「Nothing」と一致するもの

Mouse On Mars - ele-king

 ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとザ・ナショナルのアーロン・デスナーがウィスコンシン州で主宰するフェスティヴァル〈Eaux Claires〉は、実際に行って感じたことだが、非常にDIY的な感覚で貫かれた場だ。大企業よりは地元の顔なじみの企業がスポンサーに入り、集客のためよりはミュージシャン同士の音楽的なネットワークを可視化するためにラインナップを決める。ミュージシャンシップによってジャンルを横断し、大勢の人間や価値観がひとつの場所に集うという感覚――とりわけ、ボン・イヴェールの作品や活動に貫かれているのは、この「シェア」という感覚である。いま、ヴァーノンが音楽仲間たちと取り組んでいるコレクティヴ・プロジェクトの名前はズバリ「PEOPLE」だ。
 「PEOPLE」のラインアップには、そして、ヤン・ヴァーナーとアンディ・トマの名前もある。マウス・オン・マーズのオリジナル・アルバムとしては6年ぶり、通算11作めとなる『ディメンショナル・ピープル』は、彼らが〈Eaux Claires〉に参加した経験がかなりの部分で基になっている作品だ。大勢のゲストが参加しているという点ではコンピレーション作『21アゲイン』(14)の発想を推し進めていると言えるが、同作がモードセレクターはじめ基本的にエレクトロニック・ミュージック系のネットワークを駆使していたことに比べると、『ディメンショナル・ピープル』に現れるメンツはジャンル的に非常に多彩。ボン・イヴェール、ザ・ナショナルはもちろんのこと、サム・アミドン、ベイルート、リサ・ハニガンといったインディ・ロック/フォーク勢をはじめとして、スパンク・ロックやアマンダ・ブランク、さらには超大御所ソウル・シンガーであるスワンプ・ドッグといった意外なメンツはすべて、〈Eaux Claires〉に由来している。そしてまた、コンセプトが社会主義だというのも……ボン・イヴェールが社会主義者とまでは思わないが、「民主社会主義」を繰り返し唱えていたバーニー・サンダースの演説大会の前説をヴァーノンが担当していたことを思えば、そう遠くないと言えるだろう。少なくとも、「シェア」という感覚こそが本作のもっとも重要なテーゼである。

 アルバムはそのヴァーノンが参加し、パート1~3で構成されるタイトル・トラック“Dimensional People”から始まる。ジューク/フットワークを意識したと思われるビートがせわしなく跳ねまわるが、ジューク/フットワークではない。フリージャズとダブ、アフロビートがたっぷりと注がれたすさまじくファンキーなIDMであり、それはやがてアンビエントへと姿を変えていく。このトラックがよく本作のモードを表していて、前作『パラストロフィックス』のエレクトロニックな質感に比べてオーガニックな音色とジャンルの積極的な衝突/融合が特徴だ。管弦楽器のアンサンブルや人声が要所で施され、大勢の人間がひとつの部屋にいる情景が何度も喚起される。IDMとポスト・ロックの交流に熱があった2000年前後の空気が、現代的に更新されていると言えばいいだろうか。久しぶりの〈スリル・ジョッキー〉作だというのも本作のトピックだ。
 雑多な人間によるアンサンブルという点では発想的にボン・イヴェールと共通しているのだが、やはりというか何というか、もっとも異なるのはマウス・オン・マーズらしい素っ頓狂なユーモアが張り巡らされていることである。やる気が感じられない脱力しきったアブストラクト・ヒップホップ“Foul Mouth”、カントリー・ドローンとでも呼びたくなる“Parliament Of Aliens”、パーカッシヴでつんのめるグルーヴが躍動するメタ・ファンク“Daylight”と、爆笑ではなく思わず小さく噴き出してしまう妙ちくりんなトラックが並ぶ。きめ細かさもあるが、それを崩す余裕もある。このおかしなサウンドはマウス・オン・マーズが開発したというアプリであるElastic DrumsやfluXpadが駆使されてできたものだそうだが、テクノロジーを理知的に利用するというよりは、ただおもしろがって遊んでいるといった感じだ。実際、ヴァーノンはじめ本作に参加したメンバーがアプリで遊ぶ動画がいくつか公開されているが、みんな純粋に楽しそうだ。子どものように音を変形させ、笑っている。

 紙ele-king vol.22に掲載されたヤン・ヴァーナーの発言を読めば、彼らが真剣に社会主義の発想を現代に生かせないか、と考えたことがわかる。資本や富を分かち合うこと、対話すること、多様な価値観を認め合うこと。OPNの『エイジ・オブ』がアンチ・ヒューマニズム的な見解からエレクトロニック・ミュージックの更新を(ある意味、トレンディに)目論んでいるとすれば、マウス・オン・マーズのIDMは頑なにヒューマニズムを貫こうとしている。だがそれは頑固とはほど遠い柔軟なもので、大勢の人間のアンサンブルの目標を(予定)調和に予め設定してしまうのではなく、偶発性や事故を能動的に楽しもうとする態度である。多様性とはそういうことなのだ、と。ベイルートのザック・コンドンとスワンプ・ドッグが参加したなかばドリーミーなクロージング・トラック“Sidney In A Cup”のピースフルな音の戯れを聴いていると、ここにマウス・オン・マーズの最新の理想主義が示されているように思えてくる。


TOKYO CUTTING EDGE vol.02 - ele-king

 avex内のレーベル、cutting edge主催のイヴェント『TOKYO CUTTING EDGE vol.02』に、Chim↑Pomがインスタレーションで参加する。また、TOKYO GIRLS COLLECTIONなどの会場装飾を手がけるバルーンアーティスト・Bashicoが場内のディスプレイを担当する事が発表された。
 おっと、ちなみに出演者は、長岡亮介、SHINICHI OSAWA (MONDO GROSSO)、WONKに加えて、 jan and naomi やEYEの名の加わっています。金曜日の夜の贅沢な一夜になりそう。

