブルといったジャジーなテイストのユニットが上げられるが、これらにかかわったフランチェスコ・モンテフィオリは実際にジャズ・ミュージシャンであったし、クラウディオ・モーツァルト・リスポリはアフロ・スタイルと呼ばれる独自のクロスオーヴァーなDJスタイルを作り出したイタリアの伝説的DJだった。ニコラスが彼らの影響を受けたのは明白で、オーラ・サファリはそれをさらにジャズ方向へシフトしていったユニットと言えるだろう。

 “ミュージック・フォー・ザ・スモーキング・ルーム”で聴かれるメロウでオーガニックなフェンダー・ローズ、ハウス・ビートのBPMにシンクロするパーカッシヴなジャズ・ファンク・リズムというのが、まずはオーラ・サファリの基本的なスタイルとなる。エレピに絡むベース・ラインが印象的な“サハラ”は、1980年頃のブギーを取り入れたアジムスを彷彿とさせる曲だ。パーカッションを有機的に絡めたバレアリックな“ジャングル・ジャズ”もかなりアジムスを意識した楽曲だ。ブロークンビーツ調の“ザ・ロスト・リール”でもベースが核となり、オーケストラルなシンセとのコンビネーションで奥行きのある空間を作り出す。ラテン・タッチの“サターン&カリプソ”に見られるように、ワールド・ミュージック的なアプローチも随所に感じられる。トランペットのソロをフィーチャーした“ミッドナイト・ディシプリン”は、ジャズのストイックなムードに包まれると共に、パル・ジョーイやDJスマッシュなどかつてのジャズ・ハウスに通じる楽曲だ。
 最近のイタリアのディープ・ハウス~クロスオーヴァー・シーンでは、ジャックス・マディシン、ターボジャズといったジャズの生演奏を取り入れたアーティストが活躍している。オーラ・サファリもそれらと同じようなベクトルを持つが、演奏の深みやハウス・ビートに縛られない音楽的幅広さという点で、さらにジャズ寄りの位置にいるアーティストと言えるだろう。

Girlpool - ele-king

 インディ・ロックといえば、80年代はザ・スミスやフェルトのようなミゼラリビストが主流だったものだが、21世紀の合衆国においてはすっかりドリーマーたちのスタイルになりつつあるようだ。今年の初頭に出したニュー・アルバム『What Chaos Is Imaginary』が、インディ・ドリーマーたちから賞賛されているロサンゼルスのドリーミー・ポップ・デュオ、ガールプールが来日する。音楽事務所DUM-DUM野村とフォトグラファー、ライターとしても活躍中のYUKI KIKUCHIさん(旧名:キクリン)がいまプッシュしたいアーティストこそ彼ら。まあ、ドリーミーというか、ジーザス&メリー・チェインを彷彿させるバンドです(つまりそうとう良い)。注目しましょう。
 なお、新代田FEVER での対バンは東京インディ・シーンで頭角を現してきているTAWINGSとNo Buses。とても格好いいバンドなので、この機会にぜひ見てください!

GIRLPOOL Japan Tour2019

大阪 9/1(日) 心斎橋CONPASS
Girlpool Japan tour 2019
LINE UP:Girlpool(From CA)
OAアリ!
DJ:DAWA(Flake Records)
出店;Distro Now!
Open 18:00/ Start 18:30  
Ticket:¥4,800(前売/1ドリンク別 先着来場者特典アリ)
お問い合わせ # 06-6243-1666 心斎橋CONPASS

● 出演イベント
東京 9/2(月) 新代田FEVER
Girlpool Japan tour 2019

LINE UP:Girlpool(From CA)
SUPPORT ACT:TAWINGS、No Buses、BYE CHOOSE(Dj)
出店;Distro Now!
Open 18:30/ Start 19:00  
Ticket:¥4,800(前売/1ドリンク別 先着来場者特典アリ)
お問い合わせ # 03-6304-7899 新代田FEVER

東京 9/3(火) 下北沢BASEMENTBAR
Girlpool Japan tour 2019

LINE UP:Girlpool(From CA)
OAアリ!
出店;Distro Now!
Open 18:30/ Start 19:00  
Ticket:¥4,800(前売/1ドリンク別 先着来場者特典アリ)
おい合わせ # 03-5481-6366 下北沢BASEMENTBAR

