Home > Interviews > interview with Alixkun - 「House」ではなく「ハウス」を聴け
ブラウザーはもっとすごいんですよ。彼は日本語を話せないし、日本にいないのに、すごい時間をかけてネットで翻訳ツールを使いながら日本語ページを調べています。インターネットのアーカイヴを調べたり、シャットダウンされたページとかを掘り出したり(笑)。あとヤフー・オークションを使って名前を検索して、いままで見たこともないレコードにたどり着いて、買ってみてたり。
■俺も全然知らない曲ばかりで、アリックスクンとブラウザーのオタクっぷりに感服しました(笑)。アリックスクンは、わざわざ立川、埼玉、千葉の中古レコード屋まで探しにいってるもんね。
A:ブラウザーはもっとすごいんですよ。彼は日本語を話せないし、日本にいないのに、すごい時間をかけてネットで翻訳ツールを使いながら日本語ページを調べています。インターネットのアーカイヴを調べたり、シャットダウンされたページとかを掘り出したり(笑)。あとヤフー・オークションを使って名前を検索して、いままで見たこともないレコードにたどり着いて、買ってみてたり。
(浪曲師の)国本武春の“Home (6 a.m. mix)”が入っていますが、このコンピレーションのレヴューが海外で出たとき、「われわれがまだ知らなかった曲をタケハル・クニモトが提供している」と書かれていたんですが、実はこのミックスをしたのは福富(幸宏)さんなんですね(笑)。国本さんの原曲とは全然違ってて、これは完全に福富さんワークだから面白いと思った(笑)。クレジットにはそうやって書いてあるんですけどね。
あと、ジャザデリックの “I Got A Rhythm (1991 original mix)”ってパール・ジョーイ(Pal Joey)の曲なんですよね。でも本当はジャザデリックの曲。彼らが作ったプロモ盤をパール・ジョーイが聴いて、ビューティフル・ピープル(Beautiful People)で作ることになった。でもこのミックスはそのプロモ盤にしか入っていないんですね。しかもそのプロモ盤は50枚くらいしかない(笑)。
■それはどこで手に入れたの?
A:もともとはそのレコードが存在していることを知らなかったんですが、永山さんをインタヴューしたときにプロモ盤を作ったことを教えてくれたんです。それで探しはじめました。みんなこのレコードをビューティフル・ピープルのプロモ盤だと思っているんですよ。でもそれは違って、本当はジャザデリックのプロモ盤なんですね。このレコードはオークションで買ったんですが、その出品者のひともパール・ジョーイのプロモ盤と書いていて、全然高くなかった。テクストにも書いているんだけど、たまにインディ・ジョーンズみたいな気持ちになりますよね(笑)。忘れられた宝を掘り出すみたいな。
■はははは。ジャザデリックはどういうひとたちなの?
A:ジャザデリックは永山さんと森(俊彦)さんのユニットで、ニューヨークのDJスマッシュの〈ニュー・ブリード〉なんかと関わっていました。
■このコンピレーションを作っていて、一番大変だったことは? やっぱりライセンスの連絡とか? 日本では著作権が厳しいから、入れたくても入れられなかった曲があったと思うんだよね。
A:ピチカート・ファイヴの曲も検討していたんだけど、著作権のせいで諦めることになりました。
■大阪のベテランDJ、紀平くんがプロデュースを手掛けた曲もあるんだよね。
A:そう、そのフェイク(Fake)の曲も、あるいは、カツヤさんの曲もレコードでしかなくて、情報がとても少なかったから、プロデューサーを探すところからはじめました。例えば、カツヤさんについてはレコード屋のテクニークのスタッフに尋ねてみたら知っていて、繋げてくれたんですね。いまカツヤさんはベルリンに住んでいます。YPFの場合はさっきも言ったように、探してみたんですが見つからず……。
■ホント、労作ですね。これも時代というか、でも、日本で音楽を作っているひとたちに自信を与えるものにもなっていると思うな。
A:ありがとうございます。意図としては曲のクオリティが大事だったんだけど、それに加えていろんなアーティスト、あまり知られていない曲も紹介したかったというのがあるんですね。たしかにT.P.O.の“Hiroshi's Dub”はすごく有名なんだけど、それとは反対にすごくマイナーな曲も入っているんじゃないかな。あと福富さんも入っているし、マイナーなアーティストも入っているから、幅広い内容になったと思います。
■リリース後のリアクションについても教えてください。
A:いまのところ、とくにヨーロッパにおいてはかなり良いリアクションが返ってきています。
■どこか特定の国がすごいっていうのはある?