TOKYO CUTTING EDGE vol.02

【日時・会場】
2018年7月6日(金曜日)  LIQUIDROOM
開場/開演 24:00 ~ 終演 28:30予定

【出演】
LIVE:長岡亮介 / jan and naomi / WONK
DJ:SHINICHI OSAWA (MONDO GROSSO) / EYE (BOREDOMS) / AYASHIGE (wrench)
Installation:Chim↑Pom
Balloon Display:Bashico

【チケット】
 一般発売
 2018年5月31日(木)10:00~
 Yahoo!チケット https://r.y-tickets.jp/tce1802
 チケットぴあ https://w.pia.jp/t/tokyocuttingedge/
 イープラス https://eplus.jp/tce2/
 ローソンチケット https://l-tike.com/tokyocuttingedge02-lawson/


*年齢制限
 ※本公演は深夜公演のため20歳未満の方のご入場はお断り致します。 本人及び年齢確認のため、ご入場時に顔写真付きの身分証明書(免許書/パスポート/顔写真付き住民基本台帳カード/顔写真付きマイナンバーカード/在留カード/特別永住者証明書/顔写真付き社員証/顔写真付き学生証)をご提示いただきます。身分証をご提示頂けない場合は、前売りチケットをお持ちの方でもご入場頂けませんのでご注意下さい。
※全てコピー・画像及び期限切れは不可。
※身分証をご掲示頂けず、ご入場出来ない場合であっても、チケット代の払い戻しは一切致しません。
https://cuttingedge-tokyo.jp/
info
LIQUIDROOM 03(5464)0800

COSMIC TEMPLE - ele-king

最高にクールなリズム・セクションを紹介させてくれ。
ジャズ、テクノ、ダブ、ヒップホップ、なにを載せてもびくともせず、猛烈に疾走するグルーヴ・エンジン。
窓の外には一瞬先の未来がかいま見える。

扉が開いた。なにかを掘り当てちゃった感じがする。
コズミック・テンプルのふたりがどうやってこの扉を開く鍵を見つけたのかはわからない。
だが、彼らはおのれの力で鍵を探り当て、扉を開いた。
とめどなく奔流のように流れるクリエイティヴなエネルギー。

クリエイションとは一瞬先の未来をかいま見ること。
すべては人生のすべてを賭けた壮大な洒落でもあり真剣勝負でもある。

心の奥深いところに入ってきてスイッチを入れてくれる。
自分のなかにまだ美しいものがたくさんあったなって気づかせてくれる。

コズミック・テンプル!

色即是空、空即是色。
お釈迦様も須弥山のサイファーでスティック片手にウインクしてるぜ、きっと。
(春日正信)

quasimodeのリズム・セクション、須長和広と今泉総之輔による「コズミック・テンプル」が7月4日に1stアルバム『TEMPLE and TREE means like a COSMIC』をリリースします。
6月26日にはApple MusicとSpotifyでアルバム先行配信開始。同日、渋谷Milky wayでライヴを行います。

Apple Music
https://itunes.apple.com/jp/album/1393926634

■リンク(Spotify)
Spotify

■配信ライヴ情報
7月4日のリリース当日には、全世界に向けてライヴ中継を配信します。

■アルバム情報

COSMIC TEMPLE
TEMPLE and TREE means like a COSMIC
Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXGS4N3

9 イン・サークルズ(2) - ele-king

 アフリカのリズムは「ワン」がいろんなところに共存していて、というか拍の頭という概念が薄く、「あなたはここにいるからわたしはここにいます」と全体のなかの居所をみんな知っていて、集合体となる。道半ばながらこのような理解をしているのだが、トニー・アレンのドラミングは「ワン」は共有するにしても4肢のドラマーがそんなアフリカのリズムのように各々の居所に隙間を抜くように共存しながらエンジンとなって、しかも曲に合わせて変幻自在に動く。



 トニー・アレンによるモーゼス・ボイドへのクリニックはリズム的示唆に富んでいる。7:30~の短いミニマル・フレーズを伝えるシーンはもっともエキサイティング。フレーズで取り込もうとするモーゼスを制止するかのように、まずは右足のバスドラム、左足のフットハイハットからひとつ目のエンジンを確認する。次に左手のスネア。このとき、もうフレーズと言ってもいいものになっているのだが、それはあくまでもできあがってきたもので、フレーズから逆算していく4ウェイ的発想ではなく、右足、左足、左手が歯車のように絡んでいることに注目したい。そして、最後に参加する右手は4ビートに近い。絶妙にいわゆるスイングはしないところがクールだ。各々シンプルながら1人の中に4人いる。
 これを見ながら、アフリカの太鼓を練習しながら4拍目から1拍目へドンドンとすることさえもわからなくなったことがあったのを思い出した。そのときは、あまりになっていないだけだったのだが、「なんか違う」ながらドラムでかなりのフレーズを覚えていたにも関わらずそんな次第な上、同時にその理由を突きつけられたような気がした。しかし、はて、今だってどうだろう。ともすれば陥りがちなフレーズ先行が顔を出すことが大いにあるのではないかという反省を促される動画だ。しかも、気持ちよくだからにくい。楽観的なだけだろうか。その点アフリカのリズム・アンサンブルは本当によくできている。各々は絶妙に絡んでひとつの大きなうねりを形成する。その実はシンプルで、その輪に入ることができたとき最高の練習のひとつになると信じて続けている。

 「でもさ、実はみんな同じものじゃない? ハウスにジャズ云々、いろいろとジャンルはあるものの、要は同じ。誰もがあらゆるものを分け隔てなく聴いている、と。ほんと、ソウルフルな音楽か、リズミックな音楽かどうかってことがすべてなんだしさ」

