「K Á R Y Y N」と一致するもの

interview with Iglooghost - ele-king

 2024年の文化的衝撃のひとりに、パリ・オリンピックにおいてレスリング女子76キロ級の金メダルを獲得した鏡優翔がいる。彼女は「kawaii」という文字が描かれたマウスピースを装着して試合に出場し、そして勝利すると手を振り上げて「カワイイ!」と絶叫したのだ。もちろん、柔道において「捨て身技」に分類される、極めてリスキーな(つまり度胸と速度を要する)巴投げで試合を制した角田夏実もすごかった。ただ、彼女のそれは伝統的な意味合い(すなわち男性的想像力の範囲内)でのすごさだ。女子レスリング重量級の選手が人目をはばからず「カワイイ!」と叫んだりするのは、過去にはなかったことで、つまりこれはオルタナティヴであり、歴史的文脈からの堂々たる逸脱だったと言える。
「カワイイ」はいまや世界語で、それは「キュート」の和語ではない。かつて「クール」と呼ばれていたものが「カワイイ」へと変容している。その表象は社会的、感情的、ジェンダー的な文脈ないしは個人によって異なる。語源が「かわいそう」と関連していることから、脆弱性という意味合いも含有している。

 「カワイイ」は物や人本来の性質ではなく、見方の一形態である。つまり、ある物や人を「カワイイ」と呼ぶことで、見る者は共感、親密さ、感情を込めた柔らかな視線を向ける。「カワイイ」という言葉は、見る者について、見られる者と同じくらい多くを語る。
クリスティーン・ヤノ
『ピンク・グローバリゼーション』(2013)

 IDM——いや、近年では“デコンストラクテッド・クラブ”などと括られるハチャメチャなスタイル——と「カワイイ」との出会い、イグルーゴーストのこれまでの作風をこのようにまとめるのはいささか乱暴ではあるが、「カワイイ」は、彼がたびたび比較されるエイフェックス・ツインやフライローになかった趣であることはたしかだ。
 いまからでに遅くはない。2015年の「Chinese Nu Yr」をチェックして欲しい。2017年の楽しいカオス『Neō Wax Bloom』を体験しよう。シュールな「Clear Tamei」に酔い、妖しくも美しい『Lei Line Eon』に進入すべし。眠れない夜は“ᴗ ˳ ᴗ Snoring”を聴きたまえ(坂本龍一へのオマージュあり)。グリッチホップ、IDM、トラップ、クラシック、アンビエント……いろんなものが融合しているエレクトロニック・ミュージックだが、過去の遺産を亡霊扱いすることなく、音楽が醸し出すムードにおいては、おそろしいほど前を見つめている点はソフィーと似ている。だが、ソフィーと違ってイグルーは「カワイイ」……いや、それもいまや過去形とするべきなのだろう。

 そう、ここまでさんざん「カワイイ」と言っておきながら話をひっくり返すようだが、彼の最新作『Tidal Memory Exo』に「カワイイ」はない。イグルーゴーストは変わった。荒々しいレイヴ・ミュージックはイマジナリーではあるが身体的で、グルーヴィーだがダーク、同作の世界観はアートワークが象徴的に表している。ぼくは、当初「カワイイ」がないこの作品世界に動揺し、思わず一歩、そして二歩引いてしまったのだが、しかし聴いているうちにすっかり好きになった。理由は以下のように説明できるかもしれない。『Tidal Memory Exo』の主要成分にはジャングルがある。また、同アルバムのコンセプトには汚染にまみれ荒廃した居住区がある。しかしこの音楽は、たとえばBurialのような空しさや内省、絶望や孤独には向かわない。妙な前向きな活気が漲っている。イグルーゴーストはソフィーや鏡優翔のように、伝統的な想像力から逸脱した新世代なのだ。

子供の頃は毎日のようにテレビで「ムーミン」を観て、マイナーなアニメも早朝の時間帯に放送されていたんだよ。そのイメージを複雑なストーリーラインと組み合わせて表現するのが好きだった

時間作ってくれてありがとうございます。調子はどうですか?

イグルー:いまやっと時差ぼけが治ってきた気がする。せっかく回復したのに、あと2、3日で帰らないといけないけど(笑)。

日本は3回目?

イグルー:たぶん6回目だと思う。

いちばん最初に来たのって?

イグルー:長野のタイコクラブだった。本当にクールだったのを覚えているよ。森のなかで、霧がすごくて。楽しかったな。

それは何年?

イグルー:2018年じゃないかな。

あなたがポケモンとともに育って、日本のポップカルチャーが大好きだったという話はよく知られています。初めて日本に来て自分の目で日本を見たときはどういう印象でしたか?

イグルー:素晴らしかった。空港からバスに乗って東京に行ったんだけど、空港が東京じゃなくて郊外にあるっていうのを知らなくて、最初はバスから見える景色にちょっと戸惑ったんだ。立ち並ぶ高層ビルを想像してたのに何の変哲もない景色が広がっていて、「あ、もしかしたら思ったほど東京ってクレイジーじゃないのかも」って思った。でも東京都内に入った途端、すぐにその景色に引き込まれたんだ。すごく衝撃的な瞬間だったよ。

ところでイグルーの本名は、シーマス・マリア(Seamus Maliah)。この苗字は珍しいんじゃないですか?

イグルー:うん。イギリス人でさえ読み方を知らないんだから(笑)。

あなたが生まれた場所、ドーセット州シャフツベリーは、イングランド南西の海沿いのほうですが、ケルティックな文化があるような変わった場所?

イグルー:いや、そうでもないよ。ストーンヘンジに近いし、そういう古いものがたくさんあるからおとぎ話みたいな雰囲気はあるけど。でも、子供時代を過ごすには退屈な場所なんだ。まわりで何か面白いことが起こってるわけじゃないから。だから、自分の成長期の時間のほとんどはインターネットに費やした。まわりに森しかないから(笑)。

あなたとよく比べられるエイフェックス・ツインもコーンウォール出身で、ドーセット州の西隣です。土着的な何かがあるんじゃないのかな?

イグルー:あまり近くはないけどすごく似ているとは思う。共通点は、まわりに影響されるものがないことだと思う。音楽シーンもないから、作るものが自分流になって奇妙なものが生まれるんじゃないかな。

あなたの作品に『Lei Line Eon』というアルバムがありますよね。これもぼくのフェイヴァリットなのですが、「レイ・ライン」という、古代のマジカルパワーを結ぶラインという説があってそれを題名にしています。こういう神秘的なものへの憧憬というか共感というか、やっぱり生まれ故郷が影響しているのかなと思ったんですけど。

イグルー:たしかにそうだね。70年代から80年代にかけて、イギリスではネオペイガニズムというムーヴメントがあったんだ。ストーンヘンジもその一部だったんだけど、そのときに民間信仰や農村の伝統みたいなものが再び広がった。とくにサブカル系が好きで熱狂的な人たちのあいだでね[*ドルイド教を模倣したザ・KLFもそうで、レイ・ラインはビル・ドラモンドの重要なコンセプト]。ぼくの両親もその一部だったんだけど、そのムーヴメントのなかで、レイ・ラインという魔法のような目に見えない繋がりで場所と場所がつながっている、という考え方があって、ぼくはそれについてよく聞かされて育ったんだ。

ご両親の話が出ましたが、どんな家庭環境で育ったんですか?

イグルー:ぼくの両親はふたりとも音楽が大好きだから、音楽をたくさん聴いて育った。とくに父親は音楽の趣味がすごくクレイジーで、子供の頃は前衛的な音楽をたくさん聴かされたよ。Swansとかね。あと、母はフルートをよく吹いてた。

お父さんは具体的にどんな音楽を好んでいたんですか?

イグルー:最近だとソフィーを聴いてる(笑)。もう60代なのにね[*質者も60代であるが、それを言うと話が違う方向に行きそうだったのでそのまま流しました]。でも、それくらい父親は昔からオープンマインドなんだ。ぼくが子供の頃は、ヘビメタも聴いていたし、エレクトロニック・ミュージックも聴いてたよ。KLFとかね。それ以外にも本当に幅広くいろんな音楽を聴いてたね。

お父さんはレイヴに行ったりしてたんですか?

イグルー:いや、それはあまり。レイヴに行くにはちょっと歳をとっていたと思う[*ということは質者よりも年上ですかね]。でも、行ってはいなかったけどそういった音楽に興味は持っていたし、レイヴ・カルチャーが起きたことをとても嬉しく思っていたよ。

なかなかユニークな家庭環境だったんですね。いつから音楽を作りはじめたんですか?

イグルー:子供の頃からずっと音楽をやりたいとは思っていたんだ。でも、ギターを習いはじめたんだけどうまくできなかった。不器用で、一生懸命やっても上手く弾けなくて。ドラムにも挑戦したけど同じ。身体を動かして奏でる楽器がぼくには向いてなかったらしい。で、9歳か10歳のときにコンピュータを手に入れたんだけど、身体を動かさなくてもコンピュータで音楽を作れることがわかって、それで音楽を作りはじめたんだ。そっちの作り方のほうがぼくにとってはすごく自然だった。

最初に作ろうとした音楽はスタイルで言うと何ですか? ヒップホップ? テクノ?

イグルー:実はガバみたいな音楽を作っていたんだ。昔のスタイルのDAWソフトを使って、とにかくすごく速いブレイクビートを作っていた。出来は最悪だったけど(笑)。でも、それを10歳くらいのときにはマイスペースにあげたりしてたよ。

あなたが15 歳のときにフライローにデモテープを渡した話は有名です。やっぱ最初に影響を受けたのはフライローだったんですか?

