Home > Interviews > interview with the insect kids - 変だ、変だ、変だ
9割は嘘を言っていて1割は本当のことが入っているような、俺はそういうのが好きなんだよね。どこかに真実が紛れ込んでいるのがおもしろいと思う。
■冒頭の“GOOD LUCK”や初期の“恋人たち”のような情景描写的なものと、言葉のリズムに寄ったものと、高橋さんの歌詞にはモードがふたつあるように感じます。そこにはどのようなちがいがありますか?
高橋:曲のタイプによってわけているんじゃないのかな。曲自体のニュアンスでまた変わるんだろうね。そこまで自分で分析できていないよ(笑)。歌詞は曲と同時に書きたいから、おおまかなプロットのようなものを立てて、そこから寝かして、少しずつ手直ししていってできあがる。
■けっこう時間をかけるんですね。
高橋:すぐできる曲もあるし、できないものはずっとできないんだよね。歌入れの当日の朝に書いたものもあるし。できないときはできないっていうのは自分でわかっているから、その場合は待つしかなくて、待っていればそのうちどうにかなる。
■歌詞を書くときはどういうことを考えて、どのような言葉を落とし込もうとしていますか?
高橋:考えすぎると自分の地の感じが出るから、それはあまりしたくなくて。意識している部分と無意識の部分とが織り交ざっているんだけど、結局書くのは自分だから自分のなかの言葉しか出てこない。でも自分の癖みたいなものに頼らないようにはしている。自分の「節」みたいなものはあまり作りたくないなと思って。
■ずっと歌詞の抽象的な話になって恐縮なのですが、個々の歌詞に場所や舞台は具体的にありますか?
高橋:ある。“Metropolis”だったら、タイトルどおり近未来っぽい、SFっぽい感じとかを出したかったし。でも、そういう一曲がきっかけで、ひとつの世界観に傾倒しちゃうんだよね。“冥王星”も“Metropolis”に近いものが出たし。トータルで見ると、今回のアルバムはSFの影響を受けているなあって思った。そのときにSFを読んでいたわけじゃないんだけど、星新一とかアシモフが好きなんだよね。
■そこに言いたいことを組み込んだりはしますか?
高橋:入っているんじゃないかなあ。9割は嘘を言っていて1割は本当のことが入っているような、俺はそういうのが好きなんだよね。どこかに真実が紛れ込んでいるのがおもしろいと思う。ぜんぶフィクションで書いているつもりはないよ。やっぱりどこかに本当のことが入っているとは思う。それがどこかって言っちゃうのは野暮だけど、でもどこかにはあると思う。飲み屋で友だちと芸能ゴシップについて話したりするのが好きなんだけど、そういうものを嘘だとも本当だとも思っていないんだよ。でも、ひとつのネタがいろんな人を介して伝言ゲームのように膨張していくのがおもしろい。「真実よりもよくできた嘘のほうがおもしろい」って。それはまさにそのとおりだと思う。……でも歌詞なんてさ、無意識だよ。意識して書けない。なんの意識もないところではたらいている部分があるって、インタヴューをやっていると気づくんだよね。本当は「なんもねえよ! 俺がやりたいことに意味なんてあるわけないじゃん!」って言いたい。でも、それを言ったら終わりだからさ。
■でも、アルバム4枚ぶんの言葉を高橋さんが書いているわけですから、そこにはどのようなものがはたらいているのかを知りたいんですよ。
高橋:みんな孤独を愛してくれと思うんだけどね(笑)。孤独はかわいいもの、愛でるべきものだよ。歌詞っていうのはもう、そこで言葉として放っているものだから、結局それを説明するっていうのは非常に難しいんだよね。
■それ自体、野暮な話ではありますからね。
高橋:それでも追求したいっていうのはわかるよ。でも、そうなると心理学みたいになっちゃうから。
血眼で探し当てた宝箱を開けたら子どもの頃の古い写真が一枚だけ入っていたようなバンド。
■ところで、ファーストをリリースしたとき、高橋さんはおいくつでしたか?
高橋:2009年だから、23歳か24歳かな。
■その当時をいま振り返ると、どんな感じですか?
高橋:これは訊かれたときによく答えていることなんだけど、正直に言って昆虫キッズは「続けよう」っていうスタンスではやっていなかった。バンドをはじめた当初はCDが出ればそれがゴールだったんだけど、せっかくだからライヴをやって、地方へも行って――そんなふうにやっていたら新しい曲ができて、曲が溜まったから次のアルバムを作る。昆虫キッズはそういう行動の延長線上でずっとやってるんだよね。血眼で探し当てた宝箱を開けたら子どもの頃の古い写真が一枚だけ入っていたようなバンド。
■では、昆虫キッズのコアは空白なんですか?
高橋:うん。そうだと思うよ。バンドをやっている上でのコンセプトや信念が「ほしい」と思うぐらいにないもん。
■なるほど。高橋さんが昆虫キッズでやりたいこと、やろうとしていることってなんですか?
高橋:いまの4人のメンバーで足並み揃えてできることならなんでもいい。4つのピースがないとできないことだからさ。そういうバンドとしてのバランスっていうのはすごく意識している。バンドって、ずっと続けているとそのコミュニティに所属している感じがしてひとつの家族みたいなものになってくる。不思議な関係性だよね。
■では、4人のメンバーがイコール昆虫キッズということなんですね。
高橋:うん。だれか1人が辞めたらダメだなって思ってる。代わりがいない。
取材:天野龍太郎(2014年6月10日)