 そう語るカマール・ウィリアムス筆頭に、多文化で、それに裏付けられた説得力のあるDIY精神(そうが故にリズムも気持ちところから外れないというような共通認識が生まれているのかもしれない)満載である南ロンドンならではのチャレンジは、ジャイルス・ピーターソンのブラウンズウッドからリリースされた『We Out Here』に凝縮されている。別冊ele-king『カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲』に、ここ数年起こっていることの一部始終が記されているが、僕のお気に入り3枚を挙げるなら、Yussef Kamaal『Black Focus』、Joe Armon-Jones『Starting Today』、Kamaal Williams『Return』。トニー・アレン直の影響が面白いとか、面白くないとかではなくて、曲に寄り添いながら、ときに寄り添わずに、自分たちのフレージングをしながら、気持ちいいところから外れようとはしないチャレンジが面白い。モーゼス・ボイド最高です。
 ところで、僕は2年程前にロンドンに行った。そのとき、交差点に信号が少ないのに車が譲り合うともなくするすると通り抜けていくところや、フィッシュ・アンド・チップス屋の兄ちゃんが手持ち無沙汰にポテトを入れる箱をクルクル回しながら、注文を受けて適当に頷いたと思ったらするするときれいに納めていくのを見て、リズムを感じたのだが、これを聞いてどう思われるだろうか? 立ち止まってはものを見ないとでも言うのだろうか。考え過ぎなことは承知で何かご意見があれば伺ってみたい。

 「“アフロフューチャリズム”という用語にはものすごくたくさんの定義を目にしてきたけれど、むしろ僕はこの用語自体が流動的で、それ自体が広い意味を持つようになって、より多くの人たちが自分たちの作品の背景として取り入れるようになったという点が気に入っている。まるでこの言葉そのものが生き物のように、多くの定義を取り込み続けている」  シャバカ・ハッチングス

 僕は、アフロフューチャリズムとは言えない代わりに、イン・サークルズ。堂々巡りなりに気持ちいいところから外れないようGONNOさんとグッド・ヴァイブスを目指すライヴが近づいてきた。

2018年7月8日(日) Open 17:00 / Start 18:00 GONNO × MASUMURA 『In Circles』リリースパーティー 会場:代官山UNIT 出演:GONNO × MASUMURA GUEST:トリプルファイヤー Adv ¥3,300 / Door ¥3,800 (ともに+1D) 2018年7月11日(水) 開場 18:30 開演 19:30 OLD DAYS TAILOR デビューアルバム 『 OLD DAYS TAILOR 』リリースパーティー 会場:吉祥寺スターパインズカフェ 出演:OLD DAYS TAILOR ゲスト:湯川トーベン(b) 前売り: ¥3,300 / 当日 ¥3,800(ともに+1D)


Afrodeutsche - ele-king

 近年アンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいてもっとも尖鋭的かつ批評的な実践を試みているのは、2015年にンキシ、エンジェル・ホ、チーノ・アモービの3人によって起ち上げられた〈NON〉だろう。世界じゅうに散らばったディアスポラを「ノン=非」という否定の形で繋ぎ合わせることによって新たな共同体の可能性を探るという彼らのコンセプトは、徐々に当初の「ブラック・ディアスポラ」から幅を広げ、今日ではより多彩なアーティストたちを招き入れるにいたっている。その横断性はたとえば今春リリースされた3部作『NON Worldwide Compilation Trilogy Volume 1 - 3』にも表れているが、そんな彼らの未来的なイメージの背後にはアフロフューチャリズムとドレクシアが横たわってもいる。そしてここへきて、そのコンセプトやバックグラウンドを一手に引き受けるかのような強烈な作品が現れた。

 アフロドイチェことヘンリエッタ・スミス=ローラは、マンチェスターを拠点に活動しているプロデューサーである。彼女は上述の〈NON〉のコンピにも“I Know Not What I Do”というトラックを提供しているが、その活動は10年ほど前まで遡ることができる。彼女はなんと、かつて808ステイトのグラハム・マッセイが4人のオルガン奏者とともに結成したシスターズ・オブ・トランジスターズなるグループの一員だったのである(同グループは2009年に〈ディス・イズ・ミュージック〉からアルバム『At The Ferranti Institute』を発表している)。またそれとはべつに彼女は、同じくマッセイとともにサン・ラーのトリビュート・バンドにも参加している。

 コーンウォールの隣に位置するデヴォンで育ったヘンリエッタは、マンチェスターへ移り住んだのち自身のアイデンティティを探りはじめ、音楽制作を開始したのだという。彼女の父親はガーナ人で、その先祖にはロシア人やドイツ人も混ざっているそうだ。「アフロドイチェ(アフロ=ジャーマン)」なるステージネームにはその複雑なルーツが織り込まれているわけだけど、そのようにディアスポリックな背景を持つ彼女が〈NON〉と接続したのはほとんど必然と言っていい(彼女は5月にNTSラジオにてンキシとともにパフォーマンスをおこなってもいる)。
 そのアフロドイチェのデビュー・アルバムがこの『Break Before Make』だ。リリース元が〈スカム〉というのがまた象徴的で、これは〈ウォープ〉が今年再始動させたサブ・レーベルの〈アーコラ〉でンキシをフックアップしたことと対応している。つまり、かつてテクノ~エレクトロニカを牽引した大御所レーベルまでもが、いま〈NON〉の動きを無視できなくなっているということだ(ちなみに、彼女を〈スカム〉へ繋いだのはおそらくグラハム・マッセイだろう。彼はマソニックス名義で2006年に〈スカム〉から深海をテーマにしたアルバムをリリースしており、〈ビート〉から日本盤も発売されている)。

 冒頭の冷ややかなシンセの響きから、アフロドイチェがドレクシアから多大な影響を受けていることがわかる。2曲目の“And!”は、昇降しながら反復するゲーム音楽のようなそのシンセ音をもって、はやくもこのアルバムのハイライトを提示している。5曲目“Now What”や7曲目“Blanket Ban”、あるいは先行公開された8曲目“Filandank”などに漂うSF感とダークネスは、かのデトロイトのデュオほど過激ではないものの、まず間違いなく彼らのサウンドに範をとったものだろう。

