Home > News > アジアン・ミーティング20周年記念スペシャル - ──実験音楽の祭典が6年ぶり開催、小田原・京都・名古屋・東京を巡演

過日、「Improvisation Summit Tokyo」と題したイベントが都内のナイトクラブ、下北沢SPREADで開催された。主な出演者は20代の若手ミュージシャンたちで、大人数が入り乱れた即興ワークショップや、マスコア的でありつつメンバーが楽器を持ち替え鮮烈な即興を連ねていくバンド、覆面集団によるスカムでカオティックな打楽器アンサンブル等々、いずれもユニークであり、熱気に溢れ、即興音楽のニーゼロ年代における新しい波が渦巻いていることを実感させる内容だった。イベントを企画したのは、ワークショップでも出演していた不定形即興集団・野流を率いるHyozo。もともとデュオ・ユニットとして始動した野流はある時期から不定形集団へと変化していったのだが、『OTOTOY』に掲載されたインタビューによれば、そのきっかけとなったのは2022年9月に行われた「増井ビル解体祭」だったという。詳細は省くが、取り壊しが決まったビルの複数フロアを舞台に、2時間以上にわたって多数の参加者が同時多発的に即興パフォーマンスを行うイベントであり、ライヴハウスのように音楽のために設けられたステージのない空間で繰り広げられたこのセッションに参加した経験が、野流の活動形態を新しい方向性へと導くことになった。そしてこのエピソードを知った時にわたしの頭を過ぎったのが、他でもなくアジアン・ミーティング・フェスティバル(AMF)だった。
大友良英が2005年に最初のアジアン・ミーティングを新宿ピットインで開催して以降、2008年、2009年の開催を経て、2014年からはアンサンブルズ・アジア・プロジェクトの一環としてdj sniffとユエン・チーワイがキュレーターを務める形で、2015年から2017年にかけてAMFは各地で開催されてきた。プロジェクト終了後も2018年には台湾で、2019年には東京で開催された。AMFはテン年代の即興/ノイズ/実験音楽の一側面を形成していた。その意義は大まかに三つあったとわたしは理解している。一つは日本ではまだあまり知られていないアジア近隣諸国の実験的なミュージシャンを紹介すること。もう一つはアジア近隣諸国のミュージシャン同士の交流を促すこと。そして最後に、そうして集ったミュージシャンたちによる新たな音楽的実践を提示すること。つまり紹介/交流/実践がAMFの大きな意義だったと思うのだが、実践面において、AMFはテン年代を通じてその試みを回を重ねるごとにアップデートしていった。とりわけ面白かったのは、ステージと客席が固定された通常のライヴとは異なり、たとえば美術館や小学校跡地、日本家屋など、必ずしも音楽のために設計されたわけではない空間を舞台に、その場所ならではのパフォーマンスを即興的に紡いでいくことだった。イベントに関連して行われたワークショップ等も含めて、演奏と聴取の一方向的ではない関係性や、複数の場所で同時多発的に行われるパフォーマンスが即興的に重なり合うことで多中心的な出来事を生むという試みの、一つの極地へとAMFは踏み込んでいたのではないかとも思う。
2020年以降、新型コロナウイルス禍に見舞われて休止状態にあったアジアン・ミーティングが、6年ぶりに開催される。最初の開催から数えるとちょうど20年の節目でもある。今回は原点に立ち返り、大友良英が再び中心となってキュレーションを行なっている。アジア近隣諸国から訪れる出演者たちは「知られざる」ミュージシャンというより、誰もがすでに来日したことがあり、こうした領域に関心を持つ日本のリスナーにとっては馴染みのある面々だ。ただし日本勢の参加者にはニーゼロ年代以降に頭角を表した人物も少なくなく、単に旧交を温めるイベントというわけではない。皮切りとなる小田原・江之浦測候所でのイベントは、大友が2022年から開催してきた「MUSICS あるいは複数の音楽たち」の第3弾でもある。場所そのものが作品でもあるような独特の地形と構造物からなる江之浦測候所で繰り広げられる試みは、まさにAMFがテン年代に突き詰めてきたサイトスペシフィックなサウンド・パフォーマンスの、さらにその先をいく実践となることだろう。他方、新宿ピットインは20年前にアジアン・ミーティングが誕生したいわばホームである。ここは音楽のために設計されたライヴハウスであり、ステージが設けられている。普段と同じようにステージで演奏を行うのか、特殊なセッティングになるのかはまだわからないが、たとえステージで演奏を行うのだとしても、パフォーマンスの展開は予期し得ないものとなるに違いない。むしろどんな場所でも対応できる手練のミュージシャンたちであればこそ、その即興力がステージ上に凝縮されることで濃密な時間が生まれる。それもまたAMFならではの景色だ。そのほか、京都UrBANGUILD、名古屋今池Tokuzo、さらに移転リニューアル・オープンしたばかりの南青山POLARISでも、「Far East Network Special」と題して来日勢と現地の気鋭ミュージシャンたちとのセッションが行われる。
