「Nothing」と一致するもの

R.I.P. The Gift Of Gab (Blackalicious) - ele-king

 ベイエリアを拠点に活動するヒップホップ・デュオ、Blackalicious のメンバーであるラッパーの Gift Of Gab (本名:Timothy J Parker)が6月18日に自宅にて亡くなった。享年50歳であった。死因は明らかになっていないが、Blackalicious の代理人は “自然死” と説明。ここ10年ほど深刻な健康問題を抱えていた Gift Of Gab だが、2014年に腎不全と診断され、人工透析を続けながら、昨年1月には腎臓移植の手術を受けていたという。

 突然の訃報を受けて、Gift Of Gab とも繋がりの強い DJ Shadow や Lyrics Born を筆頭に、様々なアーティストがSNSにて追悼コメントを発表。Blackalicious の相方であるDJ/プロデューサーの Chief Xcel も Blackalicious の Instagram アカウントを通じてメッセージを発表しており、そのなかで1987年9月にサクラメントの高校で Gift Of Gab と出会い、その後、ふたりがグループを組むまでのストーリーを丁寧に綴っている。

 カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)内のラジオ局、KDVSのヒップホップ番組を通じて出会った DJ Shadow、Chief Xcel、Lyrics Born らが中心となって設立したレーベル、〈SoleSides〉から1993年にリリースされたEP「Melodica」によってデビューした Blackalicious。その後、〈SoleSides〉は一旦解散した後に、〈Quannum Projects〉として生まれ変わり、Blackalicious は同レーベルから1999年に 2nd EP「A2G EP」と 1st アルバム『NIA』をリリースする。特に「A2G EP」に収録された彼らの初期の代表曲 “Alphabet Aerobics” は Cut Chemist が手がけたBPMが徐々に上がっていくトラックに加えて、ラッパーである Gift Of Gab の優れたライミングのセンス、深い語彙力、多彩なフロウが高い評価を受け、Blackalicious は当時のアンダーグラウンド・シーンのなかで絶大な人気を誇るグループとなった。

 2002年にリリースされた 3rd アルバム『Blazing Arrow』ではメジャー・デビューも果たし、その後、『The Craft』(2005年)、『Imani Vol.1』(2015年)と Blackalicious は通算4枚のアルバムをリリース。さらに Gift Of Gab はソロ活動も活発に行なっており、これまで『4th Dimensional Rocketships Going Up』(2004年)、『Escape 2 Mars』(2009年)、『The Next Logical Progression』(2012年)と3枚のソロ・アルバムをリリースし、さらにラッパーの Lateef the Truth Speaker、プロデューサーの Headnodic と組んだユニット、Mighty Underdogs 名義でもアルバム『Droppin' Science Fiction』(2008年)を発表している。

 コロナ禍におけるパンデミックによってライヴやツアーなどが中止となるなか、Gift Of Gab は『Imani Vol.1』の続編となる Blackalicious のニュー・アルバムと自身のソロ・アルバムの制作を行なっていたという。特に Blackalicious に関しては100曲近くの新作音源があるとも報じられており、今後のリリースが待たれる。

DJ Stingray 313 - ele-king

 アーバン・トライブ名義で知られるシェラード・イングラム、ドレクシアのツアーDJでもあった彼がDJスティングレイ313として、4曲入りの新作EPを〈Micron Audio〉から9月24日にリリースする。タイトルは「Molecular Level Solutions」で、フォーマットはディジタルとヴァイナルの2種類。現在 “Carbon Neutral Fuels” が試聴できます。かっこいい……。しかもこれにつづいて、2012年のアルバム『F.T.N.W.O.』もリイシューされるとのこと。買うしかない。

https://djstingray313.bandcamp.com/album/molecular-level-solutions-2

Sound Patrol - ele-king

ロボ宙 - TODAY
Last Moments - Last Moments NOW (edit)
Search of MANY

EL-QUANGO(元キング・オブ・オーパス)が立ち上げた新レーベルより、Sigh Society(90年代から活動しているベテランのテクノ・プロデューサー、ハゼモト キヨシ)の曲をネタにしたという、2曲を収録した7インチ。1曲はベテラン・ラッパーのロボ宙をフィーチャーしたグルーヴィーな“TODAY”、もう1曲はLast Moments名義でのインスト。90年代初頭の明るいフィーリングのベースとビートがたっぷりで、とくにLast Moments名義の“last moments NOW (edit)”は夏にぴったりのトロピカル・サウンド。オススメです。