 ドレクシアといえば、件の〈NON〉のコンピと同じころに〈ラッキミー〉からリリースされたスティーヴン・ジュリアンのLPにもその影響が色濃く滲み出ていたけれど、アフロドイチェのこのアルバムはそのようなドレクシア再評価の波を決定づける強度を具えている。
 亡霊のように現代へと回帰してくるドレクシア、深化と拡張を続ける〈NON〉、その背後に横たわるアフロフューチャリズムという想像力――それらの交錯に関しては紙エレ最新号で濃厚な特集を組んでいるので、ぜひそちらをご一読いただきたいが、この『Break Before Make』はまさにその三者の結節を見事に体現しているという点において、いまもっとも注目すべき1枚と言える。

Underworld & Iggy Pop - ele-king

 なんと、アンダーワールドとイギー・ポップがコラボEPをリリースします。これはなんとも意外な組み合わせ……と一瞬思ってしまいましたが、いやいやいや、まったく意外ではありません。『トレインスポッティング』です。あの映画のオープニングを飾っていたのは“ラスト・フォー・ライフ”、そしてエンディングは“ボーン・スリッピー”でした。
 その続編である『T2トレインスポッティング2』の音楽を担当していたリック・スミスは、制作中にイギー・ポップと会合を重ね、それが今回のコラボとして結実したそうです。このたび公開された“アイル・シー・ビッグ”のリリックは、オリジナルの『トレインスポッティング』と『T2』の背景からインスパイアされているのだとか。
 発売は7月27日。22年ぶりの共演に、胸を躍らせましょう。

UNDERWORLD & IGGY POP
Teatime Dub Encounters

ロック界のレジェンド、イギー・ポップと
世界屈指のダンス・アクト、アンダーワールドが満を持して
コラボEP「ティータイム・ダブ・エンカウンターズ」のリリースを発表!

昨年満を持して公開された映画『T2トレインスポッティング2』。その映画音楽を担当したアンダーワールドのリック・スミスは、制作中、ともにオリジナルの『トレインスポッティング』に楽曲を提供したイギー・ポップとロンドンでミーティングを行ない、新作映画のためのコラボレーションの可能性を話し合った。

イギーは快く「会って何か話そう」と応じてくれた。僕らはともにトレインスポッティングとダニー(・ボイル)に強い絆を抱いていたからね。この紳士を説得して一緒に仕事をする一度きりのチャンスだろうと思った。だからホテルの部屋を貸し切って、スタジオを用意して彼が現れるのを待ったんだ。 ――リック・スミス(アンダーワールド)

イギー・ポップの“ラスト・フォー・ライフ”で幕を開け、アンダーワールドの“ボーン・スリッピー(ナックス)”で幕を閉じる96年公開の『トレインスポッティング』。完璧なオープニングと完璧なエンディングを持った映画は、青春映画の最高傑作として本国イギリスを中心とするヨーロッパはもちろん、アメリカ、日本でも異例の大ヒットを記録。ユアン・マクレガーやロバート・カーライルといったスター俳優を生んだ一方、イギー・ポップ、ブライアン・イーノ、プライマル・スクリーム、 ニュー・オーダー、ブラー、ルー・リード、レフトフィールド、デーモン・アルバーン、そしてアンダーワールドといった当時の先鋭的ポップ・シーンを代表するアーティストが名を連ねたサウンドトラックも大きな話題となった。

それから実に22年。リック・スミスのもとに現れたイギー・ポップは、完璧にセッティングされたスタジオを目にし、すぐにでも制作に取り掛かろうという情熱に駆られた。

ホテルの部屋に完璧なスタジオを持った誰かと会って、Skypeにはアカデミー賞監督がいて、目の前にはマイクと30もの洗練された楽曲があったら、頷くだけでびびってられないだろ。一瞬で血が沸き立ったよ。 ――イギー・ポップ

今作『ティータイム・ダブ・エンカウンターズ』は、アンダーワールドが『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』を、イギー・ポップが『ポスト・ポップ・ディプレッション』を2016年3月16日に同時にリリースした数週間後に、ホテルの部屋で秘密裏に行われた数回のセッションの末に誕生した。これは過去に対するトリビュート的なものではなく、今もなお第一線で活躍し、持っているすべてを目の前の作品に捧げ、ひらめきこそが創造を生むという信念を持ったアーティストたちが作り上げた、最高に刺激的で躍動に満ちた作品である。

先行曲である“ベルズ&サークルズ”は、BBC Music主催イベント《Biggest Weekend 2018》でアンダーワールドがヘッドライナーとしてパフォーマンスした際に初披露された。そしてEPリリースの発表と合わせて、新曲“アイル・シー・ビッグ”が解禁。“ベルズ&サークルズ”とはある意味真逆の魅力を持った楽曲で、壮大なアンビエント・トラックの上で、イギー・ポップは語りかける。その歌詞は、ダニー・ボイルとの会話の中で、『トレインスポッティング』と『T2トレインスポッティング2』の背景にインスパイアされて書かれたものだという。

今では俺も多少は年を食い、俺がいなくなった時に俺のことを思ってくれる友達について考え始めてる
1人か2人は笑顔を浮かべ、俺との楽しい思い出に浸ってくれるだろう奴がいる


I’ll See Big
Apple Music: https://apple.co/2Ie6vtk
Spotify: https://spoti.fi/2luH9OZ

Bells & Circles
https://youtu.be/KmJWD9jQvhc


アンダーワールドとイギー・ポップによるコラボレート作「ティータイム・ダブ・エンカウンターズ」は、7月27日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラック2曲が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。iTunes Storeでは「Mastered for iTunes」フォーマットでマスタリングされた高音質音源での配信となり、今アルバムを予約すると、公開された“Bells & Circles”と“I’ll See Big”の2曲がいち早くダウンロードできる。

label: Beat Records
artist: Underworld & Iggy Pop
title: Teatime Dub Encounters
release date: 2018.07.27 FRI ON SALE
国内盤CD: BRC-576 ¥1,500+tax

