Oneohtrix Point Never Age Of Warp / ビート |
ジェイムス・ブレイクがミキシング・エンジニアを担当していると発表されたOPNの新作はほかにもアノーニなどゲストの情報が先行しているけれど、そのような人たちの影響が明瞭に聴き取れるようなものでもなんでもなく、はっきりとOPNの新作としか言いようがない作品に仕上がっている。そういったゲストの存在にはまったくと言っていいほど左右されていない。過去の作品と比べたときに手癖のようなものがあることは感じられる。しかし、昨年のレコード・ストアー・デイにリリースした2枚の『コミッションズ(Commissions)』もまたそうであったように、さらりとそれまでとは違うことをやってのけるのがダニエル・ロパティンなのである。いや、さらりとではなかった。そこにはいつもそれなりの苦闘があったことは今回のインタヴューでも確認することができた。どういうわけか彼はそういうことは正直に話してくれる。そこはいつもと変わらない。
『リターナル』『アール・プラス・セヴン』『ガーデン・オブ・ディリート』、そして、『エイジ・オブ』と、これが4回目のインタヴューである。こんなに何度も同じ人にインタヴューしたのは忌野清志郎以来である。最初はもういい加減、訊くことはないんじゃないかと思ったりもしたのだけれど、ダニエル・ロパティンが加速度をつけて変化しているせいか、今回がいままでいちばん面白いインタヴューになった気までしている。むしろ、彼の考えていることや一貫してこだわっていることがようやくわかってきたような気もするし、取材が終わってから、訊きたいことがもっと出てきたりもした。どこに向かって疾走しているのかはさっぱりわからないものの、それがこれまでに見たことのないどこかであることだけは確かだと言える『エイジ・オブ』について、彼の話はあまりにも多岐にわたり、量も膨大になってしまったので、新作について外側から見た部分をここに、そして内側から見たパートは次号の紙エレキング(22号)で公開することにした。通訳の坂本麻里子さんとは、なんというか、何度もタッグを組んできたせいで、じつはもうどこからがどっちで、どこからが誰なのかわからないほど一体化して取材に当たっているという感じなのですが、詳細な注のほとんどは彼女の手によるものです。(三田格)
パーソナルな表現とは逆に、「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。
■音楽ファンは必ずしも「リラックスしない音楽」を聴くこともあると思いますけど、あなたの場合は「リラックスしない音楽」を聴くことがあるとしたらそれは何のためですか?
ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):(ニヤリと笑ってうなずきながら)なるほど。だから……それぞれの「役目」を持つ音楽、そういうものがあってもいいだろうとは思うんだよ。機能を果たさなければならない音楽というか、聴いているうちに身体の速度が速くなって動いたりダンスしたくなる音楽だとか、寝つけないときにそれを補助して眠りに就かせてくれる音楽だとか。そういった機能的な音楽にはまったく問題がないし、実際のところ、この僕だってたぶん、音楽の持つ医薬的効果の恩恵をこうむっているんだろうしね。たとえば……スティーヴ・ローチなんかのレコードを聴きながら眠りに落ちる、だとか? けれども、僕にとってはそれは違う……だから、それは僕からすればもっとも冴えた音楽の使い方ではない、という。
■ほう。
DL:僕にとって、音楽は映画に似たものなんだ。要するに、ほとんどもう鏡に身体が映るかのごとく、聴き手に自身を見せてくれるもの……そのストーリーが観る人間の精神を映し出す鏡になっている、みたいな。で、音楽のもたらす効果にはどこかしら、ほとんどもう彫刻に近い面があるんだよ。だから、音楽を聴いていると空間を思い出させられる、音楽が空間をクリエイトする、というか……そう、自分を取り囲んでいる環境を、自分の置かれた情況を思い起こさせてもらえる、と。(音楽を聴くことによって)いろんな物事を気にしたり関心を持つようになるし、そうした物事というのはさもなければその人間のマインドによって優先事項から外され、どこかにしまい込まれてしまうものなんだよ。で、マインドはこう語りかけてくるわけ、「何も心配しなくていい。とにかく労働せよ」と。「つべこべ言わずに労働し、子供をつくり、それが済んだらとっとと消えろ」とね。
■(苦笑)。
DL:で、脳が求めているのって基本的にはそれでしょ?
■(笑)ええ、まあ。
DL:だけど、そうじゃないんだ。僕たちはもっとそれ以上を受けるに値する、僕はそう思っているから。で、音楽というのはどういうわけか、その点を思い出させてくれるとんでもない「合図」であって……本当に生き生きとした状態になる、真の意味で生きている状態になることを思い出させてくれる、とにかく途方もないリマインダーなんだよな。
■なるほど。
DL:で、他のみんなと同様に、その点は僕だってとっくに承知していてね。そりゃそうだよ、だって、やっぱりきついからさ。毎日毎日、こう……一切の悩みやしがらみから完全に解放された状態で、常時あの、「アウェアネス(気づき、知覚)」な状態で生きる、みたいな? そんなの不可能だから。それをやるには、何か補助してくれるものが必要だよ。だから若い頃は僕もサイケデリックなドラッグとかに向かったしね、その手の経験を得たいと思って。と同時に、その(ドラッグによる幻覚)体験もまた、興味深い形で音楽と組み合わさっていたんだけれども。ところが、歳を食うにつれて、自分でも悟ってきたんだよね……だから、「ほぼ音楽なしでも自分にはそういう経験ができるんだ」と。正直、すごく集中すれば、自分は音楽なしでそれをやれると思ってる。というのも、音楽はそれ以上にもっとエキサイティングだし……どうしてかと言えば、音楽というのはじつに具体的で特定な類いのアウェアネスだから、なんだよね。それは他の誰かさんがつくり出した構造だ、と。そんなわけで……うん、そうやって、他の誰かの知覚に基づいた文脈で自分を満たしてみるのは、興味深いことなんだよ。
■ふーん、面白いですね。他人のヴィジョンにすっかり自分を委ねる、とでもいうか?
