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Wool & The Pants

Dub Funk Sound Collage

Wool & The Pants

Not Fun In The Summertime

Self-released

小林拓音 Dec 10,2024 UP

 ウール&ザ・パンツの登場は希望だった。2010年代の終わり、穏やかなソウルやシティ・ポップ、ニューエイジ、もしくはハイパーポップなどが人気を博していた時代にあって、ファンクやダブ由来の彼(ら)の音楽──不思議な酩酊感をもたらすビートの反復とそのロウな音響は、トレンドやネット文化とは異なるアイディアを試みる音楽家が日本からもまだ登場しうることの証左だった。
 ホルガー・シューカイの曲をもじって “Wool In The Pool” と名づけたり、80年代の狂騒に抗していた数少ない東京のバンド、じゃがたらの魂を “Edo Akemi” で現代に蘇らせてみたり、テーマの面でも彼らは「べつの選択肢」を垣間見せていたように思う。なにせ1曲目が “Bottom Of Tokyo”、東京の底だ。「それまでの生活はひどく貧しくて/わたしの性格もひどく貧しくて」。ほんとうは、こういう音楽にこそ「リアル」という単語が用いられるべきではないだろうか。

 それから6年。ウール&ザ・パンツのセカンド・アルバムは、前作の延長にあるベースやギターの反復にはじまっている。だがこれは焼き直しではない。冒頭 “A Night Without Moonlught” は中盤から闊達な弦を呼びこみ、いくつかの具体音らしき音を招きいれてもいる。このサウンド・コラージュこそ新作の大きな特徴だ。作曲・編曲から演奏、録音、ミックス、マスタリングまですべてを德茂悠がひとりでこなしたという『Not Fun In The Summertime』は、前作同様ファンクやダブ、ヒップホップを一緒くたにして煮詰めたようなアルバムに仕上がっているが、これまで以上に果敢な音響上の冒険が繰り広げられてもいる。
 酩酊感も二割増し、いや三割増しだろうか。きっとうだるような酷暑のなかで制作されたにちがいない。発狂しそうな熱気と湿気に包まれた七月か八月の夜、エアコンなしの狭い安アパートの一室を想起させるファンク・チューン “Not Fun In The Summertime(夏は楽しくなんかない)” では、終盤になるとなにやらあの世からお呼びがかかっているような奇妙なエコーが轟いてくる。え、もしかして俺、死ぬ……?
 独自のダブを楽しませてくれる “熱帯夜” や、途中から乱入してくる謎めいた高音が印象的な “I've Got A Sweeter Song” などは、德茂のリー・ペリー好きな側面がよくあらわれた曲だ。あるいはインストゥルメンタルの “盆” や “ON” のテクスチャーは、個人的には──文脈はまったく異なるけれど──『Glaqjo Xaacsso』や『Estoile Naiant』のころまでのパテンが鳴らしていたロウファイ・ポスト・チルウェイヴ・IDMとでも呼ぶべきサウンドと通じるところがあるように感じられた。

 ロウファイとはたんに音質がよくないことを指すのではない。むしろそれはひとつの音響実験であり、持たざる者による渾身の一矢だ。すべてを德茂ひとりがこなしたこのアルバムは、だから、ハイエンドな機材に頼らなくとも創意工夫に富んだ音楽を生み出すことは可能だという、そのなまなましいドキュメントともいえる。たったひとりでも、カネがなくても、ここまでできるということ──ウール&ザ・パンツはいまでも希望でありつづけている。

小林拓音