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interview with The Bug

interview with The Bug

ファック・ユー

──ザ・バグ、インタヴュー

野田 努    通訳:原口美穂  photos:FABRICEBOURGELLE   Aug 12,2014 UP

ロンドンは社会や文化的な坩堝だけど、ベルリンはヨーロッパの坩堝。だから、ジャマイカやインドのコミュニティが恋しいっていうのはある。俺のロンドンでの生活のほとんどは貧しい地域で過ごしてきたからね。近所は常にパングラディッシュ人やインド人、パキスタン人、ジャマイカ人、トルコ人だった。

たしかに『ロンドン・ズー』は、サッチャー以上にサッチャー的と言われるデヴィッド・キャメロン首相がもたらしたUK、たとえばロンドン・オリンピック後の、荒廃したロンドンを先んじて描いたと評されています。そうした政治的なことで言えば、この6年でさらに悪化しているように思いますが、あなた自身は、今日の情況をどのように分析していますか。とても大きな質問ですが、『エンジェル&デビル』の背景を知る上でも重要だと思います。

KM:いまのロンドンは悪くなっている一方だ。金を重視してるからな。ほとんどのヨーロッパの都市がそうだと思う。経済の問題のいち部はヤッピー(変に金を持ってるエリート・サラリーマンたち)からも来ている。街も質の悪いアパートをそこらじゅうに建てて、高い家賃を投げつけてくる。その繰り返しだ。10年前まではいろいろな人種のミックスだったのに、いつの間にか、いまのマンハッタンみたいになってしまっている。スターバックスだらけで、同じ服を来て同じ行動をする奴らしかいない。
 俺はコントラストが好きなんだ。だからロンドンを出たんだよ。ほとんどの大都市が金に引きつけられている。マンハッタンなんて、個人的にはとくに気持ちの悪い場所だね(笑)。
 『ロンドン・ズー』を“投獄”と言えるなら、今回の新作は“現実逃避”だ。そういうロンドンの情況からのね。新作はロンドンにもリンクしてるし、同時にロンドンからの逃避も入っている。説明が難しいけど……その両面が入っているというか……このレコードを作りはじめたとき、『ロンドン・ズー』のサウンドを続けるか、それとも完全に変えてしまうか迷っていた。ダブステップという枠にとらわれてしまっている気もしたし、そう思われたことに対して決してハッピーじゃなかった。
 だが、何年か経って、この作品の他のスタイルやマテリアルに取り組み出したときに…そのマテリアルはラップだったんだけど、基本的に俺のお気に入りのアーティストはみんな職人で、みんな自分のサウンドをよりベターにしていっている人たちだということに気づいた。アーティストは、自分の特徴としてみんなに知られたレアなサウンドを残すことが多い。俺にとっては、それが突破口になった。『ロンドン・ズー』は『ロンドン・ズー』で自分が進んでいるひとつのチャプターだと思えば良い。そこから何かをスタートさせて、また他のチャプターに行けばいいと思った。だから、『ロンドン・ズー』から遠すぎもせず、かつ『ロンドン・ズー』から次へ進むような作品を作ることにした。

ちなみに、ベルリンにもアフリカ系の人たちがやっているサウンドシステムがありますが、行ったことはありますか?

KM:ひとつ大きなクラブがある。最近場所を移動したけど、〈Yaam〉というクラブ。ベルリンのなかでもトップのレゲエ・クラブで、アフリカン・ミュージックのヴェニューだ。面白い場所で、フェイクのビーチがある。その偽物のビーチの上にジャマイカのビーチハウスを建てて、ドリンクやつまみを売ってる。ベルリンっぽくなくてすごくいい感じだ。最近移転のために閉まってしまったけど。まわりにアパートが建ち初めて、家賃も高くなったから。20年くらいその場所にあったんじゃないかな。新しいロケーションを見つけたみたいで良かったよ。〈Yaam〉はすごく大切な場所だから。

インターネットは好きですか? どんな風に利用していますか?