DJ Yoda featuring Nubya Garcia and Edo G - Roxbury
Lewis Recordings


https://djyoda.bandcamp.com/album/roxbury-instrumental

ロンドンのスクラッチDJのヨーダとUKジャズを代表するサックス奏者ヌバイア・ガルシアによるコラボ作で、これまた90年代初頭のグールーあたりを彷彿させるジャジー・ヒップホップ・スタイル。ガルシアのソロ演奏もハマってて格好いいです。


TSVI - Sogno
Nervous Horizon


https://nervoushorizon.bandcamp.com/album/tsvi-sogno-ep

ダンスホール・テクノの話題盤。ロンドンのレーベルからイタリア出身の主宰者による5曲入り。削ぎ落とされた音数とリズムで、かなりのところまで連れていってくれる。NYのパイソンに似ているかもしれないけれど、こちらにはグライムが入ってますね。


PYTKO - Save My Day
Phantasy Sound


https://pytko.bandcamp.com/album/save-my-day

ポーランド生まれロンドン在住のPYTKOのデビューEPは、パイソンのリミックスを収録。とはいえこのヴァージョンは、レゲトンでもダンスホールでもない、無重力のダビー・ドリーム・ポップ。これが後期フィッシュマンズを蒸留したかのようなサウンドで、日常に戻るのが嫌になります。オリジナル曲からして徹底してドリーミー。


Kodama And The Dub Station Band -
もうがまんできない / STRAIGHT TO DUB (DUB VERSION)
Pヴァイン

夏だ、レゲエだ。怒りの夏だ。ライヴでお馴染みの名カヴァーがついにスタジオ録音されてヴァイナルでリリース。みごとな録音と演奏です。それにしても、世論調査で小池支持が半数以上とはなんたることか。がまんできないと思っている人がこの事態においても少数派だとしたら、日本の未来は明るくはないね。

Lafawndah - ele-king

 グローバル・ビーツから出発し、近年はアンビエントなども取り入れながら独自の路線を突き進んでいるラファウンダ。昨年フランスの〈Latency〉から最新作『The Fifth Season』が送り出されているが、去る6月16日にそのリミックス・シングルが発売、なかなか豪華な面子が参加しています。
 10月にニュー・アルバム『Colourgrade』をリリース予定のティルザ&コービー・セイ。最近サンズ・オブ・ケメット新作への客演が注目を集めたムーア・マザー。そしてこれまた最近モーリッツ・フォン・オズヴァルト・トリオへの加入が話題となったローレル・ヘイロー。それぞれだいぶドープなサウンドを鳴らしています。いざ音に沈まん。

https://www.latency.fr/catalogue/the-fifth-season-versions

 ファッション・ブランド〈C.E〉からまた新たなカセットテープの登場だ。
 今回はゴースト・リーマズ・オブ・マダガスカル(Ghost Lemurs Of Madagascar)なる2人組による昨年10月のライヴ音源を収録した「Blue Moon (Cav Empt Tape)」。このグループを構成するひとりは、これまでズリジェシー・オズボーン=ランティエなどをリリースしてきたレーベル〈Haunter〉を主宰し、自身もハイス(Heith)として活動するダニエル・グェリーニ (Daniele Guerrini)。もうひとりは、カリーム・ロフティ(Kareem Lofty)。ちなみに、名前が似ているがカリーム・ロトフィ(Kareem Lotfy)とは別人だそう。
 今回も〈C.E〉のウェブサイト(www.cavempt.com/)にて試聴可能です(右上の再生ボタンをクリック後、カセットを選択)。ぜひチェックをば。

アーティスト:Ghost Lemurs Of Madagascar
タイトル:Blue Moon (Cav Empt Tape)
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約83分(片面約40分)
価格:1,100円(税込)
発売日:発売中
販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
#201 From 1st Building, 5-3-10 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, Japan 107-0062
問合せ先:C.E www.cavempt.com/