イグルー:確実にそう。初めて彼のアルバム『Cosmogramma』を聴いたときは、これはぼくにとって本当に重要な音楽的瞬間だと感じた。あんなに速くて複雑なのに、同時に聴いていたあそこまで楽しい音楽を聴いたのはあのときが初めてだった。

それは何歳のとき?

イグルー:たぶん18歳だったと思う。

自分の作品を公に出したのは、2013年出したカセット作品が最初になるんですか?

イグルー:そうだと思う。当時はまだ自分の声というものが確立されてなかったから、フライローのコピーみたいな感じだったけどね(笑)。でも〈Brainfeeder〉に自分の作品を送るころまでにはそれも変化して、もっと自分らしいものを作れていたと思う。

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初めてフライローの『コスモグランマ』を聴いたときは、これはぼくにとって本当に重要な音楽的瞬間だと感じた。

UKのミュージシャンで好きだった人はいなかったんですか?

イグルー:2013年……あのことのぼくは、LAのアーティストの音楽ばかりを聴いていたんだ。たぶん、UKのシーンから離れすぎていたからかも。イギリスにもクールな音楽がたくさんあることを知らなくて、それに気づいたのはもう少し後になってからなんだよ。気づいてからは、そのユニークさがぼくの音楽作りの大きな助けになったと思うけど。

『Cosmogramma』の時代は、UKではUKガラージがあって、ダブステップがあって、ベリアルみたいな人も出てきて、アンダーグランドでまた新しい動きが出てきたときでした。

イグルー:たぶん、ぼくはちょっと若すぎたんだと思う[*1996年生まれの彼は、2010年は日本でいう中学生]。まだ学生だったし、世代があってなかった。〈プラスチック・ピープル〉もそうだし、そういった音楽や動きに関しては、もっと後になってから知ったんだ。

ちなみに、ぼくがあなたの音楽を聴いたのは2019年の『XYZ』が最初でした。bandcampで、デジタル+CDを購入したんですが、送られてきたCDはチャックの付いたビニールの袋に入っていて、あれって、もろDIY的な手作業でやったんだろうなと(笑)。

イグルー:本当にそう(笑)。

自分のなかで最初に納得がいった作品は何でしたか?

イグルー:〈Brainfeeder〉からリリースされた最初のEP「Chinese Nu Yr」かな。初めてファンとしての視点以上の音楽を作ることができたと思えた。それまでは、自分が好きな音楽があって、そのサウンドを自分でも作ってみたいと思って作品を作っていた。でもあのEPのときは、自分の世界観みたいなものを作品を通して表現することができたと実感できたんだ。

あなたの音楽はいろいろな要素が混ざっていますよね。自分の音楽のコンセプトをどう考えていますか?

イグルー:ぼくにとって大切なのは音楽とヴィジュアルを結びつけること。ぼくにとってヴィジュアルは音楽と同じくらい大切だし、作っていて楽しいものなんだ。だからいろいろ実験してみるんだよ。ジャケ写にこのイメージを使ったら音楽がどう感じられるだろう、とかね。イメージによって感じ方も変わると思うから。その逆もあるし。ぼくにとってはそのふたつは強くリンクしているんだ。

最新作『Tidal Memory Exo』は大好きで、今年のベストな作品のひとつです。

イグルー:ありがとう。

でも最初聴いたときには動揺したんですよね。音楽もヴィジュアルも、それまでのあなたの「カワイイ」[*通訳の原口さんがこれを“キュート”と訳されたのを聞いて、「いや、違うんです」と言おうかと思ったが、話が面倒になるので止めました]がない。おそらくファンも、なぜイグルーは「カワイイ」を捨てたんだ!? と思ったことでしょうね(笑)。

イグルー:(笑)今回作品を作っているときに住んでいた場所が、イギリスのマーゲートっていう場所だったんだけど、すごく暗い場所で、空がいつも灰色だったんだ。雨もずっと降っていたし、近くに海もあるけど、水は茶色だし、ぜんぜん綺麗な海じゃなくて(笑)。その環境のなかでイマジネーションを働かせて生まれたストーリーが反映されたからだと思う。あの環境の影響は大きかった。

いまイギリスはかなり悲惨な場所だと思うし、どんどん寂しい孤立した場所になってきてしまっている。その様子は、間違いなく今回の作品に反映されていると思うね。ぼくの音楽も、どんどんダークになってきているから。

〈Brainfeeder〉時代の数年間、あなたは帽子を被った「kawaii」アイコンをヴィジュアルにして、作品にもドリーミーなフィーリングがあった。いま振り返って、あの当時のあなたがやろうとしていたことは何だったのでしょうか? 

イグルー:あれは、子供の頃に目にしていたメディアの影響が強かったんだと思う。インスピレーションは間違いなくそれ。子供の頃は毎日のようにテレビで「ムーミン」を観て、日本ではあまり人気がなかったであろうマイナーなアニメなんかも早朝の時間帯に放送されていたんだよ。ぼくは、そのイメージを複雑なストーリーラインと組み合わせて表現するのが好きだったんだよね。見た目はかわいくてシンプルなのに実は秘密がある、みたいな。あのイメージの影には宗教的なストーリーのような複雑なストーリーが隠れている。それをデジタルで表現してラップトップのなかで命を与える、みたいなことをやりたかったんだ。

その「カワイイ」路線は2010年代からずっと続いていました。それはそれですごく良かったし、ぼくは2021年の『Neō Wax Bloom』だって大好きですが、新作を聴いたときは、あなたの内面で何か起こったのか!? と思いました(笑)。

イグルー:最初にキャリアをスタートさせた頃は、最初のアイディアにとらわれてしまっていた部分があると思う。しばらくは、その同じアイディアをこのまま広げ続けないといけないのかなと考えていた時期もあった。でも本心は、リリースするレコード全てで新しい世界を表現して、まったく異なる作品を作りたいと思っていたんだ。でも、前はそうやって作品を分けるということが少し怖かった。でもいまは、気持ち的にそれができるようになったし、自分にとってすごく新鮮なんだ。やっていてすごく心地いいしね。

今回のアルバムは、不法占拠して、不法のパーティがあって、不法のラジオがあって、ゴミや廃品が流れ着いたような場所から発信する、みたいなストーリーがあるけれど、そこには何か政治的な意味はあるんですか?

イグルー:それを敢えて意識したわけではないんだけど、もしかした政治と繋がっている部分もあるかもしれない。解釈はリスナーのみんなに任せたいからあまり詳しくは言わないけど、自分が住んでいた街があまり綺麗な場所じゃなかったんだよね。汚くて重苦しい感じでさ。例えば、水も汚染でいっぱいだったり。説明するのは複雑だから省くけど、そこにはブレグジットも関係していたりするんだ。いまイギリスはかなり悲惨な場所だと思うし、どんどん寂しい孤立した場所になってきてしまっている。その様子は、間違いなく今回の作品に反映されていると思うね。ぼくの音楽も、どんどんダークになってきているから。

これは質問ではなく感想なんだけど、最後の曲“Geo Sprite Exo”がとくに好きです。あのトラックは本当にすごいと思います。

イグルー:ありがとう。

今回のアルバムが〈LuckyMe〉からリリースされることになった経緯を教えてください。

イグルー:〈LuckyMe〉は元々ぼくが大好きなレーベルだったんだ。ぼくは、あのレーベルは本当に特別だと思っている。自分が発見していいなと思うエレクトロニック・ミュージックには必ず〈LuckyMe〉が関わっているし、エレクトロに限らず、それ以外の音楽にも影響を与えているレーベルだと思うから。

自分からアプローチしたんですか?

イグルー:お互いって感じかな。ぼくも最初に持っていたアイディアを彼らに見せて、彼らもすでにぼくのこれまでの作品を気に入ってくれていたからね。

日本に来たとき、J-PopのCDを買っていますか?

イグルー:うん。今回もミニ・カラオケCDを買ったよ(笑)。名前はわからないけど、グラフィックデザインが好みだった。子供の歌なんかも好きなんだ。イギリスでは絶対見つけられないような作品を買うのが好きなんだ。そういう作品はインスピレーションを与えてくれるから。

去る5月、ロレイン・ジェイムズが来日した際に彼女と少しだけ喋って、最近でお気に入りのアルバムは何? って聴いたら、あなたの作品を挙げてたんだよね。

イグルー:(嬉しそうに)クレイジーだね。ぼくも彼女の音楽が大好き。彼女は天才だと思う。

彼女も東京に来ると必ず渋谷のタワレコで日本の音楽を買うんです。

イグルー:そうなんだね。

次の作品はどこからいつでるか決まってるんですか?

イグルー:いま作っているところなんだけど、今回の滞在でもインスピレーションをもらって、それを新しい作品に反映させられたらなと思っているんだ。クレイジーに聞こえると思うけど、日本の建築現場にすごくインスパイアされて(笑)。乗り物がイギリスと違うんだよ。あの乗り物の名前ってなんだっけ? ショベルカーだ(笑)。日本のショベルカーの見た目が本当に好きなんだ。その見た目を音にしてみたいんだ。馬鹿げてると思われるかもしれないけど(笑)。

(笑)それはシングル?