ツアーチケット先行販売はこちらから受付しております→https://peatix.com/group/44011/view#

Lifted - ele-king

 もうすぐ2010年代が終わる。この約10年はインターネットによって音楽が歴史的な変化を被った時期であった。
 まずは10年代初頭の映像中継配信、次いで10年代中盤のサブスクリプションの普及。そして00年代全般を通底する無数の YouTube の動画たち。これらの普及と浸透を経て、音楽はインターネット上に漂う新たなエーテルになった。どのような音楽も等しく音のアンビエンスになった。
 新しい音楽を聴くことが日常的になり(情報のようになり)、日常に音楽というアートの扉は広く開かれた。くわえて地理的制約も歴史的な条件も外され、過去に生まれた音源がいまのモードによって再発見されるようになった。現実世界もインターネットからフィードバックを経て、数百円で投げ売りされていたアルバムに新たな価値が付与される。
 その結果、当然のことながら、すぐれたディガーによる興味深いミックス音源が生まれた。ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランによるジャパニーズ・エレクトロ・ポップ、ジャパニーズ・アンビエントのミックス「Fairlights, Mallets And Bamboo Vol. 2」が話題になり、欧米を中心にディガーたちのトレンドになった(この「ディガー」もまた10年代中期的以降の存在だと思う)。
 リフテッドが2015年にリリースした『1』は、そんな10年代中期の時代の空気をまとっていたアルバムであった。アンビエンスなアトモスフィアに、立体的な音響設計のなかでニューエイジ/環境音楽的なムードをいち早く導入し、現代の音楽的潮流を予測していたようなサウンドを構築していた。モーション・グラフィックスのアルバムとともに10年代中期の電子音楽の重要作といえる。
 リリース当時は、いまや使い古された「OPN以降」という言葉で(間違って?)消費されてしまった感もあるが、本当は先に書いたような「10年代的なディガーの感性」を15年の段階でまとっていたことが重要に思える。何しろ、『1』には〈ミュージック・フォー・メモリー〉が再発見したことで、ニューエイジ再評価の波を作ったといっても過言ではないジジ・マシンがゲスト参加しているのだから。

 そんなリフテッドのニューアルバム『2』がリリースされた。前作『1』が2015年リリースなので4年ぶりである。とはいえ「待ちわびていた」というと、そういうわけでもない。まさかセカンド・アルバムが出るとは思ってもいなかった。
 リフテッドは、あのマックス・Dと、コ・ラ(マット・パピッチ)のコラボレーション・ユニットである。それぞれレーベル主宰やソロとしても重要な仕事を残しているし、先に書いたモーション・グラフィックスまで参加している。いわば『1』限りの企画的なユニットと勝手に思い込んでいた。しかし誰が続編を予想できただろうか。
 だが、1があれば2もある。よく考えなくとも次回作の存在は、前作の名に示されていた。むろんこれは冗談だが(彼らの意図はどうあれ)、この新作が2019年という時代にリリースされる意味はとても大きいと私は考える。そう、このアルバムは「10年代の最後」を飾る音楽なのだ。

 前作と大きく違う点はビートが大幅導入されている点だろう。しかしそのビートはM1 “Now More Than Ever”に代表されるように、どこかずれているように聴こえるし、サウンドの中に綺麗に融解しているようにも聴こえた。また、ジャズと民族音楽とアンビエントがインターネット空間でセッションしているようなM4 “Blackpepper”、M5 “Purplelight Wish なども極めて独創的な音楽であった。90年代初頭的なヒップホップと80年代的なフュージョンが融合したようなM6 “Rose 31”もサイバーエレガントなトラックとでも称したいほどだ。ラストのM7の“Near Future”など、完璧にジャズ+エレクトロニックなトラックで、特にモーション・グラフィックによるピアノの巧みさにも驚いてしまった。
 しかし、どの曲も、地上から浮いているような非現実的なズレや浮遊感に満ちている。そのサウンド空間は、記憶のように、曖昧であり、具体的だ。そのムードは確かに前作『1』を継承している。前作に続きモーション・グラフィックスや、ジェレミー・ハイマン、ジョルダン GCZ、ダウィット・エクランドなどの〈Future Times〉周辺のミュージシャンらも参加している。アルバムには全7曲が収録されており、どのトラックも創意工夫に富み、立体的な音像のミックスもスリリングにして優雅だ。