SAULT - ele-king

 昨年ブラック・ミュージックの大絵巻、『Untitled (Black Is)』と『Untitled (Rise)』の2枚のアルバムを送り出し大いに話題を呼んだUKの匿名のグループ、SAULT が早くも新作をリリースしている。『NINE』と題されたそれは、99日間に限り、ストリーミングまたはダウンロードすることができる。ときが経つのはあっと言う間なので、お早めに。


https://saultglobal.bandcamp.com/album/nine

Sunroof - ele-king

 〈Mute〉の創始者ダニエル・ミラーとガレス・ジョーンズの2人の超ベテランによるモジュラー・シンセサイザー作品が〈Mute〉からリリースされた。
 ふたりが初めて一緒に作業したのは1982年のデペッシュ・モードの『Construction Time Again』のときで、以来、ガレス・ジョーンズは、パレ・シャンブルグ、ファド・ガジェット、アインシュツルテンデ・ノイバウテン、ダイアマンダ・ギャラス、ワイヤー、イレイジャー、そしてイルミン・シュミット……などなどの、〈Mute〉や〈Some Bizzare〉などの諸作に関わっている、テクノ/インダストリアルの分野では高名なエンジニアだ。
 2人はそして、大のシンセ好きでもあり、2019年から限られた数チャンネルを使ってセッションをはじめて、サンルーフ名義による今作を制作した。
 ガレスによれば「マーティン・ゴアとクリス・カーターのやり方にインスパイされた」そうだが、長年エレクトロニック・ミュージックに関わり、しかもモジュラー・シンセには一家言を持つ2人による共作なだけに、奥深い、アブストラクトでアンビエントな作品になっている。ちなみにサンルーフはすでに、CAN、クライドラー、トゥ・ロココ・ロット、MGMTなどのリミックスをしている。

収録曲1.1- 7.5.19 (Edit) (Official Visual)


Sunroof
Electronic Music Improvisations Vol. 1

Mute/トラフィック

Khruangbin - ele-king

 クルアンビンのサード・アルバム『モルデカイ』のリミックス盤が8月6日に出ます。タイトルは『MORDECHAI REMIXES(モルデカイ・リミクシーズ)』。これが予想通りの気持ちよさ。ハウシーで、トライバルで、ときにダビーで。まさにsoud of summerの1枚です。ためしに1曲聴いてみましょう。

Khruangbin - Pelota (Cut a Rug Mix) - Quantic Remix

 全リミキサーは以下の通り。
 Kadhja Bonet(LAの女性シンガー/マルチインストゥルメンタリスト)、Ginger Root(カリフォルニア出身のインディ・ロッカー)、Knxwledge(LAのプロデューサー/ビートメーカー)、Natasha Diggs(NYをベースとするDJ/プロデューサー)、Soul Clap(マサチューセッツ州ボストン出身のモダン・ハウスDJデュオ)、Quantic(イギリスのDJ/プロデューサー)、Felix Dickinson(UKアンダーグラウンド・ダンス・シーンの実力者)、Ron Trent(シカゴ・ハウスのレジェンド)、Mang Dynasty(UKディスコ・シーンを代表するDJ/プロデューサー/リミキサー、Ray Mangとイギリスの作家/ディスクジョッキー、Bill Brewsterによるユニット)、Harvey Sutherland(メルボルンのクラブミュージックシーンで注目を集めるアーティスト)

 2021年8月6日にデジタル、10月29日にLPでリリース。CDは日本のみでのリリース。

KHRUANGBIN(クルアンビン)
MORDECHAI REMIXES(モルデカイ・リミクシーズ)

ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ


■収録曲目:
1. Father Bird, Mother Bird (Sunbirds) (Kadhja Bonet Remix)
2. Connaissais De Face (Tiger?) (Ginger Root Remix)
3. Dearest Alfred (Myjoy) (Knxwledge Remix)
4. First Class (Soul In The Horn Remix) (Natasha Diggs Remix)
5. If There Is No Question (Soul Clap Wild, but not Crazy Mix) (Soul Clap Remix)
6. Pelota (Cut A Rug Mix) (Quantic Remix)
7. Time (You and I) (Put a Smile on DJ's Face Mix) (Felix Dickinson Remix)
8. Shida (Bella's Suite) (Ron Trent Remix)
9. So We Won’t Forget (Mang Dynasty Version) (Mang Dynasty Remix)
10. One to Remember (Forget Me Nots Dub) (Harvey Sutherland Remix)

interview with Hiatus Kaiyote (Paul Bender) - ele-king

「誰もが大きな試練を乗り越えてきた。これを作り上げるために、僕らは泥の中を突っ走ってきたような気がする。そしてこの勇敢(valiant)で誇らかな感覚が、嵐の中から穏やかな海に流れ出した。サウンドの響きと感情の奥行きに誇りを感じる。この辛い毎日に、人々にちょっとした安らぎを届けることができたらと思う」
──ポール・ベンダー(アルバム・インフォメーションより)

 ハイエイタス・カイヨーテが6年ぶりにアルバムを引っさげて帰ってきた。あのパンク・ロックっぽいアートワークでネオ・ソウルなヴァイブスを奏でる前作『Choose Your Weapon』はギャップも含めかなりのインパクトがあったし、ジャズやソウル、ロックやポップスなどの絶妙なバランスを縫ったサウンドとヴォーカルのネイ・パームが放つ独特の雰囲気と歌が、ジャンルの垣根を超えた日本のオーディエンスにもバッチリ支持されている証拠だろう。
 新作『Mood Valiant』はなんとブラジリアン・サウンドの「生ける伝説」とも言えるアルトゥーロ・ヴェロカイとのコラボレーションが実現。そして引き続き飛ぶ鳥を落としまくっている〈ブレインフィーダー〉からのリリースということで、僕らの期待をいい意味で裏切ってくれたと思う。しかしながらアルバム・リリースまでの道のりは決して順風満帆ではなく、メルボルンの4人組バンドはここ6年間で様々な出来事に直面してきたのである。世界中を飛び回るハードなツアー・スケジュール、過去に母親を同じ病で亡くしたヴォーカル、ネイ・パームの病気が発覚、そして誰もが予想だにしなかったコロナ禍を乗り越えて……。

 個性的なサウンドが彼らを反映するように、「ユニーク」な時間を大事に制作に取り組んだそう。「“Mood Valiant” というふたつの単語は、“二重性”、“双対性” を表現した言葉なんだ。“ポジティヴ” と “ネガティヴ”、“陰” と “陽”。物事や人間には全てはふたつの面があるからね」と語ってくれたポール・ベンダーは、数多くのネガティヴなシチュエーションを忍耐強く乗り越えたポジティヴなアンサーを僕らに届けてくれた。

〈Brainfeeder〉とすでにけっこう繋がっていたんだ。だから、僕たちにとっては自然の流れだったし、まあそうなるだろうねって感じだった。

アルバム制作に6年かかったと伺いました。前作『Choose Your Weapon』がリリースされてほぼすぐのタイミングだと思いますが、そのときからすでに次のアルバムを作ろうと思っていましたか? それとも、ライヴやツアー、新しい曲の制作の過程で自然な流れになったのでしょうか?

PB:『Choose Your Weapon』のツアーのあとは少し休んだんだ。けっこうツアーがハード・スケジュールだったから、ちょっと休みたくてね。皆でスタジオに集まるまでには時間は多少かかったけど、アルバムのなかには、その前からずっと存在していて今回のアルバムで使うことにしたアイディアや曲なんかもある。そういった昔のアイディアと新しくできあがったもので新作は成り立っているから、ピンポイントでいつアルバム作りをスタートさせたかを断定するのは難しいんだ。僕たちの場合、いつも自然の流れに任せているから、何がきっかけだったかを考えるのは毎回難しいんだよね(笑)。ハイエイタスのアルバムってのは作るのが本当に難しい。メンバーそれぞれのこだわりが強いから、それを全て落とし込むとすごく複雑になる。だから時間がかかるんだ。

アルバムのタイトル『Mood Valiant』にはどんな思いやコンセプトが込められていますか?

