Home > Reviews > Live Reviews > Oneohtrix Point Never- @NYパークアベニュー・アーモリー
昨晩、マンハッタンのアップタウンにあるパークアベニュー・アーモリーでOneohtrix Point Never(以下、OPN)の待望のライヴ・パフォーマンスが開催された。アーモリーというのは米軍の元軍事施設のことで、そこをリノベーションして作られた会場は、NYでも有数のスケールの大きなイベントスペースのひとつ。19世紀当時の重厚で綺羅びやかな内装がエントランスまわりの空間に残されつつも、メイン会場は広々とした大きなハコになっていて、数々の世界的なアーティストのパフォーマンスやアートショーなどが開催されている。
5月25日に発表になる2年半ぶりのオリジナル・アルバム『Age Of』を引っさげての今回のOPNの単独ライヴは、アーロン・デヴィッド・ロス(Aaron David Ross)、ケリー・モラン(Kelly Moran)、イーライ・ケスラー(Eli Keszler)の3人のミュージシャンたちを引き連れての初のアンサンブル形式になると聞いていた。開催が決定していた2日間分のチケットは販売日に即刻ソールドアウト、すぐに追加公演も決まった。才能溢れるアーティストたちとの新しい試みになるであろうこのライヴに対する期待値は、品格のある会場のチョイスとともに、開催前からどうしたって上がっていた。
当日の会場は、20時ドアオープンなのにもかかわらず、19時半から観客が列を作りはじめていた。その観客層は幅広く、若いキッズたちだけでなく、ジャケット姿で普段はクラシックやオペラを聴きに行っていそうな年配のカップルまでが集まっていた。ふと、本当にいいレストランには老若男女のお客がいるものだと教わったことを思い出した。ブルックリンのアンダーグラウンド・ノイズ・シーンからはじまり、〈Warp〉に移籍し、FKA ツイッグスやデヴィッド・バーンやまでを手がけて「メジャー」になったOPNがいま、こうも幅広い層に受け入れられるよう進化していることが印象的だった。
会場内は一人ひとりに席が与えられた着席式で、天上には2つのスカルプチャーが浮きながら回っていた。舞台上にはいくつかに分裂したスクリーンが設置され、床には大きな黒いビニール袋が舞台装置のように横たわる。しかも観客各々の手元には解説書のようなブックレットが置かれていて、まるでシアターのような空間でパフォーマンスははじまった。
ケリー・モランが奏でるチェンバロ音に続いてイーライ・ケスラーのマジカルなドラム音が巨大な会場に響き渡り開始早々観客を一気に飲み込んだ。音に息吹が吹き込まれているような彼らの演奏はエフェクトをかけた音でさえ生々しく感じられて、複雑に入り組んだOPNの曲をまるで目の前で解体してみせてくれているような感覚に陥る。そして曲目が進むにつれてOPNことダニエル・ロパティンが弾き語る歌声がさらに観客をぐっと引き付けた。そう、今回ダニエルは多くの楽曲を自ら歌っている。アメリカーナ調の歌を歌うダニエルの姿は、「カオスで実験的なエレクトロニック・ミュージック」といったOPNのイメージを裏切り、多くの観客を驚かせたかもしれない。でも、最新アルバム『Age of』で彼が描く人間が生み出す4つの時代「ECCO」「HARVEST」「EXCESS」「BONDAGE」を表現する上で、このマシーンが作ったようなサウンドと組み合わされたダニエルによる「ヒューマン」な声は、欠かせない主要な要素となっていた。
今回のライヴではプロローグにはじまり、この4つの時代を描いた曲目を順次演奏し、エピローグで締めるというシアトリカルな構成で進められたのだが、ブックレットによる各時代の解説、変化する舞台演出、“Black Snow”ではPVと同じダンサーたちの登場と、アルバムをよりわかりやすく立体的に表現するものとなっていた。
また豪華なゲストの登場も華を添えた。“Same”ではダニエルに「叫びのジミー・ヘンドリックス」と言わしめたプルリエント(Prurient)がシャウトし、エピローグ直前には“Last Known Image Of A Song”でケルシー・ルー(Kelsey Lu)が鳥肌が立つようなチェロのソロを奏でた。
エピローグまで終わると会場中は拍手に湧き、スタンディングオベーション。それに呼応して“Child Of Rage”と“Chrome Country”の2曲が追加演奏されファンを喜ばした。
すべて聞き終わって会場を後にしたとき、先日インタヴューした際に今回のアルバムを「僕にとっては、いろいろな音楽的歴史を通じて広がる、ある特定の種類のアメリカを描いた絵のように感じる」と言っていたことを思い出した。人間の性を表現したような4つの時代。それをぐるぐると回る今のアメリカへの警告のようなもの。そのときはあまりしっくりこなかったけれど、ライヴを経てそれがよくわかった気がした。そして先日公開されたラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)の“This is America”ともリンクした。彼のいまのアメリカ社会に対する痛烈な描写が話題になっているが、ほぼ同時に同じくアメリカをテーマにした楽曲が30代半ばのアーティスト2人から生まれたというのは、偶然ではない気がする。
文:Momoko Ikeda