 そう、本作においてアンビエント、ヴェイパーウェイヴ、ニューエイジ、ジャズ、ゲーム音楽、民族音楽などのサウンド・エレメントがまるで幽霊のように交錯している。その音は仮想空間の中にしか存在しない架空のミックス音源のようでもあるし、時空間の離れた者同志のセッション音源のようにも聴こえる。存在するのに、存在しない。消失しつつあるような音楽。リフテッドの音楽性は、このすべてがインターネットの中に消失していったこのディケイドの終わりを飾るに相応しいように思えてならない(輪郭線が滲んでいくようなアートワークのミニマリズムも10年代的だ)。
 2010年代は、インターネットの中に漂う音楽があった。それらは常に消えかけているし、幽霊のように再生したりもする。じじつ、2010年代の音楽は、ポスト・インターネットという死語が表しているように、どこか実体を欠いた空気のように、エーテルとなってインターネット空間/世界を漂っていた。そのような意味でこの『2』は、まるで2010年代音楽における最後尾のアトモスフィアを放っているように感じられる。この10年の先端的音楽にまつわる事柄が走馬燈のように展開するアルバムといえる。

Koji Nakamura - ele-king

 きっちり時代に呼応している。まずはそのことを確認しておくべきだろう。数えきれないほど多くのプロジェクトを抱えるナカコーこと Koji Nakamura だけれど、『Masterpeace』以来5年ぶりとなるソロ名義の新作『Epitaph』は、初っぱなから“Emo”のノイズや教会的なドローンが体現しているように、あるいは“Wonder”や“Influence”や“Hood”といった曲の電子音から聴きとることができるように、ジェイムス・フェラーロOPN 以降のアンビエント~エレクトロニック・ミュージックのモードとリンクした作品に仕上がっている。おそらくは近年の Nyantora 名義での活動や福岡の duenn との交流、さらにそこにメルツバウを加えた 3RENSA での経験が大きくフィードバックされているのだろう。『Epitaph』はアンビエント~電子音楽の作り手としてのナカコーの、ひとつの到達点を示している。
 プロデューサーに抜擢された Madegg の尽力も大きい。随所に挿入されるさまざまなノイズや加工された音声、ドローンや具体音の数々は、彼とナカコーとのキャッチボールの賜物であり、ふたりの試行錯誤はたとえば、印象的なストリングスと ACO の筆による押韻の合奏から一転して美しいドローンへと変容する“Reaction curve #2”や、キャッチーなピアノの反復が不穏なノイズを巻き込みつつ徐々に昂揚感を煽っていく“Open Your Eyes”、甘美なハープがシューゲイズ・ノイズに呑み込まれていく“Sense”のようなトラックに見事に実を結んでいる。
 他方でこの新作でナカコーは、驚くべきことに、ブラック・ミュージック的なヴォーカルを披露してもいる。その最良の成果は“Lotus”によく表れているが、そのような「黒い」コード感とリズムがもたらす穏やかなソウルの情性は、いわゆるクワイエット・ウェイヴの流れに連なるものと捉えることも可能だろう。ようするにこの『Epitaph』は、一方でフェラーロや OPN 以降の電子音楽の状況を踏まえながら、他方でいまの静かなソウル~ポップのトレンドとも合流する、きわめて時代的かつ二重に「アンビエント」な作品である、とひとまずは整理することができる。

 興味深いのは、この『Epitaph』という作品がもともとはフィジカルや配信での販売を想定したものではなく、サブスクリプションのプレイリストとしてはじまったものであるという点だ。曲は任意のタイミングでアップグレイドされ、オーダーも随時入れ替わる──そのような移ろい、一時性への着眼は、けっして同じ音の組み合わせが発生しないイーノの『Reflection』とはまた異なる位相で、はかなさのなんたるかを知らしめようとしているかのようだ。当たり前だが、更新されるということは、以前のものが聴けなくなるということで、そのような不可逆な試みに「エピタフ」という題が与えられているのも重要なポイントだろう。墓碑銘とは、未来に向けてではなく、過去に向けて贈られるプレゼント=現在なのだから。
 と、まさに過去こそが『Epitaph』の主題になっているわけだけど、それは Arita shohei の詞によって補強されてもいる。全体をとおしてもっとも多く登場するのは「あの時」という、かつての瞬間や出来事や体験を想起させるための言葉で、他にも「変わる/変わらない」「巻き戻す」「帰る/帰れない」「記憶」といったフレーズの頻出するこのアルバムは、そもそも音の聴取というものが少し前に鳴っていた音の忘却によって成り立っていることを、そしてアンビエントやドローンという着想ないし手法がそのような時間の流れを攪乱するものであることを思い出させてくれる。そう、「思い出さ」せてくれるのだ。だからこそ、一見ナンセンスで、他の曲たちと毛色が異なっているように見える最終曲“No Face”が、カオナシを題材にした abelest のラップをフィーチャーしていることも、強烈な意味を伴って立ち現れてくる──『千と千尋の神隠し』におけるクライマックスが「思い出す」ことだったことを思い出そう(ちなみに abelest は昨年“Alzheimer”という曲で、ザ・ケアテイカーとはまた異なる角度から記憶や忘却と向き合っている)。