イグルー:リリースするならEPとしてかな。レーベルはまだ決まってないけど。

以上です。どうも、お時間ありがとうございました。残りの滞在を楽しんでってください。

イグルー:こちらこそありがとう。


 対面取材はやはりいい。その人の雰囲気を知ることができる。イグルーは「カワイイ」人だったし、とても優しそうな人に思えた。それがいちばんの収穫だ。ぼくは彼と話して、ますますファンになった。よし、これからもイグルーゴーストを聴くぞ。

イグルーゴーストの『Tidal Memory Exo』は、最近ヴァイナル盤もリリースされた。

Dennis Bovell - ele-king

 UKレゲエにおけるイノヴェイター、デニス・ボーヴェル。ジャマイカと同じく、旧イギリス植民地、西インド諸島の西の端にある珊瑚礁の島、バルバトスにて1953年に生まれ、1965年に家族の移住とともに12歳のときに彼はサウス・ロンドンの地に降り立った。いわゆる非ジャマイカのカリブ系の「ウィンドラッシュ世代」であり、デニスが音楽を手がけた、UKブラックの若者とサウンドシステム・カルチャーを描いた映画『バビロン』の主人公たちとほぼ同じか、もしくは少しだけ上の世代と言えるだろう。1971年にバンド、マトゥンビを結成し、来英するジャマイカン・アーティストやディージェイのバックを務めつつ、自らの楽曲も発表、UKレゲエの礎を作っていくことになるのだが、もうひとつ彼の重要な活動の場としてサウンドシステムの運営があった。今回、本稿のテーマとなる、〈Warp〉傘下の〈Diciples〉からリリースされる、彼の1976年から1980年の作品をまとめた『Sufferer Sounds』は、彼が運営していたJah Sufferer Soundsystemからとられている(「Sufferer」とは植民地・人種主義の文字通り「受難者」として、ジャマイカのゲットーの人びとが自らを呼ぶ言い方だ)。
 彼は1970年代初頭よりJah Suffererを運営しつつ、マトゥンビとは別にさまざまな音源制作も手がけていく。まずは自身が活動するサウンドシステムの “スペシャル” の需要がありつつ、彼の場合、1970年代の後半に関わったマテリアルの数々を考えると、それだけに留まらない猛烈な創作意欲が垣間見られる。その原動力のひとつに、「UKのレゲエ」を地元UKのシーンに認めさせるというものがあったようだ。当時のUKのサウンドシステムで重宝されていたのは「本場」ジャマイカのレゲエであって、彼らが欲しがっていたのはジャマイカの名プロデューサーたちがUKに持ち込むダブプレート(未発表、もしくは特別な別ミックスのテスト・プレス盤、ないしはそのマスター・テープ)だった。こうした状況のなかで、彼はさまざまなサウンドを試し、ダブ・ミックスの技を、そしてさまざまな音楽に対するアイディアを磨き、当時シーンに自分たちの力量を認めさせていった。そのなかのひとつにラヴァーズ・ロック・レゲエ=ミリタントなレベル・ミュージックではなく、ラヴ・ソング中心のポップな流行歌としてのレゲエもあると言えるだろう。
 また彼の通り名とも言えるブラックベアード、4thストリート・オーケストラや『Sufferer Sounds』にも収録されているアフリカン・ストーンなど、匿名性の高い名義を使い、場合によってはあえて海外でプレスし逆輸入、ジャマイカ盤のようにいわゆるドーナッツ盤(センターホールがラージホールになっている)にするために、わざわざカッティング・マシンで穴まであけて、あたかもジャマイカのアーティスト、盤であるかのように偽装までしていた。また彼は基本的にはベーシストとして知られているが、じつはギター、ドラム、キーボードを操るマルチ・インストルメンタリストでもあって、レコーディング・エンジニアとして多重録音で楽曲を制作、さらにそれをダブ・ミックス、ときにはそうしてできた音源を、自身のシステムでその晩にプレイするためにダブプレートのカッティングすらした。おそらくセッション・ミュージシャン費を浮かせたい意図もあったとは思うが、演奏のニュアンスからアレンジからコントロールする狙いもあったのではないだろうか。
 本国ジャマイカのダブ音源は基本的に歌入りのオリジナル・ヴァージョンの、演奏家の意志がほぼ介在しないリミックス・ヴァージョンであったが、デニスの場合は、純然たるダブ・ヴァージョンのためのレコーディングもおこなっていた。アレンジからダブ・ミックスありきで作られることもあったのではないだろうか、そこからまさに特別な、キラーなダブが生まれたことは想像に容易い。ちなみに、こうした『Sufferer Sounds』で見られるデニスの仕事のなかから、ダブの手法が極まった作品として、1980年の2枚のダブ・アルバムをあげておこう。UKで初めてダブ・アルバムを流通させたウィンストン・エドワーズ(ジョー・ギブスのいとこ)のレーベルからリリースされた、オーソドックスなレゲエのリズムながら手数の多いダブ・エフェクトが楽しめる『Winston Edwards & Blackbeard At 10 Downing Street - Dub Conference』と、さまざまな音響的な仕掛けや演奏も含めて、単なるダブ・アルバムから一歩踏み込んでダブを表現として昇華させた『I Wah Dub』の2枚だ。
 ロイド・ブラッドリー『ベース・カルチャー』に掲載されているインタヴュー(「16 : 俺たちのルーツ」収録)によれば、デニスはある種のフォーマット化されたジャマイカのリズム(バニー・リーのフライング・シンバル~ロッカーズ・スタイル、スライ&ロビーによるステッパーなど)をはねのけるUK独自のリズムの創出を目指しもした。そのひとつが、その後、ラヴァーズ・ロック・レゲエの代名詞ともなるジャネット・ケイの “Silly Games” のリズム・デリヴァーだという。アスワドのアンガス・ゲイをドラマーとして起用し、ハイハットとスネアがエレガントに進む、デニス言うところの「スティックラー(こちょこちょくすぐる)・リズム」(上記インタヴューにて発言)は、たしかに大きくジャマイカのリズムを変えるまではいかなかったが、UK生まれの独特のレゲエのスタイルとしてのラヴァーズ・ロック・レゲエの最大のヒット曲となり、代表曲となった(『Sufferer Sounds』には、アンガスのジェントルなタッチのドラムも堪能できる未発表のダブ “Game Of Dubs” が収録されている)。

 1970年代のこうした彼のサウンドに対するトータル・プロデュースとアンダーグラウンド・サウンドシステム・シーンの実験は、演奏が人力である点を除けば、そのまま現在のダブステップ・アーティストがDAWでやっていることとあまり大差がないことがわかるだろう。『Sufferer Sounds』は、まさにこうした地下の先鋭的な音楽の実験のドキュメンタリーとなっている(デニス本人が語っているライナーノーツも必読だ)。1970年末になるとこうしたサウンドの実験とその手腕が、LKJとの共闘などUKレゲエ・シーンの重要作を経て、ジャンル外の人びとにも注目され、ザ・スリッツやザ・ポップ・グループ、さらには坂本龍一の作品などを手がけることになり、国際的な評価にもつながっていく。
 そういえば、デニス・ボーヴェルのコンピが〈Disciples〉からというのは以外な感覚もしたが、レゲエ史というよりも、ダブをひとつ、現在につづくエレクトロニック・ミュージックの手法とすれば、つまりUKのアンダーグラウンドに存在したある種のエレクトロニック・ミュージックの埋もれていた重要な実験であり、そう考えればこれまでのレーベルの方向性とも合致すると合点がいく。

和音を刻む手 - ele-king

坂本といえば、少年時代に出会ったドビュッシーとラヴェルを敬愛し続けた音楽家として知られており、坂本自身もこの2人の影響を折に触れて語ってきた。だが、 “Asience-fast-piano” は違う。この曲には、坂本がドビュッシーやラヴェルを通して習得し、彼独自の和声語法のひとつへと昇華した、くぐもったような和音の響きがほとんど感じられない。


Ryuichi Sakamoto
/04 /05

ワーナーミュージック・ジャパン

Amazon Tower HMV

 坂本龍一の2枚のセルフカヴァー・アルバム——2004年発売の『/04』と2005年発売の『/05』——が2枚組リマスター盤『/04 /05』として再発されることになった。2枚とも坂本のピアノ曲のベスト盤ともいえるのだが、全ての収録曲が坂本自身によって再構成されており、ほとんどの収録曲はオリジナルの楽曲とはすっかり別の新しい音楽に生まれ変わっている。ピアノを主柱としているものの、この2枚のアルバムは性格がやや異なる。
  『/04』は坂本によるピアノ独奏だけでなく、チェロの藤原真里(『Undercooled-acoustica』、 “Tamago 2004” )、同じくチェロのジャキス・モレレンバウム( “Bibo no Aozora” )、尺八の藤原道山( “Seven Samurai – ending theme” )らとのコラボレーションも交えた構成となっており、ピアノを中心としたアンサンブルや室内楽の可能性を感じさせる。
 多重録音を駆使して全演奏を坂本ひとりが担っている『/05』は、『/04』と比べると内向的な印象を与えるかもしれないが、この状況を究極の自己完結性とも言いかえることができるだろう。

【参考映像】『/04』2004年発売時のメイキング映像
ここで坂本は「こういう曲はピアノではできないと思っていたものも、あえて挑戦してとりあげているんですよね」と語っている。