リリース詳細はこちら:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9742

Tracklist
01. Bells & Circles
02. Trapped
03. I See Big
04. Get Your Shirt
05. Bells & Circles (instrumental version) *Bonus Track for Japan
06. Get Your Shirt (instrumental version) *Bonus Track for Japan

Jim O'Rourke - ele-king

 ジム・オルークがソロCD(フィジカル)作品としては3年ぶりとなる新作アルバムをリリースした。リリースは〈felicity〉の兄弟レーベル〈NEWHERE MUSIC〉から。同レーベルは「アンビエント、 ニューエイジ、ドローン、ポストクラシカル、等々。これらジャンルの境界線を取り払い 「エレクトロニック・ライト・ミュージック」 と定義付けて電子的な軽音楽を創造するニューブランド」と称されており、本作『sleep like it's winter』は、王舟 & BIOMAN『Villa Tereze』についでレーベル2作目のリリース作品となる。その霞んだ空気と霧のような音響は、オルーク作品のなかでも異彩を放つ仕上がりであり、今後も参照され続けていくに違いない重要なアルバムといえる。音と音が折り重なることで生まれる時間の層のなんという繊細さ、豊穣さだろうか。

 そもそもジム・オルークという類まれな才能を誇る音楽家は、20世紀音楽の「時間の層」をいくつも折り重ねることで、複雑な時間軸を内包した音楽を作曲してきた人物だ。彼の楽曲において構成されるさまざまな音のモジュールは、「接続」というより映画/映像でいうところの「ディゾルブ」のように折り重なり、そして、つながっている。
 むろん、それはたんに「手法」の問題だけに留まらない。つまりは「歴史」への接続だ。そこにおいて折り重ねられるものは、個々の音楽モジュールそれ自体の時の流れと、音楽の歴史である。90年代以降、ジム・オルークが「音楽」に導入したもっとも重要な要素は、このメタ音楽の生成・構成であった。彼の音楽がドローン、ノイズ、インプロヴィゼーション、ポップ・ミュージック、電子音楽、映画音楽という領域を超えて成立しえるのも、メタ的視線(聴覚)で音楽史を捉え、音楽として再構成しているからだろう。
 デヴィッド・グラッブスとのガスター・デル・ソルを経て発表されたソロ・アルバム『ユリイカ』(1999)などでは、ジョン・フェイヒィ、ヴァン・ダイク・パークスなどのアメリカーナ/大衆音楽(の異端?)とトニー・コンラッドの実験音楽/現代音楽を、「現代アメリカの民族音楽」として、メタ的に作曲・構成したことを思い出してみればいい。
 ディゾルブする歴史・音楽。オルーク作品において、複数/単数の歴史/音楽が重なり合う。聴き手はその重なり合うさまを聴いている。それは歴史以降の音楽だ。歴史は終わっても、歴史以降の世界は続く。以降の世界で耳を拓くこと。音楽を聴くこと。オルークの録音作品は、それを突き詰めている。

 当然、本作も同様なのだが、ここではかつてのアメリカ音楽的なものはそれほど全面化していない。それらは音の層のなかにすでに融解している。アルバムは全部で45分ほどあるが、トラック分けされておらず長尺1曲である。とはいえドローン作品のように一定の持続音が微細に変化していくわけでもない。さまざまな録音素材(演奏や電子音なども含む)がつながり、ひとつの大きな変化を「語っていく」かのような構成になっているのだ。
 その意味で、彼の初期の長尺ドローン作品『Disengage』(1992)や、『Mizu No Nai Umi』(2005)、『Long Nigh』(2008.1990)、「Jim O'Rourke & Christoph Heemann」名義『Plastic Palace People Vol. 1』(2011、1991)、同じく「Jim O'Rourke & Christoph Heemann」名義『Plastic Palace People Vol. 2』(2011、1991)、「Fennesz&Jim O'Rourke」名義『It's Hard For Me To Say I’m Sorry』(2016)、「Kassel Jaeger&Jim O'Rourke」名義『Wakes On Cerulean』(2017)や、自身のバンドキャンプ「Steamroom」で定期的にリリースされている音響作品などを思い出しもする。長尺1曲でサウンドが接続し、変化していく『Happy Days』(1997)、『Bad Timing』(1997)、『The Visitor』(2009)や、カフカ鼾の『Okite』(2014)、『Nemutte』(2016)も想起することもできるだろう。また「ディゾルブ的な編集」という意味では8cmCDとしてリリースされた映画的な環境音楽作品『Rules Of Reduction』(1993)も重要な参照点になるはずだ。

 本アルバムも、このような「ディゾルブ的」感覚が見事に生成していた。アルバムの色彩が、どこか霞んだような冬の響きから、春の夜明けのようなサウンドへと微細に、かつ明瞭に変化を遂げているのである。また、冒頭の霞んだ持続音、少し湿ったピアノ、低音のベースのようなドローンがそれぞれ別の時間を有しているかのようにレイヤーされていく展開にも、折り重なる音響の時間が生まれているように感じられた。
 個人的には冒頭のベース的な持続音に加えて、18分から20分あたりの、密やかな鳥の声の音や環境音の挿入を経て、暗さから明るさに変化しつつあるドローン/環境音のパートにも惹かれた。冬/夜から春/夜明けへと移行する中間の音響的なトーンが生成しており、楽曲全体が「ディゾルブ的」に重なっていく感覚を覚えたのだ。また、楽曲全体に空気のように満ちている繊細な電子音も素晴らしい。
 本作の音楽の構成・作曲にはジム・オルーク単独作品特有の感覚と技法の現在形が封じ込められている。録音は2017年にオルークの「Steamroom」で行われ、おそらくペダルスティール、ピアノ、シンセなどの録音素材を、ジム・オルークがひとりで時間をかけて編集したのだろう。直近の作品では「Kassel Jaeger&Jim O'Rourke」名義の『Wakes On Cerulean』にも共通する質感を感じる(ジム・オルークのなかではこういったコラボレーションとバンドキャンプで定期的に配信されているアルバムと、今回のようなソロ作品との差異はそれほど付けていないのだろう。すべては自身の音楽として繋がっている)。ジム・オルークのなかでは録音とミックスと作曲が分かちがたく一体化しているのだろう。
 では、それによってどのような音楽が生成しているのだろうか。私見では、声のない音響作品であっても、どこか感情と感覚が淡く交錯する「歌」のようなものが折り重なる音響のむこうから、微かに感じられるのだ。かつてのオルーク作品をもじっていうならば「こえのないうた」とでもいうべきか。