DL:ああ……。
■自分とは違う人間の解釈や構造のなかに自らを解放する、というふうに聞こえますが。
DL:そう! だから、ひとつの関係を結ぶってことなんだよ。それにまた、他にもあり得るのは……
■ってことは、それだけその音楽を信頼していないといけないってことでもありそうですよね? 自分自身を委ねるわけだから。
DL:それもあるし、また一方で、ある種アヤワスカ(※自分で調べよう!)みたいに、飲み込んではみたものの吐いてしまう、みたいなことだって起こり得るわけだよね、肉体そのものがそれを求めていなくて拒絶反応が出る、という。で……自分にはどうしても入っていけない、そういう音楽も存在するんだよ。いや、とにかく自分でも入り込もうとトライはするんだけど、そこに何らかの……「壁」めいたものを感じ取ってしまう音楽、という。それって興味深いよ。ってのも、誰だってそういうふうに、様々なアートに対して、それぞれに異なる「壁」を感じるものなんだろう、僕はそう思っているわけ。でも、こと音楽に関して言えば、自分に「壁」を感じさせるものってまず大抵の場合、そこに「あるなんらかの特定の目的を果たすために作られた」感覚を伴うもの、なんだよね。そういうのには退屈させられる。
■なるほど。
DL:だから、それを聴いても感じるのは「あー、この音楽に対して聴き手の僕が何らかの行動を起こすように、そう、こっちをプログラムするべく何かつくっている人がどっかにいるんだな」というだけのことだし。で――僕はとにかく、音楽は開かれた、オープンなものであってほしい、みたいな。だから、たとえかなりしっかり構築されたものだとしても、オープンさを許す隙をそれがもたらすことはできるわけでさ。そうは言ったって、何も「すべての楽器は生で演奏されていなくてはいけない」とか……「誠意あるものでなければならない」といった意味ではないんだけどね。だって、不真面目なものだってオープンになり得るんだから。だけど、僕が好きなのは、とにかくここ(と、トントン胸を叩きながら)、ハートから生み出された感じがする、そういう音楽なんだ。そうである限り、音楽の構築の仕方はつくる人の勝手、いかようでも構わない、と。僕が感じるのはそういうことだね。
photo: Atiba Jefferson
レコーディング=記録物ですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。
■どんな音楽も時代と結びついていると思いますか? それとも時代と結びつく音楽と結びつかない音楽があると思いますか?
DL:うん、時代と結びついていると思う。その点は僕もとても興味があるところで、というのも、「とあるテクノロジー」は「とある時代」に発生するものだ、その発想が好きだからなんだ。その事実が、(ある時代に)生まれてくる音楽にとっての枠組みをクリエイトするものだ、という点がね。たとえば、ハープシコード。あれだって、初期段階の音楽機械だったわけだよね? それ以外にもハーディ・ガーディとかいろいろあったけど、あれらはマシーンだったわけ。マシーンだからこそ、ある程度の自律性を実現できた、と。要するに、演奏する者とサウンドとの間の分離を生むことができた。で……その分離は、とても興味深いものでね。だろう? とても面白いよ。
■なるほど。
DL:自分でも、なぜああいった「ミュージカル・マシーン」みたいなものに心惹かれるのか、そこはわからない。ただ、どういうわけか、あの手の機械に僕は強く興味をそそられる。だから……あの手の機械にある「冷たさ」というのかな? 機械が作り出す、パフォーマーとの間の距離、ということ。それに、そこから生まれるサウンドもとても興味深いしね。で、僕たちが素晴らしいと称えるものって、多くの場合……さっき話していたような、「苛烈なまでにパーソナルな表現」みたいなものなわけ。僕たちはそういう表現が大好きだし、それはやっぱり、「すごい! これはまさしくこの人間そのものの表現だ!」と思えるからなんだよね。たとえば、ジャズの偉大な即興奏者を何人か思い浮かべればそれはわかるだろうし、彼らのやることを僕たちはとても高く評価している、と。たしかに、あれはとんでもなく素晴らしい表現だよ。ところが、それとはまたまったく別物の……フィーリングみたいなものを受け取ることもある、というのかな、(パーソナルな表現とは逆に)「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。
■ほう、そうなんですか。
DL:うん。どうしてそう感じるかは自分でもわからないんだけどね。
■特定の時代に引き留められていない音楽、いわゆる「タイムレスな音楽」というのは存在すると思いますか? いまから50年前も、これから先の10年後にも、人びとに同じく聴かれている音楽はあるでしょうか。それとも、やはり作られた時代の色味を音楽はある程度は帯びてしまうもの?
