Home > News > いまだから読んでみよう。ブレイディみかこ『アナキズム・イン・ザ・UK』重版のお知らせ
つい先日、yahooニュースでの原稿をまとめた『ヨーロッパ・コーリング』を岩波書店から発表したばかりのブレイディみかこだが、ブレグジットのインパクトがネットでニュースで騒がれている今日、彼女に休む時間はないだろう……なにしろ時間が進む速度は、あまりにも速すぎる。サッカーと同じだ。昔はブラジル型の遅攻が格好良かったが、いまでは速さがないと試合に勝てない。疲れるのは無理もない。
そんな疲れる時代において、ブレイディみかこのコラムがその痛快さ、切実さをもっていまや多くの人に読まれていることは、同じ言葉を扱っている人間にとって実に勇気づけられることである。
コラムニストは社会学者ではない、主語が「私」だ。ミュージシャンにも似て、「私」の目で世界を見る。その昔セックス・ピストルズに触発された彼女は、英国ブライトンで暮らしながら、きっといまでもセックス・ピストルズに触発され、彼女が好きな日本の文化(伊藤野枝、坂口安吾、えー、ほかにもいろいろ)を忘れることなく、同時にまた英国に同化することなく(イギリス在住日本人には、自分をイギリス白人だと勘違いしているが多い、アメリカにも)、しかし、日本ではあまり見ない、あまりに描かれてはいない、ある種の人たちに強い共感を寄せる。
小さな政府が現れ、所得による階層分化がはじまったのは80年代だが、90年代にその流れは加速し、2000年代になってからはさらに深刻さを増している。いや、もうダムは決壊しているのだろう。我々の目の前で。ブレイディみかこは、まさにそのあり様=時代を捉えているわけだが、彼女が共感し、言葉にしているのことの多くは、新自由主義にひどい目にあっている人たち/抗っている人たちについてである。たとえるなら、ケン・ローチのようなアプローチでコラムを書いていると言えるだろう。
さて、最高に格好いい装丁の『ヨーロッパ・コーリング』刊行に乗って、『アナキズム・イン・ザ・UK』も重版した。いま読み返しても、今回のブレグジット前夜の英国が描かれているし、彼女の洞察力やユーモアもさることながら、生きていくことの彼女の力強さには心が打たれる。音楽で言えばこちらはソウル・ミュージック。未読の方はこの機会にぜひ手にとって欲しい。
アナキズム・イン・ザ・UK
──壊れた英国とパンク保育士奮闘記──
ブレイディみかこ(著)