 本稿では、楽曲の内容や作曲技法のみならず、演奏も含めた広い概念として坂本のピアノ曲を捉えたいので、 “ピアノ音楽” という言葉を使うことにした。
 坂本のピアノ音楽の特徴をじっくり考えてみようと、アルバム2枚をまずは1曲ずつ収録順に聴いてみた。決して大げさな表現ではなく、『/04』の1曲目“Asience-fast-piano”に筆者は強い衝撃を受けた。2003年にシャンプーのテレビCMのために書き下ろされたこの曲を覚えている人も多いだろう。当時、CMで流れていたのは、『/04』のボーナス・トラックとして収録された鮮やかなオーケストレーションを特徴とするオリジナル版だった。この曲のピアノ版では、輪郭のはっきりした下行形の跳躍モティーフで始まるメロディを右手が弾き、そこに左手が伴奏として和音を刻む。中間部では、新たなモティーフが高音域と低音域で呼び交わし合い、その後、東南アジアのどこかの地域(それは想像上の場所かもしれないが)の音階を思わせるパッセージで冒頭のメロディへと戻って曲が締めくくられる。シャンプーのCMということもあってなのか、清潔感さえ漂わせる、この簡潔で清々しい小曲に筆者は本当に驚愕してしまった。これはこんなにすごい曲だったのかと、ピアノ版で思い知らされたのだった。
 坂本といえば、少年時代に出会ったドビュッシーとラヴェルを敬愛し続けた音楽家として知られており、坂本自身もこの2人の影響を折に触れて語ってきた。だが、 “Asience-fast-piano” は違う。この曲には、坂本がドビュッシーやラヴェルを通して習得し、彼独自の和声語法のひとつへと昇華した、くぐもったような和音の響きがほとんど感じられない。フランス近現代音楽とは明らかに異なる、この曲の明瞭さはどこに由来するのだろうか。そこで筆者の頭に浮かんだのがモーツァルトだ。幼い頃からクラシック音楽の技法、理論、歴史を身につけてきた坂本にとってのモーツァルトの存在は、当然、通っておくべき教養であり、バッハやベートーヴェンと並んで、身近な作曲家だったはずだ。また、これは坂本に限らず、いわゆるクラシック音楽を体系的に学んだことのある人ならば、今も昔も誰もが通る道だろう。
 聴き手にまっすぐに飛び込んでくる晴朗な旋律は “Asience-fast-piano” の 「モーツァルト感」を特徴付ける要素だが、左手による和音の連打も看過できない。たとえば、モーツァルトの “ディヴェルティメント ニ長調 K136” (1772)は弦楽四重奏曲なのでピアノの音色ではないが、第1楽章の明るい旋律と小気味よく刻まれる和音は、 “Asience-fast-piano” の華やかさとどこかで繋がっているようにも思える。
 過去に、坂本はモーツァルトについて、 「かなり弾かされたし、聴いてもいるし、自分のなかにずいぶん入ってはいますけどね。でも扱いにくい人ですよね、モーツァルトは」(『コモンズ:スコラ 音楽の学校 第18巻 ピアノへの旅』アルテスパブリッシング、2021年、123頁。)と発言している。この発言の背景を詳述すると、音楽の訓練の痕跡が見つからないにもかかわらず、モーツァルトの音楽は全てが最初から完結していることと、彼のピアノ曲を完璧に弾くのは限りなく不可能なこと(同前、123-124頁)から、坂本はモーツァルトを 「扱いにくい人」と言ったのだった。この発言をふまえると、坂本のピアノ音楽を語る際にモーツァルトを持ち出すのは無謀にも思えるが、それでもやはり、彼のピアノ曲における和音の連打を聴くと、モーツァルトのいくつかの楽曲を連想せざるを得ない。
 映画『ラストエンペラー』の音楽として書かれた、『/04』5曲目の “Rain” も和音の連打が効果的に用いられている。皇帝溥儀の第二皇妃、文繡は決然とした口調で 「I want a divorce(私は離婚したいのです)」と溥儀に訴え(この時、溥儀は彼女にまともに取り合っていない様子だが)、召使いが差し出した傘を晴れやかな顔で断り、降りしきる雨の中、彼のもとを去って行く。 “Rain” はこの緊迫したシーンそのものだと言ってもよいくらい、ここで起きる出来事や人物の機微を見事に捉えている。劇中でのオリジナル版ではシンセサイザーの短い前奏の後に、高音域の弦楽が端正なメロディを奏で、低音域の弦楽が和音をすばやく刻む。この緊張感はもちろんピアノ版でも変わらない。粒の揃った硬質なタッチで連打される和音がただならぬ雰囲気を放ち、聴き手を音楽に引き込む。そして、ここでまたもモーツァルトが思い出される。 “ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K310” (1778)(『新モーツァルト全集』以降は第9番に変更された)の第1楽章は、モーツァルトのピアノ・ソナタには珍しい短調だ。第1楽章の冒頭、右手のメロディと左手の和音の激しい連打のぶつかり合いは “Rain” の緊張感に通じるものがある。このソナタに限らず、私たちはモーツァルトの短調の曲に特別な意味を持たせようとしてきた。古くは小林秀雄が 「モオツァルト」(1946)の中で、 “弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K516” (1787)を 「モーツァルトのかなしさは疾走する」と評した。 “Rain” から感じるのは悲哀だけではなくて、新たな世界に対する期待や高揚感も含まれるが、いずれにせよ、短調の和音が決然と連打されることによる音楽的、心理的な効果ははかり知れない。

【参考映像】
本文中で言及したモーツァルトの3曲。 「和音の連打」やモーツァルトの「かなしさ」が何を指すのかを実際に聴いてみてほしい。

モーツァルト “ディヴェルティメント ニ長調 K136” 第1楽章

モーツァルト “ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K310” 第1楽章

モーツァルト “弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K516” 第1楽章

ピアノの弦の間にボルトやゴムなどを挟んで、ピアノの本来の音色を変化させるプリペアド・ピアノにも坂本は積極的だった。『/04』8曲目 “Riot in Lagos” でのプリペアド・ピアノは打楽器的な用法に徹している。一方、『/05』最後の “Rainforest” でのプリペアド・ピアノは、ピアノを楽器という枠組みから解放し、単なる物体と捉えて様々な音を出している。音を発する物体と、音そのものへの関心は2017年のアルバム『async』につながった。

 坂本とモーツァルトを並べてみたところ、実は和音の連打が坂本のピアノ音楽にとって重要な役割を持っているのではないか。そんな仮説さえ成立しそうだ。拍に合わせて和音を規則的に刻む方法はとてもシンプルだが、打鍵の強さやテンポ次第で音楽は様々な表情を見せるだけでなく、リズムを担う低音部や打楽器セクションの効果も期待できる。和音の連打はピアノ音楽の表現の幅を広げていると同時に、坂本のピアノ演奏のスタイルを特徴付けているようにも感じられる。先に紹介した2曲の他に、『/04』と『/05』のいくつかの楽曲においても、和音の連打が効果的に用いられている。
 『/04』4曲目 “Merry Christmas Mr. Lawrence” では、後半に差しかかると、1拍目にアクセントを付けた和音の連打が聴こえてくる。それまでのゆったりとした曲調が一転し、あのなじみ深いメロディがどこかへ向かっているような感覚を得る。多重録音のピアノにのせて坂本自らが歌う5曲目 “Perspective” の和音の連打は、内省的で落ち着いた雰囲気を揺さぶるような効果をもたらす。冒頭のメロディがとても有名な『/05』4曲目 “Energy Flow” では、古典舞曲のような中間部を経て、もとのメロディに戻った時に、高音域での和音の連打が出てくる。これら3曲の和音の連打にはモーツァルトの音楽に感じる悲哀はなく、曲全体の均質性に対する変化や刺激としての役割を持っている。
 『/05』3曲目 “Amore” のオリジナルは1989年のアルバム『Beauty』に収録されている。オリジナルではアート・リンゼイとユッスー・ンドゥールが参加して賑やかな音楽に仕上がっているが、ピアノ版では右手がメロディを弾き、左手が柔らかで控えめな打鍵で和音を鳴らしている。メロディもコード進行も同じはずなのに、2つのヴァージョンはまるで別の曲のように聴こえる。
 『/05』7曲目の “Happy End” は “Amore” 以上にオリジナルと乖離している。この曲は1981年にシングル “Front Line” のカップリングとして発表され、同年のYMOのアルバム『BGM』にも別のアレンジで収録されている。1981年のYMOのウィンター・ライブでもこの曲は演奏された。これら3つを聴き比べるだけでも十分に面白いのだが(この中では『BGM』ヴァージョンが最も抽象的だ)、『/05』では4台ピアノ版に再構成されている。整ったメロディ+規則正しく刻まれる和音+これらを支える低音の明瞭な構造は、バロック時代の古典組曲のひとつ、ガヴォット(2拍子系の中庸なテンポの舞曲)を想起させる。筆者はこのピアノ4台版を聴いて、この曲の全貌がようやくわかった。また、この曲は坂本の最後となった演奏を記録したコンサート映画『Opus』(2023)でも演奏されている。ここでの演奏では和音の連打は消え、ガヴォットから荘重な足取りのパヴァーヌ(2拍子系の厳かな舞曲)へと変貌を遂げている。
 『/05』6曲目 “The Last Emperor” と10曲目 “The Sheltering Sky” はどちらも映画のテーマ曲としてオーケストラ編成で書かれた。この2曲のピアノ版でも和音の連打が登場する。 “The Last Emperor” では、メイン・テーマが終わって中間部に移ると、和音は音域を低くしていき、最後にはトレモロをダイナミックに奏でる。 “The Sheltering Sky” はシンプルに右手の高音域でのメロディに左手が和音で伴奏をつけるシンプルな構成だが、 “The Last Emperor” と同じく、曲が進むにつれて左手の音域が低くなり、和音よりもさらに劇的な効果を生むトレモロを経て、静かに幕を閉じる。
 以上が『/04』と『/05』に聴くことのできる、坂本による和音の打鍵の数々だ。ここでは、あえて音の響きではなくて、音のアタックに着目して彼のピアノ音楽を紐解いてみた。もちろん、彼のピアノ曲と演奏には他の多種多様な要素が複雑に絡み合っている。たとえば、『/04』3曲目の “+33” にミニマル・ミュージックとのつながりを見出すこともできる。また、YMOをよく知っている人なら、この曲にYMOの映画『プロパガンダ』(1984)の最後を飾った “M16” を思い出して懐かしい気持ちになるかもしれない。『/05』5曲目の “Aqua” と9曲目 “Fountain” は水の音楽だ。水をテーマにした曲をいくつも遺したドビュッシーやラヴェルに限らず、水は古今東西の音楽家に大きなインスピレーションを与え続けており、坂本もその例外ではなかった。2009年のアルバム『out of noise』の中で、坂本がハンディ・レコーダーや水中マイクを使って採取した北極圏の様々な音を聴くことができる。
 ピアノの弦の間にボルトやゴムなどを挟んで、ピアノの本来の音色を変化させるプリペアド・ピアノにも坂本は積極的だった。『/04』8曲目 “Riot in Lagos” でのプリペアド・ピアノは打楽器的な用法に徹している。一方、『/05』最後の “Rainforest” でのプリペアド・ピアノは、ピアノを楽器という枠組みから解放し、単なる物体と捉えて様々な音を出している。音を発する物体と、音そのものへの関心は2017年のアルバム『async』につながった。