DL:僕が思うのは、何かがいったん「作られて」しまったら……それは変化するものだ、ということだね。それってとんでもないことだけどね。だから、たとえばレコーディング=記録物ですら……それってとても安定したパフォーマンスのアイディアであって、それこそ「物」なわけでしょ? だから、音楽(という形にならない/目に見えないもの)を物体化したもの、みたいな(苦笑)。そうやって音楽を物にしている、という。ところがそのレコーディングですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。
■それはいわゆる、テープの劣化とか、そういうことですか?
DL:ああ、それで変化するってこともあるだろうね。ただ、考えてもごらんよ!――だから、テープ云々のせいで変化するんじゃなくて、それを聴く人びとによって変化が起こる、と想像してみてごらん。その音楽にまつわる文脈が一切存在しない時期に、人びとがそれを聴くだとか……あるいは長い歳月が経過して、それこそ何千年も経った後では、人びとにその音楽は伝わらないかもしれないよね、僕たちにもはや楔形文字や象形文字が理解できないのと同じように。で、過去を理解する能力が自分たちには欠けている、その事実からは多くを学べると思うんだよ。というのも、そこから僕たちの本質へと導かれるわけだから。
■はあ。
DL:だから、物事は保存されないんだ、と。で、音楽にだってそれは同様に当てはまると僕は思っていて。音楽はクリエイトされるし、その音楽が存在した時代に対して何らかのコメントを発している、と。けれども、そのアイディア自体、増強されていかなくちゃならないんだよ。というのも、時間がつねにそれを削り取ってしまうから。時間というのは、だからこう、奇妙な金槌みたいなものなんだよな。
■(笑)なるほど。
DL:ゆっくりと、本当に少しずつ、時間は物事の意味合いをノミで削っていってしまう。で、思うにこれはとても……僕たちの精神の機能の仕方のなかの、たぶん悲劇的な部分なんだろうね。だけど、それと同時にエキサイティングな部分でもあるんだよ。というのも、(変化するということは)物事は何かをクリエイトしていく……というか、物事は新たなフォルムへと成長・発展していく、ということだし、その形状なら僕たちにもコントロールできるからね。僕たちにもそれを抑制することができる、と。
■(音楽や記録されたものも)有機物みたいなものだ、と。
DL:っていうか、それ以外に有り様がないよね。僕たちの存在そのものの枠組みがすっかり変わらない限り、そうある以外ないんじゃないかと思う。それはほとんどもう、この宇宙(ユニヴァース)の本質だ、という気すらするよ、僕にとっては。
■ユニヴァース、ですか。……(苦笑)は、話が大きいっすね。
DL:(手をパンパン叩いてウケて笑っている)ああ、僕はスケールの大きい話は大好きだからね! 普遍的なストーリーが。
マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。
■『グッド・タイム』はいままでのどのアルバムよりもダイナミックで伸び伸びしてると感じました。逆にいうと普段はもっと神経症的に曲を作っているということですよね?
DL:(笑)ああ、そうだね。ハッハッハッハッハッ……!
■リラックスできないタチで、もっと強迫観念めいたところがある、みたいな?
DL:うん、もちろん。ほら、見るからにそうでしょ?(と、ソファにだらーっと身を預けた完全なリラックマ状態で、わざと無表情な口調で冗談めかす)
■(笑)。
DL:(真顔に戻って)まあ、自分にはちょっとノイローゼ的なところがあるんだろうね。でも……どうしてそうなったかは、自分でもわからないんだよ。ただ、僕は移民家族の一員として、ボストンで育てられたわけで……自分たちみたいな家族は周囲に他にあんまりいない、そういう土地で育った、と。だから、当時うちの家族が暮らしていたエリアでは、僕たちはちょっとストレンジな存在だったんだよ。で、僕の両親は金銭面でものすごく逼迫していたし、我が家は物に恵まれてはいなかった。で……だからこう、つねに「恐れ」の感覚がつきまとっていたんだよな。というのも、両親は故国を捨ててアメリカに渡ったし、彼らは見知らぬ国で新たな環境に順応し、しかも僕ら子供たちを養わなければならなかった。だから、彼らに「リラックスしてほっと一息」なんて余裕はまったくなかったんだ。というわけで――そりゃそう、そういった面が僕に影響を残すのは当然の話だよ! いや、だから……僕の生い立ち云々をいったん脇に置いてみようか。母親が僕をお腹に宿していたとき、両親はソ連から旅立とうとしていてね。
■ああ、そうだったんですね。
DL:彼らはソ連を脱出しようとしていた。だから「ホリデーでアメリカに観光」なんてものじゃなかったし、実質、嘘をついてソ連から逃げ出さなくてはならなかったんだ(※かつてソビエト連邦は海外移住するユダヤ人に高額な出国税等を課していた。詳しくは、移民の自由を認めない共産圏国家に対する最恵国待遇の取り消しを含む米議院ジャクソン=バニク修正条項を参照されたし。同条項が効力を発した1975年以後、ユダヤ系ロシア人のアメリカおよびイスラエルへの移民が増えた)。当時は閉鎖状態で、ソビエトから出国するのは難しかったからね(※OPNは1982年生まれのはずなので、ブレジネフ時代)。だから……母親は相当にストレスを感じていたに違いないよ。で、そういう心理状態が(お腹の)赤ちゃんにまで影響したか? と言われたら、僕は「きっと影響しただろう」と、そう思っていて(笑)。
■(笑)はい。
DL:というわけで、僕はそういうものを受け取ったんだし、おそらくそれって、今後もとにかく付き合っていくしかないんだろうな、と。
■なるほど。そんなあなた自身は自分がアメリカン・ドリームを体現したと思いますか?
