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Home >  Interviews > interview with FINAL SPANK HAPPY - メンヘラ退場、青春カムバック。

interview with FINAL SPANK HAPPY

interview with FINAL SPANK HAPPY

メンヘラ退場、青春カムバック。

──FINAL SPANK HAPPY、インタヴュー

取材・文:天野龍太郎    Nov 29,2019 UP

薬ばっかり飲んでいたり、ネットで病気の情報を集めたりしていたらもっと悪くなっちゃうので。恋人でもだれでもいいんだけど、誰にも「あたしのエクソシスト」がいて、ちょっとキスをしてくれるだけで悪魔を払ってくれるんだと。

……ええっと、音楽の話がぜんぜんできていなくて恐縮なのですが、今回はリズムのアプローチが多彩ですよね。二期はハウスやディスコのビートを中心にやっていたので。

BOSS:そうですね。リズミック・アプローチについては、二期スパンクスは DC/PRG と並走していたから、菊地くんもシンメトリーを出したかったんでしょう。ものすごい大人数のプロ集団が複雑なリズムに取り組む DC/PRG と、素人でなにもできない女の子とふたりだけですごくシンプルなテック・ハウスみたいなのをやる SPANK HAPPY と。
 我々はその当時の菊地くんの企みとは無関係です。OD のコード進行やメロディのつくりかたはすごく古典的でありながら、斬新で素晴らしいと思いますね。私にはできないことを簡単にやってのけます。リズムの対応力も非常に高いですし。
 あとは、テクノロジーの力が上がったっていうのも大きいですよね。昔は5連符の打ち込みなんてできなかったから。Ableton Live とか、あらゆるテクノロジーがリズムの揺らぎとかを追求してきている。あと、Ableton Live に「MIDI化」っていうのがあって、どんな音声データでもMIDI情報にできちゃうんです。そんなん使ってないけど(笑)。

OD:それはヤバいじゃないスか。。。。。

BOSS:だから、(エルメート・)パスコアールみたいなことが簡単できちゃう。言葉が全部歌になるので、ミュージカルって概念がなくなるわけです。極論的に、どんな映画も、台詞を全部音程化して伴奏をつけちゃえばミュージカルにできちゃうんだと。
 ポップ・ミュージックは新しい機材や技術をプレゼンテーションする音楽です。だから、FINAL SPANK HAPPY は原義に忠実にポップ・ミュージックだと思いますよ。二期はデカダンだったので、過去志向というか、傷とか幼児退行は過去への志向です。いまは軽やかで最新であると。なにも知らない人に「OD かわいいよねー」、「この曲切ないよねー」って楽しんで頂きたいですね。

ふたりの引力と斥力で、ちょうどいいところにいると。

BOSS:僕はコンサバの力に感動したことってあんまりないんです。業務上、クラシックの弦のチームを、クラシック上がりの有名アレンジャーの方とかと一緒にやるんですけど、あんまり感動したことがないんです。
 でも、小田さんが書いた弦──『mint exorcist』の弦アレンジは小田朋美さんがやっているんですけど──にはすごく感動したんですよね。コンサバで古典的な響きをちゃんと譜面で書ける人の弦って、こんなに感動するんだっていうことに打たれて。小田と OD が唯一繋がっている古典=クラシックスの力は振り絞れるだけ振り絞って、全部使おうっていう気持ちがありますね(笑)。

OD:BOSS のアイディアは、たまに言っていることがわからなくて作業が進まないこともあるデス。でもそれをふたつ、がっちゃんこで合わせてみると「あっ、すごくいいな」ってなるじゃないスか。お互いのいい面が、ひとつの曲としてうまくはまるデスね。BOSS のリズムやコードに対するアプローチって、最初「これは何スか?」みたいな斬新な発想なんデスが、自分は──もちろん新しいものも取り込むけど──基本的にコンサバで古典的なものが好き好きなところがあるじゃないスか。

調性を信じる OD さんと、ジャズの無調や調性から外れることに惹かれる BOSS さんとの対照性や緊張関係があるわけですよね (https://realsound.jp/2018/06/post-208704.html)。

OD:緊張というより、むしろお互いすげーなと思っているじゃないスか。自分は調性と無調って対立しているものではないと思うデス。調性の先に無調があって、距離の問題だと考えているので。無調のなかにもすごく美しいハーモニーはあるし、実は古典的な響きもいっぱいあるじゃないスか。

BOSS:おおおお。その発言自体が超コンサバでしょ(笑)。まあこうやって自然にバランスしてるバディなのだと(笑)。

OD:“Devils Haircut”は調がないっていうか、調性じゃないものがいっぱい重なって入っているデス。とってもお気に入りじゃないスか~(笑)。

BOSS:ブルースやロックンロールは、もともと無調への通路だからね。我々の“Devils Haircut”には、現代ブルースの要素とクラシカルな多調性の要素が、まさに共作的に溶け合っています。

どうしてベックの“Devils Haircut”をカバーしたんですか?

