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Spekki Webu - ele-king

 札幌を拠点に活動を続けてきたテクノDJの OCCA が、次世代のサイケデリック電子音楽シーンを語る上で欠かすことができない2人の重要人物を招聘し、革新的でユニークな電子音楽イベントを創ろうとしている。今回ゲストに招聘されたのは、〈MIRROR ZONE〉を主宰する SPEKKI WEBU と PYRAMID OF KNOWLEDGE 名義でカルト音楽愛好家に知られる K.O.P. 32 の2名だ。未知なる最先端の音楽を制作し、演奏する彼らが、東京と大阪のダンス・ミュージック・シーンを根底から揺るがすことは間違いないだろう。
 両者は今回、7月27日(木)に東京のストリーミング・スタジオ SUPER DOMMUNE(こちらは SPEKKI WEBU と OCCA の出演)、28日(金)に VENT を会場に OCCA の盟友である YSK と共に主催する《SECT》に出演。その後29日(土)には、CIRCUS OSAKA を会場にした OCCA による新シリーズ《PARHELION》に登壇し東西を廻る予定だ。
 そしてこの度、初めてのジャパン・ツアーを敢行する SPEKKI WEBU に来日前インタヴューのチャンスが頂けた。先日、台湾にて開催された《Organik Festival》でも OCCA と顔を合わせていた2人が、どのように意気投合し、今回のイベントがどのようなコンセプトを持っているのか持っているのか、少しでも伝われば嬉しいと思う。


「海を超えた地でダンス・ミュージックのBPMが加速し、テクノあるいはトランス・ミュージックと形容される音楽への熱量が高まっている」と書けば、往年のファンはこのような文章を読むのは何度目のことだろうと思うかもしれない。確かに、海外で開かれている信じられないような大きさのダンスフロアで、BPMが150を超えるような音楽に人びとが熱狂的になっている動画がSNSで回ってくることは、もはや日常茶飯事となっているが、一部のアンダーグラウンド・シーンにいる人間は、これを単なる繰り返された流行、舵を失ったトレンドだとは認識していないだろう。米作家マーク・トウェインが語った「歴史は繰り返さないが、韻を踏む(History does not repeat itself, but it rhymes)」という言葉がしばしば歴史学で引用されるように、それと同様のことがこの複雑化した音楽シーンにおける変遷を形容することもできると思う。そこには確かに、大きな流れ=トレンドの影響がある一方で、同時にこの時代でしか生まれない特有の “うねり” が存在している。つまりこの「BPMの加速化」は、文化的な需要を満たしつつも、過去にはないほど画期的で、いまだかつて体験したことのないようなサウンドと共に起きている現象であると言い換えることができるだろう。

 オランダ出身の SPEKKI WEBU は、まさにその “うねり” を、最前衛で創り続けているクリエーターの1人として、多くの信頼あるDJから認識されている。彼は、この加速化するテクノ/トランスといったムーヴメントを牽引する中で、〈Amniote〉や〈Positive Source〉といった新興ダンス・ミュージック・レーベルから作品を発表し、自身が主宰するレーベル〈MIRROR ZONE〉からは、トランス・ミュージックの系譜にありがらも、全く新しいDJプレイを可能にするツール的プロダクションを世に送り出してきた。また、ここ日本でも著名な Jane Fitz や Mama Snake、Konduku らと共にB2Bで共演してきた指折りの技巧派DJでもあるのだが、それは彼の音楽的ルーツにガバやジャングルといった幅広い音楽があり、ダンス・ミュージックの新しい可能性を拡張し続ける研究家であることが理由にあるのかもしれない。このインタヴューを通して、彼の音楽的ルーツと彼が捉えるダンス・ミュージックの新しい像が伝われば幸いだ。

■こんにちは、クリス! 元気ですか? まずは、あなたが育った街であるオランダのデルフト、そして大都市ロッテルダムについて教えてほしいです。デルフトはどのような街で、あなたはどのように過ごしましたか? また、どのようにしてアンダーグラウンドな音楽と出会いましたか?

SW:こんにちは、僕はとても元気だよ! 僕はデルフトという比較的に小さな街で育った。デルフトは地理的にロッテルダムとハーグというふたつの大都市に囲まれた大きな都市圏にあるところで、昔は父親と一緒に地元のレコード店によく音楽を掘りに行ったね。
 ここで初めてジャングルのCDを買って、それからエレクトロニック・ミュージックの旅がはじまった。周りはみんなハードコアなレイヴに行くか、ヒップホップを聴いていた。このときから僕はガバに興味を持ちはじめ、それらの音楽を集めるようになったんだ。
 僕が若い頃、デルフトにはいくつもの素晴らしいヴェニューがあって、そこではエレクトロニック・ミュージックの幅広い分野を紹介するような興味深いイベントがたくさん催されていた。僕が初めてダンスフロアに足を踏み入れたのも、そういった会場だったね。僕の友だちの多くは、街中や郊外のハードコア・ガバ・レイヴに行っていた。でも、ある程度の年齢になると、僕の興味は自分の住んでいる地域周辺の大都市(ロッテルダムとハーグ)に移っていった。
 ロッテルダムは、ガバ・ムーヴメントの勃興と形成に貢献した非常に重要な都市だ。面白いレイヴをやっているクラブやコミュニティ、サウンドシステムがたくさんある街でもある。だから僕はよくロッテルダムに訪れてライヴを見たり、面白いアーティストのプレイを見たりしていた。毎週末かなり長い期間、友だちたちとパーティーに行っていたんだ。この数年間は、エレクトロニック・ミュージックの世界を自分の中に形成し、自分を教育するのにとても重要な時期だったよ。

■あるインタヴューでは、あなたははじめにガバ・ミュージックに傾倒していたと書かれていました。それはいつ頃で、どのようにして遊んでいたのでしょうか? また、その後どのように現在のスタイルにたどりついたのでしょう?

