ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  2. Saint Etienne - The Night | セイント・エティエンヌ
  3. Félicia Atkinson - Space As An Instrument | フェリシア・アトキンソン
  4. Terry Riley - In C & A Rainbow In Curved Air | テリー・ライリー
  5. COMPUMA ——2025年の新たな一歩となる、浅春の夜の音楽体験
  6. Columns ♯9:いろんなメディアのいろんな年間ベストから見えるもの
  7. Whatever The Weather ──ロレイン・ジェイムズのアンビエント・プロジェクト、ワットエヴァー・ザ・ウェザーの2枚目が登場
  8. interview with Shuya Okino & Joe Armon-Jones ジャズはいまも私たちを魅了する──沖野修也とジョー・アーモン・ジョーンズ、大いに語り合う
  9. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You  | セイント・エティエンヌ
  10. interview with Primal 性、家族、労働  | プライマル、インタヴュー
  11. FRUE presents Fred Frith Live 2025 ——巨匠フレッド・フリス、8年ぶりの来日
  12. VINYLVERSEって何?〜アプリの楽しみ⽅をご紹介①〜
  13. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  14. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  15. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  16. Columns Talking about Mark Fisher’s K-Punk いまマーク・フィッシャーを読むことの重要性 | ──日本語版『K-PUNK』完結記念座談会
  17. Masaya Nakahara ——中原昌也の新刊『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』
  18. Doechii - Alligator Bites Never Heal | ドゥーチー
  19. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  20. Columns 12月のジャズ Jazz in December 2024

Home >  Reviews >  Album Reviews > Endon / Swarrrm- 歪神論

Endon / Swarrrm

Grind CoreMetal CorePunk

Endon / Swarrrm

歪神論

Daymare recordings

Amazon

倉本諒   Nov 19,2019 UP

 スプリット盤、はとくにパンクやハードコア、メタル等において顕著な音源形態であり、それは過剰なロックへと表出するなんらかの強固な思想、の分かち合いである……と個人的には思っている。
 で、“わいしんろん”と読むらしい。おそらくはグノーシス主義における反宇宙的二元論に属する思想であろう。物質で構成された悲惨な世界は“偽の神”によって創造された“悪の宇宙”であり、一方“霊”あるいはイデアーこそが真の存在であり「真の世界」に帰依するものである……云々といったアレである。スワームの“偽救世主共”から連想せずにいられるものか。

 ゼロ年代初頭、筆者は超が付くほど熱心なメタルコア、もしくは当時の言葉をかりればシンキング・マンズ・メタル(考える野郎のメタル)のファンであった。当時東海岸を中心に盛り上がりをみせていた新生エクストリーム・ミュージックの担い手、具体的にはコンヴァージやアイシス、ボッチ、ケイヴ・イン、デリンジャー・エスケープ・プラン、カンディリア、ニューロシス、サンやカネイトなどなど……繊細かつプログレッシヴで、それでいて圧倒的に攻撃的なバンドの台頭はロックの未来を確信させる体験であった。それらは高柳昌行をはじめとする日本のフリージャズ、即興演奏が海を渡ってロックとして昇華、消化されていく現象でもあった。そんな当時、筆者が同様の熱気を持って観覧するバンドが二組いた。ヘルチャイルド/フロムヘルとスワームである。90年代より国内のエクストリーム・ミュージックを引率してきた彼らが前述のバンドらを含む国外の次世代へ与えた影響は計り知れない。別個のバンドである両者を一口に語ることはできないが、彼らのギミックを排したエクストリーム・ミュージック、本来の形態としてのロックンロールの究極系を探求するサウンド、シーンに蔓延していたマッチョイズムとは一線を画したグローバルな活動、など、当時自分はこのようなバンドが国内に存在することに驚愕し、その活動を間近で観られることに至極の喜びを感じていたことはいまでも色あせずに記憶に残っている。

 歪神論は国内外に囚われることのない文化交易の賜物と断言できる。エンドンは近年の音源に顕著なパンキッシュなソングライティングと彼らのバックグラウンドとも言えるフリージャズの鍛錬を見事に表出させた楽曲を収録。とくにコンフリクトのアルバム『ザ・ファイナル・コンフリクト』を彷彿させる、アシッドを食ったモヒカン共がステージ上でDビートを用いて宇宙と交信を試みているような曲展開には圧巻だ。メンバーの精神状態を疑うほどの楽曲全体に充満する不穏な空気はさながらSPKの如きガチ狂気。バンドがなければ今頃コイツ等は間違いなくブタ箱の中だろう。対する御大スワーム、恥ずかしながらVoの原川氏の加入以降のバンドの軌跡を追えていなかった自分にとって驚きを隠せない。暗喩を排した日本詞、ジャパニーズ・ハードコア史からその純粋、無垢な魂のみを結晶化したような楽曲にはある種のポップネスすら感じられる。両者の対比は冒頭に語った反宇宙的二元論、物質からなる肉体を悪とする結果のふたつの対極的な道徳を感じさせる。スワームのストイックなまでの楽曲、リリックはもはや禁欲主義とも捉えられるし、エンドンの禍々しいサイケデリアは霊は肉体とは別個ゆえ、肉体が犯した罪悪とは切り離されるという論理の元にあらゆる不道徳に走る放縦主義として捉えられる。

 どちらに成る事もできない自分のような半端者にとっては現在の日本のロックの聖典なのかもしれない。

倉本諒