 ともあれ、このアルバムが「ジム・オルークのソロCD作品」としてリリースされたことの意味はやはり大きい。なぜなら、このような日々の創作/コラボレーションにおける思考錯誤と実践の成果が、この1枚の銀盤に、驚異的な創作力の成果として集約されているのだから。となれば、われわれリスナーは、その事実に耳を傾け、オルークが本作に込めた音楽・音響の移り変わりに注意深く耳を傾け、より深いリスニングの時間を得ることが大切のはずだ。そう、繰り返し聴くことだ。
 じじつ、本アルバムを手にされた方は、今後の人生において何度も何度も、まるで水を求めるように折に触れて聴き返すに違いない。いわば人生の傍らにあるエクスペリメンタル・ミュージック。かつてジム・オルークが、その再発盤にライナーを執筆したルチアーノ・チリオ『Dialoghi Del Presente』の横に本作を置いてみると、意外としっくりくる作品ではないかとも思う。20世紀音楽の歴史が、繊細な実験性と上質なロマンティシズムのなかに凝縮されているのだ。

Kamaal Williams - ele-king

 今年に入ってサウス・ロンドンのジャズ・シーンが俄然注目を集めているが、それに至るきっかけにユセフ・カマールの登場があった。キーボード奏者のカマール・ウィリアムスとドラマーのユセフ・デイズによるこのユニットは、2016年末にファースト・アルバムの『ブラック・フォーカス』を発表するが、ジャイルス・ピーターソンの〈ブラウンズウッド〉からのリリースということもあり、ジャズ・サイドとクラブ・サイドの両面から支持を得ることになった。
 世界的な潮流となっているアメリカの新世代ジャズに対し、英国からの発信を行ったという位置づけがされるのだろうが、そこにロンドン、とくにサウス・ロンドンらしい特色を挙げるとするなら、ペッカムを拠点とする〈リズム・セクション・インターナショナル〉やテンダーロニアスことエド・コーソーン主宰の〈22a〉などのレーベルで見られるディープ・ハウスやビートダウン、ブロークンビーツなどのクラブ・サウンドのエッセンスを取り入れ、さらにそうしたサウンドの源泉となる1970年代のジャズ、ジャズ・ファンク、フュージョンのテイストを忍ばせていることだろうか。
 こうした温故知新で折衷的な手法は、古くはレア・グルーヴやアシッド・ジャズの頃からイギリス人アーティストに根付いているものであり、かつてのウェスト・ロンドンにおけるブロークンビーツ・ムーヴメントが盛り上がっていた頃の4ヒーローやバグズ・イン・ジ・アティックなどに、ユセフ・カマールのアーティストとしての在り方は近いのではないかという印象を抱いたのだった。

 しかしながら、ユセフ・カマールは間もなく解散してしまった。そもそもこのユニットは『ブラック・フォーカス』を作るためだけに立ち上げ、恒常的にライヴ活動を行なうようなグループを目指していたわけではなかったようだ。こうしたワンオフ・プロジェクトはブロークンビーツ・シーンでも多かったし、ジャズの世界でもひとりのプレーヤーがあちこちのバンドで演奏するなんてことは日常茶飯事である。カマール・ウィリアムスもヘンリー・ウー名義でディープ・ハウスを作ったり、K15ことキウロン・イフィルとウー15というコラボをやったり、そしてもともとはヒップホップをやっていたという経歴が示すように、いろいろな方向性に興味の対象を広げている。
 だから、そうした自由な創作活動の足かせにならないように、ユセフ・カマールをアルバム1枚で潔く終わりにしてしまったのかもしれない。『ブラック・フォーカス』のリリースと前後し、カマール・ウィリアムスはヘンリー・ウー名義でティト・ウンとの共作「27カラット・イヤーズ」、バントンとの共作「ディープ・イン・ザ・マッド」、アール・ジェファーズとの共作「プロジェクションズ」という数枚のディープ・ハウスの12インチを出し、ウェールズのDJユニットであるダークハウス・ファミリーのアルバム『ジ・オファリング』にキーボード奏者として客演していた。
 そうしたなかで〈ブラック・フォーカス〉を新レーベルの名称にして、ソロ作となる“キャッチ・ザ・ループ”をデジタル・シングルでリリースしたのが2017年末。ユセフ・カマールに近いタイプの律動的なブロークンビーツ+ジャズ・ファンクから、次第にヒップホップ的なビートへとスリリングに推移していくナンバーで、ユセフ・カマール以上にジャズのインプロヴィゼイションとリズムの面白さを追求した印象だ。この“キャッチ・ザ・ループ”を先行シングルに、ソロ・アルバムの『ザ・リターン』がリリースされた。