SW:エレクトロニック・ミュージックに触れたのはかなり若い頃だったね。初めてジャングルのCDを買った後、すぐにガバ・ミュージックに触れた。90年代のオランダではすでに重要なカルチャーになっていたから、僕の周りの人はみんなこのスタイルのエレクトロニック・ミュージックを聴いていたよ。下に住んでいた少し年上の隣人はテープを集めていて、かの有名な音楽イベント《Thunderdome》のコンピレーションを聴いたのもこのときだった。これで新しい世界が開いたんだ。面白かったのは、ここに収録されていたトラックの多くに、ジャングルやブレイクビーツのリズムも混ざっていたこと。これはもちろん、ジャングル・ヘッズの僕にとっては天国のような組み合わせだった。
 それから音楽を集めはじめ、パーティーにもよく行くようになった。この時期からガバ・ムーヴメントに深く入り込むようになって、このジャンルの中にもっと実験的で面白いコーナーがたくさんあることを知ったんだ。インダストリアルでエッジの効いた、より深くてダークなサウンド。カルチャー、サウンド、ダンスフロア、インスピレーションの面で、いろんなことがとても面白くなりはじめた瞬間だった。この時期の音楽体験は、僕が後にDJとしてプレイするようになったとき、アーティストとして非常に重要な基礎となるものになったね。
 ロッテルダムとその周辺には、インダストリアル・ハードコア、ドラム&ベース、ノイズ、ブレイクコアなどの境界を越えた、小規模で親密かつ実験的なクラブ・ナイトを主催する会場がいくつかあったんだ。この時期は、多くのDJやライヴ・アーティストたちが、その境界線を破り、サウンドの面でよりストレートに、何か別のものへと進化させていた。興味深い新しいアーティストたちが押し寄せてきて、彼らが僕の関心の的だったんだ。僕は少人数の友人たちとヨーロッパ中を旅して、これらのアーティストの演奏をたくさん見に行った。アーティストとしての僕自身の教育やブループリントは、この頃に形成されたかもしれないね。

■あなたのDJスタイルはBPMの制限から逃れ、「リスナーの意識と鼓動に訴えかけるようなスタイル」を象徴しているように思います。多くの人が形容するように、あなたのセットに意識を集中していると、まるで地球から宇宙に発射するスペースシャトルのような感覚を得ることがありますが、現場ではどのようなことを考えながらセットを構築しているのでしょうか?

SW:どのスロットをどれくらいの時間プレイするかにもよるが、僕は時間をかけながら「リフトオフ」の瞬間に向けて緊張感を高めていくのがとても好きなんだ。特に長いセットを演奏するときは、呼吸を整え、ゆっくりと「特定のエネルギーのポイント」まで向かっていく。このポイントに到着したら、この原動力を保ち続ける。これが僕のセットにおいて最も重要なことだ。全体的には、まずマインドをリセットするストーリーを創る、それから未知への新たな旅に出るというストーリーだ。でも、さっきも言ったように、すべては自分の出番次第でもある。
 ロング・セットをやるときには、セットの途中で長いブレイクダウンをかけて、ダンスフロアと脳をリセットするのが好きだ。BPMが145くらいで進行しているところで、突然3分のアンビエント・トラックを流してダンスフロアをブレイクさせる。旅は必ずしもまっすぐ継続的に進む必要はない。既成概念にとらわれないようにすることは、DJとしてだけでなく、プロデューサー、ライヴ・アーティストとして、そして新しいオーディオ・ヴィジュアル・ショウにおいても、とても重要なことなんだ。

■いま述べていただいたように、あなたは特定の現場で、ドローンやサイケデリックなエクスペリメンタル、ダウンテンポまでを流すことが多いと思います。BPM、あるいはビートという概念について、どのような考えを持っていますか?

SW:BPMは、僕にはあまり関係ない。もちろん、いまのところ僕がプレイするのは夜のクロージング・タイムや遅い時間帯だから、僕のDJセットは速いペースになることが多い。ただ、僕にとって最も大事な要素はグルーヴ、深み、催眠術なんだ。BPMが80だろうが125だろうが160だろうが関係ない。プログレッシヴなグルーヴ感、根底にある隠れたリズム、ポリリズムの要素がすべてだ。僕が演奏するトラックの中には、とても不思議な音楽的な変化が起こっているので、セットを聴いた人は僕が実際にプレイしたBPMの速さに驚くということがよくある。その音楽的な変化によって、人びとは実際にそこまで速いBPMだとは認識しないんだ。これが「マインド・トリック」と「催眠術」の力だと思う。

■主宰されているレーベル〈MIRROR ZONE〉からは、多くの現代的なトラック、DJツールとしても使えるトラックがリリースされています。レーベルの設立背景や哲学的な信念を教えていただけますか?

SW:このレーベルは2018年にスタートし、僕の人間としての歩みを進化させてきた。〈MIRROR ZONE〉は、あなたと僕、僕たちの社会における立ち位置、そして僕たちが人間としてどのように形成されていくのかの全てだ。
 誰もが自分自身との個人的な旅路を持っている。転んで学び、ありのままの自分を受け入れる。鏡を見る勇気を持ち、毎日より良い自分になろうとする。〈MIRROR ZONE〉は、あなたと僕が経験する人生だ。僕のインナーサークルの中で、友だちたちが人間として美しく興味深い瞬間をたくさん経験しているのを見てきた。すべてのリリースには、コンセプトやストーリーがあり、それはアートワークや詩にも反映され、リリース全体が完全な旅となっている。

■あなたはクロアチアの《Mo:Dem Festival》など大規模なトランス・フェスティヴァルでもプレイをしたDJでもあります。広義の意味でのトランス・ミュージックについて、どのような考えを持っているのでしょうか?