6年という時が経ち、テン年代のAMFをリアルタイムでは経験していない若い世代のミュージシャンやリスナーも増えてきた。当時の中高生が今では大学生や社会人になっているのだから当たり前と言えば当たり前である。だが再び始動したAMFは、かつての実践を知る人々だけでなく、そうした新たな世代の人々にとっても、必ずや刺激に満ちた体験をもたらすに違いない。少なくともそう確信させるに足る出来事を、これまでAMFは創出してきたのである。その意味でアジアン・ミーティング20周年記念スペシャルは、AMFの再出発の地点であると同時に、一人ひとりの参加者にとっても即興/ノイズ/実験音楽のこれからを開いていくための、行先の定められていない冒険的な出発点となることだろう。(細田成嗣)
AMF2019 TOKYO DIGEST(映像記録:青山真也)
アジアン・ミーティング20周年
今から20年前の2005年9月23日から25日にかけて、韓国と香港から8人のミュージシャンを呼んで新宿ピットインで第一回の「アジアン・ミーティング・フェスティバル」が行われました。日本からも10人を超えるミュージシャンが参加し、昼夜5コンサートを行っています。同じ年に中国で反日デモが行われ、上海の日本料理店が襲撃されたニュースがきっかけでした。中国や韓国のミュージシャンたちとの交流がはじまった頃だったこともあり、とてもショックだったのを今でも覚えています。
当時のブログを引用します。
「(……)何人もの友人のいる中国で反日デモがおこっているのは、私にとってはとても悲しいし、どうにかしたいなと、本当に素朴に思ってしまう。素朴な民族のククリで憎しみ合うような状況を今後絶対につくらないためにも。具体的にオレにできることを、実はもう少し前から準備をしている。多分9月になると思うけど、東京のどこかで、中国語圏、韓国語圏といった近隣諸国で、僕等にちかいような、ノイズなり音響なり、あるいは風変わりなロックなりをやっているミュージシャン何人かを呼んで小さなフェスをやろうと思っているのだ。(……)もちろんそんな小さなことで今の民族間の問題が解決するとはまったく思っていないし、第一そのためにこうしたフェスをやるわけでもない。理由はあくまでも音楽的な話なのだけど、どんなことであれ、そうした無数の無名の人たちの日常の生き方、営みの中からしか歴史は変えられないと思うからだ。(……)現時点ではなんの資金のあてもありませんが……」(ブログ「大友良英のJAMJAM日記」2005年4月17日よりhttp://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj/essays/hannichi.html)
その後、紆余曲折をへながらもこのフェスティバルは続き、2014年から国際交流基金の援助も受けてシンガポールのユエン・チーワイや、当時香港在住、今はアメリカと日本、台湾を行き来するdj sniffにディレクターに入ってもらい、パンデミックが始まるまでの間、アジア各国で、何十人ものミュージシャンやスタッフの手により、いくつものフェスが開かれてきました。2005年のフェスの時から考えたら夢のような展開でした。
大きな歴史の動きは決してわたしの望むような方向に向かっていないように思えることもしばしばですが、でも、日本を含むアジア各国から数多くの若いミュージシャンたちが出現し、彼ら彼女らが様々な形で草の根的に繋がっていってる様子を見るのは感動的だったし、それが未来への希望、そんなふうに思っていました。そんな中始まってしまったのがパンデミックでした。アジアのミュージシャンの交流の時計の針が戻されたような気持ちでした。
「せっかくあそこまでいったのに」
パンデミックが明けた2023年から再び、わたしは韓国、シンガポール、マレーシア、ベトナム、中国、台湾、香港、インドネシアとアジア各地を回って、ミュージシャンとの交流を個人的に再開しました。2010年代のように助成を受けた大きなフェスをやるのは難しいかもしれませんが、初心に帰って、個人で動いて再びフェスをやることは可能かもしれない。なにより20年前と違うのは、すでに人脈もあり、協力してくれる人たちや組織もあることです。
今回は江之浦測候所を運営する小田原文化財団と新宿ピットインの全面的なバックアップのもと、これまで協力してくれたF.M.N. Sound Factoryや、Little Stone Records、P-hourほか多くのみなさんの手弁当の協力もあって、パンデミック以降、最初のアジアン・ミーティング・フェスティバルが実現します。しかも20周年記念のフェスティバルです。
11月2〜3日の江之浦測候所での2日間は、これまでやってきたアジアン・ミーティングを象徴するかのように、ひろい庭園の各所で、夕暮れまでの3時間の間、即興的にさまざまな出会いと共演が同時多発的に起こります。あらかじめ計画されたものではなく、参加ミュージシャンたちが江之浦測候所という稀有な空間に反応しながら、その場で状況を作り出していく2日間です。当然2日間の内容は、全く異なるものになります。参加者は皆さんの足で、会場で起こるさまざまなハプニングや出来事、音楽を探し発見する旅になります。
杉本博司が設計した江之浦測候所の壮大なランドスケープと、日本を含むアジア各国のアーティストたちとの予期せぬ邂逅をどうかお楽しみください。(大友良英)