 『/04』と『/05』2枚組リマスター盤発売に合わせて、このアルバムのスコアブック(楽譜集)も発売される。作曲家と演奏家の分業化が進んだ現在、自作曲の演奏をこれほど多く残している音楽家は坂本の他になかなかいないのではないだろうか。自分の曲を弾くことについて、坂本は 「十年一日というか三十年一日のごとく同じように弾くのは嫌なので、なんとか違う新鮮な弾き方がないものかと、いつも頭の中で考えてはいるんですけれど、なかなかないんですね、これが」(『コモンズ:スコラ 音楽の学校 第18巻 ピアノへの旅』91頁。)と言っている。だが、この発言に続けて、10年くらいのスパンで弾き方、和音、テンポが変わっていることもあり、たまに伴奏の仕方を変えてみるとも述べている(同前、91頁)。自作曲を自分で書いた楽譜通りに演奏することにこだわり、自分の曲を完全に客観的に捉えてピアノを弾くフィリップ・グラスと違い、坂本にとってのピアノ演奏は、自分の創作の足跡を確認し、そこから新たな可能性を発見する大事な作業だったのかもしれない。

■坂本龍一『/04 /05』はワーナーミュージック・ジャパンから12月18日発売。また、大規模なインスタレーション展『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』(https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/)は東京都現代美術館にて2024年12月21日から。



Ryuichi Sakamoto
/04 /05

ワーナーミュージック・ジャパン

Albert Karch & Gareth Quinn Redmond - ele-king

 ピアノ、電子音、打楽器。それらが織りなす静寂な音楽・音響空間、もしくはアンビエント・スペース。本作『Warszawa』を簡単に言い表すとそういう作品になるだろう。最初に断言してしまうが静謐な音響作品を好む方なら本作は間違いなく気に入るはずだ。

 『Warszawa』は、ポーランドのプロデューサー、 マルチ・インストゥルメンタリスト、サウンド・エンジニアのアルベルト・カルフとアイルランドのアンビエント・アーティストのガレス・クイン・レドモンドのふたりによって制作された。
 ガレス・クイン・レドモンドはアンビエント・アーティストとしても2019年の『Laistigh Den Ghleo』以来、〈WRWTFWW〉の中心的アーティストとして活動を繰り広げてきた。彼は、日本の伝説的な環境音楽家・芦川聡の研究家としても知られている。一方、アルベルト・カルフは青葉市子との共演経験もあるエンジニアにして音楽家だ。
 その意味でふたりとも日本の音楽家に近しいともいえる。何より「静寂」への意識が日本の環境音楽に近いともいえる。本作のピアノと電子音・ノイズの沈黙と静寂のアンサンブルにも、芦川をはじめとする日本の環境音楽からの影響を感じることができるはず。「間」の感覚とでもいうべきか。静寂すら聴かせる感覚とでもいうべきか。
 じっさい『Warszawa』と共に芦川聡の『STILL WAY - WAVE NOTATION 2』を聴くと、まるで50年近い歳月を隔てた双子のような音楽に聴こえてくるから不思議だ。ちなみに本アルバムには “For Ashikawa” という曲も収録されている。
 いっぽうトーク・トークのマーク・ホリスからの影響も反映しているという。トーク・トークのアルバムでは『Laughing Stock』(1991)か、もしくはトーク・トーク解散後に唯一発表されたマーク・ホリスのソロ・アルバム『Mark Hollis』(1997)あたりだろうか。この二作に微かに満ちている「静寂の感覚」は、『Warszawa』に遠く継承されているように思う。とはいえ『Warszawa』はヴォーカル・アルバムではないので、楽器演奏と、その音楽の「間」にある「サイレンスの感覚」と品の良い「キーボード/ピアノの音色の感覚」を継承したというべきかもしれない。
 これらと『Warszawa』を続けて聴くと驚くほどに違和感がない。『Warszawa』は、明らかに最新の機材を用いたサウンドによるアルバムである。電子音の低音の響きなど驚くほど。しかしそれでも80年代や90年代の音楽と通じる「響きの感覚」があるのだ。大切なのはそれだ。これはやはりアルベルト・カルフとガレス・クイン・レドモンドのふたりが音楽を深く愛しているからではないかと思う。音楽の本質をわかっているからというべきか。

 『Warszawa』には全6曲が収録されている。そのどれもが音楽と沈黙のアンサンブルとでもいうべきサウンドスケープを展開している。ここにあるのは沈黙と沈静の美学とでもいうべきものだ。どの曲も美しい「沈黙」に満ちている。そして「沈黙」は静寂を打ち破る音の力によって美しさが際立つ。『Warszawa』において沈黙を際立たせる音は、まずピアノである。
 1曲目 “Ajar” において美しいピアノの音が響く。残響が微かに鳴り、そして消え去る。その果てにあるサイレンス。音はまるで暗闇のなかの歩みのように鳴り続けるだろう。そして静かに演奏される打楽器もまるで環境音のように微かに鳴り響く。なんという絶妙かつ繊細な音響設計か。もしも坂本龍一が存命なら本作をどう聴いただろう? とつい思ってしまう。
 2曲目 “Palette” は弦の刻みに、雨音のようなピアノが折り重なる。そこ微細なノイズがが重なる。現代音楽的ムードの曲だが、無調がもたらす不穏感よりも不思議な安心感がある。ほんの少しだけ打たれる低音も見事さ。ピアノの音色の美しさ。
 3曲目 “A Life (1955-2019) ” ではこれまで微かに鳴っていた打楽器(ドラムセット)が全面化する。きちんとした反復で打たれるリズム(ハイハットも)に、ピアノのアルペジオによるループが演奏される。これまでの2曲とは異なる明らかに「強い」曲だが、静謐なムードは壊されることはない。打楽器とピアノの向こうに鳴る透明な霧のような電子音とのレイヤーも実に見事だ。
 4曲目 “For Ashikawa” はその名のとおり芦川聡へのトリビュート曲だろう。『Still Way (Wave Notation 2) 』という環境音楽史に残る名盤を1982年に発表した翌年、30歳の若さで芦川は世を去った。彼は「静止した瞬間を列ねたような音楽」と語ったようだが、この曲はそんな芦川の音楽性にもっとも近い楽曲といえる。ミニマルな旋律のピアノの音列は、音を鳴らすその場の空気をも透明にしてくれるように美しい。
 5曲目 “251536” は本アルバム中、もっとも電子音響的なサウンドスケープの曲だ。ドローン的な電子音響がいくつも折り重なり、そこに小さな打楽器音が重なる。静謐な音響作品だが、その音響設計は実に見事に思える。高音から低音まですべての音が綺麗に鳴っているのだ。アルバム中、サイレンス・沈黙の感覚をもっとも表現している楽曲に思えた。
 6曲目 “Warszawa” では再びピアノ、そしてシンバルの音が鳴る。小さく刻まれるリズムとリズムを崩すかのようなピアノ。そして曲の中盤においてピアノもシンバルも消えてドローンのみが静かに鳴り響く。そして静かに音楽は消失するだろう。音楽は沈黙へと還っていくかのように。

 静寂のなかにある緊張感。緊張感のむこうに響く音。ピアノ。微かなノイズ、打楽器……。そう、本作『Warszawa』は、楽器と音のアンサンブルとレイヤーによる緊張感と静謐さに満ちた濃密なアンビエント音響作品である。アルベルト・カルフの演奏と音響設計、ガレス・クイン・レドモンドのアンビエント・アーティストとしての力量が見事に交錯した作品といえよう。アンビエント・マニアのみならず、多くの音楽ファンに聴いてほしい傑作といえよう。

特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険

ラ・モンテ・ヤング/アメリカン・ミニマリズム/アフロ・ミニマリズムの故郷、ブルース/JBと「ファンク」という魔法/CAN/ブライアン・イーノにおける「ミニマル」/ポスト・パンクによるミニマルの極限、ワイアー/サン・ラーにおける不規則な反復/アシッド・ハウスが切り開いた「ミニマリズム」の行方/マラリア!からカラ‐リス・カヴァーデイルへ/DJプレミアとJ・ディラ/ババトゥンデ・オラトゥンジ/ヨーロッパの旅、クラフトワークからミカ・ヴァイニオへ/ドリーム・ポップと接続するグリッチ

2024年ベスト・アルバム30発表

菊判218×152/160ページ
*レコード店およびアマゾンでは12月20日(金)に、書店では12月25日(水)に発売となります。

▶刊行のお知らせ:
エレキング年末号は、ジェフ・ミルズの予言通りの “ミニマリズム” 特集です

目次

特集:テリー・ライリーの“In C”、そして、ミニマリズムの冒険

マキシマリズム時代のミニマリズム(野田努)

インタヴュー テリー・ライリーを訪ねて――“In C”誕生60年(高橋智子)
『In C - 60th バースデー・フルムーン・セレブレーション・アット・清水寺』制作話を今作のプロデューサー、中村周市氏に訊く

