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Home >  News > ele-king vol. 36 - 紙エレキング年末号、お詫びと刊行のお知らせ

ele-king vol. 36

ele-king vol. 36

紙エレキング年末号、お詫びと刊行のお知らせ

Dec 18,2025 UP

 まず、この場を借りてTocagoにお詫び申し上げます。紙エレキング年末号には、ワタクシ野田がバンドに取材して書いたインタヴュー原稿が掲載されているのですが、記事のなかで、P155の上段後ろから8行目なのですが、バンド側から発言者が違っているという修正指示が修正されないまま残ってしまっておりました。修正指示がそのまま残っているので、最低限、発言者が違っていることはわかります。とはいえ、読者の皆様にも混乱を与えるでしょうし、ここに重ね重ねお詫び申し上げます。

 では、以下、最新号の案内です。

 2025年は、よしもとよしともの名作『青い車』のリイシュー版が太田出版から刊行されました。「紙の本として世に出るのは、おそらくこれが最後です」と、そのオビには記されています。象徴的な言葉だと思いましたが、果たして「これが最後」でしょうか。というのも、この夏、『青い車』を読みながら複雑な思いが湧き上がり、それ以来、ずっとその思いについて思考を巡らせているのです。

 昔、ポップ・ミュージック(ロック、R&B、ソウル、ヒップホップ、ハウス、テクノ、メタル、カントリーなどを含むすべて)には、その主要フォーマットとしてのレコードには“場所”がありました。『青い車』は音楽に溢れた作品ですが、CDは描かれていません。もちろん、CDというフォーマットが生まれなかったとしても、音楽がデジタル化されることは、そのレコーディング機材の発展を鑑みても避けられなかったことはたしかです。だからといってIT企業の介入による現在のリスニング文化が必然的な結果だったとは、どうにも納得できなかったりもします。ストリーミング・プラットフォームが提供する、ほぼなんでも聴けてしまう、過去も現在もない、時間感覚もない、すべてがフラットな文化、この状況にありがたみを感じながら、より深く音楽の世界に没入している人が30年前より多いとはぼくには思えないからです。
 『青い車』で何気に描かれている、うだつのあがらない若者たちには、しかし音楽という拠り所があります。レコード店やクラブがあり、音楽友だちがいます。レコード店が、音楽を売って儲けるためだけの資本主義に従属した場ではなかったことが、『青い車』を読んでいると思い出されます。そこは出会いの場でもあって、たとえ気が合わなくても人同士が繋がる場、そして、音楽の居場所が用意されている場所でもありました。
 ayaのレコードなら、店の端っこにある「experimental」系のコーナーに入れる店と面出しにする店とに分かれたでしょう。ビリー・ウッズのアルバムは、ヒップホップ専門店よりも、Sunn O))) をプッシュしている店のほうが多く仕入れたかもしれません。いまから10年以上前の話になりますが、初期のOPNやBurialは、扱う店とスルーした店とに分かれました。これは、「わかってる/わかってない」という話ではありません。音楽とリスナーとの緊張関係の話です。輸入盤を売るのは返品不可というリスクがあるので、売るほうも自分たちの耳を頼りに、真剣に吟味し、選盤しているわけです。
 音楽とリスナーとの緊張関係、思い込みの強さと言ってもいいでしょう。思い込みとはすなわち想像力のことで、それは文化の強度のことです。音楽の居場所があった時代、それと出会う困難さ、素性もよくわからぬその音楽を自らの想像力で補いながら聴いたときの没入感、こうしたリスニング体験は、ネットで調べれば大抵のことはわかってしまい、ほとんどが無料でなんでも聴けてしまう現在における音楽の接し方とは著しく異なっています。

 で、こうした「昔は良かった」話は、数年前までは老人の郷愁として片付けられていたことは周知の通りです。が、しかしですねぇ、一概にそうとは言えないような状況を最近はよく目にするようになりました。そのやるせないことのひとつが2025年のオアシス・ブームだったりするのですが、その話とは別に、レコードやCDを好む若者が増えてきているという変化があります。これはぼくの思い上がった妄想かもしれませんが、欲に目のくらんだ音楽産業が数年前に棄てたモノを、いまになってぼくよりずっと若い人たちが拾っているように思えるのです。
 これは、あながち誇張ではないかもしれません。SNSやスマホから離れ、ゆっくり本を読む時間を欲している人たちがじょじょに増えつつあるんじゃないかという話を、学生が立ち寄る古本屋を営んでいる知人から最近聞かされました。じっさいのところ書店は減りましたが、個人書店は増えています。同じように、個人レコード店も少しずつ増えています。はじめているのは、定年退職後の高齢者たちではありません。ぼくよりも若い人たちです。また、冥丁や井上園子や沖縄のハラヘルズ、こだま和文の近年の諸作なんかを見たり聴いたりしていると、古き良きものというか、20世紀の若者文化が破壊の対象としてきたものを彼ら・彼女らが修復しようとしているように思えることもあります。よしもとよしともの『青い車』の紙の本が、この先出ないとは限らない時点にまで針は進んでいるとしたらどうでしょう。多少、時間の感覚が混乱することがあったとしても、失われたものを取り戻す作業だと思えば、逆にこれが2025年という現在なのではないでしょうか。