PB:ネイ(・パーム)の母親が、ネイが子どものときに白と黒のヴァリアント(クライスラーの車)を持っていて、その日のムードによってその2台を乗り分けていたんだ。学校にネイを迎えにくるとき、もし母親が黒いヴァリアントに乗っていたら、その日は母親に逆らわない方がいいという意味だった(笑)。同じ車でも、ムードによって変わる。つまり、同じ人、物でも様々な情緒状態を持っていて、様々な面があるということ。“Mood Valiant” というふたつの単語は、“二重性”、“双対性” を表現した言葉なんだ。“ポジティヴ” と “ネガティヴ”、“陰” と “陽”。物事や人間には全てふたつの面があるからね。

インタヴューの前に曲それぞれの解説を読ませていただきました。ネイ・パームの作詞や曲に対するアプローチが本当に独創的だなと感じました。ユニークなサウンドを作るためにバンドとして心がけていることはありますか?

PB:メンバーの誰かがユニークなアイディアを持ってきて、最初からそのアイディアを元にユニークなサウンドを作りはじめるときもあるし、シンプルなサウンドができあがってから、そのなかで何かユニークなことをしようとするときもある。でも僕らの場合、4人それぞれが異なるアイディアを持ってくるから、それを組み合わせる時点ですでに十分ユニークなものが自然にできあがることが多いと思う。セッション・ミュージシャンたちのなかには、直感を大事にするミュージシャンも多い。でも僕たちは、もしシンプルなものができあがったら、それをもう少し追求して、掘り起こしていくタイプなんだ。

例えば他のバンドのメンバーがネイの歌詞に何かリクエストや書き換えをお願いしたりすることもあるんでしょうか?

PB:いや、それはないな。僕たちはメンバーそれぞれの役割を尊重しているから、お互いにあまりリクエストをすることはない。まあときどきはあるけど。ネイが歌詞を書いたら、それがその曲の歌詞ということは決まってる(笑)。それは彼女の仕事だから、僕らは立ち入らない(笑)。

“Get Sun” がリリースされたときアルトゥール・ヴェロカイとのコラボレーションは正直驚きました。彼との出会いのキッカケを教えてください。

PB:アイディアを出したのはネイなんだ。曲ができあがったとき、ネイがその案を出したら、全体の意見としては「それが実現したら最高! でもまあ無理だろうな」っていう感じだった(笑)。そこでマネージメントに連絡をとってもらったんだ。いきさつはそれだけ(笑)。僕らがただ彼の音楽の大ファンで、アプローチしたのさ。彼だったらパーフェクトだと思ってね。彼が乗り気になってくれるかはわからなかったけど、人生一度きりだし(笑)。ダメもとで頼んでみるしかないと思って連絡したんだ。そしてブラジルへ行く1週間ほど前にメールをもらって、そこに短く「この曲にはすでにかなりの種類の楽器が使われているようだし、これ以上何をすればいいのか考えあぐねている。健闘を祈る」と書いてあって。実際彼からは事前に何も送られてこず、初めて彼が書いたものを聴いたのは実際にリオのスタジオに行ったときだったんだ。アルバムがほぼできあがりそうなギリギリのタイミングだったのに、そこからさらにアルバムがぐんと進化したんだ。あのセッションで、シングル級の作品が新たに生まれたんだよ。

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失恋したり、病気になったり、誰かが亡くなったり、大変な状況に置かれているときは、音楽の意味が増すと思う。いまはコロナやその他様々な複雑なことが世界では起こっている。だから、アートのなかには美しさを増している作品もあるんじゃないかな。

アルバムで “Stone Or Lavender” がいちばん好きなんですが、このストリングスもアルトゥール・ヴェロカイが弾いたものですか?

PB:そう。そのトラックのためにブラジルに行ったわけではなかったけど、ブラジルでのレコーディングで運良く時間があまったから、彼に弾いてもらったんだ。

ブラジルでの制作活動はいかがでしたか? 地元メルボルンのスタジオとはまた違ったテンションになると思いますが、制作の雰囲気など具体的なエピソードがあれば教えてください。

PB:素晴らしい経験だった。あのセッションは、いままでの活動のなかでも最高のセッションのひとつだね。もともとの目的は “Get Sun” のホルンとストリングスのレコーディングだったし、実際にブラジルに行かなくてもどうにかなったんだろうけど、経験のために実際あの場にいられて本当に良かったし、すごくエモーショナルになった。実際にやってみるまで何が起こるか想像もつかなかったけど、いざはじまると、彼の演奏が本当に素晴らしかったんだ。皆ものすごく興奮して、勢いで延長してその日の残りの時間もスタジオを借りることにした。その時間でレコーディングしたのが “Stone Or Lavender” と “Red Room”。あの2曲はあの場で本当にサッとできあがった。最初のレコーディングでそれくらい興奮したし、活力を得たからね。

通訳:何か具体的なエピソードはあったりしますか?