 このように、尖鋭的な音響工作と、過去や記憶をめぐる思索──空間と時間双方にたいするアプローチが織り込まれた『Epitaph』は、ちょっと他に類例の思い浮かばない独自の強度を具えているわけだけど、この特異な作品を生み出したのがナカコーであるという外在的な事実もまた無視してはならないポイントだろう。思うに、『Epitaph』には二本の糸が絡み合っている。一本は日本と海外を繋ぐ横の糸。もう一本はメジャーとアンダーグラウンドを結ぶ縦の糸だ。
 Madegg との共謀による海外の同時代的なサウンドの換骨奪胎作業と、どこまでもナカコーのものとしか言いようのないヴォーカルや主旋律、あるいはゆるふわギャングや abelest や ACO や Arita shohei による、日本からしか生まれえないだろう諸要素との類まれな共存は、近年ますます洋楽を聴かない層が増えているというこの国の音楽をとりまく状況において、どう「外」からの影響と「土着性」との折り合いをつけるかということの、ひとつの希望だと言えるし、またそのような作品がアンダーグラウンドではなくメジャーから発表されたことも、デビュー当時からすでにボアダムスや中原昌也に心を奪われていたというナカコーが自然に身につけた、オルタナティヴなスタンスの表れのように思えてならない。

 というわけで、結論。20年以上におよぶキャリアのなかでナカコーは、いまこそもっとも輝いている──過去へのプレゼント=現在たる『Epitaph』には、そう思わせてくれるだけの実験精神と想像力とパッションとそして、音楽にたいする愛がぎゅっと詰め込まれている。

冴えわたるベンジー・Bのセンス - ele-king

 2019年6月20日、ルイ・ヴィトン、メンズの2020春夏コレクションが発表された。ランウェイの舞台はドフィーヌ広場、「少年時代の楽しみ」をコンセプトとし、会場の外観は春の訪れを感じさせる濃い緑で統一された。ラッパーのオクテヴィアンブラッド・オレンジのデヴ・ハインズ、クリス・ウー、スワエ・リー(Swae Lee)といったミュージシャンもランウェイを歩き、話題を集めた。ヴァージル・アブローがアーティスティック・ディレクターを務め、ミュージック・ディレクターを務めるのはベンジー・B。本稿ではこのランウェイで使われた音楽をレヴューした。

 一聴してわかるが、2020SS のコレクション音楽の主役はヴァイオリンだ。ヴァイオリンを主役としつつ、シンセサイザーやサンプリングが絡み合った音楽がヘリテイジ・オーケストラによって再解釈されて演奏される。パリという都市で、ヴァージルのもつサンプリング・再解釈・再構築といった彼の理念を表現しようと思ったとき、ベンジー・Bはヒップホップだけでなくジャズ、コンテンポラリー・クラシック、グライムといった様々な現代的な要素を織り交ぜ調和させることを選んだ。

 演奏を手がけたのはUKのジュールス・バックリーとクリストファー・ウィーラーによって設立されたオーケストラ「The Heritage Orchestra」。ジャイルス・ピーターソン のフェスティヴァル出演、BBC Live Lounge の演奏を務めるなどBBCとの関わりも強く、ピート・トン(Pete Tong)とのコラボレーション・アルバムでは、イビザ・クラシックスを再解釈したアルバムを発表している。

Max Richter - Spring 1 (Four Season Rework)
 コンテンポラリー・クラシックの音楽家、マックス・リヒターが手がけた「春」、この曲がランウェイ全体の文脈を作り上げ、雰囲気をセットしている。マックス・リヒターは66年ドイツ生まれ、英国育ちのコンポーザーで、クラシックとエレクトロニクスを結びつけた音楽性で注目を集め、映画音楽なども手がける。人気を得たのは2018年に公開された映画『メッセージ』で使用された“On the Nature of Daylight”、そしてこの曲で使われたのはヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」をリメイクした『Recomposed by Max Richter: Vivaldi – The Four Seasons』(2012)より“Spring 1”だ。