SW:いまのところは、僕にとって「トランス」とは単なる言葉でしかない。もちろん古典的なトランス・ミュージックというサウンドはあるけれど、その定義ははるかに広い。それは、ある瞬間にムード、フィーリングを提示し、共有する特定の方法だ。それだけでなくて、DJセットの中でトラック同士がどのように連動しているかということも重要だと思う。例えば、トラック3がトラック6、10、15と強く繋がってたりね。継続的な繋がりが、雰囲気やマインドセットを創り上げる。僕にとっては、感情と催眠術がすべてなんだ。ヒプノティック(催眠術)という言葉がいまのDJとしての僕を表すのにぴったりだと思うし、これが「トランス」の基本だと思う。

■今回の日本ツアーで共演する K.O.P. 32 が運営するレーベル〈Beyond The Bridge〉からあなたの「Euclidean Doorway EP」が先日リリースされました。K.O.P. 32 と共演するにあたって、何か特別な思いがありますか?

SW:K.O.P.32 とは以前から知り合いだったが実際に会う機会はなかった。だから今回 OCCA と一緒に日本で彼に会えるのが夢のようなんだ。僕たちは、ダンスフロアで一緒に溶け合うことができる「似た者同士」だと確信している。僕たちは同じバックグラウンドを強く共有しているからね。
 彼と一緒にパフォーマンスすることは、間違いなく特別な感覚だ。そうでなければ、彼のレーベルから自分の音楽をリリースすることもなかったと思う。彼に直接会ったことはないけれど、僕たちが一緒に感じ、話すのは銀河の言葉なんだ。それに、彼はとても才能のある素晴らしいアーティストで、僕にとっても刺激的な存在だ! だから、彼と一緒にツアーを回れることをとても光栄に思っている。

■最後に、あなたの初来日公演を楽しみにしているダンス・ミュージック・ファンに向けて一言お願いします!

SW:日本を訪れるのは初めてで、とても興奮している。新しい人たちと出会って、一緒のダンスフロアを共有し、みんなを未知への旅に連れていけることをとても楽しみにしているよ。日本に訪れて、遊んで、探検することは長年の夢だったが、それがついに実現するね!

(Introduction & Interview: Yutaro Yamamuro)

Haruna Yusa - ele-king

 昨年、ソロとしては2作目となる Have a Nice Day! のカヴァー・アルバム『Another Story Of Dystopia Romance』を発表し注目を集めた遊佐春菜。本日、1年ぶりとなる新曲がリリースされている。今回の楽曲は、今後の飛躍が期待される若手バンド Strip Joint の “Liquid” で、もともと英詞だったものを日本語詞にして再構成。夏の一瞬を切りとるようなヴォーカルに注目したい。


「夏の雫」リンク
https://big-up.style/WT6SWhgvvC

 1961年8月ニューヨークはヴィレッジ・ゲイト、ジョン・コルトレーン・セクステット(エリック・ドルフィー含)完全未発表ライヴ音源発掘。そんな令和一大ジャズ・ニュースに触れて「待ってました」と色めき立つ人が、はたしてどれくらいいるだろうか。狂喜する往年のジャズ・ファンを横目に、それがいったいどれほどの意味を持つことなのかよくわからぬまま、とりあえず様子を見るか、あるいはすぐに忘れてしまうか、ようするに大して関心を持たない人たちが大勢目に浮かぶ。そんな諸兄諸姉に対して説得力のある何事かを訴えるのはなかなか難しそうであるし、かといって往年のジャズ好事家諸賢にとり為になるような何事かを私なんぞが書けるはずもなく、さて。


John Coltrane with Eric Dolphy
Evenings at the Village Gate

Impulse! / ユニバーサル

Jazz

■通常盤(SHM-CD)
Amazon Tower HMV disk union

■限定盤(SA-CD~SHM仕様)
Amazon Tower HMV disk union

配信

 ともあれいまさら基本的な情報は不要であろう。なにしろいまや岩波新書の目録にその名を連ねるほどの歴史的偉人である。その岩波新書赤版1303『コルトレーン ジャズの殉教者』の著者であり世界有数の “コルトレーン学者” たる藤岡靖洋は、『The John Coltrane Reference』(Routledge, 2007)というコルトレーン研究の決定版と言うべき巨大なディスコグラフィーの編纂にも関わっている。コルトレーンの足取り・演奏データを詳細に記したこの本を眺めていると、「when you hear music, after it’s over, it’s gone in the air, you can never capture it again(音楽は聴き終わると空中に消え去り、もう二度と捕まえることはできない)」という呪文のようなエリック・ドルフィーの言葉を思い出す。ようは録音されずに空中に消えた演奏のほうが録音されたものより圧倒的に多いという当たり前の事実に改めて直面するわけだが、したがって録音されているという事実だけを根拠に、今回発掘された1961年8月ヴィレッジ・ゲイトでの演奏に何か特別な意味を持たせる理由はないこともまた、肝に銘じておくべきことなのかもしれない。ごく一部の(ほぼ関係者に近い)人を除けば、「待ってました」というわけではなく不意の棚ぼた的サプライズ発掘音源であり、つまりコルトレーンが日常的に行なっていた数あるギグのほんの一コマが、当時たまたま新しい音響システムのテストの一環としてリチャード・アルダーソンによって録音されており、永らく行方不明になっていたそのテープが近年たまたまニューヨーク公共図書館に眠る膨大な資料のなかから発見されただけの話である。発掘音源をめぐるいたずらな伝説化を避けるなら、そういう物言いになる。