テリー・ライリー、60年を越えるその歩み――“In C”以外の重要作品(杉田元一)
アメリカン・ミニマリズムの系譜――テリー・ジェニングス、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス(杉田元一)
ラ・モンテ・ヤング――永遠に鳴り続ける始原としてのドローン(松山晋也)
アフロ・ミニマリズム――ブルースにおける反復の文化(緊那羅:デジ・ラ)
「ファンク」は魔法、地球を支配したウィルス(野田努)
カン――いまなお世界中に広がり続けるミニマル・ロックの地下茎(松山晋也)
アンビエントのはじまりにミニマルあり──ブライアン・イーノの呼び水(杉田元一)
パンク・ミニマリズムの究極の境地――ワイアーの探求(イアン・F・マーティン/青木絵美)
サン・ラーの“Rocket Number Nine”に見るミニマルな高揚(野田努)
アシッド・ハウスが切り開いた「ミニマリズム」の行方(野田努)
ヨーロッパの旅――クラフトワークからポスト・パンクを経由してミカ・ヴァイニオへ(野田努)
もうひとつの行き先――マラリア!からカラ‐リス・カヴァーデイルへ(三田格)
ひとかけらの永遠、ヒップホップのミニマリズム──DJプレミア、J・ディラ、アルケミスト(吉田雅史)
アフリカン・ドラムを初めて西欧世界に聞かせたババトゥンデ・オラトゥンジ(三田格)
リスニング術――グリッチからアンビエント/ドリーム・ポップへ(野田努)
Minimal Nation――ミニマリズムのさらなる冒険のご案内(野田努)

非ポストモダン的ミニマリズムに向けて(仲山ひふみ)

2024年ベスト・アルバム30選
2024年ベスト・リイシュー23選
ジャンル別ベスト――テクノ(猪股恭哉) | インディ・ロック(天野龍太郎) | ジャズ(小川充) | ヒップホップ(高橋芳朗) | ハウス(猪股恭哉) | エクスペリメンタル(ジェイムズ・ハッドフィールド/青木絵美) | ポスト・ハイパーポップ(松島広人) | レゲエ/ダブ(河村祐介) | アンビエント(三田格)

2024年わたしのお気に入りベスト10――24名による個人チャート(青木絵美、天野龍太郎、小川充、小山田米呂、Casanova.S、河村祐介、木津毅、緊那羅:Desi La、篠田ミル、柴崎祐二、杉田元一、高橋智子、髙橋勇人、つやちゃん、デンシノオト、橋本徹、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、ジリアン・マーシャル、Mars89、イアン・F・マーティン、松島広人、三田格、吉田雅史)

VINYL GOES AROUND PRESENTS そこにレコードがあるから 第5回 「THE CHANGING SAME」レーベルの節目とレコード文化の未来(水谷聡男×山崎真央)

プロフィール

cover photo by Masaru Tatsuki

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
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SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
 ※書店での発売は12月25日です。
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/戸田書店、ほか
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

Wool & The Pants - ele-king

 ウール&ザ・パンツの登場は希望だった。2010年代の終わり、穏やかなソウルやシティ・ポップ、ニューエイジ、もしくはハイパーポップなどが人気を博していた時代にあって、ファンクやダブ由来の彼(ら)の音楽──不思議な酩酊感をもたらすビートの反復とそのロウな音響は、トレンドやネット文化とは異なるアイディアを試みる音楽家が日本からもまだ登場しうることの証左だった。
 ホルガー・シューカイの曲をもじって “Wool In The Pool” と名づけたり、80年代の狂騒に抗していた数少ない東京のバンド、じゃがたらの魂を “Edo Akemi” で現代に蘇らせてみたり、テーマの面でも彼らは「べつの選択肢」を垣間見せていたように思う。なにせ1曲目が “Bottom Of Tokyo”、東京の底だ。「それまでの生活はひどく貧しくて/わたしの性格もひどく貧しくて」。ほんとうは、こういう音楽にこそ「リアル」という単語が用いられるべきではないだろうか。

 それから6年。ウール&ザ・パンツのセカンド・アルバムは、前作の延長にあるベースやギターの反復にはじまっている。だがこれは焼き直しではない。冒頭 “A Night Without Moonlught” は中盤から闊達な弦を呼びこみ、いくつかの具体音らしき音を招きいれてもいる。このサウンド・コラージュこそ新作の大きな特徴だ。作曲・編曲から演奏、録音、ミックス、マスタリングまですべてを德茂悠がひとりでこなしたという『Not Fun In The Summertime』は、前作同様ファンクやダブ、ヒップホップを一緒くたにして煮詰めたようなアルバムに仕上がっているが、これまで以上に果敢な音響上の冒険が繰り広げられてもいる。
 酩酊感も二割増し、いや三割増しだろうか。きっとうだるような酷暑のなかで制作されたにちがいない。発狂しそうな熱気と湿気に包まれた七月か八月の夜、エアコンなしの狭い安アパートの一室を想起させるファンク・チューン “Not Fun In The Summertime(夏は楽しくなんかない)” では、終盤になるとなにやらあの世からお呼びがかかっているような奇妙なエコーが轟いてくる。え、もしかして俺、死ぬ……?
 独自のダブを楽しませてくれる “熱帯夜” や、途中から乱入してくる謎めいた高音が印象的な “I've Got A Sweeter Song” などは、德茂のリー・ペリー好きな側面がよくあらわれた曲だ。あるいはインストゥルメンタルの “盆” や “ON” のテクスチャーは、個人的には──文脈はまったく異なるけれど──『Glaqjo Xaacsso』や『Estoile Naiant』のころまでのパテンが鳴らしていたロウファイ・ポスト・チルウェイヴ・IDMとでも呼ぶべきサウンドと通じるところがあるように感じられた。

 ロウファイとはたんに音質がよくないことを指すのではない。むしろそれはひとつの音響実験であり、持たざる者による渾身の一矢だ。すべてを德茂ひとりがこなしたこのアルバムは、だから、ハイエンドな機材に頼らなくとも創意工夫に富んだ音楽を生み出すことは可能だという、そのなまなましいドキュメントともいえる。たったひとりでも、カネがなくても、ここまでできるということ──ウール&ザ・パンツはいまでも希望でありつづけている。

Nujabes Metaphorical Ensemble & Mark Farina - ele-king

 ヌジャベスの音楽を未来につなぐプロジェクト、Nujabes Metaphorical Ensemble。ヌジャベスの作品を愛するミュージシャンやDJから成る彼らが出演するライヴが12月29日、恵比寿ガーデン・ホールにて開催される(https://flows-jp.com)。マーク・ファリナやパウダー、活動休止前の最後のライヴを披露するNABOWA、ペース・ロック、寺田創一らが集う同イヴェントの最終ランナップが公開されており、新たにnasthug、Kento Nagatsuka、DJ NORIの出演がアナウンスされている。
 さらに、会場では、ヌジャベスの楽曲のみで制作されたマーク・ファリナによるミックステープ『Tribe Sampler Mushroom Jazz』が先行販売される。チケットなどの詳細は下記より。

Nujabesの音楽を未来に繋ぐプロジェクトNujabes Metaphorical Ensemble、Mark FarinaやPowder、活動休止前のラストライヴとなるNABOWA、Pase Rock、Soichi Teradaに続く最終ラインナップが公開。

2023年に出演したBoiler Roomでのパフォーマンスが120万回以上再生され、一躍注目を集める存在となったnasthugが登場する。

そしてエクスペリメンタル・ソウルバンドWONKのボーカリスト Kento Nagatsukaが豊かな音楽性を背景にしたDJセットにて参加。

さらにキャリア40年を超える日本が誇る至宝DJ NORIの出演が決定した。

全9組による極上のラインナップ。
タイムテーブルはflowsのSNSから近日公開予定となっている。


ミックステープ「Tribe Sampler Mushroom Jazz」がリリース!

Nujabesの楽曲たちとMark FarinaによるMushroom Jazzがコラボレーション。
Hydeout ProductionsのサブレーベルTribeから
ミックステープ「Tribe Sampler Mushroom Jazz」がリリース。

ジャジーなヒップホップからダビーなダウンテンポトラックを中心にミックスされるMushroom Jazzは過去に幾つもの名作を残しており、Nujabesの作品のみで構成された今回の特別な音源はMark Farinaのセンスと手腕により美しい楽曲の新たな魅力を引き出している。
NujabesとMark Farina。時を経て邂逅した必然のコラボレーションとなっている。

flowsにてミックステープの先行発売をおこないます。
完全限定生産となっているので、会場で売り切れた場合、一般販売はございません。

TITLE : Tribe Sampler Mushroom Jazz
ARTIST : Mark Farina
LABEL : Tribe
PRICE : ¥2,500 (taxout)


OUTLINE

TITLE : flows
DATE : 2024.12.29 SUN, OPEN 14:00 CLOSE 21:00
VENUE : The Garden Hall(東京都目黒区三田1-13-2)
LINE UP : Nujabes Metaphorical Ensemble、Mark Farina、Powder、
NABOWA, Pase Rock、Soichi Terada、nasthug、Kento Nagatsuka、DJ NORI
ADV TICKET :
Category 1 : ¥6,800 -SOLD OUT-
Category 2 : ¥7,800
Category 3 : ¥8,800
U-23 : ¥5,000
※小学生以下の児童及び乳幼児は保護者1名につき1名まで入場無料です
※カテゴリー1から順に完売次第、次のカテゴリーに移行します
※規定枚数に達した場合には当日券の販売はございません
TICKET AVAILABLE AT : Zaiko(https://flows.zaiko.io/item/367270)