PB:ホルンとストリングスが完成したとき、僕は感動してコントロール・ルームで泣いてしまったんだ(笑)。あの瞬間は本当に素晴らしかった。どんな瞬間とも置き換えられない特別な経験だったからな。

〈Brainfeeder〉との契約もサプライズでした。レーベルとの出会いのキッカケはなんでしょうか?

PB:〈Brainfeeder〉のメンバーとは、数年かけてだんだんいろんな人と出会っていった。Timeboy こと John King は僕たちのライヴのステージ・デザインを手がけてくれているから近い存在だし、サンダーキャットとはたくさんのショウやフェスティヴァルで共演する機会があって親しくなった。フライング・ロータスも同じ。テイラー・マクファーリンはずっと昔に僕たちの音楽を広めてくれたし、ミゲル・アトウッド・ファーガソンは前回のレコードでストリングスを担当してくれた。そんな感じで、僕らは〈Brainfeeder〉とすでにけっこう繋がっていたんだ。だから、僕たちにとっては自然の流れだったし、まあそうなるだろうねって感じだった。バンドにすごく合うレーベルだと自分たちも感じているし、彼らの一員になれてすごく嬉しいね。

通訳:〈Brainfeeder〉とサインしたことで変化したことや、プラスになったことはありますか?

PB:〈Brainfeeder〉のクルーは、皆すごく前向きで自分たちがやりたいことを応援してくれる。最高のレーベルだと思う。インスパイアもされるし、こっちの方から自分たちの活動にぜひ関わってほしいと思える存在。彼らは真のクリエイティヴ・コミュニティだと思う。彼らと一緒に仕事ができるなんて夢みたいだよ。

6年間もかけて1枚のアルバムを作る作業は途方もない作業のように思えます。制作の過程で「途中でアルバムを作るのを辞めよう」と挫折するような瞬間はありましたか? 約10年近くに及ぶハイエイタス・カイヨーテの活動のなかで、バンドが継続していける秘訣のようなものがあれば教えてください。

PB:どうだろう。波はもちろんあったけど、僕ら4人が一緒に曲を作るというのは、自分たちが楽しめる瞬間だし、何かユニークなものが生まれる時間でもある。僕らはいまや家族のような存在だし、すでに様々なことを一緒に乗り越えてきている。だから挫折するということは特になかったし、意識しなくても自然と続けたいと思えるんだ。僕たちはそれぞれ全く違う人格だから、ときには複雑な場合もある。でも、だからこそスペシャルなものができあがるんだと思う。自分にできることは、自分の役目以外は人に任せて自分は自分の仕事をきちんとこなすこと。長く活動していれば波があるのは当たり前だし、それに流されず自分が提供できるクリエイティヴィティを提供し続けていけばいいんだと思う。流れのなかで自分はとにかく創作を続け、それを皆が合わせたいときに一緒に合わせればいいんだと思うね。バンドの音楽活動は、大変だけどそのぶん大きなやりがいも感じる。必要なのは忍耐とパッションを持ち続けることさ。

コロナの影響を受けて、フェスティヴァルやイヴェントの形や、音楽の聴き方や存在自体が変化していますね。皆さん自身は今回の期間を経て行動や音楽に対する価値観が変わりましたか?