 ジョン・コルトレーン(ss, ts)、エリック・ドルフィー(fl, bcl, as)、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、アート・デイヴィス(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のセクステット、つまりこの時期数ヶ月間にわたって実験的に試みていたツー・ベース編成による全5曲。“My Favorite Things”(①)、“When Lights Are Low”(②)、“Impressions”(③)、“Greensleeves”(④)といった定番のレパートリーが並び、ドルフィーが編曲したことで有名な『Africa/Brass』(1961年5月録音)収録曲 “Africa” のライヴ録音(⑤)は他のどこにも残されておらずこれが唯一の記録である。すべての曲が10分を超え、“Africa” に至っては22分。この時期に顕著となるこうした演奏の長尺化は、コルトレーンの音楽の発展にとって不可避の事態であり、従来のコードチェンジに縛られずにひとつのハーモニーを延々と展開し続けることの可能性を示していた。とりわけライヴ演奏は一種のトランス状態の渦を作り出すかのごとき様相で、当時は「ジャズの破壊」とまで言われたコルトレーン=ドルフィーの剥き出しのソロがここでは存分に堪能できる。

 ふいと個人的な話になるが、私が初めて買ったコルトレーンのアルバムは、『That Dynamic Jazz Duo! John Coltrane – Eric Dolphy』(1962年2月録音)と題された見るからにブートレグ感が漂うレコードだった。実際おそらく1970年頃につくられたブート盤である。中古で確か500円。安っぽいモノクロ・ジャケットの裏面にはなんとコルトレーンの直筆サインが油性のマジック(つまり魔術的な力)で書き込まれており、すわ!歴史がねじれる不思議!とひとりひそかに喜んだ。私が高校生の頃なので2003年とかそのあたりの話であるが、当時巷では「スピリチュアル・ジャズ」と呼ばれる古い=新しい潮流が盛り上がっていた時代である。クラブ・ジャズ/DJカルチャーのシーンが発端となったスピリチュアル・ジャズなる言葉が指し示していたのは、簡単に言うと「コルトレーン以後のジャズ」だった。どことなく神秘的だったり民族的だったりアフロセントリックだったり、場合によっては宇宙的だったりする崇高なムードを纏ったグルーヴィーな黒いジャズが対象で、代表格はファラオ・サンダースアリス・コルトレーンアーチー・シェップ、そして〈ストラタ・イースト〉や〈ブラック・ジャズ〉、〈トライブ〉などといったレーベル、またはそのフォロワーが定番のネタであり、スピリチュアルを合言葉に一気に再評価が進んだ。コルトレーン「以後」ということは当然ジョン・コルトレーンその人も含まれる、というよりまさにコルトレーンこそがスピリチュアル・ジャズの “元祖”、“伝説”、“永遠のアイコン” であるとして崇められてはいたが(参考:小川充監修『スピリチュアル・ジャズ』リットーミュージック、2006年)、実際の主たるところはその「後」のほう、コルトレーンの「子どもたち」だった。なぜならコルトレーンはとうの昔からビッグネームであったし、一部のDJにとってはグルーヴがレアであることのほうが音楽やその歴史的文脈より優先されたからである。

 個人的な話を続けると、歴史捏造油性マジカル・ブート盤の次に買ったのが『Olé』(1961年5月録音)だった。表題曲におけるコルトレーンのソプラノサックスが「アンダルシアの土埃のなかで舞っているジプシーの肉体感覚に近いように聴こえる」と書いたのは平岡正明だが(『毒血と薔薇』国書刊行会、2007年)、このジプシー的感覚あるいはアラブ的感覚はスペインめがけて地中海を3拍子で突破することによって培われ、おそらくその後のコルトレーン流の高音パッセージをかたちづくる最も重要な要素であるはずだ。螺旋状に延びていく並外れた旋律=フレージングは、隣にエリック・ドルフィーを擁することでより際立ち強化・装飾される。コルトレーンのグループにドルフィーが加入していたのは1961年5月から翌62年3月までの約10カ月間。『Olé』の他に『Africa/Brass』、『Live At The Village Vanguard』、『Impressions』などがあり、ライヴ録音のブート盤を含めるとそれなりの数が残されている。この頃の “中期” コルトレーンはスピリチュアル・ジャズ隆盛の時代にあってはあまり顧みられていなかったようにも思うが、“Olé” や “Africa”、また “Spiritual”(『Live At The Village Vanguard』収録)といった比較的長尺の楽曲は、モーダルな “単調さ” ゆえの “崇高さ” があり、明らかに後のスピリチュアル・ジャズを預言している。『A Love Supreme』(1964年12月録音)や『Kulu Sé Mama』(1965年6、10月録音)を差し置いて、どうやら私はこのどちらに転ぶかわからない危うさ、神に対する卑屈と人間的な尊厳を兼ね備えた “中期” コルトレーンがいちばん好きだった。「ファンキーズムから前衛ジャズにジャズ・シーンがきりかわった前後から、卑屈さや劣等感を額のしわにほりこんだ黒人くさい黒人がジャズの世界から減り、人間的な尊厳にみちた人物が数多くあらわれた」(平岡正明「コルトレーン・テーゼ」『ジャズ宣言』イザラ書房、1969年)。言ってみればコルトレーンはその中間のような、というより明らかに相反するふたつの性質を有しており、かの有名な「笑いながら怒る人」ならぬ、キャンディーをペロペロ舐めながら神妙な面持ちの人、導師の顔をした弟子キャラ、といった具合の、まるでレコードにA面とB面があるような二面性である。それならコルトレーンの毒血はAB型か。

