ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  2. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  3. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  4. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  5. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  6. Moemiki - Amaharashi
  7. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  8. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  9. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  10. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  11. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  12. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  13. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  14. butaji - Thoughts of You
  15. Zoh Amba ──サックス奏者ゾー・アンバが〈マタドール〉と契約、ギターを手に歌う新作をリリース
  16. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  17. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  18. 行松陽介
  19. Geese - Getting Killed | ギース
  20. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す

Home >  Reviews >  Album Reviews > Bendik Giske- Surrender

Bendik Giske

AmbientMinimal

Bendik Giske

Surrender

Smalltown Supersound

Bandcamp Tower HMV Amazon

小林拓音   Jan 30,2019 UP

 サックスはもっとも人の声に近い楽器である。そんな話をどこかで聞いたことがある。著名なジャズ・ミュージシャンの発言だったか、身近な知り合いとの雑談だったかは忘れてしまったけれど、その後もちょくちょく耳に入ってくる話だったから、きっと一般的にもそう言われることが多いんだろう。ただ個人的にはこれまで、サックスの奏でるサウンドが人声のように聞こえたことは一度もなかった。あるいは聞こえたとしても、あくまで他の楽器にも置き換えられる、比喩のレヴェルにおいてだったというか。
 コリン・ステットソン以降というべきか、ラヴ・テーマことアレックス・チャン・ハンタイ以降というべきか、近年どうにもサックスとミニマリズム、サックスとアンビエントという組み合わせに惹きつけられてしかたがない。もし仮にサックスがほんとうに人の声に近い楽器なのだとすれば、ミニマル~アンビエントの文脈に落とし込まれたそれが、いま強くこちらの耳を刺戟してくるのはなぜなんだろう。

 昨秋リリースされたシングル「Adjust」(リミキサーにはトータル・フリーダムロティック、デスプロッド、レゼットの4組を起用)で注目を集めたオスロ出身ベルリン在住のサックス奏者、ベンディク・ギスケのファースト・アルバムがおもしろい。自らを「クイア・パフォーマンス・アーティスト」と規定する彼は、ゲイ・カルチャーに関連した「surrender(すべてを与える=身を委ねる)」という行為をテーマに今回のアルバムを練り上げている。いわく、その行為は世界といかに関わるかについて、それまでとは異なる見方を提供してくれるものなのだという。
 このアルバムの制作にあたりギスケとプロデューサーのアマンド・ウルヴェスタは、マイクの設置のしかたをあれこれ工夫し、音符と音符のあいだに侵入する吐息の録音方法を新たに考え出したそうだ。その技術が他の音にたいしても応用されているのか、サックスのキイを叩く指の音だったり、中盤の“Stall”や“Hole”におけるノイズのように、微細な具体音の数々がさまざまなかたちでこのアルバムを彩っていて、ミュジーク・コンクレートとしてもじゅうぶん聴き応えのある仕上がりなのだけど、まさにそれらのノイズに寄り添いながらサックスと人声とが絡み合っていく点にこそ本作の肝がある。件のシングル曲“Adjust”やそれに続く“Up”、あるいは終盤の“Through”や“High”ではサックスが惜しみなくミニマルなフレーズを吐き出す一方、背後では意味を剥奪された人声がひっそりと唸りをあげているが、それらが絶妙に重なり合っていく様に耳を傾けていると、なるほど、サックスが人の声に近いという所感は、両者をともにノイズとして捉え返したときにこそはじめて浮かび上がってくる、オルタナティヴな聴取の可能性なのだということに思い至る。

 アンビエントの文脈におけるサックスと声の活用という点にかんしていえば、ギスケの「Adjust」とおなじ頃にリリースされたジョセフ・シャバソンのアルバム『Anne』にもところどころ惹きつけられる箇所があったのだけれど(たとえばサックスと人の声と鳥の声とその他のノイズが必死にせめぎ合う“Fred And Lil”など)、サックスがふつうに叙情的な旋律を奏でているせいか、はたまた「パーキンソン病を患った母」というテーマのためか、全体としてはセンチメンタルな要素が強く出すぎている感があった。ひるがえってギスケのアルバムには余計なものがいっさい含まれていない。シンプルに音の尖鋭化を突き詰めているという点でも出色の出来だと思う(もしかしたらそれが音に「サレンダー」するということなのかも)。
 では、なぜいまそのような試みが新鮮に響くのか? それはたぶんギスケの音楽が時代にたいする無意識的な応答になっているからだろう。たとえばオートチューンに代表される変声技術の流行は、地声とはまたべつの角度から声なるものを特権化しているとも考えられるわけで、となればギスケのこのアルバムはそれにたいするすぐれた批評としてとらえることもできる……とまあそんなふうに、耳だけでなく思考まで刺戟してくれるところもまた本作の魅力のひとつなのである。

小林拓音

RELATED

Kelly Lee Owens- Kelly Lee Owens Smalltown Supersound/カレンティート

Reviews Amazon iTunes

Maria Minerva- Sacred & Profane Love 100% Silk

Reviews Amazon iTunes

Maria MinervaLindstrom - Six Cups Of RebelSmalltown Supersound/カレンティート

Reviews AmazoniTunes

Razika- Program 91 Smalltown Supersound/カレンティート

Reviews Amazon iTunes

DiskJokke- Sagara Smalltown Supersound /カレンティート

Reviews Amazon iTunes

Idjut Boys- Cellar Door Smalltown Supersound/カレンティート

Reviews Amazon iTunes

Bjorn Torske- Kokning Smalltown Supersound

Reviews Amazon iTunes

Diskjokke- En Fid Tid Smalltown Supersound

Reviews Amazon iTunes

Lindstrom & Christabelle- Real Life Is No Cool Smalltown Supersound/P-Vine

Reviews Amazon iTunes