PB:人生のなかで、より大変な状況に自分が置かれているときは、自分にとっての音楽の意味が増すと思う。例えば、失恋したり、病気になったり、誰かが亡くなったりしたときは、これまで以上に意味と繋がり、美しさを感じるようになると思うんだ。いまは、コロナやその他様々な複雑なことが世界では起こっている。だから、アートのなかには美しさを増している作品もあるんじゃないかな。

ネイ・パームを除いた3人でのトリオ Swooping Duck や、最近インスタグラムで見かけた Space Boiz (!?)などいろんなプロジェクトも進行してますね。Patreon でも積極的に活動してますが、今回のアルバム以降の活動の予定を教えてください。

PB:まだわからないんだよな。8月にシドニーのフェスに出演することは決まってる。国内のショウはいくつかありそう。いまはショウのための準備をしている感じだね。あとは、タイニー・デスクの出演も決まっていて、それはもうすぐ収録なんだ。個人的には、リリースの予定はまだないけど、自分のソロ・アルバムのミックスを終えたところ。今年のどこかでリリースできたらいいんだけど。僕が初めて歌っている作品なんだ。本当に悲しいハートブレイクのレコード。すごく良い作品に仕上がったと僕は思ってる。誇りに思えるし、とりあえず世に送り出してみたい。それは僕にとっての大きな予定だな。

日本ではまだ Patreon が浸透していないのですが、ハイエイタス・カイヨーテとして利用してみていかがでしたか? 良いプラットフォームであればぜひ日本のアーティストにもオススメして欲しいです。

PB:良いと思う。メンバー全員が気に入ってるし、素晴らしいプラットフォームだと思うよ。舞台裏でも他のプロジェクトでも何でも、自分が載せたいものを載せられるんだ。そのページのファンクラブの会員みたいなものになるために、ファンの皆が月額で会費を払う感じだね。それに入ると、他の人には見られない特別な作品を見ることができる。そんな仕組み。僕とサイモンがたくさんのシンセにプラグを差し込んでクレイジーなジャムをしているビデオだったり、僕がチェロで即興をやったり、舞台裏の様子だったり、本当になんでもあり。面白いと思うよ。チェックしてみて。

昨年、今年と立て続けにオーストラリアのアーティストやバンドが活躍しています。もしご存じであれば地元メルボルンでぜひ注目して欲しいアーティストはいますか?

PB:レニアス(Laneous)をチェックしてみて。特に『MOSNTERA DELICIOSA』っていうアルバム。僕がプロデュースしてるアルバムで、作品のなかで演奏もしてる。すっごく良いアルバムなんだ。作業していていちばん楽しかったレコードのひとつ。バンドキャンプやスポティファイで聴けるから、ぜひ聴いてみて。

日本にももう何度も来日されてますね。19年はフジロックにも出演されましたが来日時に特に記憶に残る思い出はありますか?

PB:買い物した。けっこう面白いものを買ったんだ。ギラギラのシルクのガウンとか、クラゲの柄のショーツとか、フラミンゴ柄のシャツとか(笑)。めちゃくちゃ派手な服ばかり(笑)。日本で買い物するのって本当に楽しいんだよね。あと、言うまでもないけど食事も最高。日本に行くときは毎回良い時間をすごしてる。ただ歩き回って、レコード屋や服屋で買い物をして、ハイボールを飲みまくる(笑)。

聴く人それぞれに解釈はあると思いますが、ハイエイタス・カイヨーテが『Mood Valiant』を通してオーディエンスやリスナーへ伝えたいメッセージはありますか?

PB:アルバムを聴いて、素晴らしい時間を過ごしてくれたら嬉しい。アルバムの音楽が必要な感情を引き出して、皆がそれに浸り充実感を感じてほしい。何か必要なものがあるとしたら、それを僕らのアルバムのなかで見つけてもらえたら最高だね。

通訳:今日はありがとうございました!

PB:こちらこそ。またね。

Laurence Guy - ele-king

 このLPは、れっきとしたハウス・ミュージックだ。しかし正直に告白すると、僕はこの素晴らしいハウスをしかるべき場所──クラブ、あるいはサウンドシステムの整った場所──で聴いて知ったわけではない。ロンドンを拠点とするローレンス・ガイなる青年による、このモダンなディープ・ハウスとは、僕の自宅にあるラップトップで、もっとこまかく言うと YouTube のレコメンドによって出会った。ダンス・ミュージックという点において、その出会いはしかるべき場所ではなかったかもしれないが、ヴァイナルのラベルを映した、ちいさな四角いサムネイルとのファースト・コンタクトが、僕には妙にフィットするように感じられたのだ。