 にもかかわらず片面をなきものとされ、生前より聖人的尊厳を投影され、死後さらに伝説とされ、まるで神様のように祀られている状況について、コルトレーン本人は少なからず戸惑いを感じているようだ。「自分でも考えられねごどだ」──1975年、恐山のイタコに “口寄せ” されて地上に舞い降りたコルトレーンは津軽弁でそう語った。FM東京「ジャズ・ラブ・ハウス」という番組で放送されたこのときの口寄せ実況はなかなか傑作で、しまいにはコルトレーンの親父さんまで降霊してくる始末(「まさかあのようにジョンが有名になるとは思わなかった」云々)。書き起こしが『季刊ジャズ批評』誌46号(阿部克自「宇宙からきたコルトレーン(恐山いたこ口寄せ実況)」)に掲載されているので、ご興味のある方はぜひ。

 口寄せは英語だと necromancy に相当するか、あるいは conjure でもいいかもしれない。たとえば『マンボ・ジャンボ』で知られる作家イシュメール・リードにとって最重要キーワードのひとつが conjure であったことを考えると、(ジャズの下部構造としての)ブルース衝動は死の概念と不可分であり、そこにはすでに何らかの魔術的な力が内在していることに気がつく。黒人霊歌以前のニグロ・スピリチュアルすなわちヴードゥーの精霊か、それこそ奇病ジェス・グルーの発症を促す何らかの魔法か。かくして、キャプチャーされることなく空中に消えた無数のサウンドに、大西洋に沈んだ無数の死のイメージが重なる。まずはレコーディングされていた奇跡を真摯に受け止めるべきなのだろう。録音は呪文であり救済である。1961年8月ニューヨークはヴィレッジ・ゲイト、ジョン・コルトレーン・セクステット(エリック・ドルフィー含)完全未発表ライヴ音源発掘。アフリカ大陸へ延びるテナーサックスのミドル・パッセージに、いまだ見ぬ過去と失われた未来が立ち現れる。もうしばらく、ジャズは「コルトレーン以後の音楽」でしかありえないことを確信する。

world’s end girlfriend - ele-king

 この春お伝えした world’s end girlfriend の新作情報ですが、ついにリリースが実現することになりました。9月9日発売、LPは4枚組、CDは3枚組の大作です。全リミッター解除で挑んだアルバムとのことなので、そうとうすごいことになっていると思われます。抵抗と祝福──。買って、聴いて、その全貌をつかみましょう。

https://linkco.re/Xuq6T5Cx

world’s end girlfriendが全てのライブ活動を停止し、
全てのリミッターを外して制作された
7年ぶりの新作アルバム「Resistance & The Blessing」
2023年9月9日リリース決定。
全35曲145分収録、LPレコード4枚組(99ドル)、CD3枚組(54ドル)で限定発売。
Bandcampにて先行予約受付開始(7月14日0時より)。
https://virginbabylonrecords.bandcamp.com/album/resistance-the-blessing

ジャケットアートワークを担当したwilquitous による、
この世に咲く花の最終形態のような美しい混沌に満ちた
「IN THE NAME OF LOVE」MUSIC VIDEOも同日公開(7月14日0時公開)。
https://youtu.be/81WkubIWSMs

アルバム「Resistance & The Blessing」は2つの魂が
男女、同性、親子、友人、敵、様々な姿で様々な時代と土地で
出会い、別れ、誕生と死を繰り返し続ける物語であり、
自らの音楽アルバムという表現を極限まで追求した作品でもある。

ゲストに
詩に戸田真琴、
朗読にsamayuzame,
歌にSmany、Itaru baba、
音にarai tasuku, CRZKNY,
ギターに青木裕、
アートワークにwilquitous
等が参加。

world’s end girlfriend “Resistance & The Blessing”

トラックリスト
01. unPrologue Birthday Resistance
02. Reincarnation No.9 - Fire,walk with me.
03. Slaughterhouse (feat. samayuzame)
04. MEGURI
05. IN THE NAME OF LOVE
06. Odd Joy
07. Orphan Angel
08. GODLESS ALTAR Part.1
09. GODLESS ALTAR Part.2
10. Petals full of holes (feat. samayuzame)
11. Eve (feat. Smany)
12. Reincarnation No.9 - More tears are shed over answered prayers than unanswered ones.
13. RENDERING THE TWO SOULS
14. Cosmic Fragments - A.D.A.M.
15. Questions
16. FEARLESS VIRUS
17. Dancing with me
18. Blue / 0 / +9 (feat. arai tasuku, Itaru Baba, Aoki Yutaka)
19. Black Box Fatal Fate Part.1 - MONOLITH (feat. CRZKNY)
20. Black Box Fatal Fate Part.2 - SEVEN SIRENS (feat. CRZKNY)
21. Trash Angels
22. The Gaze of Orpheus (feat. samayuzame)
23. Sacrifice
24. Torture in heaven (feat. samayuzame)
25. Fire on the Lethe
26. Möbius (feat. samayuzame)
27. Before and After Life
28. himitsu (feat. Smany)
29. Cosmic Fragments - Moon River
30. Glare (feat. samayuzame)
31. Tu fui, ego eris.
32. Ave Maria
33. Two Alone (feat. samayuzame)
34. SEE YOU AGAIN
35. unEpilogue JUBILEE

Black Dog Productions / The Black Dog - ele-king

 今年は〈Warp〉の「Artificial Intelligence」シリーズ30周年。つまりポリゴン・ウィンドウオウテカB12などのアルバムが軒並み30周年を迎えるわけだけれど、なかでも屈指の名盤がブラック・ドッグ・プロダクションズの『Bytes』である。ケン・ダウニー(ザ・ブラック・ドッグ)およびプラッドとして知られるふたり、エド・ハンドリー&アンディ・ターナー(先月の来日公演@VENTも相変わらずよかった)がさまざま名義で参加、一見コンピ風の体裁をとった歴史的名作、問答無用の1枚で、このたびめでたくヴァイナルでリイシューされることになった。オリジナル・リリース時以来、ヴァイナルでは復刻されてこなかったようなので粋なはからいといえよう。あわせてザ・ブラック・ドッグ名義の『Spanners』(1995)もオリジナル・プレス以来初めて、ヴァイナルでリイシューされる。こちらも『Bytes』にひけをとらない、3人のオリジナリティを堪能することができる1枚。ぜひに。