KM:ハハハハ。他のみんなと同じように、中毒でもあるし、大切なツールでもある。ときに、スクリーンの前でこんなに時間を無駄にしてしまったのかってイヤにもなるけどね。でも、同時に信じられないくらいに便利でもある。昔はアンチ・インターネットだったんだけど、ロジャー・ロビンソンとキキ・ヒトミからインターネットを使わないことに対してごちゃごちゃ言われてさ(笑)。プロパガンダには必要だって。だからいまでは俺もFacebookをパーソナル・マガジンとして使ってもいる。
 最近お袋と話してたんだけど、俺が本当に小さい子どものとき、世界の全ての本がある図書館に入り込めたらいいのにっていう夢の話を母親にしてたらしい。それがいま、インターネットで実現されているようなものだからね。そういう意味ではインターネットは奇跡とも言える。もうすっかり当たり前になってしまっているけど。でも、同時に危険でもある。インターネットの前ではゾンビになりかねないから。何もせずに情報だけを受け取るだけになってしまう可能性もある。だからバランスが必要なんだよ。すべてのことと同じ。いい面もあれば悪い面もある。

あなたはロンドンのUKのサウンドシステム文化からの影響を受けていますが、それがUKから離れることで、あなたの制作においてどのような化学変化が起きたのでしょう?

KM:先週もいくつかインタヴューを受けたんだけど、みんなこの質問をしてくる。まあ、この質問が来るのは当然だとは思うけどね。でも、さっきも言ったように、ここに住んでまだ1年ちょっとしか経っていない。この街が自分にどれくらい影響をおよぼしてるかに気づくにはまだ早すぎる。レコードをミックスしてるあいだ、3ヶ月は車いすの生活をしてて、彼女がずっと俺を世話してスタジオまで毎日押していってくれた。そういう生活からは精神的に影響されたかもしれないけど……
 あと、ベルリンは景観的にも、ロンドンよりもオープンだ。俺のスタジオは川岸にあるから、地平線が見えるんだよ。そういうものからも影響はされてるだろうね。でも、他の影響や化学反応に気づくには、いまはまだ早すぎる。いまはまだ馴染んでるところ。そこから自分のサウンドがどう形作られていくかはまだわからないね。

通訳:ベルリンの音楽から何か感じるものはありますか?

KM:ベルリンにおいて大切なのは、ここが音楽都市だということ。多くの若者がそれを求めてここにやってくる。ヨーロッパ内だとフライトも安いし、たくさんの若者が24時間パーティをしに来るんだよ。ボロボロになりに。そういうヴァイブとエナジーがある場所が大好きだ。ベルリンには確実にそれがある。それが自分にアイディアをくれているとは思う。
 俺がここに自分のサウンドシステムを移したのは、音楽に欠けていている何かを埋めるものがあったから。いま俺が取りかかっている次のアルバムのひとつは、7インチ・レーベルの〈アシッド・ラガ〉がベースになってるものなんだけど、〈アシッド・ラガ〉とライヴ・サウンドのマテリアルを俺のサウンドシステムで、ベルリンのクラブの汚い地下でプレイしたものが基盤になってる。
 だから、ベルリンにすでにインスパイアされてるのは間違いない。アイディアをくれているし、素晴らしい人たちに囲まれている。本当に、ベルリンに越してきたのはすごくポジティヴな動きだったと思う。来る前はナーヴァスだったけどね。

キング・ミダス・サウンドでは、ダブ(ないしはダブ・ポエトリー)を追求するプロジェクトでしたが、そこには、あなたの重要なコンセプトである多文化主義的アプローチも反映されていたと思います。ザ・バグのサウンドにおいて、そうしたエスノ的なアプローチ、多文化主義的アプローチはどのように活かされているのでしょうか?