HP : https://flows-jp.com
Instagram : https://www.instagram.com/flows_jp
X : https://x.com/flows_jp

PAS TASTA - ele-king

 ……といったところで、終わりでいいんじゃないですか? とりあえず、ね。

 とラフに結ばれているPAS TASTAの前作『GOOD POP』のレヴューだが、とりあえずという形で置かれたそのバトンを今回受け取ったのは私。ついに六人がカムバック! さて、hirihiri、Kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigotという現行インターネット・ミュージックにおける精鋭が集ったこのグループの成り立ちについては松島広人氏による前作の評を読んでいただくとして。とりあえず終わりでいいんじゃないですか、とゆるいノリで終わったわりには、とんでもなく精巧に作られた夢の続き~最新作~について語っていくことにしましょう。

 まず、アルバム・タイトルがつくづくすばらしいと思った。『GRAND POP』。これはもう、恐ろしく素敵なタイトルだ。例えば『Pop2』や『brat』といったチャーリーXCXのタイトル芸はファッショナブルでインディペンデントっぽいセンスだけど、PAS TASTAはあえての優雅な方向にドーン、とね。そう、『GOOD POP』からの進化を感じさせようという意思が迫力に満ちている。しかし、そこで『GRAND POP』なんて普通思いつくだろうか? Chat GPTに訊いてみるといくつか提案してくれたけれど、実にセンスに欠けるものばかりだった。『NEXT POP』? ありきたりだね。『DEEP POP』? それはPAS TASTAの本質じゃない。『PURE POP』? ちょっと酔いすぎ。『PRISM POP』? 小さくまとまっちゃったな。『ETERNAL POP』? それはインターネットっぽくないかな。メンバーは前作以上にこの作品をウェルメイドなものにしていきたいと考えていたようで、大きさがあり上品さもある「GRAND POP」にした、と語っている(J-WAVE 『GRAND MAREQUEE』11/19放送回より)。サラッと言っていたが、重要な発言だ。インターネットのジャンク感を大切にしつつも、表面上はそれを削ぎ落とし、オーセンティックなJ-POPの王道感を看板に掲げるということか。まるで『POSITIVE』期のtufubeatsのような大文字の音楽をやろうとしている! と解釈したのだが、しかしあれから約10年が経ち、「ポップ」のありかたも激変してしまったわけで。一つに、もうみんながバラバラになっちゃった、というのがある。国内のアンダーグラウンド・シーンに10,000人いたミュージシャンがいまは100,000人いて、そのうちの1人が「私、ポップやります!」と言ったところで、どうしてもスベった感が出てしまう現在。今年いよいよ流行語にもノミネートしてしまったこの「界隈」というやつは、狭いうえに横のつながりも密なもので、まぁいろいろと面倒も多くて大きいことを言いづらい。という中で、誰もが納得する実力者が組むアベンジャーズ作戦というのはとても良い。「J-POPやります宣言」を、ジョークやアイロニーではなく、語義通り受け取ってもらえるリアリティがある。

 『GRAND POP』、見事なアルバムだから次々とすごいポイントが出てきます。もう一つは、「ポップ」に見合うだけのストーリーがあるということ。ここで言うストーリーとは、歌詞の物語性とかアルバムとしての起承転結とかそういったことを言っているわけではなく、もっと本質的な部分において、サウンドと情緒の連なりが作品の思想を深めていくような感覚──と言えばよいだろうか。この点において効果的なのは、やはり、ギター・ロックやシューゲイズの導入が必然性をもってなされているのが大きい。今年はTORIENA『圏外』やVitesse X『This Infinite』など、エレクトロニック・ミュージックにギターを導入することで作品の深度を深めていくようなアプローチが散見されたが、本作においてもロックの要素が重要な鍵を握っているように思う。そもそも、Patrick St. Michel氏が書いていた通り(※)ロックはJ-POPの基盤であるがゆえに本作では引用されてしかるべきなのだが、『GRAND POP』においてはなんだか全てがどこかで聴いたかのような既視感があり、それらがすべてPAS TASTAらしいテクスチャで鳴らされている(“亜東京” で顔を覗かせるRADWIMPSには仰天!)その点で、「90年代~00年代のJ-POPの記憶」を、オーセンティシティの装置として効果的に使った作品であるとも言える。今回のアー写なんか、2000年前後のナントカやナントカといったアーティストの写真にそっくりだ。『WHAT's IN?』や『CDでーた』で、たくさん見た! どこまで狙ってるのかはわからないけれど、すばらしいパロディ・センス。

 つまり、インターネット・ミュージックは、点としての固有の面白さがありつつもどこか散発的で断片的な印象にとどまりがちなものだが、そこを出自に持ちながらもPAS TASTAはストーリーを描くことができるからこそポップになり得ているということ。それは、六人の存在感のつなぎ目がどんどんなくなってきているというのも大きい。「ここの音はhirihiriさん!」「この癖はあまねさん!」という凸凹が随分とならされていて、PAS TASTAが制作スタジオとして使っているというDiscordの、あの現代の「シェルター」の中のくつろいだ空気が、ボカロとエレクトロとヒップホップとハイパーポップとハードコアとガラージを糊代なしでシームレスにつなぐ。フォルムが綺麗なのだ。そうそう、シームレスといえばひとつ不思議なことがあって、本作は「車」をテーマにしているようだけど、どうもタイヤの接地面がなくふわふわと宙に浮いているような感じがする。車というとすぐに¥ellow Bucksのようなふくよかなベース音をどっぷり排出するサウンドを連想してしまうのは私の悪い癖だが、それと比べると、『GRAND POP』はまるで空飛ぶ車だ。ようこそ未来。六人のアイデアがどんどん浮かんできて、それを継ぎ接ぎしつつもこねてこねて洗練させていった音。「もしも、ぜーんぶ追い越して/懐かしくなっても/はやさの中にしか/おれはいないのだろうな」と見事な歌詞が歌われる “THE CAR” は、妙に懐かしいギターに包まれながら──なんといまどき呑気にフェードアウトしながら終わるという、これもまた「あの頃のJ-POP」をやっている。

 中でも、全体通してヴォーカル表現がとても空中浮遊的だ。「シュッシュ/シンフォニー/ヒュッヒュッヒュッ/ピット/ピピピ」と歌う柴田聡子は過去一番の軽やかさだし、ボカロ以降のモードに矯正されたchelmicoは悶絶するほどの脱‐人間。ピノキオピーは言わずもがな、ここにLIL SOFT TENNISのザラついた声を混ぜるのも面白いし、キタニタツヤの入り方も2024年のJ-POPとして完璧です。さて、ここまでくると早くも次作が楽しみで仕方ないのだが、ポップ無き時代のポップを背負うのはもうPAS TASTAしかいないので、どこまでもやっちゃってほしいです。できるだけ大文字の、でも意外な人たち──星野源、ado、中村佳穂、aiko、折坂悠太……etc.と、最高のコラボ相手はまだまだたくさんいらっしゃいます。夢があるって、すばらしい。ぶんぶん鳴らしてふわふわ浮いて、PAS TASTA with tomad氏の挑戦がどこまでもどこまでも広がっていきますように!

 ……といったところで、終わりでいいんじゃないですか? とりあえず、ね。



https://www.scrmbl.com/post/pas-tasta-goes-big-on-second-full-length-album-grand-pop

Roedeliusu, Onnen Bock, Yuko Matsuzaki - ele-king

 クラウトロックにおける電子音楽のもうひとりのパイオニア、クラスター(Kluster/Cluster)のメンバーとして知られるハンス・ヨアヒム・ローデリウス(今年90歳、つまり卒寿です)が日本の音楽家、松﨑裕子と共同で制作したアルバム、『月の庭(MOON GARDEN)』が来年の2月に発売される。
 1980年代より、フルート/シンセサイザー/キーボード奏者、作曲家/編曲家として幅広く活動を続け、今年の夏は80年代ジャパニーズ・アンビエントの貴重な1枚として、国内外のファンから熱心な支持を集めていたアルバム『螺鈿の箱』を再発した松﨑裕子は、1996年のローデリウスのソロ・アルバム『 Pink, Blue And Amber』においてもフィーチャーされている。『月の庭』はローデリウスとオンネン・ボック(Qlusterのメンバー)が制作した音源データを松﨑裕子がアレンジ/エディットし、新たに作曲を加えたもので、ミックス作業は2000年代前半からはじまり、そして2020年に最終ミキシングされている。エレクトロニック・ミュージック界のロマン主義者たるローデリウスのピアノ演奏と松﨑裕子による優美な演奏、そして繊細な音響工作がみごとに調和したアルバム、アンビエントことに日本のアンビエントを探求しているリスナー、およびニューエイジのリスナーは要チェックです。

ローデリウス、オンネン・ボック、松﨑裕子
月の庭 /MOON GARDEN

CD /DIGITAL
2025年2月5日
P-VINE

【Track List】
1.In The Forest of Syrinx - シリンクスの森にて
Roedelius / Onnen Bock:Piano, Singing bowls / Yuko Matsuzaki : Flute, Synthesizers, Keyboads
2.Moon Garden - 月の庭
Roedelius / Onnen Bock:Piano, Singing bowls / Yuko Matsuzaki : Flute, Synthesizers, Keyboads, Vocal
3. The Tale of Fossil - 化石の物語
Roedelius / Onnen Bock:Piano, Singing bowls / Yuko Matsuzaki : Synthesizers, Keyboads
4. Sapphire Jellyfish - 瑠璃の海月
Roedelius / Onnen Bock:Piano, Singing bowls / Yuko Matsuzaki : Vocal, Lyrics
5. Fragment of Ancient Times - いにしえの時のかけら
Roedelius / Onnen Bock:Piano, Singing bowls / Yuko Matsuzaki : Flute・Taisyogoto , Synthesizers, Keyboads