●Bytes
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13491


●Spanners
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13492

ANOHNI and The Johnsons - ele-king

 ぼくの場合、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』をちゃんと聴いたのはけっこう遅くて、80年代も後半、ぼくは20代のなかばだった。熱心に追いかけていたポスト・パンク以降がすっかりつまらなくなってしまい、だからレゲエやワールド・ミュージックを聴いてみたり、あるいは、それまでずっとリアルタイムの音楽しか聴いていなかった自分が、過去の黒人音楽を聴いてみようと自分なりに追求していた頃のことだ。
 『What's Going On』の説明文には必ず「戦争」や「公害」や「貧困」といった言葉が挿入され、これはプロテスト・ミュージックとされている。ところが、買ったそのレコードは輸入盤だったので、というかまあ、正直に言えばいちいち歌詞まで分析するのは面倒なので、サウンドのみに集中し、だからぼくはただただそのサウンドの優雅さに惹かれたのである。マーヴィン・ゲイは嘆き、憤り、哀しみ、辛辣で、抵抗している。60年代の革命は失敗に終わり、抵抗勢力は片っ端から取り締まられ、ヤッピー時代の到来とともにブラック・コミュニティに暗い風が吹きはじめている。現実は極めて厳しかったろう。だが、そのサウンドは寛容で、温かく、優しい。ロマンティックな思いにさえもリンクする。これと同じような感想を、スピリチュアル・ジャズと呼ばれる音楽にも感じたことがある。あれも黒人の闘争を起点に生まれた音楽だが、出てくるサウンドには「愛」がある。あの時代の、文化のモードがそうさせたのだろう。
 
 アメリカのテッド・ジョイアというジャーナリストの分析によれば、1950年代なかばから1960年代のなかばにかけてのアメリカにおいて興行成績が良かった映画は『サウンド・オブ・ミュージック』や『スイスファミリーロビンソン』のような作品だった。ところが近年のヒット作は、おしなべて戦闘ものが多く、間違ってもミュージカルやコメディではないそうだ。まあ、50年代のアメリカに関しては戦後の好景気ということが大きかったと思うけれど、なんにせよ、文化の根幹に楽天性があったことはたしかで、そのモードはおそらくはビートニクやヒッピー、パンクからレイヴ・カルチャーにまで通底していたと言えるのではないだろうか。たとえば、そのクライマックスにおいてベトナム戦争と反戦運動があったとしよう。しかし同時にそこにはしつこいくらいに「愛と平和」があった。陳腐な側面も多々あったと思う。だが、それはたしかにあったし、それを理解できる世代とできない世代とに分かれてもいた。そしていま、ぼくの両親の世代が「愛と平和」(ビートルズからレイヴまで)のセンスを理解できなかったのと同じように理解できない新しい世代が台頭しているのかもしれない。そんな見立ても通用するんじゃないかと思えるほどに、文化のモードは『What's Going On』の頃とは変わっている。
 リベラルだろうがネトウヨだろうが好戦的で、政治家も政党もアニメも漫画もラップにおいても戦いが人気を博している。人はカラフルな服よりも白黒を好み、自分の個性を表現することよりも、なるべく目立たない(空気を壊さない)服装を好むようになった。インターネットには怒りと対立、憎しみと不寛容、攻撃と嫌みが溢れている。明治中期のロマン主義から大正ロマンに象徴されたモードが100年前の関東大震災を境に変化したのだとしたら、3.11が(ないしは安倍政権が)この変化の起点になったと言えやしないだろうか。良い悪いの話でも、好き嫌いの話でもない。ぼくだって少なからず、今日の文化のモードの影響下にいる。本当はスマイリーのTシャツを着たいけれどジョイ・ディヴィジョンで我慢している人だっているかもしれない。
 とくに検証したわけではないのだが、漠然と、そんなことを考える/ことさら感じるようになったきっかけのひとつが、『Selected Ambient Works 85-92』だった。昨年は、エイフェックス・ツインのこの傑作がリリースから30周年ということで、ぼくは家でじっくり聴いたことがあった。30年前に渋谷のWAVEで買ったレコードを取り出し、聴いて、そして、あらためて驚嘆した。こんなにも、アホらしいほど楽天的でラヴリーな音楽が30年前の世界では、特別な宣伝もロック雑誌の煽りもなかったのに関わらずがちで必要とされ、多くの若い世代に享受されていたのだ。あの頃だって湾岸戦争はあったし、社会にはいろんな軋みがあったというのに。

 歌詞や資料など読まずに、まずはサウンドのみに集中する。アノーニ・アンド・ザ・ジョンソンズの新作にもそのように臨んで、1曲目 “It Must Change” を聴いて微笑んでしまい、3曲目 “Sliver of Ice” を聴いてこれは素晴らしいアルバムだと確信した。なんて美しいソウル・ミュージックだろうか。ドラマティックに展開する “Scapegoat” は彼女の代表曲になるだろう。前作ほど露骨な政治性はないものの、作品の背後には、理想を諦めないアノーニの、不公正(トランス嫌悪、資本主義etc)をめぐっての嘆きがあることはつい2日前に知った。もっとも、このサウンドが醸し出すモードそれ自体が反時代的で、プロテストではあるが好戦的ではないし、さらに重要なのは、こうした過去のソウル・ミュージックを引用する際に陥りがちなたんなる反動=後ろ向きの郷愁をこのアルバムが感じさせないことだ。今日の文化のモードを引き受けながら、しかしその範疇では表現しきれないものを表現するために過去のモード、愛と寛容の時代のモードを使っている。これは言うにたやすく、説得力を持たせるにはそれなりの力量を要する。なぜなら、今日のモード外でやることは陳腐になりかねないリスクが大いにあるからだ。