DL:まあ……僕の両親からすれば、僕のやってきたことってものすごい、クレイジーな話だ、みたいなものだろうね。というのも……自分たちのような家族、海外に渡ったロシア人ファミリーは僕たちもたくさん知っているけど、そうした移民ファミリーの目標はいつだって、「子供たちにより良い生活を」なんだよ。それって典型的な移民家族のゴールだ、と言っていいと思う。……っていうか、移民に限った話ですらないのかもしれないよね? もしかしたら、多くの家族のゴールがそれ、「子孫に良い生活を」なのかもしれない。ただまあ、移民にとっては、「わたしたち家族はこの地に移住する。我々(親)はそこで犠牲を払わないといけないのは承知している。けれどもそのぶんお前たち(息子/娘)は、もっと良い暮らしをするための機会を手にすることができる」みたいな。
■はい。
DL:というわけで……まあ、たぶん少々ひやひやさせたところもあったんだろうけれども、いまのこの時点では、両親はこの僕がどうにか上手くやっていて、しかも自分のやりたいことをやれるようになった、その事実をとても喜んでくれていると思う。その点を彼らは誇りに感じているし……うん、その意味ではこれもまた、「アメリカン・ドリーム」のなんらかのヴァージョンなんだろうね、きっと。ただ、それはまた「アメリカの悪夢」でもあるわけでさ。
■(苦笑)タハハッ!
DL:いやだから(笑)……まあ、少し前に、あるドキュメンタリー作品を観ていたんだよ。オレゴン州に存在したカルト集団、ラジニーシプーラムを追った内容なんだけど。
■ああ、『Wild Wild Country』のことでしょうか?(※2018年3月にネットフリックスが発表したドキュメンタリー。インド人宗教家・神秘思想家バグワン・シュリ・ラジニーシこと「オショウ」と、彼が1981年にオレゴン州の荒れ地に建設した巨大なユートピア型コミューン/実験都市「ラジニーシプーラム」、バイオテロ事件などの同カルトにまつわるスキャンダルを扱った内容)
DL:そう、それ! あれは奇妙なドキュメンタリーで……作品としての出来そのものは、じつはそんなに良くはないけどね。というのも、作者の意図に沿って観る側の考え方を操るようなところが少しある作品だと僕は思うし。ただ……あそこで何が起こったか、それを観ていて(目を丸くする)――要するに、インドからやってきた新興宗教のリーダー、兼マーケティングのものすごい天才みたいな人物がいて、彼のもとに集まり彼に指導された、リッチな層のヨーロッパ人がいたわけ。で、彼は富裕層の欧州人はもちろん金のあるアメリカ人からも祝福されたし、そうやって彼らはオレゴンのなんにもない辺鄙な土地に結集した、と。そんなことが起こり得る国って、他にあったら教えてもらいたいもんだよ! あれはもう、完全なる……一種の気違いじみた妄想であって、それってアメリカでしか起こり得ないものだ、と。
■なるほど。
DL:で、この僕だってアメリカからしか生まれ得ないわけ。ご覧の通り、僕はこんな奴だしね。だから……良いものだけではなく同時に悪いものも一蓮托生で手に入ってきてしまう、そういうことだってあるんだ、みたいな。僕だって、何も……もちろん、それって厄介で面倒だよ。だけど……アメリカは非常におかしな場所なんだ、と。そこではたくさんの出来事が起きているわけだけど、そのほとんどは、外部の人間の目には100%の狂気の沙汰と映るようなものばかり、と(笑)。
■(苦笑)はい。
DL:で、それが世界全体にとっての利益になる、そういうことだってたまにはあるんだよ。ただし、多くの場合、実際は世界に害をもたらしている、と。僕がこの「アメリカン・ドリーム」というものに対して感じるのは、そういうことだね。
■サウンドトラック・メイカーとしては、いまはどこらへんがあなたのライヴァルでしょうか?
DL:ああ、ライヴァルか! 良いね~!(満面の笑顔)
■『ナチュラル・ウーマン』のマシュー・ハーバートか、『ファントム・スレッド』や『ビューティフル・デイ』のジョニー・グリーンウッドが当面はライヴァルかな、なんて思いますが。
DL:マシュー・ハーバート! 彼はめっちゃ好きなんだよなぁ! それってドイツ映画?
■いや、チリ人監督作品だと思います。
DL:へえー、チリなんだ。いや、その作品はまだ観てないな。ただ、音楽は聴いたよ。だから……マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。
■(熱心な口ぶりに気圧されて:笑)わ、わかりました。
DL:とにかく、彼の『ボディリー・ファンクション(Bodily Function)』(2001)、あれは僕のオールタイム・フェイヴァリットのひとつだ、みたいな。でまあ、その、ライヴァルってことだと……ところで、「ライヴァル」って良い言葉だよね? 楽しいし、それこそスポーツ選手の話をしてるみたいでさ(笑)。
■はっはっはっはっはっ!
DL:だけど――そう言われて自分が想像してみたいのは、むしろある種のクレイジーな現実だな。で、その世界では僕のライヴァルはハンス・ジマーだ、みたいな。
■(笑)ええ~っ、大きく出ましたね!
DL:(笑)うん。っていうのも、僕は本当に……ある意味、ちんまりしたスコアはやりたくないっていうのかな、そうではなくて、マジにスケールの大きいスコアをやってみたくてさ。
■超SF大作、ファンタジー巨編、みたいな?