 アルバム名を「帰還」としているのは、もちろんユセフ・カマールの『ブラック・フォーカス』からカムバックしてきたという意味があるのだろう。カマールいわく、『ザ・リターン』は『ブラック・フォーカス』の延長線上にあり、もともとユセフ・カマールが彼のアイデアに基づくユニットだったので、『ザ・リターン』はカマールにとってセカンド・ソロ・アルバムに近いものだという。ただし、参加メンバーが違うので、そこが『ブラック・フォーカス』と『ザ・リターン』の差異になっているそうだ。『ブラック・フォーカス』はユセフ・デイズやその兄弟のカリーム・デイズほか、シャバカ・ハッチングス、イエルフリス・ヴァルデス、マンスール・ブラウン、トム・ドリースラーなどが演奏に参加していた。そのなかでカマールのキーボードやシンセとユセフのドラムスのコンビネーションがアルバムの柱となっていたわけだが、今回も鍵盤とリズムの関わり方がアルバムを決定づけていると言える。
 今回はギターのマンスール・ブラウンが“LDNシャッフル”の1曲に参加するのみで、あとはカマールとベースのピーター・マーティン、ドラムスのジョシュア・マッケンジーのトリオというシンプルな形。よりミニマルに贅肉をそぎ落とし、3人のコンビネーションを極限まで高めていったアルバムである。とくにカマールとジョシュアの出会いが重要で、それについては本誌のインタヴューでもなかなか面白く語ってくれているのだが、本作ではカマールとジョシュアの丁丁発止のやりとりがあり、それをピーターががっちりとサポートしつつ新たな導火線を引き、そうした3者の即興やインタープレイ、融合や離反の中から創造的な演奏が生み出されている。『ブラック・フォーカス』に比べて演奏が濃密で、自由度も上がっている印象だ。

 カマールのキーボードは、かつてのロイ・エアーズ・ユビキティの鍵盤奏者だったハリー・ホイテカーとか、ロニー・リストン・スミスあたりの影響が濃厚で、1曲目の“サラーム”の前半にそれはよく表われている。カマールは彼らやハービー・ハンコック、ドナルド・バードなどのレコードをいろいろと聴きこみ、コピーしながら独学でキーボードをマスターしたというから、そうしたフレーズは自然と出てくるのだろう。これと同系の“ハイ・ローラー”は、ブギーやオールド・スクールのヒップホップ的なリズム要素を持ち、オーケストラルなシンセとフェンダー・ローズでハーモニーを形成する。“リズム・コミッション”はエレクトロ・フュージョンとでも言えそうなナンバーだ。
 ただし、“サラーム”は中盤からアメーバのように変容を遂げ、緊張感に富む展開を見せるところが肝である。『ブラック・フォーカス』では割と一定したダンス・ビートに即した場面もあったのだが、『ザ・リターン』ではそうした配慮などは排して、グルーヴは保ちつつもアイデアを広げ、果敢にチャレンジしている。
 “ブロークン・テーマ”はカマールなりのブロークンビーツへのオマージュで、特に鍵盤奏者でドラムやパーカッションも扱うカイディ・テイタムからの影響が強いことが伺える。この曲も前半と後半では曲想が大きく変わり、後半はウェザー・リポートのように抽象的な展開を見せる。そして、“シチューエーションズ”はミラノでのライヴ録音で、より即興性が生かされたキーボードとドラム演奏。“メディナ”はモーダルな曲調のディープ・ジャズで、オルガンのコルトレーンと評された頃のラリー・ヤングに通じる。カマールの持つスピリチュアリティが表われた作品だ。
 “LDNシャッフル”はロンドンのストリートをイメージしたような疾走感溢れる作品。複雑な変拍子はマハヴィシュヌ・オーケストラなどのジャズ・ロックの影響が伺え、ジョシュア・マッケンジーの激しいドラミングに加え、マンスール・ブラウンのギター・ソロも火花を散らすアグレッシヴな展開。そしてアルバムは空間的なシンセによるアンビエントな“アイシャ”で幕を閉じる。
 ちなみに“アイシャ”はドラマーのマッコイ・タイナーが後に妻となる女性の名前を冠した作品で、彼も参加したコルトレーンの『オレ』(1961年)での演奏で知られる美しくモーダルなバラード。“メディナ”はドラマーのジョー・チェンバース作曲で、自身のアルバムでも取り上げたほか、ボビー・ハッチャーソンの『メディナ』(1969年録音)でスタンリー・カウエルらと演奏していた。どちらも同名異曲の作品で、偶然にタイトルが被ったのかもしれないが、あらためて聴いてみるとカマールがそれらの作品にインスピレーションを受けているのではないか、と思える節がある。そういった具合に、カマールのインスピレーションの源は、時代や空間を超えて世界のいろいろなところに広がっているのだろう。

XXXTentacion - ele-king

 XXX(エックスエックスエックス)テンタシオンとジミー・ウォポが相次いで撃たれて亡くなった。20歳と21歳。前者はこのところアメリカのヒップホップにおいて高まっていた世代間の確執では中心人物とも言える存在で、しかし、そのことと撃たれたことは関係がなかったらしい。後者も同じくで、強盗か何かに撃たれたらしく、メジャーと契約を交わしたばかりというタイミングだった。このふたりの死から導き出されるのはヒップホップとか文化に関する話題であるよりは、やはりアメリカの銃社会にまつわる議論に終始するべきだろう。警察とのトラブルではないので、ブラックライヴスマターの案件ですらない。
 実は紙エレキング用に5月の時点で書いた原稿にXXXテンタシオンにも触れていて、そのときにはドレイクやミーゴスと対立するXXXテンタシオンをケンドリック・ラマーが支持するのかしないのか曖昧なままにしてあったんだけれど、訃報が伝わった直後にケンドリック・ラマーどころか「どれだけ君にインスパイアされたかわからない」というカニエ・ウエストやディプロ、ジューシー・Jやマイリー・サイラスなど多くのミュージシャンたちが彼の才能に賛辞を惜しまないツイートをアップする事態となっている(意外とマンブル派ではなくJ・コールのようなリリカル派からリアクションが多い。マンブル・ラップというのは何をラップしてるのか内容がわからないと揶揄されているラッパーたちのことで、フューチャーやミーゴスが代表とされる)。もしかすると黒人版ニルヴァーナのような存在になったかもしれないことを思うと、それなりに納得はするものの、一方で、白人の男の子をステージ上で絞首刑にするという映像表現や妊娠中のガールフレンドに暴力を振るい、その映像をバズらせて喜んでいたことは彼の死に同情できないという声を多く呼び寄せる事態にもなっており、彼の才能の是非についてはXXXテンタシオンが生きていて、彼自身の活動によって証明する以外に方法はなかったとも思う。この3月にはビルボードで1位を獲得したというセカンド・フル・アルバム『?(Success&Victory)』もケンドリック・ラマーと同じく僕も5回ほど聴いてみたけれど、そこまでの作品には思えなかったし(大ヒットした“Sad!”より“Moonlight”の方が良かった気が)、やはり昨年、オーヴァードーズで亡くなったリル・ピープ同様、ロックになったりラップになったりというスタイル(エモ・トラップ)は興味深いものの、これまでのラップのスタイルに取って代わる「叫び」を体現したという評価はやや早計な見解ではなかっただろうか(叫んでいるときはラップじゃないし)。
 ちなみに紙エレキングの記事でXXXテンタシオンはスポティファイから削除されたと書きましたが、正確にはレコメンド機能から外されただけで、聴くことは可能のようです。(三田格)