 アノーニは、『Age Of』制作中のダニエル・ロパティンの環境問題を諦めている態度に怒ったほどの人である。本作に、彼女のそうした現実を直視したうえでの理想主義と辛辣さ、叙情詩と個人史が散りばめられていることは先にも少し書いた。ストーンウォールの反乱から54年、彼女はクィアの人生を、たとえそれが孤独であろうと美しく描き、ギル・スコット=ヘロンではないが闘いを詩的に見せている。だからこのアルバムには、極めて今日的なトピックを持ちながらもタイムレスな魅力があり、未来の誰かの部屋のなかで再生されてもサウンドの香気が失われることはない。音楽(サウンド)でしか表現できないことがあって、それを『私の背中はあなたが渡る橋でした(My Back Was a Bridge for You to Cross)』という長ったらしいタイトルの本作はやっているという、そのことをぼくは強調したい。彼女の、みごとな表現力を携えた歌唱を支えている演奏には、電子音楽家のウィリアム・バシンスキー、イーノとの共作者で知られるレオ・アブラハムスも参加している。アートワークには「いまこそ本当に起きていることを感じるとき」という手書きの文字がある。「本当に起きていること」を人が本当に感じることは容易ではない。しかし、それでもポップ・ミュージックがその手助けになるのだとしたら、『私の背中は〜』は、愛を語ることが疎外されていることを感じさせ、そしてこの音楽が堂々と愛を語っていることを感じないわけにはいかないのだ。

Laurel Halo - ele-king

 みなさんお待ちかね、すばらしいニュースの到着です。2010年代を代表するエレクトロニック・ミュージシャンのひとり、ローレル・ヘイローがひさびさのアルバムを発表する。ミックスやサウンドトラックをのぞけば、じつに5年ぶりだ。新作のタイトルは『Atlas』、発売は9月22日、レーベルは〈Awe〉。
 ゲスト陣もポイントを押さえているというか、サックス奏者ベンディク・ギスケ、ヴァイオリン奏者ジェイムズ・アンダーウッド、チェロ奏者ルーシー・レイルトン、ヴォーカリストとしてele-kingイチオシのコービー・セイと、いま注目すべき面々が集合している。
 アルバムごとに作風を変える彼女、今回はどんな新境地を見せてくれるのか──新曲 “Belleville” を聴きながら、妄想をたくましくしよう。

 ちなみに7月後半から11月にかけ、世界各地をDJしてまわるようです。

Jaimie Branch - ele-king

 2017年の『Fly Or Die』で注目を集め、その野心的なスタイルで将来が期待されていたものの、昨年亡くなってしまったジェイミー・ブランチ。才あるこのジャズ・トランぺッターが生前ほぼ完成させていたというアルバムがリリースされることになった。パンクやノイズからアフロ・カリビアンの要素までが含まれる作品に仕上がっているようだ。CDの発売は9月6日。注目しよう。

Jaimie Branch『Fly or Die Fly or Die Fly or Die』
2023.09.06(水)CD Release

2022年8月22日39歳という若さで亡くなった、ダイナミックなジャズ・トランペット奏者/作曲家ジェイミー・ブランチによる、瑞々しく、壮大で、生命力に溢れた遺作となるアルバムが完成。メンバーには、チェリストのレスター・セントルイス、ベーシストのジェイソン・アジェミアン、ドラマーのチャド・テイラーが参加。

ジェイミー・ブランチが亡くなった時、彼女が率いたフライ・オア・ダイの新作はミキシングを残すのみで、ほぼ完成していた。遺族と共に完成までこぎ着けたこのアルバムは、デビュー作『Fly Or Die』から変わらないメンバーと制作されたが、その音は随分と遠いところへと我々を導く。パンク・ジャズのダイナミズムとノイズから、アフロ・カリビアンの陽気なポリリズムまでがここには刻まれている。かつてないほどにフィーチャーされているジェイミーのヴォーカルは、ハードコアとソウルの間を深く揺れ動く。美しいという形容こそが相応しいアルバムだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

ミュージシャン:
jaimie branch – trumpet, voice, keyboard, percussion, happy apple
Lester St. Louis – cello, voice, flute, marimba, keyboard
Jason Ajemian – double bass, electric bass, voice, marimba
Chad Taylor – drums, mbira, timpani, bells, marimba

with special guests-
Nick Broste – trombone (on track 5 & 6)
Rob Frye – flute (track 5), bass clarinet (track 5, 6 & 7)
Akenya Seymour – voice (track 5)
Daniel Villarreal – conga and percussion (track 2, 5, 6 & 7)
Kuma Dog – voice (track 5)

[リリース情報]

アーティスト名:Jaimie Branch(ジェイミー・ブランチ)
アルバム名:Fly or Die Fly or Die Fly or Die

リリース日:2023年09月06日(水)
フォーマット:CD
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC109
価格:2,700円+税
販売リンク:
https://ringstokyo.lnk.to/WQEQcd

オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/jaimie-branch-fly-or-die-fly-or-die-fly-or-die-world-war/

DMBQ × NO BUSES - ele-king

 DMBQが各地のクアトロでおこなっている2マン企画「DMBQと…」シリーズの最新公演が決定した。今回は名古屋クアトロにて NO BUSES との2マン。独自の路線をひたすらに突き進む稀有な2バンドの競演は今回が初で、かなり珍しい組み合わせといえよう。チケットはチケットぴあ、e+、ローソンチケットなどで7月22日より発売予定。