 インターネットでできることはまだあるのかもしれませんが、その弊害はあからさまに噴出しています。SNSは、炎上好きが興奮するデジタル・コロシアムで、もうヘタなことは書けない、人気者には盲従するしかない——最近ある記事を読んでいたら、ボビー・ギレスピーが消費者ガイドと化した近年の音楽メディアにずいぶんとご立腹しておりました。テオドール・アドルノによれば、ファシズムは「批評」という言葉を追放し、その代わりに「芸術考察」という概念を使わせたといいます。なぜなら文化は最終的にファシズムを追放するからです。アドルノいわく「文化は “潜在的に批判的なもの” としてのみ、真である」

 時代がどうなるかわかりません。Instagramがなくなるとは思いませんが、惑星の植民地化やAIの進化に誰もが興奮しているわけではないのです。1990年代、マライアやブランディではなく、オウテカやビョークなんかをなぜ選んだのかと言えば、そっちのほうに変革の匂いがあったからです。しかし、“いま”という時代のややこしいところは、90年代にキャット・パワーやソニック・ユースを支持していたような連中が近年のチャーリーなんかに感化されてか、当時眼中になかったブリトニーなんかを「イイネ〜」と言ったりするその他方では、目をひんむいて「変えてやるー」とやる気満々のイーロン・マスクやピーター・ディールみたいな人たちがいることです。「破壊せよ、とアイラーは言った」の時代ではなく、「破壊せよ、とイーロンは言った」の時代に生きているという、ああ、面倒な時代です。音楽が、そのすべてではないにしても、あるいはそれが過去への回帰だとしても、テクノ・ファシズムからの避難所として機能していることは、ひとまず、すばらしい事実でしょう。長々と書きました。紙エレキング、今回もどうぞドネーションだと思ってよろしくお願い申し上げます。レコ店/アマゾンは、本日(18日)発売、書店では、25日発売になります。
 最後にひと言、『青い車』には90年代のエレキングに短期連載していた「NO MORE WORDS」が収録されております。減速主義者、ワタクシ野田と、そして近い将来掲載予定の、『青い車』の書評を担当した杉田元一が出てくるのは、P120です。

【目次】
キャロライン、インタヴュー(ジェイムズ・ハッドフィールド/野田祐一郎/江口理恵)
二階堂和美、インタヴュー(水越真紀)
Tocago、インタヴュー(野田努/野田祐一郎)

特集:日本のシンガーソングライター、その新しい気配

「シンガーソングライター」とは何か?(野田努)
オルタナティヴとしてのフォーク主義(松永良平)
小さき者たちの矜持(岡村詩野)
中野ミホ、インタヴュー(風間一慶/川島悠輝)
井上園子の登場は衝撃だった(大石始)
井上園子が選ぶ2025年もっともよく聴いた5枚
ヘイムラコルトが漂わせるノスタルジー(峯大貴)
ヘイムラコルトが選ぶ2025年もっともよく聴いた5枚
新潮流ディスクガイド30
(天野龍太郎、峯大貴、松島広人、小林拓音、田中亮太、風間一慶、野田努、三田格)
ポップスにクィアの想いを溶けこませる(木津毅)
シンガーソングライターに惹かれない理由(三田格)
エクスペリメンタル系SSW(野田努)

2025年ベスト・アルバム30枚
リイシュー&アーカイヴ23選

■ジャンル別チャート
テクノ(猪股恭哉)│インディ・ロック(天野龍太郎)│ジャズ(小川充)│ヒップホップ(高橋芳朗)│ハウス(猪股恭哉)│エクスペリメンタル(ジェイムズ・ハッドフィールド/青木絵美)│ポスト・ハイパーポップ(松島広人)│レゲエ/ダブ(河村祐介)│アンビエント(三田格)
■コントリビューター・チャート
青木絵美、天野龍太郎、小川充、小山田米呂、Casanova.S、河村祐介、木津毅、緊那羅:Desi La、篠田ミル、柴崎祐二、柴田碧(パソコン音楽クラブ)、高橋智子、TUDA、つやちゃん、DJ Emerald、デンシノオト、橋本徹、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、Mars89、イアン・F・マーティン、松島広人、三田格

コラム:2025年のオアシス現象、その拭いがたき違和感(野田努)

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