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小川充   Jul 04,2019 UP

 ブラッドリー・ゼロ主宰の〈リズム・セクション・インターナショナル〉やテンダーロニアス主宰の〈22a〉など、ジャズ・ミュージシャンと結びついたり、ジャズ色を感じさせるリリースをおこなうクラブ・ミュージック系レーベルの躍進が目立つ近年のサウス・ロンドン。DJ/プロデューサーとして作品制作をおこなうセブ・ワイルドブラッドが主宰する〈チャーチ〉もこうしたレーベルのひとつである。〈リズム・セクション・インターナショナル〉や〈22a〉同様にディープ・ハウスやビートダウン、テクノ、ブロークンビーツなどとジャズを繋ぐような作品が特徴で、セブ以外にイシュマエル(ブリストルのピート・カニンガムのユニットで、イシュマエル・アンサンブルというバンドも組んでいる)、ベン・ホーク、ローレンス・ガイ、モール・グラブ、ハッパ、FYI・クリスなど、なかなか通好みで渋いところをリリースしている。最近ではヒドゥン・スフィアーズがオスカー・ジェローム(ココロコ)とコラボした12インチを出しているが、ロンドンやUKのアーティストだけでなくニュージーランドのカオス・イン・CBD、カナダのジェシー・ファターマン、フランスのフォラムールなどいろいろな国のアーティストもリリースするインターナショナル・レーベルである。今回〈チャーチ〉からデビュー・アルバムをリリースしたオーラ・サファリもイタリアのアーティストである。

 オーラ・サファリに関しては詳しいバイオがないのだが、アレッサンドロ・デレッダ、アンドレア・モレッティ、ロレンゾ・ラヴォラトリ、ダニエレ・メローニ、ニコラス・ラマッテオという5人のDJ/プロデューサーからなるユニットで、ペルージャを拠点に夏はイタリアの国際的なジャズ・フェスとして知られるウンブリア・ジャズ・フェスに出演し、冬はレッド・ゾーン・クラブというところで活動しているそうだ。5人のメンバーの年代や音楽的バックグラウンドは様々で、ジャズ・ファンク、フュージョン、ディスコ/ブギー、ワールド・ミュージック、イタロ・ハウス、バレアリック、コズミックなどがルーツとなる。この中でニコラス・ラマッテオはハウス系プロデューサーとして結構知られた存在で、ニコラス名義で〈チャーチ〉からも作品を出しているので、オーラ・サファリについてもその流れでリリースが決まったのだろう。
 1990年頃に一世を風靡したイタロ・ハウスの代表的アーティストとして、ソフト・ハウス・カンパニーやキー・トロニクス・アンサンブルといったジャジーなテイストのユニットが上げられるが、これらにかかわったフランチェスコ・モンテフィオリは実際にジャズ・ミュージシャンであったし、クラウディオ・モーツァルト・リスポリはアフロ・スタイルと呼ばれる独自のクロスオーヴァーなDJスタイルを作り出したイタリアの伝説的DJだった。ニコラスが彼らの影響を受けたのは明白で、オーラ・サファリはそれをさらにジャズ方向へシフトしていったユニットと言えるだろう。

 “ミュージック・フォー・ザ・スモーキング・ルーム”で聴かれるメロウでオーガニックなフェンダー・ローズ、ハウス・ビートのBPMにシンクロするパーカッシヴなジャズ・ファンク・リズムというのが、まずはオーラ・サファリの基本的なスタイルとなる。エレピに絡むベース・ラインが印象的な“サハラ”は、1980年頃のブギーを取り入れたアジムスを彷彿とさせる曲だ。パーカッションを有機的に絡めたバレアリックな“ジャングル・ジャズ”もかなりアジムスを意識した楽曲だ。ブロークンビーツ調の“ザ・ロスト・リール”でもベースが核となり、オーケストラルなシンセとのコンビネーションで奥行きのある空間を作り出す。ラテン・タッチの“サターン&カリプソ”に見られるように、ワールド・ミュージック的なアプローチも随所に感じられる。トランペットのソロをフィーチャーした“ミッドナイト・ディシプリン”は、ジャズのストイックなムードに包まれると共に、パル・ジョーイやDJスマッシュなどかつてのジャズ・ハウスに通じる楽曲だ。
 最近のイタリアのディープ・ハウス~クロスオーヴァー・シーンでは、ジャックス・マディシン、ターボジャズといったジャズの生演奏を取り入れたアーティストが活躍している。オーラ・サファリもそれらと同じようなベクトルを持つが、演奏の深みやハウス・ビートに縛られない音楽的幅広さという点で、さらにジャズ寄りの位置にいるアーティストと言えるだろう。

小川充