BOSS:ぜんぜん理由はないんですよね(笑)。OD はベック知らないし。「とにかく洋楽をカバーするじゃないスか!」ってなったので、時代もジャンルも関係なくふたりでランダムにどんどん音源を聞いていったんです。

OD:YouTubeでデス。

BOSS:我々のコンビネーションの別軸に「ポップスに対する教養のある/なし枠」っていうのもあるんです。OD は本当にいい意味でポップスの教養がないので、レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)はローリング・ストーンズの次くらいだと思っていましたからね(笑)。

ロックの歴史的には20、30年空いていますね(笑)。

BOSS:「ベートーヴェンの次がヴェーベルン」みたいな(笑)。すげーびっくりしたんだけど、ポップ・カルチャーという本来無教養なものだったのに対する教養、つまりサブカルですが、OD はポップスに対してパンクというか、アナキストですね。それでふたりでどんどんポップスを聴いていって「あっ、これかっこいいよね」ってなったからやっただけで。「いまこれをやったらセンスいいよね」っていう感覚では全くないです。ガラガラポンですよ(笑)。

OD:クレイジーな曲でカッコいい~と思ったデス。最初はFKAツイッグスの、チェロとピアノだけの静かな曲をやりたいとか、そういう話もしてたデスが、いつのまにか、「やっぱりこの曲良いよね、この曲をピアノでやって見たら面白そう」ってなったじゃないスか。

あのピアノはYMOの“体操”を思い出しました。

BOSS:あれはチャームですね。一番表面に置いてあるから、一聴して“体操”に聞こえるけれども、実際はコンロン・ナンカロウとか、同じ坂本(龍一)さんでももっと最近の作品の要素も入っている。“体操”ってもっとずっとポップだし、あれは形式が変形のブルースだからね。「これ“体操”だろう」っていうのは当然の反応ですけど、奥行きを作っています。
 あれはふたりじゃないとできないアレンジです。縦横に音楽的な奥行きがありながら、すごくふざけているので(笑)。

OD:ライヴの振り付けも、あの曲はスローモーションで卓球をやってるじゃないスか(笑)。それでそれで、最終的にはドライブデート中のふたりが車の事故で死んじゃうじゃないスか~(笑)。

音楽は、「簡単か難しいか」なんてことのはるか以前に、「向いてる向いてない」とか「できるできない」という軸すらないんです。一番似ているのは恋愛です。誰でも恋はする。でも、傷や不全で臆病になるでしょう。

ボニーとクライドじゃないですか(笑)。最後に、アルバム表題曲の“mint exorcist”についておうかがいしたいです。

BOSS:ヒステリーや恋愛依存症、誘惑依存症というのはいつの世にもありました。昔は悪魔祓い師やヒーラーがいて、現代では精神医療で投薬して治しましょうっていうふうに変わったわけですけど、それを一回、また戻したいんです。薬ばっかり飲んでいたり、ネットで病気の情報を集めたりしていたらもっと悪くなっちゃうので。恋人でもだれでもいいんだけど、誰にも「あたしのエクソシスト」がいて、ちょっとキスをしてくれるだけで悪魔を払ってくれるんだと──そういう話をパッと考えついたんですよね。最初はツアー・タイトルとして、適当に思いついたんですけど(笑)曲のテーマに発育させたと。

OD:自分がよくミントを食べていたからじゃないスか?(笑)

パン以外も食べるんですね(笑)。

BOSS:そう(笑)。OD はミントばっかり食って、なぜか途中でやめて、その食べ残しをそこかしこに、財産みたいに積んでるんですね(笑)。んで私は映画の『エクソシスト』が大好きなので、それもあって「mint exorcist tour」って適当に言っちゃったんですよ。で、夏にふたりでうなぎを食いに行って、昼から日本酒を飲んで「気持ちいいじゃないスか~」って言っていた帰りの数分間で、曲の骨格ができあがって。で、あなたは「mint exorcist」だと。涼しく甘く、悪魔を祓ってくれるんだと。

OD:その日のうちにばーって録って、できあがったんデスよね。

BOSS:最速でできた曲ですね。着想から完成まで5分かかってない。

OD さんが「音楽はみなさんが考えてるより、ず~っと簡単じゃないスか!」って言っているのが、いままでにない感じでいいなと思いました。

BOSS:まあ、時間をかけて作る曲もあるけど本当に一瞬でできる曲もある。だから、あの曲自体のことであり、人間が抱えている問題や、萎縮に関する解放ですよね。

OD:音楽が苦手だっていうひともいるじゃないスか。でも、向いていないとか苦手だとかって封じ込めちゃわないで、もっと音楽は簡単だって知って欲しいデスね。

BOSS:音楽は、「簡単か難しいか」なんてことのはるか以前に、「向いてる向いてない」とか「できるできない」という軸すらないんです。一番似ているのは恋愛です。誰でも恋はする。でも、傷や不全で臆病になるでしょう。

OD:臆病はダメダメじゃないスか~。

BOSS:無教養主義に対する肯定がキツすぎるんですよ。一方で、東大出の人が「人生に学歴なんて関係ない」って言ったらいやらしいじゃないですか。もしですよ。小田さんと菊地くんが「音楽なんて簡単ですよ」って言ったら、単純に腹たちますよね(笑)。それでおふたりが「いや、私は学校のなかでもドロップアウト組で……」とか話がグダッグダになっちゃう(笑)。
 だけど OD が、調子よく口笛吹いてる曲の途中で「みなさんが思ってるより音楽は簡単じゃないスか~。ウナギを食ったらすぐに曲ができてすごいじゃないスか~。ウナギには栄養があるじゃないスか~」って言うことで、本当にキツくなっちゃっている、難しく考えすぎちゃっている人たちのキツさをちょっと緩めてほしい。我々からの、小さな傷口へのキスだと思って頂きたいです。と、それぐらいは FINAL SPANK HAPPY はジャストに立っていると──実際どのくらいかっていうのは、これからやってみないとわからないんだけど(笑)。

わかるのは10年後かもしれませんね(笑)。

BOSS:そしたらジャストじゃないですね(笑)。「FINAL SPANK HAPPY はやっぱりマニアックだ」ってなるのか、「いやこれめちゃくちゃポップだよ」っていうふうになるのかは、聴いてくださった皆さんが決めることですから。

取材・文:天野龍太郎(2019年11月29日)

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Profile

天野龍太郎天野龍太郎
1989年生まれ。東京都出身。音楽についての編集、ライティング。

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