DL:うん、本当に、本当にドカーンとでかい作品をやってみたい。それが自分にとってのゴールだし、もしも他の人びとが僕にやれると信じてくれないとしたら――まあ、そりゃ僕にはなんにも言えないよね。(独り言のようにつぶやきながら)ただ、見てろよ、いつの日か僕はやってやるから、と。
■お話を聞いていると、あなたってじつはかなり競争意識の強い人みたいですね?
DL:ああ、相当競争心が強いよ(ニヤッと笑う)。
■(笑)ちょっと意外。
DL:(笑)いやまあ、それは別としても、ハンス・ジマーは優秀だよ。彼って、少しこう……誤解されてるんじゃないかと思う。ってのも、彼ってとても……いわゆる「コマーシャルな作曲家」なわけじゃない? でも、彼の作品には信じられないくらいすごい瞬間がいくつかあるんだって! たとえば、僕は彼の担当したスコア……あれはすごくデタラメな映画で……たしかジョン・ウー作品だったと思うけど、『ブロークン・アロー』(1996)ってのがあって(※ジョン・ウーのハリウッド2作目のアクション映画)。出演はジョン・トラヴォルタに、あの俳優……『ミスター・ロボット』に出てた人……あ~、名前はなんだっけ……
■クリスチャン・スレイター?
DL:そう(笑)!……でまあ、『ブロークン・アロー』のスコアはじつにクールだ、と。しかも、実際『エイジ・オブ』にも少々影響しているんだよね。っていうのも、あのスコアには一種カントリー風なトゥワングがあるし、ややこう、「西部開拓期」なヴァイブがある、みたいな?
■(笑)。
DL:あのスコアは本当に好きなんだ。ある種「コズミック・ウェスタン」とも言えるスコアだから。要するに、エンニオ・モリコーネ風なんだけど、そこに本当にコマーシャル性の高いクサさを伴っている、みたいな。大好きだね(ニンマリ笑う)。
photo: Atiba Jefferson自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。
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■『エイジ・オブ』はこれまでになくポップな内容だと思います。これはでき上がったものが自然とそうなったのか、それとも意図していたことなんですか?
DL:ああ、意図的だったね。というのも、自分の成長期の一部に……ベックの『オディレイ』(1996)が出たときのことを覚えているんだよ。あそこで「ワーオ! これは……何もかもが1枚のなかにひっくるめられているな」と感じた。ダスト・ブラザーズの折衷性、みたいな。だから、あのレコードの相当多くの面が、長いこと自分の頭の片隅にひそかに居座っていた、という。で、僕が自分自身のキャリアをさらに奥へ、もっと深くへ辿っていくにつれて、それこそ、もう後戻りするのは無理、みたいな地点にリーチするわけだよね。自分はもうこれ以外の何者にもなれない、「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」を続けるだけだ、と。ただ、僕は本当に、音楽全般に魅了され夢中になっているんだよ。それは別に「スタイルとしての音楽」ってことではなくて、なんというか、ある種の、自分自身のステージ(段階)としての音楽、という。だから、ということは、僕には――何も「これ」といった特定のタイプの音楽をやろうってことではないけど、だから、そう……自分の思うまま、自分は好きな夢を夢見ることができるんだ、みたいな? 思いつく限り、どんな楽器を弾いても構わない、と。そんなわけで、僕はジャンルの境界線を使って遊びたいんだ。そこでは、僕は歌に自らを譲ることになるし、そこで自分に歌を書かせるわけだけど……けれども、物事は変化するし、物事は変化したっていいものなんだよね。それに、ジャンルにしたって多かれ少なかれ柔軟にこねられる、それこそプラスティックみたいなシロモノなんだし。
■なるほど。
DL:で、以前の自分というのは、すごく目まぐるしいことをやってたんじゃないか? と思っていて。(指を素早くパチン、パチン! とスナップさせながら)基本的に、ひとつの小節あるいは拍子から次へとものすごいスピードで移っていく、みたいな。ところが、いまの時点での僕はそういうやり方にあんまりハマってはいないんだ。それより自分にはゆっくりしたペースと思える、そっちに入れ込んでいる、というか。だからもっとゆったり緩い変容のペースというのか、(1小節刻みではなく)1曲ごとに変化していく、もしくはひとつの曲のなかで大きなセクションごとに変わっていく、と……っていうか、じつはそれですらないかもしれないな? このアルバムは「一群の歌が集まった」ものだし、あれらの曲群はそれぞれ異なる色をつけられているかもしれないけれど、やっぱりそれ自体でちゃんと「歌」になっている。だから、アイディアという意味では、あれらの歌はそんなに素早く急激に変化しないんだよ。
■アノーニやデイヴィッド・バーンをプロデュースしたことが影響しているのかな? とも感じましたが。
DL:100%そう。実際、自分がやっていたのはそれだったんだし(笑)――だって、過去2、3年くらい、僕はずっと働いていたんだし。とにかく仕事、仕事、と。そんなわけで、自分でもちょっと感じるんだよ、その意味では、こう……自分は街路に立ってスープを煮ているんだな、みたいな。
■(笑)。