A:全体的にヨーロッパでは良く受け取られていますね。いまディープ・ハウスのリヴァイヴァルがいちばん熱いのはヨーロッパですからね。「知らなかった曲を紹介してくれてありがとう」という気持ちでみんな評価してくれているんです。15曲が全部ヒット曲かというとそうではない。でもそれはぼくらも認めている。
■もちろん、ヒットしてないと思うよ(笑)。あのね、本場志向っていうか、当時のハウスのリスナーもNY産しか認めないみたいなところがあったし、デトロイトだってB級扱いだったから、ましてや日本産となると……。柱になったレーベルもなかったしね。
A:寺田さんのレコードも少なかったんですよ。自分のレーベルがあったけれど、当時はあまり知られていなかった。
■寺田さんは当時の印象では、ものすごくメディアに露出していたから、有名人って印象だったんだけど、それでも苦戦していたんだね。ところで、アルバムのインナーの日本語はアリックスクンが書いたの?
A:最初はぼくが書いて、友だちの日本語ネイティヴに直してもらいました。
■ちょっと日本語が間違っているんだよね。
A:そうなんですよ(笑)。ぼくが書いた日本語を見てくれたひとが原文を生かそうとしたから、場合によっては文章が変かもしれません。
■はははは。でも、最後に書いてある「House is the feeling」っていう言葉がすごく良いね。感じることで、国籍がどこであろうと、わかる。
A:そうそう、本当にそういうこと。ハウスって、感じることだから。
■コンピレーションを作っていて、当時の日本のハウス・シーンは見えてきたの? 見えてはこないでしょう(笑)?
A:先ほど野田さんが言っていたように、当時このひとたちはヒットしていませんでした。小さいレベルで2、3曲作ってそれっきりというアーティストも多く、けっして大きなシーンではなかったようですね。アメリカの影響がデカすぎて、国内シーンは生き残れなかったというかビッグにはなれなかった。あと、アメリカのカッコよさへの憧れもあったんじゃないかな。
■全員がそうじゃなかったけど、概してものすごくあったね。ただ、いまでは信じられない話だけど、当時の日本のミキシングの知識では、メーターがレッドゾーンにいったら音が歪んで悪くなるからっていうことで、EQなんかも適度に調整されてしまって、作った人の意図とは別のとこで、ペラペラの音になっているのが多いんだよ。そこは、今回リマスターをしてある程度音をそろえているよね。
A:難しいですね……。リマスターはしています。でも、半分以上は元のマスターを貰えたんだけど、残りはヴァイナルから音を落としました。でもどんなにきれいに落としても、いろんなノイズが残ってしまうから、あとはブラウザーがきれいに仕上げてくれたんです。
![]() Various Artists ハウスOnce Upon A Time In Japan... by Brawther & Alixkun Les Disques Mystiques/Jazzy Couscous |
■アルバムのジャケットのデザインがすごく良いと思ったんだけど、これは?
A:もともとはぼくたちが好きな日本のアーティストに声をかけたかったんだけど、3人くらいに依頼したらタイミングが合わなかったり、興味がなかったりで、実現しませんでした。そこでイギリスのアーティストに頼んだんですよ。ヴィクトリア・トッピング(Victoria Topping)というひとです。ぼく、本当はコラージュがあんまり好きじゃないんですよ(笑)。でもこのコンピレーションで一番大事なのは音楽だから、コラージュについてはブラウザーと多少喧嘩しました(笑)。ブラウザーはデザインを気に入っていたし、期限もあったからジャケットはお任せして、ぼくの趣味に合わなくてもしようがないと割り切りました。でもリアクションを見ると、みんなジャケットを評価しているから、自分のテイストを犠牲にしてよかったです(笑)。
■浮世絵って、江戸幕府からは監視されていたぐらい、実は、ものすごくエロティシズムを含んだ大衆文化なんだよね。たぶんこの絵は、花魁といって、まあ、当時の人気の娼婦ですね。だからその意味で、まさにハウス・ミュージック的なんだよ。
A:そうなんだ(笑)。それは日本人にしか理解できないことですね(笑)。
取材:野田努(2016年1月12日)
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