参考文献
横井一江「大友良英によるアジアン・ネットワーキングの軌跡」(JazzTokyo、2025年3月1日公開)https://jazztokyo.org/interviews/post-109331/
■公演情報
小田原・江之浦測候所「MUSICS あるいは複数の音楽たち その3」
日程:2025年11月2日(日)・3日(月・祝)13:20受付開始 13:30開場 13:45開演(予定) 16:30終演
会場:小田原文化財団 江之浦測候所(https://www.odawara-af.com/ja/programs/otomo_yoshihide_ensembles2025/)
料金:9,900円(江之浦測候所入館料含む)
出演:大友良英(percussion, objects)、リュウ・ハンキル(electronics)、イェン・ジュン(objects, voice)、ユエン・チーワイ(electronics)、コック・シューワイ(voice)、シェリル・オン(percussion)、吉増剛造(poet)、山崎阿弥(voice)、Sachiko M(objects)、松本一哉(percussion, objects)、石原雄治(percussion)、高岡大祐(tuba)、本藤美咲(sax/11月3日のみ)
ゲスト:巻上公一(voice)、細井美裕+岩田拓朗(sound installation)、小暮香帆(dance/11月3日のみ)
京都・UrBANGUILD「Far East Network Special」
日程:2025年11月4日(火)18:30開場 19:30開演
会場:京都・UrBANGUILD(https://urbanguild.net/event/20251104_fareastnetworkspecial/)
料金:[前売]5,000円+1ドリンク [当日]5,500円+1ドリンク [23歳以下]3,000円+1ドリンク(要身分証明書提示)
出演:大友良英(guitar/東京)、ユエン・チーワイ(electronics/シンガポール)、リュウ・ハンキル(electronics/ソウル)、イェン・ジュン(objects, voice/北京)、コック・シューワイ(voice/クアラルンプール)、シェリル・オン(percussion/シンガポール)、Sachiko M(sinewave/東京)、立石雷(篠笛等/滋賀)、中川裕貴(violoncello/京都)、山内弘太(guitar/京都)
名古屋・今池Tokuzo -得三-「Far East Network Special」
日程:2025年11月5日(水)18:30開場 19:30開演
会場:名古屋・今池Tokuzo -得三-(https://www.tokuzo.com/2025Nov/20251105)
料金:[前売]5,000円 [当日]5,500円
出演:大友良英(guitar/東京)、ユエン・チーワイ(electronics/シンガポール)、リュウ・ハンキル(electronics/ソウル)、イェン・ジュン(objects, voice/北京)、コック・シューワイ(voice/クアラルンプール)、シェリル・オン(percussion/シンガポール)、臼井康浩(guitar/名古屋)、小埜涼子(sax/名古屋)、服部正嗣(drums/東京、岐阜)
東京・新宿ピットイン
日程:2025年11月6日(木)19:00開場 19:30開演
会場:東京・新宿ピットイン(http://pit-inn.com/artist_live_info/251106asian/)
料金:[前売]5,500円(税込/1DRINK付) [当日]6,050円(税込/1DRINK付)
出演:大友良英(g/東京)、dj sniff(turntable/LA)、ユエン・チーワイ(electronics/シンガポール)、リュウ・ハンキル(electronics/ソウル)、イェン・ジュン(objects, voice/北京)、コック・シューワイ(voice/クアラルンプール)、シェリル・オン(percussion/シンガポール)、類家心平(tp/東京)、細井徳太郎(g/東京)、荒川淳(electronics/郡山)
東京・南青山POLARIS「Far East Network Special」
日程:2025年11月7日(金)19:00開場 19:30開演
会場:東京・南青山POLARIS(https://polaristokyo.com/schedule/20251107)
料金:[前売]5,500円+1ドリンク700円 [当日]6,000円+1ドリンク700円
出演:大友良英(g/東京)、dj sniff(turntable/LA)、ユエン・チーワイ(electronics/シンガポール)、リュウ・ハンキル(electronics/ソウル)、イェン・ジュン(objects, voice/北京)、コック・シューワイ(voice/クアラルンプール)、シェリル・オン(percussion/シンガポール)、Sachiko M(sine waves/東京)、Evicshen a.k.a. Victoria Shen(turntable/SF)