DL:いや、だからさ、そうやっていれば、他の人びとが何を欲しがっているのか学ぶわけだよ、そうじゃない?(プフッ! と噴き出し苦笑) だから、自分のためではなく、他の人たち向けにスープを料理する、という。そうすれば、「ああ、彼らはニンジンを入れると気に入るのか」などなどわかるっていう。
■タマネギを入れたほうがいいかも、とか。
DL:(苦笑)そう、その通り! で……また逆にそこで教わったのが、人びとが求めていないものは何か? ってことでもあってさ(爆笑)! クハッハッハッハッハッ……
■ああ、そうでしょうね(笑)。
DL:(笑)僕はフリーク、変わり者みたいなものだし、(指をパチッ・パチッと小気味良くスナップさせながら)自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。けれども、こう、一緒に仕事した人たちを相手に、総合的な意見みたいなものを調査したところ(苦笑)、ヒッヒッヒッヒッ!……彼らに言われるんだよね、「うん、そこ、良い! そのパートを、ただ繰り返していってもらえる?」と(笑)。で、僕はもう(予想が外れてやや意外/ちょっと違うんだけどなぁ? という感じの、微妙で皮肉まじりな表情を浮かべながら)「なるほどねー、承知しました! うん、それは素晴らしい思いつきだ」みたいな(苦笑)。
■(笑)。
DL:たぶん、僕には必要なんだろうな……だから、アノーニにデイヴィッド・バーン、そのどちらからも――それにトウィッグス(FKA Twigs)もそうだけど、彼らみたいな人たち全員から「ねえ、そこの箇所、それをとにかくちょっとループしてくれない?」と言ってこられたら、そりゃやっぱり、僕はたぶんそこをループさせるべきなんだろう、と。彼らは優れた人たち、自分たちが何をやっているかをちゃんと把握している人びとだからね……クフッフッフッ(思い出し笑いしている)。
■あなたのやることは凝縮度が高すぎなのかもしれませんね。少々水で薄めないと口に合わない、みたいな。
DL:ああ、ほんのちょっとだけ、ね(笑)。でもさ、じつを言えば、そうやって希釈することは自分でも気に入っているんだ。それって何も「他人のニーズに合わせる」だけのことではなくて、ほんと、自分の音楽をああいう形で耳にすること、それってリフレッシュされる体験だなと我ながら感じる、そこは認めざるをえなくて。だから、とにかくその聞こえ方は……ここのところの自分の物事の考え方にマッチしている、そう思えるんだ。
ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。
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■『エイジ・オブ』は前作のハードなところが減って、全体に艶やかさのようなものを感じます。『ガーデン・オブ・ディリート』は劣悪な環境、密室恐怖症的な地下環境が作品に影響していると言ってましたが、今回はいい環境で録音できたということですか?
DL:うん、今回はガラス窓がたっぷりだったよ! それこそ、前庭にある木立を眺めつつ作業する、みたいな。
■そうなんですか! それはずいぶん違いますね。
DL:ああ。この作品はとても奇妙な家でレコーディングしてね。
■(前作時の)地下牢(ダンジョン)ではない、と。
DL:うん、地下牢はもう後にした(笑)。で、マサチューセッツ州にある私邸に行って。とても変わった家なんだ。ガラス製なんだけど、円形でね。四角くないんだ。で、なかにいると、あの建物がとても奇妙なフィーリングを醸し出してくるっていう。日中に作業している間はとてもリラックスできるんだよ。というのも、ハリネズミだの、いろんな動物が見られて……ハリネズミにコマツグミ、青ツグミにおかしないろんな鳥たち、リスだのが木立で過ごしている様子が見えたし、それに、近所の住人たちも見えたっけ(笑)。近所の隣人たちは興味深かったな。じつは、彼らがいちばん面白かったかも。それはともかく、その一方で、これが夜になると、ガラス張りの家で暗闇のなかにいるととても無防備に感じるんだよ。それって、とても奇妙でね。というのも、ああしたガラスでてきた家に暮らすのって、こう、一種の特権、贅沢だと考えられているわけ。ところが、僕からすればあの家での暮らしって悪夢のように思えて。というのも、いったん家のなかの照明が点くと、外の周囲は何も見えなくなってしまう。で、誰かに監視されてるんじゃないか、そんな気がしてくるんだ。たとえ実際は外に誰もいなくても、いつ何時、誰かが飛び出してくるんじゃないか? みたいな気がする、と(苦笑)。というわけで、あそこは日中は地下牢ではなかったけれども、夜になると悪霊っぽい性質を伴う場所だったね。うん、悪霊っぽいところがあった。
■(笑)。それって、マイケル・マンの映画に出てきそうな家ですね。『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986)って覚えてます?
DL:うん、もちろん。
■あれにも出てきますけど、マイケル・マン映画ってガラス張りで外から中やアクションが丸見えの住宅をよく使いますよね。カメラがその外にあって、それを追っていく、みたいな。
DL:とんでもないよねぇ。
■でも、そういう環境で実際に暮らすのは、さっきもおっしゃっていたように、相当怖いでしょうね。自分は避けたいです。
DL:怖過ぎだよ。僕には怖過ぎ。
■ドミニク・ファーナウ(プルーリエント)をヴォーカルに起用するというのはかなり突飛な気がしますが、これはあなたのアイディア?