R.I.P. Jalal Mansur Nuriddin - ele-king

 2018年6月4日、ジャラール・マンスール・ナリディンが亡くなった。
 ジャラール・マンスール・ナリディンは、1944年7月24日、ニューヨークに生まれ、ブルックリンのフォート・グリーンで育った。米軍への入隊、その後ウォールストリートの銀行で速記の仕事をした後、ラスト・ポエッツとしてデビューすることになる。このグループのメンバー構成の変遷は、やや複雑なのだが、ジャラールの立場を知るためにも、簡単に整理しておく。
 まず、ファースト・アルバム『The Last Poets』(1970)が発表される前に、最初期のメンバーであるガイラン・ケイン、デヴィッド・ネルソン、フェリペ・ルシアーノが脱退している(なお、脱退した三人はThe Original Last Poetsというグループ名で1971年に『Right On!』というアルバムをリリースする)。その結果、ラスト・ポエッツは、アビオドゥン・オイェウォレ、ウマー・ビン・ハッサン、ジャラール(当時の名義はアラフィア・プディム)、コンガ奏者のニリージャ、の四名で、ファースト・アルバムを発表することになった。しかし、ポリティカルな姿勢を堅持するアビオドゥンが、まず脱退する。そして、セカンド・アルバム『This Is Madness』(1971)発表後には、ウマーが脱退した(ニリージャもこのころには脱退していると思われる)。
 こうして、ひとり残されたジャラールは、ラスト・ポエッツの新メンバーとしてスリアマンを迎え、『Chastisment』(1972)、『At Last』(1973)、など数々の作品を発表し、1994年まで活動を続けた。つまり、ラスト・ポエッツとして最も長く活動したのが、ジャラールなのである。しかしながら、1997年に再結成されたラスト・ポエッツに、ジャラールの名前はなかった。ウマーとアビオドゥンのふたりだけが「ラスト・ポエッツ」を名乗ったのである。このふたりに言わせれば「ポリティカルな姿勢を崩さない自分たちこそがラスト・ポエッツだ」ということになるだろうし、ジャラールとしては「辞めたお前たちが名乗るな。自分こそがラスト・ポエッツだ」と叫びたかったのではないか。
 再結成されたラスト・ポエッツに自分の名前がない……。この事態に直面したジャラールは、直接行動に出る。新しいラスト・ポエッツのふたりの元を訪れたジャラールは、ウマーに対して「スリアマンを殺したのはお前だ」「これはスリアマンの分だ」「これでお前の声は死ぬんだ」と言いながら、長い針でウマーの喉元を突き刺した……とされている。
 このエピソードは、ラスト・ポエッツの初期メンバーやプロデューサーへのインタヴューを元に構成されたドキュメント・ノベルで紹介されているものだ。その名も『The Last Poets』(オランダ語の原著が2004年、英訳2014年)と題されたドキュメント・ノベルの作者、クリスティン・オッテンによれば、ジャラールは本書に関する取材の申し入れを断ったらしい。そのため、これはあくまでウマーとアビオドゥンのふたりが語る「事件」に過ぎず、真偽のほどはわからない。ただし、長い針でメンバーの喉を突いたというエピソードには、なにか異様な迫力を感じずにはいられない。
 切り裂くようなジャラールの声には、激しい怒りを行動に移してしまうような危うさがあり、それが彼の魅力でもあった。内面の葛藤をドライな肉声に乗せる際の緊張感。それこそが、ジャラールの比類ないライミングの源泉だったのかもしれない。

 ラスト・ポエッツ関連の話題が多くなってしまったが、ジャラールは、アラフィア・プディム(Alafia Pudim)やライトニン・ロッド(Lightnin' Rod)と名乗ってソロでも活躍している。なかでも、クール・アンド・ザ・ギャングを迎えたライトニン・ロッド名義でのソロ作品である『Hustlers Convention』(1973)は、ラスト・ポエッツ名義の作品と同様、サンプリング・ソースの宝庫として、ヒップホップの文脈ではいまなお特別な影響力を持っている。その後、80年代以降のヒップホップの隆盛のなかで、ジャラールは常に言及され、参照された。それにより、「ラップの生みの親」としての地位を確立していく。しかし、そうした位置にとどまることなく、ジャラールは変化し続けた。90年代に発表された作品、たとえばシングル「Mankind」(1993)を聴けば、ジャラールの「語り」がより「ラップ化」していく様相をつかむことができる。

 彼が亡くなったと知ったとき、ラスト・ポエッツの“Bird's Word”(1972年の『Chastisment』所収)という作品を思い出した。ジャラールはこの作品のなかで、その圧倒的なライミングと、心地よい声で、黒人音楽の歴史を語り上げている。そこで言及されるのは、ベッシー・スミスからルイ・アームストロング、アート・ブレイキー、エリック・ドルフィー、コルトレーンを経てニナ・シモン、サン・ラへと至る歴史だ。この歴史のなかに、ジャラールを加えるためにも、改めてジャラールと出会い直したいと思う。これまでは聴き流していた彼の声に、耳を澄ますことが、なによりの追悼だろう。

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