《四季》の原曲の楽譜を検討した結果、リヒターは既存の音源を使うのではなく、音符単位でリメイクしたほうがと判断。その結果、原曲の75%にあたる素材を捨て、残りの25%の素材に基づきながら新たに楽譜を書き下ろし、ヴァイオリン独奏と室内アンサンブルで演奏可能な“新作”を完成させた
* https://www.universal-music.co.jp/max-richter/products/ucch-1037/

 印象的なヴァイオリンのフレーズは原曲の音符をつなぎながら、再構築されており、確かに原曲の雰囲気を踏襲しているものの異なった響きを得ている。さらにヴィヴァルディの原曲と異なるエッセンスとして、Moog シンセサイザーのベースラインが敷かれている。ヒップホップとは異なる形で、サンプリング・再構築・コラージュといったアプローチが表現されているといえるだろう。

Arthur Verocai - Sylvia
 ブラジルのサイケ・レアグルーヴと呼ばれるアルトゥール・ヴェロカイの1972年リリースの2ndアルバムより。2016年にリイシュー盤が発売されている。ヒップホップとのつながりといえば、リュダクリス、カレンシー(Curren$y)、スタティック・セレクター、スクールボーイ・Qといったラッパーが2000年代中頃にこぞって同曲が収録されたアルバムからサンプリングしたことだ。この曲でも、ホーン使いにはむしろその頃のヒップホップ・チューンを連想させられた。

Arca - Wound
 アルカのアルバム『Xen』より。Xジェンダーやフェミニズムといったモチーフを加工した声によって表現する。原曲では重低音とシンセ、そしてヴァイオリンが鳴らされている。「I am not the wound type」というアルカのメッセージこそ演奏されないものの、性を超えた多様性への目配せがあるのだろう。

Nick Drake / Andy Bay - River Man
 UKのシンガーソングライター、ニック・ドレイクによる“River Man”のアンディ・ベイによるアレンジカ・カヴァー。ここでもギターの後ろでヴァイオリンが奏でられている。ここで、この会場となったドフィーヌ公園自体がパリのセーヌ川の三角州に位置していることと、この曲のタイトル「River Man」とは情景のレヴェルでつながっているはずだ。

Slum Village - Fall in Love
 NYのジャズ・ピアニスト、ギャップ・マンジョーネの“Diana in the Autumn Wind”をサンプリングしたJ・ディラ・プロデュースの1曲。ベンジー・Bの頭の中にはジャズ・ミュージシャン=アンディ・ベイのカヴァーからの、ジャズ・ピアニストの音楽をサンプリングするという連想があったのかもしれない。このランウェイの中でもっとも普通に北部のクラシックなヒップホップであるが、弾き直されることで雰囲気を変え、ランウェイの雰囲気とよくマッチさせている。

Treble Clef - Ghetto Kyote
 UKのグライム・アーティスト=トレブル・クレフ(Treble Clef)による2000年代のインスト・グライム・クラシック。原曲のチープなサンプルベースのヴァイオリンの原曲をオーケストラで再現することでクラス感を醸し出している。ランウェイではフランス移民の出自をもつUKのラッパー、オクテヴィアンが映され、UKのサウンド・カルチャーの新旧世代がランウェイでコラボレーションした瞬間だった。

Tyler, the Creator - Igor’s Theme
 カルフォリニア発のコレクティヴ=オッド・フューチャーのタイラー・ザ・クリエイターの最新作、『 IGOR』のテーマ。「彼がこの街にやってくる」(あるいは裏側の意味としては、「この曲に集中しろ」という言葉が鳴り響いている)というメッセージが鳴り響き、コラージュ的なサウンドスケープが展開された原曲。演奏はヴァイオリンを軸にシンプルなインストゥルメンタル。

 一聴すると、パリ・ヨーロッパという文脈に合わせて、ヴァイオリンという楽器の共通点のみでジャズ、コンテンポラリー・クラッシック、グライムをごちゃごちゃと混ぜているように見える。しかしリサーチを重ねていくと、選曲の裏側にサンプリング・再構築・コラージュといったヴァージル・アブローの基本哲学が透けて見えるのが、このランウェイの面白さであった。