KM:答えになってるかわからないけど……キング・ミダス・サウンドに多文化主義的アプローチが反映されているというのは、メンバーのひとりがトリニダード・ドバゴ出身で、もうひとりが日本人、そして俺のルーツがスコットランドとアイルランドだからっているのがあると思う。それはキング・ミダス・サウンドの大きな部分だ。
 それに加えて大切なのがダブだよ。キング・ミダス・サウンドでもバグでも、ダブは大きな要素だ。ジャマイカの音楽は自分にとって大きなインスピレーションだから。それを考えるとここ何年かは悲劇だった。自分が影響を受けてきたようなジャマイカ音楽がまったくなかったから。でもある意味、その状況は、自分自身の未来的なジャマイカン・ミュージックを作ろうと俺に決心させてくれた。自分が聴きたい音楽が見つからないから、自分が作らないといけないと思った。俺にとって、レゲエ、ダンスホール、ラガをはじめとするダブと呼ばれるすべての美とは、先進的で、驚きを与えてくれる部分だ。冒険的で脱構築的なところが魅力だった。しかし、それが最近はつまらなくなってしまった。先が読めるし、アメリカンすぎる。だから、自分が聴きたい音楽がなければ自分で作るしかないという姿勢で、自分なりのそういった音楽を作ろうとしている。先進的だったり驚きを与えるための新しい音楽の言語を作り出そうとしてるとでも言うかな。答えになっていないかもしれないけど……。

今回、ビートについてはどのように考えましたか? 『プレッシャー』のときはダブ、ダンスホール、ブレイクコア、『ロンドン・ズー』のときはグライムを参照したと思いますが、『エンジェル&デビル』はダンスホール、アンダーグラウンド・ヒップホップ、ノイズなど、さまざまなものが吸収されています。何かを参照したというよりも、あなたがいままで影響を受けてきたものが自然に吐き出されたカタチと言えるのでしょうか?

KM:サウンドに関しては、いままでに増してオープンになっている。このレコードを作る上でしたいくつかの重要な決断があった。そのうちのひとつは、ダンスホールとグライムをメインの影響にしないということだった。いや、グライムは違うな。ダンスホールとラガだ。アシッド・ラガのレコードを他で作ると決めていたから、そこは分けたかった。
 個人的に、ここ何年かでふたつの違う方法で音楽と繋がるようになってきたんだけど、それがどんどん明らかになってきている。ひとつは、クラブに行って、超クレイジーな音やヴォーカルで自分にショックを与える聴き方。精神的にドカンと来るような。で、もうひとつは、ダイナミックではなく、ゆっくりと身体に入ってくる音楽を聴くという音楽との繋がり方だ。旅行中や家にいるときはそういう音楽を聴く。ただ朦朧としたいからね。
 今回、俺はそのふたつの要素を新作のコアにしたかった。だからふたつのサイドに分けた。クラブ・ミュージックのサイドに関して言えば、昔よく聴いていたエレクトロニック・ミュージックをこの4~5年、ふたたび聴くようになった。最近のクラブ・ミュージックにがっかりしていたからね。最近のクラブ・ミュージックは、使い捨て感があって、鋭さが何もない。まるで工場で次から次に作られているみたいだ。俺が人生全体を通して好きな音楽は、超緊張感があって、革新的で新鮮なものだ。いまのクラブ・ミュージックにはそれがなくなっている。それが俺の目をエクスペリメンタルなアンダーグラウンドに向けさせているね。
 だから新作の半分は、自分が最近そういったクラブ・ミュージックに出会えていないことに対する救済策みたいなものだね。もう半分は、自分自身が朦朧としたいときに聴くような、パーソナルな部分だ。こうやってインタヴューをされると分析できるけど、作っているときは半々。行き詰まったりすれば考えたり分析するし、少し時間を与えてから、それに対する自分のリアクションを見たりする。だからサウンドの半分は自然に出て来たものだし、半分は意識して作ったものだね。

取材:野田努(2014年8月12日)

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