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Visible Cloaks, Yoshio Ojima & Satsuki Shibano

AmbientKankyō Ongaku

Visible Cloaks, Yoshio Ojima & Satsuki Shibano

FRKWYS Vol. 15: serenitatem

RVNG Intl. / インパートメント

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Apr 24,2019 UP

「FRKWYS」シリーズ15作めとしてヴィジブル・クロークスと尾島由郎、柴野さつきらのコラボレーション作品がリリースされた。レーベル・インフォメーションによれば、尾島の音楽の熱心な聴き手であったヴィジブル・クロークスが尾島にコンタクトを取ったことがはじまりらしい。その後、音源のやりとりを経て、2017年にヴィジブル・クロークス来日公演の際にスタジオに入りレコーディングをおこなったという。

 この出会いと共作は必然だった。ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランは、『Fairlights, Mallets And Bamboo』というミックス音源や、吉村弘の『ミュージック・フォー・ナイン・ポストカード』の再発など、近年、日本のアンビエント・ミュージックの海外における再発見に尽力した人物でもある。その彼がかつてのインタヴューで日本の環境音楽について語る際に吉村弘、芦川聡らと共に尾島についても語っていたのだ。そう、80年代から90年代初頭に花開いた日本のアンビエント/環境音楽シーンにおいて、尾島は吉村と芦川らと共に重要な存在なのである。
 じじつ、尾島はワコールが文化の事業化を目指して建設した槇文彦設計による複合文化施設スパイラル(ワコールアートセンター)をはじめ、リビングデザインセンター OZONE、東京オペラシティ・ガレリア、キャナルシティ博多などの各種施設用の環境音楽を制作し、実に多岐に渡るサウンドデザインやサウンドシステムの開発に携わってきた音楽家だ。特にスパイラルの館内環境音楽として制作された『Une Collection Des Chainons I』と『Une Collection Des Chainons II』は、環境と音楽の関係性を澄んだミニマリズムで包み込んだアンビエント音楽の傑作として名高いアルバムだ。
 一方、柴田さつきは、エリック・サティの演奏における日本有数の現代音楽曲のピアニストであり(サティ研究家にして詩人、ピアニストのJ. J. バルビエに師事)、尾島との数々のコラボレーションでも知られている音楽家である。本作でもその緻密に電子加工されたサウンドの向こうにガラスの光のようなピアニズムが聴き取ることができる。

 ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランとライアン・カーライルが名作『Une Collection Des Chainons I』と『Une Collection Des Chainons II』のようなサウンドを本作の制作において求めていたかは知らない。が、実際にアルバムとしてまとまったサウンドを聴いていると、まさに「Une Collection Des Chainons」的なアンビエンスが、4人の見事なコラボレーションによって2010年代末期的で精密な音響工作による美しい電子音楽へと深化していたことに何より耳が奪われてしまった。80年代末期から90年代初頭の日本的環境音楽がモダンにアップデートされたように感じられたのである。
 アルバムには全8曲が収録されている。どの曲も電子音の微細な変化、ピアノの響きとその抽出と変化、声と人間とマシンの融解など、マシンとヒューマンの境界線が少しずつ溶け合っていくようなサウンドに仕上がっている。まさに光の粒子のように見事な音響空間だ。じっと聴いているだけで聴覚が洗浄されていくような感覚を覚えたほどである。

 この清冽な感覚は、80年代から90年代初頭の日本の環境音楽が持っていた「水と空気」のテーマを継承しているのではないか。じじつ、1曲め冒頭では水が滴り落ちるのだ。
 以降、アルバムは電子音、ピアノ、声、旋律、持続、反復し、磨き上げ抜かれた音を生成変化させていく。そしてフラグメンツの美学とでも形容すべき7曲め“Stratum”を経て、慎ましやかな感動を放つピュアにしてミニマルな終局“Canzona per sonare no.4”で終わる(日本盤はボーナストラックが1曲追加されている)とき、環境と音響と耳の関係が清冽に拡張されたような感覚を覚えた。ここにおいてアンビエントという概念すらも「音楽」という環境の中にゆったりと溶け合っていくさまを聴くことになる。繰り返し何度も何度も聴きたい。この音で耳と空間を潤したい。空間に優雅な香りをのこす上品な香水のような電子音楽アルバムである。

 何よりこのアルバムは、90年代の音響、00年代の残響を経た10年代的な環境を象徴する作品に思える。それは音響派、ポストクラシカル、アンビエントへの変化を意味する。近年の日本を含めた世界各国のニューエイジ音楽の再発見はそのことを証明していよう。
 本作は、そのような潮流のなかで生まれた世代を超えた見事な共作にして象徴的作品だ。話題のコンピレーション・アルバム『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』を聴いた後にぜひ本作を続けて聴いてみてほしい。環境音楽の現在が瑞々しく鳴り響いていることに気がつくはずだ。これぞ Kankyō Ongaku 2019。

デンシノオト