Cabaret Voltaire - ele-king

 リチャード・カーク、クリス・ワトソン、スティーヴン・マリンダーの3人によって結成されたキャバレー・ヴォルテールは、パンクの波が来る前からダダイズムに傾倒し、イーノが標榜した「ノン・ミュージック」を実践するプロジェクトだった。テープループやオシレイターを使って、アブストラクなサウンドコラージュをしていた彼らは、ポストパンク以降のインダストリアル・サウンドを先取りしていたと言えるだろう。
 そんなキャブスの、まさにパンク前夜の貴重な音源『1974-76』、そしてパンク以降に映画のサントラとして制作された『チャンス・ヴァーサス・コーザリティ』の2作が〈ミュート〉よりリイシューされる。前者は、結成初期にバンド自身で録音した音源の中からセレクトされた楽曲集で、1980年にインダストリアル・レコードからカセットでリリースさてあもの。その後1992年に〈ミュート〉からCDで発売され現在は入手困難となっていたが、今回新たにマスタリングされ発売されることとなった。後者は、1979年に同名映画のサントラとして制作された『チャンス・ヴァーサス・コーザリティ』 。これは今回が初のリリースとなる。
 2枚ともに、8月30日(金)にリリースされる。


キャバレー・ヴォルテール
1974-76 (1974-76)

Mute/トラフィック

リマスター作品。1980年にインダストリアル・レコードからカセットで発売され、その後1992年にMute傘下のThe Grey AreaよりCDで再発され現在は廃盤となっていた。本作は、バンド結成初期の音源の中から自身でセレクトされた楽曲集である。それらは全てクリス・ワトソンの自宅屋根裏にあるオープンリールのテープレコーダーで録音されたのだが、その中の数曲が1976年、バンド自身によってカセットテープで限定数リリースされ今となっては伝説のお宝バージョンとなっている。


キャバレー・ヴォルテール
チャンス・ヴァーサス・コーザリティ (Chance Versus Causality)

Mute/トラフィック

初商品化。リマスター作品。1979年、バベット・モンディーニ監督による同名映画のサウンドトラックとして制作された作品。この作品は即興演奏で構成されており、「リズムを減らし、より多重録音を」という当時の一文が残されている。勢いがあり即興的ながら茶目っ気たっぷりで温もりが感じられるこの作品は、この時期におけるキャバレー・ヴォルテールの刺激溢れる瞬間を切り取ったものであり、ヴォーカル・サンプリング等の技法やサウンド全体を通して『Nag, Nag, Nag』と『Voice of America』 のリリースの間を強く結びつけるアルバムとなっている。ジャケットに関しては過去のアーカイブから蔵出しされた素材を使用し、その当時の画像、ライヴ演奏時の写真などを含めそれらをモンタージュ的に配置し、リチャード・H・カークとフィル・フォルステンホルムによってデジタル加工が施されている。

◼︎キャバレー・ヴォルテール
バンド名の由来:1910年代に既成の秩序や常識に対するカウンターとして起こった反芸術運動(ダダイズム)の活動拠点であったスイスのキャバレーの名前にちなんでいる。既存の音楽の解体、再構築という彼らのサウンドと共鳴している。

73年結成。シェフィールド出身。バンド名は1910年代に既成の秩序や常識に対するカウンターとして起こった反芸術運動(ダダイズム)の活動拠点であったスイスのキャバレーの名前に由来する。既存の音楽の解体、再構築という彼らのサウンドと共鳴している。オリジナル・メンバーはリチャード・H・カーク(guitars, keyboards, tapes)、スティーブン・マリンダー(vocals, bass, keyboards)、クリス・ワトソン(81年に脱退/ keyboards, tapes)。79年にデビュー・アルバムをリリースし、15枚のスタジオ・アルバムをリリースしている。82年初来日公演実施。95年以降は活動休止中だが、最も再結成が望まれるバンドのひとつ。現在実に1994年以来のオジリナル・アルバムを制作中である。

www.mute.com
www.facebook.com/CabaretVoltaireOfficial

vol.116 : プライド月間 2019 - ele-king

 NYの夏は野外コンサートが盛りだくさん。先週末はTortoiseが1998年のアルバム『TNT』を通して演奏、その2日前は、テキサスのKhruangbinが雨の中、日本のKikagaku Moyoと一緒にライヴ、そして今週頭はJapanese BreakfastとHatchie、水曜6/26はカナダディで、トロントのAlvvays、カルガリーのthe courtneys、オンタリオのEllis……といった具合だ。

