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海賊放送はイギリスの音楽をどう変えたか

──ピーター・バラカンとハンス・フェルスタッドが語る〈ラジオ・キャロライン〉

Oct 29,2014 UP

 ロックであれ、アシッド・ハウスであれ、イギリスの音楽に興味を持った人でパイレーツ・ラジオに関心を向けなかった人はいないだろう。たとえばアシッド・ハウスの台風が吹き荒れた際、キュアーのロバート・スミスはバンド活動をおっぽり出してキュアーFMというチャンネルを設け、日夜、DJに明け暮れた(その結果が『ミクスド・アップ』というリミックス・アルバムにつながる)。実際、当時のロンドンにいてラジオを点けるとアンディ・ウェザオールでも誰でも重箱の隅をつつくような選曲で、こんなものがラジオでかかるのかと驚かされたことはいまでもよく覚えている。ラジオは確実にムーヴメントの一部であり、どんなマイナーな音楽でもラジオはオン・エアしつづけた。人気の出たラジオ局はライセンスを取って合法的なチャンネルになったりもした(最近だとリンスFMも合法化された)。

 こうした海賊放送のはじまりが〈ラジオ・キャロライン〉である。1964年に設立され、今年で50周年を迎える……ということは、しかし、インターネットが普及するまでなかなかわからなかった。いまでも雑誌『ラジオライフ』の小さな記事を除いてラジオ・キャロラインについて書かれたものは日本にはなかったからである。海賊放送という呼称だけがイメージを広げていたに等しく、北海に浮かべた船から電波を飛ばせばイギリスの法律を適用されずに好きな音楽がかけられるというロジックが、その語源だった。海賊放送がはじまった当初、イギリスの公共放送ではポピュラー・ミュージックに割り当てられる時間は1日に45分以内と決められていた(あとは要するにクラシック。ダニー・ボイルが演出したロンドン・オリンピックをさして労働階級の文化を世界にさらしたといって非難する声もまだ存在する国ではある)。しかし、誰もがレコードを買えるわけではないし、若い人たちはとくにビートルズやザ・フーをもっと聴きたかった。ラジオ・キャロラインだけでなく、海の上に放送局がどんどんできたのは言うまでもない。ローリング・ストーンズやアニマルズをもっと売りたかった大手のレコード会社が広告費というかたちで費用は捻出していたらしい。

 ラジオ・キャロラインやいくつかのパイレーツ・ステーションが実際に残したエピソードを組み合わせた映画にリチャード・カーティス監督『パイレーツ・ロック』(2009)がある(フィリップ・シーモア・ホフマンやニック・フロストが出演)。ラスト・シーンは明らかにウソだけれど、イギリスの民衆がどれだけパイレーツ・ラジオを必要としていたかということは全編を通してよく伝わってくる。現在、ユーチューブからインディ・レーベルの音源が削除されると聞いても、あそこまで音楽に対する渇望が視聴者の間に起きるとは思えない。実際には海上を通行する船舶の通信を妨害するとして海賊放送の取り締まりは強化され、ラジオ・キャロラインのDJたちは行き場を失い、BBCが新たに設立した「ラジオ1」から後には(PiL『メタル・ボックス』でおなじみ)「ラジオ4」へと彼らはリクルートすることになる。まさに『反逆から様式へ』(ジョージ・メリー)を地で行った展開で はある。

 それにしてもラジオ・キャロラインについて詳しいことや正確なことはまだわかっていない。そこに、いわれてみればなるほどと思いましたけれど、イギリスでラジオ・キャロラインを聴いていたピーター・バラカン氏と、現在、ラジオ・キャロラインのドキュメンタリー映画を制作しているハンス・フェルスタッド氏が11月3日に〈恵比寿ガーデンホール〉で語り合うというのである(いい企画だ!)。謳い文句にいわく「英ラジオを変えた海賊放送局の知られざる事実にせまるレアなセッション」ときた。同プログラムは〈YEBISU MUSIC WEEKEND〉というイヴェントの一環として行われるそうで、もっと早い時間には「岡村詩野×田中宗一郎」による「音楽ライター講座 特別編」とかもあるようです(トーフビーツや大森靖子のライヴもあるらしい)。しかし、この日は先約があってもしかすると僕は行かれないかもしれないので、どなたかイヴェントの内容を録音して海賊放送で流してくれませんか! ……なんて。
(三田格)

■イヴェント詳細
http://musicweekend.jp/lineup/talk-hans-fjellestad-peter-barakan/

■ラジオ・キャロライン
現在はウェブ・サイトとして続いている。
http://www.radiocaroline.co.uk/#home.html