公演情報:
「DMBQとNO BUSES」
9月20日(水)
名古屋クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:名古屋クラブクアトロ
TEL.052-264-8212

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[7月20日追記] * NEW!!
 本日、新たに2公演の情報がアナウンスされた。梅田と渋谷の両クアトロでの開催で、前者ではドミコと、後者ではエンドンジム・オルーク石橋英子と競演する。これは豪華です。見逃せません。

公演情報:
「DMBQとドミコ」
10月5日(木)
梅田クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:梅田クラブクアトロ
TEL.06-6315-8150

「DMBQ, ENDON, Jim O'Rourke & Eiko Ishibashi」
10月10日(火)
渋谷クアトロ
開場18:45 開演19:30
チケット:前売¥4,000 当日¥5,000
お問合せ:渋谷クラブクアトロ
TEL.03-3477-8750

Bendik Giske - ele-king

 サックスの音がとにかく軋んでいる。古いドアを開けているような音。ギーギーと耳障りで世界が壊れていく気分。ノルウェイ(現ベルリン)のサキソフォン奏者によるソロ3作目は、パベル・ミリヤコフやローレル・ヘイローといった近年のコラボレーターとの作業が反映された様子もなく、基本的なフォーマットは5年前のデビュー・シングル “Adjust”に立ち返ったような7曲入りとなった。前作のようにダブやドローンと組み合わせることもなく、シンプルにサックスの演奏を聴かせるかたちで、オーヴァーダビングもなし。それこそ原点に戻ったという意味で自分の名前をアルバム・タイトルにした……のかなと。ミニマルの要素を強めて、前作『Cracks』のような物語性を回避し、一部だけを拡大する醍醐味。鎖骨を強調したアルバム・ジャケットはレヤ『Eyeline』の別カットみたいなテイストで、いわゆるクィア・アートを強調している。

 管楽器では圧倒的にトランペットが好みなので、これまでサックスの演奏に深く親しんできたとはとてもいえず、サックスがメインの曲で僕が忘れられない曲といえば(立花ハジメ『H』のようにサックスを別な楽器に置き換えると別な味が出そうな曲は除外して)アルトラボックス “Hiroshima Mon Amour”やフィリップ・グラス “Are Years What? (For Marianne Moore)”など数えるほどしか思い浮かばない。ベンディク・ギスケのサックスはそうした数少ない曲のどれにも似ていず、むしろエルモア・ジェームズのブルース・ギターなどを想起してしまう。気持ちよく吹くわけではなく、内面の葛藤が音に出るタイプ。でも、どうやらそういうことではないらしい。幼少期をインドネシアで過ごしたギスケはディジェリドゥーが身近にあり、それに慣れ親しんだせいで、現在のような吹き方になってしまったものらしい。内面ではなく、身体性に導かれた結果だと。

 とはいえ、今回はプロデューサーにベアトリス・ディロンが起用され、弾むようなテンポがこれまでとは一線を画す作風になっている(“Adjustt”はもっとダウンテンポの部類だった)。ウラ・シュトラウス “I Forgot To Take A Picture”を倍速にしているような曲が多く、いつものようにサックスが軋み、重く沈み込もうとしても、リズムが停滞を許さない。ディロンらしくトライバルな妙味を効かせたパーカッションが、おそらくはループされているせいで、サックスも一気には調子を変えようがないといった曲の進み方。ループ(多分)なので、グルーヴにも限界があり、ダンス・ミュージックにもインプロヴィゼ’ションにも着地しない。同じ方法論を繰り返すことでリズムに支配されない身体性を探り出そうとしているというか、“Rusht”ではテンポを変えていく試みなどもあり、J・リンのバレエ音楽『Autobiography (Music From Wayne McGregor's Autobiography)』に近いものが感じられる。そうか、観念的にはジュークへのアンサーなのか。オープニングからやたらとテンポが速いのはそのせいだったか。アカデミックな舞台に進出したジュークをフォローし、アコースティックに特化したかたちで発展させる試み。そう考えると個人的にはかなりすっきりする。久々にブラック・ミュージックとは異なる身体性の追求で面白い音楽を聴いたかもしれない。力任せに踊る世界ではあるけれど、そのことがまったく美しくないというわけではない。

“Startt”“Rise and Fallt”“Rusht”“Slippingt”と身体性を強く感じさせるタイトルに混ざって1曲だけ違和感を覚えるのが“Rhizomet”。ドゥルーズのアレだろうか。それとも単に「根っこ」という意味だろうか。このところツイッターが自滅していくのでよく考えることだけれど、ツイッターがダメになったのはイーロン・マスクがCEOになってからではなく、トレンドを表示するようになってからだったのではないかと。ツイッターというのはそれこそ根っこのようにあちこちに広がって誰と誰がつながっているのかよくわからなかったから情報がアナーキーな価値を持つことができたのに、多くの人が集まっている場所や話題を可視化してしまったことで、ドゥルーズのいう「ツリーからリゾームへ」を逆行し、旧来の情報システムと同じ凡庸なヒエラルキー思想に絡め取られてしまったのではないかと。ツイッターの利用者も自由な表現から情報のコマに格下げされてしまったというか。逆にいえば大多数がどこにいるのかを把握していないと権力というのはやはり不安なんだろうな(大衆自身も「権力」に含まれる)。まったくの余談でした。

 エンディングのみビートレスで、軋んだサックス音が地を這い、戦い済んで日が暮れていく感じでしょうか。ここだけはトランペット奏者のジョン・ハッセルが思い浮かぶ。

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