DL:っていうか、考えてもごらんよ、彼の方から「お前の新作にぜひゲストで参加したいんだけど」って言われたら、ビビるよね(笑)。アッハッハッハッ……
■(笑)たしかに。
DL:でもまあ、彼のヴォイスを使う、あれは僕のアイディアだったんだ。ってのも、僕にとっての彼というのは……だから、自分が自作レコードのコラボレーターに求めることって、彼らのとても強力で、風変わりな、パフォーマーとしての側面なんだよ。だから、彼らが何かやるのを聴くと、自分の全身が思わず総毛立つ、みたいな人たちだね。で、プルーリエントというのは、僕からすると……マソーナ(=山崎マゾ、マゾンナの英語読み)と同じところから出てきた人、みたいなもので。マソーナはもう、これまで出てきたノイズ・アーティストのなかでもほぼベストに近い、そういう人なんだけどさ。で、プルーリエントは、この国(アメリカ)のなかで自分にゲットできるそれにもっとも近い存在だ、と。彼、ドミニクはすごく仲の良い友人でね。長年にわたってとても多くを教わってきたし……っていうか、ドミニクがいなかったら、そもそもマソーナのことすら僕は知らなかっただろうね。でも、ドミニクにはまた、彼は詩人だ、という考え方もあるんだよ。だから、彼はただシャウトするだけの人ではなくて、彼の発する言葉、それ自体ももう、僕にはじつに強力なもので。たとえば、彼は……アルバムの“Warning”って曲で歌っているけど、そこで「♪ガラスの家で 最低最悪だ(in a glass house / it's disgusting)」って言っているんだよ。
■あー、なるほど(と、ガラスの家での体験談を思い出す)、ハハハッ!
DL:で、「♪警告・警告・警告……!(warning!)」とえんえん繰り返す、という。ふたりでただ雑談していて、僕が夏に体験したことだとか、僕たちが潜っていたクソみたいなことのあれこれを彼と話していたんだけど、そこから彼が引っ張り出してきたのがあの歌詞だったんだ。で――彼に自分のレコードに参加してもらったのは、僕にはとてもスペシャルなことなんだ。というのも、彼は古くからの友人だし、僕からすれば彼はこれまで出てきたなかでももっとも才能にあふれたヴォーカリストのひとり……マイク・パットンやマソーナあたりと同じ系列にいる、そういうヴォーカリストなんだ。いや、もちろん「いろんなスタイルを幅広くこなす」っていう意味では、「すごくレンジが広い」とは言えないタイプの人だよ。ただ、彼が得意とすること、そこに関しては、彼はすごい、非凡だと僕は思ってる。
■なるほど。では逆にあなたにとってポップ・ソングの作曲家ベスト3は誰ですか?
DL:おお~!……(と、やや「難問!」という表情。真剣に考え込んでいる)……………………ワーオ! その答えは、しっかり考えさせてもらわないといけないなぁ。
■(あまりに悩んでいるので)じゃあ、これはいずれまたの質問、ということで。あなたはこれまでも、ポップ・ソングを書くことに興味を示してきましたけれど、アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーにも曲を書いてみたいですか?
DL:ああ、トライはしてみるよ。だから、新作に“The Station”って曲があるんだけど、あれはアッシャーのために書いた曲だったりするし。
■ええっ!? マジですか。
DL:(笑)うん、ほんと! もともとアッシャー向けに書いた曲だったんだよ。だから……まあ、この場では、「最終的にアッシャーが歌うことにはならなかった」という程度に留めておこうか。
■(笑)。
DL:ただまあ……はたしてアリアナ・グランデ向けの曲を自分に書けるか? そこは自分でもわからないけど――ただ、挑戦を受けて立つことに、自分は絶対にノーとは言わないね。でも、自分はいわゆる「名人」ソングライターのレヴェル、まだそこには達していないと思ってる。ってのも、あの手の(ビッグなポップ・スター向けの)歌っていうのは、決まった類いのピークや価値観、インパクトみたいなものの設計図を伴う作曲である必要があるし、そこには僕はまったく興味がないんだ。だから、そういった、ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。いやほんと、その手法に対する僕の姿勢はつねに「それは良くないって!」ってものだったし、「やっちゃいけないって……やっちゃダメだろ!」みたいな(苦笑)。
■(笑)なるほど。
DL:(笑)あーあ、やれやれ……でも、聴くこと自体は自分でもエンジョイするけどね。あの手の音楽のいくつかは、ほんと、聴いて楽しめる。そうは言っても、それは「曲そのもの」を自分が気に入ったというより、むしろ「(歌い手、演奏者なりの)パフォーマンス」が好きだ、ってことなんだろうけど。その意味では、セリーナ・ゴメズのヴォーカルは大好きで。
■(笑)そうなんですか!
DL:ああ、彼女の声はすごくクールだよ! あのヴォーカルにはどこかへんてこな、ストレンジなところがあるからね。それから……ザ・ウィーケンドも大好きだし。彼はすごくかっこいいと思う。そうは言っても、彼は(先ほど言ったようなポップ勢とは)違うんだけどね。ってのも、スタイルという意味で、彼は非常に「なんでもあり」でオープンだし、受けてきた影響もとても多彩で、とっちらかっててほんとクレイジー、みたいな。だから、彼はとても新鮮なポップ・スターの一種って感じがする……すごく最新型のマイケル・ジャクソン解釈のひとつ、というのかな。でもまあ、概して言えば、僕はそんなにポップ・ミュージック好きってわけじゃないね。
■そんなアメリカのポップ・チャートにいちばん足りないものはなんだと思いますか?