 野外ショーはフリーが多く、がっつりバンドを見たい人は前、雰囲気を楽しんだりまったりしたい人は後ろの方でシートを敷いてピクニックをしている。アルコールは持ち込めないが、スナックや水なは大丈夫。出店の飲み物やフードなどもあり、友だちとハングアウトするには持ってこいである。
 ここ何年かは、プロスペクトパークの野外ショーが気に入ってよく通っていたが、今年はセントラルパークのサマーステージによく来ている。3年前にはUnknown Mortal Orchestraも観たし、良いインディのラインナップが揃っている。
 こういったショーは、寄付をするパトロンで成り立っているので、VIPエリアやメンバーエリアがあるために、私たちは、フロアでぎゅうぎゅうになりながら見るのであるが、ショーがフリーで楽しめるので文句はあまり言えない。
 私が普段行くDIYショーは、若者、クィアが多く、まだまだ少数派だと感じるが、野外ショーはNYという街をここに持ってきたかのように、いろんな種類の人がいる。白人、黒人、アジア人、ラテン系、ユダヤ系、アラブ系など、野外コンサートに来るとあらためて自分はメルティングポットといわれるNYにいる、と感じる。今年は、LGBTと女性が良く目につく。6月はプライド月間ということもあり、マーメイドパレードやイベントがあったり、たくさんの企業がこぞってレインボー旗を掲げている。サマーステージのスポンサーのひとつのキャピタルワン銀行などは、ユニオン・スクエア支店が、レインボー柄になっていたし、他の銀行や企業も自分だけ取り残されたくないというように次々レインボーに染まっている。


 プレイするバンドも女性フロントのバンドが多く、オーディエンスもLGBTに対してとてもオープンに感じる。その背後では、まだまだコンサバな人も多く、この多様性をまとめるのは一筋縄ではいかないのだろうとも感じる。
 今月初めにポルトガルに行ってからというもの、アメリカのエキセントリックさが目に付くようになった。ポルトガルの人はめったなことでは声を上げないが、アメリカの人は小さなものにでもすぐ声を上げる。人種や国の違いと言えばそれまでだし、どちらが良いという問題でもないのだが、NYにいると、NY的にならないと生きていけない。今月最後の日曜日には5番街でLGBTの大きなパレードが行われるそうなので、NYの新たな団結を見れることを願う。


Takkyu Ishino - ele-king

 一連の騒動から数ヶ月。いまだ Yahoo! や Google を賑わせている石野卓球だけれど、先月から鬼のような勢いでリリースを重ねてもいる。6月12日にはじまった毎週1曲ずつのシングル投下は、現在“Turkish Smile” “Koyote Tango” “John RydoOn”と続いており、今週は“Chat on the beach”が、そして来週は“Bass Zombie”がリリースされる予定だ。
 建前と同調圧力とビジネスの都合が入り混じった泥水の降り注ぐなかを、タトゥーや渡独や数々のツイートによって、すなわち確固たる決意とユーモアをもって見事に切り返してきた石野卓球。この一連のシングルも、彼の反撃の一手と捉えて構わないだろう。いま日本で誰がいちばんオルタナティヴかって、卓球をおいてほかにあるまい。今後彼(ら)がどのような活動をしていくのか気になるところだが、ひとまずはこの5週連続リリースの完結を見守ろうではないか。

石野卓球、 新曲の5週連続配信リリースが決定!

石野卓球の新曲5曲が、6/12(水)より、5週連続で、各ダウンロードストア及びサブスクリプションサービスで配信されることが決定。全てのジャケット画像も公開された。

配信日と楽曲タイトルは以下の通り。

6/12(水) Turkish Smile
6/19(水) Koyote Tango
6/26(水) John RydoOn
7/3(水) Chat on the beach
7/10(水) Bass Zombie

6/12(水)に配信される“Turkish Smile”は、2018年、実験的ファッションプロジェクト・Noodleのオリジナルムービー(https://youtu.be/Xt5ddL7fQlc)に提供した楽曲のフルバージョン。既に石野卓球のDJでも使用されており、世界中のフロアを沸かせている1曲。

“Turkish Smile” “Koyote Tango” “John RydoOn” “Chat on the beach”の4曲は、ミックスを石野卓球と得能直也が、“Bass Zombie”は石野卓球と奥田泰次(studio MSR)が手掛けている。マスタリングは、全曲、木村健太郎(kimken studio)。“Chat on the beach”には、ゲストとして吉田サトシがギターで参加。各曲のジャケットは、石野卓球がコンセプトとディレクションを、杉本陽次郎がデザインを担当した。

尚、全曲、ハイレゾ配信(WAV 24bit / 48kHz)も同時スタートとなる。

■“Turkish Smile” “Koyote Tango”配信リンクまとめ(Linkfire)
Turkish Smile – https://kmu.lnk.to/58eNS
Koyote Tango – https://kmu.lnk.to/IklKi

■石野卓球(Takkyu Ishino) プロフィール
1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル《Love Parade》のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ《WIRE》を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。
2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。