 今回、ジャジー~ディープ・ハウスを中心にリリースを手がける〈Church〉からリプレスされた『Saw You For The First Time』は、インターネット・フレンドリーなハウス・ミュージックと言える。DJボーリングの “Winona” を代表例に、数年前のインターネットではLo-Fi ハウスのラベルを後付けしたものが数多く消費され、そこには胸に残らないものもたくさんあったわけだが、それでも抜きん出た才能がいくつか発見され、彼らのキャリアをブーストした。それがDJボーリングであり、DJサインフェルドであり、モール・グラブであり、ロス・フロム・フレンズであり、そのなかでも、特に注目すべき人物が、ローレンス・ガイなのだ。

 〈Church〉からすでに2作のEPをリリースしており、満を持してドロップされた今作は、それら一連のEPと地続きの感覚を有したディープ・ハウスに仕上がっているが、決して焼き回しではない。ハウスのDJ・プロデューサーがLPをリリースし、「EPだと調子が良かったけど、LPになるとテンションが続かないな……」と感じることはまれにあるが、今作は10曲入り48分というベストな長さを見つけ、オープナーの “Intro” からクローザーの “W.L.Y.B” まで、見事にテンションを持続させている。低域のしっかりとした四つ打ちはそこにあるものの、ときおり立ち現れるサックスの音色、シンプルなピアノのループ、細切れになったヴォーカル・サンプル、それらが作品全体に大気的な雰囲気を与えており、どこかアンビエントのような感じもある。また、〈Church〉はジャジー・ハウスのイメージが強いから、この作品からもジャズを見出そうとしてしまうが、あくまでそれはムードであり、全体に通底しているのは、やはり繊細で音響的なディープ・ハウスだ。

 また、余談ではあるのだが、ジャケットのアートワークがどことなく、ドイツはハンブルクの〈Smallville〉のヴィジュアルに似ているのは偶然だろうか。こちらはディープ・ハウスのレーベルであり、〈Smallville〉がお気に入りなら、ローレンス・ガイによる今作も間違いなくマッチするだろうから、ぜひチェックしてほしい。

 こまかく見ていこう。“Gone” は〈Rhythm Section International〉のリリースでも知られるコントゥアーズを招聘し、今作随一のファンクネスを感じるベースと、ピアノによる見事なコンビネーションを披露し、また、スティーヴ・セパセックを客演に迎えた “Drum Is A Woman” では、ピッチベンドをうまく利用した音響的なヴォーカル・プロダクションに仕上げている。もちろん、レーベルメイトであり、ジャズ奏者のイシュマエルによるサックスが冴えわたる “Anchor” も外せない。そして、このLPでの白眉は、間違いなくタイトル・トラックの “Saw You For The First Time” だ。シンプルな四つ打ちから、ピアノのフィルターを変化させながらだんだんと展開していく鉄板のメソッド。エスター・フィリップスによる “A Beautiful Friendship” をサンプリングしており、細切れにされたヴォーカルが、いまにも消え入りそうな声かのごとく操作され、メランコリックな感覚さえ催させる、このLPのハイライトを演出。ローレンス・ガイは賛否両論のあるサンプリングという手法をアートだとみなしており、それについて、カニエ・ウェストやドレイクといったヒップホップ・スターの仕事を賞賛しているが、彼も今作、とりわけこの曲において、サンプリング・ミュージックとして見事な仕事を成し遂げたようだ。

 今作は、Lo-Fi ハウスなどというラベルをゆうに超えて、たくさんのひとに聴かれるべき音楽だ。いまにも消えてなくなってしまいそうなアンビエントと、体を内側から刺激するディープなハウスが同居しており、ここには悲しさも暖かさも、両方あるような気がする。2021年現在、YouTube で(期せずして?)Lo-Fi ハウスの旗振り役のひとつとなった〈Slav〉というチャンネルでは、“Saw You For The First Time” の再生回数が200万回を超えている。数字は本質ではないが、参考にはなる。言葉を持たないアンダーグランドな音楽がいまや、インターネットによってこれだけのひとにリーチしているのだ。

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