DL:スクリーミング! プルーリエントのやってるような、スクリームが足りない。で、いま自分がこうして指摘したから、たぶんこれからスクリームが流行るだろうね。
僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね。
■今作において、全体に低音を入れないのはなぜですか?
DL:サブ・ベース音はあの家には持ち込まなかったよ。あの、ガラス製の家にはね。それをやったら、ガラスが割れていただろうし!(笑)。
■(笑)マジですか。
DL:あの家を内破したくはなかったし、それに「この住宅に被害を与えた」ってことで多額の罰金を払いたくもなかったから。
■ガラスが割れたら危ない、と。
DL:そう。誰にもケガしてほしくなかったし、ガラスが割れて追加料金を請求されるのはご免だったし。
■でも、そもそもなんでガラスの家なんかでレコーディングすることにしたんですか? 相当に奇妙なシチュエーションですよね(笑)?
DL:どうしてだったんだろう? マジに、自分でもわからない(苦笑)。っていうか、とにかく一時的にニューヨークから離れたかったんだ。でもまあ、あれ以外のどこか他の場所をレコーディング場所に選ぶことも、たぶん可能だったんだろうけど……あの家は『エイリアン』ぽっかったんだよ、エイリアンの卵みたいなんだ。だから見ているぶんには楽しくて……
■ガラスのドーム型の建物、ということ?
DL:そうだね、ドームなんだけど、本体は白いコンクリートでできていて、それをガラスが囲っている、みたいな。とても奇妙な建物だよ。
■それは、築は割と最近の新しい建物? それとも60、70年代頃の古い建物なんでしょうか。
DL:70年代に建てられたものだと思うよ。あの名称は「Earth」……なんとか(※いわゆる「アース・ホーム」のことと思われます)というものだったな。正式名称はとっさに思い出せないけど、うん、建築の発想としては、「自然に溶け合った家」というものだったんだ(笑)。周囲の丘陵の描く勾配に合わせて曲線を描く、みたいな。だから、トールキン小説に出てくるホビットの住居、という感じ(笑)。
■なるほど。ちなみに、『グッド・タイム』の後で「FACT Magazine」に公開したミックステープがありましたよね? あそこにあったあなたの「お気に入りの音楽」、ジョルジオ・モローダー他の映画絡みの音楽を聴いて、一種サントラ『グッド・タイム』の参照リストのようにも感じたんですが、ああいうもの、ちょっとした参照点だったり影響になった音楽は『エイジ・オブ』にも存在しているんですか?
DL:――ああ、少しあるんじゃないかな? だけど、直接的なものではなくて……だから、我ながらおかしいんだよな~。ってのも、自分が(レコーディングしていた頃に)聴いていた音楽って、ほんとストレンジなもので。たとえば、サシャ・マトソン(Sasha Matson)って人のレコードがあったよ。彼はヘンなテレビ向け音楽を書くコンポーザーなんだけど(※いわゆるB級映画/テレビの音楽を手がけてきた作曲家?)……素晴らしいレコードを作ったことがあったんだよ、こう、ペダル・スティールと室内管弦楽団が合わさった、みたいな内容の。要するにカントリーっぽいんだけど、と同時に……モダンなジョン・アダムスみたいに聞こえる、みたいな?
■はっはっはっはっはっ!
DL:――いやいや、そんなふうにバカにしないでよ! あれはマジにクールなレコードだって!
■了解です。
DL:というわけで、その時点の自分は「よし、サシャ・マトソンみたいなレコードを作るんだ!」と息巻いていたわけだけど――僕のお約束で(笑)、そこから一気にまったく違う方向へと転換してしまって、結局、サシャ・マトソンっぽいレコードを作るには至らなかった、と……。で、ドリー・パートンなんかを聴いていたっていう。だから、自分でもよくわからないんだよ。今回の作品はかなり奇妙で、要するに、そんなに過度に……戦略的に作ってはいない、みたいな。
■「MYRIAD」の予告ヴィデオにちらっと日本のゲーム・ソフト『MOTHER』が映りますけれど――
DL:(ニヤッと笑う)。
■これはなぜ? というか、あのヴィデオ自体はあなたが制作したわけではないでしょうが……
DL:いや、ヴィデオに使われたイメージはすべて僕が選んだものだよ(笑)。
■あのゲームが大好きだから使った、とか?
DL:いいや。っていうか、アメリカではあのゲームは『EarthBound』って名称なんだよ。で、まず、答えA:(ダーレン・)アロノフスキーの『マザー!』が好きであること、そして答えB:AIが自分の母親に対してノスタルジーを抱く、要するに僕たち(人間=AIの作り主)をAIが懐かしむという発想ってすごいな、と。だから、僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね(※ここは、おそらくキューブリック/スピルバーグの『A.I.』のことを話していると思います)。でまあ……とにかく「MOTHER」って単語自体、はてしなく深いし、しかも面白いものだし。それに、あの(ゲームの)カートリッジに描かれたグラフィック、あれが大好きなんだよな。地球のイメージが使われていて、すごく綺麗。あれは素晴らしいよ。
■『MOTHER』の作者は生みの母親を長いこと知らなくて、有名になったことでやっと会えた、という逸話があるんですよ。そのことが反映されたゲームらしいです。
DL:(目を丸くして)へえぇ~~、そうだったんだ!? それはすごい話だね!
※『エイジ・オブ』のコンセプトについて語った後編は6月27日発売の紙エレキング22号に続きます。