HP – https://www.takkyuishino.com/
Twitter – https://twitter.com/takkyuishino?lang=ja
Instagram – https://www.instagram.com/takkyuishino/

COLD WAR あの歌、2つの心 - ele-king

 「冷戦」とのタイトルだが、これは政治映画ではない。クラシカルな佇まいを持った情熱的な恋愛映画であり、音楽映画だ。陰影に富んだ白黒のイメージ、スタンダードの画面サイズ、ぶつかり合いながらも惹かれ合う運命にある男女……。それらを数々の歌と音楽が情感豊かに彩っていく。90分足らずの時間、観る者はただ陶酔的な心地になるばかりだ。
 いや、政治映画ではないと書いたが、東西対立に翻弄された1950年代のポーランドにあっては当然、愛も音楽も政治からは逃れられない。時代がそれを許さなかった。ただ、だからと言ってこれが「特殊な時代」を舞台にした過去に憧憬するばかりの映画かと言えば……前作『イーダ』と本作で現代ポーランドを代表する映画作家となったパヴェウ・パヴリコフスキは、本作をたんなるクラシックの模倣とせず、どこかで現在と繋ぎとめているように思える。

 映画は農村の民たちが民謡を歌うシークエンスから始まるが、すぐに主人公の音楽家ヴィクトルがどうやら民族音楽を蒐集している人間だとわかる。各地に赴き民謡のフィールド・レコーディングを行い、それを国立民族舞踊団のための音楽としてアレンジするのだ。あるときヴィクトルは団員の選抜で若い女ズーラと出会い、父親を殺したとも噂される彼女のどうにも危うい魅力に惹きつけられる。すぐに激しく愛し合うふたり。やがて舞踊団はソヴィエト指導者の賛歌をプログラムに入れざるを得なくなり、芸術的自由を求めてヴィクトルは西側への亡命を目指す。ともに逃げようと誘ったズーラは約束の場所に現れずヴィクトルはひとりで国を出るが、その後もふたりは場所を変えて何度も出会い直すこととなる――。
 本作における舞踊団はポーランドに実在する民族芸術団である「マゾフシェ」をモデルにしており、国民の公式音楽とも言えるものを当時の国民に提供していたという。その音楽の魅力をパヴリコフスキ監督は5年前に再発見したそうだが、本作において非常に重要な役割を与えている。とりわけ、主題歌に位置づけられるのが民謡「2つの心」である。ヴィクトルはまずその歌を農村の少女が歌っているのを発見し、舞台のための音楽へと発展させる。そしてその後、同じ歌が50年代のパリではしっとりとしたジャズのアレンジで姿を変えて登場することになる。
 どのシーンを切り取っても絵になる本作だが、ハイライトはこの歌の場面だろう。それはヴィクトルとズーラが国を離れ、違った姿で生き延びることを象徴するものだ。西側の音楽に乗せてポーランド語で歌うズーラの周りを、ゆったりとエレガントに動くカメラ。監督は前作『イーダ』との最大の違いが移動撮影にあり、またそれは音楽のためだったと語っているが、ここでの360度パンのような言ってしまえば「わかりやすい」演出は『イーダ』ではあまり見られなかったはずだ。だがそのことが本作にある種の大胆さを与えており、映画的な快楽を高めている。

 ヴィクトルは亡命先のパリでジャズをやるわけだが、ポーランド民謡をそこに混ぜ合わせつつ音楽活動を続けている。海外の音楽を聴いている人間なら誰しも、似たようなことが数えきれないほど起きてきたことを知っているはずだ。つまり、政治的理由で国を逃れた者たちがいつだって音楽をともに越境させ、それまでになかった新しいものとして鳴らし始めることを。そうして故国の音楽は、姿を変えながら生き続けるのである。
 何度も別れたりくっついたりを繰り返す男女の姿は監督の両親からインスパイアされたものだそうだが、彼はその物語をそのままトレースするのではなく、何より音楽を鍵とすることで主題を浮き彫りにしている。政治的困難に人間が晒されたとき、それでも迸る情熱がどうしようもなく国境を越えていくこと、である。だから、1950年代のヨーロッパを舞台にしたこのロマンティックなラヴ・ストーリーは、その古めかしい見た目とは裏腹に、人間の移動が不自由になりつつある現代とたしかに重なっている。いま、愛と音楽は自由を求めてどこまでも移動することが可能だろうか。そのヒントを得たいのであれば、わたしたちはこの美しい映画にただ身を投じるだけでいい。

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