All titles composed by Roedelius ・Onnen Bock・Yuko Matsuzaki

松﨑裕子 (Yuko Matsuzaki)
 作曲家・ボンサイオブジェ作家、大阪府出身、神戸女学院大学音楽学部器楽科フルート専攻卒業。大阪音楽大学専攻科修了。フランス国立モントルイユ音楽院留学。琵琶を鶴田錦史に師事。
 フルーティストとしてリサイタル他、関西フィルハーモニー交響楽団、テレマンアンサンブル等と、ソリストとして数多く共演。元プティ・バロック・アンサンブル所属。82年より作曲活動をはじめ、85年LPレコード『螺鈿の箱』(Mother of Pearl Box)発売。
 85~87年パリ、ロンドンを中心にヨーロッパで活動。アンビエントの父、エレクトリックミュージックのゴッドファザーと称されるローデリウスや多くのミュージシャンのアルバム、コンサートツアーに参加。88年より大阪を拠点に、琵琶や雅楽などの日本の伝統楽器を中心とした作曲、コンサート活動を始める。92年、フジテレビのドラマ、久世光彦監督、小泉八雲『KWAIDAN 怪談』の音楽担当を機に東京に拠点を移す。以後、映像音楽を中心に作曲家として活動。『華岡青洲の妻』、小泉八雲『KWAIDAN 怪談』シリーズ、『キネマの青春』『サラバ サムライ!』をはじめ数々のTVドラマ、『早坂暁の花暦 一期一会』20シリーズ、『20世紀のファイル』24シリーズ、『辰巳琢郎・リフォームの魔法』24シリーズ、『世界遺産』『もうひとつのワールドカップ』『水木しげる』等のドキュメンタリー番組、こども放送局番組多数。
 映画『喰いしん坊 I ・II 』『新GONIN』『スワンズ ソング』『夜叉の舞』『ファミーユ フランスパンと私』『矜持』他、楽譜出版『フルートで楽しむショパン』他、CD『Pink Blue & Amber』『ガラパゴスの風(世界遺産ミュージック・イマジネーション南米編)』『Paradise』、DVDシネマ等、作品多数。フィナール国際美術展、モダンアートコンペティション入選。2008年、大阪に拠点を移し、ボンサイオブジェ作家として、独自のオブジェの世界を展開する。個展、インテリア&デザイン国際展示会「メゾン・エ・オブジェ・パリ」他、出品多数。

Yuki Nakagawa - ele-king

 チェロ奏者、中川裕貴による4年ぶりの新作コンサート「弭(ゆはず)」が12月28日から29日にかけ、ロームシアター京都にて開催される。日野浩志郎とのKAKUHANでの活動でも知られる彼は、通常わたしたちが想像するのとは異なるやり方でチェロの可能性を引き出す、果敢な冒険者だ。今回はDJと俳優とのコラボレーションとのことで、また未知なるサウンドを体験できるにちがいない。中川本人によるメッセージも届けられているので、下記をご確認あれ。

チェロとDJが開発する、音の新領域
令和6年度京都市芸術文化特別奨励者・中川裕貴の最新作を京都で!

チェロを主体として作曲・演奏・演出活動を行う音楽家/演奏家の中川裕貴による約4年ぶりとなる新作コンサート「弭(ゆはず)」をロームシアター京都で開催します。
チェロという楽器、DJ、俳優の行為が関わることで生まれるさまざまな「声」を、「弓」が引き出し、観客の「耳」に届けます。

中川裕貴「弭(ゆはず)」
日程:2024年12月28日(土)~29日(日)
会場:ロームシアター京都 ノースホール

作曲、演奏、演出:中川裕貴  
DJ:1729
出演:中川裕貴、出村弘美、穐月萌、1729

https://www.yukinakagawa.info/post/yuhazu_2024

スタッフ:
舞台監督:北方こだち
音響:甲田徹
照明:十河陽平
宣伝美術:古谷野慶輔
制作:平野春菜

主催:中川 裕貴
共催:ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)
京都芸術センター制作支援事業

日程:
2024年12月28日(土)13:00
2024年12月28日(土)18:00☆
2024年12月29日(日)13:00★

☆終演後に中川裕貴とゲストによるトークイベントを実施予定
★託児サービスあり(要事前予約)。詳細・お申込みは中川裕貴 WEB サイト http://www.yukinakagawa.info/ にてご確認ください。
◎受付開始は開演の1時間前、開場は30分前
◎車椅子でご来場の方は、メールにてご連絡ください。

会場:ロームシアター京都 ノースホール(〒606-8342 京都市左京区岡崎最勝寺町13)
上演時間:約100分(予定)

チケット料金(全席自由・税込):
早割 3,000 円★
一般 3,500 円
U25 2,500 円

★早割は12月7日(土)23:59 まで。グッズ付き早割チケットは Peatix のみで限定販売(数量限定、先着順)。
※当日券は500円増、未就学児入場不可
※U25のチケットをご購入の方は、当日受付にて身分証のご提示をお願いします。

プレイガイド:
https://yukinakagawa-yuhazu.peatix.com/

ロームシアター京都チケットカウンター:
【営業時間 10:00-17:00】年中無休(臨時休館日を除く)TEL:075-746-3201
京都コンサートホールチケットカウンター:
【営業時間 10:00-17:00】第1・3月曜日休館
※休日の場合は翌日 TEL:075-711-3231
オンラインチケット
[24時間購入可] ※要事前登録(無料)https://www.s2.e-get.jp/kyoto/pt/

公演について
チェロを主体として作曲・演奏・演出活動を行う音楽家/演奏家の中川裕貴による約4年ぶりとなる新作コンサート「弭(ゆはず)」を開催します。弭という文字は「ゆはず」と読み、弓道などで用いる弓の両端にある「弦(つる)をかける場所」のことを指します。
このコンサートはその文字通り、弓と耳という2つの側面、そしてそれに関係する「チェロ」が中心に添えられ、ヒトの声に近い成分をもつと言われる楽器から、さまざまな「声」を、「弓」が引き出し、観客の「耳」に届けます。特に中川は近年、下記に記載するような自作の弓を使用した演奏を数多く行っており、このコンサートではその弓が主体的な役割を果たすことになるでしょう。
また今回のコンサートでは新たな試みとして、会場に「DJ(ディスクジョッキー)」がいます。
録音物を収集、吟味、推敲し、混ぜ合わせ、再構築し、ターンテーブルとCDJを複数台掛け合わせて複雑なサウンドコラージュを目指す「1729」は、DJの中でも異端かつ、誰もが説明に困る奇妙で曖昧な存在であるかもしれません。彼女は2022年まで“威力”名義で活動し、現在はクラブシーンのみならず、YCAM(山口情報芸術センター)や九州大学音響特殊棟などに活動の幅を広げ、「聴く」ことの根源的な領域にアクセスするようなパフォーマンスを行っています。
今回はこのDJとチェロという「両端」によって、何かを「かけ」ます。
さらに中川のコンサートにこれまでも数多く出演し、演奏やパフォーマンス、そして意味の「下限」を浮き沈みさせるような「行為」を続けてきた出村弘美、穐月萌も参加。この4人の持つ要素が絡み合いながら生まれる時間と空間は、タイトルである「弭(ゆはず)」という音をズラした「いわず」と、そこから派生する「静寂(サイレンス)」の現在進行形の「かたち」が提示されると同時に、私たちが生きるこの時代のありさまが照らされることになるでしょう。

「弭」という文字について、言葉遊びをしてみます。
弭、ゆはず、You haze(訳すと「あなたが霞んでいる」という意味)。
「ゆはず」→「ゆわず」→言わず=(I/You/We/They)don’t say。
そして「言わないこと」は静寂(サイレンス)と関係があります。
弓や耳、そして声。言わないこと。 サイレンス。 行動すること。
意志があること/ないこと。リスニング、トーキング、シンキング。
そしてそこに無音や中断が差し挟まれること。 ゆはずは「弦(つる)をかける場所」を指します。
「弭」という文字から生まれるイメージを、「コンサート(Concert)」という、そのことばの一部に「共に」「子孫」「対抗」という意味を持つイベントへ運ぼうとしています。
約4年前のロームシアター京都でのコンサートでは、わたしたちのほとんどは「マスク」と呼ばれるものを「耳」にかけていました。
それから月日が経ち、今、私たちの耳は、なにを「かけて(掛けて、賭けて、欠けて…)」、ここにいるのでしょうか。
このコンサートでは、今、ここから未来に向かって延びる、とある「疎密」をコンサート会場に集まるみなさんと共に創りたいと考えています。
中川 裕貴

[プロフィール]
中川裕貴(なかがわ・ゆうき)
1986年生まれ、三重/京都在住の音楽家。チェロを独学で学び、そこから独自の作曲、演奏活動を行う。人間の「声」に最も近いとも言われる「チェロ」という楽器を使用しながら、同時にチェロを打楽器のように使用する特殊奏法や自作の弓を使用した演奏を行う。音楽以外の表現形式との交流も長く、様々な団体やアーティスト(烏丸ストロークロック、森村泰昌、渡邉尚など)への音楽提供や共同パフォーマンスも継続して行っている。また2022年からは音楽家・日野浩志郎とのDUOプロジェクト「KAKUHAN」がスタートしている。近年のコンサート作品として、「ここでひくことについて(2019)」@京都芸術センター、「アウト、セーフ、フレーム(2020)」@ロームシアター京都サウスホール(ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム“KIPPU”)などがある。同志社大学工学部情報システムデザイン学科卒業。京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了(音楽学)。令和6年度京都市芸術文化特別奨励者。

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